●ご一行到着
あいつの顔は覚えがあるぜ。確か雫(
ja1894)だったか。
「前は声や気配が感じられたのですが……今は、無理みたいですね」
他に見た顔と言えば――おっと、全裸で走ってたミハイル・エッカート(
jb0544)とか、地味に仕事もしていたエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)、前はずいぶん飲み食いしてたがちゃんと仕事もしてた逢見仙也(
jc1616)、黒松ってのと話している地堂 光(
jb4992)くらいか。
あと、ゲーセンでずいぶんハッスルしてた水無瀬 文歌(
jb7507)てのもいたな……結婚したのか。
あと他に――レティシア・シャンテヒルト(
jb6767)と……あいつは俺っちのために彼氏が神棚を設置してくれたユリア・スズノミヤ(
ja9826)だな!
む、ハイパー座敷童と化して雫には声も聞こえなくなった俺っちと、どちらも目を合わせてきやがる。ユリもんに至っては手まで振ってきやがるとか、どうして見えてやがるんだ?
いや、見えていると思いこみきっているから、感覚的に見えているだけか。俺っちの輪郭とかまでは見えないだろう、たぶん。きっと。つーかそう信じたい。
さてさて、あんま悠長にしてたらだめなわけで――って言ってる傍から!
そこの黄昏ひりょ(
jb3452)ってやつ、気づけ! そんな「たまには息抜きに温泉なんてのもいいんじゃねぇか? なんて結構いい所あるよな、光。なんか丸くなったよなぁ……性格」とか思いながら、光ってのを見てる場合じゃねえぞ。
光って奴は前に体験済みだからなんだか遠い目してやがるし、その様子からなにかしら気づけよ――って思ってたら、ひりょっちの顔が「何かあるのかこの旅館」って感じになった。
ようやく気付いたか。
そんで天井から双子童の黒い方が眼鏡を狙っている。ま、眼鏡くらい外されてもそんなに問題ないか。
「なあ、光。ここってなにかあるのか?」
「あー……何かはあるだろうけど、たいしたことねぇさ」
「何かはあるのか……って、うわッ眼鏡が! ま、前が見えねぇっ!」
ほうら、眼鏡が持ってかれた。
おうおう、ド近眼のくせに手を振り回して歩くから、壁づたいに歩いている――ええっと、顔に覚えが……髪型や色、雰囲気からすると顔に包帯みてーなのを巻いていたアズサ・トゥスィ(
jc2469)じゃねーかな。今は浴衣姿で素顔晒してっけど。
とにかくそいつの頭の横に伸ばした手が壁をドンと突いて通せんぼした挙句、空いた手が胸をかすめたんじゃねえか? ハッキリ見えねーけど。
アズサっちが目をひりょっちに向けてんだけど、微妙に見ている点が合っていないから、ありゃあ目が見えてないな。人に目を向けたというよりは、気配のする方へ顔を向けたとか、そんな感じだな。
あとひりょっちよ。
さっきから「すみません」って頭下げてるそれは、柱だ。
「なにしてんだひりょ、俺が探してやるから大人しくしてろよ――あんたも悪いな、こいつド近眼で眼鏡無いと何も見えないし、すぐ焦りやがるんだ」
「構わない。そこに悪意がない事、承知している。それと、どれほど反省しているのかも」
ほうほう、どうやら目が見えていない分だけ、それ以外が敏感なのかね。人の感情ってのを肌で感じている節がありやがるな。見えてないってのを雫も気づいたか。
「手をお貸しします」
「ありが……とう」
うむうむ、歳もちけーみたいだし仲良くなれるかもしれねーな。ちょっと胸のサイズが不平等だけど。
さてひりょっちが大人しくしている間、光が探すって訳か。
「そんなわけで黒松、悪ぃけどちょっと探すの手伝ってくれねぇか?」
「眼鏡って、私の足元にあるやつ?」
「お、それだそれだ」
その眼鏡を拾うなら気をつけろ、光とやら。双子童の白い方がしゃがみこむタイミングを計って――あ、黒松の足下にしゃがみ込んだ光の前で、スカートをめくりやがった。
光が顔を上げ――る前に、黒松のアッパーが光の顎をすくいあげ、光が宙に舞いあがる。いってェぞ、あれ……そういえば前にも1人、あんな感じにキツイ一撃もらってた奴がいたなぁ。光も俺っちと同じ奴を思い浮かべたって面してやがるぜ。
「ふっ、なかなかいい一撃だった……」
「どうしたんだ、光!」
おおやめろ、来んなひりょっち、オメーは絶対躓くぞ?
「う、うわ!」
ほら言わんこっちゃない。転んだひりょっちの膝が狙ったように光の鳩尾に突き刺さってるとか、美味しすぎるだろ。
「誰がこんなひどい事を!」
オメーだ。
黒松が眼鏡をひりょっちに返して……? まさか女が男をお姫様抱っこするシーンが見れるとか、思いもしなかったわ。
「雅、ちょっとゲームコーナーあたりで待っててくれる?」
「……ああ、わかった」
おっと、あいつらがゲームコーナーへ先回りするつもりか。させねえよ、つってもあいつらの足、はえーなぁ! クッソ、追いつかなかったぜ……どこ行った?
あ、いたいた、文歌が音ゲーやってる横でボタンの空打ちをしてやがる。
おかげでさっきからコンボが途切れて、途切れるたびに文歌が首を傾ける。音ゲーやってるやつってなんでみんな、あの反応なのかね……うお、文歌の周囲が霧みてーな黒い靄に包まれやがった。あれならさすがに双子と言えど悪戯はできねーな。
「人妻なめるな、ですよっ」
大人げねーなぁ……点数に影響がないからいいじゃねえか。でも納得はしてねえのか、もう1回、同じゲームをするわけだ。
店内マッチングモードとかってやつで、今度は店内の誰かと対戦するのか。なんだか「私に音ゲーで挑むなんて命知らずですね」とか不穏当な事言ってっけど。
戻ってくるまでこのゲームコーナーは私が守ってみせますっとかって、よくわからん使命感抱いてますよって顔だ。でも相手がスタートのさせ方もわからん初心者だと知った途端、筐体の向こうに居るどこの誰かもわからん相手にどこを押せばいいのか優しく教えてんな。
レベルも相手に合わせて落とすあたりも、優しい。お、終わったか。
「どうですか、楽しめ――あなたは、ヴァニタス優さんっ!」
文歌の顔色が変わったけど、そいつは雅だ。
ザ・クールな顔してる雅っちも驚いた顔を見せてるけど、「妹と戦った人ですか」とすぐ冷静に問いかけるとか、さすが。その一言ですぐ勘違いにも気づいたのか、文歌が頭を下げてやがる。
自分の間違いに気づいた時、すぐ頭を下げれる奴ってのは気持ちいいもんだねぇ――つーことでお前ら、こいつらにはもう悪戯するんじゃねーよ。あっちいけ、あっち。
「妹さん、なんですか」
「ああ。双子のな――学園に来る前、札幌で死に別れたんだ」
「そうだったんですか……すみません、お辛い事を思い出させてしまって」
ううむ、なんだか暗い話になりそうだぜ。とはいえさすがに会って間もないから、いきなり深く事情を聞きはしないみたいだ。
あれ、しまった。双子達はどこに……居た。あれは何かやべぇ気配がするぞ。
何て言ったっけか、あの自撮りシール作るやつ。とにかくあん中にいるのは浴衣に着替えた女4人、それに男1人とか、どう考えてもやべぇ気配が漂ってやがる。
「何やらおかしな気配がするような……気のせいか」
いや、気のせいじゃねえぞアルジェちゃんよ――いかん、いかんぞー双子童よ、それをしてしまっては倫理的に大問題が! ダメだ、すでに奴らの手には女性陣の紐みてーな帯を掴んでいる!
……ああ、黄色い悲鳴。手を伸ばしたが転んじまったし、間に合わなかったぜ。
まあほどけた程度では全裸になったりしねーからまだいいけどよ、胸元が見えるとかだかんな。海、理子、澄音の3人が一斉にしゃがみ込んで、それからそうするのが正解なのかとアルジェっちが一拍遅れて、しゃがみこんだか。
俺っちが慌てるまでもなかった……おっと、何で俺っちの手にもこの帯紐があるんだ?
……すまねえ、修平とやら。女の前でポロリどころかボロリだな。しかも悲鳴で振り向いた直後だったから、女連中の方に身体向けていやがるし、しゃがまれてるから高さ的にも真正面だ。
さらに高い黄色い悲鳴――だがアルジェっちだけは冷静。
「ふむ……修平、このあと温泉で久しぶりに洗ってやるか」
背中、背中が抜けてるぜ! 顔の正面でそんなモン見ながらそれ言っちゃ、だめだっつーの!
ああほら、修平が耐えきれなくて逃げ出しちゃった……憐れだ。
でもとりあえずシールになるのは修平の後姿だけのようなもんだし、大丈夫だろう。女性陣は下着つけてるわけだし。
コラコラお前達、追かけるんじゃないとか言いつつ、俺っちも追いかけてるわけだけど――おうっぷ、なんだぁ? この片目が星型で、カボチャパンツの歪なパンダは。
「座敷童ちゃん、おっひさー☆ ユリもんだよーん、驚いた? 座敷童ちゃ……んと、わっぱちゃんって呼んでいい? 呼びやすい―、じゃなくて可愛いでしょ?
そう言えばまだ神棚あったね! 金平糖、お供えしてきたよ!」
ユリもん、見えてないふりしてもらいてえなぁ。あと俺っちの声聞こえてたりする?
とにかく俺っちは急ぐから、わりいけど通して――通して――通してくれぇ!
「ココに来たら温泉だよね! わっぱちゃんも一緒に入る? なんてね……わっぱちゃんって男の子だよねん?」
その質問はナンセンスだぜ。
女の子に見える男の子って外見はしてるけどよ、俺っちは俺っちというもんだから、男とか女って概念もない。
「へーそうなんだ? じゃあ入る?」
いや入らねーから。
てかな、俺っち達はこの着物も含めて身体だから脱げたりはしねーんだ。水に濡れるって事も本来はねーしな。つーか、普通に会話するのマジでやめてくれ……俺っちのあいでんてぃてぃーが。
「股下ががら空きよー」
レティっちのお告げ! おっしゃスライディングでユリもんの下をくぐったぜ!
待ってろ今――ぐえっ。
「あ、ごめん☆」
いや、今かなり狙って俺っちを踏みつけたよね? ねえ?
着ぐるみでわかんねーけど、しょげてるな……あーもーわかったから、おめーは温泉の後部屋で飯でも食ってやがれ。その頃には俺っちも顔出せるくらいにはなるだろうからよ。
「うん☆ わかったよ、わっぱちゃん!」
……ふう、やっと納得して行ってくれたか。もうユリもんは俺っちの友達みてーなもんかもな。
さてさて、どこに行ってしまったのやら……どれ、順に見てみるか。
まずこの部屋は……あーっと、あの眼鏡は、そう、浪風 悠人(
ja3452)か。それと浪風 威鈴(
ja8371)の2人部屋か。なんてーかなぁ、こう、ゆっくり休むぜって気配が凄く感じられるわけだが、こうなると俺っちが悪戯したくなってくるぜ。
つーか、豪華な食事の途中で座椅子の背もたれに背中を預け、天井を眺めている姿はもうなんか枯れ果ててるって感じだけど……大丈夫か? 因縁が片付いちゃっ他のに、まだ色々と忙しいって時の顔してるけど。
威鈴って方は「おいしい……ね……」と食に没頭しているようだが。
とりあえず、短い髪だけど三つ編みでも編み込んで、お団子頭にでもするか。大人しくされるがままってのは疲れからなのか、それとも慣れてるのか。慣れてるとしたら、そうとう不憫だな。
「悠人……その頭」
「ん? ああ、いやいいんだ。こういうのに慣れてるから」
不憫な方だった。
威鈴が「ぇ……? ……ぇ?」って困ってるじゃないか。とりあえず、今まさにお椀へ箸を入れようとしているからこっそり蓋をしてと。
「威鈴も今、悪戯されてるよ」
「何か……された?」
っく、地味すぎて気づかれなかった……かくなる上はこの襟足をほどいて、ちょちょいと――できたぜ、はーふあっぷ!
どうだ!?
「ぅ……? すごぉいい」
くっそー! 全然すごくない風に聞こえるじゃねえかッ!
……いかんいかん、もともと俺っちの悪戯はそんな目立つもんじゃなかったはずだ。奴らに感化されてきているな、反省。それに、あまり悪質なのをやったら絶対この眼鏡、眼鏡ビーム出して襲ってくるぞ。
「威鈴――そういう髪型も、可愛いね」
あーはいはい、ごちそうさま。俺っちはもう行くぜ、邪魔したな。
さてこっちの部屋はどうだ――って、スゴイ緊張感を感じる。主に米田 一機(
jb7387)って男の方からっていうか、蓮城 真緋呂(
jb6120)からは一切感じられない。
あれか、なぜか同室にされていた事に男の方はビビってるけど、女の方はそんなビビる事でもないって感じなのか。
「おっ、温泉に行こうか」
「そうだね、そうしようか」
おう、行け行け、温泉宿だから温泉には当然の自信があるぜ――って、待て。すぐ近くのそこは大浴場じゃねえ……ま、いいか。ただまあちょいと見せてもらいますかねーっと。
「――いい湯だなぁ」
お決まりのセリフだね、一機君。ところでそっちの奥に行くのは危険かもしれないぜ。だから行くなよ――ああ、行っちまったか。ここは脱衣こそ分かれてるけど、混浴の家族風呂なんだよなぁ。
「!?」
「……――……えー!?」
うぉう! 真緋呂を中心にものすげー突風が!
なんの、一機君の慌てて巻いた腰のタオルにしがみついて……も無理でした。てか、タオル取れちまった。
だがどこからか「葉っぱよー」とかレティっちの声とともに不自然な葉っぱが落ちてきて、ぎりぎり一機君はヘンタイにはならずに済んだぜ。背中を向けて湯船に下半身隠すあたり慣れた気配がするが、気のせいか。
「俺、シャワーだけで済ますから!」
お、真緋呂がハッとしてる。
「……風邪を引かれても大変だし、一緒に入るくらい、なら」
優しい言葉だねぇ。一機君も感動して「それ、なら」とかゆっくり近づいて――あ、双子童が一機君を転ばせた。だが膝をついて転びきらなかったとは、さすがだぜ。
でも気づいてるか? 転びそうになった拍子に何かを掴もうとした手が、真緋呂の手ブラになってるって事実によ。
「ご、ごめん!」
うーん、青春だァねえ……あいつらも行ったようだし、このまま大浴場の方に行ってみっか。
さてさて誰がいるやら――結構いるな。
一番左で「たまには難しい事考えないで楽しまないとね」とか言ってる長い黒髪のが天城 絵梨(
jc2448)で、そこから右へ順に威鈴、アルジェっち、ユリもん、アズサっち、そして右端で背中をこちらにではなく壁に向けて座っているのが雫だな。銀髪続きだぜ。
「ここの自然はすばらしいわね」
身体の泡を流しながら絵梨っち、いいこと言うな。
というかちょっとばかし一般の反応よりも、感動の度合いが強いような気がするぜ。どんだけ自然好きなんだ――そういえばさっき廊下の水槽で、川魚と天然の水草にえらく感動して、水槽に張り付いていたっけな。
雫とアズサっちはどうやら仲良くなったみたいだ。ユリもんも会話に加わってるあたり、ユリもんは誰とでも仲良くなるなぁ。
さて雫のあの様子を見るに、背中になんかあって、あまり見せたくないとかそんなやつか。それでいくと見えていないアズサとならば、だいぶ気が許せるのかもしれねーな。
今日はいつもと比べ物にならないくらい湯気が多いから、何も見えてないようなもんだけどな――レティっち、いい仕事してる。
「お風呂っていいよね!」
「そうですね」
「……そのようだ」
雫はともかく、アズサっちは、んー……あれかな、ユリもんに「お風呂入ろう!」とか言われて連れだされた口か。ま、自分のペースでのんびりしたいって顔してやがるからなぁ。
とはいえ、戸惑いつつもこんな状況も悪くないとか思っている感じはあるが。
それにしても格差社会だぜ。
髪洗ってる隙に、雫とアズサっちをタッチして……うん、雫っちが可愛そうだ。
「……今、触られた挙句、とてもひどい同情をされたような気がします」
「誰かに触られた、それは事実だ」
うん、俺っちが触ったからな。てか、アズサっち、さっきから双子が触ってるっていうか、遊んでるぞ――おっと、ユリもんがこっちを見て、なんだか手でジェスチャーしてるな。
あれか、悪いことしたらめッて感じか。
俺っちは悪戯してこそだからなぁ……おおっと、雫が頭から浴びているシャワーの温度を最大にしやがったな、あいつら!
「……?」
「つめた〜い氷水入りバケツよー」
ナイスだぜ、レティっち! 熱湯を被っちまう雫に、思いっきりぶっかける!
「ひぁぁぁ!?」
飛びあがるほど効いたか、雫よ――でもよく考えたら安全装置があるからお湯を最大にしても、せいぜい42℃にしかならないんだった。
わりぃ、雫。
「随分と熱烈な歓迎ですね……相手が座敷童だろうが天魔だろうが関係ありません!」
うわぁ、敵認定された――おや雫、気をつけろよ。いきり立ってのっしのっし歩くのはいいけど、カーリング宜しく、奴らが足元を狙って石鹸シュート――あ、転んだ。
雫が転んだ下はボディーシャンプーロードが作られていて、とてもよく滑る。さらに見えない程度に敷き詰められ登れないようにと脆い素材で作られた間仕切りの垣根へ向かって、雫は滑っていくわけだ。
もうわかるな?
はい雫ちゃん、垣根へ突撃ー。突き破って男湯へー……おーおー、つんざく悲鳴と凄まじい一撃の音が聞こえらぁ。すぐ戻ってきた雫にしっかりタオルが巻かれているあたり、レティっちがどうやら一線を守ってくれたみたいだぜ。
「ひりょ、どうし――お、おい、生きてるのか!?」
うーん、隣にいたのはひりょっち1人か。どんな風になってるのか恐ろしい。眼鏡なしだと何も見えてないわけだろうから、すっげー貧乏くじを引かされたというか、渡されたな。
とはいえ「なんだろうこれ」とかって呟きが聞こえた気がしたから、もしかしたら見えない状態でどこか触ったのかもしれん。触ってないのかもしれないが、そこは不明だな。どのみち、正体不明で触ってもあまり得はないんだろうけどな。
……ッハ、殺気!
「コノウラミ、ハラサデオクベキカ……」
羅刹……もとい、雫が出て行っちまったぜ。
「う、うーちゃん!? 会いにきてくれたの?」
んだぁ?
いきなり誰かと思ったら絵梨っちか。視線の先は……あいつら、帯の端っこだけ見えるようにしてやがるとか、器用な事やりやがる。ともかく、それを何かと見間違えている?
「あの特徴的なアミメもないけど、その細長い姿はアミメウナギのうーちゃんでしょ!? 去年お星様になったのに、会いに来てくれたのよね!?」
……うん、そうか。よかったな。
さて元凶は――外に行きやがったかって、絵梨っち、バスタオル巻いて追いかけてったよ。マジか……世話が焼けるぜ。
ううむ、双子と絵梨っちを追いかけていたはずが見失っちまった……お、先客がいるな。
「精が出ますねぇ」
「エイルズレトラさん」
おうおう、こんなとこまで来て矢の練習してんのか、確かに精が出るねえ。
ただ、よ。俺っちも長い事人間ってのを見てきててよ、それこそ戦国の時代でお前らみたいに強さを求めようとしているのも見てきたわけでだ。スズカっちのあの表情は、護るために強くなりたいとか行ってた奴らと同じ面構えだぜ。
あれらは理想がたけーから、到達するよりも先に死んじまうんだよなぁ。
「スズカ君は目的のために強くなりたいようですが、何かを成すための手段として強さを求める人には多分、本当の強さは得られませんよ。
何かを成したい人に必要なのは強さそのものではなく手段、方法でしょう」
おう、正論だ。
「何かを成したいと思う時は1つの手段に捉われず、あれこれ考えた方がいいし、逆に何かを極めたいと思った時は他の事を考えず、没頭した方が良いものです」
うむうむ、コレも正論。見た目はわけーけど、中身が見た目ほど若くねーな、こいつ。
「うーちゃん!」
ここまで来たのか、絵梨っち! ダメだ、そんな姿で玄関を出るんじゃ――おわ、おめーら押すんじゃねえよ! バスタオルが手に引っ掛かっちまっただろうが!
エイルズとスズカが絵梨っちに顔を向け――る直前、外灯の灯りが消えた。そのおかげで絵梨っちは玄関の灯りを背中から受け、男2人の方向からは身体の輪郭しか見えていないはず。
ま、向こうが見えていないってだけだけどな――お、レティっちが木を揺すって葉っぱを舞わせていたのか。外灯が消えたのも、レティっち仕業だな。ナイスだぜ。
といってもまあ、うん。絵梨っちは悲鳴あげるしかねーよな。ほい、バスタオル。
バスタオルを巻き直して戻っていく絵梨っちがまたも悲鳴――なんだぁ?
……本当に、なんだ? 廊下の電気が消され、庭側の窓から差し込む光に映し出されているのは、バスタオルを巻いてへたり込んでいる絵梨っちと、その前にいる前髪を垂らして目元が見えない、ちょっと不気味な浴衣姿のちんちくりん――あ、雫だな。羅刹から悪霊へジョブチェンジしたのか。
あ、絵梨っちが気を失った。そんな絵梨っちを杖を突きながら歩いているアズサっちが気づいて、回収してる。優しいじゃねぇか。
「憤慨しているのも、理解できる。でも、ほどほどに」
見えてないだけに気配だけで雫とわかっていたんだな、アズサっち。
「そぉこですかぁぁぁぁ!」
げ、こっち向かって走ってくる。
お前ら逃げ――やめろ、エイルズに手を出すんじゃない! こんな薄暗い中、木の上から胡桃を投げるとか――かわしやがるし。
「ふむ、どうやら目に見えない敵がいるようですねぇ」
お、エイルズの手から大量のカードが滑り落ちてきたってぇぇぇ!? カードが襲ってくるぜ! なんの! ああ、スズカっちが纏わりつかれてる!
本人にも襲い掛かってるようだが、エイルズの野郎はスルリスルリとかわすなぁ。
――殺気!
あっぶねー、俺っちの横を大剣がかすめていったぞ。つーか、垂らした前髪のせいで全然見えてないだろ、雫。気配を頼りに向かってるから、エイルズに斬りかかってる。
纏わりつこうとしているトランプを大剣の一振りで払って、羅刹の一撃がエイルズに襲い掛かるんだけどよ、エイルズはそれも楽しそうに避けていやがるぜ。まるでここ最近は薄れていたスリルを楽しんでいる見てーな顔だ。
ま、当たればよくて重体、悪くて即死ってくらいの攻撃だもんな。俺っちが見てきた中でも間違いなく、どっちも相当なやつらだぜ。
おうおう、スズカの坊主が目の前で広がる高次元の戦いに食いいってら。強さってのがなんなのか、しっかり目に焼き付けときゃいいんだ――って、ああまたあいつら見失った。
おや廊下の途中にいるのはミハイルこと、ミハ公。
「藤忠、月見酒と行こうぜ」
「ふむ、悪くないな」
廊下でミハ公が誘ってんのは不知火藤忠(
jc2194)ってやつだな。女みてーな印象だったけど、声からして男か。
それにしてもだ、なんかミハ公から悪巧みの匂いがするぞ。悪戯好きな俺っちだから、こういうのには敏感なんだぜ。
脱衣場に入るなり、藤忠を先に浴場へ行かせたあたり、きな臭い――ほーら、やっぱり。藤忠の服を隠して、かわりに置いておくのは古伊万里の皿2枚か。
まったく、くだらねーことしてるぜ。俺っちの仕事を奪うだなんてよ。
「本当に、全くね。こういう楽しい事は俺にもやらせてもらわなきゃ」
ああん……仙也か。今まさか、俺っちの声が聞こえた……?
ていうか、何してるのかなー。皿2枚を回収して替わりに何か置いてるし、ミハ公の所でも服を回収して何か置いてやがる。そっちの籠では眼鏡になんかしてるな。
うむうむ、反応を見て楽しむとしよう。
お、2人が上がってきたな。それと悠人もいたのか。みんな見事に隠さないのはまあ、男湯だからな。倫理的にはアレな気もするが、まあ籠がある所にちょうどこいつらの腰が隠れるようなカメラアングルになってくれるだろう。
流石にレティっちもここでは仕事しないし。
「ところで藤忠はタオルでスパーン! をしないのか?」
「そんなことはせんよ――おや、俺の服はここら辺じゃなかったか……?」
ミハ公がしれっと「そこの籠だろ?」なんて言ってるが、内心、笑いをこらえているのだろう。だが残念、お前さんも絶望しろ。
「俺の服が女物の下着やらに替えられている」
「皿じゃないだと……!? Σ!! 俺の服もない!」
藤忠の籠からは女性用下着と、包帯と、浮き輪。ミハ公の手にあるのはオカメとヒョットコの面――ちょっと防御薄すぎねーか?
「……部長、もしかして先に何か仕掛けたな」
「――さて、何の事だ? それよりもこの面のどちらで前を隠すべきなのだろう」
「俺の眼鏡に目が描いてある!」
そっかぁ、あの眼鏡は悠人のか。
「やあやあ、座敷童の悪戯ってのはなかなか性質が悪いね」
笑って言ってるけど、これはお前さんの仕業だろ仙也ぁ!
ただこいつらのコエ―ところはこんな目にあっても、「よし」とか言ってミハ公は普通にヒョットコで前を隠しオカメで後ろを隠すし、藤忠は包帯を巻いてからとりあえず女物でもパンツだけは穿くところだな。
悠人は――のんびりするって言っただけあって、眼鏡に落書きくらいじゃ怒りはしないか。
とりあえずこの2人、この姿で部屋まで戻る気か。幸い、人影は――あ、不知火あけび(
jc1857)が脱衣所から出てきた。
「何て格好してるんですか!? それに姫叔父――あはははははは!」
「笑うんじゃない! 浮き輪は透明だったし、これでもギリギリだったんだ! 気をつけろ、あけび。ここの座敷童は案外たちが悪いぞ……そう思うよな、仙也」
「そうだね」
お前がこれをしでかしたんだろ、仙也君よー。こいつ、座敷童の一種じゃねえのか?
だがまあミハ公達は救われたな。あけびが先導してくれたおかげで、他の女性客と会わずに部屋までたどり着けたじゃねえか。だがこの間に仙也があけびの部屋にわずかな時間、侵入してたな。
「もっと気をつけてくださいよ」
「ああ、すまなかったな。あけび――そう言えばこういう旅館にはゲイシャとかってのが居るのか?」
「綺麗どころが必要、なんだな」
ミハ公と藤忠は部屋に戻り、あけびも部屋に戻ってったか。
おや、藤忠。着替えるのはえーな、そしてどこに行くんだ? っと追いかける前に、何か今、あけびの部屋から「軍刀がない!」って悲痛なうめき声が聞こえたけど、そういえば宿に着いた時ですらも腰に差してたな。なるほど、あれがないわけか。
あけびが慌てて出てきやがったが、廊下の仙也と鉢合わせるなり、なんだか顔色が悪くなっていく。こいつに貰ったものだとか、そういうあれか――って、ばれたくないからって子袋取り出して、いきなり目潰しかよ! 昔の忍者を見てるみてーな手際だったぜ。
この間にあけびはどっか消えてるし――まーでもお探しの軍刀とやらはたぶん、こいつの背中にあるやつだろうけどな。思いもよらぬところで罰が当たったな、仙也。
「どうしたんだ、仙也」
「いや、どうもしないさ――それよりもそのお膳、ミハイルさんの?」
「ああ――なかなかいい彩だろ?」
あーまてまて、仙也のその顔は知ってるって顔だけどその料理、もしかして仙也が用意したのか。
どれどれ……ふむ、これはピーマンに見えるだけでピーマンじゃないなし、こっちはピーマンに見えないけどピーマンを使っているな。そういえばピーマンが苦手とかそんなアレだったか?
目の前に置かれた膳に浴衣姿のミハ公は――不敵に笑うだけだと?
「俺くらいになるとな、見えていなくともわかるんだよ。もはや奴らの方から語りかけてくる。俺を食うな、ヤバいんだぞってな。これなんかはピーマンに見えるがピーマンではない――違うか?」
箸でつまんだそれは生ピーマンの肉詰めに見えるが、確かにピーマンじゃねーな。けどよーそれ、青唐辛子だ……あ、食った。
おおう、もの凄い勢いで悶えてる悶えてる。あの様子じゃー肉の中にもっとヤバいモンぶっこんでるな。例えばこれ見よがしに持ってる仙也のデスソースとか。
あれ、いつの間にか藤忠がいない――あ、襖から見えてるあのおみ足はもしかして。
「私達がお酌しますわ?」
……誰だかわかんなかったぜ。
普通はしねーもんだけど、着崩した着物から見える肩や襖を開けて入口を塞ぐその脚は女のそれにしか見えねえ。けど藤忠だ。
薄化粧だけでも十分艶のある美女に見える。だが藤忠だ。
声色まで変えて、ずいぶんとまあ艶やかな猫なで声じゃねえか。でも藤忠だ。
つーか、私達?
俺っちが疑問を浮かべると同時に、おっそろしいゴリマッチョオカマ軍団が押し寄せてきて、なんかミハ公を「超好み! 剥いちまえ! 腹筋触らせろ!」とか、もみくちゃに。
「サラリーマンなら腹踊りだろ。存分に楽しめよ?」
鬼やで、藤忠。あれか、未遂に終わったし痛み分けとはいえ、ミハ公が仕掛けてきたというのはそれほどに許せなかったのか。恐ろしい。
着替えるために藤忠が廊下に出たわけだが、廊下の向こうからなにやら満面の笑みでスキップしてやってくる浴衣姿の仙也がいるんだけど、どゆことだ。しかも投げキッスまで。
だって今さっき――あれ、部屋にいねえな。
藤忠が呆気にとられていると、横を通り過ぎ去る仙也もどきがミハ公が軍団に襲われている姿を見て「うわぁ」って……ああ今の声、あけびだ。
そんであけび仙也が消えた後、やっと現実に帰ってきた藤忠が「投げキッスされただと……!?」と驚愕に打ち震えてる。
「誰にだい?」
ひょっこり顔を見せる仙也を、藤忠が両肩を掴んで首がもげんばかりに揺さぶる。
「悩みがあるなら言え、お前が変な方向に目覚めたら部のツッコミ役が減る!」
「何の事かわからないけど、人生初の自発的女装をした藤姫に言われる筋合いってのがどうにも」
ごもっともだ。
仙也が首を傾げて行こうとするところに、藤忠が後ろからいわゆる膝カックンを仕掛けた……のはなんでだ?
「これは報復だ。ま、この程度に収めておいてやるさ」
「……どうも」
脱衣場の犯人に気づいてたやがったか。
さて、誰れについて行こうか……仙也だな。色々危険だし。ていうか外で何を……あれ、この物干し竿……
「あー!!」
2階の窓からあけびの声がするってことは間違いねえ、探してた軍刀だ。仙也がこれを持って次は――おや、そんなところでお料理かい。お手元には立派な包丁がありますものね……って待たんかい。
お、間一髪で走ってきたあけびが取り戻した。
「錆びたらどうしてくれるの!」
「いやまあ、切れ味が落ちてないかの確認さ。
それよりもあけびさん、温泉上がりで結構激しく動いたから喉が乾いてるんじゃないかな。さっき2本もらったのがあるから、1本飲みなよ」
うわぁ、なんか怪しいぞその親切。未開封とはいえ、ジュースなんてもらってなかっただろ。それになんか今、缶の中から空になったデスソースが出てきたのは気のせいか?
まず自分のを飲んで何でもないのを示しつつ、そのヤバそうなのを渡すかー。さすがだぜ。
「うん、いただきま――ッッ!」
ミハ公程じゃないけど、悶絶してる。涙目になりながらもお優しい仙也が持ってる普通の方を渡して、それをあけびが飲もうとしたけども、残念。空だ。
「ま、さっきの仕返しってことでね」
あけびがこくこくと頷いて「ごめんなさぁい」とか。でも軍刀をお前さんが持ち出したからこうなったんだけどな。まあいいさ、そろそろ俺っちは別の所にでも行くとするか。
あれ、アズサっちが1人でいる。でも食卓にはなんか5人分の膳が……ああ雫が暴れてるもんな。てことはユリもんは呼びに行ったとかそういうあれか。
あと2人はたぶん、絵梨っちと文歌の分だ。誰とでも仲良くなるユリもんが、引っ張ってくるんだろうなぁ。
おや、アズサっち。俺っちに何かようかい?
「……僕、目が見えないわけで、それをいいことにお風呂場で、触られた。本当はもの凄く、いやなんだ」
ほーそうかそうか、すまねえ。俺っちが犯人なんだ。てか、見えてない奴は俺っちを気配で感じ取ってるのから、人の気配とあんま見分けがつかなかったりするのか。
ま、へこたれるな。その分楽しい事や嬉しい事、あるだろ?
「ごっはーん☆」
「アズサさん、お待たせしました」
「あの、天城さん。大丈夫ですか?」
「……平気よ。うん、忘れる事にしたから」
ほうら、新しい友達のご到着だ。自然と笑みもこぼれてるぜ。
じゃユリもん、雫、文歌、絵梨っち、あとは任せたぜ。
「任された☆」
おーミハ公たちの部屋か。ミハ公とあけびと仙也が正座させられてる。
「まったくお前達は……特に部長。結婚前にやんちゃ――視線を感じる?」
ちぇ、カンが働く奴はこれだから……お、仙也が目配せしてきた。の手にあるもんを受け取って、藤忠が後ろに気を取られてる隙に、そーれぺったぺった。
「何故女装時の写真が至る所に!?」
驚愕する暇はねーぜ。廊下にも貼っておくからよ、じゃーな手をひらひらさせている仙也ー。
ふう、やり遂げたぜ。
そういえば一機君の様子はどうなったかな?
「あ、やっちゃった……」
真緋呂がいきなり汁もんを零したか。言っとくけど俺っちは関係ない。
「ドジでごめんね一機君」
「それよりもヤケ……!」
一機君の動きが止まったところを見ると、気づいたか。真緋呂が拭いたとはいえ汁もんを浴衣に零して、透けまくりなのを。当の本人は気づかず能天気に食ってやがる――ってか、それ何人分?
一機君、チラチラと胸元見ている場合じゃないぞ。真緋呂に「これ食べていい?」とか、内容も理解しないまま頷くのをもうやめなさーい。ほとんど食われてるぞ……ああもう遅いか。
まったく、見てらんねーぜ。
ん、この部屋はアルジェっちとかがいるあれか――なんか結構深い猥談してっから、踏み込まんでおこう。聞かせられねー内容だな、うん。とはいえ話題に出てる修平君、もっと頑張れ。
夜もそろそろ遅いし、俺っち達の根城に帰るか……見ねえと思ったらレティっち、こんな布団部屋で何してるんだ? 俺っちと双子の根城ではあるけど……
「まずはこちらを、童さんにご奉納ー最近冷え込んできたので、末永く健やかにと祈りを込めてみました」
おお。どてらか、ありがてえ。
それはそうとこの炬燵は? この宿にあったやつだろ。ミカンと煎餅も完備とか、最強すぎる。そして見つからねぇと思ったら、双子ども、ここで寝てやがったのか。
「童さん、どうかここで双子とも快適なお座敷暮らしを送って、仲良くしてください。きっと長い生の孤独が、ここに住み着いた理由だと思うのです」
ははぁ、成程なぁ……ところで、普通に話しかけるのはなしでお願いしたいんだが……
「わっかりました!」
わかってねえし。もはやこいつ、俺っちの仲間なんじゃねえか?
むう、なんかこのままここで寝るのも癪だし……そうだ、一機君とこでも潜りこみに行こう。
……――はーい、お邪魔するぜ一機君、君はそっちで眠ってくれ。なんだか今日は色々疲れたぜ……眠るって事は滅多にしねーけど、今日は寝よう。
「……ん――……?」
おや、真緋呂が先に目を覚ましたか。一機君はなんか「柔ら……かい……いい……匂い」とか言いながら真緋呂の胸に顔埋めたまんま、手まで使ってやがる。実は起きてるんじゃねーの?
あ、目を覚ました。
「!?!?!?!?!?」
パニクッてるパニクッてる。真緋呂も起きたのか、顔を赤くして「!?」とか言いながら無理やり起き上がろうと――ほら絡まったまま起き上がると危ねえって。
言っても聞こえねーか。しゃあねえ、俺っちがいっちょ、後ろから押してやるぜ。
あ、力入れ過ぎたか? 真緋呂が上になったから、一機君が胸の下で窒息しそうになって顔をを激しく動かしてるのってなんか、うん。あと、引き剥がすつもりなんだろうけど、一機君が指を食いこませてるのは真緋呂の尻だから。
不可抗力とはいえ、これだけの事されても真緋呂は大人しいもんだな。不可抗力なら怒る気はないのか? まあ大部分が俺っちのせいなんだけどよ。
すまん、一機君。でも良い夢は見れたろ?
さてさてもう朝ってなると、こいつらが帰る時間が近いのか……クッソ、寂しいとか思っちまうほどに、こいつらの馬鹿っぷりが気に入っちまったぜ。
ああん? なんだよお前ら、俺っちに出てけって?
ずいぶんなご挨拶じゃねーかよ――うん? お前らが来たのは長のお願い? 俺っちをこいつらと一緒にさせるためか。
長も随分よけーな事するじゃねえか……でもまあ、お前らが居ればここは確実に安泰なわけだし、俺っちとしてはここの行く末も気になるけど、あいつらも気になるしな。
分かったぜ、俺っちはあいつらについて行く。どうせ俺っちはもう力なんてねーから、出ていく時に商家が潰れるって事もねーしな。座敷童界初の世界を旅する童になってやるぜ。
たまにはここの様子も見に来るからよ――嫌そうな顔すんなよ。まあとにかく、任せたぜ?
さあ、おかしなあいつらについて行こうじゃねえか。
果たしてどんな未来を作り上げるのか、楽しみだぜ――じゃあ、またな!!
座敷童だけど文句あるか? 終