●戦闘開始直前から
シェインエルがアルカードの前に立ち、撃退士達がその後ろに並んだところで、加工場の入り口が閉ざされた。
振り返ると優が扉を閉め、コピーが床から湧いて出ていた。英純の背後に巨大なマグナムが出現し、撃鉄が引かれる。
シェインエルがアルカードと対面し、撃退士達は優達と対面する。シェインエルに背中を向けたまま、雪ノ下・正太郎(
ja0343)は蒼き装甲を纏い、リュウセイガーへと変身する。
「シェインエル、こっちは俺達に任せてくれ。お前の戦いの邪魔はさせない」
「ああ。すまんが、元よりそのつもりだ――頼んだぞ」
「ん、タッグマッチと行こうか♪シェインエル。手を出して。拳をあわせて」
桜庭愛(
jc1977)が後ろに向かって拳を突きだすと、シェインエルも拳を突きだす。そこにリュウセイガーの拳も加わった。
「それが、友情の絆。私たちは必ず勝つ。だから、あなたも『生きること』足掻いて見せてよ♪」
「ふん……死ぬなよ」
「私は天使と友達になっちゃう変わり者だからね」
拳を軽く交わらせ、背中を合わせて愛は微笑むと、お互いの敵を睨み付ける。
一歩出たリュウセイガーの胸に聖なる刻印が刻まれ、後ろに並んだ愛共々、闘気を溢れさせていた。
「当たり前じゃないですかぁ☆ こんな所では死ねないですよぅ☆」
「生きて帰るという誓いがありますからね」
その手に魔力を滾らせる鳳 蒼姫(
ja3762)と、水色の龍が全身を覆う樹月 夜(
jb4609)が小銃【十字銀蒼誓】の銃身に巻き付くように飾られた銀のロザリオに触れるのだった。
青白い靄状の光に包まれているRehni Nam(
ja5283)は心を鎮めるためにも一度目を閉じ、どう動くべきかを整理したところで目を開いて優を真っ直ぐに見つめる。
「先日の雪辱、今、晴らします。あいつらぶちのめして、シェインエルさんも一緒に、帰るんです」
シェインエルとアルカードのやり取りも終わり、優達の動き出す気配が高まっていくと、Rehniが天に向けて手をかざす。
「だから……邪魔をするなぁ!」
ゴングと共に皆が一斉に走り出し、手を振り下ろす。
蒼姫も手を前へと突き出した。
「さあ、開幕なのですよぅ☆ 気をつけて行ってきてくださいねぃ☆」
蒼姫の手から放たれた豪炎が一直線に伸び、2体のコピーを飲み込んでいく。そこへ無数の彗星が降り注ぎ、押し潰されるように床へ這いつくばる、コピー達。
豪炎に焼かれ肌を燻ぶらせたコピーはすでに動く気配もなく、地面に這いつくばったコピーはもがくばかりで立ち上がれない。
その道へ走り出そうとしている『3』人。
「……援護します、よ!」
夜が十字銀蒼誓を構えたその時、巨大な弾丸が真っ直ぐに豪炎を突き抜けてきた。
「俺が止める!」
誰かが愛の後ろから離脱すると同時に、先頭のリュウセイガーが腕を交差して弾頭を受け止めた――瞬間、弾頭は弾けて周囲に散らばり、さらに破裂を繰り返して辺りを火の海へと変える。
最後尾にいた夜にすら届き、コンクリの破片やらなんらが肉に食い込み、火に巻かれた腕と足を振りながら後退した。
「あっつッ……!」
それでもリュウセイガーが受けていなければ、何人かこの1発で動けなくなる可能性もあったのだから、だいぶましな被害である。
「ヒャッハー! どうよ俺様の一撃は! すげーだろ、でけーだろ、サイコーだろ!?」
英純がはしゃぎたてて、せっかく開いた道に別のコピーが立ち塞がろうかという時、夜は痛む腕で銃口を向けて、道を塞ごうとしているコピーへ撃つ。
「……さあ、今、です。行ってください!」
「おおおおおおおお!!」
雄叫びを上げ走り出すリュウセイガーに向かって、優もコピーも動き出す。
――その時、周囲の世界が一変した。
どこかのライブ会場。大勢の顔もわからない人影のようなものが優達の周りを埋め尽くし、身動きを取れなくする。
「なんだ、これは」
「さぁ、私達のライブへようこそ♪ 皆さん、倒れるまでその場でゆっくり私の歌を聴いていってね」
どこからか聞こえる、川澄文歌(
jb7507)の歌声。目立ってなんぼのアイドルが、この時ばかりは何処にいるのか、わからなかった。
動きが止ったこの隙に、Rehniの手から流れる優しい光がリュウセイガーと愛を優しく包み込み、癒してくれる。
「い、く、ぞぉ!!」
今こそがチャンスと、一気に駆け抜けていく。その後ろを愛が、そして蒼姫がついていく。
動きを止められていないコピーが集まりだしてきた、が。
「……一気に燃え盛りませぃ!」
蒼姫が火炎球を放り投げ、激しい炸裂音と火花をまき散らしてコピー達を飲み込んでいく。入りきらなかったコピーもいたが、その脳天を銃弾が貫いた。
「邪魔はさせません、から」
夜の正確な狙撃に加え、降り注ぐ稲妻が焼き払い、一瞬だけコピーの影に文歌が見えた気もしたが、すぐに見失ってしまう。
「シェインエルさんが戦っている間に、こちらも決着をつけますよ」
「もちろんだ!」
「モッチロン!」
英純に向かっていく――と見せかけ、優に肉薄するリュウセイガー。
動かせる腕で優がリュウセイガーの肩に手を届かせると、鈍い音と鈍い痛みがリュウセイガーに響く――が、悲鳴ひとつあげなかった。
本当であればリュウセイガーの頭部を掴むつもりだったその手だが、夜の射撃によって軌道を変えさせられたのである。
「お前らに殺された人達の苦しみは、こんなもんじゃねえ!!」
「そうか」
肩を掴んだまま地面に向けて投げつける――直後、後ろについていた愛が意地悪く前回優を収めた携帯の画像を優の顔の前へちらつかせ、リュウセイガーを投げた体勢のままでいる優の下腹部へ、膝蹴りを叩き込んだ。
優の身体をくの字にすると後ろへ回り込み、腰にしっかりと腕を回すと、愛の両肘に優の手が添えられるが愛は気合いを入れた。
「よいっしょぉ!」
優を地面から引っこ抜く様に持ち上げる。投げられまいと優の脚が愛の胴体に絡みつき、ミシミシと音を立てるが、それでも股間のマグナムを向けた英純へ投げつけた。
優が床に叩きつけられ、射線を塞がれた英純が撃つのをためらい、その躊躇に夜が狙撃で割り込んでマグナムをはね上げた。
「……一気に畳掛けてください、ね」
夜に勇気づけられたのか、床に転がされたリュウセイガーの蹴り足が股間のマグナムを破壊、脚を絡めて英純の脚関節を逆に曲げながらうつぶせに倒すと、後ろからマウント状態のリュウセイガーは雷神の斧が如き肘打ちを後頭部に叩きつける。
リュウセイガーや愛に群がろうとするコピーだが、どこからか来る稲妻が降り注ぎ、近寄らせようとしない。
「ついでに、封じさせてもらいます!」
Rehniの足元に広がる魔法陣が優とコピーの足元にまでおよび、纏わりついていく。
床に倒れたままの優だが、何かに気づいて拳をコンクリの床に叩きつけた。その行動が気になったのか、走りこんできた蒼姫がニコリと笑って、優の額に一瞬だけ触れた。
「アキに何か面白いことがあれば見せて下さいですよぅ☆」
そう言って蒼姫に見えたのは、住民を無残に殺している映像と、そして、今の行動の意味。
(関節が治せん! なぜ、透過できんのだ!)
苛立っている。
阻霊符という物の存在を知らないのかもしれない――それを知って、蒼姫はますます可笑しくなった。
「なんですかぁ、アキ達のこととか、全然知らなかったんですねぇ☆ 甘く見すぎですよぅ☆」
火球を動けないコピー達に向けて、また1発。だがそんな蒼姫の手を、束縛されていないコピーが掴んだ。軽い体はいとも簡単に振り回され、勢いよく床に叩きつけられる。
「アキさん……っ!」
駆け寄ろうとしたRehniが、がくんと急停止させられる。
「しま――」
手を掴まれ蒼姫と同じように振り回されると床に叩きつけられ、言葉を飲み込み歯を食いしばって痛みに耐えた。
(さすがに、巻き込みきれませんか……)
起き上がろうとするRehniはハッとして、駆け出していた。
英純の上でマウントをとったまま、リュウセイガーが叫ぶ。
「愛ちゃん!」
声をかけるが、愛は優を投げたままの体勢で動けないでいる。投げる瞬間に、両肘を砕かれ、絡みついた脚で肋骨が何本か持ってかれていた。
起き上がろうとする優の腕を夜が狙撃し、もう一度床に倒れ込ませる。
「愛ち――!」
再び名を呼ぶ前に、轟音がリュウセイガーの声を遮った。
「めーいちゅうー!」
床に押し付けられたままの英純が中指を立て、舌を出しながら首を捻ってリュウセイガーを見上げる。ワゴンサイズのマグナムが硝煙をあげていた。
「――ギリギリ、間に合ったとは思うんですが……」
文歌のアウルがリュウセイガーへ鎧のようにまとわりついていたが、のけ反って倒れそうなリュウセイガー。その目には力がなく、動けないでいる愛の意識も混濁し、今にも闇の中へ落ちそうでいた――だが、闇が広がったのは愛とリュウセイガ―の周囲だった。
周囲に広がった闇に、蒼き月が昇る。
蒼き月から雫が降り注ぎ、それがリュウセイガーと愛を濡らしていく――すると2人の目に、はっきりと力強さが戻ってきた。
「愛ちゃん!」
「雪ノ下先輩!」
砕けた肘は完治していなくとも、まだ動く。肋骨も悲鳴を上げているが、そんなものは笑顔で封殺。
愛は駆け出すとすぐにスライディングで滑りこみながら、立ち上がろうとする優の脚を足で挟み込み、うつぶせに寝かせると、腿の外側から足で巻きこむように挟み、優の手首をつかんでそのまま後ろに倒れ込んだ。
優の体が吊り上げられ、関節が軋む。
「ぐぅぅぅぅっ」
「次は、俺の番だ!」
うつぶせの英純を担ぎ上げ、肩の上に乗せてアゴと腿を掴んで背中を逸らせたまま、跳躍。空中で反転し、リュウセイガーから溢れる闘気が下に向けた英純を包み込みながら、吊り上げられた優の上にめがけて落下する。
「プロレスは――」
「最強だ!!」
優の腹部に英純が叩きつけられ、リュウセイガーの闘気が炸裂した。その衝撃は一番下で支えている愛にも伝わってくるが、それでも耐えきってみせる。
リュウセイガーが離れ、愛もさすがに限界と英純共々優を横に投げ捨て、自分は床を転がり距離をとった。
――ピクリと、優と英純の指が動く。
「とどめですよぅ☆」
倒れていたままの蒼姫だったが、床に布槍を巻いたままの手を付けはね上げる様な仕草をすると、光が炸裂しながら真っ直ぐに英純と優に伸びていった。
「英純、死んでこい」
起き上がろうとする優は、英純を盾にするつもりで蒼姫の方向へと蹴りつける。
「ゆうぅぅぅぅぅ!!」
叫ぶ英純――炸裂する光に呑まれ、悲鳴を上げたかと思えばその声はすぐに小さくなって聞こえなくなるのだった。
蹴りつけた反動で後ろに転がった優はからくも範囲の外に逃れたが、床に突っ伏したまま動かない。だが、拳を振り上げ、床を何度も何度も叩きつけ、それだけでは足りないと、額を何度も床に叩きつけ、擦りつける。
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くっそぉぉぉ!」
「くぅああああああぁぁぁ!!」
優の悔しがる声と、シェインエルの叫び声が重なった。
いち早く勝負の雲行きに気付いたRehniが、黒い炎に包まれて飛んでくるシェインエルを、自身も黒い炎に巻かれながらも受け止めた。
「無粋ではないか、娘よぉぉ! 最後の瞬間、シェインエルに鎧を作ったのも、お主の仕業だなぁぁ!?」
アルカードが睨みながらもビシッと指をさすと、Rehniは顔をしかめながらも手の平に生命の種子を発芽させて、アルカードを睨み返す。
「くぅ……文句は言わせないのですよ。貴方がヒーローだというのなら、私達はシェインエルさんを助けに来た、敵の、新たな幹部。
貴方が敵方の……ダークヒーローだと言うのなら、私達はお助けヒーローです」
睨み合いが続くかと思われたが、優の「ごしゅじぃぃぃん!」という叫びに、アルカードは肩を上下に揺さぶって笑う。
「ほほう、よかろう! どうにも我が従僕が助けを求めておるようだし、それに、吾輩は今、とても気分が良い!!」
黒い疾風が駆け抜け、気が付けばアルカードは優を小脇に抱えていた。
「シェインエルとの決着はほぼついてしまったが、まだお主らと血沸き肉躍る様な戦いができるやもしれん!
今回は吾輩の時間も心配であるが故、ここで退かせては貰うがぁぁ、まぁぁぁた、会おうではないかぁぁぁぁぁぁ!!」
「……逃がしはしません、よ!」
夜が優へマーキングを撃ちこんだ直後、アルカードが垂直にジャンプして漆黒の翼を広げた瞬間、黒い稲妻は空へと消えていく。
優がいなくなった途端、生き残っていた数体のコピーはたたずんでいた。
「アンコール、ありがとうございます♪ 私たちのパフォ−マンス、最後まで見ていってくださいね」
文歌のMCと、そこへ降り注ぐ、稲妻――動かなかったコピー達は、完全に動かなくなって横たわるのであった。
そしてやっと、その姿を見せた文歌はニコリと微笑んだ。
「私達のライブ、皆さん楽しんでくれましたか?」
●息は――ある
意識は残っているシェインエル――だが、身体のところどころが黒く爛れ、それはどれだけ治療してもふさがってはくれない。
「怪我がひどいです……。レフニーさんのおかげで一命を取り留めたとはいえ、しばらく養生しないといけないですよ。
どうです? 学園には天魔の方々にも精通している優秀な医療スタッフがいますから、一時身を寄せてみては?」
文歌がそう提案しても、シェインエルは首を縦に振らない。
リュウセイガーから戻った正太郎が、渋るシェインエルにさらに詰め寄る。
「本音は仲間になって欲しいが、まだそっちも立場があるか。なら学園に潜入して医者とかを利用するという形なら、面目も立つだろ?」
薄く笑ったような気がする。だがそれでもシェインエルは何も言わないので、蒼姫が額に手をあてがった。
(私がトビトに狙われるようになれば、お前らが巻き込まれかねん……そうなっては――)
「お気遣い無用ですぅ☆ アキ達は強いんですからぁ☆」
シェインエルの額を小突き、意識を集中している夜に蒼姫が「どう?」と声をかける。
「……とてもじゃないですが、追える距離にはいません。断念するしかないですね」
「どちらにせよ、一旦引き返すしかないです――動けますか、桜庭さん」
「へーきへーきへーきへーき……だから!」
どう見ても我慢しているが、それでも笑顔を向ける。
「一緒に、行こ!」
「……どうせロクに動けん。お前らの好きにしろ」
「ああ、わかった」
シェインエルを背負う正太郎。
けっして満足な状態でもないが、それでも力強く踏み込んで歩み始めた。
「俺達と共に、生きてくれ」
シェインエル物語3 終