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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/14


みんなの思い出



オープニング

 仲間の墓前でトランペットを吹く、長い栗毛色の髪をした女性。その女性の音を、彼はすぐ後ろで目を閉じ、聞き入っていた。
 心地よい静かな曲が終わり、彼女は振り向いて微笑んだ。
『シエル、今の音はどうだった?』




「いい音だ――」
 自分の声で目を覚ましたシェインエル。
 目を覚ますと、左肩のアザが再び、うずき出す。
「やはり怪我は治っても、痛みは残るか……」
 拳を開いたり握ったりを繰り返し、そして落ちている石に向かって手をかざす。
「アトラクション」
 石が手元に引き寄せられる――のと同時に、筋肉を裂くような痛みが肩のアザを中心に広がっていく。それどころかアザそのものも、ゆっくりと広がっているようだった。
 痛みにはかなり耐性のあるシェインエルだが、それでも顔をしかめてしまう。
「……ミアはこんな痛みに耐えながら、あの音を生み出し、笑みを浮かべていたのか」
 石を捨て、立ち上がる。
 天然の岩でできた洞穴に、少しばかり人の手が加えられたやや天井の低いそこだと、シェインエルの身長では少しばかり屈まなければならない。
 広さとしてはまあまああるが、それでも満足な広さがあるとは言えないだろう。
「身を隠すには十分すぎるというよりは、隠れるには広すぎるし、戦うには狭すぎる……やっかいなところで休息してしまったものだな」
 悪魔との戦闘で余裕がなかったとはいえ、こんなところに転がり込んでしまったのは迂闊だと、今更ながら後悔していた。
 ぶらりと旅の最中ならまだともかく、まだまだ戦闘は続いているのだ。
 動きだそうとするシェインエル――だが、出入り口に射し込む光を人影が遮ぎった。
「こんなところで休憩とは。多少の相性もあるようだが、格下の天使に対して、アレの能力は相当な効果を発揮してくれるようだな」
「そうだな。かなり厄介だが、格上や堕天した者にはあまり効き目がないと言うのだから、半端な力だ」
 我輩より劣り、天界の加護を受けている者は永遠に苦しむことになるであろう――戦いと逃走を繰り返し続けたこの数週間、自慢げに何度も聞かされた言葉だった。
 そこからシェインエルは逆に考え、導き出された結論に人影は「そうだな」と、珍しくも小さく笑う気配がした。
「だが、弱者イジメの力というのは楽しいだろう?」
「弱者をいたぶったところで、己の身にはならん――やはり元人間とはいえ、悪魔の手先であればそれなりの考え方でしかないのだな」
「それは違うな」
 人影が今度こそハッキリと笑った。
「ヴァニタスや悪魔にだって、弱い者イジメが嫌いなのもいる。
 ただ、私は大好きというだけさ。人の頃からな――それと、手負いをいたぶるのもな」
 パキリパキリと指を鳴らすその人影は、これまでにもちらほらと姿を見せてきたヴァニタスの優だった。
 シェインエルにとって、師匠と呼んだ人間を殺した敵でもある。さらには、大事な女性の命を奪った悪魔のヴァニタスでもあった。
 シェインエルの顔が険しくなる。
「やはり元人間とはいえ、貴様を生かしておけん」
「それは困る。私は私なりに、やるべきことがあるのでな。だから――」
 後ろに向けて優が手をこまねくと、複数の人影が現れたのだが、その全てが、優と同じ顔と背格好だった。そいつらが洞穴になだれ込み、壁の中へと消えていく。
 そして優自身も、壁の中へと身体を滑り込ませ、顔だけを出した状態で、こう告げた。
「お前が死ね」
 優が完全に壁の中へと姿を消し、息継ぎの呼吸音があちこちから聞こえるが、優もどきも含め、その姿をなかなか見せない。
(こんな中腰では思うように動けんな……かといって透過の力を使えば、身体が僅かながらに蝕まれる。
 外にも何体かいるようだが、きっとどこかにいるであろう撃退士を近づけさせないためか)
「どうやら、お前らに誘い込まれたようだな」
「らではなく、私が誘導しただけだ。あの3分戦って1時間のインターバルを挟まないとだめなご主人は、そこまで頭が回らんよ。
 ――それに、あれは私に後を任せて、帰っていった。また相まみえようぞと、言っていたぞ」
 声が反響してわかりにくいが、正面ではないはずだと、シェインエルは唯一の出入り口へ駆けだそうとしたが、踏み出そうとした足は前に出ない。
 視線をつま先に向ければ、地中から伸びた華奢な指が絡み、その見た目とはウラハラにがっちりとシェインエルの足を押さえ込んでいた。
 バランスを崩すほどではなかったが、それでも生じた隙を見逃すはずもなく、天井から伸びた手がアザのできた肩をがっちりとつかみ、鈍い音を響かせる。
 垂れ下がるシェインエルの左腕――それを右腕でつかんで鈍い音を立てながら外れた肩をはめ治した。
 もちろん、そんなことで簡単に治るわけでもないが、痛みさえ耐えれば問題なく動かせる程度には使える。痛みに耐えるのはレスラーとしての本文だと教えを受けているだけに、それほど支障ないともいえる。
 それに、そうでもしなければこの場を乗り切るのは厳しいと、シェインエルはそれなりに危機感を抱いていた。だがそれでも――
『どんな時でも、笑顔を』
 2人から教わったその言葉を思い浮かべ、シェインエルは笑みを浮かべていた。
「さあこい、人の形をした化物めが!」


 人の形をした天魔3人が戦っている様子が、山の中、数週間のうちに何度も目撃される――山菜採りに訪れた住民のそんな情報を元に、山を管理している市町村が久遠ヶ原に調査、解決を依頼してきていた。
 それはまさしく、シェインエルの読み通りである。
 だからこそ、シェインエルの大声に気づけた撃退士達は、現場へ急行することができたのだ。


 ただし


 なんの妨害もなしに、すんなりいくはずもない。


 山林を走る撃退士達の前に木陰から、無表情で喋る気配が全くないが、優にそっくりなそれ達が次々と現れ、道をふさいでくる。奥ではシェインエルの吠える声ばかりが聞こえ、切迫感が撃退士達にのしかかっていた。
 全員で目の前の集団をまず片づけるか、それとも数人は何かが起きている奥へと駆けつけるべきなのか――ろくに相談する暇も与えず、目の前の集団は次々と襲いかかってくるのであった――


リプレイ本文

「はしるーはしるーオラァ―たーちー、だれかーをたすけるたーめーにー♪」
 適当な替え歌を口ずさみ、御供 瞳(jb6018)が、さながら地を這う筋斗雲の如き、ミント色の頭髪と同じ色の雲を足下にたなびかせながら斜面を駆けていると、優コピーが次々と顔を出してくる。
 そして、くぐもったシェインエルの雄叫びがこだました。
「この声はまさか……シェインエル? 戦っている相手は目の前の連中の主か?」
「あの声はシェインエルか?」
 黒羽 拓海(jb7256)と、アルジェ(jb3603)の呟きが一致する。
「……ということは戦ってるのは報告書にあった奴――ということか。親友の縁者かもしれないし、ここで無視するほど薄情にはなれないな。
 それに、我々が来ている事を期待し、助けを求めているのかもしれん」
「この姿……優、か! すまない、みんな。俺は先に行かせてもらう!」
 雪ノ下・正太郎(ja0343)の髪がざわりと逆立ち、リュウセイガーへと変身。翼を広げる。
 そして正太郎の呟きに桜庭愛(jc1977)が目を丸くし唇を噛みしめると、リュウセイガ―の腕を引っ張った。
「雪ノ下先輩、私を抱えて飛べますか?」
「――わかった、やってみよう」
 アウルのマスクで表情こそわからないが、心なしか声が少し緊張していたリュウセイガーだが、愛を抱きかかえ、飛び跳ねる。翼を広げ、木々の間を縫うように飛行していく。
「先行する2人を援護しつつ、アルたちも壕へ向かおう。あの天使が戦う相手は大体人類に害なす者が多い」
 翼を広げ、2人を追う様に飛び立つアルジェ。全力ではなく、前も後ろも援護できそうな距離を保つ。
「天使が撃退士に助けを求めるだと? 信用はできんが、真相を確かめておくに越したことはない」
 シェインエルを今回の資料でしか知らず、かつて撃退士と交戦歴のある天使という部分で信用できないと思っているエカテリーナ・コドロワ(jc0366)だが、仲間達の助ける雰囲気もあって、それに協力するくらいの気にはなっていた。
 そしてこの中で一番何も考えていないのが、能天気に口を開く。
「話に聞くと、悪魔さ嫌ってるやつなんだべ? この先にいる、天使さぁ。
 ならこいつら全部ぶっ潰して先を急ぐには、十分だべ。なぁ、旦那様ァ!」
 鉄塊のような長大で無骨(ただし剣身に誰かの美化された肖像画が彫りこまれている)な大剣『旦那様スレイヤー』を握りしめる瞳が、横にぶん回す。
 それよりも先に優コピー達は地面へ沈みこんで、両断された木々と運命を共にしなかった。
 沈みきる前に、拓海が身を沈めながら大きく一歩、踏み込む。
 日本刀の横一閃が、優コピーの頭部を鼻のあたりから2つに分ける――しかし、斬られた優コピーは頭を手で押さえたまま、地面に沈み込んでいった。
 沈みきる前に手を離すと、斬られたはずの傷口はふさがっていた。
(頭か心臓さえと思っていたが、頭ではトドメにならんのか……人の形こそしているが、まるで別物だな)
 踏み込んだ足に力をこめ、退こうとした拓海だが、地面に縫い付けられたかのように足が動かない。
 地面から伸びた手が脛へ食らいつくように、指を肉へ食いこませていた。動けない拓海へ、後ろの木から現れた優コピーが抱きつこうとしていた。
 警戒し、樹に背を預けたりはしなかった拓海だが、動けない状態では行動が限られてくる――が。
「情熱的ではないか」
 そこにエカテリーナのアサルトライフルから『散弾』が放たれ、放射状に広がった弾は木々もろとも優コピーの上半身を吹き飛ばす。
 散らばった肉片がヒルの様にうじうじと動きはしたが、集まる事もなく息絶え、残された下半身は膝をつき倒れると、肉片達はその場で崩れ落ちた。
「肉片でできたヒルの集合体――そんなところか」
 地面から生えている腕の手首を切り、退いた拓海。手首だけがその場に残され、腕は地面へと沈んでいった。
(斬撃との相性は最悪のようだが、関節は斬られたら結合しないのか……?)
 退く拓海だが踏み止まると、前へ出ねばと再び踏み込んでいく。
「呼吸は必要なのだろうな。鼻が僅かに見えるぞ――正面、2本の樹にそれぞれ潜んでいる。警戒しろ」
 透過し、樹に紛れていても、視界内すべての生物を見逃さないエカテリーナの目が、優コピーの位置を捉えていた。
 流水が如き動きで踏み込んでいった拓海は、樹から伸びる腕を紙一重でかいくぐり、2本の樹をまとめて叩き斬る。
 樹から弾き飛ばされるように優コピーがはみ出し、地面に向かって身体を傾かせながらも斬られた胴体は腕で下半身を押さえつけ、再び結合しようとしていた。
「ここだっちゃね、旦那様ぁ!」
 ここへ倒れ込むとあらかじめ分かっていたように、瞳の旦那様スレイヤーが振り下ろされ、優コピーを押し潰す様に叩きつける。肉片が飛び散り、肉片の集合体はただの肉塊と化すのだった。
「そのまま眠るがいいさ」
 もう1体のコピーへ、エカテリーナのアサルトライフルを模したショットガンから散弾がばら撒かれ、肉片を飛び散らせる。
(後ろはそれほど心配なさそうだな)
 シェインエルを助けたいがために、後続の誰かが先走ったりはしないかと目を配っていたアルジェだがその心配がなさそうなので前を向き、防空壕にいるであろうシェインエルに意思を飛ばす。
(シェインエルだな、どういう状況だ?)
 ほんの僅かな間。
(優とコピーに襲われている)
 短い返答に、アルジェは余裕のなさを感じていた。
(なるほど……今仲間が2人先行したはずだが、さらに加勢は必要か?)
(わからん。警戒は必要だ)
 またも短い返答――アルジェは知らないが、この力を使うだけでもシェインエルは僅かにだが蝕まれていたのだった。
「アルもこのまま先行する」
 空を飛ぶアルジェ――樹の先から優コピーが跳びかかってきた。
 だがアルジェは足を振るい、足首から飛び出した太い針がコピーの脳天を貫く。そして貫かれたまま、コピーは落下していった。
 そして3人は警戒しながらも、先を急ぐのだった。



 シェインエルの腕が壁から伸びる4本の腕で押さえ込まれ、そして別の4本の腕が胴体に絡みつき、壁に押し付ける。
 磔にされたシェインエルへ、優がゆっくりと近づいていく――と。
「仁により加勢する!!」
 ヘッドランプを揺らしたリュウセイガーの飛び蹴りが優を吹き飛ばし、壁に叩きつけたと思ったが、そのまま壁に消えていった。
 シェインエルの前に着地したリュウセイガーが、壁から伸びる腕に1撃、2撃。そして愛のエルボーがもう2本を。腕の力が僅かに緩んだところで、シェインエルは力任せに引き剥がす。
 シェインエルは地面に片膝をつくと、少し腰を落とし気味で隣に立ち温かな光を押し付けるリュウセイガーを見上げた。
「2名が加勢するとは言っていたが……なぜお前らは、天使である私を助ける事に躊躇せんのだ」
「お前は嫌な奴じゃない、共に生きてみたい」
「なら私は嫌な奴、ということだな」
 出入り口の地面から、腕を組んだ優が生えるように姿を現す。
 その正面、対抗するかのように白いライン入りの蒼いリングコスチュームを着た愛が腕を組み、肩を怒らせて立つ。
「ねぇ、あなた。人間やめて悪魔になった人でしょ? 悪魔になってレスラーを殺した」
「……ああ、そんなこともしたな」
「その人、あなたに言ったよね? じゃあ、かかってきな。あなたにプロレスは最強だってみせてあげる♪」
 チューブトップの端に親指を引っ掛け引っ張り、離す。
 パシンと、気合と闘気の入った音と共に、愛は足を小刻みに使って左右へ身体を振る。時折、フェイントを入れるのも忘れない。
 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた優は地面に潜らず、指を鳴らして無造作に愛へ向かって歩みを進めた。
 詰まる距離――優の手が伸ばされ、捕まるかというところで愛は切り替えし、上半身の捻りと下半身の捻り、それに脚のバネを駆使して手をかいくぐり、懐に飛び込んで左のローキックが炸裂。そして腹部を右の膝で、蹴りつける。
 吹き飛ばされず、その場に留まる優。愛は腹に押し当てた脚に力をこめ、それを軸にして右へと跳んで離れた。
 腹に手を当てる優へすかさず、大きく息を吸い込んだ愛が鋭く踏み込み、拳を真っ直ぐに突き出す。
 拳は優の腹に突き刺さり、爆発的な衝撃が後ろの岩肌を振動させる。
「手応え、あり♪」
 前のめりに崩れ落ちる優――が、そのまま地面に沈み込んでいった。
「愛ちゃん、気をつけて! すぐここから出るよ!」
 傷を癒したはずだが、すぐに立ち上がれないシェインエルの腕をつかんで立たせた、壁から伸びてきた手を空いた手の手刀で流す、リュウセイガー。
 だが意識を愛に向けた一瞬の隙に、天井から落ちてきた優コピーが背中に纏わりつき、手足を絡めてリュウセイガーの身体を締め上げる。
 内臓へ襲い掛かる強い圧迫感と、きしむ肋骨。
「くっ……うおぉぉぉぉぉ!」
 左肘をすぐ後ろの脇腹へ突き入れ、天に突き上げた拳でコピーの顎を打ち砕く。絡んでいた手足は緩み、顎に当てたまま拳を天へ押し上げる。
 すでに息絶えていたのか透過もせず、天井に叩きつけられると、地面へ肉片となって散らばっていった。
 それを見ていた愛が、天井からの気配を察知して一歩下がると、目の前にコピーか優本人が落下してくる。
 そこへ容赦のない右ローキックから反転、左のハイキック。半回転したコピーが地面に落ちるのに合わせて、掲げた左足を真下に落とし踵で頭を踏み砕くと、崩れ落ちるのだった。
 これが油断を招いた、というわけでもないだろう。
 だが僅かな隙をついて、地面から生えた手が愛の両足首を掴んだ。
 一気に地面からせり上がる優。足首を同時に上へ引っ張られ、抗いはしたが愛は転ばされてしまった。
「見せてみろ、最強」
 笑う優が愛をものすごい勢いで持ち上げ、低い天井へ叩きつける。
「かっは……」
 そして振り下ろされ地面に叩きつけられると、またも天井へ。
 数回、天井と地面を往復、そして横の岩壁に投げられ叩きつけられた愛。岩の壁が砕け、飛び散った。
「愛ちゃん!」
 シェインエルの腕を引き、狭いながらも優を迂回していたリュウセイガーが叫ぶと、愛はゆっくりとだが立ち上がった。
「どうした、最強。動きが鈍ってるぞ、最強。近接なら私に分がありそうだぞ、最強」
「……それでも、プロレスは最強だ」
「そうだ」
 リュウセイガーの腕を振りほどいたシェインエルが1歩、優の後ろへ。その背中に手を当てる。
「――リパルション」
 シェインエルから弾かれた優が愛に向かって飛んでいくと、愛は反射的に跳躍していた。そろった足の裏が優の顔を打ちぬく。
「愛ちゃん、脱出するよ!」
「はい!」
 上からぶら下がってきたコピーの頭部をリュウセイガーの拳が砕き、着地し、走り出そうとする愛の脚にしがみついたコピーはシェインエルがアトラクションで引き寄せ、組んだ拳のハンマーを振りおろす。
 シェインエルに抱きつこうとして来たコピーへ、愛の腕が首を狩りその場で半回転させると、腰を掴んで立てた膝の上に脳天を落とした。
 3人の向かう入口に、小柄な人影が。
「アル達が退路を確保している。急げ」



「Oh! MOUREETU!! だっちゃ」
 瞳のスカートがまくれ風が吹き抜けていくと、抱きついていたコピー達が吹き飛ばされて、蒼い軌跡を描く拓海の蒼雷を纏った刀が弾き飛ばしながらも叩き斬る。
 地面に落ちるコピ―は崩れ落ちなかったが、痙攣し、すぐに起き上がる気配はない。そこにエカテリーナのショットガンが撃ち込まれ、肉を飛び散らせて動かなくなるのだった。
「オラァの旦那さまぁはコレダー!」
 吹き飛ばされたもう1体のコピーへ、瞳の背後に現れたイケメンでゴージャスな幽霊っぽい幻影が無数の拳を繰り出す。ダンスでも踊るように身体をくねらせながら、平たい肉の塊となるコピーであった。
「出てきたようだな――」
 防空壕の入り口から愛、リュウセイガー、それに見覚えのない顔を確認すると、エカテリーナは警戒しながらもシェインエルの近くに寄っていく。
「お前が何者なのか私は知らんが、何が起こっているのかだけは聞きたい。だが今は――こいつを倒すのが先だ」
 後ろへ、反動を抑えつけながら発砲。
 ロケット弾のようなアウルが、手を伸ばそうとしていた優の腹部に直撃する。
「貴様自身が弱者として甚振られる気分はどうだ?」
 近くに転がるコピーの死骸から肉を掴み、腹部へ押さえつける優へ、皮肉気な笑みひとつ浮かべず淡々と問いかけるエカテリーナ。
「……まあ不愉快極まりないな」
 手をどけると、穴の開いた服の下は綺麗な肌が露出していた。
 地面に潜ったかと思えば、殿のつもりで一番近くにいたアルジェの足元から湧くと足首を掴んで、小柄なアルジェを振り回して地面に叩きつけた後、次を撃とうとしていたエカテリーナへと投げつけると、再び沈んでいった。
 投げ飛ばされながらも腕を振るアルジェ。沈み込む直前、優の額に針が突き刺さるも、そのまま沈みきられてしまう。
 エカテリーナがアルジェを受け止め警戒したが、一向に優が姿を見せる気配はない。それどころか、残っているはずのコピーの気配もなく、この場から嫌な雰囲気すら消えていた。
「……逃げられた、な。あの手合いは簡単に撤退を選ぶ」
 アルジェの分析に、少しだけよろけていた愛が樹に向かって額を打ち付ける。
「プロレスが、舐められたままだなんて……!」
 苦々しく吐き出す愛――顔をシェインエルに向けた時にはもう、いつもの明るい表情を浮かべていた。
「すみません、牧瀬さんの敵を討たせられなくて」
「攻めきらなかった理由は、それか。
 私に気づかうのもいいが『倒せる時は一気に全力で』それが師匠の教えだ。次は私がいなくても最初から倒す気で行くのだな」
「シェインエル。今後、どうするんだ――思えば名乗っていなかったな。黒羽 拓海、覚えておいてくれ」
 拓海の問いに、正太郎も便乗する。
「休息や情報集めなどの為に、いっときでもいいから学園に来ないか? あなたの意思を尊重しますが、俺は来てほしいと思っています」
「アルも同じ気持ちだ」
 アルジェも便乗するが、シェインエルの顔は浮かない。
「……学園には、行かん。監視が入って動きにくくなるのは困るのでな。だが、情報は欲しい――今後、私からお前達にコンタクトをとることがあるかもしれん、とだけ言っておこう」
 そしてシェインエルが行こうとすると、正太郎がこれをとおにぎりを渡す。
 敵意のない笑みを浮かべるシェインエルは「感謝する」と、行ってしまうのであった。
 そして蚊帳の外である瞳とエカテリーナ。
「で、オラァ達が助けた天使って誰なんだっぺ?」
「さて、な。味方でもないが、敵だとは言い切れそうにもない天使だった、というだけか」



シェインエル物語  終


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
モーレツ大旋風・
御供 瞳(jb6018)

高等部3年25組 女 アカシックレコーダー:タイプA
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅