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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/06/13


みんなの思い出



オープニング

●最終イベント

 先日、真宮寺 涼子が依頼を出してまで高難度イベントをクリアしたMMO。それは最終局面を迎えていた。
 人類がこれまで支配され続けていた宇宙に攻め入り、そして敵の本拠地に乗りこむところまで、驚くほどサクサク進んでいく。敵も強くなり、デブリなどの障害物で難度はさらに上がっているはずなのに、これまでとは比べ物にならないほど楽である。
 それがなぜなのか――涼子は気づいていた。
(これまでのように初心者ばかりではなく、こいつらのほとんどが熟練者だ。敵の出そうなところを読んで、置き弾するなんて技術、初めて見たぞ)
 涼子ですら到達していない領域の熟練者が、ごろごろいる。これほど心強いことはないと、涼子も先を急ぐ。
 基地の最深部へ到達し、ムービーが流れた。
 これまでの敵よりも一回り大きく、長大な剣を手にしたそいつは、剣から黒炎をほとばしらせ、自らの基地を両断――戦地が、広いとはいえ限られた空間である基地内から、宇宙空間へと舞台が移り変わる。
 ただしそこは基地の残骸が散らばり、所々で小爆発を繰り返す危険地帯。
 だが、敵はラスボス一体のみ。
 これだけの熟練者が集まる状態であれば、どれほど強くても大丈夫だと、涼子は心に余裕を持っていた――が。
「何!?」
 突然の集中砲火にアラームが鳴り響き、なにもできずに涼子の機体は沈んでいった。
 ラスボスはまだ動いておらず、敵影は一切ない……にもかかわらず、涼子の機体は撃墜された。それは、なぜか。
「お前ら、PKグループか……!」
 画面に映るのは仲間ではないと思われる機体を追い回し、次々と撃墜していく友軍機達。そして追いかけられても、誰1人としてボスに攻撃を仕掛ける者がいない。
「我々『害悪騎士団』は、このゲームを終わらせない!! その為に復帰したのだ!!」
 誰かの叫びに涼子は合点がいった。
(ラスボスを倒すとストーリーどころかコンテンツ終了するという噂があるが、それを阻止するために復帰してきた昔の廃プレイヤー集団というわけか)
「噂でしかないのに、ご苦労なことだな……」
 やられた後、自動で戦域を見て回ってくれるストリーミングビューアでこのラスボスイベントを時間いっぱいまで眺めていたが、結局、最後の最後までラスボスは無傷のままであった。
 思わず涼子の口から、ため息が出る。
「ラスボスを退治するためには、PK集団も相手にしなければいけないというわけか……」
 気が重くなる涼子はとりあえず、最後まで生き残ったメンバーは皆が害悪騎士団を名乗る連中だろうと、リザルト画面をスクリーンショットに収めるのであった――


「ということでだな、また――」
「あ、私はお断りしますから」
 涼子が内容を話す前に、黒松理恵はビシッと言い切る。まだ何も言っていなかったが、どんなお願い、依頼か察していたのだろう。
 意思をはっきりと示すべく、腕を組んでそっぽを向いている。
「この前ではっきりと思ったんですけど、やっぱり私、あの手のゲームってあんま好きじゃないみたいで。それなりに上達してたかもしれないですけど、あんま楽しくはやれなかったです」
「そうか……なら強制はできんし、黒松への協力要請はやめるとしよう。だが、持ちこんでの練習プレイは許してもらえないか?」
「そういうのはいいんですけど、でもこの部室、常に綺麗にしているとはいえ、猫がいるわけですよ?
 パソコンに猫の毛があまり良くないってのもあるし、プレイの邪魔をするかもしれないし、もしかしたら協力者さんが猫アレルギーの可能性だってあると思うんですけど」
 もっともな言い分に、涼子がむうと唸って首を捻ってしまう。
 2人して腕を組んで考えていると、しばらくして涼子が苦々しく口を開いた。
「しかたない、余っている教室を使わせてもらうとするか。机や椅子を用意したりと、色々せねばな……」


リプレイ本文

621:とりあえず名無し
    最終決戦に負けたら続くって何か根拠案の?


774:とりあえず名無し
    俺の従兄弟受託の下っ端なんだけど、このままじゃバッドエンドが……とか言ってたんだけど

    このゲームじゃないかも試練けど


775:とりあえず名無し
    まず信用できるソースを出せ。話はそれからだ




「これでよし――噂には噂で対抗です」
 ノートパソコンを静かに閉じるRehuni Nam(ja5283)。その表情に、種はまいたと満足げなものがあった。
 その後、どんな風に話が転がるかは知らない。でも、これまで通りということはないだろうと、そんな思いがあった。
 そしてそれは想像以上の効果を発揮し、レスはどんどん伸びてスレも乱立。こうなってくると、害悪騎士団に所属する輩の書き込みをなんとなく察してくるようになる。
 この状況にほくそ笑むのが、害悪騎士団のリストと複数の携帯を手にした玉置 雪子(jb8344)だった。
「晒しに過剰反応ありです! これで本人と断定。罪状をピックアップして、他でも晒しうpと……おっとこっちは鎮火寸前ですね、だけど待ったなし。自作自演で再炎上……ふひひ」
 実にイキイキとしている雪子であった。

「これが宇宙戦か……やはり地上の空とは違うな」
「でも人型で戦えるというのはやはり、やりやすいですね――それにしても、必死にクリアしようとする人を邪魔するのは、許せない」
 そう言って空き教室で練習するのは、ゲームの経験が浅い鳳 静矢(ja3856)と神谷春樹(jb7335)。すぐ近くに翡翠 龍斗(ja7594)や浪風 悠人(ja3452)もいる。
「常にカウンター気味の操作を入れていけば、この手のは大丈夫だ」
「こんな感じ、ですよ」
「やるな悠人。だいぶやりこんでいる動きだな」
「え、いやぁ……妻には内緒でお願いします。
 それはそうと、雫はちゃんと課金ってものを理解した?」
 不意に名前を呼ばれた雫(ja1894)が、モニタの向こうから頭をひょっこり覗かせ「大丈夫です」と頷いた。
「課金システムは理解しました。やるなら全力投球ですね」
「いや、ほどほどにな!?」
 さっきからエンターの連打が気になっていた悠人は冷や汗をかくのだが、雫のエンター連打は止まらない――かと思ったが、唐突に止まった。
「今月の全体課金額が上限を越えましたので、今月は全てのお客様へ対し、課金限度額の引き下げを実施させていただきます――というのは?」
「運営の方から制限を引き下げるなんて、いったい、今月だけでいくら課金されたんだろう……」
「課金が怖くてMMOができる?」
 悠人の声が聞こえたのか、廊下から聞こえたユーリヤ(jb7384)の言葉に、薄ら寒いものを感じる悠人。
 その横で静矢が小さく笑う。
「鳳凰に『不死鳥』か……お誂え向きだな」
 何かレアを手に入れたのか、すぐにそれを強化する静矢であった。
 こんな風に個人差はあれど、強化をしている者達がいる中で、全く何も強化されていない機体も、飛び交っている。正確に言えば、どノーマルしばりを言い渡され、いっさいの強化ができないでいるのが、ラファル A ユーティライネン(jb4620)の『ハリコフ2』である。
「これで戦果のレポート出せって、メンドクセー……」
 一人、かなりひんやりとした部屋でつぶやくラファル。なかば呆れつつも、目の前のスパコンを見上げる。
 相談をしてみた学園の技術者が「しつけの悪いガキどもにお灸をすえるんじゃ」と妙に盛り上がり、このスパコンと思考コントローラーまでもが投入されることになってしまった。ラファルが呆れるのも、仕方ない。
 だがその性能は凄まじく、演算処理された攻撃はまさしく必中と呼ぶにふさわしいだろう。


 さまざまな準備が整えられ、やがて、運命のその日がやってくる。



●決戦イベント、開始
 接続している全員の画面にムービーが流れ、そして宇宙空間に姿を現したYD。
 YDが動きだすと1機がYDに攻撃もせず張り付き、戦域から離れるように誘導しつつ、その間に久遠ヶ原の学園生で構成された一団へ攻撃が降り注ぐ。
「置き玉だろうとなんだろうと、目に見える敵の攻撃は全て撃ち落とす……」
 静矢の『真・鳳凰』から放たれ、横に凪いだレーザーが実弾兵器、ビーム兵器どちらとも撃ち落としていく。が、そんな行動も想定済みなのか、初撃とは別の機体達が発射のタイミングをずらした追撃が降り注ぐ。
 ただ、次弾発射直前という絶妙なタイミングで、シールドブースターを使い飛びこんでいくのが、黒百合(ja0422)の『オープンパンドラ(はぁーと)』だった。
 敵陣のド真ん前、集中砲火を受けるリスクなど完全に無視して、多少の距離などお構いなしに腕を掲げた。
 2刀の大型粒子刀は機体自身どころか、戦域の端から端まで届くほどに伸びあがると、それを振り下ろす。大雑把な攻撃に当たるほどの輩はいなかったが、戦力の分断にはなりえた。
 振り下ろした後、1個のジェネレータが放電を繰り返し、今にも爆発しそうだという状態のオープンパンドラ(はあと)へと肉薄した1機に、そのジェネレータを投げてよこす。
「危険物のプレゼントをあげるわァ♪」
 そう言い残して、全力でその場から離れるオープンパンドラ(はあと)。その直後、過負荷で破損したジェネレータは並の爆薬とは比べ物にならない大爆発を巻き起こし、渡されたPKは宇宙の藻屑となって消えていくのだった。
 次弾にむけてもう一撃――そう思って構えた真・鳳凰の前に、よく似た機体が蒼い不死鳥となってぶつかろうとしてきた。
 即座に武装を『Phoenix』に切り替えた真・鳳凰は真っ赤に染まり、攻撃を弾きながら蒼い鳳凰に突進していく。
「さぁ……この不死鳥を止められるか!」
 赤き鳳凰と蒼き鳳凰の衝突――バリアの熱が冷気バリアを溶かし、そして機体をも融かしていった。
 鳳凰対決は真・鳳凰の勝ちであった――が、圧勝というわけでもなく、ジェネレータが凍りついてバリアの出力が下がってしまい、貫通するはずのない攻撃が真・鳳凰を揺らす。
「く……さすがに一筋縄ではいかんか。だがこの程度で真・鳳凰は止まらん!」
 損傷を受けながらも、迎撃レーザーで味方に向けられた第二波を撃ち落としていく。それでもいくらか生まれてしまった撃ち漏らしはあったが、回避できる者は回避し、耐える者は耐えきった。
 そして達人レベルだけあって、発射中のわずかな硬直を狙い、真・鳳凰への砲火が集中する。
 だがこちらはゲームでの経験こそ浅いものの、リアルでの戦闘経験は豊富である。そうなることくらいは予想済みと言わんばかりに、レフニーの『岩戸・改』がシールドを手に前へ出ると、真・鳳凰に向けられた攻撃を全て受け止めた。
 それだけの集中砲火を受けながらも、さすがに無傷とまではいかなかったが、目立った損傷がない岩戸・改。
「修繕ならお任せあれ」
 今のうちにと、真・鳳凰の側へ逢見 仙也(jc1616)の『サハク』が粘着性の泡をまき散らしながら近寄り、周辺にぼんやりと浮かび上がる幕のようなもの中へ入った真・鳳凰の損傷が、ゆっくりとふさがっていく。
「アホみたいに難しいステージでたまたま手に入れたナノマシン・フィールドだけど、役に立てたようですね」
「すまない、助かる」
 修繕している間、前に出たRehniが音声チャットを開く。
「負けて続いたとして、その後はどうするんですか? また終わりそうになるたびに、負けるんですか? そうやって……ジリ貧で破滅しろと?」
 問いかけに応答はなく、Rehniは悔しいような、悲しいような複雑な表情を作った。
「それは、だめです……!」
 呼びかけている間にも攻撃を受け続けているが、前の依頼の後も続けていただけあって、攻撃の受け方を心得た動きを見せながら、さらに呼びかける。
「それに、この世界は――この世界は……ゲームなんです!
 だったらクリアして終わらせないと、ゲームに失礼じゃないですか!」
 岩戸・改に襲い掛かろうとするPK。
 その背後から、青柳 翼(ja4246)の艶消し仕様で漆黒の『WHITE  STAR』が瓦礫から飛び出し、張り付いたかと思うとアンカーをぶちこんだ。
 モニターに機体データが表示され、乗っ取り成功の文字が浮かび上がる。
「貴方達は間違ってる! 本当にゲームを継続させたいなら、嘆願書を募りつつお布施をするか、ファンサイトでも作って新規を呼び込むかするべきなんだ!」
 呼びかけに応答がなく、肩を落とす翼だが顔を上げる。
「千沙、アンカー先の操縦を頼んだよ」
「ワカッタ……」
 少し特殊な口調のAIに乗っ取った機体の操作を頼むと、囲まれそうになる前に短距離転移を連続で使用し、再び瓦礫の中へと消えていった。
「無駄だってーの。こういった奴らはそういう言葉を聞いても、ワロチとか言って真面目に聞きゃーしねーよ!」
 ラファルのハリコフ2が、数百発の誘導式スプレーミサイルを発射。それと同時に雫の衛星級の球状機体『デススター』が岩戸・改の前に躍り出ると、代わりに攻撃を受け止めた。
「耐久性が高いとはいえ、受けすぎです。これに収容して、修復を受けてください」
「ありがとうございます」
 デススターのハッチらしき部分が開き、そこへ岩戸・改が収容されていった。
 追撃を受けるが、その程度でデススターはびくともしない。
「頭の中で妙な曲がかかっている気が……」
 雫はポツリと呟き、近寄るすべての敵や不明機に向け、大口径レーザー砲や全方位のレーザー砲で反撃に出る。その姿はまさしく前線基地そのものであった。
 サイズからしても違いすぎて、雫の目には全てが小さく見える。
「今ならフォースの暗黒面に目覚めそうな気が……」
 ダークサイドに落ちそうな雫の顔には影が差していて、あながちでもないのかもしれないなどと。
「いよいよ最終決戦だが、水を差す輩が居ては楽しめまい。まずは裏切り者から落とす――ついて来い、風香」
「わかってますよ、拓海。思うに、ゲームというのは終わりを目指す物ではないんでしょうか? とりあえず、迷惑な人達を片付けるとしましょうか」
 黒羽 拓海(jb7256)が黒い機体『フッケバイン』で進撃すれば、その後を黒羽 風香(jc1325)の白い機体『エンゲル』が追いかけていく。
「やるべきはエンディングを邪魔する奴らの殲滅、か」
 龍斗は人型機だが、ゴテゴテとした重装備のフルアーマー『ジェイド改』で、常に放電している斧を肩に乗せるようにして、見た目通りの速度で進撃を開始する。
 だが向けられた攻撃は、ほんの一瞬だけスライドする様な動きで回避をするので、思いのほか被弾率は高くなかった。
 この間にも飛来しているハリコフ2のミサイルは、最初から距離をとったままのPKこそは確実に切り払ったが、回避できると踏んで攻撃に参加していたPKの機体を揺らす。
 装甲もだいぶ強化されているだけあって、損傷こそは少ない――が、喰らった瞬間から機体が錆びついたような動きを見せる。
「誤動作ウイルス対策なんて、ねーだろ? ま、3秒間だけだけどよ」
 動きが鈍くなった頃合いを見て、攻撃を弾くたびに「シャー!」という威嚇音を出していた猫型のバリアを前面に展開していた黒猫型の機体『ブラックキャット』がバリアを解除する。
 そして水無瀬 快晴(jb0745)が「文歌、無事か」と、すぐ後ろの川澄文歌(jb7507)が乗る『セイレーン』に声をかけた。
「うん大丈夫だよ、カイ。さあ、それじゃいっくよー! もっと届け、私の歌!」
 ブラックキャットが寄り添いながらも、セイレーンが前へと出る。
 進路を塞ごうとするHWは「にゃー!」という鳴き声と共に、ブラックキャットから発射された猫さん形ビームによって可愛げな模様を残して撃沈していった。
 そしてセイレーンの周囲にホログラムのペンギンが出現すると、ダンスを披露し始めた。それに合わせ、ブラックキャットからも黒猫、白猫、三毛猫等の様々な猫達が次々とダンスするホログラムが発射される。
「♪マホウ☆ノコトバを唱えよう……きっと大丈夫 一言言えたらまた言えるよ 貴方に伝えたい想いを胸に♪」
 このフィールドにいる全員のBGMが強制的に、文歌の歌声と差し替えられ、ウイルスで動きが鈍くなったメンバーが、さらに歌へと気を取られたその瞬間、逆十字のエンブレムが高速で飛来してきた。
 PKに突き刺さったかと思われた時、すでに両断完了である。
「ぬるい、ぬるすぎるぞ、貴様ら。
 見敵必殺、サーチアンドデストロイ、掃滅せよ、奴らをここで生かして返すな。
 昼も、夜も、人も、魔もない、唯々存在するのは純粋な殺意――」
 高出力レーザーブレードを装着した皇 夜空(ja7624)の『シャドウフレア』は止まる事無く馬鹿げた推進力で突き進み、障害物と砲撃を潜り抜け、デブリと同じ感覚でHWを一刀のもとに切り伏せていく。
 闇を翔ける影があれば、闇を往く蒼き炎もいた。
「耕地や草地を駈け行く獣――大空の雲間に、鷲は舞う――そいつは、俺達のもの、勝利は俺達のもの!」
 ファング・CEフィールド(ja7828)が操る蒼き炎『ブルーフレイム』は高速で移動し、射程に入るなりビームライフルを構え、針の穴を通すような正確な射撃でデブリの隙間を貫き、PKに直撃させる。
 装甲が厚く、それだけでは怯むだけであったが、その直後に死角からの攻撃に機体を再び揺らした。そいつは振り向き、そこでやっとブルーフレイムの遠隔式思考操作擲弾兵器バインダーウィスプの存在に気が付く。
 そして更なる違和感を覚え、そのPKはモニターを凝視する――と、そこに銀色の爪楊枝が浮かんでいた。
「何時もの孔雀系統かと思った? 残念! 棒でした!!」
 爪楊枝からシエル・ウェスト(jb6351)の声がしたかと思うと、その爪楊枝がものすごい速度で一直線に飛んできてはPKの胸部を貫く。
 もがき、引き抜こうとするが、衝角に返しが付いていて、抜く事ができない。馬鹿げた戦法のように見えるが、そういう風に戦うことを想定されている突貫型対機関系統掌握機『棒様』なので、実に正しい運用である。
 しかもレアドロップではあるがこの機体専用の純パーツで、刺さり続ける事で侵蝕し、機関を掌握するシステムまで搭載していた。
 機体の掌握が完了すると、直接、声を強制的に送り込む。
「我々の血(課金)と汗(課金)と涙(課金)の結晶が、コレ倒した程度で終わるわけないでしょうが!
 お前の信じるお前(重課金)を信じろ」
「プレイヤーをあっさり裏切るのが運営のお仕事ですけどね!」
 フヒヒと笑う声がどこかで聞こえた気もするが、シエルの説得は続く――かと思ったが、そこに横槍をいれてくる輩がいた。
 突き刺したまま旋回するより先に、横槍を入れたPKは狙いを変え、撃ちながら高速接近してくるブルーフレイムへ遠隔操作のユニットを飛ばす。
 だが蛇行し、回避軌道をとるブルーフレイムには当たらず、逆にブルーフレイムの掃射が遠隔操作ユニットを撃ち落していく。
 そして、接近に気を取られれば死角からバインダーウィスプが襲い掛かり、さらにそれへ意識を向けてしまった一瞬の隙に、胸部を銀の衝角が貫いていった。
「ありがとですー」
「目の前ばかりではなくて、全体を把握するといいですよ、シエル。敵だけではなく、味方機も含めてです」
 ファングの視線の先には大小さまざまなデブリがあり、そこをジグザグに動いているPKの姿――と、そこに潜んでいる悠人の『ランチャーホークMk‐2』であった。
 デブリに潜むランチャーホークMk‐2に気づけなかったPKは、横からの狙撃に機体を揺らし、反撃の為に横を向いたその横腹にシャドウフレアのレーザーブレードが。
「全て絶つ――だが、少しはやるようだな」
 当たる瞬間にビームシールドで受けられたのは見えていた夜空だが、戻る必要はないと確信していた。
 去りゆくシャドウフレアの背後にライフルを向けるPKだが、その先端が速射ライフルによって破壊され、フッケバインの接近に気付いて通り抜け様に振るってきた刃状鋭角装甲の一撃を寸前で回避してみせる。
 だが通り抜けたフッケバインは人型に変形してデブリを蹴り、急激に方向転換を果たす。
「悪いが、物を蹴るのは慣れている――風香」
 ただ名前を呼んだだけだが、風香のエンゲルはレーザーライフル速射と3連装高速ミサイルで逃げ道を塞ぐ牽制射撃を行い、フッケバインの肉薄をフォローする。
 そして、それこそ慣れた格闘術でフッケバインが蹴り飛ばすと、その先にエンゲルは出力押さえ気味でレーザーライフルを連射、さらにフッケバインの速射ライフルが叩き込まれた。
 斬機刀を振りかぶり、再び肉薄するフッケバイン。振り下ろされるのと同時に、最大出力のレーザーライフルが両断されたPKの上半身を蒸発させる。
「RW、上手くはまったな」
「ランページウィング(暴れまわる翼)とはよく言ったもので……それにしてもこれ、全部アドリブでのマニュアル動作なので、疲れるんですよね
「流れこそ決めているが、殴るか蹴るか、どこへ飛ばすかなどその時によって違うからな。息が合わなければ当然、同士討ちするが……俺達なら大丈夫だ」
 拓海の信頼に風香は頬を染め、嬉しそうに笑みをこぼす。
「まあ、拓海が次にどう動くかくらい、ある程度わかるからいいんですけど」
 斜陽の雰囲気が感じられるが、そんなこともお構いなしに背後から忍び寄る影があった――のだが、ランチャーホークMk‐2の狙撃がそれを阻止した。
 だが最初から居場所を特定するつもりだったのか、一撃を耐え抜くと、頑丈な装甲に物言わせ、デブリを無視して一直線にランチャーホークMk‐2に向かっていく。
 鳥型のランチャーホークMk‐2は底部の高出力スナイパーライフルを撃ち続けるも、PKの進行は止まらない。
 とうとう接近されてしまうというところで、突然、PKの周囲が小爆発を起こす。
「浮遊機雷ならまだまだありますよ」
 はためかせる翼から、ぽろぽろと浮遊機雷を生み出していく。それでも一瞬怯んだだけのPKはランチャーホークMk‐2に肉薄し、ハンマーナックルを叩きつけた。
 その瞬間、ランチャーホークMk‐2の装甲が炸裂し、弾かれたハンマーナックルが浮遊機雷に触れ、次々と連鎖的に爆破させていった。
 その間にランチャーホークMk‐2は浮遊機雷をまき散らしながら、爆風に乗って後退して、またどこかのデブリへと消えていく。
 そんなランチャーホークMk‐2と同じようにデブリに潜んでいたPKが追いかけるような動きをみせたが、背後で空間が揺らめいていることに気がつけなかった。
「噂に踊らされてPKですか。楽しんでいる人に迷惑です」
 声とともに突然の放電現象がPKを襲う。続いてシステムダウンし、機体のエネルギー残量が限りなくゼロになる。
 数秒で戻るのかもしれないが完全に停止したPKに、十束剣が縦一本、横一本、普段なら狙う事の出来ないような隙間をするりと通って、コア部分に突きたてられた。
 そして音もなく離れ、再び宇宙空間に完全に溶け込んでいるのは夜桜 奏音(jc0588)の『御魂』だった。
 開始してからずっと光学迷彩『魂響』で潜み続け、孤立しているPKやHWに、強制放電させる『一霊四魂』を食らわせてからそっと忍び壊すを続けていた。
 そんな御魂と似たコンセプトなのか、光学迷彩で潜み、大きく外回りして戦域外から強襲を仕掛けようとしているPKもいる。自分が完全に隠れていると油断しきっているそこに、漏斗の形をした無線誘導式機動攻撃端末『フェーダーエルフ』が複数、ぴたりと張り付く。
 ゼロ距離で一斉掃射――耐えきる事ができず、隠れていたPKは爆散する。
「見えていないが、丸見えだ」
 月詠 神削(ja5265)のモニターに映るレーダーには、全ての機体がどこにいるかハッキリと表示されていた。これでもかと強化された広域索敵装置を相手に、隠れる事はほぼ不可能だろう。
 唯一の対抗手段として、神削の『シュヴァーネンゼー』が課金で兵装スロットを増やし搭載した、ゲーム中最高のステルス装置『ヴァイスシュバルツ』くらいなものである。
 レーダー、熱源探知、ソナーその他諸々の索敵機能が通じず、自身も透明化する、恐るべきステルス装置――欠点は動けないということだが、遠距離兵器のフェーダーエルフを使い暗殺的な戦法であれば、何の問題もなかった。
「これまでは一方的な蹂躙だったかもしれない――が、今日はお前達が蹂躙される番だ」


 開始から数分、混戦が激しさを増してお互いに損傷が目立ち始めてきた。そんな中、フルアーマーがだいぶ損傷しているジェイド改がとうとう、まともに直撃した。
 爆炎と爆煙をまき散らし、撃墜されたと誰もが思ったその時、煙の中から純白で露出パーツが金の機体が、姿を現す。
「これこそ、真の姿だ。刮目するのだな」
 さっきまでとは打って変わって、軽快な加速と機動性を見せるジェイド改。
 近くにいたPKへ肉薄し、振り下ろされたビームサーベルは5枚一組の自立型シールド兵装『エクス』によって防ぎ、エクスの先端をPKへ向いたかと思うと、高圧のエネルギーが発射されてPKを貫く。
「次――来る!」
 別のPKを狙おうとしたが、察知した龍斗はエクスのシールドを最大で展開させ、遠くからの砲撃を受け止めたが、エクスのエネルギー残量が一気に空となり、ジェイド改にはりついてしまう。
「恐るべき一撃だ――YDに1機で張り付いている、ヤツの攻撃か」
 主兵装が使えないと見るや、狙ってくるPKの攻撃をかわしながら、YDと、YDに張り付いている1機に龍斗は目を向ける。
 その前をロボのような何かが、ジグザグに移動しながら横切っていった。
「とれいん〜とれん〜はしっても〜むだ! ふひひ」
 能天気な歌を歌いながら雪子がHWを大量に引き連れ、龍斗を狙っていたPKに機体を擦り合わせるようにすり抜け、そのまま去っていく。馬鹿にされたと感じたのか、擦られたPKはダズル迷彩なロボのような何かを狙い撃つが、迷彩だけあって的が絞りにくく、さらにはなすりつけられた大量のHWの攻撃に怯みまくっていた。
 そこに飛びこんでいくのは、染井 桜花(ja4386)の『クィーン・ビー』。
「……侵せ、雀蜂」
 桜花が呟くと、HWに翻弄されていたPKが毒にやられ、麻痺でもしたかのように突然停止した。
「……吸え、蜜蜂」
 HWのリフレクトシールドがどんどん縮小し、やがて消えてなくなったところでクィーン・ビーはアームでHWを掴んでPKに投げつけ衝突させる。
 そしてブースターを吹かせ、レッグでまとめて蹴りつけた。
 吹き飛んだ先に待ち構えていたのはユーリアが操る、誰もが一番最初に乗る機体。
「PK相手なら遠慮せずに殴り合えるよね」
 アサルトライフルで頭部を狙い撃ち、発射と同時に初期機体の上限を明らかに超えたブーストで急速接近、ヘッドショットの衝撃でのけ反り、操作不可能時間である元の位置に戻るモーションが終わりきらないうちに、もう1発。
 再びのけ反るその前に、右の蹴り足で頭部の右横を通過させ膝を曲げ、のけ反りで飛んできた後頭部に踵をブチ当てる。逆ブーストで蹴り足を戻し、再び戻ってきた頭部へ勢いを利用した肘鉄を突き刺した。
 ユーリアの動きは、これまで一体どれほどの時間を費やしたのかわからないほど洗礼されきった、このゲームの特性を知り尽くした戦い方である。
 試験や依頼、大規模へろくに参加もせず、堕天してからこれまでの時間をほとんど費やしてきたのではないだろうか――それほどの動きだった。
「一言……廃をなめんな」
 ユーリアのブーストを使った特殊な格闘を見た桜花は「……なるほど」と頷き、PKすらも恐れる頭部ノックバックハメを駆使するようになるのだった。


「別に参加しなくても良かったんですが、一度参加した身ですからね。最後まで付き合いますよ」
 害悪騎士団のメンバーも減り、YDへ挑もうとする春樹のゲシュペンストに向けられるミサイルを撃ち落していく黒井 明斗(jb0525)のモンスター改。
 YDの近くには1機だけしかいないが、その間にゲシュペンストは割り込み、正面のモニターとバックモニターを分割思考で同時に情報処理をして動き出す。
 ハンドガンでYDを狙うが、その機動はさすがで、簡単には当たってくれない。後ろからの攻撃動作を感じ、人型から戦闘機に変形、ウィングエッジで邪魔なものを切り裂きながらその場から離脱する。
 ただ、YDの攻撃がPKに、PKの攻撃がYDに当たれば最善と思っていたが、まさかの計算外があった。
(ボスよりも、向こうの方が強い気配を感じる……!)
 幾多の敵と戦った経験が物語っている。
 PKは先に鈍重なモンスター改を潰しにかかり、モンスター改も後退と旋回を繰り返し、ジリジリと追い詰められる――が、それはフリだった。
「これが僕の最大火力です」
 2連だったものを単砲にした、高出力速射レーザー砲を連射して、油断していたPKを怯ませる。
 だが、ここにも計算外があった。
「ダメージではなく、思わぬ反撃に怯んだ、その程度の気配ですね」
 ダメージがそれほど通っていないのが、明斗の目には映っていた。決して火力が低いわけではない。むしろ一撃あたりの威力は高い方だと言える――が、それでも今までボスを抑えていたそいつの装甲は恐ろしく分厚く、機動性も恐ろしい。
 モンスター改に向けられる銃口。
 しかし突然、その武器が下からの攻撃に蒸発する。
「やはり英雄は遅れてやってくる――さいきょーのあたい、参上!」
 白と青のツートンカラー。それは重課金戦士、雪室 チルル(ja0220)の『スーパーチルル号G』だった。
 遅れてきた英雄に、ボスより強い気配のそいつがミサイルを放つ。それに構う事無く真っ直ぐに突進して、重課金で鍛えに鍛えた装甲で耐えると、並以上の攻撃でもびくともしないそいつの装甲を殴りつけ、装甲をへこませる。
「やるじゃない!」
 超重課金で限界の限界を超え、さらにその限界まで強化された機体同士の対決が、今、始まった――が、そんな事はお構いなしにやっと孤立したYDへ陽波 透次(ja0280)の『水鏡』が加速を開始する。
「進まぬ物語に明日は無い! 未来を切り開くぞ水鏡!」
 何百発藻のミサイルをばら撒くと、ミサイルを格納していた物をパージ、そこからさらにブーストを連打する。
「フル・ブースト! 行けぇぇぇぇ!」
 生身の人間が反応できないほどの超加速を生み出すと、自身の放ったミサイルを追い越し、YDのカメラを塞ぐように高分子レーザーで牽制すると、急上昇、そして急降下。
 上からYDの背後に回り込んで、翼のレーザーブレード『練翼』で縦に切り裂いた。
 その直後に降り注ぐミサイル――と、そこに混じる純粋な殺意。
「滅べ」
 だいぶ距離があったにもかかわらず、ミカガミのミサイルを追い越してYDの腹に船首にある刺突型衝撃抑止防楯を突き刺し、その馬鹿げた推進力で一気に突き抜けた。
 そしてミサイルの雨が、爆発の華を盛大に咲かせる。
 それでもレーダーにはまだ生存している事を示されていたのだが、超加速で離脱する水鏡とシャドウフレアだからこそ当たらないほど幅が広く、長大なセイバーがYDの正面遥か先、ロボのような何かの手から降り下されていた。
 それだけではなく、YDの真横からも3つのジェネレータを放電させながら2刀の長大な粒子刀が振り下ろされ、YDを中心としたエネルギーの十文字を描く。
「ラスアタ、もらい!」
「全部、もってっていいわよォ♪」
 星をも切り裂きそうな一撃――そこでやっと、BGMに変化が生まれた。
 全員の画面にコンプリートの文字が浮かび上がり、イベント戦闘に勝利した事がアナウンスで告げられ、スタッフロールが流れ始める。
 この演出に噂通り終わってしまうのかと思ってしまいそうであったが、最後にクリア後のボーナスとしてステージ解禁の文字とPKサバイバルモードのコンテンツが追加されましたと出た事で、まだ続くのだと害悪騎士団含め、皆が胸をなでおろすのだった。
 安堵した空気が流れ、修繕が終わり、デススターから出てきた岩戸・改でRehniは小さく笑った。
「クリアしてみて、やっぱりよかったですね」


 スタッフロールが流れている間もずっとスーパーチルル号Gは戦い続け、これまでにないほどの損傷を受けながらも、ボスより強い超重課金機体に勝利を収めていた。
「あたいの、勝ちね……!」
 勝利のVサイン――ダイヤモンドの指輪3つ分が勝負の分かれ目だったのかもしれない。もっともその影響で課金の上限が引き下げられたなどと、チルルは知る由もないだろうが……とにもかくにも、こうして古参PK集団との戦いは幕を下ろしたのであった。



続MMO   終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
『力』を持つ者・
青柳 翼(ja4246)

大学部5年3組 男 鬼道忍軍
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
神との対話者・
皇 夜空(ja7624)

大学部9年5組 男 ルインズブレイド
特務大佐・
ファング・CEフィールド(ja7828)

大学部4年2組 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
撃退士・
ユーリヤ(jb7384)

大学部6年316組 女 バハムートテイマー
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
氷結系の意地・
玉置 雪子(jb8344)

中等部1年2組 女 アカシックレコーダー:タイプB
空の真ん中でお茶を・
夜桜 奏音(jc0588)

大学部5年286組 女 アカシックレコーダー:タイプB
少女を助けし白き意思・
黒羽 風香(jc1325)

大学部2年166組 女 インフィルトレイター
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト