●いよいよ
いけn…参加者となる学生6人が着替えを終えたようだ。
更衣室に入った瞬間えっ? とか聞こえた気もするが、多分気のせい。
証拠に、月詠 神削(
ja5265)は無難に男子制服で登場。釈然としない主催者側の説明ゆえか不機嫌そうな表情だが、それ以外は普通だ。
「…というか、この何処かで見たことがある状況は許可取ってやってるのか?」
「さあ…とにかく無事に終われることを祈ります」
答える鳥海 月花(
ja1538)も、学園の女子制服姿。ただ借り物だからか、若干の違和感が拭えない。
同じ現象は星杜 焔(
ja5378)や十八 九十七(
ja4233)、東條 晶(
jb5047)にも…ってよく見たら中等部の制服じゃん。そりゃ違和感あるわ、特に大学生。
コレジャナイ感。とはいえ後から登場したリンド=エル・ベルンフォーヘン(
jb4728)に比べれば可愛いものだった。
「…なぜ俺だけサイズが」
見事にぱっつんぱっつんである。体が大きいから仕方ないが。
「悪い、特注する時間なかったんや」
全く悪びれない進行役を睨みつつ、適度に着崩してなんとか事なきを得る。
「キチっとした制服なんて着なれねぇし肩凝りそうだな」
「まず着替える意味が分からないが…私服じゃダメな理由があるのか?」
「いちおう学園生活らしさの演出かなとはおもうが…。それより笑ってはいけない…つまり終始真面目な顔の必要が…?」
普段お笑い見ないんだ、と微笑を浮かべたまま首を傾げる焔。
「微笑程度なら仕方なくね? 声出したらアウトだろうが」
「それよりコレは何のイベントですのん? やたらテキトーな説明でしたけども」
諸々、疑問の声が上がるけれど。
「ほなバス乗ろか」
華麗に全無視して、バスに乗った瞬間から始まるチキチキお笑いレース、いざ出発。
●乗り込んだ瞬間視界に飛び込んできたのは、嘘映画ポスターでした。
白塗りちょんまげ教師のドヤ顔ダブルピース写真というシュールな笑いを誘う罠に耐えつつバスに揺られること十数分。
初めの停留所にバスが止まると、2人組が乗り込んできた。
お馴染み・桐江 零(jz0045)に、こちらは少し意外な岸崎蔵人(jz0010)という組み合わせである。
「お疲れ様でした岸崎さん、手ごわい悪魔でしたね」
「ああ、陽動班の指揮ご苦労だった。おかげで首尾よく倒す事ができた」
何やら任務帰りという設定らしい。ものの見事に棒読みである。九十七が既に若干笑いかけている、が、大丈夫まだセーフ。
「この通り、研究用のディアボロも確保できたしな」
そう言い蔵人が鞄から取り出したのは…虫籠。中には立派なクワガタの姿。あ、ディアボロ感ない普通のクワガタです。
「あれ、でもコイツ動きませんね。生きてるのかな」
この辺りで参加者達は薄々気づき始めていた。気づき、若干ヒいていた。特に痛いのが苦手な晶はドン引き状態である。
しかし蔵人の辞書に融通の文字はない。台本通り進むのみだ。
「取り出してみよう」
相変わらずの棒読み台詞と共に、表舞台に連れ出されるクワガタ。
まさしくお約束。様式美さえ感じさせる自然さで、クワガタは桐江の鼻へ。
「ほひぇ、ぁだだだだだ」
体を張った渾身のギャグだが笑う者はいない。やめて冷たい視線とかただのご褒b…ゴホン。
だが昆虫…というか生き物相手にハプニングは付き物。頃合を見てクワガタを外そうとする蔵人だが、思いの外食いついて離れない。
「む」
ぐいっ。何コレやだ痛い痛い。無理に引っ張るな大惨事になる!
そんな聴衆の声が聞こえたのだろうか、それまで微笑のまま静かに座っていた焔が突然立ち上がった。
「引いて駄目なら押せばいいと思うのだ…」
「え?」
小声で言った直後、彼はクワガタに手を添え――ファッ!?
とてもじゃないが文章ではお伝えできない有様である。だけど文章でよかった。モザイクいらない!
「ほひほひふんらめらっれいきれきないいい(星杜君ダメだって息できない)」
「…やめろ、クワガタが哀れだ」
おいそっちかよ蔵人。いや正しいけど。
デデーン――鳥海 十八 ベルンフォーヘン OUT(by天の声)
●混沌
油断してる所に不意打ちでやらかす天然の驚異といったら…。
開始早々ケツバットの憂き目にあった犠牲者は3名。おのれ人間め…と恨めしげに尻をさするリンドは既に執行済のようだ。
九十七が現れた黒子に【禁則事項です】する一方、月花は頬を染め涙目になりつつも甘んじて罰ゲームを受ける。…ふぅ。
なぜ笑われたのかイマイチ理解していない焔。神削と晶は明らかにドン引きしたまま…と、温度差がいっそう明確になってきた一行。
その後も停留所毎に乗り込んでくる様々な有名人のネタをやり過ごしつつ…長い道程を乗り越え、新米撃退士達は学園に辿り着く。
そして謎の控え室に通され、とにかく一旦休憩の流れとなる。
…もちろん休憩などさせては貰えないが、その事実を彼らはまだ知らない。
●控室の攻防
さて、控室に案内された一同。アポとってくる、と離脱する進行役。
部屋には学校らしく机と椅子が置かれ、席にはご丁寧に名札が置かれている。
誰からともなく自分の席について指示待ち体制に…と、その時だった。
メシャァ
轟音に驚き皆が振り向く。仄かに兆す笑いの空気。
身をもって微妙な静寂を打ち破ったのは、リンドだった。備え付けの小さな椅子ではその巨体を支えきれなかったようだ。
しかし当の本人は何が起こったのか理解できていないようで、不遜な表情のままキョロキョロと周囲を見回している。
じわじわくる、とはこのことか。
だが参加者は耐え切る。若干口元が緩みつつも、噛み殺しているので判定的にはグレーだ。
気を取り直して部屋の端に置かれた大きな椅子に座るリンド。こっちはセーフだ。
微妙な空気の漂う中、おもむろに口を開いたのは晶であった。笑いを誘う沈黙に耐え切れなかったとも言う。
「つか、一体なんだってこんな目に遭わされなきゃなんねぇんだかなぁ…」
しかしこの男、実は主催者の目的に気づいていた。部屋に仕掛けられた無数のカメラの存在にも。
(要するに、笑える映像が撮れりゃイイんだろ? ウヘヘヘ…上手く俺以外の奴らを笑わせて、俺への被害がないまま終わせてやる!)
どれだけ痛いのを回避したいのか。見上げた小物根性だ(褒め言葉)。
「緊張して喉が乾いちまった…おっ、冷蔵庫があるな」
余計なことするなよ、という周囲の視線を振り切って、のろのろと腰をあげる晶。
冷蔵庫からお茶のラベルが貼られた2リットルペットを取り出し、コップに注ぐ。ついでとばかりに人数分。
「確かに喉、乾きましたね…いただきます」
「…変なモノ入ってないでしょうねぃ?」
「食べられないとか飲めない物は仕込まないだろう…」
「あ、じゃあ俺も」
次々にコップを手にする――が。何も起こらない訳はなかった。
一気にぐいっと流し込む晶、続き口に含む月花。
彼らの行動に気づいているのかいないのか…。
ふと思い立ったように鼻を近づけ匂いを嗅いだ焔が、ぼそっと呟いた。
「あぁ…鰹出汁だねえ…」
声ちっさ! …って、え?
「ゴブフォッ!」
鼻孔をくすぐる芳醇な香りは確かに…。立ったまま盛大にむせる晶。その姿を見た月花もつられ、含んでいた出汁を勢いよく吹き出した。
被害は連鎖し、出汁は正面に座っていた九十七を直撃する!
「ご、ごめんなさ…た、タオル…タオル…」
笑いのあまりプルプル震えながら拭くものを探す月花に、神削は醒めた表情のまま、リンドは笑いを噛み殺しながらタオルを渡そうと周囲を探す。
だがな。罠が一つだといつから錯覚していた?とばかりに畳み掛け開始だ。
月花の机には、彼女の容姿を模した着替え人形が入っていた。月花は真顔のままソレをつかみ上げ、突然人形のスカートをめくる。
「これじゃ拭くには小さいですし」
「ブフォッ!」
「…あ、ちゃんと下着はいてますね。私のとは違いますけど。ほら」
「ちょっ…見せんでいい! 見せんでいい!!」
晶さん顔真っ赤ですけど大丈夫ですか。それ人形です人形。
しかし自分似の人形のスカートを捲ったまま年上の男ににじり寄る女子高生…シュールすぎるぜ。
(ひ…人前で笑い転げるなど見苦しい。俺は意地でも笑わんぞ…っ)
等と自分に言い聞かせながら、リンドがおもむろに引いた引き出しの中には――九十七ちゃんマジ巨乳☆なアイコラ数点が収められていた。
反射的に九十七を二度見して吹き出すリンド。
自分だけ笑ったのが悔しいのか、周囲に見えるように机に差し出して轟沈。好奇心で覗き込んだ数名が釣られて吹き出した。
そしてこの瞬間、九十七の中では状況を推理する為のインスピレーションが働いていた。何だそのアレだ、目つき! 目つき鋭い!
「つまりアレですかぃ…? 仕掛人の言いたい事はアレですかねぇ…!?」
ゴゴゴゴゴゴ…おっとこれは非常にマズイ展開だ。
「っざけんなよ■■■■ゴルァ!!!! この悪ノリ大好きド■■■■スタッフ共マジブチ■すぞ!!」
「お、落ち着けよ…っていうか先に出汁拭け!」
とりあえず場を収めるべきだろうと、神削は呆れつつもタオルを求めて引き出しをガラっとな。
「…タオ…ル」
そこに入っていたのは、大きく【ハズレ】と書かれた紙だけ。
嗚呼、まさか籤運の悪さがこんな所にも…。思わずフッと失笑する神削であった。勿論アウトです。
「ちなみに俺の席には何が仕込まれているのだろう…」
ようやく見つけたタオルを九十七に渡しつつ、好奇心に負けた焔が引き出しを引いた。
「…」
笑顔が凍りつく。
引き出しの中には大量の鯖味噌缶がみっちり詰められていた。
「…」
無言のまま静かに後退していく焔。そして壁の後ろへ。薄く開いた唇からハハハと乾いた笑いがこぼれ…ああ、当然アウトです。
●デデーン――全員 OUT
どうして…あんなモノで笑ってしまったんだ…。
振り返ってみれば下らない事ばかり。しかしルールはルール、容赦なく参加者の尻はシバかれていく。
「え…あ、ケツは…ケツはやめっ、ぅぎゃうっ!?」
「オイ! 俺今笑ったか? 笑ってねーべ? ちょ…待て待て話せばわがっ…ひぎゃあぁぁ!」
誰得なひゃうんらめぇも有り。
「…あああぁぁ…笑ってしまった…」
「楽しい笑い以外もカウントされるとは…」
顔を覆う者あり。
「後から痛くなってきた…油断してたけどあの黒子も撃退士かよ…!」
「あの■■黒子、嫁入り前の乙女の下半身に何てことを…ふふふ後で必ず■■して差し上げますの、ええ」
激おこぷんぷん丸あり。
実に混沌とした空気でお送りしております。
とはいえ一度罰ゲーム食らってしまえば、どんなものかは理解した。
多くの参加者が、死なば諸共と考えはじめるのももはや時間の問題である。
もっとわかりやすく言えば…そう。何人かブッ壊れはじめたのだ。
「ふ…は…あはははは!」
ペンとメモ帳を握り締めたまま突然笑い出すリンドは、もはや別人である。
多分カットされた部分でも何度もバシバシやられてるのだろう。じゃなきゃこんな…(目を逸らす天の声)。
「笑え、貴様も笑うが良い! 俺は今、何もかもが楽しくてたまらぬぞ!!」
「そうだぞ何で俺らばっかやられてんだ! 男全員なら諦めもつくが…」
チラッと視線を送る。当然、神削と焔に向けてである。
しかし笑わない人間に何を言おうが仕方のないこと。だってそういうルールだもん。
「…完全に壊れてるな」
沈痛な面持ちのまま神削が呟き、そのシュールさに晶が再び吹き出す。
そうかと思えば今回すっかりトラブルメーカーと化している焔、何を思ったかDVD再生しやがった。
そして流れる軽快なBGM…そして、
『デデーン――東條 撃退キック』
「ちょ、待て何だ撃退キックって何だ? 何――っッテェェェェ!!」
謎の音楽と共に現れた、中山寧々美(jz0020)の容赦のない尻蹴りが綺麗に決まる…。
それとほぼ同時に神削がダメ押しの一発をねじ込んだ。
「…あ、ごめん東條さんと…リンドさん? 撃退キックだって」
指差す先には既に削られているスクラッチくじ的な何か。
引きの悪さに定評のある神削が引いたのだから尻蹴り致し方なし…っておい! 他人に被害を出すな!
途中から晶の心の叫びが混じった気もするが無問題。とにかく蹴りは執行なのである。再び現れる寧々美。
「ちょ、待て待て待てそんなの食らったら歩けなくなる! 歩けなくなるから! 歩けnイッダァァァァァ!!」
「だからやめろと、俺は尻は弱いと言っているだろ――アッー!!」
――暫し休憩。
「ええと…痛いの飛んでけーって撫でてあげましょうか?」
晶とリンドの尻を真顔で見つめ、追い打ちのように問う月花。やめたげて!
●そして伝説へ
「待たせたな、ほな行くで」
ようやく現れた進行役に連れられ、一同は場所を移す。
途中また様々なハプニングに見舞われつつ、最後に訪れたのは謎の廃屋であった。
「ここからは笑ってもええけど驚いたら駄目やで」
どういうことなの。問う暇もなく進行役は姿を消す。残された指令書を頼りに、彼らは何とか廃屋の鍵を見つけた。
小屋の中には「囚われの身」と書かれたTシャツの山咲 一葉(jz0066)。
起きてるじゃんと忘れずツッコミつつ、台車に教師を乗せ撃退士達は夜の校庭を疾走する――
「冷蔵庫に鰹出汁…鰹出汁…」
焔は走りながら思いだし笑いが止まらなくなりブルブル震えていた。
「っていうかコレは何なんだぁぁぁ!?」
尻を庇いつつ涙目で爆走する晶。
「なんで俺まで…!?」
悔しそうに顔を歪めつつ神削も走る。
『ホモォ!』
『イイオトコ…』
『シリィ…』
「…って、何で九十七ちゃんまで一緒に走ってんですの!? 乙女…乙女なんですがねぃ!?」
皆まで言うまい。女子制服なのにな…。
――あ、何に追われているかはお察し下さい。
錯乱したリンドは最後尾で仲間達の背を眺めながら、突然メモ帳を取り出し歌い始めた…。
「…此度の思い出の歌、聞いてくれ」
あたかも返事であるかのように、彼らの背後で爆音が鳴り響いた。
●♪
スタッフ誰も気づきはしないと
優しく微笑んだ焔
バスの中では桐江にクワガタ
予想通りすぎ半笑い
辛さも痛みさえ楽しむドM
ドン引きした?多分正常だ
あぁお茶だと思ったら
冷えきったお出汁
大切な仲間に吹き出した
この引出しの中身
忘れたくなるイジリ
大切なプライド奪われてく
キャラ崩壊も辞さない覚悟を
持って挑んだ筈だけど
笑ったら負け思えば思うほど
忍び笑いこみ上げてくる
控室で潰し合いほくそ笑む
信じる心など幻想だ
今さら九十七のコラ
思い出して笑う
命懸け笑い取るスタッフ
研ぎ澄まされた笑いに腹筋が崩壊
尻蹴り痛すぎて笑えないよ
●後日談
「いや〜この間の企画のDVDごっつい売れてるで」
「マジか」
そんなやりとりが学園のどこかで行われていたとの噂もあるが、真相は定かではない。
そう…全ては春の夜の夢(多分)。