●学園新聞号外「むーむー」2012春
《1面には中山寧々美(jz0020)と新聞同好会の面々による、通常の学園新聞と同形式のゆるい記事が掲載されている》
《捲ってみると、手作り感あふれる賑やかな紙面が顔を出す。以降は有志の手で作られた特集ページとなっているようだ》
□■□■□■ 先輩達の声 ■□■□■□
誰だって最初は初心者……不安になることもあるよね!?
半年前、皆と同じ経験をした「ちょっと」先輩からの言葉をどどんと紹介☆
☆任務・天魔
【半年で前線に出られる!? スキル予備知識】
投稿者:アーレイ・バーグ(
ja0276)
久遠ヶ原学園に入学した以上、天魔との戦いは覚悟の上でしょう。
短い学生生活の間にどれだけ強くなれるの?
不安に思う方へ、私が半年で覚えたスキルをご紹介します。
《魔法攻撃に関係する豆知識と共に、炎の魔法を操る美少女の写真が掲載されている》
【天魔目撃録 〜これまで遭遇した敵をご紹介〜】
投稿者:アイリス・ルナクルス(
ja1078)
ジェネラル、蛇、蜂、猿、恐竜、アルラウネ:それぞれ個性的な能力を持っています。外見が弱そうでも侮ると危険。
ヴァニタス・シュトラッサー:人の言葉を話します。頭がいいので危険。
悪魔:武器を使わなくても撃退士を病院送りにします。最も危険です。はぐれ悪魔に遭遇した際は要注意!
☆新入生募集!
【挑戦者求む!】
投稿者:桐原 雅(
ja1822)
何をしていいか分からないなら、現役撃退士と手合せしてみるのが手っ取り早いと思うんだよ。
という訳で、腕に自信のあるキミ。ボクと手合わせしてみない?
まだ新米だけど実戦の経験はあるからね。何かを学んで貰えると嬉しいな。
勿論、ボクは誰の挑戦でも受けるんだよ。
《文章の下に、連絡先とあどけない少女の顔写真が掲載されている》
【屋上忍法の極意!】
投稿者:犬乃 さんぽ(
ja1272)
ニンポー。それはニンジャの隠れ里で修行して、初めて得られるモノ……。
だけど安心して。それは昔の話。今は、学園の屋上で修行すればエトクできちゃうよ。
さぁ今日から君もニューニンジャ! ボクと一緒に屋上でレッツシュギョー!
【習うより慣れろ! 剣の丘で君を待つ】
投稿者:雀原 麦子(
ja1553)
新しい環境には慣れたかな?
天魔との戦いは、久遠ヶ原学園にしかない特別なもの……。
初めての不安を解消するためには、部活への参加がオススメよ。
ついでに、一度模擬戦に参加してみればきっと色んな事が見えてくるはず!
私達の部でも模擬戦をやってるから、良かったら遊びに来てね♪
☆くらしの情報
【運試しにおひとついかが? ロシアンおにぎり】
投稿者:下妻笹緒(
ja0544)
今日の運勢を手っ取り早く知りたい時にオススメなのが、購買部の特製おにぎりだ。
外からは具が分からないギャンブル加減で敬遠されがちだが……逆手に取り、運試しに利用するのが『通』の楽しみ方。
かぶりついて、見事好みの具材が出ればその日はラッキー間違いなし! さぁ、購買へ急げ!
【喪男会について】
投稿者:雫(
ja1894)
久遠ヶ原には、リア充殲滅を掲げる過激派団体『モダン会』が存在します。
窃盗・器物損壊など、彼らの神経を逆なでしたカップルが奇襲を受ける事件が発生しています。
その為、カップルの方は人前でいちゃつかないようご注意下さい。
※貴方に恋人が出来た際、いない側の友人の動向を今一度確認する事をオススメします。
【男娘にご用心】
投稿者:鳳 静矢(
ja3856)
学園内に蔓延る未確認生物――男娘(おとこのこ)。
女性にしか見えない女装男子の事。通常レアな存在のはずだが、久遠ヶ原では多数の存在が確認されている。
学園七不思議の一つかどうかは分からないが『普通の男子が一夜にして男娘になる』という怪現象も……!?
新入生の諸君は十分注意されたし!
【おいしい紅茶を飲もう!】
投稿者:鳳 優希(
ja3762)
春の時期にオススメの紅茶をご紹介しますなのー♪
春摘みのダージリンは「ファーストフラッシュ」とも呼ばれていて、爽やかな香りがする人気の茶葉なのです。
ストレートで淹れて飲むととっても美味しくてオススメですよっ♪
《以下に図入りで、正しい紅茶の淹れ方が掲載されている》
□■□■□■ みちしるべ ■□■□■□
Q)最近編入したばかりの新米撃退士です。
ですが、撃退士としての仕事がなかなか受けられません。
私は向いていないのでしょうか……。
A)【現在:魔術師/未来:吊し人/助言:星】
カードは次のように告げています。
将来にかけての学業運は上向きのようですから、心配しなくても大丈夫でしょう。
興味のある事に積極的になるのは悪いことではありません。
仕事が回ってこないのは、向いていない訳ではなく、まだその時ではないから。
慌てる前に、まずは気を許しあえる仲間を作りましょう。
努力を続ければ、遠くない将来、納得のいく結果が得られるはずです。
監修:ネコノミロクン(
ja0229)
□■□■□ 学園の歩き方 ■□■□■□
入学してくる新しい仲間の為に、先輩撃退士がひと肌脱ぎます!
知らないと恥ずかしい【久遠ヶ原学園の名所】から、本当は教えたくない【知られざる穴場】まで
おすすめスポットを余すところなくご紹介!
☆先生&先輩イチオシ・実は私、ここで『サボって』ます!?
(掲載の場所で実際にサボり、教師に見つかった場合の責任は負いかねます)
・新聞同好会の部室。最高です(高等部3年 女性)
・大学部の講堂なら講義中寝てても大体怒られないよ(大学部3年 男性)
・無難に部室棟がオススメなのぢゃ☆ サーバルームも穴場ぢゃぞ(教師 女性)
《以下、数名のアンケート結果とグラフが掲載されている》
☆そんな部活で大丈夫か? 〜一番いい部活(の紹介)を頼む!〜
《様々な部の写真と、部室への地図が掲載されている。まるでタウン誌の美容室紹介のようだ》
《しかし恋愛関係の部・飲みサーは見事に掲載されていない。選定に際し、何者かの介入があったのだろうか?》
☆ぶっちゃけ、コスパ最強の寮ってドコよ? 〜私達が徹底比較してみました〜
《外観の写真と共に、簡単な間取り図と家賃、メリットなどが掲載されている》
文責:鷺坂 雪羅(
ja0303)、久遠 栄(
ja2400)、佐藤 としお(
ja2489)、丁嵐 桜(
ja6549)
□■□■□■ 広告欄 ■□■□■□
「うそ……私のトップバスト、低すぎ?」
《通販広告にありがちなビフォーアフターの写真が掲載されている》
《被写体には黒い目線が引いてあるが、どうやらアフターの写真はアーレイのようだ》
そんな貴女も心配無用!
久遠ヶ原のステキな学園生活でバストアップ☆
《怪しげな宣伝文句の下に、おどろおどろしいフォントで連絡先が掲載されている》
□■□ さくっと! 撃退士Q ■□■□
まずは初級編、撃退士として覚えておきたい常識5問!
《初級編という文字の上には二重線が引かれ、誰かの手書きで『初見殺し』と足されている》
Q1:V兵器の「V」は、何の略?
Q2:天使の12階級。最上位に位置するのは『何』天使?
Q3:冥界と魔界、過去に天界から侵攻されたと言われているのはどちら?
Q4:現在、世界で確認されているディメンジョンサークルの数は?
Q5:撃退庁が設置されたのは西暦何年?
《上下反転された、小さな文字で解答も掲載されている》
A1:ヴァイサリス
A2:熾天使(セラフィム)
A3:魔界
A4:468箇所
A5:2001年
出題:大上 ことり(
ja0871)
□■□■ 撃退士・真剣語り場 ■□■□
みなさんの入学に先んじる形で、教師の皆さんや、第一線で活躍する先輩方に集まって頂き
『新学期』をテーマに、座談会を行いました。
先輩達が『撃退士』という立場にかける熱い想い。先生方の心に残る言葉。
ぜひ心に刻んで、学園生活を満喫してください!
《教師や学園の有名人が数人集まり、座談会を行なったようだ。
写真付きで会の様子が記録されており、テーマに則した熱い議論を繰り広げている》
編集/写真:小田切ルビィ(
ja0841)
□■□■□■ 4コマ ■□■□■□
「すいませーん、新聞同好会ってここですかー?」
「あ、新入生?」
「はい、そうです。新聞に興味あって来たんですけど……」
《どこかで見たような4コマ漫画が掲載されている》
□■□■□ 新聞同好会とは □■□■□
今回は、この学園新聞を製作している『新聞同好会』にもスポットを当ててみましょう!
《寧々美以下、新聞同好会のメンバーの集合写真とプロフィールが掲載されている》
☆【対談】新聞同好会×臨時編集員 〜直撃! 学園新聞制作の裏側〜
Q:本日はよろしくお願いします。早速ですが、今回この新聞を製作した理由を教えて下さい。
A:自由が売りの久遠ヶ原学園ですが、自由すぎて何をしたらいいか分からないという声も聞きます。
そのため、ざっくりとしたガイドを提示できれば良いな、と思い企画しました。
あ、学園新聞の存在を、新入生に知ってもらいたかったのも理由のひとつです(笑)
(中略)
Q:なるほど。それで新聞同好会はいつも人手不足なんですね。謎が解けました(笑)
A:はい……部員はいつでも募集中です。生徒会執行部の密着取材を敢行できる体力があれば、ぜひ。
あ。お手伝いだけの方も大歓迎ですよ! こちらは特に制限なくご参加頂けます!
Q:……部員、増えるといいですね(汗) では最後に一言、新入生へメッセージをお願いします。
A:報道を志す、未来のネームドキラーよ! 新聞同好会が君を待つ!
☆臨時編集員って?
そんな訳で、新聞同好会の正規会員は(ガチで)命懸けの取材を続けているようです。
彼らの活動をサポートすべく、命懸けなくても大丈夫な学園生活系の取材は、私達【臨時編集員】が行いました。
折角ですので、今回参加した個性的な編集メンバーを紹介します!
《以下、今回臨時編集員として参加したメンバーの集合写真とプロフィールが掲載されている》
文責:雀原 麦子、久遠 仁刀(
ja2464)
□■□■□■ 今月の料理 ■□■□■□
手順は簡単♪ しかも、早くて安くておいしい!
最強メニューをご紹介☆
桜子お姉さんの【誰でも簡単クッキング!】
『男の空腹を満たすマストな1品料理』
1.ミネラルウォーターを準備します。
2.やかんに注ぎ、一度沸騰させます。
3.お好きなカップ麺にお湯を注ぎ、x分待てば完成です。(※電気ケトルを使うと更に簡単!)
『中華の王道、絶品メシ』
【材料】ごはん(適量)、タマゴ(適量)
サラダ油(少々)、醤油(少々)、塩(少々)、胡椒(少々)
1.材料を全てボウルに入れ、混ぜます。
2.フライパンで炒めればほら簡単、あっという間にチャーハンの完成です。
レシピ監修:七瀬 桜子(
ja0400)
□■□■□■ 学園マップ ■□■□■□
久遠ヶ原の公式観光地図って正直……。そんな声に応えます!
学生視点で調査した【間違いない】商店・飲食店MAP決定版☆
自分のスタイルを見つけて学園生活を楽しもう♪
《学園周辺の大まかな地図の上に、イラストや飾り文字で様々な情報が散りばめられている》
《作者の趣味か、紹介されている店の傾向には偏りがあるが……有用な情報であることは間違いない》
マップ作成:櫟 諏訪(
ja1215)
□■□■□■ 噂の探偵団 ■□■□■□
実しやかに囁かれる都市伝説がある。
久遠ヶ原学園には、絶望の名を冠する食卓が存在するらしい……。
口にしたという者は、総じてその料理をこう表現する。
「まさに、悪魔の料理だ!」
果してそんなものが実在するというのか?
その真偽を確かめるべく、筆者は噂の現場へ突入取材を試みた。
被害者A「あれは最早、対人科学兵器だね」
被害者B「意識がログアウトしたよ」
被害者U「……わたしの感想だけど、素材のチョイスから、間違ってたとおもう」
これらの証言を踏まえ、筆者はこの食物――いや、兵器を、
『despair−kitchen《絶望の味》』と呼ぶことにした。
新入生の諸君も、今後こういった悪魔の料理に遭遇する可能性があるだろう。
その時はどうか……無事で。健闘を祈る。
文責:ユウ(
ja0591)
□■□■□■ 学食探訪記 ■□■□■□
皆さんは、久遠ヶ原学園の学食事情をご存知ですか?
知らない方が絶望する前に説明しておくと、貧乏学生御用達の【公式学食】にはメニューが4種類しか存在しません。
こうなると、1週間――お昼だけと考えても同じメニューがローテーションに組み込まれますよね。
土曜日も講義に出る殊勝な学生さんや、夕食も食べて帰る料理音痴さんには辛いものがあります。
そこで!
長く久遠ヶ原に在籍する先輩方は、どのような食生活を送っているのか!?
突撃調査に行ってきましたので参考にしてください☆
☆私営の食堂・弁当屋を利用する
メリット:好きなものが選べる
デメリット:公式の学食に比べると、相場が若干高い
高くてもいい、優雅にランチしたい……そんなブルジョワ学生は【私営食堂】を利用するのも手です。
(学園生の間では、便宜上こちらも学食と呼ばれていたりします)
晴れた日には、公園に行ってお弁当を食べるのもいいですね。
☆購買や弁当屋でパン・お弁当を購入する
メリット:ここでしか食べられない限定品
デメリット:好きなものが選べるというのは都市伝説。授業をサボって並ぶと説教部屋行き
説明は不要でしょう。購買では、毎日が戦争です。
☆自炊する
メリット:安い、自分好み
デメリット:【検閲削除】
健康面も含め、料理が得意な人はこれが一番かもしれませんね。
※食べ物ではないなにかを生み出すのはやめましょう。(ex生物、絶望)
――参考になりましたでしょうか?
なお、【公式学食】のメニューに対する不満は既存の学生からも大量に上がってきています。
そこで『導入するべき学食の新メニュー』について、嘆願書を作成し学園長へ奏上します!
作るのが簡単・おいしい・低コスト
この3点を押さえたメニューなら大丈夫です。
料理に覚えのある、我こそはという新入生の皆さん。貴方の力で学食を変えてみませんか!?
興味のある方には詳細をお送りします。
詳しくは下記連絡先まで(担当:大谷)
《几帳面な字で、メールアドレスが書かれている》
文責:天風 静流(
ja0373)、大谷 知夏(
ja0041)
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
《以降も、有志の面々が協力して書き上げた選りすぐりの記事が掲載されている。
今回の号外は新聞同好会の想定を超える、とても充実した内容のものになったようだ》
●初日の風景
時を遡ること1週間。3月後半、某日の出来事である。
同好会会長・中山寧々美の呼びかけに応じた有志が一堂に会する機会が設けられた。
新聞同好会の名前で取材・交渉を行うにあたり、気をつけるべきことが幾つか。
それらの説明を進めながら、寧々美は集まった有志の希望を元に、各々へ役割を振っていく。
「宿命のライバルたる中山寧々美のプランに乗るのは癪だが、新入生の為であれば仕方ない……」
と、渋々ながら動き始めるのは、ジャイアントパンダの着ぐるみ――もとい、寧々美と同じ報道系の部を取り仕切る下妻笹緒だ。
「うん。期待してるわよ! エクストリーム新聞部長っ」
束の間の共同戦線。
それもこれも、全ては新入生の為に。
「今回はデジタル編集か? それとも新聞用原稿用紙上でアナログ編集?」
小田切ルビィの問いに、寧々美が答える。
「いつもはデジタルなんだけど、パソコンの台数も限られてるのよね……。
多少は手作り感があったほうが親しみやすいだろうし、手書き原稿をスキャンして画面上でレイアウトしてみようかな」
「なるほどな。……とすると、写真はデジカメで撮った方がいいんだな?」
「そうね、お願いします」
その言葉に影野 恭弥(
ja0018)も頷く。
「ん……じゃあデータで渡す」
今回は取材に行く面々に同行し、カメラマンに徹するつもりのようだ。
細かな打ち合わせを続ける寧々美達の背後では、これから記事を書く人達の為に、黒百合(
ja0422)が環境を整えている。
机の位置を移動させたり、ここへ来て記事を書いていく投稿者のために飲み物やお菓子を用意したり。
表立って取材を行う面々が、気兼ねなく記事の製作に専念できるように――。
その環境作りも、編集員の立派な仕事のひとつなのだ。
一通り準備を終えると、うふふふ、と妖艶な笑みを浮かべて企画部隊を送り出す。
「書きたい人は、前を向いて思いっきり書きなさいよぉ? 裏方仕事は私たちが頑張るからさぁ♪」
「よーし。それじゃ新聞づくり、開始ですよー!」
櫟 諏訪のかけ声を合図に、全員が行動を開始した。
新入生の役に立つ楽しい新聞作りを目指し、25人の助っ人が奔走する1週間が始まる。
●とある撃退士の情報収集
さて、初めに活発な動きを見せるのは、当然だが企画メンバーである。
佐藤 としおが用意した無記名のアンケート。
一般の学校の尺度では測れない超マンモス校の久遠ヶ原学園。
やはり全校生徒とはいかないが――それでも、それなりのサンプル数を集めることができた。
「うん、これだけあれば極端な偏りとかは無い……はず!」
根性で集計を終え、一緒に企画を発案し、協力しあう仲間へその結果を託す。
受け取ったアンケート結果を元に、学園の敷地内を探索する久遠 栄の姿があった。
「お、あったあった。桜!」
未だ五分咲きといったところか。開きかけの花弁を見つめ、くすりと笑う。
……あぁ、好きな人と一緒に歩くと素敵なのだろうな。
そんな風に感じて、僅かにしんみりしつつ。さらさらと流れる、美しい小川の音色に意識を傾ける。
もう少し暖かくなる頃には、きっと良い花見スポットになるだろう。
(紹介するの勿体無いかな? ……いや、何言ってんだ。早く鷺坂さんに連絡しないと……っと)
栄の連絡を受けて、別の場所で在校生にインタビューを行なっていた鷺坂 雪羅も桜の下へ向かった。
自分もさほど変わらない立場。けれど、だからこそ、できることがあるはず。
(新入生さん達のお役に立てること、頑張らなくちゃ!)
桜の下でお弁当を広げてみれば、きっと新入生同士の交流も程よく深まるだろう。
そう信じて、心に残る風景を切り取っていく。
同じ頃、同じ企画に参加する丁嵐 桜は学生寮へ向かっていた。
まずは学園の公式寮。その取材が終われば、次は学生や住民の手による私設寮へ。
己の足を限界まで使って、持ち前のバイタリティで西へ東へ奔走する。
「すみませーん! 管理人さんはいらっしゃいますかー?」
飛び込んでくる元気な声に反応して、奥から誰かが顔を出す。
新聞同好会の部室に戻ると、雀原 麦子と久遠 仁刀が新聞同好会の紹介記事に掲載するインタビューを行なっていた。
「寧々美ちゃん、ありがと♪ あとはこれを記事に起こせば1コーナー完成!」
「あはは。取材される側っていうのも、なんだか恥ずかしいですね」
「どう? たまには普段と逆の立場ってのも新鮮でしょ」
楽しそうに言葉を交わす2人の間へ、仁刀が言葉を挟む場面もあり。
「寧々美、この新聞って完成したらどう配布するんだ?」
「あー、前回は掲示板に拡大版を貼って、その下に持ち帰れるように吊るしたんですけど」
「なるほど。……新入生の教室を回って席に1枚ずつ配ったり、校舎前で手渡ししたりはしないんだな。安心した」
何の気なしに呟く言葉――。だが、反して寧々美が動きを止めた。
「なぜばれたし」
「……なんというか、弟に心から同情する」
そうこうしている内に、恭弥も部室へ戻ってきた。
「影野さんお疲れ様ー。写真どうですか?」
姿をみとめて駆け寄ってきた後輩に、持ち帰ったデジカメを操作して成果を見せる。
「人の姿だけじゃつまらないし、校舎とか風景も撮ってきた」
「うわ、すげぇ! なんか絵になってる……!」
漏れ聞こえるそんな言葉に、興味を示した他の人間もちらほらと集まってきた。
●そうだ、投稿記事を書こう
精力的に取材を行い、企画記事を作る学生は、当然目立つものだけれど。
自身の知識や経験をもとに、投稿コーナーの記事を熱心に書く学生のことも忘れてはいけない。
彼らもまた、同じ紙面を作り、彩る仲間なのだ。
鳳 優希は新聞同好会の部室の一角で、椅子に腰掛けお菓子をつまみながら記事を書いていた。
「ん……」
ペンを走らせる手を休めて、大好きな紅茶をひとくち。
もぎたてのマスカットのような、淡い芳香に気分を良くしながら、寧々美たちの編集作業を手伝う夫――静矢の姿を眺めつつ。
「文章書くのも面白いのー。のー」
確かに近づく春の気配に、そっと笑みを零してみたり。
そんな優希の対角線上には、同じく投稿記事の執筆に勤しむアイリス・ルナクルスの姿。
察するに、何を書くべきか決めかねているらしい。
「はむぁ……」
いろいろ思案する中で、不意に愛しい恋人の表情が浮かんできて――
(……や、やっぱり恥ずかしいのです)
赴くまま愛を語ろうとして、慌てて首を振ってみたり。
活気あふれる部室の中で、ああでもない、こうでもないと悩みながら文章を作っていく。
「んーんー、蜂もいましたねー……あと猿……」
入学からこれまでの、様々な記憶を手繰り寄せ。
「……あぁ! あの人を忘れてたのです!」
これを書かずしてこの記事は完成するまい。そんな表情を浮かべ、今度は一心不乱に机に向かう。
いつにも増して賑やかな部室には、重ねて人が集まってくる。必然だ。人が人を呼び、やがて大きな流れになる。
「中山先輩? 記事を書いてきたから、一度見て欲しいんだよ」
訪ねてきたのは、桐原 雅。どうやら持ち込む予定の記事に不安があるらしい。
寧々美は差し出された草稿っを受け取ると、何度か頷きながら目を通す。
「腕に自信のある新入生と、手合わせしてみたくて……」
「なるほど。それで、あえて挑発的な感じにしたのね」
「好戦的な人ほど乗ってくれると思うんだ。どうかな? もっと挑発的に書いた方が、反応あるかな?」
首を傾げる雅に向かい、寧々美は真剣に指導を始める。
「……あの」
そんな2人のやりとりを見つめ、話しかけるタイミングを見計らっていた少女が口を開いた。雫である。
「あれ、雫ちゃん? どうしたの?」
首を傾けた寧々美に、雫は真顔で問う。
「私の記事、何が問題だったんでしょうか」
「……えっと、強いて言うなら……カゲキすぎるから……?」
頬をぽりぽりと書きながら、あからさまに目を泳がせる寧々美。
それもそのはず。雫が初めに提出した文章には、ちょっとアレな罠の作り方が詳細に解説されていたのだ。
こんな学校であるからして、悪用がどうとか言うつもりはないが……
さすがに新入生にポンと渡せる情報でもあるまい、と。
●炎の編集作業
さて、新聞制作もいよいよ佳境。
部室の中央では、ルビィと寧々美が最終的な紙面レイアウトの調整を行なっている。
「やっぱり、こっちの方がいいかなぁ?」
「ああ、その方がいいと思うぜ。文字でぎっしり埋まった新聞なんざ、読む気になれねぇよ」
何パターンかのレイアウト図を用意して、ああでもない、こうでもないと意見を交わす。
同級生ならではの心安さからか、それともお互いの性格ゆえか。
製作の決して長くはない期間の中で、正面から忌憚のない意見を交わせるくらいには打ち解けているようだ。
「じゃあ、ここの文章を写真に置き換えて……こんな感じ?」
「……お、だいぶ見やすくなったな。けど見出しはもう少し大きくてもいいんじゃねぇか?」
新入生にしっかり興味を持ってもらええるように、と。
内容だけでなく、紙面の構成・見た目にも気を配る。
「学園新聞って読むのは数分ですけど作るのは大変ですよね……」
DTPソフトの画面を見つめながら、アーレイ・バーグがぽつりと呟く。
「こうやっていると、肩が凝っちゃいますね」
肩こりの原因はデスクワークだけではなさそうだが、あんまりつつくと怒られそうなので控えめに。
無事に占い記事を書き上げたネコノミロクンも、部室に残って雑用をこなしていた。
アーレイの言葉が耳に入ったのだろうか。
ちらりと時計を見上げると、周囲で編集作業を進める仲間に声をかけてみる。
「3時になるし、そろそろ一息入れない? 冷蔵庫にサンドウィッチ、用意してあるよ」
ジャムを塗ったものからハムサンドまで、一通り揃えておいた。
あとはコーヒーと紅茶を淹れれば、丁度いいブレイクタイムになるはずだ。
「やったぁ! あたしお湯わかしてくる!」
目を輝かせて立ち上がり、部室を飛び出していく寧々美。
机の上に放置された原稿を、仕方ないなと呆れながらも綺麗に片付けるのは笹緒だ。
春の兆しにも負けず、パンダ姿のジャーナリストはきびきび動き続ける。
「宿命のライバル、中山寧々美の尻拭いは癪だが……コーヒーブレイクの為であれば仕方ない」
そんな言葉とともに、瞬く間に整頓されていく机上。
その手際は、さすが似たような状況をくぐり抜けて来た同好の士といったところか。
「……学園一のパンダ。やはり、ただ者ではないな」
同好会員某が感慨深げに呟いた。
パンとお菓子をつまみながら、編集は総仕上げの段階に突入していく。
再び騒がしくなる部室の中。
文章の校正と最終チェックの手伝いをしていたラグナ・グラウシード(
ja3538)が動いた。
「ラグナさん、これもチェックお願いします! 基準は一緒で。『新入生に悪い影響を与える記述』はNGで」
そんな言葉とともに渡される、出力見本の束。
受け取りパラパラと眺めつつ、正義と清廉を是とするディバインナイト・ラグナは考える。
(新入生に悪い影響……か。明快なようで意外に難しい基準――、ん?)
目に止まる、ひとつの文字列。
その瞬間から、青年の端正な顔がみるみるうちに歪んでいく……!
『久遠ヶ原で今もっとも出会える部活☆』
『合コンってガツガツしてて嫌…… そんな女子こそウチの部へいらっしゃい!』
紙面に踊る、リア充オーラ溢れる部活紹介。
血の涙を溢れさせる想いで、ラグナは声にならない叫びをあげる。ぐしゃりと握りつぶされる紙片。
「ラグナさーん、さっき渡した飲みサーの記事さぁ」
「!? あ、あぁ今ちょうどチェックしていた所だぞ……!」
なんとか平静を取り繕ってみる。
私怨にかまけて仕事を放り出す訳にはいくまい。普段の行いが真っ当であってこそ、リア充を糾弾する権利を得るのだ。
(く、くそ……こんなもの、こうしてやる……ッ!!)
ほとんど苦し紛れである。
しわくちゃになった紙切れを広げ直し、黒いフェルトペンで文章を華麗に改竄していく非モテ騎士。
(ふはははは! 滅べリア充サークル! 滅べテニサー! 滅べ合コンッッ!)
さすが非モテ騎士。小さなリア充撲滅活動にも手を抜かず取り組むその姿勢、見事である。
――毎度のことながら、その努力を別の方向に持って行けばモテそうなものだが。
ともあれ、こんな裏工作が行われた結果として、非モテ撃退士達(新入生含む)の心の平穏が守られたのであった……。
●かくして号外発行と相成り候
今回製作されたこの新聞、評判が評判を呼ぶ形で、かなりの成功と言える部数を捌くことができた。
それどころか、満面の笑みでぺこりと頭を下げる会長の姿も見られたりして。
「皆、ありがとね! また何かあった時にはよろしくお願いします!」
やがて新入生以外の久遠ヶ原学園生からも一目見てみたいと催促が入るようになり、
笹緒が気を回して、密かに製作していた『むーむー 電子版』のアクセス&ダウンロード数が、想定外の伸びを見せるのだが……
その件に関しては、また後日語ることにするとしよう。
今は素直に、号外企画の成功を祝して――乾杯。
【了】