とりあえず、言っておこう。
君達、何か忘れてないか?
さくっと依頼にあったディアボロを倒した撃退士達はその亡骸を埋葬(豆知識・天魔は焼却処分が一般的ダゾ!)し、久遠ヶ原へ帰るには少々回り道をして心霊スポットの廃病院へとやってきた。
写真を通して知ってはいたが、心霊スポットというよりはゴミ集積場といった有様である。GはGでもゴーストではなく害虫のおっと苦手な人がいたようだ。
樒 和紗(
jb6970)は直接触れないよう軍手と火挟みを装備。取り乱したりなんかしない(キリッ
「ふんっこれくらいのごみ、とっても天使なおれにかかればすぐかたづくからな!」
アダム(
jb2614)はエッヘンと胸を張るが、特に根拠があって言っているわけではない。
「幽霊とか滅多に見れるものじゃないから見れるといいな…」
おっと水無月 ヒロ(
jb5185)も余裕の表情だ。しかしこちらは夜でもワクワクしてそうな元気がある。
「ふう…敵も倒したし、後はゴミ拾いだね。き、肝試しも控えてるし」
「お掃除も肝試しもがんばる、の」
日ノ宮 雪斗(
jb4907)と若菜 白兎(
ja2109)は肝試しの痕跡らしき溶けきった蝋燭や燃え尽きた線香、干涸らびた仏花にごくりと唾を飲み込む。
「野郎が大きいゴミ、女子が小さいゴミ担当な」
平然と言った黒部 小太郎(
jb6093)に、
「入口の山だけ寄せたら、まずは三階だな」
クリフ・ロジャーズ(
jb2560)も悠々と頷く。驚くよりも驚かせる側なのだろう。
「まだ使えそうなものもあるのに、もったいないです〜」
ゴミの山ではなく宝の山と目を輝かせる狩霧 遥(
jb6848)。その反応は想定外。確かに勿体ないな!
大きなごみ担当男性陣の前にまず立ち塞がったのは、階段のゴミ。
「何でこんなところに冷蔵庫…?」
運び入れる方が大変だろうに、と呆れるクリフの先で、
「こっちはブラウン管テレビやな」
小太郎が楽しげにちょっと懐かしい縦横に幅のある電化製品を爪先で蹴る。裏に貼られたシールを見てヒロは首を傾げた。
「そんなに古いものじゃないよ。わざわざ運び入れたのかな?」
製造年月日は明らかに廃病院になった後のものだ。
階段に転がすとか意味不明の労力。それどんなホラー。
通路の確保に何度も往復させられることになった彼らが捨てたの誰だよとか心中でツッコミ入れてたのは秘密。
「燃えるごみと缶瓶ガラスくらいは分けた方が良いのかな?」
雪斗の取り出した袋を受け取って、和紗は頷く。
「では俺は燃えるごみを中心に集めよう」
「私も…」
燃えるごみが一番多いだろうと白兎が手を挙げる。
「それでは、私は缶瓶……瓶中心で」
流れから遥は重そうなものを選ぶ。男性陣は電化製品・粗大ゴミと格闘しているのでせめてもの、といった感じだ。
ごみ袋を広げた雪斗は笑みを浮かべて足下に転がった空き缶を拾い上げた。
「じゃ、私は缶。缶瓶は袋二重で、あと中身は捨てないとね!」
正直いつ開けたかわからない飲み物の中身は見たくも臭いを嗅ぎたくもないが、分別とはそういうものだ。掃除と割り切るしかない。
「あれ、こっちに本がいっぱい落ちてるぞー?」
アダムの声に燃えるごみ担当の女子が振り返る。
ああうん、他の男子は気付かないふりと普通にスルースキルを発揮したんだろうね。女性陣のぎょっとした表情に、アダムは釣られてぎょっとする。
そこにあったのは沢山の…うん、十八才未満お断りの本でした。
冷ややかな目が痛い!
廃墟お馴染みのトラップには気をつけよう。いやマジ散乱してるから。
世間知らずひとつ勉強しました。
世の中には恐い話じゃなにのに恐い本がある。
「…ヒィッ」
小さな悲鳴を上げた雪斗の視線を追って、遙も上を向いて息を飲んだ。
ぷらーんと輪になったロープが吊されていた。
何に使うかは推して知るべし。
しかし、小太郎が後ろでけらけらと笑った。
「それ、誰かの悪戯やって。簡単にほどけるで、その縄」
さらに上を見ると、なぜかカーテンレールにちょうちょ結び。
「ふ、不謹慎な…ッ」
まあ心霊スポットなんてそんなもので。
「うわあああ! 壁に手形ー!」
「天井に人の顔ー!!」
「賞味期限が●年前ー!」
「ヘードーロー!」
「ざんばら髪の日本人形ーっ」
「床抜けたー!」
「顔に蜘蛛の巣ーっ!」
「ごみの山崩れたーッ」
次から次へと良い悲鳴が。
肝試しの先人達の『記念』が容赦なく精神的ダメージを繰り出していく(時々物理)。
地上階のものを運び終える頃には疲労困憊に陥ってしまったので小休止など挟みつつ、掃除は続く。
「まだ地下があるのか…」
タオルで汗を拭いつつ、水分補給する雪斗はどこか遠い目だ。
「大きいごみは出したし、後は霊安室だけやろ? 俺やるわ。そんなに人手もいらないだろうし、先に外と落書き頼んでもええ?」
ちまちまやっていたらいくら時間があっても足りない。既に陽が傾きかけていることもあって、分担作業することになった。最終的に全員で落書きを消す方向の人数の割り振りである。
「えいっ」
ヒロのファルシオンが豆腐のように自動車等をずばずば切って運びやすい大きさに解体していく。V兵器に切れないものはない(たぶん)
まあぶっちゃけスキルなんぞ使われたらひとたまりもありません。
「黒部、何を企んでいるのです?」
肝試しのパートナー・和紗の問いに、霊安室掃除を進み出た小太郎はいい笑顔で持っていたごみ袋(黒)を掲げて見せた。
「バレた? このマネキン、いい溶け具合やと思わん?」
がさがさ、にょき。
「うわっ!」
「首だけでもないかと思っとったけど、まさか全身あるとはなあ」
プラスチックの全身が爛れ焼け焦げて、赤く飛び散らされた塗料がお化け屋敷設置用に作られたかのように不気味な様相を呈している。
脅かし道具としては手を加える必要もない。
せっせと魔の霊安室を掃き清めながら夜の部の準備を進める二人であった。
一方、地上階。
タワシとモップでがしがし壁を磨いていた雪斗は、ふう、と溜息をついて水の入った器をヒリュウに差し出した。
「ロセウスちゃん、上からかけてくれる?」
まさかヒリュウも掃除のために呼び出されるとはいや喜んで手伝っているのでよしとしよう。
「クリフー、これはなんだ? なんていう意味なんだ?」
「それは『素手喧嘩(すてごろ)』って言って武器を使わない素手の喧嘩って意味だよ」
俗にいう死語。
まあ楽しんで消せるものは楽しんでいいと思う。でないとやってられないし。
とある部屋には、
「これ消しちゃうんですか?」
「カッコイイね!」
清掃を任された場所で遥とヒロが消すのを躊躇うほど力の入った巨大な昇龍が描かれていたりして、凄まじい才能の無駄遣いに心癒されたりなんかしたわけだが。
陽が暮れても真面目に掃除を続けた甲斐あって、どうにかこうにか掃除は終了した。分別したごみはそれぞれ山になっているが、もう疲れ切っているので正直振り返りたくない。
早く風呂に入りたい気持ちでいっぱいだが、何のために掃除をしたかと言えば、肝試しのためである。ここまでやったのだから、して帰らねば本当にボランティア。
肝試しのルールを確認する。
一階救急処置室と三階奥でそれぞれ蝋燭を回収、二階出火元にてポラロイドカメラで記念写真、地下霊安室にマッチが置いてあるので蝋燭に火をつけて入口に戻ってくる。
マッチとカメラは最後に回るペアが持ち替えること。
ごみの残らないナイスな案である。
というわけで、出発。
●一巡目 雪斗・白兎ペア
「はうぅ…肝試し、凄く怖い…」
既に涙目の白兎の手を握り、雪斗は努めて明るく振る舞う。
「若菜ちゃん、頑張ろうね!」
実は超がつく程恐がりなのだが、小学生のパートナーを不安にさせまいと虚勢を張っていた。
使ってみたら余りにも明るすぎたのでフラッシュライトを没収されて、ペンライト一本というのがとても心細い。
(昼間来た時はそんなでもなかったのに、広く感じる…)
暗闇に呑み込まれるような錯覚に眩暈がする程だ。
最初のチェックポイントまではほぼ一本道、直前の角を曲がるだけ。心配することなんかない。
「ィヤーーッ」
「きゃーーっ」
救急処置室の前に蛍光塗料のシールが貼られていただけなのだが、実に良い悲鳴が響き渡った。
だかだかだかだかdkdk
もはや脇目もふらずに走り出す。
ガッ、パシャッ、ボッ!
「ただいまー!!!!」
早いって。
他の脅かしが介入する余地無く廃墟を駆け抜けた少女二人はへろへろとその場にへたり込んだのだった。乙!
●二巡目 ヒロ・遥ペア
「ヒロさん、よろしくお願いします」
「うん、頑張ろう!」
最初のペアの脅えっぷりにも動じず、二人は廃墟へと足を踏み入れた。
「わあ、何かいかにもって感じ!」
「来たときはごみにしか目が行きませんでしたから、新鮮です」
てくてくと進んで蛍光塗料にもさほど驚かず、蝋燭をゲット。
順調に二階へ進む。
チリーン…
鈴の音が聞こえた気がしたが、恐がるよりも俄然やる気で記念撮影。
「何か写ったでしょうか?」
わくわく。
遥の楽しんでいる様子に、恐がっていたらフォローしようと思っていたヒロは安心するやらちょっと残念なような微妙な心境。うん、男らしいところを見せたいその気持ち、わかるぞ。
それでもドアを開けてあげたり、リードするのは忘れない。
ぴちょん…ぴちょん…
「ごみがないから安心して歩けるね」
「はい。掃除がんばった甲斐がありました!」
順調に進む二人が一番驚いたのは、
――ムシィイイイ
どこからともなく聞こえてきたそんな叫び声だったそうな。
「和紗、大丈夫か?」
「あんまり驚かないから…本気で脅かしに行こうとしたら油断した…」
ぜえ、はあ。
虫嫌いに廃墟は辛い。
掃除の間は必死に耐えていたが、一人になったと気が緩んでしまったのだ。
「次のペアくるけど、いけそうか?」
「…だ、大丈夫です。次こそ脅かしてみせるっ」
●三巡目 アダム・クリフペア
「クリフ、お化けをしってるか? おれが教えてあげるんだぞ」
初っ端から盛大なフラグを立ててくれました。
とっても恐がり。でもクリフを守ってあげなければと気合い十分なのだ。
当のクリフはスカルランタンに灯を入れる。文字通り頭蓋骨型の明かりである。
「く、くりふー! おばけな雰囲気出したらいけないんだぞ…!」
ふるふる。うん、泣きそう。
「肝試しなんだからいいでしょ? 行こう」
「さ、ささ先にいったらだめだ! おれのうしろをあるくんだぞ!」
何やら微笑ましくなってきましたが、これコメディ=喜劇。
やるところはやらないとね!
「お、おばけはな、こわいからな、目を合わせちゃだめなんだぞ…!」
ふんふんと神妙に聞くクリフだが、ふと立ち止まる。
「あれ…ここの落書き消したはずなのに、何か書いてある」
「ふあああうっ!?」
恐すぎて変な声出た。
おわかりいただけただろうか。
ただの蛍光塗料のシールにこの有様である。
ぺたっ(こんにゃく)
――きょわっ
パキッ(割り箸の割れた音)
――ひゃうっ
ぴと、ぴと…(水の滴る音)
――うわあああ
実に脅かし甲斐のある子だと陰に潜む二人はほくそ笑んでいる。
でもちょっと可哀想かな? とも思う。
「後は、階段を下りて霊安室で最後だね」
「れ、霊安室ってなんなんだー?」
半べそのアダムに、相方はにやりと笑った。
「病院で亡くなった人を安置する場所だよ。分かり易くいうと、死体置き場かな。一般的に幽霊が出やすい場所っていわれているね」
ひっとかろうじて悲鳴を呑み込むアダム。
このタイミングでその説明。
後ずさりしようとしたアダムの手をぐっと握ってクリフはどんどん階段を下りていく。
「く、くりふのばかぁ! そんなことするとおばけがきちゃうんだからな……!」
もう完全に頬に涙の粒が落ちている。
そうして霊安室の扉をくぐる。
ええ、何の躊躇もなくくぐったよこの天使。
「マッチ…は、と」
きょろと見回すと、部屋の中央に不自然に盛り上がった毛布があった。
「こ、これはなんなんだー?」
「めくってみよう」
アグレッシブですねクリフさん。
アダムが止める暇もなくばさっとめくられる毛布。
「――――」
ごめん、声にならんかった。
件のマネキンである。
顔面蒼白で、それでも。
「お、おばけ…く、クリフをたべるならまずおれをたべるんだ……」
弱々しいながらも健気な台詞に、クリフは少し目を瞠って微笑んだ。
「外に出よう」
「で、でもっ」
「大丈夫だよ」
どうにかこうにか終了。
とめどなく聞こえる悲鳴に既に回り終えた面々が心配顔で待っていた。
●四巡目 小太郎・和紗ペア
今まで脅かす側だった二人の番が回ってきた。というか、これまでの裏方情報からして他に脅かすつもりの人々がいないのはわかっている。
しかし、肝試しは浪漫だ。
(いやぁ、やっぱ肝試しは女子とやな! 可愛い子と回れるんは嬉しいことや 。吊り橋効果とか出ると面白いんやけどな〜)
びっくりするくらい下心満々。
とはいえ、ペアの和紗は幽霊はあまり恐くないご様子。過度な期待は禁物である。
「そういえば、今回ポラロイドだけやっけ、写真。携帯写真の怪談、なんてのもあるんだけどね」
まあクラシカルなものも悪くなかろうて。
「さっきの子あんま恐がるんで火の玉出しそびれてん」
せっかく準備したのになあ、と笑う。
が、返答がない。
どうしたのかなと小太郎が振り返ると、少し後ろで和紗が立ちつくしていた。そして不意に、がばっと抱きつかれる。
「な、なん?」
「く、くくく黒部、取って下さいっ! むし、虫ィ!!」
ブーンと羽音を立てて飛んでいき、ペンライトの明かりに惹かれて舞い戻ってくる、虫。その度にひゃあああと情けない吐息が耳にかかる。
(あかん…めっちゃ役得やんけ!)
なんか柔らかいものが腕に当たっているし。
この際恐がるのは幽霊じゃなくたっていい!
「大丈夫、大丈夫やでー」
結局出口間際まで離れることはなかったとか。
さて、ここで思い出して頂きたい。
このシナリオ、言い出しっぺの三美夢子嬢同行なのだ。
今までどこで何をしていたかと言うと、ちゃんと仕事をしていた。掃除もしてた。
「仕事のあとのいちごみるくはサイコーだな!」
ホテルでシャワーを浴びてスッキリしたアダムがてくてくと廊下を歩いていると、薄暗い廊下にぼんやりとした灯りが漂っていた。
「〜〜〜っ」
だーっしゅ。
「く、くりふ! 一緒にねるんだぞ!」
「一人で寝るの、恐くなっちゃった?」
「ち、ちがうぞ! おばけからクリフをまもるためだ! ねこねこも一緒なんだぞ!」
真っ青な表情に何かあったのかなと首を傾げながら宥めにかかるのだった。
誰も気付いていなかった怪談倶楽部部長の不意打ちの脅かしに、ホテルについて安心し油断していた一同は悉く引っかかったのであった。南無三!