●
25人の挑戦者が呪われた屋敷の前に立ち、1組ずつ時間差で出発していく。
やがて屋敷内から聞こえてくるのは悲鳴か、はたまた爆発音か。
●
「お化け屋敷?どうせ子供だましでしょ?ささっとクリアしちゃいましょ」
権現堂 桜弥(
ja4461)は、この時点では軽く考えていた。
話しかけられた君田 夢野(
ja0561)はというと、
「 『勇気』とは『怖さ』を知ることッ!『恐怖』を我が物とすることだッ!」
言っていることは格好良いが、ガクガクしている足がものすごく残念である。
そんな夢野は屋敷に入ると、音感を生かし辺りを警戒する。
(‥‥この先、何かあるッ!)
槍が横の壁から飛び出してきた。咄嗟にその場所にいた権現堂 桜弥(
ja4461)の腕を引っ張ると直撃は免れたが、ああ運悪く服のバストの辺りが切り裂かれてしまう。
桜弥は、すぐに気づいて胸を隠すが、夢野を見ると何だか顔が赤くなっている。
「み、見たわね‥‥」
「み、見てないよ!黒い下着なんて見てないって!」
「しっかり見てるじゃないのーー!!」
桜弥も真っ赤になりながら、夢野に近づき服に手をかける。
「ちょっと!?上着剥ぐのはやめてッ!?」
「脱ぎなさい!今すぐ服をよこしなさい!」
閑話休題
桜弥は、夢野から奪い取った上着を羽織って、先へと進んでいく。
夢野はというと、動揺しているのか、何故だか脳内でミュージックセラピーをかけ始める。
(落ち着け‥‥落ち着け、俺)
そんな状態だったためか、うっかり落とし穴のスイッチを踏んでしまう。
パカッ
夢野が落ちかけたところを
「あっ、危ないっ!」
桜弥が助けようと引っ張るが、代わりに自分が転落してしまう。
パッシャーーン!!
びしょびしょに濡れてしまった。
「私って水難の気があるのかしら‥‥」
水が絡む依頼ではろくな事が無い彼女であった。
その後の蝙蝠・蜘蛛の大群には、
「ぎゃああああ!?蜘蛛が、蜘蛛があああああ!?」
「ちょっと抱きつかないでよ!?」
残念なことに虫嫌いであった夢野が、そのまま泡を吹いて気絶してしまい両名ともリタイアとなった。
「まったく、何がお化け屋敷よ。全然違うじゃないのよ!服は破れちゃうし、水には落ちるし!」
●
アーレイ・バーグ(
ja0276)は、学校指定の体操着を着用して歩いていた。
が、彼女の体型だと学校指定とはいえ、けしからん格好になっている。(主に胸)
というか、何故体操着?
そんな彼女は今、悩める少女であった(振り)。
「うーん‥‥見知った顔はかなりいるんですけどねー。一緒してくれるお友達がいないのはどういうことでしょうか‥‥やはり日本ではガイジンは嫌われるのでしょうか」
悩む振りをしても、誰も見ていないのだが。
落とし穴にはまり10m程落ちるが、下はクッションで、ある程度衝撃が緩和される。
「これ一般人なら死んでますって」
何とか上まで這い上がり先へと進む。
「非人道的で知られているあーれいさんと付き合いたがる奇特な人は少数派でしょうけど。さくっと突撃、さくっと終わらせてきますか」
何故か、日本では軍事的合理性のことを非人道的と呼ぶと思っているらしい。
横の壁から槍が突然出てくる。避けきれずに服やら肌の表面やらを鋭い刃先が裂いていく。
危険、色んな意味で危険な状態!
「これ撃退士でも死にますって」
その次の電撃も思わずビリビリと食らってしまう。
「ああ、スタンエッジを受けたらこんな感じなんですね」
ええっともう少しこう、きゃーとかいうリアクションは‥‥?
「そろそろ体力尽きたようですのでリタイアして帰りますか」
‥‥いえ、どうぞお疲れ様でした。
●
並木坂・マオ(
ja0317)は、単身お化け屋敷へと挑んでいた。
手頃なサイズの小石を拾って、罠がないかどうか投げて調べていたが、いかんせん小石では反応しないのか、罠にかかる確率は高いようだ。
パカッ(地面が開く音)
「うわーーーっ」
シャキーン、グサッ(槍が出て来て刺さる音)
「いったーーー!」
前半で既に結構なダメージを受けてしまうが、彼女はあくまでクリアを目指して進む。
「このままだと、目標がクリアっていうより生き残る事、になりそうだよ。でも普通の人だったら余裕で死んでるってこれ‥‥」
だがさらに進んでいく内に、逆に闘志が湧いてきたようだ。辺りを目を鋭くして窺い始める。
ポテン、テン、テン
壁から、いかにも爆弾ですとばかりに、ドクロマークの入った丸い物体が飛び出してきた。導火線はもちろん点火済みである。
危険を察して、マオはすぐその爆弾を遠くへと蹴り上げる。
ヒュ―――、ドッカ―――ン!
距離を置いた所で爆発したので、巻き添えをくらわずに済んだ。
「お化け屋敷っていうよりも、最初から訓練施設だと思っていればいいんだ」
あと少しでゴールというところで、頭上から何と天井が落ちてくる。
逃れることが出来ずに、落ちてきた天井を両手で支える体勢になってしまった。
下に押しつぶそうとする力は、撃退士の力でもかろうじて支えられるかどうかといった非常に強いものである。
ここまで何度となく罠にはまって体力も削がれていたが、
「‥‥こ、こんな所で立ち止まっていられるかっ。強くならなきゃいけないんだ、アタシは!」
ゴゴゴゴゴッ
気合で天井を押し返すと、ゴール目指して一直線に走っていく。
並木坂・マオ、クリアへ一番乗りである。
●
烏丸 あやめ(
ja1000)は、自身の機動力と回避力を活かして先へと進んでいた。
「わわっ。落とし穴やん」
床が突然開き、落ちかけるが、何とかふちに掴まり落下せずに済んだ。
次の罠でも、
「ひーっ。槍当たったら痛いで」
何だかんだ騒ぎながらも回避していた。
面白そうなイベントは大好きなので、今回のお化け屋敷も喜び勇んで参加していた。しかし、
「うぎゃーー!!」
ビリビリビリッ。次の電撃はくらってしまい、しばらく動けなくなってその場で倒れてしまう。
しばらくして、そこへグラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)が近付いてくる。
「さて、一人か。これはなりふり構っていられないな」
同じく一人参加の彼は、罠の配置や作動ギミック、そういったものを観察しながら安全かつ確実に進んでいた。
倒れ伏すあやめを見て、そこに罠があることに気づくが、
「悪いね。君の犠牲は無駄にはしないよ」
今の内にと横をさっさか通り抜けていく。しかし、痺れのとれてきたあやめが、起き上がるとダッシュで追いかけてくる。
「あほかー!助けんかい!」
小柄なあやめは飛び上がると、わざわざ取り出したハリセンで、グラルスを力一杯はたく。
「全く‥‥。さっ、ちゃっちゃとクリア目指すでー」
「お、おい。ちょっと待って。」
すたすたと先へ行こうとするあやめを、グラルスが、よろけた体勢を戻しながら追いかける。
何故か一緒に行くことになった2人だが、グラルスが罠の確認、あやめがいざという時に足の速さを活かすなどして、上手い具合に切り抜けていった。
逆高速動く歩道は、かなりの長い距離のようだったが、
「このままゴールまで走り抜けるでーー!」
「まあ待って。先に他に罠がないか確認しないと」
あやめが、すぐさまグラルスを引っ張っていこうとすると、グラルスが罠や安全なルートを検討しようと留めている。何だかんだで良いコンビのようである。
●
「ホラーは大嫌いだけど、これは迷宮って感じだから‥‥ダイジョブ‥‥?クリア出来る様に頑張る!」
天河アシュリ(
ja0397)はそう言いながら、影野 恭弥(
ja0018)と一緒に屋敷へと足を踏み入れた。
さほど歩かない内に、床がパカッと開き、体が下へと落ちかける。
パシッ
恭弥がそのアシュリの手を掴み、落下を食い止めることが出来た。
「あ、ありがとね」
「いや‥‥」
言葉少なに返答すると、先へと歩いていく。
2人は罠を回避できるようペンライトを使用し、慎重に床や壁を探索しながら進む。
途中、アシュリが槍に服を引っ掛けてしまい、
「お気に入りの服なのにっ‥‥」
と怒りに身を震わせる場面もあったが、やがて書斎らしき部屋を見つけ、そこに依頼の本が隠されていないか捜索を開始した。
館の主が本に魅了されていたなら、自分の身近もしくは自分にしか分からない場所に置いていた可能性が高いと思ったからである。隠し部屋の可能性も考え、床や壁に不自然な継ぎ目や歪みはないか、絵画の後ろや本棚も注意深く調べる。
「‥‥‥‥」
だが、そこでは隠し扉などは見つからず、それらしき本も発見出来なかった。
別の部屋にあるのかもしれないと、先へと進んでいく。
ここまで何度かの罠の被害を、何とかお互いに冷静に切り抜けてこれた、と思ったところだった。キィキィ、カサカサという音が聞こえたかと思うと、大量の黒い蝙蝠・蜘蛛の群れが一気に2人に襲ってきた。
「うっ。」
虫類が大嫌いなアシュリがその場に固まるが、余りの数の多さに平常心も吹き飛び、思わず涙が出てきてしまう。
「スパイダー嫌い!いやーーっ」
「お、おい落ちつけって。これ機械だぞ」
恭弥が冷静に伝えようとするが、アシュリは恐怖の余りその場でうずくまってしまった。
そんな2人を、黒い群れが覆い囲っていく‥‥気が付くと別の通路へ立っていて、
『残念。お帰りはあちら→』という看板が立っていた。
「屋敷の主人の謎も解きたかったが、残念だな‥‥」
●
(本を探すお化け屋敷‥‥かなり好みかしらね。絶対にクリアして見せるわ)
長くて丈夫そうな木の棒を手に、足元を叩きながら、蒼波セツナ(
ja1159)はゆっくりと進んでいた。
黒魔術探究部の部長である彼女は、今回のイベントに強い興味を抱いていた。深い暗闇も、物ともせずに歩いていく。
落とし穴や槍は、棒で探りながら難なくクリアしていく。
「きゃあっ!」
さすがに、電撃は避けられずに受けてしまい、高い悲鳴を上げる。
「‥‥ビ、ビリビリしたわ」
その後も、安全第一にゆっくり探索していく。
蝙蝠・蜘蛛の大群が襲い掛かって来た時は、棒で果敢に戦うが、余りの数に周りを囲まれてしまう。
何とか抜け出すものの、次の図書室では大量に落ちてくる本が頭に当たってしまう。
直後、視界の隅に血だらけの男が映ったように感じたが、次に気がついた時には、別の通路に移動されていた。
『残念。お帰りはあちら→』
と書かれた案内板が目の前にあった。
「不屈で進むことを希望したはずなんだけど、おかしいわね?」
まだ余力のあることを実感しながら、首を傾げる。
し、しまった、これは誤誘導だった!いやーうっかりうっかり by白衣の男(開発者)
おい。
●
「んむー、せっかくだしのんびりしっかり満喫させてもらうのです!」
単身、お化け屋敷に乗り込んだ氷月 はくあ(
ja0811)だったが、
最初の落とし穴にはまってしまい、次の槍でも若干痛い目に合い、
「お、お化けって問題じゃないよねっ!?」
とツッコミを入れる。だが、罠の仕掛けやこだわり具合に、何か同種のオーラを感じテンションを上げていく。
「多分わたしの感だと、この辺りに‥‥あった!」
罠の仕掛けを見つけては必ず発動させ、そして必ずと言って良い程、被害に遭っていく。
ポチッ
「ひーっ」ビリビリッ
ゴンッ(イミテーションドアに頭をぶつける音)
「いたっ」
ポチッ
「ひゃーっ」ぽっちゃんっ。(水に落ちる音)
生命の水による回復も追いつかない。というか不屈なしを選択したはずだが、気にせずどんどこ進んでいく。
チャラチャラッチャラーン。
クリアした時には、ぼろぼろの状態で、その場でぱったりと倒れ伏す。
「はふー、流石にちょっと疲れちゃったかな‥‥Zzz」
白衣の男「うむ、誤誘導ry」
っておい!
●
「これは、お化け屋敷と言うよりトラップハウスと呼んだ方が良い様な‥‥」
興味本位で今回のイベントに参加した雫(
ja1894)は、感知のスキルを使い、罠の発動スイッチを探していた。
体力が尽きかけたとしても屋敷を突破することを目指していたが、地形把握のスキルも用い、安全なルートを見つけて進んでいく。が、
ポチッとな。
「あ」
ドッカーンッ!!
うっかり爆弾を爆発させてしまい、ダメージを受けてしまう。
「いたたた。失敗です。けど今後、トラップを仕掛ける良いお手本になりそうですね」
次のトラップを探りながらも、この経験を今後へと活かす気十分であった。
終盤、崩れ落ちる本に頭を打たれながらも、黒い背表紙の、依頼の本らしきものを見つけ出す。
最後の落ちる天井を何とか避けながらも、出口へと駆けていくと、
チャラチャラッチャラーン。
ぼろぼろの布の固まり‥‥いや、ぼろぼろになった服を着た少女を発見した。
氷月はくあ、だった。
「起きて下さい。こんなところで寝ていたら風邪引きますよ」
「んー、まだ寝ていたいですーZzz」
揺り動かすとそんなことを言ってごねる。だが怪我の治療も必要なので、体を起こさせ肩を貸しつつ、出口へと向かって行った。両名ともクリア成功である。
●
久遠 仁刀(
ja2464)と桐原 雅(
ja1822)は、ペアを組んでクリアを目指していた。
先を進む仁刀の足元がパカッと開く。重力に従って下へと落ちようとする仁刀の腕を、雅が掴んで思いっ切り引っ張り、体を入れ替えるようにして代わりに穴へと落ちていく。
「み、雅!!」
慌てて仁刀が覗き込むと、10m位下の穴底で、クッションにバウンドしている雅の姿が見えた。
穴から上ってくる途中で、仁刀が手を伸ばし引っ張り上げる。
「大丈夫か?」
「大丈夫?」
お互いに相手の怪我の心配をしている。
「それはこっちの台詞だ!怪我してないか!?」
「うん、大丈夫。‥‥先輩が無事で良かった」
そう言って、雅は柔らかな笑みを浮かべた。
次の罠では、よくよく注意を払っていた仁刀が、槍が出てくる直前に気づき、電撃では雅が気づいて庇うというようにお互いにフォーローし合い順調に進んで行く。
大分進んだところで、機械仕掛けの蝙蝠・蜘蛛の大群が襲ってくる。
雅は苦手意識があるのか、思わずその場で固まってしまう。
余りの数の多さに仁刀は、素早くここを抜けないと継続的にやられると判断し、
「‥‥雅、すまん」
彼女を群れから庇うように抱えあげる。そして攻撃の矢面に立つようにして駆け抜け、群れを振り切っていった。
「先輩ありがと。とっさに庇ってくれなかったら大変だったよ」
降ろしてもらった雅は、仁刀の額の滲んでる血を拭き取ろうとしていた。
「こっちには剣魂もあるしな、気にするな」
一息つくとすぐに、彼は安全な所までもう少し走ろうと言って、雅の手を取る。
咄嗟の時とは違い、手を握る際に少し不自然に揺れたのに、彼女は気づいたのかどうか。
そうして出口を目指し、一直線に進んでいく。
●
こちらは、見た目は男女のペアである。
「闇の図書館迷宮、か。パンフレットとか結構雰囲気あるよな」
小田切ルビィ(
ja0841)は、『Dark Library Labyrinth』の呪われた本等の設定に少年の様に心躍らせていた。
「そろそろお化け屋敷にいきたいなぁと思ってた所なのですよ♪」
ドラグレイ・ミストダスト(
ja0664)は、お化け屋敷を楽しみつつ取材しようと思っていた。
ルビィが足元、天上、壁を警戒しつつ先行する。ドラグレイはというと、隅々まで探索しようとと気になる所を触りまくっている。罠っぽい物を見つけたら積極的に発動させて、どんな罠なのかを確認しようとする。
「お?この辺とか面白そうです!」
ポチッ
ポテン、テン、テン‥‥ドッカーーーン!
罠のスイッチを押すとドクロマークの爆弾が飛び出してきて、その場で爆発する。
「わうぅ!洒落になってない罠じゃないですか!」
必死に避けようとするも衝撃をかわしきれずに、全身煤にまみれてしまった。
ドラグレイは疾風、ルビィは剣魂を使い、体力の回復を図る。
「データ収集が目的とは云え、挑戦するからには絶対ぇクリアしたいぜ。‥‥だろ?ミストダスト」
取材に付き合いつつも、生来の負けず嫌いの血が騒いできて、クリアに不屈の闘志を燃やすルビィ。
「そうですね。取材するからには最後までしっかりしないとですね!」
‥‥微妙に食い違っているものの、目標は一緒である。
相方が罠を確認中、辺りを警戒していたルビィが、蝙蝠・蜘蛛の群れの出現を知らせる。
「‥‥ちッ。一匹ずつ相手にしてたら埒が明かねぇぜ。――親機を探して子機を無力化するぞ‥‥!」
機械仕掛けということに気づいたルビィの言葉に、
各々、群れの中で一際大きい蝙蝠と蜘蛛を見つけて、ほぼ同時に飛燕翔扇でダメージを与える。
群れ全体の動きが鈍くなった隙に、振り切って先へと走っていく。
「お化け屋敷というより忍者屋敷の方が正しい気がするのです‥‥」
クリアした後に、開発者への取材と調査データが貰えないか交渉するつもりのドライグレイであった。
●
氷雨 静(
ja4221)と鬼燈 しきみ(
ja3040) は、ペアを組んでの挑戦である。
「ホラーなんて絶対ダメ!‥‥のはずですのになぜ私はここに‥‥」
「しきみちゃんはお化けは怖くないかなー。静ちゃん、一緒に楽しもうねー」
気の進まない様子の静だったが、しきみがマイペースに笑いかけると何とか微笑み返した。
屋敷内を探索するにあたり、静の提案で、基本左手の法則でいくことにする。
しきみも感知を使い、罠に警戒して進んでいく。
第一関門の落とし穴(下クッション)では2人仲良くはまってしまった。
「もふもふでございますね」
「おーもふもふだー」
何故だか二人とも楽しそうである。
爆弾がポロッと出現した時には、先に気づいたしきみが、咄嗟に静を抱きかかえて避難する。
「怪我してないー?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
静がより小柄なこともあって、抱きかかえられたようだった。
だまし絵のドアを、感知でなんなく見破ったかと思うと、次の落とし穴(水ぽちゃ)ではまたしても落下してしまう。
「大事なメイドの服をぐぬぬ‥‥」
「うにー濡れちゃったー」
メイド服が濡れて悔しそうな静に、濡れても何だか楽しそうなしきみであった。
図書室で、書棚から沢山の本が崩れ落ちてくると、本好きのしきみはなるべく本が傷つかないようにキャッチしていく。
「この本、持って帰っちゃだめかなー?」
キャッチした本の中に、赤みがかった黒表紙の本があった。一方、ふと視線を横へと向けた静がその場で凍りつく。
目線の先には体のあちこちから血を流している男が立っていた。
『私の本を盗もうというのか‥‥!!』
近づいてくる男に、段々無表情になっていくかに見えた静だったが、すぐにホログラムということに気づく。ホログラムとはいえ、完成度の高いその形相に怯えそうになるが、
「こんな奴、ほっといて先行こー」
しきみに声をかけられ、目的の本らしきものをしっかり持つと出口へ向かって走っていく。
クリア後は、応急箱で手当しながらお化け屋敷の感想で盛り上がる。
「鬼燈様、ご一緒できて楽しゅうございました」
「うん、私も楽しかったー」
●
「夏のお化け屋敷。せっかくなんでおもいっきり楽しみましょ♪」
「ちょー楽しみっす!クリアを目指すっす!」
雀原 麦子(
ja1553)は、ニオ・ハスラー(
ja9093)と腕を組みデート気分で歩いていた。
「ニオちゃんの野生の勘、頼りにしてるわ♪」
ニオは勘で罠を回避するつもりであったが、意外にその勘は当たっているようだ。
「怪しいスイッチ・・・・お、押しちゃダメっす・・・・」
別の意味で試されていたが。
出てきた槍に素早く反応して麦子がたたき折ると、電撃では2人してビリビリとなってライトヒールをかけたりと、決定的なダメージにならないよう、お互いに協力しながら進んでいく。
カチッ
「ぎにゃーーー!今・・・・カチッて言ったすよ、ねぇぇぇぇ」
喋っている途中で2人して床の下へと落ちていく。
麦子は水を頭からかぶってしまい、長い髪が前へとたれてしまった。
一瞬、幽霊と見間違えられつつも、用意しておいたロープで上へと登っていく。
「ひぁっ、冷たいっす」
途中、ニアが首筋に冷たさを感じて飛び跳ねると、麦子がどこからか出した氷を手に、にやっと笑う。
「ビールを冷やすための氷よ。ビックリした?」
というかビールもどこから出しry。
最後の試練。頭上からいきなり天井が落ちてくる。
咄嗟に二人で支えるが、かなりの力がかかってくる。
「私はいいから‥‥先に行って」
麦子が苦しいながらも微笑みを浮かべた(演技中)。
「雀原さんを置いていけないっすっ」
ニオが焦った表情で叫ぶ(演技中)。
ノリの良い2人である。
「いいからっ。すぐに追いつくから!」
「‥‥雀原さんの犠牲は無駄にはしないっす!」
ニオは天井から手を離すと、涙目で出口へと走って行く(演技中)。
残された形の麦子だが、予想以上に負荷がかかってきた。若干、前の組より強化されていたりする。
「あ、あれ、重っ。ちょ、ちょっと待」
ドッシーンッ!
ニオは、麦子さん迫真の演技っす、とか思いながら、
「やったっす!ちょー面白かったっす!で、お化けはどこにいたんすか?」
今回、ホログラムは不調だったようである。
●
のんびりマイペースに進んでいく人物もいる。
「お化け屋敷っていうより、もうトラップハウスだよね‥‥」
桜木 真里(
ja5827)は、特に急いでゴールを目指しているわけではなかったが、警戒は怠らないようにしていた。
その甲斐あってか、まあまあのペースで後半の方まで進むことが出来ていたが、
パカッ、ヒューーポッチャン!
足元の地面が開くと、10m程下の水面へと落下してしまう。
(あれ、落とし穴って最初もあったよね。さっきはクッションだったけど)
受け身をとったため、怪我はせずにすんだが大分水に濡れてしまった。
水滴が白金の髪を滑り落ちていく。
「冷たい‥‥」
その後水を滴らせつつも進んでいくと、黒い蝙蝠と蜘蛛の大群が襲ってくる。
「機械音?」
音で機械仕掛けだと気づくが、そこは侮るなかれ、単なるおもちゃとは違い牙やら糸やらで攻撃を仕掛けてくる。
腕で払いながら何とか攻撃から逃れていく。
そして遂に、わりと広めの図書室のような場所へと辿り着いた。本の棚が両側、前方にそびえ立ち圧迫感を感じる程だったが、そこから一斉に崩れてくる本、本、本。腕で頭を庇おうとするが、
「もしかしてあの本‥‥!」
視界に入ったのが魔術書だったため、落ちてくる他の本にも構わず、その本を受け止めた。
パラパラと中を確認するだけのつもりだったが、内容に気を惹かれてそのまま読みふけってしまう。
その後出てきた、血だらけの幽霊の男(ホログラム)が、
『私の本を盗もうというのか‥‥!』
とか何とか言っているが、全然気にせず読み続けている。
その内にタイムアップ。自動的に外へと出されてしまった。
「そういえばお化け出てたかな‥‥罠ばっかりで気づく余裕が無かったよ」
罠のせいじゃないけどね。
●
(このお化け屋敷、想像とちょっと違う方向性ぽいですね‥‥)
道明寺 詩愛(
ja3388)は、ギネス認定おばけ屋敷も一人で入る主義なので、ソロで突き進んでいく。
罠も回避せずに受け止める。
‥‥って痛いよ?槍とか爆弾とか結構痛いよ!?
「ディアボロにタコ殴られたのに比べれば、このくらい‥‥!」
回復スキルを活用しながら、罠のあるところ騒々しい音を立てながら向かっていく。
何かそれ、方向性違うような‥‥?
そんな彼女の主目的は、実はクリアでなく、おばけ屋敷を堪能することである。
「ふむふむ‥‥。内装はこんな風になっているんですね」
屋敷の内部を細かく観察していく。ホラー好きとして意見をレポートにするつもりである。
(ただ爆発したりじゃなくてホラー的な理由づけが欲しいかな?)
そしてついにクライマックス。回復はこまめにしていたが、服はかなりボロボロの状態である。
図書室で、崩れ落ちる本の中に依頼の本を見つけると、おどろおどろしいBGMと共に、男性の幽霊が現れる。
男は、屋敷の主人なのだろうか、体のあちこちから血を流していた。
詩愛は目を輝かせるとじっくり観察し始める。
「‥‥うーん、これはホログラムですか、残念」
しっかり堪能して、崩れ落ちる天井から逃れた後に、ふとある考えが浮かんできた。
(本物出るって噂あると流行るんですよね‥‥)
●
こちらは、男性2人のペアである。
「なぜ、隣に日谷先輩がいるんだ。一緒に行きたい人がいたんだが」
翡翠 龍斗(
ja7594)がため息をつきながら、小声で呟いている。
「不不不‥‥」
それを聞いた日谷 月彦(
ja5877)が不吉な笑みを浮かべる。
‥‥深く追及するのはやめておこう。
それぞれ持ち寄った、金属棒や鉄板、瞬間接着剤や手袋を手に、屋敷内へと歩んでいく。色々な罠を想定して準備してきたのであった。
「どんな罠でもきやがれ‥‥全部突破してやる‥‥」
狭い通路では、壁に手足を突っ張らせながら進み、落とし穴をやりすごす。
槍が出てきても鉄板で防ぎ、電撃はゴム手袋で何とか受け流す。
さすがに爆弾は完全には除けきれず、いくらかダメージを受けてしまうが、その後は順調に歩みを進めていく。
「これって、お化け屋敷じゃないよな。ま、いいけど。」
再び落とし穴があるとは思っていなかったのか、月彦がパカッと開いた穴へと落下していく。
お互いをロープで結びつけていたため、落ちていない龍斗の方が踏ん張り、月彦の落下を食い止める。
「くっ‥‥落ちて貰っては困るぞ、先輩」
何とか穴から這い上がり、その後、ホログラムの血だらけの男女を振り切った途端、何と天井が落ちてきた。
慌てず騒がず、2人は持ってきた3本の長めの金属棒を三角の形に立て、天井とのつっかえ棒にすると、瞬間接着剤で固定する。
「先輩、早く!」
一足先に脱出した龍斗が叫ぶ。
バキッッ‥‥ドーーーン!!
脱出した直後に、固定したものの天井からの力に耐え切れずに棒が折れ、天井が床へと落ちてきた。
ともかく、怪我は最小限にくいとめ、クリア成功である。頭脳プレーの勝利といえよう。
こちらは屋敷内を観察中のオペレータールーム内。
「ん?ホログラムって男だけのはずだったが‥‥?」
白衣の男が首を傾げていた。
●
こちらは不屈を選択した、見た目男女のペアである。
「よし‥‥がんばろうね、最後まで!」
「おお、クリアして男らしさをアピールするぞ!」
レグルス・グラウシード(
ja8064)が言うと、姫路 ほむら(
ja5415)が拳を握りながら答える。
2人とも、何らかの意気込みがあって参加したようである。
一見すると美少女のほむらは、白い袖無しにデニムのホットパンツ、運動靴というような動きやすい格好をしていた。
2人は罠を警戒しながら進む。
「大体こういうのはね、上から来るか、下から来るんだよ!」
お互いに石を10個程持ってきていて、怪しいと思われる場所に人の体重位の力が加わるように、強く石を投げつける。通路の上部や床を重点的に調べていった。
その内に、石が地面のある箇所にぶつかると、パカッとそこの床が開く。落とし穴のようだった。
「この落とし穴、下はクッションだー。意外と優しい」
開いた穴の底を覗いたほむらが、少し安心したように呟く。
さらに進んでいくと、今度は横から槍が飛び出してきた。
あまり注意を払っていなかったため、深手ではないが、ぐさっと刺されてしまう。
「さっきのは間違い!本気で殺しに来てる!」
ほむらは、痛みのためちょっぴり涙目になっている。レグルスにライトヒールで回復してもらった。
高速、逆に動く歩道が目に入ってきた。軽い気持ちで足を踏み出すと、一瞬で元の場所まで戻されてしまう。
「陸上体操部の合宿の成果を見せてやるぞ!」
そう言って、ほむらは動く歩道を全力疾走していく。
図書室で、周りの書棚から大量の本が雪崩れて落ちてきて、ほむらは咄嗟に急所を庇い、
レグルスはこれまでにもあったように、硬直して言葉を失ってしまう。
お互いに動か(け)ない状態だったが、ふと横から声が聞こえたかと思うと、
『私の本を盗もうというのか‥‥!』
「その本を持っていったら、恐ろしいことになるわよ‥‥!!」
片や血だらけの男、片やぼろぼろの服をまとった女が側に現れた。
女の方は何故か、黒髪を振り乱しながら書棚の中から出てこようとしている。
「「‥‥ぎゃーーーーー!」」
2人は大声を上げて、動く歩道の時より速いんじゃないのかという位に猛ダッシュする。
ほむらは、先程から急所を庇う際に手にしていた、黒い背表紙の本を持ったまま走っていく。
何だかんだでクリアの後、
「はあ‥‥うーん、駄目だよこんなのじゃ、本番が思いやられるな」
レグルスは、そのうち彼女と遊園地のお化け屋敷に行く予定があり、
お化けにビビる姿は見せたくないと、そのための特訓だったようだ。
●
全員が試練を終了し、寮へと帰ろうとする中、一人欠けていることに誰も気づかないでいた。
そう、サプライズ演出のためわざわざ屋敷内に残っていた、さ□こ、いや道明寺詩愛である。
他の人を驚かすのに夢中なあまり、中に取り残されていたのだった。
寂しさを誤魔化すため、以前製作協力した歌を口ずさむ。
「きっと忘れないよ‥‥ずっと忘れないよ‥‥」
(‥‥私は忘れられてるけど)
おしまい
(代筆:彼方ミオ)