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マスター:黒川うみ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/07/11


みんなの思い出



オープニング

 学園にかかってくるいくつもの依頼の電話。
 受話器を置いた事務員は深刻な表情で告げる。
「大至急、手の空いている生徒を集めるよう放送をお願いします」
 あまりに恐ろしい顔つきなのでどうしたのかと尋ねると、事務員は端的に、言った。
「シロアリが、出ました」
 建物を食い荒らすアレです。
 嫌な思い出があるらしく、彼女はぶつぶつと呪詛のような単語を呟いていた。


「体長五メートル程のシロアリが三匹、街中の建物を食い荒らしているそうです。
 木造、鉄筋、コンクリート見境なく。
 人や動物、道路にある自動車や公園の植物などには一切目もくれず、『家』や『ビル』なんかをバリバリと」
 なかなか嫌な光景である。
 ああー! オラの家がー! …な、感じだろうか。
「早急に駆除しないと家を失う人が増えてしまいます。
 しかも食べれば食べただけ体が大きくなっているとか。
 …というわけで、さっさと行ってさっさと駆除してきて下さい」
 ぶっきらぼうな言葉だが、緊急性は理解できる。
 ああそれと、と彼女は付け加える。

「シロアリって、拡大しなくても結構グロいんで、苦手な人は覚悟した方がいいですよ」
 …昆虫…ですもんね…。


リプレイ本文

 怪獣現る…ではないが、体長5mもの巨体のシロアリの出現に街はパニックに陥っていた。
 とはいえ人には見向きもしないとわかってくるとパニックの要素が大分異なる。
「待て、まだローンが28年あるんだやめてくれー!」
「今月の家賃払ったばっかりなんだ勘弁してくれー!」
 建物をバリバリむしゃむしゃ食べていくシロアリ3匹は、そんなシビアな叫びを無視して食欲に従い新たな被害を生み出していく。木造だけでなく鉄筋コンクリート、ガラス、他素材を問わずもりもりもりもり食べる食べる。何が美味しいのか、それとも質より量なのか。本能の命じるまま、ただひたすらに食べ……巨大化の一途を辿る。
「野次馬の皆さーん! ここはこれから戦場になるっす! 撃退士に任せて避難するっす!」
 大谷 知夏(ja0041)の呼びかけに住人たちは目の色を変えた。
 遅い、早くなんとかしてくれ、頑張れマジ頑張れ、負けたら承知しない等種類豊富な声援を受けて、やってきた撃退士10人の内数名は苦笑を浮かべた。
「巨大なシロアリか。正直、あまり正視したいものではないが……躊躇しているヒマはなさそうだ。ここはひとつ、害虫駆除といこうか」
 冷静に呟く梶夜 零紀(ja0728)。
 実際その顔は特撮映画の怪獣に引けを取らず凶悪で、建物を囓る歯は鋭い。体も白というより茶褐色で、体の中が半分透けて見えて気色悪いことこの上なかった。
「久々に撃退士らしいお仕事ですね。不謹慎とは思いますが、腕がなります」
 にこにこと微笑むエイルズレトラ マステリオ(ja2224)。
(シロアリねぇ……あれはあれで前衛的な芸術家だと思ってんだぜ、俺)
 ギィネシアヌ(ja5565)はあえて口に出さず巨体を観察する。声に出したら誰かしらに怒られる気がしたのだ。
「今から攻撃を仕掛ける。近づくんじゃねぇぞ!」
 相川 二騎(ja6486)は拡声器で念押しをしてトンファーを構えた。
「これがシロアリか……、初めて見るけど思ったよりグロテスクだね。とにかく、早いとこ倒そうか」
 阻霊符を展開したグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)は、あー…と何とも言えない声を発する。阻霊符はあくまでも天魔の透過能力を阻害するものであって、力任せに破壊された場合ほぼ無意味の代物となるのだ。実際シロアリたちは気にせず、というか気付かずにバリバリと建物を咀嚼している。
 敵の数に合わせて3班に分かれた撃退士たちはそれぞれ行動を開始した。

「今回は見敵必殺……解りやすくて宜しい。敵の見た目があれですが……見た目麗しい悪魔や天使より、シロアリ型の雑魚の方が楽ですね。それに……たまには前線に出ないと腕が鈍ります」
 豊満すぎる胸をぽよんと弾ませてアーレイ・バーグ(ja0276)は言うが、その服装は異様に露出度が高く、こんな危急時でもなければおまわりさーんと叫びたくなるものだった。
 別段昆虫に対する嫌悪感のない彼女と違って、エリス・K・マクミラン(ja0016)は思わず鳥肌を立てていた。
(……あれだけ小さくても気持ち悪いシロアリが巨大化しているなんて…考えただけでも恐ろしいですね…。うようよ居ないだけがせめてもの救いです。……しかしいくらサーバントとは言え、直接殴るのには流石に抵抗感が…………ですが、そんな事言ってたらいつまでも倒せませんし、ここは我慢するしかないですか……)
 躊躇うのも無理はない。エリスの武器は近接専用で、更に言えば拳を叩き込むとか蹴るとか格闘に類するものなのだ。正直普通のシロアリでも素手で触りたくない。
「これ以上被害が大きくならないうちに倒さないとねぇー」
 三節棍を勢いよくシロアリの腹に叩き込んだ遊間 蓮(ja5269)はちらっと頭の方を見て、
「……ちょっとは効いてる〜?」
 疑問系で首を傾げるくらい、反応が見られない。
「基本的な平押しで勝てるならそれに越したことはないのですが……お相手はどうでますかね」
 アーレイはシロアリの頭部を狙って風の渦を発生させる。うまく行けば相手の行動を止められる、と思ったのだがシロアリは食事を中断してピン、と触覚を彼女の方へ向けた。どうやら食事の邪魔をされたと感じたようだ。
「建物に害する存在であるだけでも害虫であると言うのに、ゴキブリ目であると言うのなら、尚更許しがたき害虫です。害虫は……大人しく駆除されるべきです……!」
 エリスは気合いを入れ直し、シロアリの注意がアーレイに向いた瞬間を狙って、ゆらりと黒炎の浮かんだ拳を腹部へ叩き込む。スパァンと小爆発を生んだ一撃は重く、僅かだが敵の巨体が僅かに揺らいだ。
 しかしシロアリも黙ってはいない。頭部の角から青紫の粘液を飛ばして邪魔者を排除しにかかった。

「Gの付く悪魔の仲間っすか、早急に倒さないと、どこからか沸いて本家の巨大Gとかも来そうなので、害虫退治を頑張るっすよ!」
 そんな馬鹿な。
 冗談とも取れる発言をして、知夏は近くに空き地がないか建物の屋根から周囲を見回す。残念ながら住宅街でシロアリの巨体を誘導できそうな戦地は見当たらない。あえて言うなら、食事の完了した建物跡が一番の空き地である。
「ぽんぽこの次はアリか」
 巨体に圧倒されつつも冷静にタイミングを見計らう。
「二騎先輩! グラルス先輩! こっち側に誘導するっす!」
 知夏の声に応えて、まずは注意を引くために腹部にトンファーの打撃を叩き込む。しかし妙にふにょんとした手応えだ。
「ちっ、柔らけぇな、こっちの攻撃きいてんのか?」
 蓮と似た感想を抱くが、間を置かずグラルスが魔法を放つ。
「速攻でいくよ。……黒玉の渦よ、すべてを呑み込め。ジェット・ヴォーテクス!」
 黒い風がシロアリを呑み込むように渦巻くと、その巨体がぐらりと傾いだ。食事を中断してゆっくりと後退し、数珠状の触覚がふるふるとあちこちに向かって振られる。平衡感覚を失ったシロアリに、二騎と知夏はこれでもかと攻撃を繰り出す。人間なら目を回した状態だが、残念ながらこのシロアリに目はない。
「やるじゃねぇか。こっちも負けてられねぇナ」
「チャンスっすー!」
 柔らかい腹部が破け体液がでろりと出てきたのには閉口したが、3人は確実にダメージを与え続けた。

「敵戦力はシロアリ型か……戦術、戦略兵器としては悪くないコンセプトだ。重要施設、拠点攻略戦用の突撃仕様。奴らの目的が市街地ではなく、原子炉とか軍の駐屯地なら戦略拠点襲撃兵器としては最高だな」
 新田原 護(ja0410)は物騒なことを冷静に分析し呟く。確かに阻霊符の効果を力押しで無意味に変え、建物を食べて巨大化する相手は厄介極まりない。
「被害を抑えるために、食欲よりもそれを妨害するものである我々に目標を向けさせる!」
 行動を命じる司令塔がいないのは不幸中の幸いかもしれなかった。
「新田原先輩、お久しぶりです。一緒に戦えるとは光栄の極みです。後武運を」
 軽く挨拶をしてエイルズレトラは、シロアリの腹部をアウルを集中させた指先で撫でる。するとシロアリは苦しそうに身もだえ始めた。
「あはは、自分も毒を持ってるのに毒に弱いんだ」
 ギィネシアヌはその毒を封じようと頭の角を狙って弓を構える。
「厄介な能力はさっさと潰させてもらうぜ」
 引き絞った矢に八匹の深紅の蛇が絡みつき、矢そのものに姿を変える。ヒュッと放たれた矢は螺旋の軌跡を残してシロアリの角に命中する。
 空気を振るわせ、シロアリは声にならない絶叫を上げた。
「支援射撃するぞ。いい銃をゲットした祝いだ。受け取れ」
 間を置かずに護が残った角を銃で正確に撃ち抜く。シロアリは巨体を揺すって暴れ始めた。6つの足がばたばたと
「食欲だけでなく、しぶとさも並以上か? だが、いつまでも耐えられると思うな!」
 零紀は大上段にハルバードを構え、防御が薄いと思われる腹部を一気に切り裂く。どばっと吹き出た体液は彼の影を掠めることもできなかった。

 べちゃっと毒液を被ってしまったアーレイはあくまでも冷静に呟く。
「ふむ……あの頭部は厄介ですね。叩き潰す……のが理想ですがまずは無力化しないと」
 魔法書を掲げ、再びアウルの力で竜巻を発生させシロアリを追い込もうとする。
 だが怒ったシロアリはものともせずにアーレイに向けて巨大な口を開き襲いかかった。
「うわ! 間近で見ると余計気持ち悪いな!」
 アーレイの腰を攫って紙一重で攻撃を避けた蓮は軽口を叩く。ガギンと硬いものがぶつかる音がする。おそらくは口を閉じた音なのだろう。
 ふわりと着地してから助けられたことに気付いた彼女は目をぱちくりさせて丁寧に礼を述べた。
「ありがとうございます」
「いやいや、これがボクの役目だよ、アーレイちゃん」
 攻撃より仲間のフォローを最優先した蓮がシロアリに視線を戻すと、エリスが強烈な蹴りの一撃を入れるのが目に入った。それでも倒れない敵にいっそ感心する。
「なかなかしぶといね〜」
 とはいえ、食事を中断させることはできた。後はありったけの火力で叩きつぶすのみである。

 うまくシロアリの動きを止めることができた知夏たちの戦いは終わりが見えてきていた。
「そろそろ止めだ。……弾けろ、柘榴の炎よ。ガーネット・フレアボム!」
 何とか動こうとしたシロアリの割けた腹に紅の炎を纏った結晶が直撃して小爆発を起こし、やがてその巨体は動かなくなった。
「よし! 1匹仕留めたな!」
「やったっす!」
 二騎の言葉に知夏は小さくガッツポーズをして、他の班の様子を伺う。

「そぉら、悪食。俺の竜でもたっぷり喰わせてやんぜ!」
 射程を犠牲にしたギィネシアヌの凶悪とも言える一撃は、三つ叉の蛇を生み出しシロアリに食らいついたのだ。彼女が抱く悪のイメージが形を得、暴力の塊としてサーバントを襲う。
 エイルズレトラによって幾重にも行動を制限された敵にもはや逃げ道はない。
「遠距離射撃は専門だけどな。必要ならゴキブリの仲間のお前さんにはハンマーで叩き潰すのが似合いだろ?」
 微笑みながら落とされる護の重いハンマーと、
「……貪欲なる者に裁きの鉄槌を」
 静かな呟きと共に繰り出される零紀の鋭いハルバードの攻撃に耐えられず、シロアリは倒れた。

「ヘイヘイ! 待たせたなっ俺様参上!!」
 残り1匹のシロアリを倒しに瓦礫の上からギィネシアヌが格好をつけて飛び出す。
「これは、毒だね。厄介だな……。すぐに治すよ。緑柱の光よ、毒を消し去れ。ベリル・レジスト!」
「回復は知夏に任せるっすよ!」
 グラルスと知夏によってアーレイの傷はすぐさま癒される。
「まだまだいくよ?」
 エイルズレトラの手から放たれた霊符は火の玉となってシロアリの頭部に直撃する。
 それだけでもたまらないのにエリスや蓮、二騎、護、ギィネシアヌ、零紀と総攻撃を食らって無事に済むはずがなかった。劣勢に追い込まれたシロアリはあっという間に骸に成り果てたのだった。


「敵撃破完了」
「駆除終了。黒いアレも嫌だが、白いのも気持ち悪いものだな。数が多くなかったのは幸いか…」
 護と零紀はそれぞれ呟き、
「随分と食い荒らされたなあ。けど、人が生き残ったなら大丈夫だ。僕らは…人類は虫けら以上にしぶといからね!」
 エイルズレトラはあっけらかんと感想を述べる。
「シロアリで良かったと思うべきでしょうか……私は平気ですが……全長5mのゴキブリの相手となったら精神的ショックが大きい人もいるでしょうし。日本人のゴキブリ嫌いは正直ステイツ育ちの私には理解しがたいところがありますね」
 アーレイは的外れな意見を口にする。ゴキブリでなくても衝撃は衝撃なのだ。
「んーやっぱ芸術は爆発、だよな?」
 ニヤリと笑うギィネシアヌは銃撃戦を芸術になぞらえるが、残念なことに手に持っているのは弓だったりする。
「さて、と。瓦礫を片付けないとな」
 二騎の言葉に知夏も頷く。
 戦闘こそ終わったものの、シロアリに食い荒らされた街の一角は酷い有様だった。土台だけを残して、確実に十軒以上が食われている。様子を伺っていた人々がぽつぽつと戻ってくるも、家を食われたことへのショックは隠せない。そうでなくても巨大なシロアリに出くわすという事態に殆どの人が放心してしまっていた。
 エイルズレトラのように楽観視するには、彼らには耐性が少なすぎた。
 そんな人々に蓮は明るく笑いかける。
「前よりもっと素敵な家にリフォームしちゃうのはどうです〜?」
 リフォームというより完璧に建て直しなのだが、前向きな言葉にある女性は吹き出した。
「そうね、命あっての物種だもの! 助けて下さってありがとう」
 その言葉をきっかけに、ゆっくりとだが人々は動き始めた。
「ヤーヤー、猫の手も借りたいぜッて人は声をかけてくれだぜー」
 拡声器で遊ぶようにギィネシアヌは呼びかけ、それに便乗するように護も話しかける。
「怪我人や生き埋めになった人はいるか?」
 いたら助けなければと思っていたが、幸い重傷を負った人はいなかった。せいぜい逃げ出す時に慌てて転んで擦り傷を作った程度だった。
 やがて次々と人がやってきて、若い撃退士たちにお礼の言葉を告げたのだった。



●害虫駆除業者の嘆き
(……悪夢を見そう……)
 昆虫に慣れていないエリスは吐き気をこらえぶるりと身を震わせる。
「早く帰って熱いシャワーでも浴びたい所だな……」
「……ううん。このネバネバは洗ったら落ちるでしょうか? お気に入りの服なんですけど」
 零紀の溜息とアーレイの呟きに応える者はいなかった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Drill Instructor・新田原 護(ja0410)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 魔族(設定)・ギィネシアヌ(ja5565)
 害虫駆除業者・相川 二騎(ja6486)
重体: −
面白かった!:6人

BlackBurst・
エリス・K・マクミラン(ja0016)

大学部5年2組 女 阿修羅
癒しのウサたん・
大谷 知夏(ja0041)

大学部1年68組 女 アストラルヴァンガード
己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
Drill Instructor・
新田原 護(ja0410)

大学部4年7組 男 インフィルトレイター
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
不器用な優しさ・
梶夜 零紀(ja0728)

大学部4年11組 男 ルインズブレイド
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
遊間 蓮(ja5269)

大学部5年165組 男 アストラルヴァンガード
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
害虫駆除業者・
相川 二騎(ja6486)

大学部5年63組 男 阿修羅