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マスター:黒井ネロ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/02


みんなの思い出



オープニング


 山の裾野に広がるとある町の丘の上に、殿と呼ばれ親しまれている男が住んでいた。
 その男は小さな頃からの夢を叶え、丘の上に城の形をした家を建てたのだ。町の名物として観光客にも人気で、男の亡き後は資料館としても利用されていた。
 城の造りも見事ながら、収蔵されているものにも価値があると町が判断したためである。
 そんなある日のこと。
 賑わいをみせた日常は、その日を境に非日常へと急転した。


 夜一〇時。
 城の管理を任されている組合の男は、その日も城内の異常がないかをパトロールしていた。
「交代制とはいえ、毎夜毎夜見て廻る意味があるのかねぇ」
 異常なんてあるわけがないのにと、男は面倒くさそうに一人ごちる。
 城は地下を含めて、四重の五階建て。基礎は鉄筋だが、全ての階の内装は和装飾で統一されている。
 下から順に見て廻るが、いつもどおり異常なし。
 三階までのチェックを終え、男は幅の狭い階段を上り最上階へ足を踏み入れた。
 そこは天守閣になっており、家主が代々受け継いできた家宝が上座に置かれ、ガラスケース越しに飾られている。
「妖刀村正か。昼間なら美しいと思うけど、夜中は不気味に見えてくるのは何でだろうなー」
 懐中電灯で照らすと、刀の奥には鎮座する黒塗りの甲冑が。口を開ける黒い面頬が笑っているようで、薄ら寒い。
 気温的には別に寒くもないのに、男は腕を摩りながらチェック項目を見ていく。
 階段のすぐ側には足軽の鎧が二領。安物合金製のただの飾りだ。適当に流し、少し進む。次は穂先を丸めた槍と共に飾られた足軽鎧。ガラスケース横で斜に構えて静かに立っている。これも特に問題ないのでスルー。
 そして一番重要なケース内。
 差し込む月明かりを浴びてぬらりと光る、飾台上の抜き身の刀身。箱乱れの波紋は血を吸ったように赤く――、
「ん? 赤いッ?」
 男は見間違いではないかと眼をこする。しかし、やはり刀身は真っ赤に染まっていた。
 それだけでなく、なにやら呻き声のようなものも聞こえてくる。
 奥の甲冑に眼を凝らすと……。
「――こっちもかよ!」
 甲冑の目元が赤く輝いていた。しかもどうやら、鎧から何かが刀へ流入しているらしい。その度に脈動するように輝き瞬く。
 男は気味の悪い現場から早く立ち去りたく思い、チェック業務を放り投げ急いで踵を返した。
「っ!?」
 が、すぐさま驚愕に目を瞠る。足軽の鎧が三体、階段を塞いでいたのだ。
 動くはずのない物体が動き、出口を塞がれ、男の脳内はパニックに陥る。
「お、おい、誰か入ってんのか? 悪い冗談はやめろよ」
 誰か入っていたのなら。そんな希望的観測も空しく響く。見ればそんなことはないと、嫌でも分かりきってしまう。
 陣笠の下には、顔などないのだから。
 ――ガシャーン!
 突然、背後でガラスが割れる音がする。
 ケースは強化ガラスで出来ているはずだ。生半可な力で割れるようなものではない。
 男は肩を強張らせ、恐る恐る振り返る。
 そこには、血塗れの村正を手にした、武者の姿があった。鎧の所々から漏れ出る黒い霧状の何か。兜と面頬の隙間から覗く赤い瞳。赤く輝く村正から鎧へと伝わる赤紫のオーラが、魍魎の形を成して背後で浮遊している。
 これはただごとではない。男は現状を把握し、いまさら危機的であると認識する。
 足軽に退路を絶たれ、目の前にはゆっくりとした動作で村正を振り上げる鎧武者。
 いよいよ以って拙い。
 そう解釈し、死の過ぎった頭へ、静かに振り下ろされた妖刀――。
 断末魔の悲鳴を上げることなく、男は真っ二つに斬り裂かれて絶命した。

●斡旋所
 その日も、女性職員は依頼書の確認に追われていた。
 分別作業の途中、ふと手を止める。
「資料館の鎧武者……?」
 これはまた変な天魔が現れたものだ。そう思いつつ、目を通す。
 被害者は三人。死者二名の重傷が一名。
 最初の犠牲者が出た時点で城は閉鎖されていたため、観光客の犠牲は防げたのだが。はっきりと何の仕業かを見極めるために組合は二人体制で見廻らせた。
 しかし、内一名は村正に斬られて死亡。目の前で肉が削げ落ち骨だけになる姿を、助かった男は目撃したそうだ。
 辛うじて逃げ延びたその人物は、外廻縁から屋根伝いに降りたらしい。しかし二重目の屋根から足を踏み外し、植え込みに落下。骨盤を折る怪我をした。
 その男の証言により、天魔の仕業だと確認が取れ、学園に依頼をしてきたというわけだ。
「早急な解決を、か」
 職員は立ち上がり、掲示板に依頼書を貼りだした。


リプレイ本文


 山の麓。
 町から少し離れた丘の上に、夜陰に紛れるようにして城が建っている。
 背にした月光が輪郭を縁取り、朧気だが確かなものとしてその存在を夜闇に浮かび上がらせていた。

「へぇ、見た目はしっかりとした城なんだな」
 蛇のような黄金の瞳で城を見上げ、ジョン・ドゥ(jb9083)は呟いた。
「確かに、外観だけならこれが普通の家だとは思いませんね」
 黒羽 拓海(jb7256)が同意しそれに頷く。
「件の武者は、情報通りなら天守にいるみたいだけど」
 最上階を眺め、眼鏡をくいっと押し上げながら黄昏ひりょ(jb3452)。
「妖刀村正か…意外と近いところにあるものだな」
 自身のヒヒイロカネを見つめ、牙撃鉄鳴(jb5667)は零す。
 そんな中。細く頼りない光が右へ左へと乱れ踊っていた。出所を辿る。と、
「妖刀と武者……刀使いとしては負けられないね!」
 不知火あけび(jc1857)はペンライトを手にしながら、どこか興奮した様子で張り切っている。
 だが、興奮しているのは彼女だけではない。
「お城…鎧武者…妖刀…戦国っぽい…ジャスティス…」
 傍からはそうは見えないが。ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)も、戦国時代チックなシチュエーションにあけびとは別の意味でドキドキしていた。

 外観の見物もそこそこに、撃退士たちは城内へ足を踏み入れる。
 城門という名の玄関をくぐると、もうそこから資料館になっていた。生活感のある土かまどや茣蓙などがあり、家主の拘りがそこかしこで見え隠れしている。
 板張りの二階と三階は部屋ぶち抜きでガラスケースが点在。中には町の成り立ちに関する資料や家主の家系図、そして刀剣類や刀装具、具足の一部などが展示されていた。
「この上か……」
 鉄鳴の呟きが静かな室内に小さく響く。
 その声に振り返り、興味深そうに展示物を見ていたベアトリーチェは急ぎ足で皆に合流した。任務を終えた後にじっくり見学すればいい、と。
 幅の狭い階段下に集まった仲間を前に、魁であるジョンは光纏し翼を広げ、
「じゃあいこうか。先に一般人を多対一でブッた斬ったんだ。武士道も何も無いだろ?」
 紅魂を使用しつつまるで御用改めであるかのように宣言する。
 何も敵に合わせて正々堂々と勝負する必要はない。先に汚い手を使ったのは相手の方だ。所詮は天魔。要は叩き潰せばよいだけ、単純なことだ。
「大将首…トルゾー…」
 二番手に飛び出すベアトリーチェも翼を展開。ジョンの後ろに控え、まだ見ぬ相手に高揚しながら口にする。
 後続の者も頷くと、それを合図にジョンは一気に天守閣へ侵入した――。

 天守に横たわる静寂が、階段を駆け上がる音により突如として破られた。
 それをあらかじめ察知していたかのように、上座に座していた武者が静かに立ち上がる。
 刀の柄に手を添え鞘走らせた、その時――階下へと続く階段から勢いよく飛び出してきた影三つ。
 武者が妖刀に魔力を込めると、それは血色を帯びてなにかを噴霧した。
『ォオオオオオオオオオ』
 唸り声を上げる撒き散らされた怨霊。それらに呼応するように、足軽たちが動き出す。

 天井すれすれを飛行するジョン、ベアトリーチェは足軽に目もくれず、奥で村正を構える武者へと急行する。
 まず先陣を切ったのはジョンだ。天井近い場所から洋弓を放つ。矢は風を切り、武者の脚部へ射られた。
 刺さるか刺さらないかの刹那――、武者が刀を返すと猛烈な風圧を伴う斬撃が繰り出される。割れる窓ガラス。矢は風に巻き込まれ、切れ味鋭い村正によって真っ二つにされた。
 なるほど、ジョンは口の中で小さく呟く。武者が足を止めていることに憶測をたて、続けざまに矢を連続で放った。
 それら全てを武者は切り払う。
「そこで一生チャンバラしていな!」
 その場から動かない武者に、ジョンは不敵な笑みを浮かべそう吐き捨てた。
 矢を払うたびに巻き起こる苛烈な風によろめきながらも、ベアトリーチェは床へ着地。と同時に、一足飛びで移動し敵と一定距離を保ちながら、フェンリルを召喚した。
 魔法陣から咆哮を上げながら現出したオオカミのような獣は、主人の命に従い行動を開始。
 振り回される刀を掻い潜り、鋭い爪を以って武者へと飛びかかり鎧に一撃加えるとその場から離れる。
 ベアトリーチェはアサルトライフルで射撃に転じ、フェンリルを援護。
 矢と弾丸が雨霰のように降り注ぐが、武者は最小の動きでその悉くを切り払った。鉄屑と化した無数の弾と矢の残骸が畳の上に散らされた。
 その様子を見ていて、
「今宵の…村正は…血に…ハングリー…?」
 ベアトリーチェはアニメみたいだと興奮する。

 二人に続いて天守へ飛び出した鉄鳴は、階段付近に陣取る足軽を飛び越え、ホバリングしながら槍を持つ足軽を照準する。
 あらかじめ安全装置を外しておいたレールガンで、槍を持つ手首を狙った。装甲も薄く、吹き飛ばせば武器を持てなくなる。
 ――ダンッ!
 砲声轟かせた鉄鳴の射撃は、正確だった。足軽が槍を振りかぶったその動線を予測し、射速を計算し引金をひく。
 狂いなく射抜かれた右手首は吹っ飛び、続けて放った弾丸は左手首をも破壊した。よろめく足軽へさらに無慈悲な追撃を加えるためリロード。
 三点射撃によって頭部、胸部、腹部を早業で射抜くと、槍足軽は踊り狂った後、黒い霧のような何かが昇天するように抜けていき完全に沈黙。
 鉄鳴は銃を排熱しつつ、武者と対する仲間の援護に向かう。

 最後尾から階段を上がったひりょ、あけび、拓海の三人は、手前の足軽に相対していた。
「こっちだ!」
 まずひりょが特殊なアウルを身に纏い、【タウント】で二体を引きつける。
 先に行った三人へ体を向けていた足軽たちは、ひりょへ標的を変更した。
 手にした刀を振りかぶり、二体揃い踏みでひりょへ斬りかかる。
 それを同時に受け防御すると、
「――あけびさん、黒羽さん!」
「了解ッ!」
 あけびはひりょを巻き込まぬよう注意し【土遁・土爆布】を繰り出す。
 アウルによって作り出された無数の土塊は足軽をしたたかに打ちつけ、その鎧をベコベコに凹ませた。辛うじて残っていた邪魔なガラスも砕け散る。
「村正を佩いた鎧武者の化け物とは、またベタな都市伝説を思わせる姿だな――」
 拓海は、チラと武者を気にかけつつも、
「――鬼剣・新月」
 片刃の直刀を刹那的な速さで振り抜く。月光を浴びた刀身が宙に残像を引き、その軌跡が消えていくと同時に足軽たちの鎧が真ん中辺りで横にずれた。
 先と同様、黒い霧状のものが抜けていき、二体は共にがらがらと崩れ落ちる。
 それを最後まで見届けることなく、三人は武者の元へと駆けた。

 天井付近から矢を射続けていたジョンは、今しがたフェンリルの放った【ハイブラスト】に注視していた。
 咆哮と同時に放たれた雷弾を、切り払うことなく武者は真正面から受けた。そこまではいい。が、受けたことで切り払えなくなり、本来なら矢や弾丸は武者に届くはずだった。
 しかし受けると同時に刀から発生した赤紫の魍魎たちが、雨霰の威力を全て相殺した。
 初めの目測を誤ったことに、ジョンは少し歯噛みする。が、その表情に落胆は見られない。もう一つ、得るものはあったからだ。
 ジョンはとある友人に感謝した。以前のような前衛一辺倒だった戦闘スタイルでは、もしかしたら気づけなかったかもしれない。
 思慮している間に、足軽組も合流した。
「揃ったか……!ここからは俺の世界だ……!」
 ジョンが叫ぶと、彼の背後に真紅のレンガ造りの城塞の幻影が一瞬だけ浮かび上がる。
 味方を護る障壁が張られる結界、【七耀城塞】を展開した。
 ベアトリーチェは皆がスキル範囲内にいることを確認、
「…えいえいおー」
 どこか緊張感の欠けた鼓舞を口にする。と、フェンリルがそれに呼応するように力強く咆哮を上げた。
「そうだ。ベアトリーチェ、ハイブラストはまだ残ってるか?」
 ジョンの問いかけに少女はこっくりと頷き、
「あと…一回…だけなら…」
「十分だ」
「ジョンさん、なにか分かったんですか?」
 満足げに笑みを浮かべる彼へ、あけびは訊ねた。
「まあな。とりあえずみんな好き勝手暴れてくれ。その時になったら指示を出す」
 内容を知らされないことに疑問を抱きながらも、一同は武者の方を見た。
 いまだ引っ掻き、噛み付き、攻撃を加えては離脱する。従順に主の命令を遵守するフェンリルを見遣り、自分たちのやるべきことを再認識した撃退士らは攻撃を再開する。
 ベアトリーチェ、鉄鳴はライフルとレールガンにて弾丸の雨を浴びせる。
 拓海は闘気を開放しつつ、切り払いに応じている隙をついて背後から斬りかかる。しかし寸でのところで武者は素早く回転切りに転じ、拓海の剣撃を弾いた。あわや拓海に刃が触れようかという瞬間、紅いレンガが現れそれを弾く。
「重そうな鎧着てるくせに随分と身軽だな。とび職にでも転向した方がいいんじゃないのか?」
「とび職で鎧う意味が分かりませんけどね」
 上空から聞こえた鉄鳴の呟きに、あけびは頬を掻く。
 が、ひりょの放った呪符による【遠当・魔】を目にした時だ。あけびは瞠目した。
 氷の刃を受けた村正が魍魎を吐き出すと同時。一瞬だけ血色の被膜が剥がれかけたことに気づく。
 見上げたジョンの口元に、含んだような笑みが浮かんでいた。
「物理にも魔法にも強い。武者はそうでなくちゃね……負けないけど!」
 そういうことなら、と。あけびは横薙ぎに腕を振るうと、火焔が発生し逆巻いては蛇の形を成した。
 炎の蛇は直線を進み、しかし、武者の村正に消し飛ばされる。
 忍びゆえの目敏さか。硝煙弾雨、雨霰、吹き荒れる暴風に魔力の奔流の中にあっても、あけびはしかとそれを見咎めた。
 さらに激しさを増す戦場。
 近場で斬り結んでいた拓海がナイフに持ち替え投擲の構えを取った、その時――
「いまだ! ありったけ撃ちこめ!」
 ジョンが号令を発した。自身は時計の針を模した真紅の槍を放つ。
 ひりょが氷の刃を飛ばし、ベアトリーチェはライフルを掃射しつつフェンリルに指示。大口を開けた獣は雷弾を発射。
 あけびは再び火遁を放ち、拓海はナイフを投げると同時、刀に換装。
 鉄鳴は切り払われることに辟易し、紅炎が如くアウルを噴き上げる村正を抜いていた。
「狙撃しか能がないと思ったか?」
 誰にともなく呟き、天井すれすれから全力移動。知る者はほとんどいないが、接近戦も狙撃並にこなせる実力の持ち主だ。
 武者は撃退士らの攻撃総てを村正一本で凌ぐ。
 弾丸の切り払いを止め、迫り来る魔力を受けるために村正の魔力を開放した。
『ォオオォオオオオォオオオオオオ』
 飛んできた紅い槍を、雷弾を真正面から受けると同時、噴き上げる数多の魍魎たち。弾丸を巻き込み、炎の蛇を、氷の刃を続けざまに受けた刀身は徐々に血色の被膜が剥がれ落ち――
 魔法を防ぎ切った直後、武者は弾かれるように仰け反った。手にする村正はすっかりただの日本刀と化している。
「はっ!」
 間髪入れず小さく息を吐き、拓海は村正を持つ武者の背後から、鎧われていない肘を切り落とす。ガシャリと、村正は腕ごと床へ落ちた。
 君主かはたまた裁定者か。王笏のような金色の槍を手にしたジョンは、着地し武者へ接近。腕を飛ばされガラ空きとなった脇腹へ、強烈な一撃を振り抜いた。鬼の唸り声が如く哭く槍は、薄闇に漆黒の軌跡を残す。
 抉られた鎧の脇から濛々と黒煙が噴出した。
「……終わりだ」
 囁くように言って、武者の上空から鉄鳴が急降下。
 全体重を落下の勢いに乗せて紅炎村正を切り下ろす。武者兜を、その下の面頬をかち割り、流れるように刀を返しては首を刎ねた。
「村正が村正を持つ武者を討ち取るか。皮肉だな」
 鎧から漏れ出す黒煙は勢いを増し、全身から抜けて消える。
 音を立てて甲冑はバラけ、天守に静寂の帳が下りた。

●任務終了
 シンとした静寂の訪れた天守閣。
 先の烈しい戦場が嘘のように静まり返っている。
「ずいぶん散らかりましたね」
 ひりょは室内を見回しながら言った。
 壊れた鎧四領、暴風による窓ガラスの割れと、畳のめくれ及び獣の爪跡。そして、元から割れてはいたが散乱した強化ガラス。
「まあ、被害を最小に抑えた方だとは思うけどな」
 ジョンが首をすくめながら答える。あれだけ暴れてこの程度なら御の字だろう。
「村正は無事ですしね」
 部屋の隅に転がっていた飾り台を起こし、村正を置きながら拓海。
 客寄せにまだこの城を使うのかは分からない。が、村正は目玉であることに違いないだろう。
 月光を浴びては反射する艶めく刀身を横目に、鉄鳴は物思いに耽る。
 妖刀村正は贋作も多かったと聞く。本物の村正は、芸術性よりも実用性を重視した刀だ。果たして見た目に美しいこれが本物だったのかは定かではないし、自分が持っているものも本物の村正なのか判断は出来ない。が、刀など切れればそれでいい。
 結局、鉄鳴の結論はいつもそこに行き着くのだ。
 あけびは差し込む月明かりを見遣り、手を合わせ犠牲になった人達の冥福を祈る。
 ベアトリーチェは一人、階段から暗い階下を見下ろしては、見学再開を心待ちにしうずうずしていた。

 ――帰り際。
 入館料無料貸し切り状態の資料館を、ベアトリーチェの要望通り皆で見て回った。
 楽しそうな少女の様子に、戦闘で気が立っていた撃退士らも頬を緩めたのだった。


依頼結果