●勇者の墓
撃退士達は、群れて襲いかかるスライムやゴブリンを薙ぎ倒し、勇者の墓の最奥まで到着していた。
「よくぞきた」
そこで、勇者のものと思われる棺に不遜に腰かけて、全身を黒い鎧で覆った騎士が撃退士達を待ち受けていた。地の底から響いてくるような声が、鎧の奥から発せられる。
「だが あいにくだったな おまえたちがさがしている ひかりのもんしょうは ここにはない」
「なんだって!?」
命図 泣留男(
jb4611)通称・メンナクは驚きの声をあげた。
「わがしめいは もんしょうをさがしに のこのことやってきたものの いきのねをとめること! ここを おまえたちの はかばとしてやろう!」
「いや ゆうしゃのやろ!?」
「いくぞっ!」
亀山 淳紅(
ja2261)のツッコミを無視して、黒騎士が駆けだした。
君田 夢野(
ja0561)がすかさず黒騎士の前に出て、大地ごと裂くような勢いで振り下ろされた黒塗りの剣を空気から生み出した盾で受け止める。
黒騎士の剣は盾を真っ二つに切り裂いてみせ、夢野はそれを手にしたツヴァイハンダーで食い止めた。
「ぐっ」
全身にのしかかる黒騎士の剣の重さを、夢野は歯を食いしばって耐えた。
「くくく きさまもけんしか いざ じんじょうに しょうぶ……」
「あー わるいけど……」
夢野が苦笑しながら、一歩後退した瞬間――
ヒューン
とすっ
そんな軽い音がして、黒騎士の頭に矢が突き刺さった。シルヴィア・エインズワース(
ja4157)が射った矢だ。
「のおおおぅ!?」
黒騎士が矢の刺さった部分に手をやり、悲鳴をあげた。
そして、シルヴィアの矢を皮切りに、撃退士達は次々と攻撃を仕掛けていく。
マリア・フィオーレ(
jb0726)の放った不可視の矢が黒騎士の鎧を刺し貫き、淳紅は謳うように魔法を唱え黒騎士の全身を焼き尽くす。
「ちょ まっ おまえたち えんきょりこうげき おおくないか!?」
何やら抗議してきた黒騎士を、綿貫 由太郎(
ja3564)の射撃が黙らせる。
続いて、蒼井 明良(
jb0930)が黒い魔法書から影の槍を放ち、メンナクはズボンのチャックを下ろすと、そこから輝くナイフを撃ち出した。
「お おのれぇ」
足にきたらしい黒騎士がよろめきながら唸る。そんな彼の背後にそっと忍び寄った円 ばる(
jb4818)が後頭部にせいどうのつるぎを叩きつけた。
ごいん
といい音がして、黒騎士が前のめりに倒れる。その倒れた先に尖った岩がそり立っており、黒騎士は顔面からそこに突き刺さった。
「なんか わるいことをしてしまったような……」
倒れて動かなくなった黒騎士を見下ろし、シルヴィアが申し訳なさそうに呟いた。
「だが ここにもんしょうがないとなると どこにあるんだろうな」
由太郎が腕を組んで考える。
メンナクも下ろしていたチャックを上げ……
「おっと いけねえ しょうじょのくれた たからものを おとしちまったぜ」
メンナクのポケットからコインのようなマント留めが転げ落ちた。
「それは! ひかりのもんしょう! どうしておまえがもっている!?」
倒れていた黒騎士が、ガバリと起きあがった。その拍子に、兜の面当てが割れ、黒騎士の素顔が覗く。
「あら イケメン」
マリアが思わずそう呟くほど。黒曜石のような輝きを持つ黒い瞳の青年だった。
「このマントどめなら ネコちゃんをさがしているこどもに メンナクといっしょに ネコちゃんをさがして かえしてあげたら くれたぞ」
ばるが入手の経緯を説明した。
「ということは このマントどめが ひかりのもんしょうなわけだな
だが なぜこれが ひかりのもんしょうだとわかった? おまえは もしや……」
「あなたは ゆうしゃさんですよね!?」
紋章を拾い上げた由太郎の言葉を遮って、明良が言った。
明良の真っ直ぐな瞳を見て、黒騎士は観念したように笑った。
「そうだ わたしは ゆうしゃ……だった」
「え? どういうことなん? ここは ゆうしゃのはか やろ?」
話についていけない淳紅が首を傾げた。
「ふっ ゆうしゃはすでにしんだ……ここにいるのは まおうのちゅうじつなるしもべ くろきし だ」
黒騎士が面当てから覗く素顔を隠しながらニヒルに笑う。頭に突き刺さったシルヴィアの矢が無ければ、かっこよかったかも知れない。
「わたしは にんげんの みがってさに ぜつぼうしたのだ……
とくに せいどうのつるぎと 10Gだけをわたして まおうをたおせとおくりだした おうに……」
(あー やっぱりそこかー)
と、皆は思った。というか1000年前からの伝統だったのか。
「だが まおうは てつのけん(物理攻撃力5)と 15Gと えいえんのいのちを わたしにあたえてくれたのだ」
(えいえんのいのちいがい たいしてかわんなくない?)
(ですよね まぁ せいどうのつるぎのあとだと てつのけんも かがやいてみえたのかも)
マリアとシルヴィアがヒソヒソと話し合っているのに気付かず、黒騎士は話を続ける。
「それでも もんしょうを たいせつにもってくれているひとが いたのだな……
ゆうしゃは わたしは わすれられてなどいなかったのだ……!」
(ネコちゃんと こうかんじゃったけどのう)
ばるが 空気を読んで心の中だけで呟いた。
「あらたなゆうしゃたちよ きみたちのたたかいに わたしは わたしがうしなった せいぎのかがやきをかんじた!」
(うしろからチクチクけずっただけだったけどな)
由太郎がやはり声には出さず呟き、黒騎士はまるでセリフをあらかじめ用意されているかのように喋り続ける。
「きみたちなら きっと まおうをたおしてくれるだろうが すこしでも きみたちのやくにたちたい……この てつのけんを うけとってくれ!」
『いりません』
今、8人の撃退士達の心が一つになった。
●魔王城
グオオオッ!
巨大な金色のドラゴンが激しく吠えた。狭い部屋がビリビリと震え、天井から砂埃がパラパラと舞う。
それにも動じず、夢野は竜の頭部に跳び乗ると、その瞳に剣を突き立てた。
撃退士達は、魔王城の宝物庫まで辿りついていた。
黒騎士を倒した撃退士達は、一度街まで戻って宿屋で休んでおり、気力は全快だ。その後、ザコを倒して手に入れた金で買い物をしようとしたのだが「きのぼう」やら「ぬののふく」しか無かったので、何も買わなかった。あと、せいどうのつるぎも売ろうとしたが、3Gだったので、わざわざ売るのも面倒くさくなってやめた。
ちなみに、黒騎士をパーティに誘った者もいたのだが「おれに まおうと たたかうしかくはない」とカッコつけて拒否された。
そうして乗り込んだ魔王城の宝物庫で、金色に輝く竜、ゴールドドラゴンと出くわしたのであった。
グアアアッ!
ゴールドドラゴンが激しく首を振って夢野を振り落とそうとし、夢野もしっかりと剣を握って耐える。
「きみたくん そのままよ」
マリアが色っぽく言って、不可視の矢を大口開けているドラゴンめがけて放った。口内でドラゴンの舌が吹き飛び、悲鳴すらあげられなくなったドラゴンがゆっくりと倒れていく。
「とどめです!」
すかさずドラゴンの首筋に駆け寄った明良が剣を叩きつける。パックリと割れた首筋から血が噴き出すと、金色のドラゴンはピクピクと痙攣し、動かなくなった。
「あれが バーストソードだな!」
ドラゴンの死体から飛び降りた夢野は、宝物庫の奥に突き立った、見事な細工が施された宝剣に駆け寄っていく。
「わー きれいなほうせきが いっぱいですよ」
一方、意外にも抜け目なく、シルヴィアは周囲の宝箱を物色しはじめた
「ねんがんの バーストソードを……」
夢野の手が宝剣に触れる瞬間――
「バーストソードは わたさん!」
夢野と宝剣の間に、黒いマントを羽織った大男が現れた!
「わがなはまおう! やみを すべるものなり!」
大男が名乗りをあげ、撃退士達は戦慄する。
「ふはは バーストソードがなければ わがやみのバリアはつらぬけまい!」
魔王が自慢げに言った。こんなところで魔王に出くわすと思っていなかった撃退士達は、完全に不意を突かれた格好になる。
「はわわ」と慌てながら、シルヴィアが抱えていた財宝を落とした。
「しねい!」
魔王が両腕を振るい、夢野を吹き飛ばす。石畳に叩きつけられた夢野は、激痛に呻き声すらあげられない。
「ゆめのっ!」
由太郎が拳銃で魔王を牽制するが、魔王の纏った漆黒のマントに弾き返される。
「ふはは かほどにもきかんわ!」
魔王が古臭い言い回しで笑う。
「そいつはどうかな!」
「なにっ!?」
今度は淳紅が魔王の前に立ち、今から舞いを始めるかの如く優雅に右腕を挙げる。そこには人差し指と中指で挟まれた光の紋章があった。
「くらえ! きんぴかふらーっしゅ!」
前振りとは裏腹な、くだけた掛け声と共に、淳紅の手の中で光の紋章が輝いた。
柔らかな光がまるでオーケストラのように、宝物庫中の宝石に反響し、部屋を包み込んでいく。
「うおおお!」
誰もが息を呑む美しい光景の中で、魔王だけが苦しんでいた。その体を覆っていた黒いマントが剥がれ落ちていき、蒼白い肉体が露わになる。
「ひかりのもんしょうは くろきしが……ゆうしゃが さかばでのんだくれているさいに おとしたといっていたはず!」
「それが めぐりめぐって じぶんのてのなかにあるっちゅーことは ゆうきはふめつってことの しょうめいや!」
魔王と淳紅が言い争っているうちに、メンナクが夢野に駆け寄り、革ジャンの前を勢いよく開いた。
「おれがはなつかがやきで おまえをとろかせてやるぜ!」
そこから放たれる銀色の光が、みるみるうちに夢野の傷を癒していく。
「サンキュー」
軽く礼を述べてから、夢野は再びバーストソードめがけて走りだす。
「いかせるか!」
魔王が夢野を追おうとする。その肩口に矢が突き刺さり、魔王はのけぞるようにして動きを止めた。
「こうげきが きくようになっています!」
矢を放ったシルヴィアがぜんいんによびかけた。
「ふぅん どれどれ」
マリアも宙に手を踊らせて不思議な紋様を描く。そこから生み出した不可視の矢を魔王に解き放った。
マリアの矢を魔王が弾いている隙に、夢野はバーストソードまで辿りついた。
「ねんがんの バーストソードを てにいれたぞ!」
殺してでも奪い取られそうなことを叫びながら、夢野がバーストソードを高く掲げる。
「しまったぁ!」
叫ぶ魔王に、明良が全力で剣を叩きつけた。
「あなたが ゆうしゃさんを のろったんですね!」
何故か黒騎士に異常な執着を見せる明良は、怒りに任せて叩きつけた剣を奥深くまで押し込む。蒼白い肌に食い込んだ剣の隙間から、緑色の血が流れ出した。
続いて、魔王の死角に潜り込んだばるも、せいどうのつるぎで魔王を殴りつける。
ポキン
軽い音をたてて、せいどうのつるぎが折れた。
「うーむ つかえんのう」
ばるは残念そうに呟いて、再びその気配を消し、闇に紛れた。
「さて フィナーレといくか」
夢野がバーストソードを魔王に向けて構える。
「ぐむむ……はっ そうだ!」
歯ぎしりしていた魔王は、突如として顔を輝かせた。
「わたしには これがあったのだ!」
叫ぶやいなや、魔王が怪しい光線を夢野に放った。
「うっ」
夢野は短く呻いたかと思うと、バーストソードを仲間達へと向ける。
「ゆめのさん!?」
明良が呼びかけるが、夢野の目は焦点があっていない。
「ふはは ひっかかったな! バーストソードをあえてあたえて せんのうする! これが まおうの タクティクス!」
「ついさっきまで 『しまったぁ!』とか『ぐむむ』とかいってなかった あなた?」
「きにするな! まおうのタクティクスは りんきおうへんなのだ!
ゆけい ダークゆめの!」
マリアのツッコミをまさしく臨機応変に回避し、魔王は変な名前をつけられた夢野に命を下した。
ダーク夢野は宝剣を振りかざし、撃退士達に襲いかかる。
「させるかぁ!」
すかさず淳紅が呪文を唱える。怪しい霧がたちまち夢野の周囲を包み込み、それを吸った夢野は眠りに落ちた。手にした宝剣が地面に落ちる。
「むう こしゃくな」
「そのことば そっくりかえすよ」
由太郎が目にも止まらぬ速さで銃を抜き放ちながら言った。撃退士達は、彼に続いて総攻撃を仕掛けるが、魔王にダメージを与えてはいるものの、決定打が足りない。
そんな中、唯一総攻撃に参加しなかったばるが、こっそりと夢野に忍び寄り、せいどうのつるぎの柄で、思い切り夢野を殴りつけた。
「いたっ!」
夢野が飛び起きる。
「うう わるいゆめを みていたようだ」
夢野は頭を振りながら、地面に突き刺さっているバーストソードを抜き放った。
(どうやら やくにたったようじゃのう)
ばるはどこか嬉しげにせいどうのつるぎ(柄のみ)を見つめていた。
「む バーストソードのもちぬし!」
目覚めた夢野に目ざとく気付いた魔王が、再び夢野を洗脳しようと企む。
「させねえよ」
すかさず放たれた由太郎の銃弾が魔王の瞳を撃ち抜く。
片目を押さえながらも、なおも洗脳光線を放とうとした魔王に、今度は影の矢と光の刃が同時に襲いかかる。
見ると、片手を挙げたマリアと、ズボンのチャックを下ろしたメンナクがいた。
「おのれえ!」
唸る魔王に、夢野がバーストソードを振り下ろす。
バーストソードに埋め込まれた宝玉が虹色に煌めき、爆発した。その爆発は魔王の体の三分の一をえぐりとり、ついに魔王に膝をつかせた。だが、魔王はまだ生きている。
「えいっ」
ヒューン
とすっ
が、シルヴィアの放った矢が魔王の眉間に突き刺さりとどめを刺した。よりにもよって通常攻撃でとどめを刺されてしまった。大人しくバーストソードにやられておけばよかったのに!
「まおおおおおう!」
あんまりな断末魔をあげて、魔王が倒れた。
蒼い炎に包まれて灰へと化していく魔王を見下ろしながら、明良はポツリとこんなことを呟いた。
「くろきしさん……かたきはとりました」
死んでない。
●勇者達のその後
君田 夢野は、新天地を求め旅に出た。
亀山 淳紅と綿貫 由太郎は、反乱を起こし、この国の新たな王となった。
シルヴィア・エインズワースは、野伏としてこの国の弱き人々のために力を尽くした。
マリア・フィオーレは、踊り子となり世界中を巡業。新たな勇者達の物語を世に広めた。
蒼井 明良は、黒騎士と寄り添いあうようにして、共に何処かへと姿を消した。
命図 泣留男は、この国のファッションリーダーとなり、ストリート系のファッションを城下町に流行させた。
円 ばるは、この国の影として色々と暗躍していたらしい。
1000年の時が流れ、再び魔王が復活しても、彼らが守った平和から新たな勇者がきっと生まれることであろう。
『CREST QUEST』
FIN