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マスター:栗山 飛鳥
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/23


みんなの思い出



オープニング


 最強のディアボロとは何か。
 この問いに答えられるものはいないだろう。
 種類も多いし、何より我々は全てのディアボロを知っているわけでもないのだから。
 では最大は? 最速は? 最長は? 最重は?
 最強も答えられない我々に、答えられるはずもない。
 だが、我々は今日という日を境に、ひとつの頂点に達したディアボロを知る。
 あまりにも無意味すぎて、誰もが頂きを目指すことすら思い浮かばなかったが故の、不戦勝の頂点。
 それは……


 それを発見したのは洋服屋に務める女性店員だった。
 マネキンに着せてあった服から糸くずが伸びているのを見つけた彼女は、服までほどいてしまわぬよう、慎重に糸を引っ張っていく。
 だが、それは到底糸くずと呼べる長さでは無く、服から抜け出た時には2メートルはある糸として、彼女の手の中に垂れ下がっていた。

 ――そして、その糸が動きだした

 彼女の手の上で糸が跳ねたかと思うと、目にも止まらぬ速さでマネキンの首に巻きつき、音もなく頭と胴を離ればなれにしてしまった。
「キャアアアアアッ!!」
 マネキンとはいえ人の形をしたものの首が落ちるというショッキングな光景を見て、女性が悲鳴をあげて逃げ出した。
 彼女の常軌を逸した悲鳴と行動に、店内にいた人間も何が起こっているのか理解できずとも、とてつもない危機は感じ取ったのか、我先にと店を飛び出した。
 もし、逃げるのが数瞬遅ければ、犠牲者が出ていたかも知れない。
 店内にいた有識者の判断により、店は即封鎖され、異常事態の解決に久遠ヶ原学園の生徒が呼ばれることになった。


 そう、それは……恐らく、世界最細のディアボロ。


リプレイ本文


 撃退士達が店内に突入した時、ディアボロは丁度、店内のマネキンをあらかた破壊し尽くし、新たな獲物を求めて外へと出て行こうとしていたところだった。
 人の形をしたものを破壊するためだけに造られたディアボロは、撃退士達とすれ違ったのも束の間、すぐさまとって返し、殺人行動を開始する。

 撃退士達の足下より無機質な殺意が迫り来ようとしていた。


「敵は……いないな。まぁ見えていないだけだろうが……」
 店内に入るなり、一月=K=レンギン(jb6849)が肩をすくめながら呟いた。
「今のうちに、例のものを見つけだしたいですね」
 気配を消した彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)も、油断なく周囲を見渡しながら言う。
「うん! 私はリボンを探すね」
「なら、あたしはボタンや鈴を探すよ!」
 アーニャ・ベルマン(jb2896)と、ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は、そう申し合わせると、マネキンの首やら胴やら、彼らごと切断されたと思われる衣服の端々が散らばる床に跪き、何やら物色を始めた。
「待ってください、まずは私が生命探知をかけてみます」
 唯月 錫子(jb6338)は早くも探索に没頭しだした二人に呼びかけながら、目を閉じ、アウルの網を広げる。
 次に彼女が目を開いた時には、あらゆる生物の位置が把握できていた。
「……! うしろです!!」
 錫子は素早く振り返りながら声をあげる。
 メンバーの最後列に位置していたヒロッタ・カーストン(jb6175)の足下にディアボロは存在していた。
 錫子の声を受け、ヒロッタが背後を振り向いた時には、すでにディアボロは彼の脚を伝って首筋にまで到達しており、その鋼線の如き胴体を首に巻きつけようとする最中であった。
「!!……」
 ディアボロの体が、ヒロッタの首を絞めつけた。ヒロッタは悲鳴すらあげられず、どうにかそれを引きはがそうとするが、あまりの細さに爪もかからなかった。
 きっかり1秒間、測ったかのようにヒロッタの首を絞めつけたディアボロは、急に彼から離れると地面に落ち、蛇のように音も無く地面を這い回る。それが這った跡には血の筋が残り、天井から降り注ぐ照明の光を浴びて、その細い体はぬらぬらと赤く輝いていた。
「ごほっ……! がはっ! ごほっ! ごほっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
 激しくせき込むヒロッタに、慌てて錫子が駆け寄った。
「ありが、とう……ございます」
 錫子に傷を癒され、ようやくヒロッタは途切れ途切れに礼を述べることができた。
 本来なら人間の首など一瞬のうちに落としてしまうディアボロの一撃だが、ヒロッタの強靭な悪魔の肉体は一撃では切断できない。だが、その頑強さが災いし、『鋼線』で『首を絞めつけられる』という、常人では味わうことのできない地獄の苦しみを味わわされたのだ。
「この攻撃は、二度とくらいたくないですね……」
 首筋についた血の跡を指で拭き取り、ヒロッタは武器を構え直した。



 血のりによってほんのわずかだが視認し易くなったディアボロに、撃退士達は総攻撃を仕掛けた。
「逃がさねぇ!!」
 闘気を開放した笹鳴 十一(ja0101)が跳び、掌底をディアボロめがけて叩きつけた。その一撃でリノリウム張りの床にクレーターを造りだす。
 が……
「あああっ! 手ごたえがねぇ!」
 十一は頭を大げさに抱えて叫んだ。
 十一の掌打は確実にディアボロを捉えたはずだが、ディアボロは見た目上は平然と、ひび割れた床を這い続ける。
「なるほど……厄介ですね」
 物理攻撃と魔法攻撃を交互に繰り返し、反応を確かめていた彩も重々しく呟く。
 細すぎるこのディアボロは、攻撃しても手ごたえが無く、表情は読み取れず、動きも機械的なため、有効打が与えられているか否かが全く判別できなかったのだ。
「それでも、精神的に追い詰められたら負けだよ! 全力でいこう!」
 永連 紫遠(ja2143)は全員を鼓舞するように剣を振るう。そんな彼女の剣の軌跡は翠玉の色をしていた。
 言葉通り、惜しみなく必殺技を放ち続けているのだ。
 だが、ディアボロは疲労も見せず、執拗に撃退士達めがけて跳びかかろうとしてくる。

 ここだけ聞けば、ディアボロが優勢なようにも思えるが、実際は違った。
 ディアボロが床を跳ね、棒立ちになっていたアーニャの首に巻き付き、彼女の首を一瞬で落としてしまう。だが、二つに分かたれた彼女の体は、幻のようにかき消えた。
「残念でした〜! 本物はこっちだよー!!」
 物陰から姿を現したアーニャが手に持ったリボンを振ってディアボロを挑発しながら、影縛の術で牽制する。
 そう。彼女は分身の術を繰り返し、ディアボロを翻弄していたのだ。知能の低いディアボロは、近くにいる人型を攻撃することしかない。分身をディアボロの周囲に配置すれば、それは高確率で分身に襲いかかるのであった。
 手ごたえの無いディアボロに攻めあぐねる撃退士達と、無意味な攻撃を繰り返すディアボロ。
 戦いは膠着状態に陥っていた。


「できたぁっ♪」
 そんな膠着状態を打開したのは、ソフィアの陽気な歓声だった。彼女の指には、鈴がつままれている。ただし、2個の金属ボタンを紐で結った、即席の鈴だ。
「アーニャさん、あとはお願いね」
 そう言って、ソフィアはアーニャの掌に鈴を乗せる。
「うん、ありがとね」
 ソフィアは託された鈴をぎゅっと握りしめた。即席の鈴が リン と可愛らしい音をたてた。
「……っ!!」
 その時、声にならない悲鳴が店内に響き渡った。その声がした方を振り向くと、一月の首にディアボロが巻きついている。
 彼女がディアボロに攻撃を仕掛けた瞬間、ディアボロに跳びかかられたのだ。
 だが、彼女は首とディアボロとの間に手甲を差し込み、首を絞められるギリギリで踏ん張っている。そして、もう片方の手には阻霊符が握りしめられていた。
「私が、押さえてる、今のうちに……早くっ」
 途切れ途切れになりながらも、一月はアーニャに叫んだ。
 だが、アーニャの位置からでは、一月は遠すぎる。
「鈴とリボンを、投げてください! 早く!」
 一月とアーニャの間にいたヒロッタが手を挙げた。
「! お願い、ヒロッタさん!」
 アーニャは手早くリボンに鈴を結びつけ、ヒロッタに投げつける。それを受け取るやヒロッタは一月へと駆けだし、彼女を締め殺さんとするディアボロに、鈴のついたリボンを結びつけようとする。
 彼がディアボロに鈴付きリボンを取りつけたのと、ディアボロが一月から離れたのは、ほぼ同時だった。
 ディアボロが リン と音をたてて地面に落ちる。さらには、ズルズルとリボンを引きずりながら移動を始めた。
「ははっ、こうなったら的じゃねぇ?」
 ディアボロを無造作に踏みつけ、拳を叩きこみながら、十一が笑った。
 どうにか十一の束縛から逃れたディアボロを、今度は彩が待ち受ける。
「隠密性を無くしたあなたは、もはや脅威ではありません」
 そう言い、手にした一対の双剣でディアボロを斬り刻む。無造作に攻撃を仕掛けているように見えて、結びつけられたリボンには傷一つついていなかった。

「一月さん、回復します」
「ありがとう……」
 一方一月は、錫子に傷の手当てをしてもらっていた。優しい薄紫色の輝きを放つアウルが傷口に一月へと流れ込み、首筋の負傷を癒していく。
 その間、隣に立っていたヒロッタが一月に声をかけた。
「ケガは大丈夫ですか? 傷は深そうでしたけど」
「ああ。なるほど……ヒロッタの言う通り、二度と受けたくない攻撃だな……」
 なかなか癒え切らない、頸動脈に達しかけていた傷口を撫でながら一月は苦笑する。
「そうですね……思わず死を覚悟してしまいそうになりました」
「ああ。だからこそ、私だけじゃない。他の皆にも、この攻撃は受けてほしくない……さぁ、ここはいいから、皆の援護に向かってくれ……」
「は、はいっ!!」
 一月の言葉に勢いよく応えると、剣状に形成した雷を抜き放ち、ヒロッタもディアボロへと駆けだしていった。


 視認しやすくなったディアボロに、全員は一斉に攻撃を加えていく。
 十一の拳が床ごとディアボロを穿ち、ヒロッタの雷剣も負けじとディアボロを打ちすえ、アーニャの忍刀も地道にディアボロを傷つけていく。
 そして、勢いよく両手を掲げたソフィアが、その頭上に燦々と輝く火球を生み出した。
「これでおしまいにするよ!」
 掛け声と共に火球が大爆発を起こした。室内に太陽が生まれたかのような閃光を伴った炎が、ディアボロを焼き払った。
 だが、ディアボロはまだ動く。黒い筋を残しながら、錫子へと這い寄っていく。
「わわっ、間にあってください!」
 ディアボロに跳びかかられる寸前、錫子は四方から銀色に輝く鎖を放った。それはディアボロを縛り付け、拘束するはずだったが、限りなく細いディアボロはそれをすり抜けると、錫子に襲いかかる。
「させないよっ!」
 間一髪のところで、紫遠の振り下ろした大剣がディアボロを叩き落とした。その一撃で、細いながらも堅牢を誇っていたディアボロの体がついにブツリと千切れた。
「やった!」
 紫遠は思わずガッツポーズ。が、ディアボロはそれでも動き続けていた。上半身(?)だけをくねらせ、ターゲットを紫遠へと変更する。
 序盤から大技をとばしていた彼女に、もう使える技は残っていない。だが、愚直なまでに重い、単純な剣撃は、跳びかかってきたディアボロを再度叩き落とし、今度はそのまま剣を地面まで振り下ろすことによって、ディアボロを床に縫いつけた。
 剣と床に挟まれたディアボロは、それでも誰かに襲いかかろうともがいていた。
「悪いけど、もう誰も傷つけさせないよ」
 紫遠がゆっくりと剣を押し込む。地面に突き刺さる剣が、一定の深さに達した瞬間、文字通り、糸が切れたようにディアボロはプツリと動きを止め、動かなくなった。
「た、倒したんでしょうか」
 恐る恐る、錫子がディアボロをつまみあげようとするが、それをヒロッタが「待って下さい」と制止する。
「そこまでの知能があるとは思えないけど、死んだフリかもしれない。笹鳴さん、確認をお願いできますか?」
「ああ。俺さんなら、急に動き出しても、素手で引きちぎってやれるからな」
 そう言って、十一は意気揚々とディアボロの頭(?)をつまむ。
「よし、いいぜ」
 十一の合図で、紫遠はゆっくりと大剣を持ち上げた。そうしてできた隙間から、十一はディアボロをするりと引き抜く。
 空中にぶら下げられたディアボロは何の反応も示さず、本当にただの糸くずのようにゆらゆらと揺れていた。
「動かないな。これは、倒したとみていいのではないか」
 眼鏡を押さえながらディアボロを検分していた彩が、そう断定した。
「か、勝ったんだよね、や、やったー」
 いまいち勝利の余韻に浸れないのか、アーニャが微妙な歓声をあげた。
「爆発もしなければ、断末魔も無い。地味な倒され方も、ディアボロ流の嫌がらせ、か……」
 十一からディアボロの死骸を受け取り観察していた一月は、やがてそうポツリと呟いた。そして、それにフッと息を吹きかけて飛ばしてしまう。
 すでにソフィアの火球で相当弱っていたのだろう。黒こげになっていたディアボロは炭のように崩れ、跡形も無く消え去った。


 店の隣に小さな公園がある。戦いを終えた撃退士達は、めちゃくちゃになった店内を出て、ここで一息をついていた。
「ふぅー、どうやら戦闘で破壊した店のものは弁償しなくてよさそうだ」
 店の店長と何やら交渉していた十一が、公園に現れて言った。
「あー、よかった。あたしなんて店内で大爆発起こしちゃったし」
 それを聞いたソフィアがホッと胸を撫で下ろす。
「それはよかったです。安心しました」
 手にした二つのボトルを弄びながら、至極まじめに彩も言う。
「ん? 彩さん、それは何ですか? お酒と……?」
 彩の手にしたボトルを目ざとく見つけた錫子が尋ねる。
「ああ、これですね。これは皆さんの作戦が失敗した場合にと計画していたもので……」
 と、ここまで言いかけたところで、彩はほんの一瞬だけ口をつぐみ……
「呑みますか?」
 ビンをじーっと見ていた錫子にやおら酒を薦めはじめた。
「あ、いえ、まだ未成年ですので……すみません」
 錫子は苦笑しながら丁寧に頭を下げてそれを断った。
「そうですか」
 むしろ、そうなる事を分かっていたかのように、彩はスキットルの蓋をあけ、酒をあおりはじめた。ウィスキーの豊潤な香りが漂って、すぐ消える。
「彩さん、何かごまかしてません?」
 傍からしっかりと会話を聞いていたヒロッタが茶々を入れた。
 彩はほんの一瞬だけ「余計なことを」と言いたげな顔をしたが、すぐさま元の落ちついた表情に戻り、観念したように説明をはじめる。
「これはオイルです。皆さんの作戦が失敗した場合、これを体中に塗りたくって、ディアボロの前に立つつもりでした」
 酒の勢いも借りて一気に説明を終えた彩に、ヒロッタは納得したように頷き返す。
「ああ、なるほど。ディアボロをオイル漬けにして滑らす作戦ですね」
「その通りです。まぁ、今にして思えば、分身にオイルを仕掛けておけば、危険も少ないですし、恥ずかしい思いもする必要なかったのですが」
 そう告白する彩を中心に、穏やかでささやかな笑いが起こった。

 一方、別の箇所では、アーニャが猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら
「今日も頑張ったよ〜」
 と話しかけていた。
「その子、かわいいね」
 そんな彼女に、紫遠が声をかける。
「でしょ! この子はミハイルって言ってね! 私の友達なんだ!」
 そう言って、アーニャは猫のぬいぐるみとの馴れ初めを説明しはじめる。紫遠はそれを楽しそうに聞いていた。

「ふぅ…」
 そんな撃退士達を、公園の隅で遠くから眺めるもう一人の撃退士。一月=K=レンギンは煙草の紫煙をくゆらせながら一息ついていた。
 仲間の無事を、心から安堵しながら……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 黒翼の焔・一月=K=レンギン(jb6849)
重体: −
面白かった!:6人

ありがとう‥‥・
笹鳴 十一(ja0101)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
キングオブスタイリスト・
アーニャ・ベルマン(jb2896)

高等部2年1組 女 鬼道忍軍
限界を超えて立ち上がる者・
戒 龍雲(jb6175)

卒業 男 阿修羅
思い出に微笑みを・
唯月 錫子(jb6338)

大学部4年128組 女 アストラルヴァンガード
黒翼の焔・
一月=K=レンギン(jb6849)

大学部8年244組 女 阿修羅