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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/06/16


みんなの思い出



オープニング

●デートのような
 土屋叶美は、今日は塔利四四三(とうりよしみ)と『デート』していた。
 デートと言っても、手を繋ぎながら遊園地で遊んで、オシャレな店でご飯を食べて、夜景の見える所で……なんていうロマンチックなものではない。
 叶美のお菓子作りに必要な道具を探しに大きいホームセンターに行って、帰りに喫茶店に寄ってお茶をする、というささやかなものだ。

 叶美は以前塔利を母の仇と憎んでいたこともあったが、久遠ヶ原の学園生達の尽力もあってその憎しみから解放され、やがて恋心を抱くようになっていた。
 塔利の方も叶美を大切に思っているという気持ちを自覚し、お互いがお互いをどう思っているかに薄々気づいているが、面と向かって言うのはまだ恥ずかしさや何やらが先に立って言えていない。だけどそれまでの関係の延長で、二人は何となく『付き合っている』ような状態になった。
 普通の恋人同士がするような甘い交際ではないけれど、叶美はそれで満足だった。
 叶美はつい数年前と比べると見違える程よく笑うようになり、こんな一面もあるのかと塔利は時折驚かされる。叶美の楽しそうな笑顔を見ると、彼自身も癒される気がした。


「ねえ、なんで一年中コート着てるの?」
 喫茶店でコーヒーを飲み一息ついている時、叶美はずっと不思議に思っていたことを口にした。
 昔はボサボサの髪に無精髭、薄汚れた黒いコートという年中変わらないスタイルの塔利も、今は叶美のチェックが入り、髪も整え髭も剃り身奇麗になった。今風のシルエットの新しいコートは、叶美が昨年のクリスマスにプレゼントした物だ。
 塔利は少し言いにくそうに眉をひそめたが、叶美の目がじっと自分から逸らされないのを悟ると、はあ、と大きくため息をついてから言った。
「まあ……いわゆる喪服ってやつだ」
 つまり叶美の母親を死なせてしまったという罪の意識から、その冥福を祈り続けているという意味の喪服。
「そう……。やっぱり」
 コートがだいぶ傷んでたというのもあるが、そういう意味もあるのではないかと叶美自身思いつつ、コートをプレゼントしたのだ。それは間違っていなかった。
 叶美は今はもう母の死を塔利のせいだとは思っていない。塔利のことも許している。だから
「でも、もういいんだよ。お母さんも恨んでなんかないと思うし」
 と告げる。
 しかし塔利は薄く笑って首を振った。
「お前さんがそう言ってくれるのはありがたいけどな、俺はこれを忘れちゃいけねぇんだ」
 一生背負っていくべきものとして、塔利はコートを着続けるのだろう。
 そう言われてしまうと、叶美は何も言葉を返せなくなる。
「別に自分を責めてるとかいう訳じゃねぇ。もう同じことを繰り返さねーように、自分を戒めてるんだよ」
 塔利は自分に言い聞かせるような口調だった。
「ホラ、もうコーヒーは飲み終わったのか? 次はどこ行くんだ?」
 雰囲気を変えるかのように、明るい調子で伝票を持って立ち上がる。
「あ、待ってよ。自分の分は払うから、分けてもらって!」

●蘇るあの日
 二人が会計を済ませて店を出ようとした瞬間。

 破壊音が響いた。
 それが何か確認する間もなく、自動車が二人に向かって飛んで来る!
「!!!」
 塔利が咄嗟に叶美を庇い身を伏せた。
 衝撃が収まって顔を上げると、塔利達のすぐ脇に車が突っ込んでおり、喫茶店を破壊していた。
 そして、店のすぐ目の前にある交差点には、天魔が。
 5mはあろうかという大きな貝殻のような体から、太い触手のようなものが何本も生えている。
 触手の先端が二つに割れ車を挟むように掴み、投げ付けたり道路に叩きつけたりしているのだ。それによっての二次災害的な事故も起こっている。
「なんてこった、天魔か! 叶美、大丈夫か!?」
「う、うん。あたしは平気」
 塔利は叶美の様子を見てホッとし、すぐに撃退士としての顔になった。ひとまず車の陰に隠れて
「皆大丈夫か!? 怪我人はいるか!?」
 破壊され壊れた物が散らばる店内へ向かって叫ぶ塔利。
 『大丈夫です』というカウンター奥のマスターの声と、『割れたガラスが刺さった』という客の声が上がる。
「お前さんは怪我人の応急処置を頼む」
「わ、分かった」
 塔利は叶美とマスターに怪我人の応急処置を頼むと、自分は久遠ヶ原学園に応援を要請した。

「マスター、裏口はあるか?」
「いえ、出入り口はそこだけです……」
 つまり、逃げるなら天魔の目の前に出るしかないということだ。確実に触手の射程圏内である。
「もうすぐ久遠ヶ原の撃退士が助けに来る。それまでの辛抱だ」
 叶美達に不安を与えないよう言う塔利。その塔利の目に、向かいの歩道でうずくまっている男が見えた。まだ生きているらしいが、怪我をしていて動けないようだ。
 触手はまだ暴れまわっており、このままではやられてしまうかもしれない。
 彼を助けようと立ち上がりかけた塔利に、叶美が叫ぶ。
「どこ行くの!? いくらあんたが撃退士でも、一人で出て行くのは危険よ!」
「あそこにまだ人がいるんだ」
「でも……!!」
「心配すんな、すぐ戻って来る」
 その言葉に叶美はハッとした。
 あの日の記憶が一気に蘇ってきたのだ。

 『すぐ戻って来るから』とあの日の塔利も言った。
 でも戻って来た時には全てが手遅れだった。

「い、いや! 行かないで! あたしを置いて行かないで!」
「落ち着け叶美、俺の目を見ろ!」
 急に取り乱した叶美の両肩を、塔利はしっかりと掴んで目を合わせる。
「俺は強くねえが、これでも誇りを持って撃退士をやってるんだよ。危険にさらされている人を見過ごしにはできない。解るな?」
 唇を震わせながら叶美は小さくうなずいた。
「よし、いい子だ。お前さん達はなるべく奥に引っ込んで、動くなよ」
 そう念を押して塔利は喫茶店から出て行った。

 大丈夫。
 あの人はちゃんとすぐに戻って来る。
 戻って来て、あたしを助けてくれる。
 叶美は祈るような思いで塔利に念を送る。
「――今なら天魔の攻撃も収まってるみたいだし、逃げた方が良くないか?」
 マスターと怪我人の客が言い出した。
「そ、そんな。助けが来るまでここにいる方が安全です」
 叶美が反論するが、
「だけどあの撃退士もまだ戻ってこないし、救援が来るまでに天魔が襲ってきたらどうするんだよ」
「でも、出て行ったら天魔の目の前なんですよ? 危険です!」
「こっそり隠れながら行けばなんとか」
 マスター達は聞く耳を持たず、今にも出て行きそうだ。
 そうだ、と叶美はスマホで塔利に電話をかけてみる。だが繋がらなかった。
 何かあったのか。まさかそんな。
 いや、自分はここから離れない。あの人は戻って来る。
 取り返しがつかなくなる前に。
 叶美は不安に押しつぶされそうになりながら、心の中で何度も塔利の名を呼んでいた。


 塔利は喫茶店の向かいの建物の中で倒れていた。
 男を担いで逃げ込むことはできたが、触手を全て避けることはできなかったのだ。
 左の太腿から血がどくどくと流れている。
 服を破って傷口を縛っても、血だまりが大きくなるばかりだ。
(悪ィ、叶美……すぐには戻れそうにない……)
 そして塔利の意識は暗くなった。



リプレイ本文

●惨状の現場で
 撃退士達は現場の周辺を封鎖している警察に身分を提示するのもそこそこに、急いで中に入って行った。
 事故ったらしき車や不自然な位置に放置されている車があり、天宮 佳槻(jb1989)は念のためそれらの車の中を確かめる。周囲にも注意して、倒れている人などがいないか確認していた。
(天魔と人の上がどうであれこういう事案は変わらず起こる……。ならば僕のやることも変わらない)
 天宮は緑の瞳を一瞬他人事のように細めて、心の中でひとりごちた。
 今や人界、天界、魔界が手を組みひとつの敵に立ち向かおうとしているが、末端の悪魔達には関係のないこととみなしている輩も多いのだろう。
 阻霊符を発動させ天宮達がさらに先に進むと、交差点の中心には巨大で不気味にうねる触手を持つ貝が鎮座していた。

 攻撃が届かない程度に離れた所から状況を把握する。
「あらら、滅茶苦茶だねぇ」
 軽い調子で言った砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)――いかにもモテそうなイケメンで金髪ロングにオッドアイだ――の言葉通り、貝のディアボロの周りには横転した車や裏返った車が点在しており、破壊された店の物も散らばって惨憺たる有様だった。
 貝の触手は今は積極的な動きを見せていないが、油断は禁物だ。
「大変! 逃げ遅れた人達はきっととても不安なはずです」
 華子=マーヴェリック(jc0898)は現場を見た途端、その可愛らしい顔を驚きに変える。弱き人々を安心させ、守るのが自分の使命だと華子は感じていた。
「まずいですね……このままだと避難者がバラバラに動いて収集がつかないことになりそうです」
 過度な恐怖や不安からパニックに陥った人がどういう行動を取るか、雫(ja1894)は知っていた。
 小さな体に鎧を着けた雫は今までの経験から、そういう人々を何人も見ている。ゆえに不測の事態に対する心構えも出来ていた。
「おい、早速勝手に動いた避難者がいるぞ」
 ダークスーツにサングラスという、まるで海外ドラマに出てくるエージェントのような出で立ち(実は概ねその通りなのだが)のミハイル・エッカート(jb0544)が喫茶店の方を指差した。
「「!!」」
 全員に緊張が走る。
 喫茶店には塔利の通報によると叶美と一般人が二人いるはずだが、その二人が外に出てしまったようだ。
 店先の看板に隠れながらじりじりと後ずさるように移動しようとしている。しかしほんの10m程先には触手貝がいるのだ。いつ触手にやられてもおかしくない。
「ちょっと危ないわね。あの二人はあたしに任せてちょうだい」
 麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)が艶かしい笑顔を崩さず引き受ける。誰が見ても美人だと言うに違いない顔立ちと、誰もが振り向くであろう完璧なプロポーションを持つ麗奈は、全身から漂う色気を隠そうともせず、むしろそれを利用するのを得意としていた。
「敵の注意を引きます、彼らの保護よろしくお願いします」
 すぐにユウ(jb5639)が光纏し戦闘モードになる。普段は優しい微笑みを絶やさず礼儀正しい清楚な雰囲気の女性だが、戦闘で己の中の『悪魔の力』を使うことに躊躇いはない。

(あれ? そういえば塔利ちゃんの姿が見えないようだけど……)
 ふと砂原は違和感を感じた。
 今外に出れば危険なのは塔利ならよく解っているはず。なのに一般人の二人が外に出てしまっても何もしていないなんておかしくないか?
 だが、塔利も撃退士だ。まずは一般人の救助が先だと判断した。
 全員の携帯番号を交換し、ハンズフリー複数同時通話で通信手段を確保。
「よし、それじゃ行こう!」
 砂原の合図で皆は行動を開始した。


「ヒリュウ!」
 雫が召喚獣を召喚し、触手貝の眼前を横切らせながら飛ばす。そして『威嚇』を使った。
 『注目』効果もあって、触手は即座にヒリュウに反応。5本全てが一斉に上空へ向かって行く。
 ヒリュウは素早い旋回を駆使して上手くかわしつつ飛ぶが、二本の触手がヒリュウの体をかすった。
「っ――!」
 召喚獣が傷つけば召喚者の雫も同様にダメージを受ける。
 雫は声を出さずに痛みを堪えた。
 まだヒリュウは飛べるようだし、雫にとってもかすり傷に過ぎない。この程度の傷など背中にあるものに比べれば無傷のようなものだ。
 ユウは『変化〜魔ニ還ル刻〜』を発動させた。全身にアウルを循環させると、ユウの姿も変化していく。
 頭に悪魔の角が生え、漆黒のドレスのようなものを纏うその姿は、ユウが学園に来る以前の『悪魔』の姿だった。
 触手がヒリュウに気を引かれている隙に、貝に急接近する。
「貴方の相手はこちらです」
 武器に力を溜め、強烈な一撃『薙ぎ払い』を繰り出した。
 殻を割るには足りないようだが、確実にダメージを与え『スタン』させることに成功した。

「今のうちね」
 麗奈はマスターと客の所へ『瞬間移動』し、
「僕は路上を」
 砂原は『ボディペイント』して『潜行』、手近な車に身を隠してから『生命探知』、
「私は建物内の人を探します!」
 華子も『生命探知』を使い、逃げ遅れている人を探す。

●それぞれの救助
 店のメニューを書いた看板の後ろで、マスターと怪我をした客は結局立ち往生していた。
 いざ外に出て天魔を目の当たりにしたら、いくらも行かないうちに恐怖が勝手に体を竦ませてしまったのだ。
「は、早く行ってくださいよ」
「バカ、触手に気づかれたらどうするんだよ。押すな、痛いって! 俺は怪我人だぞ!」
「静かに! 今触手がこっち向いた!」
「お前が静かにしろ!」
 とかいう不毛なやり取りをしていると、何か朱色の鳥みたいな? 生き物が貝の上を飛び回り始めた。
「おい、なんだあれ」
「あ、危ないっ」
 触手が朱色の鳥? に襲い掛かり、鳥は傷ついてしまう。
「ああっ!」
 しかしまだ鳥? は飛んでいるようだ。
 次の瞬間、何か硬い物をぶつけたような音が響いて、触手の動きが止まった。
 二人が驚いていると、今度は自分達のすぐ傍に女が出現した。
「うわあぁっ!?」
「ひいっ!」
 『瞬間移動』で麗奈が移動してきたのだ。
 二人は尻餅をついて、呆然と妖しげな美女を見上げる。思考も停止してしまったかのように、見上げた格好のまま固まっていた。
 麗奈は二人の反応に微かな喜びを覚えながらにこりと微笑んだ。
「はぁいお待たせ♪ 怪我するといけないから中に入っててもらえる? それともあたしと一緒じゃイヤかしら?」
 二人はものすごい勢いでぶんぶんと首を横に振る。
 という訳で、結局マスターと客は店に逆戻りとなったのだった。

「叶美ちゃん、お久しぶりやねぇ。元気やった?」
「あ、麗奈さん……!!」
 叶美は見知った顔の麗奈を見ると少し緊張を解いたものの、まだ張り詰めた表情をしている。
「あの人が戻って来ないんです。すぐに戻って来るって言ったのに、電話も繋がらなくて。マスター達は出て行っちゃうし、でも私ここにいるって約束したんです。塔利は戻って来るから、ここにいて待ってるって」
 叶美が取り乱しているのは麗奈にも解った。
 塔利のことで。
「で、塔利ちゃんはどこにいるの?」
「分かりません。あっちにまだ人がいるからって、その人を助けに行ったきり、まだ戻って来ないんです」
 泣き出しそうなのを必死で我慢しているのか、自分の腕を掴む手に力がこもっている。
「大丈夫、落ち着いて、ね? 塔利ちゃんのことはあたし達に任せて。塔利ちゃんだって撃退士なのよ? 簡単にやられたりしないわ。見つけたらちゃーんとお姉さんが叱っておいてあげるから♪」
 これ以上叶美に不安を与えないように、麗奈はできるだけ明るく言った。
「は、はい。お願いします……!!」
 叶美は自分の思いを託して頭を下げる。

 きっと大丈夫。
 あの人は無事に戻って来る。
 麗奈達も来てくれたのだから。

 叶美はそう信じて待つ。


 華子は『生命探知』にあった反応の場所を覚え、すぐに一番近くの飲食店に入る。
「皆さん、私は撃退士です。どうか落ち着いて、私の指示に従ってください」
 中の人達は『撃退士』と聞いた途端安堵したようだった。
 客が4人と従業員が2人、触手が暴れ逃げられなくなって店の奥に隠れていたらしい。
「助けてくれるんだろ?」
 一人の太った客が華子に期待を込めて言うが、華子は
「今は外に逃げると逆に戦いに巻き込まれてしまいます。ですから、戦いが終わるまで外に出ないでください」
「じゃ、まだここにいろって言うのか!?」
「そうです。私の仲間がディアボロと戦っています。もう少し我慢してください」
「冗談じゃねえ!! 俺だけでも逃がせよ!」
「そういうわけにはいきません。皆さんを安全に救出するためなんです、お願いします」
 華子は誠意を持って皆にお願いする。
 しかし男は華子に詰め寄り、他の人達も男の興奮が伝染したかのようにざわつきだした。
 極度の緊張と不安のせいだ。外でディアボロが暴れている現場に閉じ込められていれば当然だろう。
 華子も自分の村を天使に襲われたことがある。だからそのどうしようもない不安はよく解った。
 あの時安心させてくれた父のように、彼らを安心させてあげたい。
 華子は彼らに両腕を広げて、『マインドケア』をかけた。まるで華子の優しい心が反映されたかのような、心を癒すアウルが周囲に拡散され皆に行き渡る。
 彼らの心の不安や恐怖が小さくなり、表情が和らいだ。
「必ず救出します。ですが今はまだ外に出ないでください」
 華子が再度頼むと、皆納得してくれたみたいだった。
 ここは飲食店だから飲み物などには困らないだろう。怪我人もいないようなので、華子は次に向かうことにした。
「それでは、私は他の人達の所に行きます。戦闘が終わったらお伝えに来ますので」

 次の所はリフォーム関係の事務所だった。そこは表のガラスが軒並み割れ中も荒れており、触手の攻撃のとばっちりを食ったのだと分かった。
「私は撃退士です! 大丈夫ですか?」
 呼び掛けながら人がいるであろう方に歩を進める。奥に寄せた机の陰に隠れて従業員が二人と、怪我をしている女性が一人いた。
 華子は女性の傍らに膝をつき、『ヒール』で怪我を癒す。
「あ、ありがとうございます、助かりました」
「いいえ。無理しないでくださいね」
 するとそこに砂原が一人怪我人を抱えて入って来た。
「おっとマーヴェリックちゃん。この人も頼んでいい?」
「はい、分かりました」
 意識のない中年男性を置いていくと、砂原はまた外に出て行った。
 華子はその男性にも『ヒール』をかけて回復させ、全員に天魔討伐が終わるまでは決して外に出ないように言う。
「お願いします。安全が確認されるまではそのままで。あ、緊張や疲労で喉渇いたりしてませんか? これ置いていきますので、良かったらどうぞ」
 華子はリュックから人数分の水のペットボトルと飴を置いて、また次の場所へと回るのだった。


 砂原は横転した車の中に反応をキャッチした。
 運転席の男性は頭や鼻と口から血を流しており、ギリギリ生きている状態だ。
「ちょおーっと待っててね」
 砂原は蒼海布槍を割れた窓枠に絡ませ、もぎ取るようにしてドアを取り外した。シートベルトも力任せに取って男性を引きずり出す。
 それから直近の整骨院に運んだ。院内には誰もいない。
 砂原は施術用の台に男を寝かせ『ヒール』をかける。
「大丈夫ですかー?」
 呼び掛けると男の意識はだいぶはっきりしたようだった。
「あ、ありがとう……なんとお礼を言えばいいか」
「いえいえ。今はまだ外は危険なので、戦闘が終わるまでは外に出ないでください。ディアボロに見つからないよう、窓からも離れてじっとしててくださいね」

 歩道に倒れていた一人を華子に託した後、砂原はスマホで麗奈から叶美の状況、塔利が喫茶店にいないということを知った。
「塔利ちゃん、どっかで動けなくなってるのかも」
 でなければ叶美のどんなわがままにも応えてきた塔利が、連絡もなく彼女を一人で放っておくはずがない。
 それならさっきから姿が見えないのも納得がいく。
 砂原は『生命探知』の反応を頼りに、塔利を探す。
 車中の二人を救出した後、反応を確認してないのはまだ行ってない建物の中だけとなった。
 戦っている仲間達のおかげでこちらに貝の注意が向くことはまずないと思うが、『ボディペイント』をし直し車に隠れつつ、喫茶店の向かい側の建物へ向かう。
 その途中、道端に落ちている携帯を拾った。壊れてはいない。
「これ、塔利ちゃんのだったり?」
 それはほぼ確信だった。
「塔利ちゃん、いる?」
 まさか最悪の事態にはなってないだろうと思いつつ、砂原は建物内へ入った。
 そこは不動産屋のようで、客の応対用の机の前に2人倒れている。一人は見覚えのある黒いコート姿の男だ。
「塔利ちゃん発見!」
 砂原は急いで塔利の容態を診る。
 左の太腿が血まみれで気絶しているが、今すぐ回復させれば命に別状はないはずだ。
 砂原は即座に『生命の芽』を試みた。
 手のひらで発芽した生命の芽は神秘的な光を塔利に注ぐ。彼の傷が癒されていくと共に、意識も戻った。
 さらに砂原は『ヒール』も追加して塔利の生命力を回復させると、塔利はガバと起き上がった。
「気がついた? 塔利ちゃん気絶してたんだよ」
「お前さんは……、応援に来てくれたんだな。すまない」
「まずは叶美ちゃん安心させてあげよか。これ、塔利ちゃんのじゃない?」
 砂原はさっき拾った携帯を差し出す。
「ああ、落としてたのか。サンキュ」
 自分の携帯を受け取ると、塔利は叶美からの着信があったことに気づいた。
 叶美は怒っているだろうか、それともあの日のことを思い出して泣いているだろうかと考えながら電話する。
 3コールも待たずに叶美が出た。
『塔利? 無事なの? どこにいるの? なんで電話にも出ないのよ!』
「ごめん、悪かった。携帯落としちまったみたいで、出られなかった。でも怪我人も無事だしもう大丈夫だから」
『ホントに!?』
「ああ、ちょっと遅くなったけど、今から戻る」
『あたしが迎えに行くまで待ってなさい! 叶美ちゃん、あたしがちゃんと連れてくるから安心してねぇ』
 叶美とは違う声が応えて、通話が切れた。
「今のは……」
 塔利が砂原に疑問の目を向けると、今の間にもう一人の怪我人の治療を終えここから出るなという指示をし終えた砂原は
「オルフェウスちゃんだね」
 と笑った。

「迎えに来たわよ王子様……って歳でもないか。ほんと手のかかる大人ですこと」
 一瞬で建物の前まで移動してきた麗奈は塔利を茶化す。
 塔利はそれを聞かなかったことにした。
「叶美は?」
「大丈夫。今は落ち着いてるし、華子ちゃんが皆を見てくれてるわ」
「ユウちゃん、もう路上に要救助者はいない。喫茶店から遠ざけるようにノックバックできるかな?」
 砂原はスマホに聞こえるように言った。

●触手貝との戦闘
 触手貝がユウの攻撃で『スタン』になったのを見て取ると、ミハイルはすかさず『自在花火』をやっかいな触手目掛けて放った。
「デートでファンシー花火の打ち上げばかりに使っていたが、これが本来の使い方だぜ」
 デートの時にはハートや星などの形で彼女を楽しませているスキルだが、今は破壊力優先、燃える炎の色そのままの爆弾だ。
 『自在花火』は触手に命中し爆発、一本を根元付近から木っ端微塵にした。
「一丁上がり」
「続けていけるか」
 天宮の腕から蛇の幻影が飛び出し、貝へ噛み付く。
 『蠱毒』はダメージを与えたが『毒』を与えることはできなかった。
 ユウが『闇の翼』を出し飛びながら、エクレールCC9で威嚇射撃。
 と、貝が薄く開き管状の口が出現、そこから水が発射された!
「はっ!」
 身をひねりひらりと水鉄砲を飛びかわすと、大きな動きのためか触手が釣られてユウに向かう。
 触手の先がばかっと開いて、鋭いトゲのような歯がびっしりの内側が顕になる。ユウに噛み付こうとしているのだ。
「思考が単純で助かりますね」
 雫は冷静に、ユウに噛み付こうとしている触手の根元を狙って『クレセントサイス』をお見舞いする。
 三日月型の無数の刃は見事触手をぶった切った。二股になった触手はユウに届く前に地面に落ち、しばらくびくんびくんと跳ねていたが、やがて力尽きたように動かなくなった。
「俺ももう一本いくぜ!」
 ミハイルが再度『自在花火』を放つも、今度は外してしまった。
 触手が鞭のようにのたうち、ミハイルに迫る。
「叩き潰すつもりか? 甘いな!」
 武器を円舞に持ち替え、『フィーバービート』のリズミカルな動きで触手をかわしざま先端を切り上げる。さらに横転している車を足がかりにジャンプ、中程から叩き切った。
「あと2本!」

 今まで人を狩ってきた罪を償うためにユウは戦う。同じ悪魔の所業ならなおさら、その犠牲を減らすために戦う。
 悪魔本来の性質と変わってしまった自分を、ユウは恥じることも後悔もしていない。それが自分の生きる道だと決めたから。
「これ以上の暴挙は許しません」
 ユウが貝の真上から急降下し『薙ぎ払い』を放とうとした時、両側から残りの触手が挟み撃ちを狙ってくる。
「!」
 咄嗟に目標を右から来る触手に変え、『薙ぎ払う』。不安定な体勢になったため直撃とまではいかなかったが、二本の触手をすり抜けることができた。
「弱ってる今なら」
 天宮が『蠱毒』の蛇をユウの『薙ぎ払い』を受けた触手に噛み付かせた。
 蛇は敵の蛇の喉元に食らいつくかのように触手に噛み付き、食いちぎった。そして貝を『毒』状態にする。
 貝が少し開いて、管の口を出した。水鉄砲だ。
 雫はヒリュウに貝の目につくよう飛行させて水鉄砲を誘発させようとした。その隙に貝の中へ攻撃を加えようというのだ。
「ヒリュウ、頼みますよ」
 案の定水鉄砲はヒリュウに向けて撃たれ、雫はダメージをものともせずスキルの射程まで素早く移動する。しかし、貝は水鉄砲を撃ち終わると予想以上の速さで管状の口を引っ込めて殻を閉じてしまい、攻撃のタイミングが合わない。
 一瞬戸惑った雫に、最後の触手が踊りかかった。
「こんな不意打ちで私がやられるとでも?」
 雫は太陽剣ガラティンで触手の二股に分かれる部分を突き刺し、そのまま根元まで切り裂いた。

 残るは貝殻部分のみ。
 ちょうどその時、複数同時通話のスマホから砂原の声が響いた。

『喫茶店から遠ざけるようにノックバックできるかな?』

「了解です、ミハイルさん!」
「おう!」
 ユウが上空から降下し、位置に付いたミハイルの隣に着地する。
「石化させる」
 天宮はユウと入れ替わりに『陽光の翼』で上空に飛び、『八卦石縛風』を発動した。
 澱んだ気のオーラが貝を包み砂塵を巻き上げる。硬い殻へのダメージはそこまで期待していない。目的は『石化』だ。
「石化した!」
 これ以上のチャンスはない。
「行くぞ」
「はいっ」
 ミハイルの合図に合わせ、二人は同時に『掌底』を打ち込んだ。
 二人合わせた強力な攻撃で貝は4メートル程後退する。
 その間に、塔利を連れた砂原と麗奈が喫茶店へと移動して行った。

 雫は『クロスグラビティ』を使った。
「殻が開かないなら開くまで攻撃するだけです」
 闇色の逆十字が貝に突き立ち消える。『重圧』にはさせられなかったが貝全体が衝撃に震えた。
 効いてはいるのだ。
 ミハイルが『スタンエッジ』を食らわせようと貝に接近すると、急に貝が方向転換、ミハイルに水鉄砲を撃って来た!
「何だと!?」
 『フィーバービート』で回避しようとしたが、避けきれなかった。
 右腕にダメージを負ってしまう。だが動かせないほどではない。
「これくらいで怯む俺じゃないぜ!」
 この程度の傷で戦闘ができないとあっては、何も守ることなどできない。そう、今のミハイルには守るべき愛する人がいるのだから。
「エッカートさん、一旦下がってください!」
 天宮が上空から警告を発すると、意図を察したミハイルはすぐに貝との距離を取る。
 精神を集中して天宮は『因陀羅の矢』を使った。
 天宮の全身が一瞬吹雪のような光の粒に包まれ輝き、周囲に稲妻が降り注ぐ。
 大量の稲妻に貫かれた貝が『麻痺』になった。
 それでもまだ殻は開かない。
「強固な殻ですね……ならば内部を揺さぶりましょう」
 ユウも飛び上がり真上からの『徹し』。まさに殻を突き通さんばかりの一撃がヒットした。
 貝の内部へと与えられた衝撃は、とうとう許容範囲を超えた。

 いきなりバカッと殻が開いた。

「一斉攻撃だ!」
 ミハイルは『ブラストレイ』、雫は『クロスグラビティ』、ユウは『薙ぎ払い』、天宮は『八卦石縛風』を一斉に放つ。
 触手を失った貝に抗う術はなく――、ディアボロは倒されたのだった。

●戒めと未来と
「塔利! 何その足! 大丈夫なの!?」
 塔利が喫茶店内に入った途端、血まみれの足に気づいた叶美が駆け寄って来る。
「ああもう平気だ。傷は治ってる。けど、コート汚しちまった、悪い」
「そんなこといいわよ。無事で良かった……。心配したんだからね!」
「悪かったって。でも今回は誰も大怪我してない。な?」
 いつもの少し困ったような塔利の笑い顔。
 安堵した叶美は思わず塔利にしがみつこうとして、はたと止まった。
 ここには華子もマスター達もいると気づいたのだ。だがそれ以上に、塔利の背後で砂原と麗奈がそれはもう楽しそうにニヤニヤしていたからだ。
「なに、今のカンジ。もしかして二人って恋人同士になってたの?」
 そう尋ねる砂原の顔は輝かんばかりの笑顔だ。
「いや、まあその……なんだ」
 塔利はごまかそうとしているがごまかせてない。
 叶美の方は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「その話はあとでゆっくり聞きましょうか?」
 麗奈が言って、話は一旦おあずけとなった。

 戦闘が終わり、警察も協力して建物にいた人達は皆避難した。
 傷を負った雫やミハイルは雫の『ヒール』で回復し、一般人の怪我人達も救急車で運ばれ救助がひと段落着いた頃。
 塔利と叶美、久遠ヶ原の学園生達は一時的な休憩所として借りたオープンカフェのテラス席にいた。
「皆さん、本当にありがとうございました」
 叶美が学園生達に丁寧に頭を下げると、
「今回も助けてもらったな。感謝してる」
 塔利も改めて礼を言う。
「叶美さんの、恐怖に耐えて軽率な行動を取らなかったことを褒めるべきでしょうね。塔利さんは戻らず、携帯も繋がらず、マスター達も出て行ってしまうとあっては、相当のプレッシャーだったはずです。よく頑張りました。それだけ彼を信じていたのですね」
 雫の言葉に叶美は照れながらも、はい、と小さくうなずいた。
 塔利も気恥ずかしいのか、皆と目を合わせないようにしている。
「で、二人は今日一緒にいたみたいだけど、何してたの? デート?」
 砂原の笑顔とおあずけになっていた話が復活した。
「あ〜、デートっつーか、なあ?」
 助けを求めるように塔利は叶美を見るが、叶美は塔利の回答に興味津々のようで。
 『あ、これは無理だ』と観念する塔利。
「それじゃあ、今日は何してたのか、全部話してちょうだい♪」
 生き生きとした麗奈に促され、塔利(渋々)と叶美は今日これまでの出来事を語ったのだった。

 最初は皆も微笑ましく聞いていたが、塔利のコートの件になってからは少し呆れたような渋い表情になっていった。
「ねぇ塔利ちゃん、叶美ちゃんと会う時って毎回法事ってこと?」
 話を最後まで聞いた麗奈が、やれやれとばかりに尋ねる。
「そんな訳ないだろ」
「そうよね? だったらもっとこっそり戒めなさいよ。幸せにするはずの叶美ちゃんを悲しませてどうするの?」
「悲しませてるつもりは……」
「黒いコートの意味が『喪服』だなんて知ったら気にするに決まってるでしょ? いい? デートはおしゃれするのが基本なの。あなたは誰と今いるのか。ちゃんと考えなさい。あたしは前に言ったわよ。『あなたの贖罪は終わり』ってね」
 麗奈は励ますように塔利の肩を叩いた。
 塔利が叶美を大事に思っていることも叶美の母について後悔していることも分かっているが、方向が間違っていると麗奈は言いたいのだ。
 デートの時くらいは叶美を楽しませ喜ばせることに気を使う。それが叶美に対する誠意ではないのか。
「私は、難しいこと分からないけど……」
 と華子が控えめに口を開いた。
「あの、なんて言うのかな? 喪に服すっていうのも大切だけど、いつまでも亡くなった人のことを必要以上に思っていると、亡くなった人も安心して天国に行けないと思います。それに、もっと今を大切にしてしっかり幸せに生きることが本当の意味での償いじゃないかな……」
「でも、俺がしたことは変わらない。叶美を幸せにするために、俺は――」
 叶美の母の死を忘れてはならない、と塔利は苦しげに顔を歪めた。

「塔利さん、数年前のことを覚えていますか? 天魔に家族を殺された少年が、僕達に復讐を望んだ依頼のことです」
 天宮が静かに問いかける。
「ああ……覚えてる」
「あの時、彼は復讐に執着して周りが見えなくなっていました。というより見ようとしなくなっていました。戒めもこだわりすぎると執着になります。今回塔利さんがすぐに飛び出したのはその『執着』のせいではありませんか?」
 塔利が昔の轍を踏むまいとこだわった結果、判断を誤ったのではと天宮は指摘している。
「それは……」
 塔利は言葉を失った。
 そういうこだわりが全くなかったと言えば嘘になる。塔利はあれ以来同じ間違いをするまいとしてきたのだから。
「『今度はこうしよう』と思いそうしたとしても、上手くいくとは限りません。物事のあり方は変わっていきますからね。でも変わっていくことと忘れることは違います。『あの時』と『今』の間には色んな事があって色んな人が関わったはずです。『戒め』しか見えなくなった時には、そうして関わった人達のことを思い返してみたらどうでしょうか?」
 穏やかな天宮の言葉は、塔利の脳裏に少年とのことを蘇らせていた。
 あの時少年に言ったように。
 執着に囚われそうになったら思い出せばいい。『助けられなかったこと』ではなく、『助けることができた』彼らのことを。
「過去に縛られてたのは俺の方か……」
 塔利はどこかあきらめのような口調でつぶやく。
「まあ今回飛び出したことは大目に見てやろうぜ。目の前に怪我人がいたら助けに飛び出る、それは塔利の優しさであり長所だ」
 『気絶して危なかった』とは言わなかったミハイルのフォローに、塔利は驚きの目を向けた。
「だが、年中コートは見た目にも暑苦しいぞ」
 そういうミハイルは年中ダークスーツを着用している。しかしそれは戦う男の制服のようなものであって、塔利とは根本的に違う。だからいいのだ!
「デート中も喪に服しているというのは叶美の心が重くなる。心の底から笑えないぜ。叶美は塔利と一緒にいる時を楽しみたいのだろう? 失敗を忘れないのは構わないが、自ら心に枷をして精神的Mしてるのはどうかと思うぞ」
 ぶはっと塔利が吹き出した。
 なんせ塔利は約十年、叶美に恨まれ続けていたのだ。無意識のうちに自分に罰を与え続けることが償いの一部になっていたに違いない。
「あたしはあんたにもう罪悪感を持ってもらいたくない」
 叶美もまだむせている塔利に訴える。
 デート中は言うに言えなくなってしまったが、今は撃退士達が叶美を後押ししてくれている。今なら叶美の本当の気持ちも伝わるかもしれない。
「叶美、きっと今後も同じようなことがあるだろう。だけど塔利を信じて待ってやってくれないか。帰るべき場所があると強くなれる。叶美も塔利にとってそういう場所になってみないか?」
「そ、それって」
 叶美はミハイルの言う『そういう場所』の意味するところを悟って、一気に頬を染めた。

「塔利ちゃんの戒めって見えなきゃ忘れちゃうもんなの? 周囲も辛い戒めなんて意味ないし、そんなの自分の心一つじゃない。それより大事なものがあるでしょ?」
 砂原がにこりと塔利と叶美に笑いかける。
「曖昧な関係って不安でしょ? 相手にとってどんな存在か、自覚出来るだけで自信になるもんだよ」
 諭すような言葉に、叶美は自分の塔利への想いを確認する。
 そして以前ミハイルにも言われたことを思い出した。

 『塔利を良い男だと思うなら他の誰かもそう思っているぞ』

 叶美は正面から真っ直ぐに塔利の目を見つめると、勇気を振り絞り言った。
「あんたがお母さんのことを忘れないようにって言うなら、あたしがずっと傍にいればいいでしょ? これからもずっと、あんたが天魔の討伐に行っても必ず帰って来るって信じてるから!」
 砂原達は心の中で『おおおっ!』と喝采する。
「叶美……!!」
 塔利は目を見開いてこの告白にどう答えればいいのか迷っているようだったが、やがて意を決したように
「……俺は一生許されないと思っていたのに、お前はこんな俺でもいいと言ってくれるんだな。ありがとう。絶対にお前を幸せにする。どこに行っても、必ずお前の待つ家に戻って来るよ」
 そっと叶美を抱き寄せた。

「ちゃんとやれるじゃない、塔利ちゃん!」
 麗奈達がわっと拍手して二人を祝福する。
「良かったですね、叶美さん!」
「塔利、叶美を泣かせるなよ」
「二人仲良くね〜」
「よく言いましたね、叶美さん」
「ようやく素直になったようですね」
「私達の前で言ったからには、破れませんよ」
 色々茶々が飛び交う中、皆嬉しそうだった。

 撃退士達が繋げたマイナスからの絆。
 この先困難もあるかもしれないが、ここに至るまでのことを思い出せば、力を合わせて乗り越えられるはずだ。
 二人はもう、過去に囚われることなく進んでいけるだろう。
 幸せな未来へ。


 ――不器用な二人に幸あれ――



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