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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:5人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/03/29


みんなの思い出



オープニング

●可哀想な老婆の話

「ねえママ、ピンクさんて知ってる?」

 幼稚園へ娘を迎えに行き、手を繋いで家路についていた時だった。
 水恵は我が子の瑞葉にそう聞かれた。
「え、そんなのどこで聞いたの?」
「ようちえんだよ。みんな言ってるよ。さりなちゃんもりんくんも、夕方道を歩いてたらピンクさんを見たんだって」
「まあ……」
 水恵はまたそういうのが子供達の間で流行っているのか、と思った。
「紗里菜ちゃんはどうしたって? 悪口言ったりしなかった?」
「うん。見つからなかったから大丈夫だったって。ママピンクさんのこと知ってるの?」
「まあね。ママのママ、つまり瑞葉のおばあちゃんの時代から、ピンクさんはいるのよ」
 『ピンクさん』というのは、いわゆるこの町周辺で語り継がれている都市伝説のようなものだった。水恵の子供の頃もそうだったが、こういう妖怪じみた怪異が流行る時期が周期的にやってくる。
「そうなのぉ? ママは見たことある?」
「ママはないけど、おばあちゃんは知ってるって言ってたわ」
「ほんとう!? ピンクさんは悪い人なの?」
「うーん、悪い噂になっちゃったけどね、本当は可哀想な人なの」
 『ピンクさん』は実は実際にいた人物なのだ。
 昔からこの町に住んでいる水恵の母は怪異になる前のピンクさんを知っており、水恵の子供時代に『ピンクさん』が噂になった時母から聞いたのだった。水恵は結婚しても実家からそう遠くない町内に家を構えたので今でも『ピンクさん』を覚えているが、本来の話を知っている人はもうこの町には何人もいないだろう。

 ピンクさんは元々は普通の女性だった、と水恵の母は言っていた。
 水恵の母が小学生の時ピンクさんはすでに高齢者で、夫婦仲良く年金暮らしをしていたそうだ。
 だけどある日旦那さんが交通事故で亡くなってからは、抜け殻のようになってしまったらしい。子供はおらず親戚も遠くにいて付き合いなどない。ピンクさんは独りきりで暮らすうち、急速にボケていった。

 自分を10歳だと言うようになったのだ。

 そして元々ピンク色が好きだった彼女は、それが極端になって、上から下までピンクの服を着るようになった。
 ただピンクだというのではない。フリルやリボンやレースのついた可愛らしい服を着るのだ。少女が好みそうな服を。
 すっかり老いた姿に少女趣味の服、お花の髪飾りも靴下も靴もピンクという格好で、外をうろつくようになった。
 自分を子供だと思っているので、公園や遊び場に行っては子供達と遊ぼうとする。だけどその傍から見ればおかしな姿は、当然子供達に馬鹿にされ『ピンクババア』などとはやし立てられた。
 そういう悪口をピンクさんは許さなかった。ヨーロッパの昔の貴族が持つようなパラソル(これももちろんピンク)を振り回し、訳の分からないことを喚き散らしながら激怒する。傘の先端で突き刺されて怪我をした子供もいた。
 そんな事件があってからはピンクさんは恐れられ、誰もババアなどと悪口を言う者はいなくなった。だから呼び名は『ピンクさん』なのである。
 それから数年もしないうちにピンクさんは亡くなった。

 しかし、よっぽどピンクさんの姿は町の人達に強烈な印象を与えていたのだろう。
 ピンクさんの徘徊する姿はなくならなかったのだ。
 黄昏時にピンクさんを見た、という子供が時折現れる。パラソルを持ち、上から下までピンク色の可愛い服を着た老婆が、遊び相手を探して町を彷徨っているのだという。
 出会っても決して悪口を言ってはいけない。悪口を言うと殺されてしまうから……。

 というのが『ピンクさん』の通説になった。


「そうなの……。だんなさんが死んじゃったのが、ショックだったんだね」
 幼い瑞葉が今の話の全てを理解できたかは分からないが、彼女なりにピンクさんを思いやっているらしい。
「そうね。ママは会ったことがないけど、もしピンクさんを見かけても、絶対に近寄ったり話しかけたりしないこと。いいわね?」
 昔も今も怪異としての『ピンクさん』の真偽が不明だとしても、噂を利用した変なことに巻き込まれないとも限らない。水恵はちょっと強めに注意を促す。
 母の言葉にうん、と応えた娘は、ふと視線を他に移して言った。

「あ、ピンクさんだ」

●現在のピンクさん
「――え?」
 瑞葉の見ている50メートル程先には、紛れもなく『ピンクの人』がいた。
 さっき自分が語った『ピンクさん』そのままの姿の人物が。
 ざり、ざり、と一歩ずつこっちに向かって来る。

 ピンクさんの幽霊なのか? 未だに出るというのは本当だったのか?
 そんな馬鹿な。
 今しがた話をしたから、そんなふうに見えているだけだ。
 幻覚に違いない。でも瑞葉も見えている。

 色々な思いが水恵の頭の中を駆け巡る。
「い、行こう瑞葉」
 アレが何であれ無視するのが一番だと思った水恵は、娘の手を引いて急いでその場から去ろうとした。
 すると、途端にピンクさんが早足で近づいてきてパラソルを水恵の顔の辺りに突き出してきたのだ!
「!!」
 パラソルは背後の石塀にやすやすと刺さった。
「きゃあああ!!」
 驚いた水恵は咄嗟に瑞葉を抱き上げダッシュで逃げ出す。
 母は強しか火事場の馬鹿力か、水恵は自分が子供を抱き抱えてこんなに早く走れるとは思っていなかった。
「怖いよママぁ! みずはもママも悪口言ってないのに、どうしてピンクさんおそって来るのぉ?」
 半ベソをかいて瑞葉が訴える。そんなこと水恵も知りたいが、アレは幽霊とか怪異の類でないことだけは分かった。
「アレは本当の『ピンクさん』じゃない」
 ちらりと後ろを振り向くと、ピンクさんがパラソルを振り回しつつ早足で追って来る。
 幸い、家はもうすぐだ。
 ピンクさんに見られないうちに大急ぎで自宅に入り、瑞葉を一番奥の部屋に隠す。
「静かに、じっとしてるのよ」
 それから部屋という部屋のカーテンを閉めて回った。

 ピンクさんが自宅の前の道をうろついているのを息を詰めてカーテンの隙間から覗きながら、水恵は久遠ヶ原学園に通報した。



リプレイ本文

●あえて悪口を
 スマホで『ピンクさん』を調べていた黄昏ひりょ(jb3452)は、画面を待ち受けに戻した。
(やっぱり都市伝説の域を出ない噂ばかりか……)
 怪異の元となる事件か何かがあったのかと思い調べたのだが、それらしき話は出てこない。
「『ピンクさん』がディアボロとなって蘇った? それとも都市伝説を真似たディアボロが作られた?」
 黄昏は陰陽師という家系ゆえに、一般人よりは幽霊とか妖怪というものと関わってきた。だけど黄昏自身、怪異の話はそんなに得意ではない。
 とはいえ自分は撃退士だ。
 そして今、その怪異を象ったディアボロに狙われ危険にさらされている人がいる。
「真実は分からないけど、実害が出る前になんとかしなくっちゃ」
 黄昏は前を行く仲間達に離されないよう、足を速めた。

 撃退士達が水恵宅のある通りに差し掛かると、パラソルを持ち、全身ピンク色で統一された老婆が行ったり来たりしていた。それほど知能は高くはないらしく、どうやらまだ水恵親子は見つかっていないようだ。そこは不幸中の幸いと言えるだろう。
「ピンク一色なんて悪趣味ね!」
 小さな体にはち切れんばかりの元気が溢れる雪室 チルル(ja0220)が、ピンクさんを見た正直な感想を述べる。
「水恵さんの家に近すぎる。やっぱり引き離す必要があるみたいだね」
 藍那湊(jc0170)は大概女の子に間違われる可愛らしい顔を引き締めて言った。暑さが苦手のため、冬でも軽装である。女の子に間違われるというのは、そのショートパンツから出ている足のせいもあるということに本人は気付いていない。
「なら当初の予定通り、悪口作戦ですね」
 小柄な雪室や藍那と並ぶと背の高さが際立つ逢見仙也(jc1616)の言葉に、一同はうなずいた。ピンクさんの『悪口を言われると怒る』という特性を生かした戦法だ。
 最初雪室はピンクさんが『ピンク色』にこだわっているらしいことに目を付け、違う色のペンキをぶっかけてやったらどうかとも考えたが(ちなみに彼女は考えるのが苦手である)、ペンキはコンビニで簡単に手に入る物ではなく準備に間に合わなかったので自己却下した。
「じゃあ、皆が引き付けてる隙に俺は水恵さんの家に入って周辺の情報聞いてみる。連絡のため番号交換しよう」
 黄昏の意見に従って、全員スマホの番号を交換した。

 黄昏が近所の家の駐車スペースに身を隠し合図をすると、皆光纏し雪室がまず阻霊符を発動させた。それから逢見、藍那と共にピンクさんから見えるよう道路の真ん中に出る。
 藍那は『蒼の翼』を広げた。氷の結晶のようなアウルを煌めかせながら羽ばたき、上空へ飛ぶ。
「ピンクいろおばけー! に、似合ってないぞー!」
 と慣れない悪口を言い、老婆の注意を引こうとする。
 カッと目を見開き、ピンクさんが藍那の方を見上げた。
「趣味悪いわね!」
「全然可愛くなーい」
 雪室と逢見もピンクさんを挑発する。
 ピンクさんは二人にも目は向けた。その目はめらめらと怒りに燃え、奇声を上げパラソルを振り回して雪室達の方へと突き進みだした。
「釣れた!」
 藍那や逢見はピンクさんの行動に注意しながら、水恵宅と離れるように移動を始める。
 ピンクの老婆が黄昏に気付かず彼の前を通り過ぎてゆくと、黄昏はすぐに水恵宅へと走りインターフォンを押した。

「今ディアボロを家の前から引き離しました。この近くで戦闘ができそうな公園や空き地はありますか?」
 中へ通されるなり黄昏は水恵に質問する。
 水恵はホッとするのも束の間、忙しく町内のあちこちの様子を思い浮かべた。
「そうですね……、あ、あっちの方に最近更地になった広い場所があります!」

「皆、これから言う場所にピンクさんを誘導してくれ!」
 水恵に場所を聞いた黄昏は、皆の後を追いながら誘導場所を指示した。

「あそこの角を左に曲がって、坂を下りた所らしいわ!」
 と言いながら雪室は早足で追って来るピンクさんに振り返る。
 早足以上は早くならないみたいだから、誘導するのはそんなに難しくはないだろう。
 しかし。
 ピンクさんはパラソルを突き出すと、その先端がぐんと伸びてきた!
「!」
 雪室が喰らうはずのダメージを、逢見が『庇護の翼』で引き受けた。
「あいつの攻撃は俺に任せて、誘導に集中してください」
「分かったわ、ありがとう! おーい、ピンクさんこっちよ!」
 雪室は逢見に礼を言い、太陽剣ガラティンで対抗する素振りを見せながら挑発を繰り返す。
「全部ピンクなんて変だぞー! (うう、ごめんなさい……)」
 普段悪口など考えつきもしない藍那は心の中で謝りつつも、ピンクさんの注意を引くために頑張る。パラソル攻撃が来るとひらりと飛んで逃げ、確実にピンクさんを空き地に誘導していった。

 その空き地は今まで木が鬱蒼と生えていた所だったのだが、今はかなり広い区画の木が伐採、整地されて更地になっていた。周囲の住宅とは少し離れていて都合がいい。
 逢見達がそこへピンクさんを誘き入れた頃、黄昏も追い付く。

「さて。それじゃあ戦闘開始だ」
 そう言って眼鏡を押し上げた黄昏の瞳に、戦いへの興奮が少しだけ見えた気がした。

●ピンクの老婆との戦闘
「さっそく行くわよ!」
 皆でピンクさんを取り囲むやいなや、雪室の剣から白いエネルギーが飛び出した。
 『氷砲〈ブリザードキャノン〉』はピンクさんに直撃し大きなダメージを与える。ピンクさんは血を吐いてよろめいたが、まだ倒れはしない。
 雪室に向かってパラソルの『突刺』を繰り出してきた。
「そんな攻撃、お見通しよ!」
 目の前に構えた雪室の剣が『氷盾〈フロストディフェンダー〉』により氷結晶に覆われる。
 パラソルの先端は氷結晶に突き刺さり、ダメージを最小限に抑えた。
「動きを止めるよ!」
 藍那の金色の瞳が一瞬強い光を帯びた。
 『霧氷の大樹』を発動すると、氷の枝が地面から生え、棘のある鞭のようになってピンクさんを襲う。
 だがピンクさんはその攻撃をかわし、広げたパラソルを激しく回転させ投げた!
 パラソルはジグザグに飛びながら、藍那に迫って来た。あれに触れたら切り裂かれてしまうだろうことは藍那にも簡単に予想できる。
「わぅっ!」
 構えていたヒエムスは『六花壁』で瞬間的にハニカム構造の氷の壁に変化し、パラソルを受ける。
「このまま斬り込む!」
 パラソルの勢いが若干弱まったと感じると、藍那は一気にパラソルに切りつけようとした。が、パラソルはすっと藍那から離れ、ブーメランのようにピンクさんの手元に戻った。
「それならそれで!」
 藍那はピンクさん自身に切りかかろうと距離を詰めようとする。
 その時、ピンクさんがものすごい奇声を上げた。
「っ!」
 思わず足を止めて耳をふさぐ藍那。脳髄が抉られるかのような耳障りで強烈な声だ。
「騒音はご近所に迷惑でしょ」
 逢見は奇声に顔をしかめながら、魔戒の黒鎖を投げつける。
 鎖はピンクさんの顔の下半分から首元まで巻き付いて締め上げた。
 奇声が止んだ。
 口と首を絞められたピンクさんは鎖を引き剥がそうとするが上手くいかない。両腕を振り回して抵抗していた。

「パラソルを持つ腕を狙えば……」
 攻撃力が下がるはずだ、と判断した黄昏はピンクさんの腕に『精密狙撃』を試みる。
 精神をピンクさんの腕に集中し鶺鴒から矢を放つ。しかし、暴れているためピンクさんの腕をかすりはしたが命中はしなかった。
 逢見が鎖を思い切り引きピンクさんを解放すると、ピンクさんの顔は歪み恐ろしい形相になっていた。
「鬼婆みたいだな」
 うっかり逢見が言うと、ピンクさんに悪口認定されてしまった。
「あ、つい出ちゃった」
 ますますピンクさんは怒り、逢見に力を増したパラソルの突き刺し攻撃!
「今の、わざとじゃないよね?」
 黄昏はどっちともつかない逢見の言葉に小さな笑みを漏らしながら、牽制の矢を射って逢見の回避を助ける。おかげで逢見は脇腹を少しかすられた程度で済んだ。

 再びピンクさんがパラソルを突き出そうとした時、
「あたいが相手よ!」
 雪室がガラティンで応戦、パラソルを跳ね上げる。
 ピンクさんもパラソルを剣のように使い、雪室に打ちかかって行った。
 激しい打ち合いが何合か続きピンクさんが雪室に釘付けになっているその隙に、藍那がもう一度『霧氷の大樹』を使った。
「今度は決めるよ!」
 地より這い出た刺の枝がピンクさんの足を絡め取る。そのまま急成長し氷の大樹となって、ピンクさんを幹に磔にした。ピンクさんを『束縛』した後、大樹は音もなく砕け散り、夕方の陽光の下霧のように消える。
「やった!」
 ピンクさんは『束縛』になろうが構わず、パラソルを回転させ前方に放り投げた。
 ジグザグに飛んでいく先には雪室と藍那が。
 しかし二人は『氷盾〈フロストディフェンダー〉』と『六花壁』でしっかりガード。
「何度やっても同じよ!」
「そう簡単にはやられないよ!」

「今なら」
 黄昏はパラソルが腕を離れているうちに残りの『精密狙撃』を放ち、一発をピンクさんの二の腕に命中させ、もう一発は手の甲をかすめた。
「まだ充分じゃない」
 反撃の隙を与えまいと次々と矢を射る黄昏。
 ピンクさんは手元に戻ったパラソルで黄昏の矢を防ごうとするが、腕の負傷で動きが鈍り、黄昏の連続攻撃に追いつかなくなってきていた。
 一矢、また一矢と矢が体に傷を作ってゆく。
「そろそろダメージが効いてきたか?」
 逢見はいつの間にかピンクさんの死角に回り込んでいた。そして容赦なく『スタンエッジ』をお見舞いする。
 ピンクさんは体をびくんと硬直させ『スタン』した。
「最高のチャンスね!」
 雪室は堂々とピンクさんの目の前に立ち、頭の上に掲げた大剣にアウルを極限まで高める。剣は氷結晶で覆われてゆき、巨大な氷の剣となった。
「あたいのさいきょー攻撃、受けてみなさい!」
 思い切り『氷剣〈ルーラ・オブ・アイスストーム〉』を振り下ろす!
 ピンクさんは豪快に頭から腰までバッサリと切り裂かれ。
 雪室の剣の結晶が消えると共に、ピンクさんは断末魔の叫び声を上げながら仰向けに倒れた。
 ピンクの服は血の汚れがあちこちに付着し、破れてしまった。髪飾りの付いた白髪は乱れ、老婆の顔は醜く歪み、その口は叫び足りないとでも言うように大きく開かれたまま。パラソルも無残に傷ついて転がっている。
「………」
 ピンクさんを見下ろした撃退士達は、その最期の姿にどことなく憐憫を感じずにはいられなかった……。

●これからのピンクさん
 水恵の所へピンクさん討伐完了の報告へと寄った黄昏達は、そこでピンクさんの怪異になる前の『本当の話』を聞いたのだった。
「そうだったんですね……。元々誰かを恨んで死んだ人が〜っていう話じゃなかったんだ」
 黄昏は『ピンクさん』の経緯にしみじみとした哀しさを感じた。

 老いの悲しさ。奇妙なものを受け入れがたい時代の悲しさ。子供の残酷さという悲しさ。

 実際は随分昔の話のようだが、今もピンクさんの噂はなくなっていない。
(怪異という類のものは、いつの時代にも付いて回るものなんだな……)
 天魔が騒動を引き起こそうがそうでなかろうが、それが人の恐怖と興味を引く限り、なくなりはしないのだろう。
 そう思うと、黄昏は冷たい汗が背中に流れるのを感じぶるっとひとつ身震いした。
(あぁ、やっぱりこういう怪異は苦手だなぁ……)

「あの、その『ピンクさん』のお墓はどこにあるかご存知ですか?」
 ひと束ぴこっと伸びたアホ毛を迷うように動かしながら(本人は無自覚)、藍那が水恵に尋ねる。
「え? そうねぇ……私も詳しいことは知らないんだけど……母に聞いてみるわ」
 水恵は携帯電話を取り出して自分の母親に電話をした。
「昔からの家だったし、この辺りで一番大きいお寺の檀家かもしれないって」
 母との会話を終えた水恵が教えてくれた。
 付き合いがあった訳ではないのでそれ以上は分からないとのことだったが、苗字は二つの候補に絞り込めた。
「ありがとうございます。行ってみますね」
 ぺこりと藍那が頭を下げると、その顔の前にピンク色の小さなウサギのマスコットが差し出される。
 瑞葉だった。
「ピンクさんのおはかに、これもおそなえしてあげて」
 子供なりの優しさだろう。
「うん、分かったよ」
 藍那はにっこりと笑ってそれを受け取った。
「ねえ、ピンクさんが可哀想だと思う?」
 逢見が身をかがめて瑞葉に質問する。うん、と彼女が答えると、
「じゃあ、友達に『ピンクさんは本当は遊んでる子供を見守るいい人だ』って教えてあげて。そうしたら、本当のピンクさんも喜ぶと思うんだ」
「わかった! みずは、みんなに言うね!」
 瑞葉の顔がぱっと輝き、逢見も目を細めて笑みを浮かべた。


 藍那達が教えられた寺に行って住職に事情を話すと、住職はピンクさんのことを知っていたらしく、一つの墓へ案内してくれた。今は旦那さんと同じ所にいるのだ。
 藍那は来る途中で買ったピンク色の花を供え、隣に瑞葉のマスコットを置く。
 さらに逢見がピンク色の飲み物と春めいた桃色の和菓子を置いた。
「これだけピンクに囲まれれば満足でしょう。ま、悪魔には見た目はともかくウン百歳にもなって少女趣味とか普通にいるし、何もおかしいことなんてない」
(きっと可愛いものが好きで、遊んで欲しかっただけのおばあさん……ううん、女の子だったんだろうな。あれはディアボロで本当のピンクさんじゃなかったかもしれないけど、悪い事を言ってごめんなさい)
 藍那はそう思いながら手を合わせる。
 逢見も黄昏も雪室も、同様に手を合わせるのだった。

 これからが仕上げだ。
 と、逢見は心の中でつぶやく。
 さっき瑞葉に言ったようにピンクさんの都市伝説を塗り替えるのだ。
 そういった噂の操作などは逢見の得意とするところだった。
 都市伝説系のネットサイトでピンクさんの話を見つけては、『ピンクさんが人を襲うというのは嘘。遊んでいる子供が誘拐されたり事故に遭ったりしないよう見守る良い怪異である』と書き込んでいく。すぐには変わらなくとも、しばらく続ければいずれこっちの話が真実だったかのように残っていくだろう。
 彼女が実際にしたのは子供を運悪く怪我させてしまったことだけで、それだって本人に悪意があった訳ではない。なのにそこだけがクローズアップされて、子供を殺してしまう悪い化物扱いされることは本人も不本意に違いない。まさか自分が死んだ後こんなことになるとは、当時の彼女に予想できるはずもなかったのだから。
 だから。
 子供を見守るいい人だという認識が広まれば、これからは故人のピンクさんも安心して眠れるはずだ。

 今度『ピンクさん』の噂が流行る時には、優しく見守る可愛らしい服を着た老婆として、子供達の目に見えることだろう。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 蒼色の情熱・大空 湊(jc0170)
 童の一種・逢見仙也(jc1616)
重体: −
面白かった!:4人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト