.


マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/10/02


みんなの思い出



オープニング

●老夫婦の別荘
 千葉県の南東部にある町に、石田夫妻は別荘を持っていた。
 夫は高校教師をしていたので普段は都会に近い街中に住んでいるのだが、病気がちな妻のため、休みの日くらいは空気のいい所で過ごさせてやりたいという想いから、10年ほど前に買った家だった。
 夫婦には子供がおらず、そういう方面に使う金がいくらかあったのだ。

 別荘のある町は海水浴場が近く、少し行けば山もありいい所だ。
 夫妻の家はその山の中腹にあり、辺り一帯は別荘地のようになっている。山の上に行くほど立派な家が立ち並び、価格もお高くなるという具合だ。
 石田夫妻の家も二階のベランダから海が見渡せ、とても見晴らしがいい。今までは月に一度は必ずここに訪れるようにしていたが、今月からは少し違った。
 夫が今年定年退職したため、こちらの家に移り住むことにしたのだ。
 今日はその準備や家の手入れを兼ねてやって来たのだった。

 家の前に車を止め、夫妻はそれぞれ車から降ろした荷物を抱えて門を開ける。
 庭を見ると雑草が伸び放題だ。
「あ〜、庭の手入れもしなきゃなあ」
 なんて言いながら歩を進める夫に、妻が少し怯えたように言った。
「あなた、防犯用に置いてあったカメラが落とされてるわ」
「なに?」
 夫は驚いて妻の指す方を見た。
 ダミーではあるが、一応木に隠すようにして設置していたカメラが、木の枝ごと強引にむしり取ったように落ちている。よく見れば、他にも植木鉢が倒れていたり、何かの足跡みたいなものがあったりと痕跡が残っているではないか。
「また悪ガキでも来たのか?」
 夫は用心する目つきになって、一旦荷物を車に戻し、ガレージの側にある小さな物置から木刀を持って来た。
 実は以前もこういうことがあったのだ。
 山を下った先にある海水浴場は有名な所で、夏の時期の海水浴客はもちろん、そして時期を問わずサーファーが一定数やって来る。時々そういう若者の中には他人の迷惑を考えないような輩もいて、夫妻の家に誰もいないのをいいことに、勝手に庭を休憩所のように使ったのか、飲み食いした後のゴミが散乱していたことがあった。その時は幸い家の中にまで侵入されたり何かを盗られたりということはなかったが、不快なことには変わりない。
 今回はダミーカメラまで落とされ、庭も荒らされている。
 最近は妻の具合が悪かったこともあり、別荘を空けている日が長くなっていた。もしかしたら家にも入られているかもしれない。
「念のためお前は車の所にいなさい。携帯を用意しておいて」
 夫は妻に指示して、万が一何かあった場合妻を巻き込まないようにした。
「まさか、誰かが家にいるなんてことはないでしょう?」
「それは分からないだろ。もしかしたらホームレスみたいなのが勝手に住み着いているかもしれん」
 妻は不安ながらもそういう可能性もあることを認める。
「気をつけてね」
 いくら木刀を持っていると言っても、相手が若者だったり複数だったら夫が敵うとは思えない。
「ああ、分かってるよ。もし何かあったらすぐに警察に連絡するんだぞ」
「は、はい」
 という訳で、夫はそうっと玄関の鍵を開けた……。

●家の中にいたもの
 今は午前中だが、家を出る時は雨戸を全てしっかり閉めていくので室内は暗い。
 もし誰かがいた場合急に電気を点けるのは良くないと思い、玄関に常備してある懐中電灯を手に取る。なるべく音を立てないようにしながら廊下へと上がり、まずはリビングへと向かった。
 誰かが侵入したとしたらどこだろうか? リビングやキッチンなど主要な部屋の窓は全部雨戸が閉まっているし、風呂場の窓は格子が嵌っている。トイレの窓は小さくて大人の体は通れない。
 始めに家の周りを一周してみるべきだったなと夫が考えつつリビングの中を照らした時。

 それはいた。

 概ね人の形をしているが、体中のあちこちが凸凹していて、頭には大きな三度笠のようなものを被っている。
「うわあっ、だっ誰だお前は!?」
 夫は誰かが本当に侵入していたことにもその侵入者の奇妙な格好にも驚いた。
 部屋の中も棚の上の物が散らばっていたりソファやテーブルがひっくり返っている。
 のそり、とその人物? がこちらを向いた。
 夫が思わずその顔にライトを当てると、その人物? の本当の姿が分かった。
 三度笠のように見えた物はそいつの頭だったのだ。内側にはひだがびっしり付いていて、まるで椎茸の内側のよう。のっぺりした顔があり、そのまま肩へと繋がっている。体は人のように手足があり寸胴な体型だが、その全身にきのこが生えていた。
 椎茸や舞茸のように見えるものから毒々しい色のもの。凸凹しているのはきのこが生えていたからだった。
 夫がそいつを天魔だと認識するのに時間はかからなかった。
 木刀なんかでどうこうできる相手ではない。
「何で天魔がこんな所に……!」
 悪態をつきながら、夫は天魔を刺激しないようにじりじりと後ろに下がる。
 キノコ人のこけしのような顔が、にやぁ、と笑った気がした。
 まずいと本能的に察知した夫はだっと玄関へ走る。キノコ人もその後を追った。
 夫は玄関を開け叫ぶ。
「天魔だ! 逃げろぉっ!!」
「!! あなた!? あなた!!」
 妻が玄関先に夫の姿を認めると、夫の背後に不気味なモノが見えた。
 夫が裸足のままドアから出ようとしたその時。

 キノコ人の頭からばっふと何か粉らしきものが噴出し撒かれた。

 夫はその粉をまともに浴びてしまう。
「うわあっ!?」
 すると、夫は幻覚でも見ているのかめちゃくちゃに暴れだした。
「あなた! しっかりして!」
 近付くこともできずにうろたえる妻の前で、夫はキノコ人にその腕を掴まれ、家の中へと引き戻されて行ってしまった。
「あなたぁっ!!」
 バタンと玄関のドアが閉まる。
 妻は震える手でどうにか久遠ヶ原学園に通報したのだった。



リプレイ本文

●別荘地にて
 依頼でなければ山の中腹から見える景色をゆっくり堪能できたはずだが、今の撃退士達にそんな余裕は許されていない。
 石田夫妻の別荘がある通りは封鎖による非常線が張られ、そこに石田氏の妻が警官と共に彼らを待っていた。
「お待ちしていました!」
「お願いします、夫を助けてください!」
 いささか緊張気味の警官が敬礼をし、取り乱した夫人がすがるように訴えて来る。
「大丈夫です、俺達に任せてください」
 一見老人を下に見るような若者っぽく見えるが、意外にも真摯な態度で応える向坂 玲治(ja6214)。実際の向坂は甘味好きな気のいい好青年だった。
「少し落ち着きましょうか」
 恐怖と焦りという過剰なストレスのあまり夫人の顔色が悪くなっていると感じた龍崎海(ja0565)が、『マインドケア』で穏やかなアウルを発生させる。
 そういうことに気が付くのは医師志望の龍崎ならではだ。青系統でまとめられた衣服が、彼の清廉さを表しているかのようだった。
「目の前で旦那さんが連れ去られてしまったのなら、とても心配で、気が気じゃないだろうね。元々病弱だそうだし……」
 狩野 峰雪(ja0345)も普段は柔和な顔を曇らせ夫人の心配をする。狩野は仲間の学生達よりも長い人生の中で連れ合いを喪っている経験から、今の夫人の気持ちが理解できた。
 今まで一緒に生きてきた人を喪うのは辛い。喪うかもしれないという恐怖もまた耐え難いものだ。

 夫人が落ち着いたのを見計らって、長い黒髪を後ろでひとつに縛った礼野 智美(ja3600)が早速ですが、と切り出す。凛とした態度や男子用の制服を身に着けていることもあり、大概女性だと気付かれることはない。
「旦那さんの確保のためには迅速に動かないと駄目なんです。家の間取りを教えてもらえますか? あと雨戸はどんなタイプでしょう?」
「ええと……」
 警官からメモ用紙とペンを借り、石田夫人は簡単な見取り図を書いて雨戸の説明をした。雨戸は下に鍵が付いているよくあるタイプのようだ。
「俺がまず『生命探知』で石田さんと敵の位置を探るよ」
 龍崎が言い、
「この庭に面してるリビング以外の雨戸を開けて、ここにおびき寄せるというのはどうです?」
 雫(ja1894)も一案を出すと皆それに賛同する。銀髪ポニテ少女の雫はその幼く可愛らしい外見とは裏腹に、常にクールな表情をしていた。
 雫の案を確実にするためには、雨戸以外にもブラインドやカーテンも開けた方がいいということになった。
 そして狩野が救急車の手配を頼み、全員が家の構図を頭に入れて行動が開始される。

 石田家別荘の門の前にはまだ車が停められていて、事件発生直後のままになっていた。
 通報後に駆けつけた警官らが付近を封鎖して見張っていたが、この家からは誰も何も出て来てはいないと言っていた。ならまだファンガスも石田氏も中にいるはずだ。
 室内からは音もなく、静まり返っている。石田氏がどういう状態なのか、ファンガスと一緒にいるのかなど不確定要素はあったが、突入するしかない。
 庭に入り、龍崎が精神を集中させ『生命探知』を使う。
 二つの反応があった。ファンガスと石田氏は一緒にいるようだ。頭の中に家の見取り図を出し、反応のあった場所と照らし合わせる。
「あそこはお風呂場だな。二つ反応がある」
「各部屋の雨戸やカーテン等を開けつつ、ファンガスを誘導しましょう」
 雫の再確認に皆うなずいた。
 突入前に狩野、龍崎、雫、礼野が自分に『聖なる刻印』を施し、雫が向坂とラファル A ユーティライネン(jb4620)に、龍崎が桜庭愛(jc1977)にもスキルを使った。
「私は庭で、出されたファンガスを迎え撃ちます!」
 桜庭が左の拳を右の手のひらに打ち付けて意気込む。白ラインの入った蒼いハイレグレオタードという、桜庭お決まりのコスチュームが眩しい。

 という訳で、桜庭以外の撃退士達は玄関へと歩を進めた。

●キノコ人間と遭遇
 そっと玄関から入り、
「俺は暗視鏡があるけど、皆は大丈夫?」
 龍崎が小声で言いながら、ナイトビジョンを装備する。
「僕が明かりを提供しよう」
 狩野がフラッシュライトとペンライトを取り出した。
 スキル『侵入』を使って音を立てずに移動、廊下の途中にライトを置いて最低限の明かりを確保する。
 礼野が玄関ホールのブラインドを開け、向坂が和室に入り雨戸と障子を開けに行った。
「この手の天魔がありがたいのは、いきなり物理的に食ったりしないから救出までの時間的余裕があるってことくらいだな」
 ラファルは小さくひとりごちながら『展開!! 俺俺式光学迷彩』で『潜行』し、収納部屋の確認へ。
 ペンギン帽子と左目の下にある星のマークが特徴のラファルは、外見の可愛さからはちょっと想像できない荒い言葉遣いも特徴だった。
 雫はキッチンに向かった。
 室内は大概荒らされており、天魔でなければ泥棒でも入ったと思うところだ。
(中で繁殖してないでしょうね……)
 半ば不吉なことを考えつつ雫は雨戸を開ける。

 皆が雨戸を開ける作業をしている最中、龍崎は再度『生命探知』を使った。
 反応の一つがさっきとは違う位置になっている。
 なるべく静かに行動しているとはいえ、どうしても音はしてしまう。それにこれだけの人数が家に入ればファンガスも多少の異変を感じたのだろう。
「ファンガスがお風呂場から移動してる、皆気を付けろ」
 小声で皆に呼びかける龍崎。
 その時、キッチンから出て来た雫はファンガスに遭遇してしまった。
「!」
 ファンガスは条件反射で雫に襲い掛かり、雫は咄嗟に塗壁の盾を構えてそれを防いだ。
 ラファルが駆け付け、
「焼きマツタケの美味しい季節に変なもの見せやがって、許せねー」
 怒りも顕に後ろからリビングの方へと体当りする。
 ちょうど焼きマツタケを食べようかと悩んでいた時に依頼参加を決めたラファルにとって、このキノコを冒涜したかのようなファンガスの姿はラファルの怒りに火を点けたようなものだった。
 いわゆる激おこ状態である。
「さっさとぶったおして別のもの食うことにするぜ、ほんと」

 ファンガスが雫とラファルに気を取られている間に、狩野と龍崎は石田氏のいるお風呂場に急いだ。
「石田さん、大丈夫ですか?」
 狩野が呼びかけても返事はなく、石田氏は風呂桶の中でぐったりと気を失っているようだ。『幻惑』にかかって暴れたせいか、腕に切り傷や打ち身がある。
 ざっと彼の状態を診て、龍崎は命に別条はないと診断した。
「多分気を失っているだけだろう」
「僕が連れ出すよ」
 と狩野は石田氏を背負う。
「よし、今だ」
 ファンガスがこっちを気にする暇もないうちに、龍崎の合図で狩野は石田氏を連れて家から脱出した。
 あらかじめ頼んでおいた救急車の所まで運ぶと、夫人が駆け寄って来た。
「あ、あなたぁっ!」
「大丈夫です、気を失っているだけですし、怪我は大したことないでしょう」
 狩野が『ライトヒール』で傷を治療し、夫人は泣きながら夫の手を取り良かった、と何度もつぶやいた。
「あ、ありがとうございます、ありがとう……!!」
 念のため検査をした方がいいということで、夫人は夫に付き添って救急車に乗って行った。


 ファンガスが集まって来た撃退士達を見て、胞子を撒き散らそうとする。
 室内で撒かれてはたまったものではない。
「そう簡単にさせるかよ」
 向坂が瞬時に『シールドバッシュ』でエペイストシールドを活性化させ、ファンガスの横っ面を殴り付けた!
「ファンガスっていうかマタンゴっていうか……まぁ、でかいキノコだな」
 向坂がイメージしていたのとは違っていたらしいファンガスは、技を中断されよろりと後ずさる。
 周りを見、家中明るくなっていることに戸惑ったのか、案の定まだ暗いままのリビングへ逃げ込んだ。
 リビングから出ないよう雫やラファルが出入り口を固め、礼野が雨戸に手を掛ける。
 庭に面した窓は大きい4枚戸になっていて、真ん中から両側へ開けられるようになっている。雨戸も同じような作りになっていた。
「いい? 開けるよ!?」
 礼野が雨戸を全開にすると同時に、龍崎が
「外に出てもらおうか」
 力を込めて掌を突き出した!
 『掌底』はファンガスの背中に命中し、窓から庭へと吹っ飛ばす。

 その先には仁王立ちした桜庭の姿が。

「待ってましたよぉ〜、正義の女子レスラー・桜庭愛、ここに推参っ!」
 あらかじめ『私のプロレススタイル』で闘気を解き放ち準備万端の桜庭は、黒髪をなびかせ地面に倒れ込んだファンガスにダッと取り付いた。
 そして逆さまに持ち上げジャンプ、ファンガスの体を旋回させ地面に叩き付ける『まなちゃんドライバー』を豪快に決めた。
「他人の家に侵入なんて、性根が腐ったやつね! これで胞子も飛ばせないでしょ?」
 ファンガスは頭を振り起き上がり、こけし顔の目鼻を中央にギュッと寄せ怒り顔になった。ぶちっと体からキノコをむしり、キノコ手裏剣を投げつける。
「なんのっ!」
 桜庭は身軽にジャンプして回避。
「きのこを武器にするとは非常識な」
 リビングから飛び出した雫が、ファンガスのキノコ頭に全体重をかけて『兜割り』を叩き込んだ。頭部を変形させ『朦朧』にも成功。
「マツタケ食う気なくなった償いをしてもらうぜ」
 ラファルが『俺式サイキックパワー〈デビルズバイス〉』をお見舞いした。
 ラファルの掌から見えない力が発せられ締め上げられるも、ファンガスは『束縛』を逃れる。
「これなら止められるか!?」
 礼野は桜紋軍刀を振り抜き『スタンエッジ』を放った。ファンガスはサルノコシカケのような盾を出して防ごうとするが無駄だった。衝撃は盾を越え見事『スタン』させる。
「たまには日光浴もいいだろう?」
 動けないファンガスに接近し、向坂は鋼のごとく練り上げたアウルを鬼切の太刀に乗せた一撃、『フルメタルインパクト』をぶち込んだ。
 その一撃はファンガスに大きなダメージを与える。
 ファンガスはたまらず片手は毒々しい色のキノコ爆弾、もう一方はキノコ手裏剣を投げてきた。
「おっと、間に合ったかな?」
 言いながら戻って来た狩野が『回避射撃』をしキノコ爆弾の軌道をずらし、礼野の回避を助ける。

 龍崎はフローティングシールドβ2を装備し手裏剣を防ぎ、隙を見てはシールド攻撃。
「だんだんキノコが生えるのが遅くなってきているな」
 それは弱ってきている証拠と見ていいだろう。
 手裏剣と盾の攻防をしている間に、桜庭が『鉄山靠』を食らわそうとした。
「悪のキノコは許さない!」
 が、避けられ誤爆。
 ファンガスは変形したキノコ頭から胞子を吹き出した。
「あっ!」
 煙のように胞子が広がる前に、雫が
「そんな妙な胞子を浴びる気はありません」
 『アートは爆発だ』でアウルの大爆発を起こし、胞子を吹き飛ばす。
「もう一度動けなくしてやる」
 礼野が大爆発の風の中から、『薙ぎ払い』を繰り出した。
 再びファンガスがサルノコシカケ盾でガードする。礼野の力を込めた一発は盾に当たり、ダメージが反射された!

「なにっ!?」

 礼野は自分の与えたダメージの半分を受けてしまい、さらには『スタン』にも失敗。
 ファンガスが追撃しようと礼野に襲い掛かる。
「させるわけないよね」
「調子に乗らない方がいい」
 狩野が奏鳴で、龍崎が雷鼓の書で二方向から牽制する。
 足元を射られ手からキノコを落とされているファンガスに、向坂が『ダークハンド』を使用した。
「そろそろ日光浴に飽きた頃か?」
 ファンガスの最期が近いことを悟った向坂が、皮肉を込めて言う。
 影の中から大きな腕が現れファンガスの体に掴みかかり、『束縛』した。
「いいぞ! 最後は任せろ!」
 強気な笑みを浮かべたラファルは、『魔刃〈エッジオブウルトロン〉』を発動。
 ナノマシンを集積させ刀状の武器を作り出す。その刀をラファルはファンガスのキノコ笠に下から突き刺した!
「おらあぁ!」
 そのまま笠を頭から切り取るように、ぐるりと切り裂く。
 ファンガスが苦しそうな叫び声を上げて身悶えているが、ラファルは意に介さない。むしろもっと叫べばいいとさえ思う。
「まだ終わりじゃないぜ」
 まだ刀を突き刺したままラファルが笑い。
 スキルの追加ダメージ分のナノマシンがファンガスの体内に入り込み――、内側から爆散した。

 頭部が破壊されたファンガスは、小奇麗な庭の中で不自然なほど醜いキノコの残骸となったのだった。

●キノコ退治の後
 龍崎が怪我をした礼野に『ライトヒール』での治療を終えると、
「取りあえず、お二人が帰って来るまで片付けをしておきましょうか」
 家の中を改めて見回して、雫が提案した。こう見えてしっかり者なのだ。
「……そうだな、終の住処にしたいって話だし」
 礼野も雫に同意した。せっかく無事に帰って来ても家が荒れたままだったら可哀想だ。

 警官に討伐完了を報告して室内や庭の清掃がほぼ終わった頃、石田夫妻が帰って来た。
 石田氏は特に異状もなく、本人も望んだので早々に帰って来たのだった。
 婦人は家の様子を見るなり声を上げた。
「天魔を退治してくれたのね! まあまあまあ、片付けまでしてくださってすみません!」
「おお、君達が私を助けてくれたのか! ありがとう!」
 石田氏は感激して撃退士一人一人と握手を交わす。
「二階は荒らされていませんでした。一階も中がきのこだらけになってなくって良かったです。もし、内部の湿気が多かったら敵ももっと成長してたか、複数になっていたかもしれませんね」
 雫の言葉にキノコ人間の不気味さを思い出したのか、微かに身震いする石田夫。
「いや、退治してくれて本当にありがとう! 片付けもあらかた終わっているみたいだし、良ければ昼飯でも食べて行ってくれ!」
 石田氏の強い勧めもあって、皆は夫妻の厚意を受けることになった。

 寿司やピザの出前を取り、夫妻自慢の二階のテラスでご馳走になる。
 テラスの壁に寄りかかった狩野は、楽しむ仲間達の姿を眺めた。夫妻も彼らの相手をするのを楽しんでいるみたいだ。
 人の好い夫婦だということが狩野にもよく分かる。
 もし妻が生きていたなら、こういう家に住んで静かに暮らしたいと願ったのかもしれない。
(いや……)
 と狩野はその思いを打ち切る。

 今はまだ、思い出に浸る時ではない。
 天魔との戦いが終わるまでは。

「本当にいい眺めだな。海も綺麗だ」
 狩野の隣に並んで龍崎がつぶやいた。
 名前の影響かは解らないが海好きな龍崎は、たとえ泳がなくてもその景色を眺めるだけで癒しとなる気がした。
「石田夫妻もこの家も、守れて良かった」
 狩野が噛み締めるように言って、龍崎と一緒に海を見つめる。

 たった一つだけれども、大切な平和を守ったことへのご褒美であるかのように、海は太陽の光を反射して美しく煌めいていた――。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅