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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/05


みんなの思い出



オープニング

●取り壊しの小学校
 地方出身者の裕之は都会に出て仕事に就き一人暮らしをしていたが、父が倒れたという知らせを受けて昨日大急ぎで実家に帰って来た。地元に着いたその足で入院する父の下に駆け付けると、病室は案外和やかな雰囲気だった。
 急に倒れたので母も慌てたが命に別状はなく、過労が原因だろうということだった。2、3日も入院すれば平気だそうだ。
 裕之としても人騒がせなという怒りも多少あったが、父が深刻な状態でなくて良かったという安堵の方が大きい。
 ホッとするとせっかくもらった三日間の休みを楽しもうという気になった。
 そして地元で働いている小学校からの友人の小宮に連絡を取り、彼の仕事が終わった後会うことにした。

 定時に仕事を上がった小宮は、待ち合わせ場所の喫茶店に仕事着のままやって来た。
「おー久しぶり〜! 元気か?」
「まあボチボチな。そっちはどうよ?」
 なんてお決まりの挨拶を交わす。友人ではあるが、裕之が都会に出てからは年に3回、実家に帰ってきた時しか会っていなかった。
 コーヒーのおかわりがなくなっても、二人の話は尽きない。
「そういえば、俺達が通ってた小学校、今度取り壊されるらしい」
 子供の頃の話をした流れで、小宮が言った。へえ、と裕之も受ける。
「そーなんだ。まあ俺達がいた頃から古かったもんなぁ。子供の数も全然減ってるだろうし」
「何年生だったか学校の七不思議とか流行ったよな。つーか七つどころじゃなかった」
「あー確かに! 俺20個以上聞いた! 年々七不思議が付け足されて増えてったんだろうな」
 小学校を卒業してからもう15年程経っているのに、結構覚えているものだ。
 裕之にとって小学校は楽しかった思い出の場所であり、取り壊されると聞いて急に寂しくなった。
 だから、
「なあ、今から小学校行ってみないか?」
 と提案してみた。
「ええ〜、今からか?」
「いいじゃん。俺は明日あっちに戻らなきゃいけないし、これが見納めだろ?」
「……そうだな。よし、行ってみっか」

 という訳で、二人は暗くなり始めた時刻、取り壊し予定の小学校へとやって来たのだった。

 現在はこの学校に通っている生徒はおらず、校門に取り壊し予定のお知らせは貼ってあるが、特に立ち入り禁止などの措置は取られていないので簡単に入ることができた。
「うわー、懐かしいなー! 鉄棒とか小さい! あれ、あそこにあった遊具なくなったのか」
 などと、裕之は懐かしさのあまりはしゃいでいる。
 グラウンドから校舎に近づいて行くと、どこからかボールの弾む音が聞こえたような気がした。
「ん?」
 二人が立ち止まって耳を澄ますともう何も聞こえない。大体通う子供もいない小学校に、自分達以外の誰かがいるとは思えなかった。
「気のせいか」
 けれども今度は、何かを動かしているようなガタガタという音が聞こえ始めた。だが辺りを見回してもそれらしきものは何も見えない。
 にわかに小宮の顔が暗くなって、こんなことを言い出した。
「なあ、学校の七不思議、いや七じゃないけど、とにかくその怪談のひとつ、覚えてるか? 運動が苦手で自殺した子の話……」
「ああ……、確か夜な夜な跳び箱とかが勝手に暴れまわるヤツ?」
「そうそれ」

 その話とは大体こんな内容だ。

 昔、運動が苦手な低学年の男子がいて、クラスの生徒に馬鹿にされていた。逆上がりもできない、跳び箱も飛べない、球技もダメ、足も遅い、体も硬い。
 先生も厳しく、時にはなんでこんなこともできないんだとぶたれたりしたこともあったらしい。昔の話だから体罰も当たり前だった。
 体育の時間はその男子にとって拷問の時間にも等しかっただろう。先生から罵倒され、クラスメイトからも見下される。
 やがて男子はそれを苦にして、ある日の体育の授業が終わると、屋上から飛び降り自殺してしまった。当然学校側はそれを事故としてもみ消したのだが。
 それ以来、時々跳び箱やボールという体育で使う物が勝手に動き出して暴れまわるのだと言う。

 本当か嘘かは裕之も小宮も分からないが、早朝に登校した先生の中には前日ちゃんと片付けたはずのバスケットボールやマット、跳び箱が、校庭のあちこちに散乱しているのを発見したという人もいたとか。

 で、今小宮はその七? 不思議の一つが再現されているとほのめかしているのだ。
「まさか、あれは単なる都市伝説と七不思議をミックスした怪談話だろ?」
 裕之は心に忍び込む不安を振り払うように言った。
 七不思議をどれか一つでも信じていた試しはないし、実際に恨みに繋がるようなことが原因で生徒が死んだという事実もない。他の七不思議だって、誰かが体験したという話は聞いたこともない。
「でも、音が近づいてきてないか?」

 二人が振り向くと、そこには奇妙なものがいた。

 布が破け古びた跳び箱や薄汚れたボール、錆び付いた鉄棒が雑に合体したものとでも言おうか。
 体が5段の跳び箱になっていて、一番上の段が口のようにガパガパ開閉している。そして鉄棒が腕のように跳び箱の側面から伸び、下にはバレーボールやバスケットボール、サッカーボールが適当に4つずつ重なったものが2本、足のようにくっついていた。
「うわあああ、何だこれ!?」
「呪いだ! 男子生徒の呪いだよ!!」
 跳び箱お化けの腕替わりの鉄棒が、小宮に振り下ろされる。
「あぶなっ」
 咄嗟に裕之は小宮の襟首を掴んで引っ張り、難を逃れた。
 鉄棒が地面に突き刺さる。あんなので叩かれたら頭をカチ割られてしまう。
「逃げよう!」
 小宮を連れて駆け出す裕之。
 すると、跳び箱の口が開いて中からバレーボールが飛んで来た。
「わああっ!!」
「うわっ!」
 小宮がつまづいて転んで裕之をも巻き込んだおかげでボールに当たらずにすんだが、ボールは教室の窓を派手に割る。
 跳び箱の化け物はボールの足を器用に使い、近づいて来ていた。
「立て、小宮! 早く!!」
 裕之は強引に小宮を立たせて、割れた教室の窓から学校内へ逃げ込んだ。

 とにかく化け物から離れようと、二人は3階へと向かう。一番端の教室に入り、裕之はこっそり窓から校庭の様子をうかがった。
 跳び箱お化けはそこまで裕之達に執着がないのか単に知恵が回らないのか、校舎に入るまではしていない。
 だが、七不思議の話にあるように鉄棒を振り回しボールを飛ばして暴れまわっている。
「俺、七不思議なんて信じてなかったけど、ホントのことだったんだな」
 震えは止まらないが少し落ち着いた小宮がぽつりとこぼした。
 それはどうだろう、と裕之は思う。
 怖いことは怖いが、アレは霊的なものと言うより、もっとこう、天魔的?
「そうだ、天魔だ! あれは天魔だよ!」
 やっとそこに思考が行き着いた裕之は、急いで久遠ヶ原学園に通報するのだった。


リプレイ本文

●夜の廃校
 民家が途切れた道の先に、田舎特有の暗さ以上に黒い校舎のシルエットがあった。
「よ、夜の学校、コワイです〜……!」
 それが七つ以上の不思議話が満載の廃校ならなおさら怖い。
 グラサージュ・ブリゼ(jb9587)は仲間達の後ろに隠れて付いて来ていた。いつもの快活さは影を潜め、今はひたすらビクついている。
(ひいぃ、やっぱり怖いです。七不思議なんて、正気の沙汰とは、思えません。どうか顔に出てませんように……)
 グラサージュの隣でアルティミシア(jc1611)も内心かなり怖がっていたものの、今日は妹も一緒にいるので情けないところは見せられない。自分もまだ幼いくせに、健気にも懸命に姉らしく見せようとしていた。
 その姉の努力が実っているのかどうか、当の妹アルフィミア(jc2349)は
「怪談〜怪談〜七不思議〜♪とっても楽しみですぅ〜♪」
 とアルティミシアとは正反対にゴキゲンなのだった。
「七不思議って言うとあれだよな。6個目までは割と明確な話があるけど、7つ目が曖昧で、7つ目を知るとあっちに連れて行かれるっていう……」
 しれっと西條 弥彦(jb9624)が言う。西條は単によく言われていることを述べただけのつもりだったが。
「ちょ、やめてー!」
 グラサージュがアルティミシアにしがみつき、アルティミシアは無言で表情を強ばらせていた。
「まあいい大人が、夜に学校に忍び込むのはアウトだな」
 逢見仙也(jc1616)は天魔ハーフという出自にも関わらず、案外常識人であった。――この時はまだ。

 撃退士達は一旦校門で足を止め、改めて学校を見渡す。
 ここからは見えないが、校庭の跳び箱サーバントが立てているであろう物音が聞こえ、普段なら決してしないはずのその音が不気味だった。
「怖い雰囲気だけど、さくっと倒して救助しよう!」
 雪室 チルル(ja0220)が皆を鼓舞するように声を掛け、一番に乗り込んだ。
 他の者達も後に続く。
「俺とブリゼさんで救助者を探す」
 校庭へと走りながら西條はまず阻霊符を展開し、続けて『陰影の翼』を顕現させた。
「がが、頑張ります!」
 グラサージュも同様に『陽光の翼』を出し飛ぶ。怖くても依頼を放り出すわけにはいかない。
「分かった、天魔は任せろ」
 このメンバーの中では一番大人びて見える鐘田将太郎(ja0114)が、校舎へと飛んで行く二人を見送った。

 西條とグラサージュは二手に分かれた。裕之と小宮がいるのは3階だと分かっているので、そこまで飛び上がる。
 西條は校舎の右側に向かった。『索敵』を使い、フラッシュライトで教室内もよく見える。
「俺は撃退士だ! 救助に来た!」
 いきなり窓を覗き込み救助者に無用な恐怖を与えると事態がややこしくなる。なので助けに来たことを告げながら探索した。
 一方、グラサージュは校舎左側を見回る。サードアイを装備しているため暗闇でも問題ないのだが。
「きゅ、救助者でありますように〜……白い影とかはやめて〜……」
 恐る恐る中を覗くと、白い影がいくつも浮いている。
「きゃあーーッ!!」
 一旦窓の下へ隠れ、もう一度中をよく見る。
 白い影の正体は、布を被せられた石膏像のようだった。どうやらここは美術室らしい。
「もう、紛らわしい物置いとかないでよぉ」
 涙目で愚痴りながら次の教室へ。
 今度こそ二つの人影が見えた。
「きゃああー! 出たー! いたー! お化け!?」
「うわああッ!?」
 同時に発せられる悲鳴。
「あれ?」
 グラサージュがはたと動きを止めた。
 向こうもおや、と思ったのか、まじまじとグラサージュを見ている。幽霊だったらこんな反応はしないはずだ。
「生きてる? 生きてるよねっ!?」
「は、はい。もしかしてキミ、撃退士?」
 人影は裕之と小宮だった。自分達よりもテンパっている撃退士を見て絶賛戸惑い中。
「良かったぁ〜! 戦闘が終わったら迎えに来ます。念のため窓から離れて待っててください」
「はあ……」
「あ、弥彦くん、見つかったよ〜!」
 グラサージュは半泣きになりながら西條にスマホで連絡し、戦闘場所へと向かった。

●暴れる跳び箱
 雪室がソーラーランタンで辺りを照らすと、跳び箱お化けはすぐに見つかった。校庭の真ん中で、七不思議を再現するかのごとく暴れている。
「なんじゃこりゃ」
 鐘田は思わず声を漏らした。一応依頼時の説明で外見の様子を聞いてはいたものの、実際に見てみるとかなり変だ。
「このサーバント作った奴、学校の七不思議とか知ってるのかね? ヘンテコな外見だが、侮ると痛い目に遭いそうだぜ……」
 それにしても、こういうヘンなサーバントにはよくよく縁があるようだ。どうしてもとある子供天使のことを思い出してしまい、鐘田はこめかみを抑える。
「なんか頭痛くなってきた」
 天使には変なセンスの輩が多いのだろうか。それでも『闘気解放』して戦いに備える。さらに雪室が『氷理〈ウィンタールールズ〉』で鐘田を指定し能力を上げた。
「そこの跳び箱! 俺達がお前の相手をしてやる!」
 逢見が大声でサーバントの注意を引いた。さらに雪室が甘蕉で牽制射撃すると、跳び箱お化けは体ごとこちらに向く。
 どんな攻撃をするのかと少し距離を空けて鐘田がじっと見つめる中、跳び箱の一段目がガバっと開いて、ボールが発射された!
「ボール吐き出しかい!」
 鐘田のツッコミを背景に、ボールは逢見に飛んでいく。
「お返しするよ」
 逢見は『シールドリポスト』を使いグライスシールドでボールを受け、弾き返した。それでも衝撃のいくらかは逢見のダメージとなる。

 跳び箱お化けはボールの足を軽く弾ませながら逢見に接近、鉄棒の腕を振り上げた。その腕の付け根に銃弾が当たり、鉄棒が半ば跳び箱から取れかかる。
 『夜の番人』で視界を確保したアルティミシアが、スナイパーライフルを上空から撃ったのだ。
「射程が、長いなら、それ以上の距離から、撃てばいいだけの、ことです」
 そしてアルフィミアも跳び箱お化けの上をくるくると旋回、
「跳び箱が邪魔〜ですね〜。どっかーんして、肝試しを〜楽しみますですよぉ〜♪」
 ジャバウォックスピアを構えて急降下。安定感の悪そうなボール足を狙い『スマッシュ』を放つ。
 しかし跳び箱はひょいと飛び退いてそれをかわし、縄跳びを鞭のように放ってアルフィミアの腕に巻き付けた。アルフィミアは『束縛』になってしまう。
「わ〜ん、つかまってしまいましたぁ〜!」
 そのまま跳び箱お化けの方に引き寄せられ、跳び箱の口が開いた。噛み付こうというのだ。
「食べられちゃいますぅ〜!」
「だーッ、もう、噛み付きに鉄棒振り回しはともかく、縄跳びを鞭にするんじゃねぇ! SMの女王様かてめぇは!」
 律儀に(?)ツッコミながら鐘田が『薙ぎ払い』をお見舞いする。
 弾き飛ばさんばかりの勢いの一撃は、跳び箱の口が閉まる前に胴体に命中し、仰け反らせた。さらに『スタン』に成功する。
「上出来よ!」
「見た目より動けるんだな」
 アルフィミアが逃れると雪室が『コンセントレート』を撃ち、逢見が魔戒の黒鎖を叩き込んだ。

「いました〜! 何か色々いました〜!」(いないけど)
 今にも泣きそうな顔のグラサージュが叫びながら、こっちへ飛んで来る。
 跳び箱がグラサージュにボールを吐き出した!
「きゃー!」
 グラサージュは咄嗟にクウァイイータスを構え、ボールを撃ちまくり破裂させる。
「可能な限り、阻害します」
「何だか七不思議っぽくないな」
 アルティミシアと、その対面に陣取った西條がライフルを撃ち、跳び箱お化けの口にさらなる銃弾を浴びせる。
 その攻撃を振り払うように、跳び箱お化けは鉄棒腕と縄跳びをあちこちに振り回しだした。
「暴れたら〜いけないのですよぉ〜」
 アルフィミアが上からスピアでちょっかいを出し、跳び箱の攻撃を邪魔する。
 跳び箱がアルフィミアの相手をしている隙に、逢見が背後に接近していた。
「これでどうだ」
 『八卦石縛風』を放つ。
 跳び箱お化けは澱んだオーラに包まれ砂嵐に巻き込まれた。体中がボコボコになるが、『石化』することはできなかった。
「ちっ」
 跳び箱お化けの縄跳び攻撃が逢見に襲いかかる。
「まだ気を抜いちゃダメ!」
 雪室が『コンセントレート』で腕に射撃。腕を押し戻すもまだ縄跳びは生きている。
「いいかげんその攻撃は飽きたぜ!」
 鐘田が名前入りのフルカスサイスで縄跳びを絡め取り、その勢いのまま腕の根元に刃をぶっ刺した!
 跳び箱お化けの腕がもげる。
 怒った跳び箱はぐわっと身を乗り出し、いきなり鐘田の肩に噛み付いた!
「うぁっ!」
「今助ける!」
 西條が狙撃すると跳び箱お化けは鐘田から離れる。
「ったく、結構痛いじゃねぇか」
 豪快に噛まれていたにしては鐘田は大したダメージではなく、すぐに体勢を立て直した。

 跳び箱お化けの体はあちこち穴が空いたり凹んだりして傷んでいる。一本の腕はもうなく、もう一本はグラグラだ。
 あと少しで倒せるという現実が、グラサージュの行動を促した。
「チョコでコーティングすれば怖くないっ」
 グラサージュは『ストロベリー・トランペ』を使った。鞭状になったストロベリーチョコを跳び箱お化けにぐるぐるーっと隙間なく巻きつけてコーティング、縛り上げる。『束縛』に成功。
 最後の足掻きかボール飛ばそうと口を開ける跳び箱お化け。弱っているため動きが遅くなっている。
「皆、ここが正念場よ!」
 雪室はボールが飛び出す前に跳び箱お化けの口を射抜くと、上顎部分が砕け散った。出かかったボールは勢いもなくすぐ側にぼとりと落ちる。
 それに続いて逢見が『アーススピア』を発動した。
「その足、壊させてもらう」
 跳び箱お化けの足元の土が無数の針のように尖り一斉にせり上がる。
 足のボールが1個割れ、跳び箱お化けはごろんと転んだ。

 完全なるチャンス。

「七不思議タイムは終わりだ!」
 鐘田が渾身の力を込めた突撃、『烈風突』を常人には追えない速さで打ち込んだ。
 強烈な衝撃に跳び箱お化けは数mすっ飛び。
 やけにスローに見える滞空時間の後どしゃっと地面に落ちると、体を構成していた跳び箱やボールはバラバラに散らばった。
 その様はまさに七不思議の現象のように、体育用具が暴れた後っぽく見えたのだった。

●救助兼肝試し
「怪我した人は、俺が治します」
 逢見が自分に『ヒール』を使いがてら、鐘田やアルフィミアに言った。
「おう、頼むぜ」
「ありがとうございますぅ〜」
 仲間の治療が済むと、
「それじゃあ、救助者を迎えに行くついでに肝試しでもすっか」
 鐘田が提案。
「あたいは構わないわよ!」
「わーい、大賛成ですぅ〜♪」
 雪室とアルフィミアはあっさりOK。
「俺も別にいいけど、オカルトと天魔の区別がつかないから攻撃するかもしれないぞ」
「取り壊すみてぇだから多少壊れても大丈夫だろ」
 ということで西條も参加決定。
「ホントにヤるんですか? 良いでしょう、跳び箱お化けに立ち向かい、恐怖を克服した、鋼の精神を、今、見せる時、です!」
 アルティミシアは無理矢理強がって見せる。自称『鋼の精神』は実は紙並にペラッペラなのだが。
「ええぇ〜……でもここに残るのも嫌なので一緒に行きます」
 グラサージュは青い顔でアルティミシアの腕にぎゅっとしがみついた。
「いいですかアミィ、勝手に一人で、どこかに行ってはダメ、ですよ!」
「は〜いですぅ、お姉ちゃん」
 七不思議も怖いがまだ落ち着きのない妹も心配なアルティミシアは、とにかくそこだけはしっかり注意しておく。
「全員参加ですね。じゃ早速行きましょう。あ、俺は殿を務めますから」
 意味深に微笑みながら逢見は皆を先に行かせ、そして肝試しが始まった……。

 裕之と小宮の場所は確認してあるので、そこを折り返し地点として1階から順に回っていくことにする一同。
「七不思議って〜似たようなものが〜多いですね〜。どうして〜ですかねぇ〜。人のイメージ〜ですかねぇ〜。そういえば〜アミィ達悪魔とか〜天使も〜ある意味オカルト〜ですよねぇ〜」
 アルフィミアはワクワク全開で楽しそうにおしゃべりしながらあちこち見ている。
 頃合を見て、逢見は皆から離れ姿を消した。
「学校は夜に忍び込む悪い子を懲らしめることが出来ませんからね。代わりに俺がお仕置きしましょう。悪い子はどこだ〜、なんてね」
 壁を透過しようとしたら、西條が阻霊符の解除をしていないため出来なかった。仕方ないので『陰陽の翼』で外から先回りする。
 ヒリュウを召喚して教壇の下に隠れさせた。
 その教室の前を鐘田達が通りかかる。
 ――ガタガタッ
「きゃあぁ、何今の音!?」
 グラサージュは飛び上がった。アルティミシアも表情だけは平気なフリをしていたが、実は結構キている。
「七不思議の一つかな」
 鐘田はさらりと言って、どんどん先に行く。

 それからも霊的現象? は続いた。
 保健室では火の玉らしきものが浮かんで消え(逢見のスキル『トーチ』)、理科室では人体模型が動き(ヒリュウ)、音楽室では勝手にピアノが鳴り出し(スマホ)、階段を上ればその階だけ一段多い(スキル『創造』)。
 その全てにグラサージュは悲鳴を上げていた。彼女があまりにも怖がるので、西條や雪室、鐘田は逆に霊的現象が逢見の仕業だと分かってしまったくらいだ。
 ようやく皆は裕之と小宮のいる教室まで辿り着く。
「迎えに来た。無事だな? 良し」
 何事もなかったように鐘田が二人を連れ出した。
「あ、ありがとう。助かったよ」
 二人は頭を下げまず礼を述べる。
「あの、さっきから悲鳴が聞こえてたんだけど、あれは何? まさか本当に心霊現象が」
「いや、あれはな……」
 鐘田が説明しようとすると突然グラサージュがキョロキョロし、
「あれ、人数減った?」
 逢見がいないことに今更気づいたらしい。
「え? え?」
 それを聞いたアルティミシアも顔面蒼白、気絶寸前だ。
「神隠し? 鏡に吸い込まれた? え、やっぱり七不思議ってホントなの!?」
「いやだから」
「何も聞こえない聞こえない聞kわーーーーッ!!」
 グラサージュは両手で耳をふさいで錯乱、突然髪が伸び狐のような耳と尻尾が出現した。
 そして銃を乱射しながら走り出す。
「もう無理、やめてーーーッ!!」
「おい、待てって!」
 結局皆グラサージュを追いかけて校舎を出ることになった。

 結果戦闘以上にお見舞いされぐったりしているグラサージュとアルティミシアの横で、アルフィミアはご満悦だった。
「跳び箱以外は〜概ね満足ですぅ〜♪いい夢〜見れそうですぅ〜♪」
 最後逢見は金盞花を『創造』し校舎の出入り口にそっと手向ける。
「長い間お疲れ様でした」
 学校はなくなってしまうかもしれないけど、七不思議はまたどこかで語り継がれることだろう。

 そんな逢見の思いを受け取ったかのように、月が学校を神秘的に照らしていた。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 童の一種・逢見仙也(jc1616)
重体: −
面白かった!:5人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
『楽園』華茶会・
グラサージュ・ブリゼ(jb9587)

大学部2年6組 女 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
西條 弥彦(jb9624)

大学部2年324組 男 インフィルトレイター
破廉恥はデストロイ!・
アルティミシア(jc1611)

中等部2年10組 女 ナイトウォーカー
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
アルフィミア(jc2349)

小等部4年5組 女 ルインズブレイド