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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/14


みんなの思い出



オープニング

●怪人の味方
 ランジェロは、まだ5歳ほどの子供天使である。
 子供らしく想像力が豊かで、独創的な動物の絵を描いたり、思いつくままに粘土で何かを作ったりするのが好きだ。そこは人間の子供と似たようなもので、その時々にハマっているものをモチーフにしたりしている。
 出来上がるのは所詮は子供が制作しただけあって、本人にしか判らないような出来のものばかり。
 だけどランジェロの母だけは、彼の描くもの作るものを手放しで褒め讃え、天才だと言ってはばからないのだった。
 芸術的センスだけではない。
 ランジェロの金髪のふわふわな巻毛やくりくりの青い瞳の外見も宇宙一可愛い! と母は思っている。

 とにかくランジェロは母天使にものすごい溺愛されているのだ。

 そのランジェロは今、人の世界で母が見つけて来た特撮ヒーローもののビデオを見ていた。
 母天使は隣で一緒にビデオを鑑賞し、すっかり画面に釘付けの我が子を見て喜ぶ。どうやら気に入ってくれたようだ。
 ランジェロはヒーローが攻撃したり敵のナントカ怪人がやり返したりのシーンを見る度、『わあっ』とか『おー』とか声を上げている。
 最初はそうしてはしゃいでいたランジェロだったが、途中から
「このヒーローっていうヤツずるいよ!」
 と言い出すようになった。
「ど、どうして?」
 母天使は息子が何に対して不機嫌になっているのか解らず、尋ねる。
「だって、怪人ばっかりやられてるんだもん! ほら、この話でもやられちゃった! 絶対怪人の方が強いのに!」
「でも、そういう話なのよ、これは。怪人がやられるようになってるの」
「やだやだ! 怪人かわいそうだよ! 怪人のほうがカッコイイのに! わあぁ〜ん!」
 ランジェロは駄々をこね始めてしまう。
「ああ、泣かないで、ランジェロ! あなたの言う通りね、怪人がやられちゃうなんて理不尽だわ」
 息子を抱きしめどうにかなだめようとした母は、ふと画面を見て思った。
「そういえば、このヒーローっていうの撃退士に似てるわね。まるで私達の作ったサーバントを倒してるみたいに見えるわ」
 ランジェロがガバと母から身をもぎ離し、もう一度ビデオの流れている画面を見る。
「……ホントだ! げきたいしみたいだ! うぅ〜……、じゃあ、ぼくが怪人のかたきをとる!」
「え? ランジェロ?」
 宣言するなり、ダッと駆け出して行くランジェロ。
 サーバントを作る気なのだ。

 そして奇妙な怪人ふうサーバントが出来上がった。

●サメ大王
 最近のランジェロは、海洋生物に興味があったらしい。
 頭部は、目だけはやけにカワイく笑ったような大口を開け、獰猛そうな歯を剥き出したサメで、胴体の途中からイカになっていた。首の辺りにエラを表現したと思われる真っ赤な切れ込み模様がある。
 なぜか色とりどりで長さもまちまちな10本の触手で立ち、二本の長い触腕は肩から生え腕のようだ。背中にはサメの背びれ、腰からはスカートのようにひらひらした半透明のイカヒレも垂れている。
 全体的に歪んでいて斜めに傾いていたり何やら色々おかしいが、本物を知らないランジェロの溢れんばかりの感性で補われたサーバントだった。

 ランジェロは母天使に自分の作ったサーバントを披露する。
「サメもダイオウイカも強いんだよ! だから合体したらもっと強いんだ! これはね、サメ大王だよ!」
 当然、母は拍手してその出来栄えを褒めちぎった。
「素晴らしいわ! 人間の考えた怪人なんかよりよっぽど強そうよ! さすが私の息子、天才すぎて怖いくらいね!」
「よぉーし、これでげきたいしをやっつけて、怪人たちのかたきをとるんだ!」

 というわけで、サメ大王を連れてランジェロとその母親は人間界へとやってきたのだった。
 母はいつものごとく、ビデオカメラ的な物で愛する息子の勇姿を収める気満々だ。
「えーっと、人をケガさせなきゃいいんだよね!」
 『誰かを傷つけない』というのは、ランジェロが前回撃退士に言われて学んだことだった。だから人がいない場所を選んでそこで戦うことに決める。
「偉いわね、ランジェロ! 人間にまで気を使ってあげるなんて、優しいわ〜!」
 母天使はほくほく顔で早速ビデオのようなものを回し始めた。
 人間に危害を加えないというのはいいが、そこは小松菜やかぼちゃが広く植えられている畑のど真ん中だ。
 ちょうどやって来た農家の人が、畑に陣取っている天魔に驚きの声を上げる。
「て、天魔だぁっ!」
 ランジェロは腰を抜かさんばかりのおじさんに駆け寄り、無邪気に声をかけた。
「ねえねえ、ぼくげきたいしと戦いたいんだ! げきたいしを呼んでよ! 待ってるからね!」
「そこのあなた、早くしてね。宇宙一可愛い私の子のお願いなんだから、もちろん聞いてくれるわよね?」
 一方的な子供の天使とやけに居丈高な母親らしき天使を、農夫は怯えた目で交互に見る。
 子供天使のお願いというか要求に呆気にとられたものの、子供だろうがちょっと変わっていようが天魔は天魔、何をされるか分からない。逆らわない方がいいと思い、農夫は急いで家まで逃げ帰って久遠ヶ原学園に通報したのだった。

「早くこないかな〜。こんどこそやっつけてやるぞー!」
 撃退士を待っている間、子供天使はサーバントに畑の野菜を抜かせたりして退屈を紛らわせ、そんな息子を母天使は一所懸命ビデオに撮っている。

 そこは常に片田舎の平凡な畑だったが、今は一種異様な光景が展開されていた……。


リプレイ本文

●親子と対面
 鐘田将太郎(ja0114)は、通報内容を聞いてもしやと思っていた。
「ランジェロが作ったヘンテコサーバントじゃねぇだろうなあ……」
 変なビジュアルのサーバントとは何度も戦っており、製作者とも顔見知りだ。
 撃退士達が現場に到着すると、なるほどサメとイカが奇妙に合体したモノが畑にいる。
「見て見て! とっても変な生き物がいるわ!」
 ウシャンカを被った少女、雪室 チルル(ja0220)がサメ大王を指差し声を上げた。
 サメ大王の傍に天使の親子を見つけた鐘田は若干の頭痛を覚え、こめかみを押さえる。
 やはりというかまたかというか。懲りない親子だ。
「あんなデザインでもいいなら、あたいでも簡単にサーバント作れそうね!」
 と偉そうに胸を張る雪室だが、実は彼女のセンスも画伯並みだったりする。
「報告書で見かけたことはあったけど……なんじゃこりゃ?」
 頭部左の龍のタトゥーが目を引く佐藤 としお(ja2489)は、予想以上のサーバントの姿に思わず呆れてしまったが、すぐに表情を引き締めた。
「ともかくやるべきことをやらないとな」
「頑張って退治しましょう〜」
 佐藤の隣で、皆を元気づけるように言う華子=マーヴェリック(jc0898)。
 すると、子供天使のランジェロと母天使が撃退士に気づいた。
「あっ、かねだだ!」
 前回会ったのを覚えており、ランジェロが鐘田の方に走って来た。
「ランジェロ、気をつけて!」
 母が息子のすぐ後ろに付いて来て、一応警戒をする。
 鐘田はにこやかに手を上げた。
「また会ったな、ランジェロ。アレもお前が作ったのか?」
「そうだよ! サメ大王怪人! ヒーローの話は怪人ばっかりやられてかわいそうだから、サメ大王がげきたいしを倒してかたきを取るんだ!」
「そうか……」
 解ったような解らないような理屈だが、鐘田はうなずく。
「とにかく、人を傷つけないという約束を守ったのはエライ」
「うん。怪人を作成し人界を脅かしながらも、撃退士の言いつけを守ったのは立派だ! それは誇っていいよランジェロ」
 白衣にメガネで悪の組織の幹部といった衣装の鴉乃宮 歌音(ja0427)も鐘田に賛同すると、ランジェロは照れ笑い。
「えへへ〜」
「当然でしょ、ウチの子は優しいんだから!」
 褒められて嬉しいのは天使の親子も人間も一緒である。
 だが、と鐘田は真面目な顔つきになる。
「ここは『畑』だ。畑を荒らすのは良くねぇ」
「はたけ?」
 自分達のいる所が何なのか解っていないらしい。母天使も不思議そうな顔だ。まずそこから説明をしなければならないようだった。
「畑は野菜を作る場所だ。野菜はお前が作ったサーバントみたいなモンだぜ。作り手の心がこもっているんだ。お前も自分の作ったサーバント倒されたら悲しいだろ? それと同じくらい、農家の人は畑荒らされたら悲しいんだ」
「やさい? この草はやさいなの?」
 ランジェロは彼なりに鐘田の言葉を一所懸命理解しようとしてるみたいだった。
 藤井 雪彦(jb4731)はそんな親子を観察していた。
「以前の報告書見たことあるけど、全体的に子供ならではの純粋さ、母親も過剰かもしれないけど子への愛情故ってカンジ? あんまり悪意は感じないけど……、エスカレートして大きな事件になると危ないなぁ……」
 一見軽薄そうにタレ目を細めた笑顔ではあるが、見る所は見ている。藤井自身思う所もあり、一言子供に言ってやりたいと思っていた。
「ランジェロ君の宝物は何かな?」
 佐藤がちょっと身を屈めてランジェロに尋ねる。
「え? うーんと、じょうずにかけた絵とか、おかあしゃんがとってくれたビデオとか!」
「まあ、ランジェロったらなんていい子っ!」
 後ろから息子を抱きしめる母を取りあえず無視して、佐藤は優しく言い聞かせる。
「畑は農家さんにとって野菜を育てる大切な場所。ランジェロ君の絵やビデオと一緒なんだよ。ビデオが壊れちゃったりしたら嫌だろ?」
「うん」
「農家さんも、野菜がダメになったらとても悲しいし、困るんだ」
「そっか……じゃあ、はたけに入るのはやめるね」
 ランジェロはサメ大王に畑から出るよう指示した。
「君の挑戦はヒーローとして受けよう! だが、誰かに迷惑のかからない場所でだ!」
 雪ノ下・正太郎(ja0343)が決然とした態度で言い放つ。
 すると、道を挟んだ向こうから華子が皆を呼ぶ。鐘田達がランジェロと話している間、華子は野原を調べていたのだ。
「穴やぬかるんでる所はありません! 草ぼうぼうですけど大丈夫です!」
「よし、じゃあ向こうで勝負だ!」
「おーっ!」

●ヒーロー対サメ大王
 野原でサメ大王と向き合うと、雪ノ下はポーズを付けながら光纏、
「我龍転成リュウセイガー!」
 青龍をイメージしたヒーローに変身した。
「わあっ、ほんとにヒーローだ! がんばれサメ大王ー! おかあしゃん、ちゃんととってね!」
「任せて!」
 離れた所で怪人側を応援するランジェロと、息子の望み通りカメラのようなもので撮る母親。
「行くぞサメ大王!」
 雪ノ下は真っ向からサメ大王に向かって行く。他の仲間達はまだ戦闘に参加せず、静観していた。
 サメ大王はリュウセイガーの拳を触手で受け止め、触腕で切りつける。
「くっ!」
 リュウセイガーのキックがヒット! が、触手に足を掴まれてしまった。
 引き寄せられ、腕ごと噛み付かれる。
「ぐはっ!」
 どう、と地面に倒れ伏すヒーロー。
 サメ大王が覆いかぶさるように伸し掛かり、触手で殴り触腕で切りまくる。ひとしきり痛め付けられたリュウセイガーは苦しげに呻き、起き上がれない。
「勝った? サメ大王が勝ったよね!」
「すごいわランジェロ!」
 怪人達の宿敵を倒したのだとランジェロは飛び上がって喜び、母も賞賛する。

 しかし。

 ぐぐ、と力を振り絞りリュウセイガーは身を起こそうとする。
「ヒーローも撃退士も倒れないわけじゃない……、だが、自分達が暮らす世界の大事な人や物を守るためには、倒れても立ち上がらねばならないんだ――!」
 『レストア』で最低限の治療を施し立ち上がった!
「ええっ、そんな! ずるいよぉ!」
 ランジェロが叫ぶ。
「皆、サメ大王退治といこうぜ!」
 鐘田の合図と共に、藤井の『韋駄天』で身軽になった仲間達が一斉に飛び出した。

「イカも混じってるから煙幕とかしそうだしね」
 鴉乃宮は『幻視追跡〈猟師〉』を使う。軽い発砲音と赤い光が一瞬発せられ、特殊なアウルをサメ大王に撃ち込んだ。
「足多すぎない?」
 佐藤の周囲にアウルの蝶が現れた。
 『忍法〈胡蝶〉』によって作り出した無数の蝶を、サメ大王にけしかける。
 触手にダメージを与えるも、『朦朧』は失敗。
「殴ったらもっと変な顔になるかしら!?」
 雪室がケイロンロッドでサメの顔面を殴りつける。
 サメ大王は触腕で反撃してきた。雪室は咄嗟に『氷盾〈フロストディフェンダー〉』でロッドを氷結晶で覆い、触腕の刃を受け止めた。
 衝撃を氷結晶から解放した力場へ分散させダメージを軽減する。
 雪室は触腕を上へ弾き、懐へさらに一撃を見舞おうとした時。
 数本の触手が雪室の体に巻き付いた。
「しまった!」
 強く締め付けられ吸盤の刺が肌に食い込む。『毒』にはなっていないが身動きできない。けれども、雪室は不敵に笑った。
「意外と強敵ね……! だけどあたいは一人じゃない!」

「ヒーローには仲間がいるモンだ!」

 鐘田のフルカスサイスが豪快に振り下ろされ、触手を斬り裂いた。
 触手が緩むとすぐさま雪室が脱出。
 サメ大王はイカスミを吐き出した。
 辺りが黒い煙のようなものに包まれ、サメ大王の姿が見えなくなる。
 『幻視追跡〈猟師〉』が役立った。鴉乃宮にはサメ大王の位置が丸分かりだ。
「鐘田の右4mの所だ!」
 鴉乃宮の指示にすぐさま反応した藤井が『地妖精の悪戯』を放つ。
「サメ肌よりも硬くなってみない? その後、砕くけど☆」
 舞い上がる砂塵がサメ大王を包み、肉を削るように傷つけてゆく。
 『石化』は免れてもサメヒレもイカヒレも削られ、体のあちこちに穴の空いたサメ大王は、藤井に触腕を伸ばす。
「うわヤバっ!」
 当たる直前でリュウセイガーが触腕を掴み取った。
「俺の仲間は俺が守る!」
 そのまま引っ張り倒す。
「皆さん、離れてください!」
 華子が腕を上げると、上空から無数の彗星がサメ大王目掛けて落ちてくる。『コメット』だ。
 だがサメ大王は彗星を掻い潜って華子に突進、襲いかかろうとする。
「!」
「危ない!」
 近くにいた佐藤が『回避射撃』を試みる。
 僅かに進行方向をずらしたが完全には避けられず、華子は腕に軽傷を負った。

「悪の美学を教えてあげないとね」
 言いながら、鴉乃宮はサメの頭部にエルヴンボウを射った。怪人側の格好をしていても、今は敵の味方をする訳にはいかない。
 矢が大口の中にぶすりと突き刺さる。
 サメ大王は口から血を流しながら矢を噛み砕いた。
「見た目に反して意外と強いね」
 続けて佐藤が『アシッドショット』を撃ち込む。3本の触手がいっぺんに吹き飛び、『腐敗』した。
 サメ大王は残った触手を一気に広げてきた。全員少し距離を取る。
「この技は使いたくなかったけど……仕方ない! 必殺! アンタレス!」
 雪室が叫ぶと、突然雪室のまさに目の前からサメ大王の周りが炎に包まれた。
 触手が『アンタレス』の炎を嫌がるようにのたうつ。
「熱い熱い熱い熱い! 皆今のうちよ!」
「了解〜。ちょっと大人しくしててもらおーかなっ♪」
 『式神・縛』を発動させる藤井。
 式神はサメ大王に絡み付いて『束縛』する。
「ゲソは酒のツマミにでもなりやがれ!」
 鐘田がリカーブクロスボウG41を連射して手当たり次第に触手を撃ち抜く。
 鴉乃宮は冥界の力を弓に込めた。
「残念だけど、怪人はやられ役なんだ」
 そして『幻視断罪〈処刑人〉』の黒霧を纏った矢を放った。
 見事サメ大王の眉間に命中し、一瞬後傷から血が噴き出す。
「これで決める!」
 もはや触手の数は半数に減りボロボロのサメ大王を、背後からリュウセイガーが担ぎ上げた。
 アルゼンチン・バックブリーカーをキメながら跳躍。
 目を見開いてランジェロが成り行きを見守っている。
 頂点で上下反転、サメ大王が下になるように落下。自身のアウルを相手に流し地面に叩きつけると、サメ大王は大爆発並みの衝撃を食らった。
 リュウセイガーが華麗に着地し

「これが『リュウセイガー・ダイナミック』だ!」

 ビシっと拳を突き出すと、サメ大王の空に差し伸べられた触腕がばたりと落ちたのだった。

●親子に伝えたい
「勝ったと思ったのに、負けちゃった……」
「で、でも惜しかったわ! あと一息だったもの!」
 泣きそうな我が子を母が何とか元気づけようとしている。

 傷を受けた雪ノ下や雪室、華子は鴉乃宮や華子自身が回復スキルで治療する。それから雪ノ下がヒーロー姿のままランジェロに歩み寄った。
「ヒーローや撃退士が倒れても立ち上がるのは、侵略してくる敵から自分達の住む世界と人々の暮らしを守るためなんだ。怪人にはそれがない。だからヒーローには敵わないのかもしれないな」
「じゃあ、怪人はずっと勝てないの?」
「怪人が一方的にやられてる訳じゃない」
 鴉乃宮がメガネを上げつつ話に入る。
「元々多人数を相手にできる戦闘力だ。幹部ともなると時にはヒーローをやっつけてしまうこともあるが、お話として、潔く散ることに誇りを持っているんだ。負けることで存在を引き立てる悪の美学だね」
「負けてもカッコイイってこと?」
「そうだ。悪役だって人気あるんだよ」
「本当!?」
 ランジェロの表情が少し明るくなった。
 それに、と鐘田が付け加える。
「ヒーローは怪人がいないとカッコ悪い。怪人はヒーローを引き立てているカッコイイヤツだ」
「うん、そうだよね!」
 ランジェロに元気が戻ったようだ。
「あんた、ちゃんと人間界の常識を教えてやれよ」
「そんなの私が知る訳ないじゃない」
 鐘田が母天使に指摘するも、にべもない。
 そうだった。この母天使は馬鹿なんだった。
「お母さんはもっと考えてください。ランジェロ君が戦闘に巻き込まれて怪我しても良いんですか?」
 と強めの口調で言ってきたのは華子だ。
「良い訳ないでしょ。ランジェロは私が守るわよ」
「それで例えば身代わりにお母さんが亡くなってしまったら、次の日から誰がランジェロ君を守るんですか?」
「え?」
 母天使はぎくりとした。そんなこと考えたこともなかった。
「私がお母さんだったら絶対に嫌です! 本当にランジェロ君が可愛いなら、もうこんなことやめにしてください!」
 華子の意見が胸に突き刺さり、母天使は珍しく神妙な顔になっていた。
 藤井が笑顔でランジェロを見下ろす。
「我儘言ってもお母さんは受け入れてくれる……でもね、気を付けなきゃいけないよ? 今までは運が良かっただけだ。もし撃退士が君達も討伐することにしたら、君の大事なお母さんは君を護るために傷つくことになる。人を傷つけてはいけないことが解ってる君だから、お母さんを傷つけて欲しくない!」
 『ボクは失敗してるから』とは言えずに、藤井は苦笑を浮かべる。
「げきたいしはぼくを倒すの?」
「このままだったらいつかそうなる。君が今までサーバントを使ってしたことは、人間界にとってひどく迷惑な悪いことだから」
 ランジェロは雪ノ下の言葉にショックを受けた。自分が悪いことをしているとは露ほども思っていなかったのだ。
 雪ノ下は穏やかに諭す。
「自分の世界が侵略されたら君はどう思うかな? 今天魔が人間界にしているのはそういうことだ。これからは何かをする前に、良いか悪いかを考えてから行動して欲しい」
「でも、キミが今日したことはまだ取り返せる。間違ったらちゃんと謝って、直すことが大事だよ。農家の人に謝って、僕達も協力するから畑を直そう」
 佐藤が微笑みながら提案すると、ランジェロはやがてこくんとうなずいた。
「お母さんも一緒に。お名前は? 僕は佐藤」
 母天使は少しためらいながらも答える。
「――レイラン」


 皆で畑を直している間に華子が農家の人に許可をもらって、サメ大王が抜いてしまった野菜を調理した。
「皆さん、どうぞ〜!」
 いくつもの料理が並べられ、新鮮野菜の美味しさを堪能する。
「おいしい! にんげんは毎日こういうの食べてるんだね!」
 一つ学習しランジェロはご機嫌だ。母天使レイランも興味深そうに食べている。
 雪室は作業や食事中の親子と皆を一緒にデジカメで撮影し、親睦を深めた。
 そして余った料理と楽しい経験を手土産に、天使親子は帰って行った。

 お互いのより良い未来のため、今回のことが二人の考えるきっかけになればいいと雪ノ下は思う。

 その夜の鐘田の夢は、何故か土の中をサメに追いかけられ、イカゲソに絡まれるという散々なものだった――。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 蒼き覇者リュウセイガー・雪ノ下・正太郎(ja0343)
 その愛は確かなもの・華子=マーヴェリック(jc0898)
重体: −
面白かった!:4人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
その愛は確かなもの・
華子=マーヴェリック(jc0898)

卒業 女 アストラルヴァンガード