●集った仲間達
がくりと膝を付き、我龍院 洸矢が己の無力さを嘆く。
「このまま世界は終わってしまうのか……!?」
拳を地に打ち付け絶望しかけた時、彼らはやって来た。
「貴殿らは……!」
夢か現か、自分の他に現れた撃退士の姿に我龍院は呆然とする。
「きゃはァ、お楽しみに間に合ったようねェ♪」
可愛らしいロリっ子の黒百合(
ja0422)は、ごつい銃を片手にワクワクした様子だ。見た目に似合わず、そのジョブはターミネーターという実戦的なジョブである。
「混沌勢力を追って来たらここに辿り着きました。大丈夫ですか?」
オリエンタルな外見を持つ仁良井 叶伊(
ja0618)――ここではアデノアという――は、手を伸ばして我龍院を立たせる。
アデノアはディーヴァという異世界人の種族で、攻撃的なデストロイヤーだった。
「やあ、君。素敵な戦争をしているね。良かったら私も混ぜてはくれないかね?」
軍服を着て紳士的な物腰の男はカルロ・ベルリーニ(
jc1017)。
カルロは召喚士であり、戦争そのものを好んでいる。今この時こそ打って付けの場面はないだろう。
「僕が来たからにはもう大丈夫! 魔王の生まれ変わりの力、見せてあげるよ!」
黒い大きなリボンが特徴の男の娘、睡 乃姫(
jb6025)もケーンを掲げて可愛くポーズ☆
アストラルヴァンガードの睡は光の技が得意だ。
「まさか貴殿らが駆け付けてくれるとは」
嬉しさで我龍院は傷の痛みも忘れ、再び力が湧いてくるのを感じた。
「我と共にあの混沌の王を倒すのを手伝ってくれ!」
「もちろん、そのつもりで来たのよォ」
黒百合がにこりと笑うと、皆もその通りだと言うようにうなずく。
「ありがたい! よし、行こう!!」
我龍院の掛け声で、撃退士達は混沌の王の前に散開した。
巨大な塊の混沌の王から、触手が伸びてくる。
アデノアは手の甲にある宝石から紅炎剣を出現させる。赤く輝く刃を振り下ろし触手に斬り付けるが、触手は太く、両断には至らない。
「ならば!」
アデノアは『烈光斬』を使った。剣の刃が光となって倍の長さになり、目の前の全てを消し去るがごとく一気に薙ぎ払う。
強力な一撃を食らった触手は中程から切り離され、切られた先が地面に落ちた。
「まずは一本」
落ちた触手はしばらくびちびちと蠢いていたが、やがて植物が枯れるようにしなしなと干からびた。
本体に繋がる方も、切断された部分から萎びて動かなくなる。
その様子をじっくり観察する間もなく、次の触手がアデノアを襲う。
「くっ!」
アデノアは『波動壁』を展開した。アデノアの眼前にアウルの障壁が現れる。触手は波動壁にぶつかると弾かれ、一部を吹っ飛ばされた。防いだアデノアの方にもかなりの衝撃がある。
触手一本でこの強さ。
機械鎧の装備アウルギアで身体能力を強化していなければ、相当のダメージは必須の厳しい戦いだ。
正直、仲間が集まったとは言え勝てるかどうかは分からない。
「だが、できる限り何とかしなければ」
でなければその先に待つのは世界の終わりだ。
「やっぱり物量作戦ゥ、実弾兵器こそ正義よねェ、きゃはァ♪」
黒百合は初っ端からトバして、『ゲート・オブ・アサルト』を発動する。
黒百合の周囲に亜空間の境界面がいくつも開き、そこから数々の兵器――機関銃やRPG、艦砲など――が現れ、自動射撃を始める。
それに加え黒百合自身も銃を撃ちまくる。
「ホラホラいくわよォ! 休む暇なんかないんだからァ!」
その言葉通りどれだけ攻撃しても弾は尽きることなく、次々と補充、装填されていく。
迫り来る触手は数多の兵器の攻撃にどんどん削られてゆき、しまいには短くなって用を為さなくなった。
肉片が飛んで来ても、それが黒百合に到達する前に、銃撃で粉々になるのだった。
カルロは丸眼鏡の奥からおぞましい敵を見つめて、口元を歪ませた。
王になる条件が醜さなら、こいつは間違いなく混沌の『王』だ。
「なるほど……混沌の王か。素晴らしい、実に素晴らしい」
強大な敵ほど戦争に相応しい相手はいない。
アウルを集中させ、カルロは己の記憶にある彼の部隊、兵士の一人ひとりから装備の全てを思い描く。
そしてアウルを解放し、それらを再現した。
「これぞ我が『ベルリーニ師団』!」
具現化された兵団を見渡し、カルロは満足気に命令を下す。
「敵を殲滅せよ!!」
中央が突撃し、右翼と左翼が混沌の王を押し包むように進む。
兵士達はカルロの思い通りに動き、召喚者のカルロに影響され士気も高い。
触手に薙ぎ倒され肉片に潰されようとも、兵士達は仲間の体を踏み越えて侵攻していく。怯むどころか歓喜して戦いに身を投じていくのだ。
触手に銃弾を撃ち込み、混沌の王の体に砲撃を加える。何度も何度も。
「身が朽ちるまで戦え!!」
戦いが激化すればするほど彼らを召喚しているカルロの消耗も激しくなるが、戦争を堪能している今、そんなことはカルロにとって些細なことでしかなかった。
「前世は闇の力をもって人々を怯えさせていた……でも、今は僕の持っている光の力で、皆を救ってみせる! 混沌の王なんかに押し負けてたまるか!」
睡はケーンに光るアウルを纏わせて触手を攻撃した。『光の軌跡』が弧を描き触手にダメージを与えていくも、触手はしぶとく睡にまとわりついてくる。
「僕の光はどんなに大きな闇でも消えはしない!」
睡の『光の軌跡』に合わせて、我龍院も技を使う。
「『億万斬り』!!」
無数に分身して見える剣が、触手に振り下ろされた。
睡の攻撃と我龍院の剣の分身全てが触手を斬り刻み、真っ二つに分断する。
「やった!」
と睡が歓声を上げたその時、混沌の王の肉片が飛んで来た。
「危ない、我龍院さん!」
「くっ!」
我龍院は肉片を避けようとしたが、胸の痛みのせいで行動が遅れた。
「ぐはっ!」
足を下敷きにされ、服が溶けていく。
「しっかりして! 諦めたら、そこで試合終了だよ!」
睡がケーンをフルスイングし肉片を我龍院の足からどかしつつ、次の触手の攻撃から我龍院を庇う。
「あっ!」
だが触手は睡を突き飛ばし、まだ立ち上がれない我龍院の方に向かっていく。
我龍院がやられると思った刹那、どこからか爪のような刃が何本も飛んで来た。
刃は触手に突き刺さり、一旦引っ込めさせることに成功。
「だ、誰?」
睡が爪刃の主を探し振り返る。
「まだ、味方がいるみたいですね」
アデノアが微笑んで言った。
その視線の先には、ローニア レグルス(
jc1480)が立っていた。
ローニアは以前我龍院達と刃を交えたこともある、混沌の王の元配下だった。対撃退士として造られた人造人間のような存在だったが、我龍院達と戦ううちに自我が芽生え、結果王を裏切ることとなったのだ。
ローニアの闇を操る『ゾフル』能力は貴重な戦力となるだろう。
「お前達の力はそんなものだったか?」
「貴殿は、ローニア レグルス!」
我龍院が肉片で焼けただれた足を引きずり、ローニアに駆け寄る。
「いつぞやは世話になったな……苦戦しているようだが」
ローニアは我龍院や戦っている仲間達を見た。相手は混沌の王。簡単にいく訳がないのは皆解っているはずだ。それでも戦うのは何のためか。
他の者達の理由は知らない。だけどローニア自身の理由は解っている。
「ああ……、よく来てくれた」
「お前達のことを聞いてな、別ルートを使っていた」
「そうか、どうか貴殿の力も貸してくれ!」
「ああ。俺は俺の『自由』のために来た」
その『切り札』もある。
●決戦、そして
「触手は一掃できたようですね」
紅炎剣を触手の切れ端に突き立てるアデノア。
あとは本体だけとなったが、混沌の王との戦いはこれからだ。
剣を前に突き出し、真紅のエネルギー球を切っ先に作り出す。
「ふっ!」
『紅陽球』を撃ち放つ。
ボッと混沌の王の体に穴を開けるが、流動する皮膚がすぐにその穴を覆い傷を塞いでしまう。
「これならどうォ?」
黒百合が腕を上に伸ばし『神の杖』を発動した。
宇宙の低軌道上にあるプラットフォームからチタン製の金属棒を射出、ピンポイントで混沌の王の体に杭を打つように超高速で突き刺した。それはまさに神罰が下ったかのごとく。
しかし『神の杖』でできた大穴を、混沌の王の皮膚はゆるゆると覆って修復していく。
「まだだ! まだ足りない!」
カルロは再び『ベルリーニ師団』を召喚した。
「それじゃあ私もォ」
黒百合も『支援砲撃』で砲兵部隊や支援艦隊を展開する。
カルロの師団が混沌の王を取り囲み、黒百合の部隊が後方支援でサポートする布陣を取った。
「撃てーーーっ!!」
カルロの兵士達も黒百合の支援部隊も、一斉に雨あられと銃撃を浴びせる。
「後方支援、感謝する。君の部隊も良い部隊だ」
「あらァ、ありがと♪ やっぱり火力よねェ」
カルロと黒百合はどこか通じ合うものがあるようだ。
混沌の王は全方位からの射撃を受けながらもうぞうぞと動き出し、カルロの兵士達を踏み潰し飲み込み始めた。
さらに肉片をあちこちに飛ばす。
「当たりませんよ!」
アデノアは『波動壁』で肉片をガードし、『アウルボディ』を使い仮の肉体と本物の肉体を一瞬入れ替えて状態異常を回避する。
飛んで来た肉片を闇の爪で貫き、ローニアは混沌の王へと駆けた。
「喰らえ!」
手から伸びた闇がドリルとなって王の体を穿つ。
かつては我龍院達撃退士を苦しめた技を混沌の王へとブチ込んでいくローニアだが、離反の代償か、ローニアの体はエネルギーの供給が困難になってしまった。技を使う度に自分の生命力を消費しなければならなくなったのだ。
それでも。
「俺はもう、あの頃のような操り人形ではない。自分の生きる場所は自分で決める」
たとえ自分の命が残り僅かになったとしても。
撃退士達はあらゆる攻撃を絶え間なく浴びせているが、一時的に混沌の王の体を削ることはできても、致命傷と言えるダメージを与えることはできていなかった。
「ううむ、千日手ですかね……この手が千本あれば削りきれそうですが」
アデノアがさすがに荒い息を付きながらつぶやいた。
「合体技をやるしかない!」
我龍院が期待するような目で皆を見ると、黒百合が不敵に笑う。
「いいわァ、再生するよりも早く削ればいいのよォ」
手元のボタンをポチっと押した。
数秒後、空からいくつものコンテナが落下、仲間達の近くにそれぞれ落ちる。
自動的に扉が開くと中には数々の銃器、弾薬が満載で、黒百合が両手に装備しながら皆に言った。
「さァ、好きな物を好きなだけ使ってちょうだァい!」
全員がコンテナから武器を取り、集中砲火を仕掛ける。
その凄まじいまでの攻撃に、混沌の王の再生スピードがだんだん追いつかなくなってきた。まだ塞がっていない傷にさらに攻撃が加わり、傷が広がってゆく。
「少しずつだが、ダメージの方が上回ってきたようだ」
カルロの言う通り、混沌の王の体が若干小さくなっている。
師団召喚の維持でカルロもだいぶ弱ってきているが、そんな様子は微塵も見せず、残っている兵士の隊形を立て直させ更なる攻撃を命じる。
混沌の王か自分達か、どちらが力尽きるのが先か。
「あとひと押し、何かがあれば……!!」
我龍院はすでに満身創痍だ。
「……どうやら、『こいつ』を使うのは今のようだな」
ローニアは一人決意し、仲間達に振り返る。
「誰か、一瞬でいい、王の気を逸らせないか!?」
「僕に任せて! 皆、目を瞑って!」
睡が応え、ケーンを持つ腕を混沌の王に向けて伸ばした。
「『光と闇の劇場光』だよっ!」
杖の先に光が膨らんでゆき、やがて空間全体に広がる強烈な光となる。
混沌の王は光に圧倒されて動きを止めた。その隙にローニアが王に接近する。
そして切り札――『archon』を取り出した。
それは混沌の王の技術班が開発していたもので、多量のエネルギーを必要とするため使用者に危険が及ぶという理由で実用化されなかった。
しかし、ローニアはそれが混沌の王の弱点になりうると見抜き、離反する際に盗み取っていたのだ。
『srchon』の使用には、ローニアの全生命力を注がなければならないだろう。
その最後の切り札を、今発動する。
「ぐあぁ……っ!」
容赦なく生命力が奪われていくと共に、ローニアの肉体が『archon』と同化していくのが分かる。
「これが俺の選んだ自由の形だ」
最後まで兵器だったが、生まれた意味を己で選び、ここまで来た。後悔はない。
ローニアの姿が兵器そのものとなった時、両手で混沌の王の体に触れる。
すると、不気味に形を変える王の体がみるみる固まっていくではないか。
「今よォ!!」
チャンスと見た黒百合が、これで最後だとばかりに皆に合図する。
「死力を尽くせ!!」
カルロの号令に雄叫びを上げ、猛攻撃する兵士達。
アデノアも睡も我龍院も、限界を超えて戦った。
硬化したままの混沌の王はもはや抵抗することができず、とうとう、黒百合達の攻撃の前に木っ端微塵に砕け散るのだった……。
「タイムパラドックス発生時空まで、あと10……3、2、1、0 次元ワープ抜けます」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は、混沌の王のゲート上空に突如出現した。
彼女はある使命を持ってこの時、この地にやって来た。
ラファルは造られたモノであり、それはこの決戦より30年ほどの先の時代。
混沌の王との戦い以降、悪魔の脅威はなくなったが天魔が滅んだわけではなかった。人類もまた屈してはおらず、激減していた撃退士に代わる撃退機なる物を作り上げたのだ。
人々は撃退機に乗り戦い、そして死んでいった。
やがて誰かが気付いた。
過去を変えなければ。
混沌の王との戦いの結果を別のものにしなければ、と。
時空を越えることは人の身にはできないため、当代最高の技術を結集した完全自律型サイボーグ撃退機『T−RAY』ジェノサイドタイプが送り込まれることになったのだ。
それがラファルである。
ラファルは混沌の王が倒れ崩壊しだしたゲートの中、皆のいる広場に降り立った。
その頭脳にある過去の全ての情報データと照らし合わせ、混沌の王が死んだのを確認する。
「混沌の王と確認。生命反応無し」
「まだ撃退士がいたのねェ。でもお楽しみはもう終わっちゃったわよォ」
黒百合の声を無視し、ラファルはぐるりと首を巡らせる。
まだ睡達はどうにか生き残っていた。
「撃退士反応複数確認。プログラム『ソルティ霊呪』を実行します」
「「!?」」
全てが白に包まれた。
ラファルが実行したのは、広範囲を消滅させる自爆技。
30年先の為政者達は知ったのだ。
撃退士がいる限り、天魔も現れる。混沌の王なき後の撃退士もまた、邪魔であることを。
だが、消えゆこうとしている撃退士達には、そんな未来人の思惑など知る由もなかった――。