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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/06


みんなの思い出



オープニング

●クリスマス一週間前
 吉田広士は田舎に住む高校一年生である。今でこそ撃退士を尊敬するごく普通の少年(ちょっとばかり尊敬が篤いかもしれないが)だが、中学2年の時はリアルに中二病だった。
 自分を撃退士だとそれはもうガッツリみっちり思っていたのだ。
 当然周りは誰も広士のことを相手にしなかった。けれども、和樹という少年だけは広士のことを信じていた。広士を彼が自分で付けた撃退士名で呼び、天魔を倒せる力があると。その和樹も、天魔に襲われるという経験をした際、実は広士は撃退士ではないことを知ったのだった。

 そして今は、広士は撃退士の弟子として、人のためになれるよう日々修行をしているのだと信じている。
 それ自体は間違いではないので問題はないはずなのだが。


 学校の部活が早く終わったので、早めの時間に広士は中二時代から続けている町のパトロールへと出た。
 自転車に乗って町を一周するいつものコース。
 和樹の家の近くまで来ると、広士を待っていたかのように和樹が飛び出して来た。
「広士兄ちゃん!」
「おぅ和樹、どうした?」
 和樹は泣きそうな顔で広士にすがりつく。
「兄ちゃん、助けてよ!」
「何かあったのか!? 変質者でもいたか!?」
 広士は周囲を確認したが、誰かいる気配はない。
 和樹の必死な様子に、広士は取りあえず和樹の家まで付いて行った。
「落ち着いて話してみ?」
「うん……」
 しょんぼりとした顔で玄関先に座り込む和樹。
 和樹は今小学二年生。もしやいじめにでも遭っているのだろうか。
「あのね、クリスマスの日にたっくんとか龍くんとかみんなでクリスマス会をするんだ」
「へえー、いいじゃん」
「そこにピエロも来るはずだったんだけど、ママがダメになっちゃったって言うんだ」
「あー……」
 なるほど。
 おおかた、すでに予約が一杯だとかで取れなかったのだろう、と広士は察する。
「おれすっごく楽しみにしてたのに」
「しょうがないよ、ピエロもこの時期忙しいんだろうし、予定が合わなかったんだ」
「でもママは呼ぶって約束したのに!」
 よっぽど期待していたのだろう、もう和樹は泣きそうだ。
 広士は優しく和樹の頭をなでながら、精一杯元気づけてやろうとした。
「ピエロがいなくたってきっと楽しいクリスマス会になるよ。友達と一緒にケーキとかチキンとか食べるんだろ? プレゼント交換とかさ! いいじゃんか!」
 友達同士でパーティなんて予定はない広士にしてみれば、充分楽しそうだ。
 が、和樹の表情は一向に晴れない。
「兄ちゃん助けてよ!」
「ええ!? でもこればっかりはどうしようも」
「広士兄ちゃんは撃退士の弟子なんだろ? 撃退士は困ってる人を助けるって言ってたじゃないか! だったらおれを助けてよ!」
「うぅっ」
 それを言われると反論できない。
 それに、そんなに楽しみにしていたのかと思うと、ちょっと和樹が可哀想になってきて。

「分かった! 俺が何とかする!」
 広士はそう言っていた。

 和樹の顔がパッと輝く。
「ホント!? ありがとう、広士兄ちゃん!」

●クリスマス会当日
 広士は自らピエロになった。

 和樹に頼まれた後、まずピエロとはどんなことをするのかネットで調べた。ジャグリングや手品などはできそうもないので、自分でもできそうなバルーンアートをすることにする。
 道具をネット注文しやり方もネットを参考に、この一週間簡単な作品をいくつか練習した。
 問題は外見である。
 凝った衣装までは手も金も回らないから、安物のブルーのアフロのカツラを町の雑貨屋で見つけ、ピンポン玉を赤く塗って穴を空けた物を鼻に着ける。
 服は家にあった黄と白のボーダー長袖シャツと、学校でクラスメイトや知り合いをあたって大きめのオーバーオールを借りて間に合わせ。
 メイクはポスターカラーで代用。外見は安っぽいが、頑張ればピエロに見えなくもない。はずだ。

 というわけで当日。

 公民館の中庭を借りて、和樹達のクリスマス会は行われる。
 ツリーの飾り付け、料理のセッティングは子供達の母親が張り切ってやったらしい。
 大きなツリーはきらびやかで、ケーキもオードブルも美味しそうだ。
 和樹の他に5人の子供達とその母親が3人、集まったところでパーティが始まった。
 クリスマスの音楽をかけ、皆で歌ったり少し料理を食べた頃、和樹の母親が皆に向けて言った。
「はーい、良い子のみんなのために、ピエロさんが来てくれたよー!」
「わー! やったー!」
 と現れたのは広士の扮したピエロ。
「やあ、今日は呼んでくれてありがとう!」
 広士は裏声を出しコミカルな動きをしてピエロっぽさを演出しているつもりだ。
 思ってたのとは若干違ったのか、全員一瞬言葉を失った。
 これはマズイ。
 広士は早速カバンから道具を取り出して、細長い風船に空気を入れる。
「皆、よく見ててね〜!」
 クリクリとねじったり折り曲げたりして、プードルを作り上げた。
「わあっ、犬だ!」
「はい、これはお嬢ちゃんにあげよう」
「ありがとう!」
「すげー!」
 これをきっかけに、広士ピエロはどうにか子供達の心をつかむことができたようだ。
 男の子に剣を作ってやっていると、もう一人ピエロが現れた。
「えっ?」
「またピエロだ!」
 玉乗りの玉に乗っていて、緑と赤のカラフルな衣装。メイクもバッチリな、広士よりも断然本格的なピエロだ。
「おばさん、ピエロの予約は取れなかったんじゃ?」
 広士が和樹の母親に小声で聞くと、彼女は怪訝そうな顔をしている。
「そのはずよ。変ねえ、誰か頼んでくれたの?」
 他の母親二人も首を振った。
「何かやってー!」
 そうとは知らない子供達がピエロに駆け寄ろうとした時。

 ピエロは玉ごと高く飛び上がってクリスマスツリーの上に落下、ツリーを倒し破壊した。

「キャア!」
「何するんだよピエロ!」
 ピエロはそのままビヨンビヨンと飛び跳ねながら、子供達を追い回す。ずっと笑顔を崩さないのが不気味だ。
「わああぁ!」
「こいつはただのピエロじゃない! 和樹、皆、こっちに来い!」
 広士は咄嗟に手近にいた子供達の手を引いて、室内へ入る扉の方へ押しやる。
「あっ、広士兄ちゃん! 声も変だったし顔が白いから分からなかったよ!」
「いいから早く! おばさん達も逃げて!」
 呆然としていた母親達は、ようやく動き出した。
「あいつ天魔なの?」
「そうだ。あんなことするピエロなんていない」
「来ないで!」
「止めろピエロ天魔!」
 広士は壊れたツリーの飾りと枝を広い、親子に迫るピエロに向かって行った。
 枝を振り回し飾りを投げ付ける。攻撃はことごとく透過されたが、関心を引くことには成功したようだ。
 和樹に叫ぶ広士。
「建物の中に逃げろ! どこかに隠れるんだ!」
「わかった!!」
 広士がピエロを公民館から離そうとしている間に、和樹達は館内へと避難していった。
 辺りが静かになると、ピエロはふと動きを止める。
「?」
 そして再び高くジャンプ、壁を透過して中に入ってしまった。
 中には職員の他にもカルチャー教室やら何やらで人が集まっている。
「大変だ!!」
 広士は大急ぎで久遠ヶ原学園に連絡した後、中の人達に危険を知らせるため走った。


リプレイ本文

 ●ピエロを誘い出せ
 撃退士達が公民館まで到着する。天魔に気づかれないよう静かにしているのか、外からは何の異変も感じられない。
 館内の人々は、広士は無事なのだろうか。
 彼らはまず一般人とサーバントを遠ざけることにした。
「人が楽しんでいる声に反応して寄って来る敵みたいだね。このまま施設の中で暴れられても困る」
 Robin redbreast(jb2203)は淡い翡翠色の瞳を隣接された駐車場に向けた。ちょうどいい広さに空いている。
「駐車場で騒いで、敵を外に誘き出そう」
 仲間達がその案に同意すると、
「ボクは一般人の避難誘導をするよ……。誰かが逃げ遅れてたりするかもしれないし……」
 と御剣 正宗(jc1380)は『陰陽の翼』で片翼が白い天使の翼、片翼が黒い悪魔の翼を現した。
「分かった、気を付けて」
 Robinは御剣が公民館の上階へ飛んで行くのを見届けると、他の仲間と共に駐車場へ移動する。
「楽しそうな音楽でも流してみようか」
 車の停まっていない場所に陣取ると、スマホを取り出すRobin。アプリでクリスマス曲を大音量で流した。
「キョーカもお歌を歌うの!」
 音楽に合わせて、可愛らしいツインテールの少女、キョウカ(jb8351)が歌いだす。上手くはないが、子供らしい。ピエロを引き寄せるには楽しさが伝わればいい。
 そしていちごオレやいちごサンドを食べながら、スキル『スケッチ』を使い地面に絵を描いていった。カラフルで可愛らしいタッチのピエロが、でかでかと描かれていく。普通なら公共施設の駐車場に落書きなど怒られる行為だが。

 安心してください。10分で消えますよ。

「妹分と弟分とのクリスマスの仕事……。良いものです」
 橋場 アイリス(ja1078)はぽわぽわと一時悦に入った。
「クリスマスに仕事というのも……ついているのかいないのか。まあ姉さん達と一緒だし楽しみますか」
 橋場の弟分の神崎 八雲(jc1363)は肩あたりから白くなっている長い髪をかき上げる。
「うん、二人と一緒なら、楽しい……」
 少し大人しそうな外見のSpica=Virgia=Azlight(ja8786)は橋場の妹分だ。
「そうです。楽しみましょうねー」
 橋場が神崎とSpicaの傍にやって来て、二人をハグした。
「しょうがないなあ、アイリスは」
 とか言いながら神崎も橋場をなでなで。
「あったかい……」
 Spicaも二人にくっついてもふもふ。
 次第に橋場の手が二人の服の中にうっかり(?)入っちゃったりしてごそごそ。
「アイリス、そんなトコ触ったらお返しにこうだよ」
「ちょ、神崎さん……! そこは……っ」
「えぅ、ヤクモ……どこ触って……アイリスも、くすぐったい……」
 三人はお互いにセクハラしたりされたりいちゃいちゃ。

 取りあえずリア充爆発しろ(笑)


 何だか駐車場でキャッキャウフフ♪な展開がされている頃。
 三階から公民館内に入った御剣は、一つ一つ部屋を見て回った。どうやらピエロも人も移動してしまったようだ。
「早く避難してください!」
 下の階から広士らしき声が聞こえてきた。
 彼の存在を忘れていた。
 広士の目の前では、廊下を高齢に差し掛かっている女性が必死になって走っている。その後ろから、彼女を見つけたピエロが飛び跳ねながら押しつぶそうと迫っていた。
「助けて!」
「!!」
 広士は全力で飛び出し、女性を突き飛ばした。
 代わりに自分が玉の下敷きになってしまう。
「うあっ!!」
「きゃああ!」
 ピエロは腰の抜けてしまった女性の方へニヤけた顔を向けた。
 そこへ御剣が現れ、ピエロが彼女を押しつぶす前に、脇からかっさらうように女性と広士を両腕に抱えて廊下の端まで飛んだ。
「大丈夫か……?」
 ひとまず二人を下ろすと、御剣は広士に尋ねる。
「来てくれたんですね、良かった。もうダメかと思いました……痛っ」
 自作のピエロ姿の広士は、胸を押さえながらも安堵の表情を浮かべた。撃退士が来れば絶対に大丈夫、と信じているのだ。それほどまでに彼の撃退士への尊敬は篤い。
「歩けるか?」
「は、はい。何とか」
 御剣が手早く言った。
「仲間があのピエロを駐車場におびき寄せるから……全員を一番遠い部屋に避難させるんだ」
「分かりました」
「三階には誰もいなかった……他に逃げ遅れた人はいるか?」
「大丈夫だと思います」
 ピエロが集まった三人の方へ向かってくる。
「じゃあ案内してくれ……」
 御剣は二人と一緒に急いで下の階に降りていった。
「皆、あっちの一番奥の部屋に移動しよう。早く!」
 広士が一階の狭い部屋に避難していた人々に告げて、皆を促す。
 御剣も彼らが全員避難し終わるまで護衛しつつ手伝っていた。子供達の顔を見ると、皆一様に緊張して怯えている。泣いてないだけどの子も立派だと言えるだろう。
「このままではピエロ恐怖症の子供達が増えてしまうぞ……」
 人を襲うピエロなんてものを目の当たりにしたら、さらにピエロの人気はガタ落ちだ。
 今ここでキッチリ倒して、恐怖を取り除いておかなければ。

 ピエロが御剣達を追おうためびよーんびよーんと廊下を進む。ふと、外から楽しげな音楽が聞こえてきた。ゴキゲンな子供の歌も聞こえる。
 外で人間達が集まってわいわいしているらしい。

 自分の出番だ。

 ピエロは気味の悪い笑みを深くして、壁を越えて外へと跳ねて行った。

●邪魔するピエロにお仕置きを
 ピエロが駐車場に飛び降りてきた。
 楽しげな場の雰囲気が一気にピリ付いたものに変わる。
「せっかくの癒しタイムを邪魔するとは良い度胸です。……殺す」
 ついさっきまでふわふわな笑顔の橋場も、氷のような冷たい顔に変わった。殺気と共に血の色をした霧のアウルが全身から溢れる。
「アイリス、マジギレだね……。気持ちは分かるけど」
 橋場の激おこな殺気に若干引き気味な神崎。しかし冷静に位置取りし、『同化現象』を使った。全身を黄緑色の結晶が覆っていく。
「ちょっと、迷惑な相手……。殲滅する……」
 Spicaも光纏すると、背後に金のリングが現れ、剣や盾が周囲に浮かんだ。
 Robinは阻霊符を発動した。
「ピエロたん! 楽しいパーティにいらっしゃいませなのーっ。一しょにお歌、歌いましょーなのー!」
 キョウカは妖怪絵筆で空中に妖怪を描き出し、果敢に攻撃を仕掛ける。
 ピエロがキョウカの攻撃に意識を向けている隙に、神崎は『結晶具現化・グングニル』でケルベロスG49にアウルを纏わせ結晶化、黄緑色の槍に変化させた。その槍をピエロの足に思い切り突き刺す。手応えはあったが、『スタン』には失敗したようだ。
 激しい痛みのためかピエロは笑い顔のまま激昂して反撃してきた。
 勢い良く弾みを付け、神崎に体当たり!
「くっ!」
 神崎は上腕にダメージを受けてしまう。
「神崎さん!?」
「大丈夫、ちょっと痛かっただけだから」
 橋場の心配そうな声に、神崎は安心させるように微笑み武器を構え直す。
 それでも橋場の殺気がさらに膨れ上がったのは言うまでもない。
「動けなくなれ」
 ピエロが突然澱んだオーラに包まれた。Robinの『八卦石縛風』だ。ピエロは舞い上がる砂塵で痛めつけられ、『石化』する。
 チャンスだ。
「ターゲット、ロックオン。殲滅開始……」
 Spicaがピエロに接近、周囲に浮かんでいたアウルの武器をスナイパーライフルXG1に送り込んだ。『具現化─ミョルニル』によって雷を纏う巨槌に変貌したそれを、Spicaは豪快に振り下ろす。
「邪魔は、不要……。塵も残さず、消えて……」
 『石化』中のピエロに避けられるはずもなく、ミョルニルはピエロの腰を強打した。
「神崎さんに怪我をさせた報いです! あはははははは!! 良いですね! 楽しい踊りです!」
 続けて橋場が楽しげにというよりはどこかのネジが飛んだかのように大笑いしながら『Reziduala Luna』を使った。腕に血の霞のようなアウルを纏わせ、ディープフリーズを思い切り振り抜く。
「神崎さんが見てる以上、無様は晒せませんよ、スピカさん!」
 ピエロの肩から胸を斜めに切り裂いた。
 さらに『スタン』させる。
「アイリス、気持ちは嬉しいけど怖い怖い。ピエロ以上に怖い。落ち着いて」
「あははは、私は大丈夫ですよ神崎さん!」
 神崎は放っておいたら暴走しそうな橋場を少し宥めてみたけど、ちっとも大丈夫じゃないカンジで橋場はピエロに斬り付けていた。

「ピエロたんはみんなをにこにこさせなきゃだめなのっ」
 キョウカが描いた妖怪がピエロの顔を引っ掻いて消える。
「ピエロのサーバントっているんだな……だがボクは容赦しないぞ?」
 ちょうど避難誘導を終えた御剣が飛んで来て、オエナンサイスをピエロの頭に振り下ろした。
 ピエロは『スタン』から逃れてジャンプ、刃を避けキョウカに向かってジャグリング用の玉を投げつけてきた。
「そんなのなげたらあぶないの!」
 キョウカは『シールド』でパティーナシールドを出現させ盾の後ろに身を隠す。
 盾に当たった玉が小爆発を起こして、キョウカは顔や腕に擦り傷を作った。
 ピエロは飛び跳ねながら橋場やSpica、神崎を追い回し始める。
 神崎は拳銃を撃ってピエロを牽制するが、しつこくあっちこっちに跳ね回る。
 Robinが『ハイドアンドシーク』で気配を消し、ピエロの背後にそっと近づいた。
「やっぱり迷惑な奴だね」
 常世の闇が凝縮したような弾丸がRobinの手元に現れる。
 『グローリアカエル』で魔に寄った弾丸を放った。
 サーバントのピエロにとって恐るべき弾丸は、横に弾んだ玉乗りの玉をかすめただけで、思ったようなダメージを与えられなかった。
 ピエロはその玉をRobinに飛ばす。
 直線的な玉の動きを見極め、Robinは着実にかわした。
 Spicaがライフルを構えると、神崎もケルベロスを構え同時に発射。
 ピエロは大玉に乗りながら小玉を投げて反撃、Spicaは小玉の小爆発に巻き込まれ、足に多少のダメージを負った。
「あぅっ」
「スピカさん!」
「カスリ傷、だから平気」
「いいえ許せません!」
 橋場は怒りに任せて『Regina a moartea』を発動させた。
 血の色に染めた剣を両手で握り、大きく振り抜き斬撃を放つ。
 ピエロは身をよじったが、脇腹をざっくり切り裂かれてしまった。

 ピエロの顔は相変わらず笑っていても、目だけは決して笑っていない。

 かなりのダメージを受け、ピエロも必死のようだった。
 ビョンビョンと飛び、皆を撹乱する。御剣は危うくピエロとぶつかりそうになった。
「えーい、キョーカもがんばるの!」
 キョウカが対抗するように次々と絵筆で妖怪を描き、ピエロの注意を引き付ける。
 御剣はキョウカの妖怪に紛れピエロに近づき、ピエロが着地した瞬間を狙い玉の下部を鎌でなぎ払うと、ピエロは見事に転倒した。
「ボクはお前なんか怖くない」
 御剣はここぞとアウルを武器に集中させた一撃、『スマッシュ』をお見舞いしてやった。
 ピエロの足が変な方向に曲がり、ピエロは立ち上がれなくなる。
 その手に小玉が握られた。
「させない」
 Robinが再び『グローリアカエル』を使う。
 弾丸は玉を持ったピエロの片腕を吹き飛ばした。
「往生際が悪いね」
 神崎も『結晶具現化・グングニル』でもう一方の腕を串刺しにする。
 Spicaの武器が変化した。
「分かってる……。何もさせずに、消し去るのみ……顕現せよ、『破滅』レーヴァテイン……!」
 『具現化─レーヴァテイン』の紫炎纏う剣は一瞬にして振り抜かれ、ピエロの両足を奪った。

 ピエロの顔から笑いが消えた。

 橋場は『Sabie de umbra』を発動、黒いアウルの剣が二本出現した。
「I desert the ideal……!!」
 剣は勢い良く発射されピエロの腹に突き立つ。
 ピエロは口から大量の血を吐き出した。

 そして、剣が役割を終え砕け散ると、ピエロの命も砕け散った。

●パーティ再開
 Robinが『ライトヒール』を使い、神崎、キョウカ、Spicaの怪我を治療する。さらに御剣から広士も怪我をしたようだと知らされた。
 避難していた人々を解放し、やはり肋骨を傷めていた広士をRobinが治療してやると、やっとクリスマス会の面々は安心したのだった。
「良かった! ありがとう撃退士のお姉ちゃんたち! ねえねえ、一緒にクリスマス会しよーよ!」
「お時間があるならぜひ」
 広士や母親三人が頭を下げ、子供達が『やろーよ!』とはしゃぎ立てる。
 Robin以下全員はその魅力的な提案を快く受け入れた。

 中庭が荒らされてしまったので、広士とRobinが片付けている間に、母親達が新しい料理を用意することになった。
 用意ができるまでの子供達の相手はキョウカだ。『スケッチ』のスキルで壁にサンタやトナカイ、大好きなウサギの絵などを描いて皆を飽きさせないようにしている。
 壊されたツリーは戻らなかったけれど、料理や飲み物が新たに準備できると、パーティが再開された。
「「メリークリスマース!!」」

 子供達のプレゼント交換も終わり、皆楽しく飲み食いしていた。
「キョーカはまほーつかいなのーっ!」
 歳が近いためか子供達と意気投合したキョウカは、コナインロッドを魔法少女よろしく振った。
 『キー召喚』でウサギの耳っぽく見える毛束を生やしたケセランを召喚する。
「すごーいっ、なにこれーっ!」
「かわいいー♪」
 ケセランはあっという間に女の子の人気者になった。
 合間に、キョウカはお絵描きセットで会の様子を描く。会が終わったら皆に渡すつもりだ。
「ねー、お姉ちゃんたちは何かできないの?」
 橋場に無邪気な子供の質問。
「いいでしょう」
 橋場はふっと笑って広士ピエロに声をかけた。
「ピエロさん、ちょっと膨らませた風船を頭に置いて、離れた所に立ってください」
「わ、分かりました」
 言われるままに広士はボールのようにした風船を頭の上に支えて立つ。
「皆さん、よく見ていてくださいね」
 子供達やその母親がじっと見守る中、橋場は
「みすったらごめんなさいですよ」
「えっ、ちょ」
 素早くコンバットナイフを取り出し、投擲した。

 パァン!

 見事に風船が割れ、拍手が巻き起こる。
「すげーっ!」
「さすがですね!」
 広士が感心して橋場に顔を向けると、橋場は周りの反応などお構いなしにSpicaと神崎をハグしていた。
「むはぁー……。弟分と妹分をもふり癒されます……」
「ナイフ投げ、良かった……」
 お互いなでたりまさぐられたり。スキンシップという名のセクハラだ。
「にゃふー」
 神崎に至っては広士と同年代に見えるのに、美女二人に囲まれて広士にとっては羨ましい限りのシチュエーション。そのくせ照れるわけでもなく自分も女子の体を触ってもずっとクール顔。

 何だコレ。

 広士の目元がちょっと陰った。
 確かに会は盛り上がってるし楽しい。楽しいんだけど、神崎達を見ているとモヤっとする。
 広士の心に初めての感情が芽生えた。

 何かもう、リア充爆発しろ(二回目(笑)


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:1人

踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
V兵器探究者・
神崎 八雲(jc1363)

高等部2年21組 男 阿修羅
『AT序章』MVP・
御剣 正宗(jc1380)

卒業 男 ルインズブレイド