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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/27


みんなの思い出



オープニング

●とある沼にて
 フリーの撃退士塔利四四三(とうりよしみ)は、昨日天魔討伐の仕事を終えたばかりだった。
 髪の毛がボサボサで無精髭、くたびれた黒いロングコート姿というのは、討伐が大変だったからではない。
 普段から彼の格好はこんなだった。もっとちゃんとすればイケメンなのに、という若干残念な三十路手前のアラサー男である。
 依頼のあった街で一泊した塔利は近くに沼があることを知り、散歩がてら向かうことにした。
 このところ移動と討伐ばかりだったから、まあ何となく、気分転換のつもりで。

 その沼は広いがごく普通に見えた。
 沼の左右は背の高い草の生えた野原、対岸に林だか森だかの木々が見える。遠くの方では釣りをしている人もいるようだが、ボートなどは条例的に禁止なのか、そういう遊びをしている人はいない。
 景色はまあ悪くはない。というかそれなり。
 周囲の道路は整備されており、岸近くには簡素ではあるが休憩所の建物があった。
 特に目を引くような所ではない。けれどもやけに見物人が多く、子供や学生であろう若者から中高年までいる。皆携帯やらデジカメやらで沼を見ているようだ。
「なんだ、何か珍しいもんでもいるのか?」
 塔利は目を凝らして沼を見てみる。けれども、見渡せる限りには穏やかな水面以外、浮いているものなんて鳥も魚もゴミすらも見えなかった。
 首を傾げている塔利に、人の良さそうなおじさんが話しかけてきた。
「この沼には昔から主がいるという言い伝えがありましてね。つい最近、ネッシーみたいな主を見たという目撃情報があったんですよ」
「はぁ、沼の主ですか」
「まあこの沼はT沼なんで、テッシーですかね」
 あはは、とおじさんは笑う。
「今は情報が広がるのが早いですから。あっという間に見に来る人が増えて、こんな状態です」
「皆テッシーを見ようとしてるのか」
 一応塔利にも見物人の行動の理由が解ったが、塔利自身そういうネッシーだの雪男だのいうものは信じていない。見たい人のことを否定するつもりもない。
 塔利がもういいか、と沼に背を向けた時。

「テッシーだ! テッシーが出た!」
 と誰かが叫んだ。

「まじか!?」
 反射的に振り返る塔利。信じてはいないが、いるならいるで見てみたい。
 人々が騒ぎながら指差す方には、水面が波打ち、何か生き物がくねりながら泳いでいるらしいのが見えた。その様子からすると結構な大きさだ。そして長い。
 それはこっちに近付いて来る。
 必死にシャッターを切っていた人達も、その正体不明なテッシーが近づいているのが分かると、だんだん沼から離れ始めた。
「こっち来るぞ!」
「なんかヤバくないか?」
 テッシーは岸に近づいてもスピードを緩めず、とうとう水面から顔を出した。
 その顔は蛇のようであり、肉食恐竜のようでもあった。首から下はウツボのようで、ヒレが等間隔に生えている。
 テッシーはとにかく巨大だった。
 首はゆうに5mほど上から見下ろしているし、まだ水の中の体は一体何mあるのか見当もつかない。太さも相当で、直径2m以上は確実にある。
「うわあああ!!」
 人々は叫び、場はあっという間にパニックになった。
 ズルズルと岸に上がってきた天魔は、近くにいた人をヒレで叩き飛ばした。
「きゃああ!!」
 見物人は逃げ惑い、人の多い方へと追いかけて行くテッシー。
「おっさん、早く逃げろ! このテッシーは天魔だ!」
「え、ええ!?」
 驚いて腰を抜かさんばかりのおじさんを、塔利は引っ張ってテッシーとは反対の道に押しやる。
「できたら久遠ヶ原学園に通報してくれ! くそっ、俺は強くねぇんだ、巨大天魔とか勘弁してくれよ!」
 塔利は時計型のヒヒイロカネから大剣を出し、ボヤきながらテッシーへと駆け出した。

●囚われの人々
 休憩所の中に逃げ込む人もいて、テッシーはその長い体を建物に巻き付けた。ちょうど蛇がとぐろを巻く感じだ。出入口や窓なんかは全てテッシーの体で塞がれ、中いた人々は閉じ込められてしまった。
「どうしよう、閉じ込められた!」
「いやああぁ!!」
「皆さん、落ち着いて! なるべく部屋の中央に寄りましょう!」
 年配の男性が皆をなだめる。
 室内は自販機が二つとテーブルと椅子のセットがいくつかあり、それらをどけて皆は部屋の中央に身を寄せ合った。全員で30人。
 建物に逃げ込んでも透過できる天魔には壁など障害にならない。とぐろが締まれば皆締め殺されてしまうだろう。
 一人の女性が急いで久遠ヶ原学園に通報した。

 徐々にテッシーのとぐろが締まっていくと思っていたが、意外にもそれ以上とぐろは縮まってこなかった。
 なぜなら、塔利がテッシーの気を引いていたからだ。
 首を伸ばし塔利に噛み付こうとしているテッシーの攻撃をかわしながら、塔利は挑発するようにヒット&アウェイを繰り返す。
「いつ締まっちまうか分かんねぇし……、コイツは厄介だぜ」
 当然塔利一人では防戦がやっとだ。
 あのおじさん以外にも、久遠ヶ原学園に連絡した人がいるだろう。とすれば生徒達が来るのももうすぐのはず。
 生徒達がこのテッシーの相手をしている間に、自分は休憩所の内部に閉じ込められた人達を救助しよう。
 ――と塔利が計画を立てていると、テッシーが大きな口をガバっと開けた。
「!?」
 身構える塔利の前に、テッシーの口から無数の魚が吐き出された。そいつらは魚なのに宙を飛び回り、塔利に襲いかかってくる。
「なんだこいつらは!?」
 大剣を叩きつけると数匹が地面に落ちた。大きさは50cmほどで、ヒレが翼のように発達し鋭い牙を持つ肉食魚のようだった。
 それらは肉を噛みちぎろうと塔利に集り始める。
「うわッ、だめだ、こんなのまで相手してたらキリがねぇ!」
 これは当初の予定通りにいかないかもしれない。
 慌てて塔利は久遠ヶ原学園に連絡を入れた。

●久遠ヶ原学園
「数分前から、同じ事件と思われる通報が何件も寄せられている。現在、T沼に巨大な蛇のような天魔が出現したということだ。そのサーバントをあえてテッシーと呼ぶが、テッシーは沼の側にある休憩所に体を巻きつけ、内部に人を閉じ込めているらしい。彼らを安全に救出することが最優先となる。結果倒せなくとも敵が逃げるなら追わなくていい」
 男性教師が説明をする。
 集まった生徒達は真剣に聞いていた。
「通報から判断すると、おそらくフリーの撃退士の塔利さんがテッシーの注意を引きつけており、そのおかげでまだ休憩所の人達は無事らしい。すぐに急行して塔利さんと合流、救出するように!」
「「了解!」」

 教師が皆を送り出した後、塔利からの連絡で状況が変わった。
 移動中の生徒達に緊急連絡が入る。
『どうやらテッシーは雑魚を大量に出現させたそうだ。君達だけでは対処しきれないから、もうひと班派遣することにした。君達は雑魚を相手しテッシーを引きつけ陽動、その間に救出班が一般人を救出するという作戦だ。全力で事にあたってくれ、頼んだぞ!』

 かくして、撃退士達はテッシーと塔利が戦っているT沼へと到着したのだった。


リプレイ本文

●沼の主と対面
 急いで撃退士達がT沼に駆け付けると、遠目にもそのUMA的天魔の姿がよく見えた。
「中々巨大な魚だ。長い物には巻かれろという言葉が人間界にはあるそうだが、こいつには巻かれても迷惑なだけだな……」
 冷たささえ感じられる無表情で、ローニア レグルス(jc1480)が言った。
「また妙なUMAもどきが出たものだな……」
 鳳 静矢(ja3856)は少し呆れたような口調だ。
 例え敵が変な生き物であろうとも、人々に仇なすものであれば容赦はしない。
「えー、どうせならUMAよりゆるキャラの方がいいなー」
 若干軽薄な感じなのは外見もそんなカンジの砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)だ。
 ゆるキャラでも天魔だったらやることは同じだと思う……とは誰も口に出さなかった。砂原の気分の問題なのだろう。
「でっかい天魔ね! 上手く救出してもらうためにも絶対勝つわよ!」
 普段から元気一杯! な雪室 チルル(ja0220)は巨大なテッシーを前にテンションアゲアゲである。本来なら思い切り戦いたいところだが、救出のためには取りあえず我慢、と自分に言い聞かせる。
 テッシーの長い胴体は後方の建物にガッチリ巻きついていて、いつグッと締まってしまうか分からない。
「『人質』ってやつねェ……そんな連中関係なしに大火力で叩き潰せれば楽なんだろうけどねェ、人道的に無理よねェ……やっぱりィ」
 黒百合(ja0422)は本気とも冗談ともつかないセリフではあ、とため息をついた。
「相手の思惑は解りませんが、人質を解放するまでは手出しし難いですね。塔利さんも早く援護に行かないとマズイでしょう」
 雫(ja1894)はバトルフィッシュ相手に奮闘している塔利を目で追う。塔利の周囲に何体もの雑魚が転がっており、彼自身あちこち傷ついていた。

 休憩所のさらに後方に、救助班のメンバーの姿が見えた。
「そろそろ阻霊符を使うか」
 鳳が阻霊符を発動させようとしたのを、ローニアが止める。
「発動させると、テッシーの締め付けがより物理的に行われ救助活動に支障を来すかもしれない」
「そうか、なるほど。じゃあ向こうに任せよう」
 ローニアの説明に納得し従う鳳。
 そして黄昏シロ(jb5973)の携帯にメールが来た。救出班にいる主からだ。

『準備OK。皆心強い味方だ。シロ、お前も出来ることを頑張るんだよ?』

(出来ることを……精一杯、頑張る)
 主とは今回別行動で少し心細かったけれども、同じ目的のため戦う。
 主の励ましを胸に、黄昏は
『了解しました、こちらも行動を開始します。主、ご武運を』
 と返信した。
 黄昏は喋ることができない。故に、仲間にはスケッチブックに救出班が準備完了の旨を書いて伝えた。

「それじゃあ始めましょうかァ」
 黒百合は翼を出し、テッシーの視界に入るように飛んで行く。フリーガーファウストG3を当てないように撃ちながら、テッシーの目の前を横切った。
 テッシーが黒百合に釣られて首をめぐらせる。
「見つめられるなら女の子の方が良いんだけど……相手したげるから来なよ」
 砂原は寒雷霊符から雷刃を飛ばし、テッシーの鼻面に当てた。すぐに南東方向に走ると、テッシーの頭が追って来る。
 ガバっと洞窟の如き大口を開け噛み付こうとするが、砂原は大きく飛び退いて避けた。
 それにより、テッシーを南東に向かせることに成功。
「塔利さん!」
 塔利に駆け寄りながら、雫が『オンスロート』でバトルフィッシュ達に斬り付ける。三体がボタボタと地面に落ちた。
「ホラホラ、こっちよ!」
 雪室は両手を広げてジャンプしさらに雑魚共の注意を自分に向ける。
 残った魚達が雪室の方に行ってしまうと、雫は塔利を戦闘場所から離れた所まで連れて行った。
「今『ヒール』を」
 と手をかざす。だが、塔利はその手を断った。そういえば、と塔利は雫と以前に会っていたことを思い出した。
「お前さんとは前にもボロボロな時に会ってたな……。俺のことよりも早く一般人を救助に行け」
「救助の優先は解りますが、ここで貴方が落ちれば敵の注意する数は減り、救助の妨げになるやもしれないんです」
 ぴしりと雫に言われて、塔利は反論できない。
「う……。分かった。だが俺はスキルも使い果たしたんでな、後方でフォローに徹させてもらう」
「それで構いません」

●陽動
 雪室はバトルフィッシュどもが充分に近づくのを待ってから、『氷静〈完全に氷結した世界〉』をお見舞いしてやった。
「よく見ておきなさい! っても見えないけどね!」
 雪室には止まって見えるが実際には瞬きほどの瞬間に、三体の魚が切り裂かれていた。
 急激にバトルフィッシュの数が減らされたのを見て、テッシーは口から増員を吐き出す。
 魚達は翼代わりのヒレで辺りを飛び回っている。
「何にしてもまずはこの数を減らさねばな」
 鳳は天狼牙突を大振りしながら動き、雑魚を集める。
 寄って来た魚がウロコを飛ばしてきた。もう一匹は水弾、あと二匹は噛み付こうと牙を剥いている。
 ウロコを刀で弾きながら水弾をかわし、鳳は『紫光閃』を放った。一瞬紫の光が閃いたかと思うと三匹が死魚と化す。しかし一匹には攻撃できず、腕に噛み付かれた。
「ッ!」
 振り払ったその一匹を、黒百合のロケット砲が撃ち抜いて木っ端微塵にした。
「確実に減らしていかないとねェ」

 ローニアはハンズ・オブ・グローリーから打ち出された拳の形をしたアウルで、一匹のバトルフィッシュを殴り飛ばす。
「不味そうな魚だな……」
 もう一匹がローニアの背後から水弾を吐き出した。
 ローニアは咄嗟に自分の姿を不明瞭にする『夜闇』のアウルを纏う。
(助太刀します!)
 さらに黄昏が赫燕で『回避射撃』を水弾に当て狙いを逸らす。
 ローニアは身を翻し水弾を脇にすり抜けざま、栄光の手を振り抜き雑魚を撃破した。

 雫はテッシーのすぐ目の前まで『一騎駆け』した。首の辺りに一撃を食らわせ、『注目』させる。
『ギョシイィ!』
 テッシーは首を仰け反らせて痛みの声を発し、雫をロックオン。
 雫は休憩所から遠ざかるように移動する。
「このまま食いついて休憩所から離れてくれれば事態は楽になるのですが……」
 しかし雫は体を伸ばし勢い良く振られたテッシーのヒレで叩かれてしまった。防御したものの腕に衝撃が走る。
 しかもテッシーは休憩所から離れてはいなかった。
 黄昏の携帯にメールが入る。
『とぐろが締まった、テッシーをそっちに引っ張るような攻撃は中止してくれ』
(いけない!)
 黄昏は立ち塞がるバトルフィッシュに『クイックショット』を放ちながら、急いで雫の所に向かう。
 テッシーが黄昏に気付いてジェットウォーターを吐き出した!
 黄昏は『回避射撃』を使ったが避けきれず、足に傷を受け『毒』になってしまった。
「大丈夫ですか!?」
 走り寄ってきた雫にうなずきながら、黄昏はメールの文面を見せる。
「――! 分かりました、攻撃は牽制に止めておきます」
 休憩所から離そうとした行為が逆効果になってしまったようだ。テッシーが休憩所から離れる意思がない限り、体に力が入ってとぐろが締まってしまうのかもしれない。
 そして二人は一旦テッシーから距離を取る。

 テッシーは再び口を開け、バトルフィッシュの群れを吐き出すつもりのようだ。
「あ、そっか」
 砂原は閃いた。
「テッシーの口から出るの狙えば、一番まとまってるわ」
 砂原は雑魚達がテッシーの口から出た直後を狙い、
「はい、焼き魚いくよー♪」
 巨大な炎の球を投げつける。
 『ファイヤーブレイク』の名の通り火球は魚達に当たって炸裂し、何匹も巻き込んだ。
 だがその衝撃で散らばったバトルフィッシュの一部が、休憩所の方に飛ぶ。
「ちょっとマズイかもォ?」
 黒百合がロケット砲で一匹落とすが、他の数匹はそのまま行ってしまった。
「だめだ、これ以上追うとテッシーが休憩所に向くかもしれない」
 塔利の懸念に黒百合も同意して、行ってしまった分は救出班に任せることにした。
「向こうで何とかしてもらいましょォ」
 黄昏は素早くバトルフィッシュがそっちに行ったことをメールした。

 休憩所の方にバトルフィッシュが向かったことで、テッシーがそちらを気にするような素振りを見せ始めた。
 自分らに注意を向けさせるため、鳳は絶影を構える。
「余所見をするな……お前の相手は此方だ」
 鼻先を掠めるように矢を射った。すかさずジェットウォーターの反撃!
 が、鳳は直線的な射線を見極め、ひらりと跳んで回避した。
 ローニアが一見何もない所に拳状のアウルを打ち込む。
 バカな魚共がそれを追っているところに、背後から『黒点』を使ってやる。
「……全く、魚の餌になるのはこれきりにさせてもらおうか」
 闇を固めたような手のひら大の球体がいくつも降り注ぎ、黒い火花となってバトルフィッシュを焦がし弾け散った。
 その派手な動きでまた雑魚が寄って来る。
「あたいに任せて!」
 雪室のツヴァイハンダーFEの先端にアウルのエネルギーが収束していく。『氷砲〈ブリザードキャノン〉』だ。
 雪室が大剣を突き出すと、エネルギーが一直線に放たれる。吹雪のような白いエネルギーは雑魚を三匹吹き飛ばし、氷の結晶と共に消えた。

 ――と、バトルフィッシュに気を取られている隙に、テッシーのジェットウォーターが雪室を狙って射たれる。
「危ねぇっ!!」
 塔利の警告に雪室は『氷盾〈フロストディフェンダー〉』を使い大剣で防ぐ。
「甘いわっ!」
 氷の結晶で覆われた剣が毒水の勢いを殺し、威力を弱めた。
「それ以上はやらせないわよォ」
 黒百合がテッシーの視界を遮るように飛びながらロケット砲を撃つ。
 テッシーはバトルフィッシュを吐き出した。
「また焼き魚チャーンス」
 砂原が再び『ファイヤーブレイク』を仕掛ける。
 魚達が炎に巻かれる中を突っ切って、テッシーの顔が砂原に伸びてきた。歯というよりはむしろ凶器のような牙が何本も並んだ口を開く。
「うわっ!」
 砂原は身をひねって回避を試みたものの、肩口を牙がかすって出血した。
 黄昏が休憩所方面を塞ぐように立った。手突槍に持ち替え、舞うような華麗な動きでバトルフィッシュの標的を自分へと向ける。
(主達には手出しさせません!)
 けれども水弾やウロコの対処をしている間に、数匹が休憩所の方へ行ってしまった。
(主すみません、そちらは頼みます!)
 取り逃がしてしまったものは仕方がない。主も自分より優れた撃退士だ。
 自分は自分で、今出来ることをしっかりしなければ。
 黄昏は一匹の魚を突き刺し、確実に仕留めた。

●こっちの反撃ターン
「雑魚が減ってきたわねェ。テッシーも疲れてきたのかしらァ?」
 黒百合の言う通り、バトルフィッシュの数があと数匹にまで減っていた。
 その時、黄昏の携帯に『救出完了』のメッセージが。
(!!)
 黄昏は両手で大きく丸を作りながら、仲間達の近くを走り回った。塔利もそれに気付いて皆に声をかける。

 待ち望んだ合図だ。
 攻撃目標、テッシーに変更。

 鳳は刀を構え直し、テッシーを見据えた。
「そろそろこの騒動も御終いにしよう。謎の生物は謎だから面白いのでな」
 しかもこいつは悪しき天魔でただの怪物。
 テッシーの体にヒレを避けながら飛び乗った。
「根源から斬らせてもらう!」
 顔近くまでジャンプし、首元に斬り付ける。
 ローニアもテッシーを踏み台にジャンプ!
「沼の主狩り、といこうか」
 顎下を目掛け、アッパーのように拳を突き出した。
 魔具から放たれたアウルはしかし、首をうねらせたテッシーの口の端をかする。
 テッシーの牙がローニアを襲う。
「おっと、ダメだよ」
 砂原は『蠱毒』の蛇の幻影を作り出し、ローニアに迫るテッシーの頭に噛み付かせた。
「毒使うのはキミだけじゃないんだなー。ま、キミも耐性があるみたいだけどね」
 その隙にローニアはテッシーから離れた。
「まだまだ行くわよ!」
 嬉々として一気に接近していた雪室が、『氷剣〈ルーラ・オブ・アイスストーム〉』を繰り出した。
 氷の剣がテッシーの胴体に風穴を空ける。
『ギョゲエエェ!!』
 テッシーは激しい叫び声を上げ、のたうち暴れ出した。当然とぐろも何も関係ない。救助が完了していなかったら休憩所内の人は全員下敷きにされていただろう。
「暴れ回られるのも、この巨体じゃ迷惑ねェ。早々に止めを刺してあげるわァ」
 黒百合は武器にアウルを集中させ、黒い霧を纏った『ダークショット』を撃った。
 長い胴体の真ん中辺りの肉を削ぐ。
「もう遠慮はしません」
 雫は暴れるテッシーの懐に入り込み、『神威』を使った。全身を循環するアウルは恐ろしげな魍魎のような形を成し、魔具を紅く光らせる。そして『乱れ雪月花』を放った。
 一瞬にして太陽剣ガラティンが振り抜かれる。花びらが舞い散るかのように、アウルが儚く消えた。
 雫の一撃はテッシーの背骨に到達するほど深々と切り裂き、とうとうテッシーの動きが弱まってくる。
「やりましたか!?」
 テッシーはゆっくりと頭をもたげ、最後の力を振り絞って、バトルフィッシュを連続で吐き出した。

「「!!」」

 全部で60匹。
 救助班の方にも飛んで行き、両者入り乱れる。
 その間にテッシーは弱った体を沼へと引きずっていた。
「ちょっと、逃がさないわよ!」
 雪室が追おうとするとバトルフィッシュが集ってきて、テッシーに近づくことができない。
 そうこうしているうちに、テッシーは沼の中に消えてしまった。
「あーもう! あんた達で鬱憤晴らすからね!」
 全員雪室と同じ気持ちだった。
 皆はもはやスキルを使えるだけ使って、バトルフィッシュを全滅させたのだった……。

●沼の主は幻となる
 ダメージを負った者は重傷まで至らなかったものの、雫や砂原の『ヒール』で回復してもらった。
 救出班の方も落ち着くと、救出班の一人、金髪ポニーテールの少女なのか少年なのかどっちとも取れる子がこちらにやって来て言った。
「……あの人達が……お礼を言いたいって……」

 なので皆で救出班の面々の隣に集まった。
 ざっと見たところ子供も元気そうだし、大きな怪我などをした人もいないみたいだ。
 何となく『救助者代表』のようになったらしい年配の男性が、一歩前に出て口を開いた。
「あの、救出に専念してくれた方々も、天魔と戦ってくださった方々も、我々のために全力を尽くして下さり、本当にありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
 大人も子供も、全員が心から感謝の意を示した。

 肝心のテッシーは逃してしまったけれども、人々を無事に助けることができた。
 彼らの笑顔を見て、撃退士達の顔にも安堵の表情が浮かぶのだった。


 そしてT沼は、『幻の沼の主テッシーが現れた沼』としてそこそこの観光地になっているという。
 人間というものは案外図太いのかもしれない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
【流星】星を掴むもの・
黄昏シロ(jb5973)

卒業 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
オリーブオイル寄こせ・
ローニア レグルス(jc1480)

高等部3年1組 男 ナイトウォーカー