.


マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/28


みんなの思い出



オープニング

●高校デビュー失敗の男
 中学2年生の時、自分は撃退士だと思い込むというゴリゴリの中二病だった吉田広士は、今年の春高校生になった。隣駅からバスで5分程の公立の普通高校に通っている。
 中学の時は学校中に知られる中二病のせいで広士は孤立していた。けれど今の広士は普通に戻ったので、以前の広士を知っている生徒も広士を見直すようになり、クラスにも馴染めた。
 何を隠そう、撃退士のおかげで中二病から目が覚めたのだ。そして広士はますます撃退士を尊敬し、彼らのように弱きを助け、正義を貫ける人間になりたいと日々邁進中なのである。
 親友の優人とも同じクラスになれたし、一緒に部活に入ったりして、広士は新しい環境で上手くやっていた。

 が、上手くやろうとして失敗した者もいる。
 この高校はほとんどが近隣の地元中学出身の生徒ばかりだが、中には当然、別の中学から来た生徒も何人かいる。
 広士と同じクラスの小島智晴がそうだ。彼は電車で30分かかる所から通学していて、彼と同じ中学出身の生徒はいない。
 小島は分かりやすかった。
 とにかく周りに自分がすごいということをアピールしようとし、『高校デビューなんだな』とバレバレだったのだ。
 口癖は『俺撃退士の友達がいるし』で、言うことが全部撃退士と交流があるという自慢話。
 そんな態度だから当然友達なんか出来るはずもなく、クラスメイトから避けられている。でも小島自身は自分のアピールが足りないのだと勘違いしてもっと盛った自慢話をするという悪循環になっていた。

 広士は何となく彼を放っておけなくて、ある日の昼休みに話しかけてみた。
「なあ、小島って撃退士の友達がいるんだって? どんな人?」
 小島はそれはもう鼻高々に答える。
「どんなって、すごい力を持ってるヤツだよ。この前なんかニュースになった天魔を倒したとか言ってたなあ。あ、そういえば、キミも撃退士の友達がいるんだっけ?」
「友達だなんてそんな。師匠って呼んでる人はいるけど」
 その師匠からもらったお守り替わりのチョーカーは、家の机の引き出しに大事にしまってある。
「そうだよねえ〜、撃退士とそう簡単に友達にはなれないよねえ〜」
 イヤミたらしい言い方に、クラスメイト達の顔がまたか、としかめられる。
 小島は得意気になって続けた。
「今度一緒に遊びに行くんだ。最近リニューアルしたアミューズメントパークにね」
「へえ、いいなあ。そうだ、その時写メ撮ったら見せてよ」
 と広士が言うと、小島は急にうろたえた。
「えっ。や、やだよ。そんなの嫌がるだろうし」
「そうかなあ。遊びに行ったら写メくらい撮るだろ?」
「撃退士は写真とか嫌いなんだ。あ、俺今のうちにトイレ行っておかなきゃ」
 小島はそそくさと席を立って教室から出て行く。
「……なんだあれ」
 二人のやりとりを見ていた優人が近づいてきて、広士にささやいた。
「あいつ絶対撃退士の友達いるなんて嘘だよ。全然撃退士のことなんて知らないじゃん。大体広士の方が撃退士に詳しいっての」
「かもしれないけど……あいつ、中学じゃぼっちだったんじゃないかな。俺も嘘つきって言われてハブられてたから分かるよ。だから今度はやり直したいってわざわざ遠い高校に来て……自慢できることで皆の気を引きたいんだ」
「そうだとしても、こんなやり方じゃ逆効果だろ。これじゃただのいけ好かない奴にしかなってないぞ」
「だよなぁ〜。……俺、放課後もう一度話してみる」

●放課後の事件
 放課後、広士は体を鍛えるために入った合気道部を休む旨を優人に告げた。
「悪いけど部長に言っておいてくれ」
「しょーがないなあ。変なことに巻き込まれないようにしろよ」
「大丈夫だって。じゃ!」
 広士は優人に手を振って別れ、小島の姿を探した。
 彼は部活には入っていないので、授業が終わればすぐに帰るらしい。広士も急いで校舎を出ると、校門に向かう小島の後ろ姿が見えた。
 小島はバスに乗るでもなく、最寄駅とは反対の方に歩いて行く。広士が後を付けると、人気のない寂れた公園に来た。小島は一人、ベンチに腰を下ろす。
「……小島」
「なっ……吉田、くん」
 広士が声をかけると、小島はびっくりしたようだった。
「呼び捨てでいいよ。どうしてこんなとこに来たんだ? 駅とは逆方向じゃん」
 言いながら広士は隣に座る。
 広士の態度に悪意がないと気付いたのか、小島は素直に語り始めた。
「――別に。ここには学校のヤツは誰も来ないから。分かってるんだ、皆が俺を良く思ってないって。でも今さらどうしようもなくて……帰り道で何か言われるの嫌だから、ここで時間潰してから帰ってる」
「そっか……」
 一度見栄を張った手前、後に引けなくなってしまったのだろう。
「でもこのままじゃダメなのも解ってるだろ?」
「何だよ、偉そうに。だったらどうすればいいって言うんだよ!」
 と小島が声を荒げた時――、公園を囲むフェンスの向こうの竹林から、物音がした。
「何だ?」
 二人が顔を向けると、フェンスを透過して等身大の木の人形のようなものが現れる。
 ぶつ切りにした丸太を繋げてできた、適当感の漂う人形だ。手の指はなく丸い拳のままだし、顔は節穴が目や口に見えるといった程度でしかない。
「木の人形? 何だコレ?」
 小島は不思議そうだったが、広士にはこれが何かすぐ分かった。
「これは天魔だ」
「ええっ!?」
 広士は小島を立ち上がらせ、背後の道に押しやる。
「小島、俺があいつを引き付けてる間に、友達の撃退士に連絡して来てもらうんだ」
「で、できないよ!」
「大丈夫だ、絶対お前の方には行かせない。その友達に連絡すれば……」
「そうじゃない! 俺、本当は撃退士の友達なんていないんだ!」
 広士の言葉を遮って、小島が衝撃の告白をする。やっぱり、とは思ったが今それを追求しても仕方がない。
「いや、でも久遠ヶ原学園に通報するくらいできるだろ!?」
「それもダメなんだ。俺、久遠ヶ原学園には用もないのに嘘ついて何度も撃退士を呼び出してて……、学園からすごく注意されたんだ! もう俺が連絡しても来てくれないよ!!」
「はあ!? 何だってぇ!?」
 そうこうしている間にも、木の人形は一歩、二歩とこちらに近づいてくる。
「ヤバイ! とにかくお前は逃げろ!」
「吉田!」
 広士は小島から離れて木人形に向かって声を張り上げた。
「おい天魔、こっちだ!」
 さらに石を拾って投げつける。石は木人形を透過し当たらなかったが、注意を引くには充分だった。
 木人形の首が自分に向くと、走り出す広士。
 ツギハギのようなその造りとは裏腹に、木人形はなめらかな動きで広士を追う。

「はい、木の人形型の天魔です! 早く来てください、お願いします!」
 広士は逃げながらも携帯で久遠ヶ原学園に連絡し、どこへ向かうべきか考えていた。
 今まで町のパトロールは毎日やっていたので、体力はそこそこある。だけどただ走っているだけではいずれ追いつかれてしまうだろう。
 周りは住宅街なのでそっちには行けない。
 結局広士は元の公園に隣接した竹林の中へと逃げ込んだ。


リプレイ本文

●狼少年
(通報者の名前……彼かな? 撃退士じゃないけど志は立派で考えもしっかりしていた)
 公園に向かいながら、美森 仁也(jb2552)は広士のことを思い出していた。
 その時の広士は弟分の子供を守ろうとしており、『ただの人間であっても心は撃退士のようにありたい』という広士の信念が美森の印象に残っている。
(今天魔から逃げているのなら……、撃退士としての基本は身についていたし、多分住宅街の方には行かないだろう。だとすると……)
 竹林が隣接している何やらうらぶれた公園が見えてきた。
(あの竹林か?)
 美森が当たりをつけていると、ベンチの後ろから人影が怯えた様子で這い出た。
「俺らは撃退士だ。お前は?」
 可愛らしい容姿からは想像できない荒い口調で、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が人影の前に立つ。
「あ、あの、僕は小島智晴と言います。今天魔が出て……、さっきクラスメイトがその天魔を連れて……」
 おどおどとした小島の名前を聞いて、撃退士達の眉がぴくりと上がった。
「お前が噂の狼少年か?」
 苦虫を噛み潰したような顔のラファルの発言に、小島はビクッと体を震わせた。その反応を見れば、答えなくても分かる。
 ラファルは『嘘で撃退士を呼び出す少年がいる』という噂や、友人が無駄足を踏まされたという話を何度か聞いていた。だが、そんなガセの中にも一片の真実が混ざることがある。
 その時噂に踊らされて手を抜くのは愚かだ。それで守るべきものが守れなければ悲劇にしかならない。
 だからラファルはどんなガセでも手を抜かない。相手が狼少年本人だとしても。
「今回通報したのは別の子だし、さっきまで隠れてたみたいなのを見ると本当なんじゃないかな?」
 何だか穏やかじゃないラファルの顔を見て取りなすような美森の言葉に、ラファルも
「そうだな。今回は当たりだった訳だ。だけど今までの分は後で後悔させてやらねーとな……」
 取りあえず説教は後回しにする。
 その間に恒河沙 那由汰(jb6459)は学園に連絡して広士の携帯番号を聞いた。それから広士に連絡。
「広士か? ああ俺だ、落ち着け。おめぇ今どこにいる? ……竹林の中だな。分かった、すぐに行くから、無理すんじゃねぇぞ」
 さらに警察にも天魔出現を知らせ周囲の封鎖を頼んだ。そこまで終えると、恒河沙は広士に聞いたことを皆に伝える。
「広士は今竹林の中だ。だが、どの辺りなのかは分からねぇらしい」
「でしたら、分散してそれぞれ別方向から探しましょう。発見したら音の出る物とメールで連絡を」
 『口ほどにものを言う』目を前髪で隠した只野黒子(ja0049)の提案を容れ、全員でメールアドレスを交換した。
「それじゃあ、小島ちゃんはおねぇさんが安全なトコまで連れてってあげる♪」
 まさに妖艶な大人の女性といった雰囲気の麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)が小島を抱きかかえた。
「え? え?」
「暴れないでね?」
 パチンと音の出るようなウインクをして、麗奈は『闇の翼』を出し飛んで行く。
「阻霊符はまだ使わないでくれるかな? 俺は『物質透過』と『闇の翼』併用で捜索してみるから」
 美森の要望と共にお互いがどこから入るか確認し、皆は広士または天魔木人形を探すために竹林に向かった。

●元中二少年
 ラファルと大河内 康希(jc1245)はペアになって竹林の東側から入った。
「全く、人騒がせな奴だな……」
 大河内は耳を澄まし、広士が移動や敵を引き付ける際に出すであろう音に集中し、奥へと進んで行く。
 ラファルはしばらく進むと立ち止まり、『生命探知』を使った。
「この辺にはいない。もう少し進むぞ」
「了解」

「待ってろよ。今すぐ助けてやるから、アタシらがそっちに着くまでくたばるんじゃねぇぞ!」
 天王寺千里(jc0392)も『陰影の翼』で上空から天魔と広士を探す。
 撃退士を嘘で呼び出すとか、天魔を自分に引きつけながら逃げるとか、高校生達の行動に呆れるところもある。だが、若気の至りという言葉もある。若者が間違ったなら大人が正してやればいい。
 彼らを助けてやりたい。
 それが天王寺の想いだった。

 飛ぶ際に角や尻尾を持つ悪魔本来の姿を曝した美森は、天王寺とは反対の方を捜索していた。
 恒河沙と只野は竹林の西側と公園側からそれぞれ入る。

 ラファルが最後の『生命探知』を使うと、反応があった。
「こっちに反応だ」
 大河内と一緒に急いで行くうちに、木人形をおびき寄せるために竹を叩く音が聞こえてきた。
「見つけた!」
 広士は竹の間の茂みに身を潜め、竹を棒で叩いている。
 その音に引き寄せられた木人形も寄って来るのが見えた。
「そらっ!」
 ラファルは発煙手榴弾を広士と木人形の間に投げつけ、白煙を立ち上らせる。多少の目くらましになればいいが、そこまで期待はしていない。だからすぐ仲間全員に広士発見メールを一斉送信した。
 大河内も防犯ブザーを鳴らし、より大きい音で木人形の注意を自分に向ける。そして儀式のように、自分の左手首をつかんでブラブラさせた。
「空手VSカンフーか……柄にもなく熱くなってきたな」
 軽く深呼吸してから表情を引き締め、自ら木人形に向かって行く。
「くらえ!」
 『石火』で一気に加速させた回し蹴りを一閃。
 木人形はモロにくらい倒れ込んだ。
「撃退士の皆さん!」
 広士の顔が安堵で一杯になった。

 竹林上空では、美森と天王寺が白煙とメールに気付いた。
 二人は煙の場所に急降下する。木人形はすぐに見つかった。
 美森は着地すると同時に阻霊符を発動、『中立者』で敵のカオスレートを見る。
「こいつはサーバントか」
 続けて上空から天王寺が、トルネードランスを構えて突っ込んで来た。
「喧嘩したけりゃアタシらが買ってやる。無関係の一般人を巻き込むんじゃねぇ!」
 木人形が体を回転させると天王寺の槍は木人形の背をかすめ、地面に刺さる。流れるような動きで木人形は横に飛びながらキックした。
「うあっ!」
 天王寺は横腹に蹴りを受け、さらに竹に体を打ち付けてしまい、痛みに喘ぐ。
 『磁場形成』で駆け付けた只野は七星剣から光の波動を放った。
「一般人には近づけさせませんよ」
 『フォース』の攻撃は木人形に衝撃を与え、後退させる。
 恒河沙も『磁場形成』で広士の下に急行、彼の前に現れた。
「師匠! 来てくれたんですね!」
 広士の声に喜びが混じる。
 広士が中二病だった時の事件をきっかけに、恒河沙は何回か彼の手助けをしていた。そのうち広士は恒河沙を『師匠』と呼ぶ間柄になったのだ。
 恒河沙はざっと広士の全身を見る。怪我などはなさそうだ。
「おめぇ一人で逃げられるか? あっちが公園だ」
 あごで方向を示しながら、ぶっきらぼうに尋ねた。
「はい、大丈夫です! 師匠も気を付けて!」
 自分がいては撃退士達が存分に戦えないと解っている広士は、すぐに教えてもらった方へ逃げて行く。
 それを肩ごしに確認してから、恒河沙はこっちに来ようとしている木人形を見据えつぶやいた。
「弟子のピンチには師が助けに行くもんだろ」
 本人には決して口にしないが、恒河沙なりに広士を心配しているのだ。
 恒河沙は『炎焼』で槍状の炎を出現させ、走り出した木人形にそれを投げた。
 胴体に命中、木人形が炎に包まれる。
「丸太ならよく燃えんだろ……」

 小島を運んでいた麗奈は、住宅街を抜けた所で彼を下ろした。
「ここでじっとしててね? もうすぐ警察も来ると思うから。ちゃんと待っててくれたらあとでイイコトしてあげる♪」
「は、はい、ありがとうございました」
 ドギマギしている小島の反応を楽しんでいると、携帯に連絡が入る。
 竹林に振り返れば煙が上がっているのが見えた。
「いっけない! それじゃあね♪」
 麗奈は竹林へと急いだ。
 竹林の中は竹が邪魔で飛びにくいので走る。と、逃げてくる広士と行き会った。
「広士ちゃん?」
「は、はい! 師匠の仲間の人ですね!」
「良かった。安全な所まで運ぶわね」
 二人して竹林を出、麗奈は広士を抱きかかえて小島の所まで飛んだ。
「頑張ってる男の子もいるのねぇ♪おねぇさん見直しちゃった。ここまでありがと♪さぁ、こっからは撃退士の仕事ね♪小島ちゃんのこと任せるわね」
「分かりました!」
 呆然としている小島と力強く応える広士に笑顔で手を振って、麗奈は戦闘へと向かうのだった。

●戦う人形
 ラファルは『限定偽装解除「ナイトウォーカー」始動』し、義肢を戦いに適した形態にシフトさせていた。高めた能力で『俺式サイキックパワー「デビルズバイス」』を放つ。
「これでどうだっ」
 手のひらから見えない力を放出、木人形を『束縛』しようとした。が、木人形は巧みに竹の間をジグザグに走って回避、逆に距離を詰めてきた。
 拳を突き上げ、顎を狙ってくる。
「っ!」
 ラファルは咄嗟に上体を逸らすも、顔にかすり傷を受けてしまった。
 木人形は右腕をぐるぐると回し出す。
「俺は元空手家以前に撃退士だからな。この技も使わせてもらう」
 大河内が力を込めて衝撃波を飛ばした。『飛燕』だ。
 しかし木人形は左腕で防御し衝撃波を受け、腕を回すのは止めない。
 そのまま力を溜めたパンチをラファルに打つ。
「そう簡単にはいかないよ!」
 美森が漆黒の大鎌に『ソウルイーター』の闇を纏わせて振り下ろし、威力の増した拳に当てる! 強烈なぶつかり合いを制したのは美森だ。鎌の刃は木人形の右の胸元を切り裂いた。
 只野は鈴が付いて冴えた快晴色の七星剣を振り上げる。天王寺はさっきやられた腹の痛みも忘れたかのように、ブレイクアームドリルを構えてジャンプした。二人同時に襲いかかる。
「物理寄りの特性なら、魔法が有効なはずです!」
「窯にぶち込んで備長炭にしてやるぜ!」
 木人形は拳を連打して応戦。まるで『あたたたた』とかいう声が聞こえてきそうな連打だ。
 連打に阻まれ、只野と天王寺は有効な攻撃を与えられない。
「くそ、活きのいいデクだな!」
 天王寺が攻めあぐねていると、背後から植物の鞭が伸びて木人形の顔に巻き付き傷を付ける。
「そんな顔ならなくても同じだろ」
 恒河沙の『アイビーウィップ』だ。さらに木人形を『束縛』することに成功。
 ちょうどそこへ麗奈が合流した。
「皆お待たせ♪」
 木人形とは少し距離を取って、まずは状況把握に務める。

 今度は両腕をぐるぐる回し始める木人形。
「今度こそ止める!」
 大河内が再び鋭い蹴りで『飛燕』を放ち、そこにラファルも加わる。
「一度で止まらないなら止まるまでやればいい!」
 衝撃波を追うように木人形へ走り迫る。
 『飛燕』が右腕に裂け目を入れ、同じ場所を目掛けてラファルが思い切り天狼牙突を突き込んだ。
 木人形の腕が真っ二つに弾ける。
 だがまだ左腕がある。
「こちらは任せてください!」
 只野が剣で斬り付ける。肘関節部分を斬り、回転の勢いが弱まった。続いて美森が、
「その腕もらうよ!」
 『滅影』によって闇の力の濃度を高めた鎌を振り抜き、肘から先を切り落とす。
 両腕を使えなくなった木人形は何やらうろたえていた。焼け焦げや傷のある節穴だけの顔が、妙に迷いを表しているように見える。
 一瞬動きを止めたかと思うと、突然正面を向いたまま後ろに足を蹴り上げた。
「何っ!?」
 反射的に大河内は飛び退ってかわす。
 構わず木人形は回し蹴りを繰り出した。狙いがずれて竹が折れても、回し蹴りをしながら大河内に接近して行く。
「ちっ、まずいな」
 大河内はじりじりと竹が密集している所へ追い込まれていた。
 麗奈が舞うように黒龍布槍を操り木人形の軸足に巻きつけ、引き倒す。
「お人形遊びはもう卒業したの♪それに乱暴なのは好きじゃないわぁ」
 恒河沙の炎の槍が飛んで来て、木人形を燃え上がらせた。
 今までのダメージもあり、さっきよりよく燃えている。
「さっさと炭になっちまいな、このデク野郎!」
 天王寺がドリルを振りかぶる。『石火』の勢いと体重を乗せ、倒れたままの木人形の胴にぶち込んだ。
 胴にドリルの穴が空き、そこからも炎が体内に侵入し木人形を燃やしていく。

 やがて真っ黒に焦げた木人形の成れの果てが残った。

●撃退士と元中二病と狼少年
「皆さんありがとうございました! 師匠はもちろんのこと、美森さんもお久しぶりです!」
 部活で学んだのか、広士はキビキビとした動作で頭を下げる。
 その横で、小島も申し訳なさそうに頭を垂れた。
「今までのこと、すみませんでした」
 恒河沙は無感情の目で小島を見下ろす。先程広士に彼のことを聞いた。基本小島がどうしようと興味はないのだが、嘘をつくという態度が気に食わなかった。
「おめぇ羊飼いと狼って話知ってっか? 今のおめぇそっくりじゃねぇか。虎の威を借る狐みてぇな事する暇があんなら、俺の弟子みてぇに自己鍛錬でもしやがれ」
「弟子って……?」
「昼に言っただろ、この人が俺の師匠だよ!」
 広士が誇らしげに紹介すると、小島は『ホントの話だったのか』と言いたげな顔をした。そしてますます自分の嘘に自己嫌悪し、うつむいてしまう。
「嘘も身の丈に合ったものにしとかねーといつか必ず身を滅ぼすぜ。今回はうまくいったからイーようなものの……」
 ラファルも少しキツめに説教をしだしたので、天王寺がまあまあ、と間に入る。
「アタシらは撃退士だ。お前さんみたいな悪ガキだって助けてやる義理ぐらいあるぜ。それにお前さんもう二度と悪戯をしないってんなら、アタシが友達になってやるか?」
 小島の目に驚きと涙が浮かんでいた。
「ま、俺は小島の自主性に任せるさ。事の善悪くらい分かってる歳だろう?」
 言うべきことは他の仲間に任せて、大河内は成り行きを見守る。
「小島ちゃんも反省してるみたいだからもういいじゃない? ね?」
 麗奈が確認するように小島に笑いかけ、小島も何度もうなずいた。
「はい、もう絶対にしません」
「それじゃ、これはご褒美♪」
 小島を優しくハグする麗奈。小島の次は広士もハグ。
「あんまり無茶するのは感心しないな? でも、友達を助けるのはかっこよかったわよ」
「あ、どうも……」
 照れている少年二人に、麗奈はそっと自分の電話番号を書いたメモを渡した。
「遊ぶ時は呼んでね♪」
 それを見た恒河沙が、広士をちょっと皆と離れた所に連れ出す。
「学園で聞いたおめぇの携帯番号、登録しとくぞ。嫌ならやめとくが」
「ぜひ! じゃあ、師匠のも登録させてください!」
「おぅ」
 広士は多くを語らずともさりげなく気にしてくれている恒河沙の優しさに感謝していた。
「俺、もっと師匠に褒めてもらえるように頑張りますね!」
 恒河沙は広士から顔を背けていたが、その口元をほんの少しほころばせるのだった。


 それから、小島は嘘通報も撃退士自慢もしなくなり、何となく広士達と普通の話をするようになったということである。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
人の強さはすぐ傍にある・
恒河沙 那由汰(jb6459)

大学部8年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA
焔潰えぬ番長魂・
天王寺千里(jc0392)

大学部7年319組 女 阿修羅
カラテカ・
大河内 康希(jc1245)

大学部1年187組 男 阿修羅
甘く、甘く、愛と共に・
麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)

卒業 女 ダアト