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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
形態:
参加人数:4人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/26


みんなの思い出



オープニング

●冬って……寒いよね
 久遠ヶ原学園高等部2年生の滝田雅斗と山本仁は、寒空の下公園に到着した。二人はお笑い芸人を目指しており、ネタの練習をするためにここまで出て来たのだ。
 公園と言っても真冬で寒いとあればほとんど人はおらず、自分らしか見当たらない。ネタの練習にはうってつけだが、とにかく寒い。

 ぴゅううう〜

 冷たい風が二人に吹き付ける。
「う〜〜〜さっぶ〜! 俺寒いの苦手なんや〜!」
 滝田が身を縮こませた。
「なー、何で外でネタ合わせせなアカンのん? こない寒かったら舌も回らんわ」
「あったかい部屋の中じゃお前中々腰上げないじゃんか。すぐにサボろうとするし」
 滝田はうっと言葉に詰まった。図星だ。
「路上ライブとか営業なんてなったら、こんなクソ寒い所でやらされるのなんてザラだぜ? お前はそういうの『できません』って言うつもりなのか?」
「ううっ」
 山本の全くもっての正論にぐうの音も出ない滝田。
「まあ今回のは動画サイトに上げるためだけどさ、ちゃんと練習して完成度高いの出した方が、たくさんの人が見てくれるかもしれないだろ? そしたら俺らの知名度も上がるかもしれないじゃん!」
「そ、そうか、そうやな!」
「だから寒くても頑張ろうぜ!」
「分かったで! お前もちゃんと『ときめき40(フォーティ)』のこと考えてくれてたんやな!」
「当たり前だろ。二人でビッグになろうぜ!」
 二人はがしっと腕を組み合う。
 以前は何かとケンカしていた二人だったが、山本は滝田の扱い方を心得えてきたようだ。ちなみに『ときめき40』というのは彼らのコンビ名です。
 しかしそんな二人のやる気を削ぐように、冷風が彼らを襲う。
「あ、アカン、寒すぎる!」
 滝田が言うと、山本はじろりと彼をにらんだ。
「いや練習はやる。やるけど、ちょっとあったか〜い飲み物でも買って来てええか?」
「……そうだな、それには賛成」
 山本も寒いのを我慢している。できれば山本だって暖かい室内で練習したい。ただ、ちょっと滝田より自分と相手に厳しいだけなのだ。

 二人がベンチに座ってホットコーヒーとお茶で一息ついていると、滝田がうーーーんとうなった。
「どうしたんだよ、変な声出して」
「やっぱ冬は寒い」
「そーだな。冬だしな」
 唐突な滝田の言葉によく分からないまま山本が相打ちを打つと、また唐突に滝田は立ち上がった。
「この『寒い』を『笑い』にできないやろか!?」
「――は?」
「そこで俺は考えた! ずばり『寒いと言ってはいけない久遠ヶ原学園』や!!」
 山本はぽかん、と口を開けて固まる。
「お前も分かるやろ、色々寒そうな仕掛けをお見舞いされて、『寒い』って言ったら痛い罰をくらう例のアレや!」
 滝田がビシッと山本を指差した。
「な、なんだって!? そんなの、誰がやるんだよ!?」
「もちろん、依頼で人を集めるに決まっとるがな!」
「俺らは仕掛ける側だよな?」
「当然やられる側やろがぃ! それが芸人の醍醐味やん! 素敵やん!?」
「ええーっ!?」
 何が素敵なのかツッコミたかったが、とにかく山本は驚いた。
「そうやな、対決風にするか? 仕掛ける側とやられる側に分かれて、俺らやられる方は、冷房ききまくった部屋とか氷水の張った部屋とかを巡って行って、いちいち冷たいもん引っ付けられるとかやられるんを我慢するんや。『寒い』とか『冷たい』ゆうてもうたらアウト。おしおきくらうねん。最終的に『寒い』ゆうた回数と我慢した回数を競う! どや!?」
 キラキラと目を輝かせながら滝田がアイディアを説明する。
 聞いてるだけで凍えそうだ。
「これはいける、いけるでぇ!」
 滝田は山本の意見も聞かずにむんずと腕をつかみ、学園に戻るために引きずっていくのだった。

 滝田が寒さのあまり壊れた!

 と山本は思った。
 だが滝田は今やる気がものすごい。滝田は『これをやりたい!』と思ったことに対してはどんどん突っ走っていくタイプなのだ。今その状態に入ったらしい。
 それに、確かにそれは面白そうだ、と山本の中のお笑い心がむくむくと首をもたげてきたのも事実。やりたいかやりたくないかで言えば、かなりやってみたい。
「よし、解った! 俺も男だ、やるからにはガッツリやろうぜ!」
「おう、やっぱりお前は俺の相方やな! そう言うと思ったで!」
 結果二人はノリノリで依頼を出しに行くのだった。

●数日後
「基本のステージが出来上がったでぇ!」
 滝田が依頼を受けた撃退士達を体育館へ集めた。
 そこには高さ3mほどの白い壁で区切られた場所があった。所々にのぞき窓のようなものが付いており、全長は50mくらいある。
「俺らだけ知ってたらアレだから、皆にも基本ステージは見てもらうな。あと、これも不公平にならないようにって措置で、やられる側は全員学園指定の夏用体操着で参加してもらう」
 山本が言った。
「ステージは4つ。やられる側はこっからスタートや」
 滝田は壁の端まで皆を連れて行き、迷路のスタート地点のようになっているドアを開ける。
 中は白い壁に囲まれた10m×10mくらいの部屋だった。左右の壁にエアコンが二台ずつ、設置されている。
「まずは寒々ゾーン。冷房をガンガンにきかした部屋やな。仕掛ける側はあの窓からでも壁の上からでもやってくれてO.Kや」
 対面にまたドアがあり、同じような部屋が現れる。ここには机と椅子が置いてあった。
 ここは山本が説明した。
「次は食い倒れゾーンだな。出された冷たい食べ物を全部食べてから、次のステージに行く」
 次もまた同じような部屋だったが、ドアを開けてすぐの所に幅2m長さ15m深さ30cmくらいのアクリルの箱が設置してあり、次の部屋のドアまで続いていた。
「ここは難所やでぇ〜。題して冷々ゾーンや。当日は半分位の深さまで氷水を張る。そこを色々な仕掛けに耐えながら渡って、次のドアまで行くんや」
 それを想像して身震いしながら次の部屋へ向かう撃退士達。
 最後の部屋も他と同じ部屋だ。
「最後はフリーゾーンだ。ここは決まったことはない。今までのステージでやってなかった冷たい攻撃を仕掛けてきてもいいし、サムいギャグとかの精神攻撃をやってくれても構わない。仕掛ける側が好きなことをできる」
「ほんでゴールや!」
 外に出て、皆は基本ステージを回り終える。
 説明を終えた滝田と山本はやる気に満ちた顔で皆に振り返った。
「この基本ステージを踏まえて、仕掛ける側は色々準備したってくれ! 期待してるで!!」
「やられる側も頑張ろうぜ!」
「「おーーーっ!!」」

 という訳で、『寒いと言ってはいけない学園』対決の火蓋が切って落とされた!


リプレイ本文

●『寒いと言ってはいけない学園』対決 当日
 体操着姿の4人が、体育館内に設置された第一ゾーンへのスタート地点に集結した。内容が内容だけに意気揚々、とまではいかないが。

「う〜、すでにさっぶいわぁ〜!」
 滝田が露出した腕をさすりながらボヤくと、
「あっ、『寒い』って言った!」
 藍那湊(jc0170)があはは、と滝田を指差した。
「ま、待て待て! まだ始まってないからええんや!」
「え〜、そうなの〜?」
「そうや! だからまだ言っても大丈夫なんや!」
「なぁんだ」
「それにしても……」
 と今度は山本がチラリともう一人の参加者に目を向けた。
 視線の先にはグィド・ラーメ(jb8434)が仁王立ちしている。
「なんかすごいビジュアルだな……」
「はっはっは! きちんと規定通り体操着着てきたぞ! 白ソックスはずり下がらないように糊も付けたし、完璧だな!」
 しかしすね毛は処理されていない。
 年齢とガタイのせいか、似合っていないその姿でのデカイ態度が妙におかしさを誘う。
「恥ずかしくないもん、だってこれがルールなんだからな!」
「かわいく言っても無駄だぞ」
「いいもん! それよか、俺なんかより嬢ちゃんの体操着姿を眺めた方が楽しいだろうが!」
 グィドは藍那を示した。
「えっ、僕?」
 びっくりした藍那のアホ毛がぴょこんとハネる。
 確かに藍那は見た目は可愛い女子と言っても過言ではないし、細身で体操着姿も良く似合っている。が。
「しっかりしぃや、おっさん。寒さのせいで目ェがおかしなったんか?」
 滝田が呆れ顔で言った。
「藍那の胸をよく見てみろ、ペッタンコじゃないか」
 山本にも言われて、グィドは藍那の胸元を思わず二度見。
「ん? あれ?」
「僕は男です!!」
 藍那本人のダメ押しで、グィドはあからさまにガッカリする。
「そうか、男だったか〜。名前も外見もどっちとも取れるもんな〜」
「もぅ……寒い所が呼んでる気がしたから参加してみたんだけど。僕芸人じゃなくてアイドル目指してるのにこういうのばっかりだな……」
 んん〜と藍那は少し悩むような顔をしたが、すぐに
「でも精一杯がんばるぞー!」
 元気良く腕を振り上げた。
「おお、ヤル気満々やな! ええこっちゃ! それにしても、仕掛け側の二人はまだかいな?」
 滝田がちょっと辺りを見回す。すると……、

「くははは、あははは……あーっはっははははははは!!」

 どこからか三段笑いが響いてきた。
「ここです!」

 じゃーーーん!!

 とばかりに、モッコモコの着ぐるみを着た雫(ja1894)とRehni Nam(ja5283)が壁の陰から登場した。ちなみに雫はパサランの着ぐるみを、Rehniはきつねの着ぐるみを着ている。どちらもキュートで、二人揃えばどこかの教育番組にでもなったようだ。
「私とシズクさんの仕掛ける罠かっこ嫌がらせの数々……果たして突破できますか!?」
 Rehniは皆に指を突き付けた。
「見た目は教育番組だけど、言ってることは悪役だな」
 山本がポツリとツッコむ。
「なんか今さらりと『嫌がらせ』って言ったぞ」
 グィドも若干の不安を覚えているようだ。
「さあそれでは! 絶対に『寒い』と言ってはいけない学園、スタートです!」
 雫が問答無用にパン! と手を叩き、再び着ぐるみ達は壁の向こうへと引っ込んで行った。
「よっしゃ、皆行くで!」
「「おーーーっ!!」」
 滝田の号令に気合を入れ直し、寒さへの挑戦者達は最初の『寒々ゾーン』への扉を開けた――!!

●寒々ゾーン
 部屋に入ると、なぜか中央にゆにこーんとヒリュウのぬいぐるみが鎮座していた。だが皆の関心はそんなことよりももっと切実な事象に真っ先に反応する。
 予想以上に冷房が効きまくっており、息を吐いた傍から凍るんじゃないかというくらいの勢いだ。
「なんやコレ!! 温度低すぎやないか!?」
「―――!!」
「初っ端からこれか!」
 山本はもう声も出ず、グィドも猫背気味になってしまう。そんな中、藍那だけはあっけらかんとしていた。
「すごいエアコン効いてるね〜。でも冥界の実家は凍ってたし、これくらいが居心地いいや」
「湊の坊主、これ平気とか感覚どうなってんだよ!? 俺なんかもう鼻水出そうだぜ!」
 皆どうにか『寒い』と言うのだけは我慢している。しばらくすると、雫が室内に入ってきた。
「さすがに入った途端言ったりしませんか……。では皆さん、どちらかぬいぐるみを選んでください」
「これのことか。じゃあ俺はゆにこーん」
「なら僕はヒリュウで」
 グィドと藍那が選ぶと、滝田と山本もそれぞれ選んだ。
「はい、ヒリュウを選んだ人はこれです!」
 雫は氷水を入れたバケツを持って来て、藍那と山本に頭からぶっかけた!
「きゃあああ!!」
「うわあぁあぁ!!」
 絹を裂くような悲鳴を上げる藍那と、何か情けない悲鳴を上げる山本。
 続けて雫はグィドと滝田に近付く。
「何だ、何する気だ?」
 ちょっとグィドは後ずさる。
「いいからいいから」
 雫は二人の背後に回り込み、バケツから取り出した氷を二人の背中に放り込んだ!
「ゆにこーんを選んだ人はこうですよ!」
「なあああっ!?」
「うひゃほほぅ!!」
 グィドは飛び上がり、滝田ものたうち回る。
「ちょ、ま、取ってくれ!」
「アカンて、死ぬ死ぬっ!!」
「すぐに溶けますよ」
 雫はグィドと滝田の訴えを適当にあしらう。
「正解は『何も選ばない』でした」
「そんなんアリかあぁ!?」
「あんたが選べって言ったんじゃないか!」
「ずるいぞ!」
「すごいこと言うなあ」
「それでは」
 皆の抗議をまるっと無視しながら、雫は部屋を出た。
 寒さダメージはかなり与えられたようだが、『寒い』とは誰も言わなかった。
 しかしまだまだこれから。
 続いては、Rehniの攻撃だ。
 壁の上から水鉄砲を持ったRehniが現れる。
「いきますよ〜、それそれ〜!」
 容赦なく水鉄砲を撃ちまくった!
「うわわっ」
「ひいぃい〜!」
「ひゃあー」
「勢い良すぎっ……!!」
 今まで濡れてなかったグィドと滝田にも水がかかり、藍那と山本にはさらに追い打ちとなった。
「逃げても無駄ですよ!」
 部屋のどこにいようとも水鉄砲は彼らを捉え、結局全員ビショビショだ。
「あはは、何か慣れてくると面白いね♪」
「いっこもおもんないわ!!」
 何故かはしゃぐ藍那に滝田はキレ気味に応える。
 濡れた体に冷房の風は拷問だ。まさに吹雪真っ只中の雪山に放り出されたかのよう。

「もう勘弁してくれ! めっちゃ寒いて!」

「――あ」
 滝田が気づいた時にはもう遅かった。
 言ってしまったのだ。禁断のワードを。
 水鉄砲攻撃が止まる。皆の動きも止まる。
「滝田アウトー!!」
 嬉々としてRehniが宣告した。
「しもたあー!」
「はい、罰ゲームです」
 待ってましたとばかりに部屋に入ってきたRehniは、幅広の長いゴムを滝田に差し出した。
「まさかこれは……、『ゴムパッチン』!」
「正解です。端を口に咥えてください」
「うわ〜……」
 グィドと藍那が気の毒そうな視線を滝田に送る。
「安心しろ滝田。骨は拾ってやる」
 ううっと山本は涙を拭う真似をした。
 滝田は渋々ゴムを口に咥える。反対側を持ったRehniが壁際まで移動しゴムを伸ばし――、離す!

 バチン!!

 後ろに倒れ痛さに悶える滝田。
「いったあぁーーっ!! 口っ、口もげた!!」
「大丈夫かーっ! 傷は浅いぞ!!」
 山本が相方に駆け寄る。
「わー、痛そうですね」
 自分でやっといてRehniは完全に人ごとだ。
「怖ェな……」
 その様子を見て、グィドはつぶやくのだった……。

 最初のゾーンではこんなものか。
 取りあえず仕掛け側の二人は納得する。まだ最初だから彼らも我慢する気力があるだろう。
 この先には続々と珠玉の仕掛けが待っているのだ。これからいくらでも言わせる機会はある。寒さはじわじわと彼らの精神を蝕み、気力と根性を奪っていくはず。
「それでは、次のゾーンにお進みください」
 Rehniは四人を促した。

●食いだおれゾーン
 冷房がない分、ひとまず助かったという思いのグィド達。
 パサランな雫ときつねなRehniが皆を迎える。机の上には、すでに人数分の料理が用意されていた。料理からはもくもくと白い湯気のようなものが立ち上っている。
「湯気が出てる? あったかい食べ物か?」
「いやいや、油断は禁物だぜ仁の坊主」
 グィドは警戒心を顕わに山本に警告する。
「席に着いてください」
 雫に言われるまま全員席に着いた。
 目の前には一人用の土鍋があり、中身はおでん。美味しそうではあるが、湯気のような煙は鍋の下に敷いた台から出ているようだった。
「やっぱりあったかくは……なさそうやな。熱気はまるで感じひんもんな」
 おでんに顔を近づけた滝田が、分かっていたものの失望を隠せない声で言った。
「それでは召し上がってください」
「「いただきまーす」」
 あまり乗り気ではない挨拶をして、皆それぞれおでんの具に箸を伸ばし、おそるおそる口に運んだ。
 食感はおでんそのものだが、よくぞここまでってくらいキンキンに冷やしてある。
「っかーーー、こ、これは思ったより厳しいな……!!」
 口に広がる冷たさと戦いながら、グィドは大根を飲み込む。
「どうですか? 美味しいですか?」
 雫が聞いてきた。
「美味しいですー! 見た目はあったかそうなのにっていうギャップがいいですね!」
 藍那は苦もなく順調におでんを食べ進めている。
「そうなんです、気分だけでも熱々を楽しんでもらおうかと」
「こんなんじゃ味なんて分かれへんわ」
 滝田がぶつくさ言い、
「い〜〜〜、歯にしみる〜〜〜っ!」
 隣では山本が頬を押さえて色々耐えていた。
 知覚過敏の方は決して真似をしないでくださいネ☆

「次は卵いってみっか」
 グィドが卵をガブッと一口噛むと、冷たい塊が弾けて口内を襲った。
「ぐはっ、冷たっ!! はっ」
 言ってしまった。
 雫がその赤い大きな瞳でじーっとグィドを見つめる。
「ラーメ、アウトー!」
「し、しまったあー!」
「ですが、まだ途中なのでお仕置きは全部食べ終わってからまとめてしますね」
 それもまた怖い。
 とにかく食べなければこのゾーンは終わらない。
「あ、皆さん飲み物もありますから」
 嫌なタイミングで雫が差し出した飲み物は。
 氷の粒が満載のフローズンドリンクだった。タピオカドリンクとかによく使うぶっといストローが刺さっている。
 嗚呼、今が真夏だったなら。どれだけこのドリンクが美味しそうに見えることだろう。
「鬼かあんたは!」
「全部残さず完食してくださいね」
 山本の遠吠えなど雫は聞く耳持たない。
 いっそのことドリンクでおでんを流し込んでしまおうと山本と滝田は考えた。そしておでんをほおばりドリンクを吸い込んだ二人は……、思いっきりお見舞いされた。
「冷てえぇっ!! 無理無理!」
「冷えっ冷えやん!!」
「はい、山本、滝田アウトー!」
「あーもー! 思わず言っちまった!」
「しゃーないやん!? 出てまうて、これは!」
「二人共、そんなこと言ってないで早く食べた方がいいですよ?」
 一人暢気そうな調子の藍那は、もうおでんを食べ終えてフローズンドリンクを飲んでいるところだった。しかも全然冷たがる素振りがない。
「あんた全然平気そうだな……」
「どんな味覚しとんねん」
「坊主に遅れを取るわけにはいかねえ! 食ってやる!」
 グィドは覚悟を決め気合を入れ直し、残りのおでんとドリンクを一気にかき込んだ!
「くそ、俺らもこれ以上足を引っ張るわけにはいかん!」
 山本と滝田もどうにか全部食べ終えた。

「次のメニューは、山形名物・冷やしラーメンです」
 Rehniが用意したのは、氷の入った当然冷た〜いラーメンだった。
「スープも残さず食べてくださいね? カキ氷と言わないだけ、情けがあると思うのですよ」
「情けも何もあるかい。誰やこんなん名物にしようゆうたんは」
 だんだん滝田の心がやさぐれてきたらしい。
「へえ……、これが冷やしラーメン……。山形にそういう郷土料理があると恋人が言ってたなあ」
 藍那は料理に詳しい恋人のことを思い出しながらほっこりする。
「そういえば何でしたっけ。お豆腐にお醤油かけるだけの料理」
 無邪気な藍那の質問に、全員が黙った。
 藍那に悪気はないのは解るが……、何かモヤっとするものがこみ上げてくる。
「あれ? どうしたんですか?」
「どうぞ、食べてください!」
 藍那の不思議そうな言葉を打ち切るように、Rehniが言った。

 ズルズルズル……

 さっきのおでんでもう『冷たい』と言ってしまった三人は、これ以上余計なことを言わないように黙って麺をすすっている。
「郷土料理になるだけあって、美味しいですね〜」
 藍那だけがラーメンを堪能していた。
 グィドは器を持ち上げ、豪快にスープを飲み始める。

 ゴク、ゴク………ブハッ 大噴射!

「ゴホゴホッ、もう胃が冷たすぎて受け付けねぇって! ――やべっ」
 失態に気付き咄嗟に取り繕う。
「いや、違う言ってない! つめ、『つめこみすぎて』と言ったんだ!」
 だが着ぐるみの二人には通用しなかった。
「ラーメ、アウトー!」
「あー、また言っちまった!」
 Rehniが楽しそうにアウトを突き付ける。悔しがっても後の祭りだ。
「氷さえなければ、ちょっと冷めた普通のラーメンにならなくもないのに……」
 山本もあとは汁だけ、という状態に何とかもってきた。
 氷ごと汁を飲んでいくが、中々減らない。
「もう何で汁が冷たいんだよ!」
「山本アウトー!」
「あ〜……」
 がっくりとうなだれる山本。
「ヤマ……憐れや……」
 滝田がせめてもの慰めのつもりか、相方の肩に手を置いた。

 そんなこんなで全員冷やしラーメン完食。

「さて。罰ゲームですが……、恥ずかしい写真を公開させてもらいます」
 と着ぐるみの内側から雫が取り出したのは、グィドと滝田、山本の写真。
「まずはラーメさん」
 皆の前に見せられたのは、体操着姿で白ソックスに糊を一所懸命付けているグィドの写真だった。
「何でこれが恥ずかしいんだよ!?」
「あるイミ恥ずかしいですね」
 冷静なRehniの意見。
「ああ、これは何だか恥ずかしいな」
「こんなおっさんがちまちま靴下に糊付けてると思うとな」
「女子みたいな気遣いですね」
 皆の言葉にグィドは何だか本当に恥ずかしくなってきて、
「恥ずかしくない! 恥ずかしくないけど、もうやめてくれ〜〜〜っ!!」
 絶叫してしまうのだった。
「次は山本さんと滝田さんです」
 山本は教室で手鏡を見て髪の毛を気にしているような写真で、滝田はクラスメイトに変顔している写真だった。
「山本さん、ナルシストなんですか?」
 と藍那。
「ちょ、おま、こんなのいつ撮ったんだよ!?」
「秘密です」
「雅斗の坊主は全くウケてないな」
「これは普通に恥ずかしいですね」
「あーもう分かったからええやろ! はよしまってくれ!」
 山本と滝田は少しの間顔だけ暖かかった。

 存分に辱められ、次はRehniのゴムパッチンだ。今回はグィドと山本、二人いっぺんにパッチンされる。
「うぅ……」
「このくらい、耐えてみせるぜ!」
 ゴムを咥えた山本はすでに顔が嫌そうに歪んでいるが、グィドは男らしく受けて立つ気だ。
「行きますよ〜」
 二人のゴムの端を持って対面の壁にいるRehniが、ぱっと手を離す。
 えらい勢いでゴムが戻ってきて二人の顔を打つ!
「ぐおっ、いってぇえ!!」
「ぶはっ!!」
 グィドは仰け反り、山本は尻餅を付き転げ回る。
「二人共、見事なリアクションやったでぇ!」
 滝田の泣き笑いのフォロー(?)が虚しく室内にこだました。

●冷々ゾーン
 ここは一番根性を問われるゾーンである。
 入ってすぐの所から、氷水を張った道が次のゾーンの扉まで続いているのだ。ここを通って行くのがルールとなっている。
「おん? なんや改造してあるな」
 滝田の言う通り、彼らが最初に見た時は最後まで同じ広さの道だったが、今は次の扉前が幅も広く高さもあり、小さなプールのようになっていた。
「何か嫌な感じだなあ〜。絶対変なこと企んでるぞ」
 山本にも悪い予感がよぎる。
「さ、水の中に入ってください」
 Rehniと雫がもふもふの手を振って、氷水を見つめるグィド達を急かした。
「くっそー、あの着ぐるみ、だんだん憎らしなってくるな」
 恨みがましくパサランときつねを睨めつける滝田。
「よっしゃ、行くぞ!」
 年長者の漢気を見せようと、グィドが一番に水の中に足を入れた!
「いぃぃーーーーーー、痛ぇ!」
「うーーん、今の『痛い』はアウトじゃないですか?」
 雫がRehniと協議している。
「ちょっ、痛いはセーフだろ、セーフ!!!」
「そうですねー、仕方ありません。ギリセーフにしましょう」
 必死なグィドがよほど憐れに見えたらしい。
 山本と滝田も中に入る。
「うぃーーーーっ!」
「マジで痛えーーっ!」
「わー、手すりないのはちょっと怖いなー」
 藍那も入るが、別の意味で怖がっていた。
「これ本気で足が凍傷になるだろ」
 山本と滝田はどうにか浸かる時間を短くしようと、片足ずつ入れ替えて立ったりしている。そこに強気なグィドの声が。
「ハハハ! 坊主達はまだまだだな!」
「おお、まさかおっさんはもう平気なんか!?」
 期待を込めて滝田と山本が振り向いた。
 ニヒルな笑みを浮かべたグィドが腕組みをして仁王立ちしているが。
「こんなの俺様にかかかかればばばこんなもももん!!!!」
 膝から下はガクガクに震え、高速過ぎて残像が見えるレベルだ。
「……おっさん、言葉と下半身がブレッブレやで」
「そそそそんなことないぞおお!! 心頭滅却すれば火もまた涼し……って違う! 冷えてどうする!!」
「ここに来てノリツッコミとはやるな!」
 ホントに感心してるのか何なのかよく分からない山本のコメント。
「ミニコントが終わったところで、ラーメンはいかがですか?」
「コントじゃねえって――ラーメン!?」
 Rehniにグィドがツッコむと、彼女は熱々のラーメンをこれみよがしに食べていた。
「皆さんの分もありますよ? さっき冷たいラーメン食べたし、熱々のラーメン、恋しいでしょう?」
「ここで休憩タイムか、ありがてぇ……って、知ってるぞ! ひんやりなんだろ!」
 グィドは引っかかるまいと断言する。
「いや、これは分からんて」
 滝田がキラリと目を光らせた。
「そう警戒させておいて、あえて、本当にあったかいラーメンやったら?」
「落ち着け、滝田! そんなわけない!」
「そうだぜ、罠に決まってる!」
 山本とグィドが滝田を止めようとしても、滝田は聞かなかった。
「俺はあったかいラーメンを食べたいんやー! 姉ちゃん、ラーメンをくれ!」
「待て雅斗の坊主!」
「はい、ラーメン一丁〜!」
 Rehniの手からラーメンが滝田の方へ――。
「坊主うぅぅー!!」
 滝田を止めようとグィドが手を伸ばす。
 バシャーーン!!
 止める前にラーメンが滝田にぶちまけられた。
「冷たぁッ!!」
「冷てぇッ!!」
 近くにいたグィドにもとばっちりだ。
 かかったラーメンをどうにかしようとバシャバシャ暴れる二人。
「だから言ったじゃないか!」
 山本は迷惑そうに二人から離れる。
「ちょ、二人共暴れないでください、危ないから……ひゃあ、冷たい――アッ」
 カナヅチゆえにあまり動けずにいた藍那に氷水が跳ね上がり、反射的に口をついてしまった。
「滝田、ラーメ、藍那、アウトー! だけど罰ゲームは最後にしますので」
「あーあ、言っちゃった」
 ちょっと残念そうな藍那。
「何という恐ろしい罠やったんや……!」
「寒さは人を狂わすな……」
 はぁはぁ、と滝田とグィドは疲れた息をついた。

 とにかく進めということなので4人はひいひい言いながら真ん中辺りまで進むと、雫が彼らを一旦ストップさせる。
「ちょっと待っててください」
 雫とRehniは何か作業をしだした。
 アクリル板で道を仕切り、水をせき止める。そして出口方向へ続く側の道を持ち上げ、三段の階段を置き、その上に道を乗せた。傾斜になったので当然氷水は下に流れ、扉前の小さなプールに溜まる。
「先ほど三人が『冷たい』と言いましたので、三段です。この道を下ってください」
 と言いながら坂道にたっぷりサラダ油を流す。
「おま、これぜった滑るやつやん!!」
「回避しようがないだろ!!」
 雫の意図を悟った滝田と山本がやいやい騒ぐが、だからと言ってやらなくていいことになるわけではない。
「しょーがねー、ダッシュで行けばなんとか……」
 グィドが最初に階段に足をかけた。
「おお、おっさん、頼もしいな!」
「じゃあ先頭頼む」
 滝田と山本はこれ幸いとばかりにグィドを押す。
「おい、行くとは言ったが押せとは言ってない! 待て、押すなって!」
「俺らにとって『押すな』はフリでしかないぞ」
「だからフリじゃねえって! おわッ!」

 つるっ

「どわああぁぁ〜〜〜ッ!!」
 グィドはすっ転び、滑り台のように坂道を滑り頭からドバシャーン!! とプールに突っ込んだ。
「冷たぁっ!! 痛ぇ!! 助けてくれぇっ!!」
「ラーメアウトー!」

「ほら、次藍那な」
 山本は後ろにいた藍那を半ば強引に階段の上に押し上げる。
「えぇっ、嫌ですよ、あんなの見せられて! 僕カナヅチなんです、あんなとこ落ちたら溺れちゃいます!」
「大丈夫や、そうなる前に助けてくれるやろ」
 ドン! と滝田が藍那の背中を押した。
「そんなー、うわ、ぅわわっ!」
 つるつるっとつんのめるように坂道を下り、
 バッシャーン!
 藍那も見事にプールへ。
「大丈夫ですか」
 雫が伸ばす手にしがみつく藍那。
「あーつめ……」
「つめ?」
「って、今のは違っ……」
 藍那は慌てしまい、また足を滑らせる。
「しっかり掴まってください」
「きゃ……今のも違います!!」
「ど、どいてくれぇ〜〜っ!」
「あぶねぇえ!」
「え?」
 滝田と山本の声がしたので藍那が道の方を振り向くと、なぜか山本と滝田がもつれ合いながら滑り落ちてくるところだった。
 ズバシャーン!!
「きゃああっ!」
「冷たっ、冷たっ!!」
「アワワワワ……!!」
「山本アウトー!」
 雫の声が響いたが、4人にはもはやどうでもよくなっていた。
「……少々、やり過ぎたでしょうか」
 彼らを見ながら、『仕掛け側で良かった』とつくづく思う雫であった。

 グィド、滝田、山本はガチガチと歯の根が合わず、震えながら立っている。
 さっきの食い倒れゾーンで体の芯から冷え、さらに全身びしょ濡れとあっては無理もない。
「まず前半の罰ゲームということで、滝田さん、ラーメさん、藍那さんがゴムパッチンですね」
 Rehniにゴムを噛まされ、順番にパッチンされていく。
「いっつぅう!!」
「イッターイ」
「これもうぜった血ィ出てるわー」
 冷え冷えの体に痛みは倍に感じられ、グィド達は口元をさするのだった。
「次は私の罰ゲームです。私の場合は、さむいギャグを聞いてもらいます。ラーメさんと山本さん、こちらへ」
 二人は雫の近くに寄った。
「ふとんがふっとんだ! でんわに誰もでんわ〜。このつくえむかつくえ」
 雫は至って真顔で使い古されたギャグを披露し続ける。
 二人は笑えもせず、ツッコミもできず、延々二分間聞かされた。死んだような顔になって、なんだかいたたまれない気持ちになった……。

●フリーゾーン
 4人ともすっかり疲れきった様子だ。
「最後は、ちょっとした言葉遊びをしてもらいます」
 雫が言って、作務衣を取り出した。
「これはさむい……失礼、噛みました。さむぃもとい、さむえです。10回言ってください」
 いわゆる十回クイズだ。全員声を揃えて言い始める。
「「さむえ、さむえ、さむえ、さむえ……」」
 実は雫が言い間違えたのはわざとだった。こうして『寒い』という言葉を皆に刷り込んでおいて、言わせやすくするという寸法である。
 十回言い終わると雫は即座に袈裟を見せて問う。
「これの名前は!?」
「け、けさ!」 山本。
「さむい!」 滝田。
「けさだ!」 グィド。
「さむい」 藍那。
「滝田、藍那アウトー!」
「うおぉ、つられて言うてもうた!」
「僕もうっかり」
 この結果に雫は一人うなずき、第二問に入る。
「爪、痛い。爪痛い。つめいたい。これを早口で繰り返してください」
 何を言わそうとしているか丸分かりだ。
 だが4人に拒否権はない。
「「つめいたい、つめいたい、つめいたい」」
「もっと早く!」
「「つめいたいつめいたいつめいたい」」
「つめたい!」
 と言ってしまったのは藍那だ。
「藍那アウトー!」
「あぁ〜、また言っちゃった」
 の割に、藍那は飄々としている。このハートの強さは結構アイドル向きかもしれない。
「では滝田さんと藍那さんは罰ゲームです」
 二人が雫の近くに来ると、雫はまた真顔で話し出す。
「ある人が言いました。『私の家はすごく狭かったの。どれくらい狭かったかって? 横に歯磨きできないくらいよ』」
「へー……」
「それは狭いですね。でもそんなんじゃ歯磨き以前に普通に住めないと思いますけど」
 脱力したような滝田と、真面目に聞いている藍那。さらに雫のジョークは続く。
「ある男が友達に相談しました。『俺将来画家になろうか小説家になろうか迷ってるんだ』するとその友達は『画家になれよ』と言うので、『俺の絵を見たのか?』と男が聞き返すと、友達は『いや、君の小説を読んだのさ』と答えましたとさ」
「……? 今のはどういう意味だったんです?」
 よく理解できなかった藍那が滝田に尋ねる。
「俺に聞くなや……」
 滝田には答える気力もなかった。

「これで最後の仕掛けとなります」
 Rehniの言葉に、皆の顔が明るくなる。
「皆さん少し離れてください」
 皆と距離を取ってから、Rehniは4人の前にスキル『生体レンジ』を放った。
 プラズマ火球が炸裂し、一瞬だけ部屋を温める。
「おおっ、ちょっとだけどあったけぇ!」
 とグィドが喜んだのも束の間、すかさずRehniは全員の頭上から氷水を浴びせかけた!
「ぬああぁあつm……言ってない言ってない!! 寒暖差攻撃はずりぃ!」
「それが狙いですから」
 危うく言いとどまったグィドに、Rehniはしれっと言ってのける。
「つめっとぁあぁーっ!!」
「どっふぁああ!!」
「ひゃあぁ!」
「山本アウトー!」
「ちくしょーーーッ!!」

 最後の最後に、山本はゴムパッチンを食らうのだった。

●勝負の後は
「「結果発表〜!」」
 雫とRehniが声を揃えて言い、拍手する。
 全てのゾーンと仕掛けを乗り越えた4人の勇者達が、緊張の面持ちで横一列に並んでいる。
「えー、言った回数15回、言わなかった回数25回で――、我慢側の勝ちです!」
 雫の発表に4人はわっと歓声を上げた。
「やったな!! 我慢したかいがあったぜ!」
 とグィドは三人の背中をバシバシ叩く。
「せやなー、皆ようやったで!」
「罰ゲームにも耐えたしな!」
「やっぱり勝つと嬉しいですね!」
 藍那の笑顔は、他三人と同じ体験をしてきたとは思えないほどの涼やかさだ。
「皆さんお疲れ様でした。教室でねぎらいのラーメンを振舞いますので、着替えたら集合してくださいね」
 Rehniが素敵な提案を持ちかけると、藍那以外の三人はえっと一瞬驚いた。
「それはまさか、また冷たいラーメンじゃないよな?」
 ちょっと顔を引きつらせながらグィドが聞く。
 さっきまでの罠をよほど引きずっているらしい。
 Rehniはクスリと笑った。
「大丈夫です、今度は本当に熱々のラーメンです」
「本当か!? よし、そうと決まれば皆、とっとと着替えてこようぜ!」
「おう!」

「味噌と醤油、どっちが良いですか?」
「Rehniの嬢ちゃん、俺は醤油の方で頼む!」
「僕は味噌がいいな♪」
「俺も味噌頼むで!」
「じゃあ俺は醤油で」
 という訳で、暖かい教室で熱々のラーメンを食べるという至福の時を満喫するグィド達。
 Rehniが手際良くちゃちゃっと作って、雫が皆の机に運んだ。
「はぁぁ……やっぱり我慢はよくねぇぜ……」
 グィドはラーメンを丼ごと抱え込むようにして冷え切った身体を温める。
「うわ、熱い」
 藍那は器に触れた指を引っ込めた。
 さっきまで凍えるような寒さの中にいたせいか、よけい熱く感じるのかもしれない。
 『氷結晶』で氷塊を作り出し、ラーメンの中に入れた。
「えいっ」
「おいおい湊の坊主、そんなことしちまったらせっかくのあったかラーメンがぬるくなっちまうじゃねぇか」
 グィドがもったいないとばかりに言う。でも藍那は無邪気に答えた。
「僕、猫舌なんです。だからこれでいいんですよ」
「……坊主は変わってんな……」

「やっぱラーメンはあったかいのに限るな」
 山本はほぅー、と満足気に息を吐いた。
「せやなー、冷たいラーメン攻撃は思ったよりきつかったわ〜」
 滝田は今度は醤油ラーメンをおかわりしていた。
「リベンジや第二ラウンドはあるのかな?」
 藍那が二人に尋ねてくる。
「次は仕掛ける側になってもいいかもしれないなー」
 にっこり。
 それは可愛い顔に似合わず、黒さを感じさせる微笑みだった。
 そんな藍那が考える仕掛けを想像して、滝田はぶるっと震える。
「い、いや、まだそんな予定はないけど……」
「次回があったら知らせてください。絶対に参加者になりたくないので理由を付けて辞退しますから」
 雫が断固として言った。
「俺らはその絶対になりたくない参加者だったんだけどな」
 皮肉混じりに山本が乾いた笑いをし、
「けど、」
 と立ち上がる。滝田も立ち上がり、二人して皆に向き直った。
「皆のおかげで楽しかった! ありがとな!!」
「皆おおきに!」
 ぺこっと一礼。
 一同拍手。

 そして『寒い』と言ってはいけない学園対決は幕を閉じたのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 豪快系ガキメン:79点・グィド・ラーメ(jb8434)
重体: −
面白かった!:3人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
豪快系ガキメン:79点・
グィド・ラーメ(jb8434)

大学部5年134組 男 ダアト
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA