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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/01


みんなの思い出



オープニング

●原稿の修羅場
 山野由梨香は漫研に所属する久遠ヶ原学園高等部の二年生。
 彼女が今猛烈に襲い来る眠気に耐えながら立ち向かっているのは、天魔ではなく同人誌の漫画原稿だった。

 ここは一般人の友達であり同人仲間の裕江の家で、原稿の締切りに間に合わないから手伝ってくれと言われて来たのが、昨日の午後5時頃だ。それから眠らず原稿を手伝い続け、約34時間が過ぎた。
 正直眠い。現在の時刻はA.M 3:00。寝たのは昨日の昼頃に2時間ほどの仮眠だけ。それ以外はずーーっと原稿を手伝っていた。栄養ドリンクもコーヒーも限界である。
「うーーー……はい、このページトーン終わったよ」
「ありがとう〜。うん、オッケ。次これお願いね」
 山野が原稿を渡すと、裕江も腫れぼったい目で次のページを寄越してくる。
「残りどれくらい?」
 コーヒーをすすり山野が尋ねた。
「えーとね……、今あたしがやってるのを入れて、12ページかな」
 完成原稿を数えて順番に並び替えながら裕江が答える。
 ペン入れとベタは全て終わっているのであとはトーンを貼るだけなのだが、これが中々にめんどくさい作業だ。ペン入れは好きだがトーン貼りは嫌いという人も少なくない。
 しかも裕江は凝り性な方で、時間がないというのに妥協せず、アニメ貼りでほとんど白い部分がないくらいの貼りっぷり。
 そんな貼り方だから当然1ページにおける作業時間はかかる訳で、山野自身も久しぶりにこんなにトーンを貼ったっていうくらい貼りに貼った。でもまだあと12ページも残っているなんて。
 気が遠くなりそうだ。
「明日、というかもう今日だけど、の午前中に郵便局に出さなきゃいけない訳だから、あと大体8時間半くらいか……ギリギリだね」
「そうだね。ウチから郵便局までチャリで飛ばして3分、待たされるかもしれないのを考慮して、12時10分前には出たいね」
「分かった」
 そしてまた二人して黙々と作業。

「あ、由梨香ここ貼り忘れてる」
「え、どこ?」
「このキャラの頭とこのコマの背景」
「えー、こんな細かい所も貼るの〜?」
「ごめん、なるべく手は抜きたくないんだ、お願い! もうちょっとだから!」
 完成させたと思った原稿を突き返されて、山野はしょんぼりしながら指定番号のトーンを探す。
「……もー、何でこのキャラはこんなに頭ギザギザしてんのよー! 切るのめんどくさいじゃん!」
 とうとう愚痴りだした。
「アハハー、小人さんでも手伝いに来てくれないかねぇ〜」
 裕江も虚ろな目で言い始める。
「スーパーアシスタントの電話番号、誰か知らないかなあ〜」
「由梨えもぅん〜、何か原稿がパパッと終わる道具を出してよ〜。こう、撃退士のチカラでさ」
「あんたアウルを何だと思ってんのよ。スタ○ドじゃないんだから」
「いーねぇ! オラオラーって。あの漫画家のスタ○ド欲しい〜ッ!!」
 あまりに寝てないので二人共テンションがおかしくなっている。
「あーもーあかんわー、集中力が落ちてる。ちょっと休もうか」
 と裕江が立ち上がった時、突然部屋の網戸をすり抜けて小人が現れた。
「えッ!? 小人!?」
 背丈が1mほどしかない、黄色や緑の色鮮やかな服を着た子供みたいな三人組が、楽しそうに裕江の部屋を飛び回っている。
「なにコレ? あたしとうとう幻覚見え出した?」
 山野は自分の目をこすってもう一度よく見る。この部屋は二階にあるとか、この三人は網戸を透過してきたとかまで考えが及ばなかった。
 三人はそれぞれ赤、緑、茶色の三角の帽子をかぶっており、先の尖った靴やなんかも、まるで本当に童話に出て来る小人のようだ。
 小人たちはキャッキャとはしゃぎながら、まだ未完成の原稿を全部手に取る。
「えッ、本当に手伝ってくれるの!?」
 眠っていないせいか、冷静な判断力が失われている裕江が都合のいい解釈で期待を込めて彼らを見ると――、小人の顔が凶悪に変貌した。
 目が釣り上がり、白目と黒目が逆になった黄色い瞳、ニヤリと笑った口からは鮫の歯のようなギザギザの歯がのぞいていた。
「ひぃっ!!」
 裕江は思わず後ずさる。
「こ、こいつらは天魔だよ!」
 山野もようやく事態を把握し、即座に立ち上がった。
 小人たちはそれぞれ原稿を手にしたまま、今度は網戸を破って外に出て行ってしまった。
「あぁっ、待って! その原稿はまだ終わってないのに!!」
「あたしが追いかける! 裕江は学園に通報して!」
「わ、分かった!」
 山野も窓から裕江の部屋を飛び出した!

 三人組はキャッキャと笑い、原稿をふりふり、住宅街を行く。
「待てーっ! 原稿だけは返せーーっ!!」
 山野は必死になって小人たちを追いかけた。
 なぜならば……、締切りに間に合わないからという以上に、その原稿はちょっとアレな内容だからだ!
 子供向けテレビアニメのパロディなのだが、敵側のおっさんが主人公の少年を好きすぎて終始えっちぃことをしようと企んでるという腐った女子のドリー夢と下ネタが満載☆の、お子様と非ヲタの人には決して見せられない15禁くらいにはなるであろうエロギャグ漫画なのだ!!
 小人たちが持って行った未完成のページの中には、少年の半ズボンからのぞく生足にハァハァ言ってるおっさんが描いてあったりする。
 人目につくような所にバラまかれでもしたら困る。学園の生徒が来てくれても、原稿だけは見られないように回収しなければ。

 追い付いた山野が赤い帽子の小人から原稿を奪い取ろうとする。と、緑の小人が邪魔をして、茶色の小人が鋭いナイフで山野に切りつけようとした。
「わっ!? 意外と凶暴ね!」
 間一髪ナイフを避けたが、いい連携攻撃をしてくる。
「ちょっと、原稿振り回さないでよ!! 破れたりしたら描き直しになっちゃうじゃない!!」
 原稿を気にして思い切った攻撃ができない山野に、赤帽子の小人がぴょーんとジャンプして息を吐きかけた。
 その息を吸ってしまった山野は途端に眠くなり、ふにゃふにゃとその場に倒れ込む。
「こらー……、げんこ、かえ、せ……ぐぅ」
 それまでの眠気もあって、すっかり眠ってしまったのだった。

●久遠ヶ原学園依頼斡旋所
「はい、久遠ヶ原学園です」
 受付の夜間〜早朝バイトの男子生徒が電話に出ると、裕江の大慌てな声が飛び出した。
『あっ、あの、天魔が出たんです! 三人の小人さんがあたしの原稿持ってっちゃって! お昼前までに終わらせないといけないんです! 原稿を取り戻してください!』
「……小人さん?」
『そうです。手伝いに来てくれたのかと思ったのに天魔だったんです〜! 今あたしの友達の撃退士が追いかけてるんですけど、原稿が汚れたり破れたりしたら終わりです! 早く取り返してください!』
「分かりました、詳しい場所と、その追いかけている撃退士の名前を教えてください」
 場所と山野の名前を教えてもらい、男子生徒は通話を終えた。
 初めは何か嫌がらせか間違い通報かとも思ったが、天魔出現というのは本当のようだ。よほどその原稿が大事らしいということと、通報者が急いでいるということだけはものすごく伝わってきた。
 今は明け方。住宅街なら、早起きの一般人と天魔が遭遇する可能性もある。

 彼女のためにも、男子生徒は急ぎ小人天魔退治の依頼を張り出した。



リプレイ本文

●夜明けの住宅街
 撃退士達は明け方の住宅街、通報のあった裕江宅の前で作戦会議をしていた。
「強さ的にはさほどでもないけれど、原稿を持って行かれてるのが厄介ね」
 蒼波セツナ(ja1159)が囮用の原稿用紙の束を持ち直す。
「完成寸前の原稿、何とか無事に取り戻してあげたいわ。徹夜して原稿を仕上げるのは、大変だからね……」
 蒼波は裕江の原稿が無傷であることを祈った。
「現状は童話の悪戯妖精のような被害だけだが、いつ障害沙汰になるかも分からんからな。速やかな回収と共に速やかに排除してやろう」
 アイリス・レイバルド(jb1510)も半眼無表情ではあるが天魔退治への意欲を見せる。
「急いでいるっていうことは、入稿間際?」
 裕江の事情を察した礼野 真夢紀(jb1438)は標的を誤って原稿を攻撃したりしないよう、ナイトビジョンを装備した。
「ふむ、時間との勝負……かね?」
 麻生 遊夜(ja1838)が依頼の性質を再確認すると、すぐ側にいたヒビキ・ユーヤ(jb9420)がこくりとうなずく。
「……眠い。早く終わらせるのは、目的にも、一致してる」
「班に分かれて捜索しましょう。私も囮に学園長ブロマイドを持ち歩いてみましょうか」
 外見は麗しい乙女、でも中身は男という女装男子のアルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)が服のポケットからキメ顔の学園長ブロマイドを取り出した。
「じゃあ俺は麻夜、ヒビキと上空から探そうかね」
 麻生が言うと、すかさず
「はいはーい♪ボク達にお任せだよー」
 と来崎 麻夜(jb0950)が手を挙げた。
 あとは蒼波と礼野、アイリスとアルベルトが組んで、捜索をすることになった。
 皆で携帯番号を交換し、常時複数通話で繋げておくことで連絡手段を確保。さらに麻生が蒼波とアイリスに『手引きする追跡痕』を撃ち込み、他二班の位置を把握しておくようにした。
「二人共すまんな、ちっと上まで頼むわ」
 麻生が娘達に協力を求める。
「ん、こっちに、おいで?」
 ヒビキが手を広げて麻生の片側から寄り、来崎も嬉しそうに反対側から麻生に抱きついた。
「んふふ、役得役得―♪」
 翼を現した二人にしっかり抱きつかれた麻生は、そのまま舞い上がり小人探しに向かった。
「私達も行きましょう」
「了解」
 麻生達が飛んで行くのを見届け、蒼波達も行動開始した。

 蒼波が懐中電灯で周囲を照らし、礼野と一緒に一般人を装いながら小人を探す。
「……指輪とか符とか、軽くて小人が持ち運びやすいものが良いかな?」
 礼野も蒼波のように分かりやすい物を持ち、二人でちらつかせていた。
 礼野は自分も同人誌の製作経験があるためか、原稿が裕江にとってどんなに大事か理解していた。ゆえに、小人を見つけても原稿に被害が及びそうな攻撃はしないでおこうと考えているのだが……、それをのぞく攻撃となると、スキルがかなり限られてくるのに気付いた。
「……こうしてみると陰陽師って、意外に過激な術が多いのね……」
 それでも礼野は原稿最優先を心に決める。
(どんな原稿なのかしら……気になるわ……)
 蒼波は口には出さないものの、ちょっとアレな内容らしいという原稿の中身が密かに気になっていた。

「私は上から『生命探知』を使おう。この時間帯なら人通りも少ないし、スキルと上空からの視点で互いの死角を補えば、すぐに見つかる」
「オッケー。じゃあ手分けして探しましょ」
 アイリスの提案で、アルベルトは『夜目』で地上から、アイリスは『陰影の翼』で飛び俯瞰の視点で探すことになった。

「うあー、朝が来るー。ん、早く終わらせて帰ろう」
 日光嫌いな来崎が、これから明けてこようとしている空を見て嫌そうな声を上げる。
「特徴は、赤、緑、茶色の帽子の、小人」
 ヒビキ、麻生、来崎はナイトビジョンで視界を確保し、それぞれがお互いの死角をフォローするように別方向を向いて捜索していた。
 麻生は『索敵』と『テレスコープアイ』も併用し、何者をも見逃さない構えだ。
「あそこに人がいる。麻夜、ヒビキ、降りてくれ」
 まだいくらも行かないうちに、麻生は道端に倒れている人を見つける。
 それは完全に熟睡している山野だった。
「起こした後の行動は大体読める……終わるまで寝ててもらおう」
「そうだね。それじゃ」
 麻生の意見に乗っかった来崎は寝袋を取り出し、ちゃっちゃと山野を詰め始める。
「風邪ひいちゃ大変そうだしねぇ、忙しいみたいだし、終わったら迎えに来るから我慢してね!」
 道の真ん中に置いておくのも危ないので、端に寄せておいた。
 ――とそんなことをやっていると、新聞配達のバイクが、家々に配達しながらこちらにやって来る。
「今こっちに来るのはマズイな。ヒビキ、状況説明して護衛を」
「ん、了解」
 ヒビキは配達員を呼び止め、理由を話し学生証を見せた。
「天魔が!?」
「そう、だから、避難していて。敵を見つけるまでは、守ってあげる、よ?」
「わ、分かりました」
 引き返すバイクにヒビキが付いて行く。
「ボクはちょっと、護衛には向いてないからねぇ」
 来崎は再び麻生を抱え、上空からの探索に戻った。
 麻生が『テレスコープアイ』を3回目に使った時、三人組の小人を発見した。
「いたぞ、麻夜、10時方向に頼む!」
「うん!」
 それから素早く他2班の位置を確認、指示を出す。
「敵発見、3人まとまってる! 蒼波班はそこから6時方向に、アイリス班は3時方向に向かってくれ! 今奴らはアイリス班の方に進んでる!」
『了解!』
 繋いだままにしてある携帯から聞こえ、麻生と来崎も急行した。

 アルベルトが麻生の指示した方向に走っていると、のんきに飛び跳ねつつ移動している小人が道の先に見えた。
「いた!」
 すぐにモーゼル・ライエンフォイヤーを構え、『マーキング』を撃ち込む。
 撃ち込まれて小人たちはアルベルトに気付いた。陽気な顔だったのが、途端に凶悪になる。
 三人がアルベルトに襲いかかろうとした時、上空からアイリスが駆け付けた。
 ウォフ・マナフを振り下ろし、緑色の帽子をかぶった小人の背中にダメージを負わせる。
 緑の小人はキッと振り向き、アイリスもその青い瞳で小人と視線を合わせた。アイリスの瞳は深い瑠璃色に染まり、『瑠璃色の邪眼』から放たれる眼力は小人を『束縛』にした。
「私と視線を合わせた迂闊を呪え。ちょこまかと動くなら足を止めてやるだけだ」
 続けて、『Shadow Stalker』で気配を消しいつの間にか接近していた来崎が『Reject All』を発動。
 影が形を取ったかのように鎖が現れ、来崎自身の体にも鎖の痣が浮かび上がる。黒い鎖は茶帽子の小人に巻き付いた。
「ハァイ♪返してもらいに来たよー。動いちゃダーメ♪」
 赤い帽子の小人は来崎の束縛攻撃を逃れ、別方向に逃げ出す。
 しかし運悪く蒼波と礼野に鉢合わせした。出会い頭に噛み付こうとするが、二人はさっと左右に分かれて避ける。
 その背後に礼野がキューピッドボウで射かけ、蒼波が『連環なる裁き』を使用した。二重の呪文で呼び出された罪人の幻影が、鎖で小人を縛り付けた。
 小人は三人とも『束縛』になる。
「連携プレーさせないように、一人一人引き離して倒そう!」
「「了解!」」
 来崎の作戦に皆が同意し、小人たちの間に入るように陣形を取る。

●茶色帽子の小人
「お前はこっちだ」
 途中で降ろされた麻生が合流し、茶帽子の小人に『専門知識』で攻撃力を上げた『霧夜の絢爛舞踏』をお見舞いする。
 霧を引き連れまさに踊るような動きでの三連射は、命中率を犠牲にした技のため全弾は命中しなかった。だが、小人の原稿を持つ手を緩めることに成功した。
「原稿いただき♪」
 背後から小人に近づいていた来崎が、すかさず原稿を奪い返した。
 怒った小人はナイフを出し、麻生に切りかかる。
「おっと」
 ナイフを余裕でかわす麻生。けれども、直後に吐かれた『睡眠』の息を吸い込んでしまった。
「ッ、ヤベェ……」
 強烈な眠気が麻生を襲い、がくりと膝をついてしまう。そこへ小人のナイフが!
 その時何かが飛んで来て、小人の目に当たる。おかげでナイフは麻生の腕に浅い傷をつけただけですんだ。
 上空のヒビキがコックリの硬貨を投げたのだ。
「やらせないのよ」
 『神降ろし』で能力を高める。幼いその顔は額に白角が生え、瞳は金に、戦化粧が浮かび別人のようになっていた。
「ふふ、うふふ……さぁ、遊ぼう?」
 クスクスと笑いながら宙返り、急降下キック『雷打蹴』で小人に突っ込む。
「ここにいるの、いるのよ? さぁ、おいで? 相手をして、あげるから」
 『注目』効果で小人はヒビキを狙いナイフを突き出してくる。
 ヒビキは硬貨を弾きナイフを逸らすが、引っ掻かれてしまった。それでも構わずヒビキは小人に攻撃し、気を引き続ける。
「良い子、良い子……隙だらけ、なのよ」
「急げってオーダーなんでな……すまんが、さよならだ」
 麻生の銃を持つ腕に赤い光が走り、ブレイジングソウルの銃口から黒い光を纏った弾丸が発射される。
 『光堕とす者』は小人の胸に命中。
「貴方はここでさようなら、だよ。それじゃ、良い旅を」
 間を空けず来崎は『Downfall Gloria』を使った。黒く染まった手の中にある赤黒い拳銃で、消滅と憎悪の弾丸を放つ。
 それは過たず小人の額を貫いた。

●赤帽子の小人
 赤い帽子の小人は原稿を持った腕を振り回した。
「下手に攻撃をしたら原稿が傷つくかもしれないわね」
 蒼波が躊躇していると、礼野がすかさず構えた。
「まかせて」
 『蠱毒』で蛇の幻影を生み出す。蛇はうねり小人の首に咬み付き、『毒』を与えた。
「今ね!」
 毒を受け生命力を奪われている小人から、蒼波は原稿を取り上げる。
 せっかく盗った物を奪われいきり立った小人は、蒼波の原稿用紙に目を付けた。
 元々囮用なので、盗られても構わない。蒼波はむしろ小人が原稿用紙に気を引かれている隙に攻撃しようとした。
 小人が住宅の塀に飛び移りながら蒼波目掛けて襲ってくる。蒼波が原稿を小人に投げ付け、視界を遮り邪魔をした。すると小人が息を吐く。
「うッ!?」
 蒼波はかわしきれず息を吸ってしまう。だが、眠気を堪えることができた。
「大丈夫ですか!?」
 礼野が『吸魂符』で小人の魂を少々吸い取る。
「平気よ!」
 蒼波は小人から距離を取って、召炎霊符から火の玉を飛ばした。
 体を焼かれ焦った小人は、仲間の所に行こうとする。彼らは三人いてこそ、能力を発揮できるのだ。
「逃しませんよ」
 礼野は自分の毛が伸びて小人に絡みつく――という幻影を見せ、小人を『束縛』することに成功した。忍法『髪芝居』だ。
 移動できなくなった小人に、蒼波は『残虐なる火刑』の呪文を唱える。特殊な詠唱方法の呪文で魔法陣から巨大な火の球が出現した。
 火球は小人に降りかかり、その体を焼き尽くすのだった。

●緑帽子の小人
 アイリスは『束縛』にかかっている小人に向かって行った。
 原稿に当てないように気をつけつつ、鎌を横に引く。
「やると決めたら振り抜く。下手に躊躇すれば逆に狙いが乱れるからな」
 そして勢い良く一文字に振り抜いた。
 小人はぴょいっと飛んで回避し反撃、アイリスの腕に噛み付く。
「つッ!」
 歯型に沿って血が流れたが、大したダメージではない。
「気を付けて!」
 アルベルトが援護射撃をし、小人を離れさせた。
「殺して奪い返した方が早いな」
 アイリスの背後、黒い粒子の人影が揺らめいた。
 素早い打ち込みで小人を翻弄する。原稿を持った腕を集中的に攻撃し、とうとうその手から離させた。
「やった!」
 アルベルトがすぐに原稿を回収した。
 小人は顔を歪ませて、アイリスに『睡眠』の息を吐きかける。
「!」
 アイリスは咄嗟に息を止め、飛び上がり息の効果範囲から逃れた。
「これでも喰らいなさい」
 アルベルトが『Bullet Maiden【諧謔曲】』を放つ。
 小人の胴体に当たり、小人がものすごい形相でアルベルトに飛びかかろうとする。
 その爪が届く前に上からアイリスの大鎌が脳天に突き立てられ、同時にアルベルトの『Bullet Maiden【嬉遊曲】』の鈍色に輝く弾丸が発射。
 魔弾は小人の顔のど真ん中を撃ち抜き、もう恐ろしい顔を見ることはなくなった。

●締め切りまで
「――はッ!」
 山野が起こされた時、小人はすでに退治されていた。
「原稿ッ、原稿は!?」
「大丈夫、無事に取り戻しましたよ」
 礼野が皆が取り戻した原稿をまとめており、山野に渡す。
「ああ、ありがとう〜! えっと……中、見た?」
 恐る恐る尋ねる山野に、礼野はにっこりと笑う。
 みるみるうちに山野の顔が真っ赤になったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「あッ、今何時!?」
「午前5時15分になるところだな」
 麻生が答えると、山野は
「まだ間に合う! 急がなきゃ!」
 ダッシュで裕江の家に戻った。寝たことで体力が少し戻ったようだ。

 裕江も原稿が無事に戻ったお礼もそこそこに、早速山野共々作業に取り掛かる。
「私自身は文字書きですが、一通りのアシスタント経験はありますのでお手伝いしましょうか?」
 礼野が申し出ると、アイリスも
「締め切りが近いなら手伝うよ」
 と言ってくれた。
 さらに来崎とヒビキも手伝いに参加してくれることになり、二人は歓喜した。

「ん、理解した」
 ヒビキはこういう世界もあることを受け入れ、黙々とトーンを貼っていく。
「どんな内容なんだ?」
 麻生が覗き込もうとすると、来崎が見えないようにガードする。
「ん、見なくても大丈夫だよー?」
「ちょっとくらいいいだろ?」
「どーん!」
 来崎の目潰しがヒット!
「目が、目がぁぁぁぁぁ!?」
 目を押さえてのたうちまわる麻生に、ヒビキが『ライトヒール』をかけていた。

「誰かコーヒー飲む?」
「あ、あたし欲しいです!」
「オッケー」
 アルベルトは男装になって、雑用を引き受けていた。
「はい、コーヒー。ふーん、『たっくん可愛すぎ〜、ペロペロしたい〜』」
「はああッ、音読しないでください〜!!」
 裕江が慌てて原稿を隠すが、完全に無駄である。
「15禁くらいですかねぇ。いいんじゃないですか別に。私? 耐性ありますから。腐女子ですし」
 礼野が平然と言ってのける。
 中学生女子に15禁原稿を手伝わせておいて何だが、ここに強者がいた。
 アイリスもアレな内容にも全く動じず、バリバリと頼もしく働いてくれている。

 皆の協力のおかげで、原稿は予定より3時間も早く完成した。
「皆さん、本当に色んな意味で助かりました! ありがとうございました!!」
 裕江と山野は家の前でそろって頭を下げる。これから郵便局へ行くのだ。
「それじゃああたし達はこれで!」
 朝日の中、自転車で遠ざかってゆく二人。
「間に合ったみたいで良かった」
 麻生の言葉に皆がうなずく。
 晴れ晴れとした達成感で、二人を見送る撃退士達であった――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

憐憫穿ちし真理の魔女・
蒼波セツナ(ja1159)

大学部4年327組 女 ダアト
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
芽衣のお友達・
礼野 真夢紀(jb1438)

高等部3年1組 女 陰陽師
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
風を呼びし狙撃手・
アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)

大学部6年7組 男 インフィルトレイター