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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/01


みんなの思い出



オープニング

●とある神社の林には
 日本古来から藁人形という物は色々な儀式などに使われてきた。特に『誰かを呪うため』というのは今でもよく聞く使用法だ。
 かと言って実際に誰かが藁人形に五寸釘を打ち込んでいる姿など、そうそうお目にかかれるものではないが――、この神社の林の中には、そうやって誰かを呪ったと思われる藁人形が木に打ち付けられているらしい。
 地元では夜中に神社の前を通ると、カーン、カーンと釘を打つ音が聞こえてくる、というのが昔からのもっぱらの噂だった。
 今は更に尾ひれが付いて、

 『実際に音のする方を探してみれば、まさに呪い真っ最中な女がいる。白装束をまとい頭には蝋燭を巻き付け、髪を
  振り乱して呪いの言葉を吐きながら藁人形に釘を打ち込んでいる。
  その女に気づかれると自分も木に磔にされる』

 というのが広まっていた。
 神社自体は古く由緒のある立派なもので、地元の人は皆ここで初詣をしたり七五三などの行事をしたり、時には結婚式やお祓いを頼んだりもしている。
 そういう神社なのに――、いやそういう神社だからこそ、呪いの効き目もあると思われているのかもしれなかった。

 そして、そういう怪しげな噂は得てして若者の心をくすぐるのだ。

 大学生風の青年が三人、神社の境内へと至る石段の前に車を停めて降りてきた。
 時刻はもうすぐ丑三つ時。
「げっ、こんなに長い階段上んの!?」
 懐中電灯で石段を照らした一人、ヨシが言った。
 石段は300段ほどあり、その上に鳥居が建っている。
「いやなら帰ろうぜ。元々お前らが言い出したことだし、俺は正直行きたくないし」
 運転してきたケイが突き放すような口調で応えた。彼はいわゆる『視えてしまう』体質で、友達の二人に請われて渋々付いて来ただけだ。
 地元民であるケイは昔からこの神社を知っている。噂を本気にしている訳ではない。でも神社の方はどことなく人を圧する雰囲気があり、ふざけたことやいたずらをしようものなら本当に罰が当たる、と信じていた。
 今日は大学の友人であるヨシとムタが泊まりがけで遊びに来ており、どこからか呪いの噂を聞きつけて面白がった。ケイが視える体質なのも知っているため、実際に見に行こう、ということになってしまったのだ。ケイにとっては全くもって楽しくない展開だった。
「まあまあ、せっかく来たんだし、行ってみようぜ!」
「しゃーねーな。行くか」
「ほらケイ来いよ。お前が来なきゃ意味ないじゃん」
「……分かったよ」
 ケイも結局石段を上り始めた。

 神社は山の上に建っていて、石段の両側はうっそうとした林だ。何が潜んでいても分からない。
 三人はヨシの照らす灯りを頼りに階段を上り、ようやく頂上へ到達した。そこから石畳の参道が50m程続いた先に本殿がある。
 神社の敷地は真っ暗で、周りの様子はよく見えない。
「あー疲れた〜!」
「あっちぃー」
 ヨシとムタは神社の雰囲気などお構いなしだが、ケイはどことなく居心地の悪さを感じていた。
(やっぱり肝試し的な感覚でここに来ちゃいけなかったんだ)
「お、丑三つ時を過ぎたぜ」
「噂では、藁人形を打ち付ける音が聞こえるんだろ?」
 三人は耳を澄ます。
 ……何も聞こえない。時折そよ風で木々の梢がカサカサする音くらいだ。
「……ま、そうだよな」
 ちょっと残念そうにヨシがため息をつく。
「ケイ、お前霊感あるんだろ? 何か感じないのかよ?」
 ムタは余程何か結果が欲しいのか、ケイに聞いてきた。
「いや、別に何も……」
 ケイは首を振った。これは本当だ。
 だいたいあんなのただの噂だろう。木に打ち付けてあった藁人形だって、たまたま誰かが遊び半分でやっただけのことで、語られる度に勝手に話が膨らんでいっただけだ――。
「じゃーそのへん藁人形がないかちょっと探してみよーぜ」
 ヨシが余計なことを言い出した。
「そうだな。もしかしたらそれ以上のモンが見つかるかもしれねーしな!」
 ムタも乗り気になって、二人は取りあえず左側の林に向かって行く。
「お、おい本気でそんなの探すのかよ」
 少し離れて二人の後ろに付いて行きながら尋ねるケイ。
「せっかくだから何か証拠が欲しいじゃん」
 ムタは携帯を取り出し、カメラに収めるつもりだと示した。
 それで本当に何かが写って、それこそ呪われでもしたらどうするのだろうか。
 ケイの心配もよそに、ヨシとムタが林の中に足を踏み入れたその時、林の奥からガサガサ、という音が聞こえた。

●本物が出た!
「なんだ!?」
 三人は足を止める。
 音が急に大きくなり、それは三人の目の前に現れた。
「うわあああ!!」
「わ、藁人形!?」
 驚くムタの言う通り、それは藁人形だった。しかも等身大の。
 右手には通常よりも大きい金槌、左手には人間でも串刺しにできそうな、太くて長い釘がくっついている。胴体は赤黒い染みがいくつか付着していた。顔部分には目も口もないけれど、こっちを見ているということは解った。
「お、おいケイ、これは霊なのか? 俺にもはっきり見えてるけど」
 震え声でヨシが言った。
 ちがう。これは――。
「これは天魔だ!」
 ケイが叫ぶと同時に藁人形が彼らに襲いかかって来た。
「うわあああーーッ!!」
 三人とも一斉に逃げ出す。
「うわっ、やめろ、離せぇっ!! 助けてくれー!!」
 ヨシが捕まったらしい。
 チラとケイが振り返ると、ヨシは藁人形の釘で何度も体をメッタ刺しにされていた。
「うぅっ! ごめん、ヨシ……!」
 それ以上見ていられなくてケイは石段を駆け下りる。
 続けてムタの悲鳴も聞こえた。
 なんということだ。
 ケイは冷や汗を吹き出し恐怖に顔を引きつらせながら階段を下りる。でも足がもつれて早く降りられない。急いで逃げないと次は自分だ。車まで戻れば、逃げきれるかもしれない。
 咄嗟に脇の林に転がり込んだ。
「はあ、はあ、はあ……」
 茂みの中に身を隠していると、石段をあの藁人形が降りてくるのが気配で分かった。
 しばらく石段をウロウロしてから、藁人形は境内へ戻って行ったようだった。
「そ、そうだ撃退士に」
 助けを呼ぼうとようやく思い付き、ケイは久遠ヶ原学園へ連絡した。

 通報してから、ケイはどうにか下まで降りなければ、と考えていた。久遠ヶ原のさっき応対した学生らしき撃退士は『静かにしてそこから動くな』と言っていたけど、助けが来るまでジッとしてるなんて無理だ。怖すぎる。
 なるべく音を立てないように、ケイは下へ移動を試みる。しかし自分は明かりになる物を持って来ておらず、林の中では月の光も乏しい。
 足元がよく見えず木の根につまづき転びそうになって、
「おわっ!」
 思わず声を出してしまった。
 慌てて木の陰に身を隠す。今の声をヤツに聞かれなかっただろうか。耳を澄まし気配を探る。
 もうちょっとした音でも藁人形に見つかるかもしれないと思うと、ケイはそこから動けなくなってしまった。
(助けてください、神様! もう遊び気分で神社に入ったりしませんから、お願いします! 撃退士早く来てくれーっ)
 泣き出しそうな緊張感の中、ケイは心の中で一心に祈るのだった。


リプレイ本文

●人探し
 通報を受け、撃退士達は暗くひっそりとした石段の下に到着した。通報者のケイらが乗ってきたらしき軽の車が路肩にある。時刻はド深夜、いかにも何か出そうな雰囲気だ。
 石段の両側にある林のどこかに隠れているというケイは、さぞ天魔に怯え心細いことだろう。
「やれやれ、それじゃお迎えに行きますか」
 と麻生 遊夜(ja1838)がフラッシュライトを手にした。
「そうね、急ぎましょうか。あまり時間はかけられないでしょうし。まずは携帯番号交換ね」
 新井司(ja6034)が携帯を出すと、全員で番号を交換し、複数通話で常時繋げておくことにした。
 ケイの捜索のため、事前に打ち合わせした通り石段を挟んだ右と左の二班に分かれる。
「さぁ、ボク達の時間だ!\ひゃっほぅ!/」
 太陽の光が苦手で夜を好む来崎 麻夜(jb0905)がゴキゲンに、麻生を追いかけ石段の右に行った。右の林はA班の担当だ。
「好奇心は、猫をも殺す? 大体は、天魔の仕業。それでも、やめれないの?」
 不思議そうに小首をかしげたヒビキ・ユーヤ(jb9420)もA班に入る。
「さーて、ノロイの藁人形というサーバントを退治するお仕事ですよーぅ」
 ててて、とパルプンティ(jb2761)は左側の林のB班に行く。先っぽが毛玉になった尻尾がカワイイ。新井もすでにそこにいた。
「人を呪わば何とやらか。まぁ、俺も誰かしら呪っているのだろうけどな」
 自嘲気味につぶやく牙撃鉄鳴(jb5667)も左に移動した。過去に様々な人間の暗い部分を体験した牙撃は、他人を素直に見られなくなっていた。故に『人』というものを無意識のうちに呪っているのかもしれない、と自分でも思う。
「怖いもん好きもほどほどにせんとなぁ」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)が最後にB班の所に着くと、ナイトビジョンを持っている者はそれを装備し、それぞれ光纏した。
 パルプンティは『夜の番人』を使い視界を確保する。
 新井が皆の準備を確認して阻霊符を発動。
「始めるわ」
 合図を発し、作戦開始となった。

 新井の合図を受けて麻生、来崎、ヒビキは林の中に入った。三人の服装は一様に黒くて、この闇に溶け込んでいる。
 麻生はライトをあちこちに向け、『索敵』で意識を救助者に集中しながら行く。
「連絡ではこの中にいるって話だけど、敵さんももちろん探してるだろうねぇ」
 来崎が麻生の後ろで暗がりに目を凝らした。敵より先に見つけなければならない。さもなければ惨劇だ。
「目立てば、敵が来る? こっちに気が向けば、救助対象は、大丈夫」
 ヒビキが麻生に問いかける。
 救助者の安全を優先するために、まず敵を自分達におびき寄せよう、というのだ。
「それはいいな。声でも出してみるか」
 麻生は林の奥に顔を向け、大きめの声で
「助けに来たぞ! 近くに行くまで動くなよー?」
 わざと敵にも知らせるように言い、ガサガサと音を立てて進んだ。
 これでケイが見つかれば良し、敵が来ても戦えばいい。できれば先に敵を確認しておきたいところだ、と麻生は思った。

「え〜とですねー。通報者が一度は自力で逃げようとしてたなら、階段の近くに隠れてる可能性が高いですよーぅ」
 パルプンティが自分の考えを述べてみる。
「私もそう思うわ。通報時点から多少動いてもそう遠くへは行けないでしょうから、隠れられそうな茂みを重点的に探した方が良さそうね」
 新井もその意見に賛成した。
 方針が決まり、林の傾斜を登りながら捜索するB班。
 牙撃は『鋭敏聴覚』でどんな音でも聞き逃さないように、『索敵』で少しでも救助者の姿が見えないか注意していた。
 ゼロも熱心に密生した木々の後ろや茂みを探した。
「もしもーし、こちらお馴染み救助に来た撃退士ですよーぅ。入ってますかぁ?」
 パルプンティは大きめな茂みを見つける度に、そう声をかけてケイが隠れていないか様子をうかがう。頭の角もレーダーのようにクリクリと動いているのが愛らしい。
「いませんねぇ」
 先に進もうとすると、牙撃の耳が人の息遣いらしきものを捉えた。
「しっ」
 牙撃は口に人差し指を立てて、皆に静かに、というジェスチャーを送る。
 音のする方を意識してよく見ると、ケイの足先が見えた。
「いたぞ。あそこの木の後ろだ」
 牙撃が示す方へ、新井達は静かに近付く。
「おーい、ご存知撃退士ですよーぅ」
 怖がらせないよう、パルプンティがそっと呼びかけると、ケイの方も彼女らに気付いた。
「あぁ! ホントに来てくれたんだな、良かったー……!」
 安堵の言葉とは裏腹に、恐怖のあまりかケイの顔は引きつっていた。
「よく頑張ったわね。あとは私達が頑張る番。立てる?」
「た、たぶん……」
 新井がケイに手を貸し立たせると、彼の足はガクガク震えていた。
「支えが必要ね……急いで避難しないと」
 とにかく逃げようとした時、牙撃がさっと身構える。
「何か来る」
 一瞬にしてその場に緊張が走り、直後、藁人形が彼らの目の前に出現した。

●戦う藁人形
 新井がジャンプし、宙返りからの急降下キック! 出会い頭に一発『雷打蹴』を放った。
 藁人形に命中、『注目』で気を引くことに成功した。
 その隙にゼロがケイを片腕に抱える。
「ちょっと強引やけど我慢したってな」
「えっ」
 そして木々に紛れながら逃げた。
 同時に牙撃が翼を出し木の枝に飛び乗り、用意していた打ち上げ花火を取り出した。ライターで火を着けようと手を動かしながら、携帯で聞いているであろうA班に向けて言う。
「敵が出た。大至急合流を頼む」
 花火が夜空に打ち上がる。
 藁人形は金槌で何度か新井と打ち合っていたが、ケイがゼロに連れて行かれたことに気付いて後を追おうとした。
「ダメですよーぅ!」
 パルプンティがセルベイションを開く。金色に光る炎が藁人形の足元を焦がした。
 藁人形は左手から釘を発射した。ドスドスと太い釘が木の幹に深々と突き刺さる。
「わわっ!」
 咄嗟に木の後ろに隠れたパルプンティと新井の間を抜け、ゼロが逃げた方へ走る藁人形。
 牙撃は冷静にスナイパーライフルMX27を構え、その後ろ姿に『マーキング』を撃ち込んだ。

「ん、連絡来た」
 ヒビキが携帯から聞こえた『敵発見』の知らせに顔を上げた。
 反対側の林の方を見ると、花火の音と梢を透かして空が光ったのは分かった。林の中にいるため、ちゃんと確認できなかったのだ。
「花火、よく分からなかったね」
 来崎があっけらかんと言う。まあ正確な位置が分からなくても、戦闘の物音がする方に行けばいいのだ。
「しゃーねぇ、行くぞ!」
 麻生はすぐさま駆け出し、来崎とヒビキも後に続いた。
 石段に出て林に突入しようとしたその時、ケイを抱えたゼロが飛び出してきた。
「おっと、追っかけっこか!?」 
「ヤツが来よるで!」
「後は任せろ!」
 ゼロの警告に麻生がニヤリと笑って返す。
 来崎は早速『Shadow Stalker』で闇を纏い姿を消した。
 藁人形が釘を飛ばしながら林から出て来る。
「さっそく来たね」
 来崎とヒビキは翼を現し飛んで避ける。
 麻生も横っ飛びに回避ざま、『手引きする追跡痕』を撃った。藁人形の脇腹に当たり、一瞬血が出たように見えた。
 藁人形はそんなことは気にも止めず、ゼロに向かってさらに釘を飛ばす。
「しっかり掴まっとき!」
 ケイに言うやいなや、ゼロは『闇の翼』で高く飛んだ。
「うっわあぁ!」
 ケイが驚いてゼロの体にしがみつく。ゼロはそのままケイを石段下の車まで運んだ。

 ヒビキは藁人形がこれ以上ケイを追って行かないよう、飛んで釘を回避した流れで宙返り、蹴りつける。
 『雷打蹴』は藁人形の背中に命中し、藁人形の関心がヒビキに移った。
「貴方は、私だけ、見てればいいのよ?」
 ヒビキは興味なさそうな顔で挑発するように、林へと入ってゆく。足を取られないよう、翼で1m程浮きながら移動する。
 藁人形はヒビキを追い、麻生と来崎も見失わないよう林に突入した。
 木に飛び移った藁人形が上からヒビキを強襲!
「!」
 ヒビキは反射的に身をひねったが、釘が腿の辺りをかすって痛みが奔る。『封印』になってしまった。
「っ……」
 それ以上の攻撃を阻止するように藁人形の足に銃弾が発射された。牙撃だ。木の上で油断なくライフルを構え、藁人形を常にスコープ内に捉え続けている。
 藁人形は一旦ヒビキから距離を取る。
 他のB班の仲間も現れた。
「シュバイツァーは?」
「無事逃がしたみたいだぜ」
 新井の短い問いかけに麻生が答え、彼らはすぐさま藁人形を取り囲むように陣形を取った。
 麻生と牙撃の牽制射撃の陰から、来崎が『Downfall Gloria』を使う。
「ボクは影、先輩の影なの」
 来崎の毒々しく染まった手の中に、赤黒い拳銃が出現した。クスクスと笑い、その瞳からは黒い涙が流れる。
「さぁ堕ちよう……ボクより黒く、真っ黒に……。大丈夫……全部、消してあげるから」
 『Downfall Gloria』の憎悪の弾丸が藁人形を襲う。だが素早く木の後ろに回り込まれかわされてしまった。
「ウソ!?」
 林の中という立地は、敵も木を遮蔽物にできるということにおいて同じなのだ。
 来崎へと藁人形の釘が無数に飛ばされる。
「おっと、させねぇぞ!」
 麻生の銃から赤いアウルが放たれる。『絶望の拒絶者』は来崎の頭部に当たりそうな一本を逸らしたが、もう一本、一瞬木に身を隠すのが遅れた来崎の腕に刺さった。
「うっ」
 来崎も『封印』になってしまう。
「いったぁーい」
 血が腕を伝って落ちる。一応止血のためにタオルを巻いた。
「コレでも喰らってやがれ!」
 『家族』を傷付けられ気色ばんだ麻生の腕に、赤い光が螺旋となってまとわりついた。黒く光る弾丸『光堕とす者』を撃ち放つ。
 ボッと藁人形の胸の辺りに穴が開いた。痛みは感じないのか、藁人形はまだ平気で動いている。
「調子に乗らないことね!」
 新井が脇から接近、『烈風突』で藁人形を押しやるも、再び反撃の釘が放たれた。
「このっ……!!」
 釘は新井の二の腕をわずかにえぐる。新井は運良く『封印』にはならなかった。
「この程度なら大したことないわ」
 手早くタオルで傷を縛る。
「いきますよーぅ!」
 パルプンティが魔法書攻撃の乱れ撃ち!
 右に左にと炎のようなものを飛ばす。1、2発は当たったものの、藁人形も木々を利用したりジャンプしたりと巧みに避けている。
「あーもう、こいつ『ノロイの藁人形』のクセにこれっぽっちもノロくないですよーぅ!!」
 思わずパルプンティが癇癪を起こしかけると、
「こいつの『ノロイ』はその『鈍い』と違うで!」
 ツッコミが上から聞こえた。
 狙いすまして、『闘気解放』で己の能力を高めたゼロが降下しながらデビルブリンガーを横に薙ぐ。
 藁人形の頭、毛のように突っ立っていたボサボサ藁を切り裂いた。直線に刈り取られて何だかコミカルになった。
 いきり立った藁人形は、釘と金槌を振り上げてパルプンティに飛び掛かる。
「ひゃあ!」
「金槌を使えなくしてやる」
 牙撃が『侵蝕弾頭』を藁人形の金槌に向けて撃った。
 金槌の柄に命中、ボロっと砕けるように壊れ、先の部分が落ちた。さらに藁人形を『腐敗』にさせる。
「助かりました」
 パルプンティはそそくさと後退した。
 ヒビキと来崎はお互い示し合わせ、藁人形にまとわりつくように動き出した。
 突き出される藁人形の釘を避けながら、ヒビキはタイミングを見計らってバトルケンダマを藁人形の足に巻きつけ引っ張る。
「やることは、変わらない……逃がさないのよ?」
 すかさずヒビキの陰から来崎がレヴィアタンの鎖鞭を叩き込んだ。藁人形はまともに喰らい、よろめく。
「スキルがなくてもこれくらいは出来るものー♪ボクの嫉妬が今宵も疼くよー」
 来崎の血に濡れた腕が、赤く浮かび上がる獣のような痣と相まってより禍々しく見えるのだった。
 新井が動きの止まった藁人形の懐に入った。
「さっきのお返しをさせてもらうわ」
 横に流れるように一撃を与えながら自身も同じ方向に移動する。『サイドステップ』だ。
 新井がいた場所には、すでにゼロが控えていた。
「知ってるか? 呪いって失敗すると自分に返ってくるらしいで? ってことで……これでどうや」
 さっき牙撃が撃った足を狙い大鎌を思い切り振り抜く。
 藁人形の片足が半分切り取られた。バランスを崩し体が傾く。
 麻生は冷たい笑みを浮かべた。
「お前の相手をするのもそろそろ飽きた……さぁ、終わりにしようか」
 銃口に赤黒いアウルが集中していく。麻生は藁人形との距離を詰めた。
 藁人形が釘を飛ばすも狙いが定まっておらず、かいくぐるのは比較的簡単だった。
 そして麻生は藁人形の額と思われる部分に二丁の銃を突き付け、溜まったアウルを解放した。
 『愚か者の矜持』は藁人形の頭を吹き飛ばし――、藁人形の呪いは終わったのだった。

●噂の末路
 車に逃げ込んでいたケイに天魔を討伐したことを知らせると、ケイはまだ恐怖から抜けないながらも撃退士達に頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました」
 それから友達のヨシとムタのことを思い出したのか、慌てて警察に連絡する。
 連絡し終わると、改めて境内へ向かうケイに皆は付き添った。

 皆押し黙って長い石段を上りきった時、牙撃が横の林を見て何かに気を止めた。
「あ」
「何?」
 新井が尋ねるが、いや、とすぐに前を向く。
「そう」
 新井はすぐに興味を失ったが、牙撃はちらと林を振り返り思った。
(呪いたいほど憎いやつがいるなら俺に頼む方が確実なのに。金はかかるが)
 実は生々しく大木に打ち付けられた藁人形を発見したのだ。けれども――、そのことは自分の胸にしまっておいた。

 境内には、血まみれの無残な二人の遺体があった。ムタは林に向かって倒れており、逃げ込もうとしたところを襲われたらしいというのがありありと分かる。
「うぅっ……!!」
 ケイは変わり果てた友人達から目を逸らした。とてもじゃないが直視できない。
「ごめんな、助けられなくて……いや、俺がもっと強くここに来るのを反対してれば……!」
 ケイは階段に座り込み泣いた。今のケイにはどんな言葉も慰めにはならないだろう。
「皆、静かに眠るといいよ。敵も、犠牲者も……何もかも、ね」
 来崎が静かにつぶやいた。
「可哀想だけど、もう、私達にできることは、ない」
 少し悲しそうにヒビキは下を向いた。友達や仲間を失う辛さは、今のヒビキになら解る。
 相手が天魔なれば、こうなるのは避けられないことだった。悪く言えば過ぎた好奇心を出した結果がこれだ。むしろケイだけでも命が助かったのは幸運と言えるだろう。だけど、そんな正論で彼らの死が簡単に割り切れる訳もなく。
「……後は警察に任せて帰りましょか……」
 ゼロが促すと誰も異議を唱える者はなく、撃退士達は背中にケイの嗚咽を聞きながら石段を下りてゆくのだった……。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
不思議な撃退士・
パルプンティ(jb2761)

大学部3年275組 女 ナイトウォーカー
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅