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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/10


みんなの思い出



オープニング

●ある土地について
 どういう理由か分からないけれど、一つの店舗が長続きしない土地というものがある。
 いつの間にか新しい店になってたりするのだが、一年も経つと潰れてしまうのだ。
 決して立地が悪いわけではない。車通りの多い大通りに面していて、道路沿いには数店舗のレストランやレンタルビデオ店、携帯電話会社などもある。駐車場も充分に取れる広い敷地だし、駅も徒歩10分圏内、会社のビルもマンションも周囲にあって、住宅街だって近い。
 なのに、いつの間にか店は廃れ気が付くと更地になっているのだった。
 某有名ハンバーガーショップからクリーニング店、系列の違うコンビニ2店、不動産屋、焼肉屋、等など。一番新しいものだとコインパーキングにもなったが、それも結局なくなってしまい、今は土がむき出しの何もない土地だった。
 そうして、いつしかそれは何か良くない地縛霊か悪霊か、霊的なものが憑いているんじゃないかと囁かれるようになり、地元の都市伝説のごとく子供達や学生の間で色々と噂されるようになっていったのだった。

 ――ねえ知ってる?
 ――あそこの土地、いつもは何もないんだけど、夜に裏から通ってみると、真ん中にお地蔵さんがポツン、と立ってる時があるんだって。
 ――そのお地蔵さんを見た人は……

 ――行方不明になっちゃうんだって。

 というのが最新の噂だ。もちろんその近辺で本当に行方不明事件があるとか、行方不明者の名前が挙げられたりしている訳ではない。だけどもそれはまことしやかに、知る者だけが知る事実として語られていく。
 こうなると、それを確かめようとする若者が出てくるのも世の常だ。
 高校生の男女ペアふた組が、今夜その噂を確かめに行こう、と真夜中になる頃その一角へやって来たのだった。

●危険な肝試し
「ここだろ?」
 何だか拍子抜けしたように男子の一人、マサが言った。
「もっとこう、不気味な感じがするのかと思ってたけど、普通だな」
 友達のタカも同じように辺りを見回す。
 深夜だというのに大通りには車がひっきりなしに通っており、道路沿いの24時間営業のレストランやレンタル屋はちゃんと営業してるし、とにかく普通だ。
「でも、何か暗くない?」
 女子二人組の片方、レナが若干怖がった。
「そういえば……、ここだけ街灯が消えてるね」
 友達のハルが見上げると、他は店先の明かりや街灯で明るいのだが、この一角だけ街灯は立っているものの電気が点いていなかった。
「あ、俺ライト持って来たよ」
 タカが小さいハンドライトを点け、
「じゃ、地蔵があるか確かめてみますか」
 と一段高くなった噂の敷地へ足を踏み入れた。
「やっぱやめようよ。ホントにお地蔵さんあったらどうするの?」
 レナがハルにしがみつくようにして怖気づいた。
「何だよ今更。そんなのただの噂だろ? 俺達がそれを暴いてやるんだよ」
 マサが得意げに返す。
「でも、何か嫌な予感がするよ」
「アレ、アンタ霊感とかあったっけ?」
「別にないけど、今は何か嫌だ。行きたくない」
 ハルが茶化すも、レナの緊張はほぐれなかった。
「そんなに怖いんならそこで待ってろよ。俺らだけで見てくるから。行こうぜ、ハル」
「うん。じゃ、アンタはそこにいて。ちょっと見てくるね」
 タカとマサ、ハルは連れ立って敷地内へ入って行こうとする。
「え、でも……!」
 レナは一人置いて行かれることに抵抗を感じたが、中に入って行く方が怖かったので、結局一人で待つことにした。
「気をつけてね」
「大丈夫だよー」
 とハルが振り向かないまま応えて、三人は暗闇の中へ入って行った。
 三人はタカのハンドライトの明かりだけを頼りに、真ん中を目指して歩く。すると、明かりの中にシルエットが浮かんだ。
 丸い頭部に寸胴の体、まさに地蔵らしい形のシルエット。しかし、それは一つではなかった。噂では一体の地蔵が寂しそうにポツン……という印象だったが、今目の前に見えるのは5体分もある。
「ほ、本当にあった!」
 ハルが小さく声を上げて足を止めた。
 タカもマサも本当にあると思っていなかったので、軽い驚きと共に立ち止まる。
「本当にあったな……」
「しかも5体もあるぜ」
「誰がこんなの置いたんだ? 噂を知らねーのかよ。一体だけあるから不気味なんじゃん」
 とか言いながら、マサが少し近づいた。
「おい、もっと地蔵を照らしてくれよ」
「あ、ああ」
 言われるままにタカもシルエットに光を当てる。
 それはよくあるお地蔵さんに見えた。柔和な顔立ちをした、胸元に赤いよだれかけをつけている、あの地蔵だ。一番右端にあるものが130cm程もあり、それから少しずつ小さくなっていき、左端にあるのは50cm程の大きさだった。
 もっとよく見ようとさらにマサが近づいた時、地蔵の顔が仁王のようにくわっと変わった。
「!?」
 一番大きな地蔵の頭が体から離れ飛び掛かり、その口をガバリと開いた。
 バリン!
 嫌な音がして、マサは頭半分をなくしその場に倒れた。
「きっ、きゃあああーーーっ!!」
 ハルの絶叫。
 その声で目覚めたかのように、次々と地蔵の顔が変わっていく。
「うわあああ!!」
 タカは踵を返して逃げようとした。
 中くらいの地蔵達が高々とジャンプし、タカに急降下、押し潰す。
「ぶぎゃっ!」
 まさに潰れた声を出して、タカは口から血を吐き動かなくなった。
「どうしたの、皆!? 何があったの!?」
 暗がりからレナの声がする。だけどハルには何も答えられない。
 小さい地蔵の頭が飛んで来て、自分の喉に噛み付いているから。
 ああそうか、赤いよだれかけだと思っていたのは、誰かの血だったんだ……。
 そんなことを思いながら、ハルは絶命した。
「――ひっ!!」
 レナが異常を察しこっそり彼らの方へ近づいて見ると、変わり果てた友人達の姿が見えた。
 地蔵達がマサとタカをドスドスと踏みつけており、頭だけが飛んでハルの肉を噛みちぎる。
 レナは咄嗟に悟った。
 これは心霊現象などではない。天魔だ、と。
 震えが止まらない手でどうにか携帯を出し、久遠ヶ原学園へ電話した。
「たっ、助けてください! お地蔵さんが天魔だったんです! 皆を殺して食べてる……!」
 そこまで言った時、仁王の顔をした地蔵がレナの頭上に降って来る。
「ぎゃっ!」
 短い悲鳴を上げて、レナは頭から潰された。
 落ちた携帯にも別の地蔵が乗っかり、通話はそこで途切れたのだった。
 彼女の悲鳴を残して――。



リプレイ本文

●噂の場所へ
 この深夜という時間帯に地蔵のディアボロ退治とは。
 しかもその近辺ではその地蔵にまつわる怪談の噂まであるという。
 いかにもぞっとしないシチュエーションだが、実際はあくまでディアボロの仕業。心霊的な不可思議な現象などない。
 肌も白く金髪碧眼のいかにもお嬢様らしい少女レティシア・シャンテヒルト(jb6767)は、現場に向かいながら携帯でその町の名前と『地蔵』『噂』のワードで検索してみた。
 ネットの心霊や怪談のサイトでは、『その土地に夜中通りかかるとお地蔵さんが立っている。それを見た者は行方不明になる』というものが昼間の敷地の写真と共に掲載されていた。
「一応詳しい住所は伏せてあるけど、地元の人ならすぐに判りますね。やんちゃな若者なら確かめたくなるかも」
「やれやれ、ホラーは苦手なんですけどね」
 レティシアの携帯画面をチラリと見て、黒井 明斗(jb0525)は少し肩をすくめる。
 学園の制服をきっちりと着ており、銀縁眼鏡をかけた折り目正しい少年だ。苦手と言いつつも整った顔には余裕がある。
「噂話か……まさに好奇心は猫をも殺す、ね。どちらにしても、私は私にできる役目を果たすだけ」
 ナタリア・シルフィード(ja8997)もクールに応じた。
 長身でスタイルも良く、銀髪に青い瞳は彼女を一層クールに見せている。
「衆生を守る姿を模すとは、とんだ天魔です。これ以上の被害が出る前に討伐してしまいましょう」
 いささか淡々とした口調の樒 和紗(jb6970)が表情を引き締める。丁寧な物腰からは生真面目さが窺えた。中学に入るまで男として育てられたため、自分を『俺』と言ってしまうのがまだ抜けない。
「ジゾーと言う石の像なディアボロ退治の依頼ですよーぅ。張り切って首をチョンパってやるです!」
 パルプンティ(jb2761)は感情と連動して動く2本の角をクルクルさせた。よほど首チョンパしたいのか、やけにやる気満々である。
「現地では僕が灯りを確保しますので、皆さんは存分に戦ってください」
 黒井が頼もしく請け負った。彼は今回皆の支援に徹するつもりだった。
「物理効かないのって厄介だよなぁ。でもやれることはあると思う」
 低めの声と凛々しい容姿に男子用制服のせいもあってか一見すると男に見える礼野 智美(ja3600)は、念の為にナイトビジョンIIを装備した。
 ナタリアも同様にナイトビジョンを装備する。
「うちがまず先制攻撃行くわ。灯りはそれからにしてもらえるやろか?」
 関西弁でいかにも元気そうな黒神 未来(jb9907)が黒井に提案した。
 黒神はこれからの戦闘にワクワクしているようだ。
「分かりました。じゃあ黒神さんの攻撃を合図に『星の輝き』を使いますね」
 黒井が了承、皆も流れを納得したところで、現地に着いた。
 全員一旦足を止め、周囲の気配を探る。
 向こうに見える大通りは明るいのに、この一角だけ街灯の電気は点いておらず、ひっそりと暗い。天魔がいるはずの辺りからは音もなく、車の通る音だけが遠くに聞こえるのだった。
 心霊現象ではないと解っているものの、何となく嫌な雰囲気と臭いが漂っている。
 レティシアにとっては嗅ぎなれた臭い――血と、死の臭いだ。
「います」
 レティシアは僅かに目を細め、確信を持って言った。
 まず礼野が光纏し阻霊符を発動させると、皆も光纏、音を立てないよう静かに敷地内に足を踏み入れて行く。
「そうね、ちょうどこの真っ直ぐ20mくらい行った先に……」
 ナイトビジョンを装備しているナタリアが小声で告げ、礼野も
「5体の地蔵が並んで立ってるよ」
 皆に知らせるように闇の中心を指差した。
「地蔵が5体……創造した悪魔は六地蔵を知らなかったようですね。欠けた地蔵は、きっと人道の担当だったのでしょう。故に救いがない」
 侮蔑を含んだ樒の声。
 さもあろう。元々この地蔵達は人を救うためのものではなく、人を侵すためのものなのだから。
「などと冗談を言っている場合ではありませんね。俺は後方から援護します」
 すでに犠牲者が出ているのだ、この地蔵を放っておくわけにはいかない。
 あまり近づきすぎて先制攻撃をする前に気づかれたらマズイので、皆はそこから広がって動き出す。
「ほならここらで行くで」
 黒神が『真眼』で以前負傷した左目にアウルを集中させると、闇の中が見通せるようになる。そして『ハイドアンドシーク』で気配を消し、先行した。
 樒と礼野は万が一の惨事を防ぐために、大通り側の逃走経路を塞ぐ位置へと回り込む。他の仲間は樒らを基準に地蔵を囲むように移動した。

●戦闘開始
 闇に潜みながら黒神は地蔵の後方から近付く。
 等間隔にきちんと背の順に地蔵が並んでいた。こうして見る分には普通の地蔵だが……。
(なんや見るからに硬そうやね……確かに殴っても蹴っても効きそうにないわ。でも……)
 充分に射程に入った所で、黒神は魔具のエレキギターPompeuX R7をかき鳴らし炎をほとばしらせた!
「うちはそれだけやないんやでっ!?」
 『炎のR&R』は見事に命中、リフの繰り返しで連続爆発が巻き起こり、花火のような光が暗闇に飛び散る。
「どや! 先手必勝、効いたやろ!」
 黒神は不意打ちが決まり完全にドヤ顔だ。
 それから黒井が『星の輝き』で辺りを照らすと、算を乱した地蔵の姿が皆の目にも見えるようになった。
 明るくなると同時にレティシアも闇に紛れ『潜行』した。
「光が強く輝く程、闇もまた深くなるのです……」
「いっきますよー!」
 パルプンティが早速首チョンパするために、デビルブリンガーを振りかぶって駆け出した。
 ナタリアは『コンセントレート』を使い光耀のロザリオで攻撃する。無数の光の刃が真ん中にいた地蔵にダメージを与えた。
 次いで首を刈らんとパルプンティが大鎌を振り下ろす。
 が、刃が触れる前に地蔵の首が胴体から離れた。
「えっ!?」
 首がパルプンティの眼前に飛び迫って来る。その地蔵の顔は怒りに満ちた恐ろしげな顔だった。
「危ない!」
 樒が破魔弓でその側頭部に光の矢を射かけ、パルプンティが噛み付かれるのを阻止した。
 他の地蔵も次々と起き上がり、撃退士達に襲いかかりだした。
「く、頭が最初からモゲてるじゃないですかぁぁぁー!?」
 パルプンティの絶叫。
 地蔵の頭が自在に飛び回ってるのを見て、ショックのあまりガックリと両手両膝をついてしまう。そんなに首チョンパしたかったのか。
「なんと、頭と胴体が分離する能力のディアボロだとは……。まさかの敗北感ですよ……」
 角がヘタってぴくぴくと震えていた。
 気力を失っているパルプンティに、地蔵が二体上から押しつぶそうとジャンプした。
「しっかりしろ! 気落ちしてる場合じゃないぞ!」
 礼野が庇うように間に入り、地蔵の押し潰しを受ける。『受身』でわざと大きく後ろに飛び、ダメージを軽減した。
 すぐに地を蹴りパルチザンを装備、『徹し』で反撃してみる。
 胴体に当たるも、ほんの少し石の体が欠けただけでいつものようなダメージは与えられなかった。
「ちっ……、さすがに硬いか……!」
「………………仕方がないですねぇ」
 しばらく動かなかったパルプンティが、ハァと大きくため息をついて立ち上がった。彼女にしては珍しく不満そうな無表情である。怒っているようだ。
 首が斬れないと分かったので装備をセルベイションに変更した。
「イラッとくる敵に気分悪い状態ですがー、まぁ大丈夫です。要は地上から滅殺すれば済むことです」
 さっきまでとは違う意味で殺る気をみなぎらせ、パルプンティは魔法書から金色の炎を生み出し、地蔵に飛ばした。

 レティシアは動き回りつつ戦況を観察するすることを怠らなかった。そうしながら天魔図鑑で飛び上がる地蔵がいればそれを攻撃する。
 その攻撃に合わせるように、樒が破魔弓を連射した。しかしその矢は全て敵に当てようとしている訳ではない。
 樒は地蔵の移動する範囲を狭めていたのだ。
 地蔵が避ける先に矢を放ち、数体の地蔵を誘導する。三体の地蔵の体と二個の頭は行き場を失い、一つの場所に固まった。
「チャンス!」
 ナタリアが『ファイヤーブレイク』を、
「今です!」
 レティシアが『ファイアワークス』を同時に放った。
 巨大な火球と色とりどりの爆発の炎が地蔵達を焦がす。
「やったか?」
 樒がつぶやくと、爆発の炎の中から一個の一番小さい頭が飛び出した。何でも噛み砕く口を開き、そのまま樒に急降下する。
 樒は『シールド』を使い玄武の盾を活性化して噛み付きを防御した。
「肩は弓を引くのに大事ですからね、食わせてやる訳にはいかないのですよ」
 噛み付かれはしなかったが、後ろからその地蔵の胴体が襲いかかって来た。
「なにっ!?」
 体当たりで樒の体勢を崩させると、背中に思いっきり伸し掛った。
「くぁっ!」
 とても50cm程の地蔵とは思えない力と重さだ。樒は『重圧』になってしまった。
 また頭が樒を狙ってくる。
「大丈夫ですか!?」
 黒井が即座に駆け寄って来た。
「このように造られ哀れと思いますが、死んでいただきます」
 薫風のロザリオを手に掲げ、十字架から放たれた無数の風の矢は地蔵の頭を貫き粉々にした。
 それを見届けてからすぐさま樒に『クリアランス』をかける。
「ついでに回復もしておきましょう」
 黒井は優しく微笑み『ライトヒール』で樒の傷を癒した。
「ありがとうございます」
「いえ、当然のことですよ」
 黒井のその微笑みは敵と対峙すると影を潜め、厳しい顔つきになるのだった。

「……?」
 レティシアは地蔵を観察中、異変に気付いた。
 さっき黒井に頭部を破壊された地蔵の胴体の動きがおかしい。他の地蔵とぶつかったり攻撃のタイミングがずれていたり、ナタリアがすぐ側にいるのに全然違う場所に誤爆したりしている。
「馬鹿ね」
 ナタリアは『ライトニング』で雷を放ちその体を打ち砕いた。
(これはもしや……)
 目と思考力を司る頭が体を遠隔操作しているのかもしれない。
「皆さん、頭を先にやっつけてください! 体は私達のことがよく判らないみたいです!」
 レティシアは声を張り上げ皆に知らせた。
「了解!」
 レティシアの助言により、皆は頭を優先に攻撃することにした。
「いっくで〜!」
 黒神のギターから発生した衝撃波が地蔵の頭を切り裂いてゆく。
 効果が切れる前に再度『星の輝き』で黒井が灯りを確保した。彼は常に戦闘全体を照らせるように動いていたので、敵の中にいることが多い。そのためか、地蔵から狙われやすかった。
 中くらいの大きさの地蔵が高々とジャンプする。
「そんな分かりやすい攻撃、避けるのは容易いですよ」
 黒井が飛び退いた直後にドスッと地蔵の体が地面にめり込むほどの勢いで落ちてきた。だが、地蔵の攻撃はそれで終わりではなかった。すぐさま頭が弾丸のように発射され、黒井の腕に頭突きをかます。
「つぅっ!」
 樒が矢を射ってさらに噛み付こうとする地蔵の追撃を阻む。頭は再び胴体に戻り一体になった。
「すみません」
「構いませんよ、お互い様です」
 黒井が感謝の視線を向けると、樒は先程のお返しにか、にこりと微笑んだ。
 パルプンティもいざ攻撃しようと構えたら、まさかのタイミングで緩んでいたショーツがずり落ちた。
「わわっ!?」
 連鎖的に自分で自分の足に突っかかり豪快にすっ転んでしまう。
「もー、なんでこうなるんですかぁ」
 慌てて直していると、地蔵がこちらを向いた。仁王の怒り顔が胴から離れ、真っ直ぐ突撃して来る。
 パルプンティの目がぎらりと光った。
「怒ってんのは私の方ですよーっ!!」
 ブチギレからの『ダークブロウ』!
 パルプンティ渾身の一撃は、頭部とその後ろにいた胴体も一緒に撃破した。

「喰らえっ!」
 礼野が華霞で突撃、『烈風突』を一番でかい頭に打ち込んだ。ダメージはほとんど通らなかったものの、後ろに弾き飛ばすことには成功した。
 飛ばされた先にはナタリアが待ち構えており、雷を撃つと頭はひび割れて壊れた。
「胴体が逃げる!」
 ナタリアの警告に黒井がそちらを見ると、二体の胴体部分が大通りの方へピョンピョンと飛び跳ねて行く。
「まずいですね」
 黒井はロザリオから風の矢を飛ばすが、かわされてしまった。
「行かせるか!」
 チタンワイヤーに持ち替えた礼野が、一体の地蔵の胴体にワイヤーを巻きつけ引っ張る。
「そらっ!」
 自分の方へ引き戻し、地面に叩きつけた。
「往生際が悪いわね」
 ナタリアが『異界の呼び手』を使う。何者かの腕が地蔵の体をつかみ、『束縛』する。
「俺より後ろには行かせませんよ?」
 樒も『忍法〈髪芝居〉』でもう一体を『束縛』した。
「もう少し持たせてください!」
 レティシアは礼野とナタリア、樒にそう言うと、残った地蔵を彼女らの方に誘導しようとする。
 黒井もその思惑を察して、地蔵が礼野達の方へ退くように仕向けて攻撃した。
「かかったで! うちのレクイエム、聞かせたろ!」
 全ての地蔵が集まったのを見計らい、ここぞとばかりに黒神が思い切り『炎のR&R』の超高速演奏を披露した。
「地蔵の噂もこれで終わりですね」
「さよならですよーぅ」
 レティシアとパルプンティも同時に『ファイアワークス』を放つ。
 三発分の爆発は辺りに広がり、色鮮やかな光が夜空を彩った。
 そして、地蔵はもう人の血で胸元を汚すことはできなくなった……。

●地蔵と噂と
 黒井と礼野が『ライトヒール』で自身の生命力を回復している間に、レティシアが犠牲者の遺品を探し、回収していた。
 高校生達の持ち物や衣服、肉体の一部などが発見された。
 回復を終えた黒井が、噂の性質から他にも被害者がいたのではと考え隅々まで探してみると、それを裏付けるかのように数人分のカバンや携帯、身に着けていた物があちこちの土の中から見つかった。県外からの人かもしれない。
 黒井は警察に連絡し、身元が分かるようならそれらを遺族に渡してくれるようお願いした。
 レティシアは犠牲になった若者達の遺品を見て唇を噛む。
「噂が先にあったのかこの地蔵がいたから噂ができたのか分かりませんが……、今後も都市伝説に紛れてこんなことをし続けるのなら、また若者が犠牲になるかもしれません」
 彼らはまだまだやりたいことや夢がいっぱいあっただろうに。叶うなら助けてやりたかった。
 地蔵の主め許すまじ、とレティシアは心に固く誓った。
「今度は本物の地蔵菩薩が魂を救済してくれるといいですね……」
 樒も犠牲者を弔うように目を伏せた。
 黒井はクリスチャンらしく、ロザリオを手に膝を付き、十字を切る。
「彼らの魂に安らぎのあらんことを……」
 被害にあった全ての人々、さらにはディアボロになってしまった人達のために、黒井は祈りを捧げた。

 こうして、地蔵の怪はこれ以上噂を発展させることはなくなったのだった――。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 刹那を永遠に――・レティシア・シャンテヒルト(jb6767)
重体: −
面白かった!:5人

凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
白銀の魔術師・
ナタリア・シルフィード(ja8997)

大学部7年5組 女 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
不思議な撃退士・
パルプンティ(jb2761)

大学部3年275組 女 ナイトウォーカー
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー