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マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/20


みんなの思い出



オープニング

●凶鳥
 ある日のよく晴れた朝。それはいつもの光景だった。

 お母さんに付き添われた子供達が、幼稚園バスが来るのを待っている。
 可愛らしい動物の絵が車体に描いてあるバスが来て、中からいつもの保育士の女性が二人降りて来た。
「おはようございまーす!」
「先生おはよーございます!」
「おはよー!」
「みんな今日も元気かな〜?」
 元気に挨拶しながらバスに乗り込んでいく園児達。
「いってらっしゃい!」
「先生に迷惑かけないようにするのよ!」
 などなど、母親達の言葉を受けながらバスは発車した。
 バスが角を曲がるまで見送っていた母親達がさあ帰るか、とそれぞれの方向に向いた時、一人の母親は空に異様な物を見た。
 形は鳥だ。では何が異様なのか。
 その大きさが尋常ではないのである。
 自分の目や遠近感がおかしいのでなければ、鳥の翼を広げた姿は、まだ遠くにいるはずなのに下にある家より大きい。
 明らかに普通の生き物ではない。天魔だ。
 母親がハッと我に返ると、他の母親達も皆空の一点を見つめていた。
 異様な巨大鳥はぐんぐん近付き、頭上まで来ると日が陰り、翼を羽ばたかせれば突風が巻き起こる。
 皆は呆然と怪鳥が通り過ぎるのを見ているのだった……。

 幼稚園バスがお決まりのコースを走っている最中、運転手はふと日が陰ったことに気付いた。
 それから急に突風が吹き付け車体が揺れる。
「なんだ!?」
 と異変を感じた途端、車全体に衝撃と破壊音が。
「キャアアア!」
 子供の悲鳴が車内に響く。
 それからありえないことだが、浮遊感があった。
「な、まさか、浮いてる!?」
 運転手の目には、大きなフロントガラスから地面が遠ざかっていくのが見えた。
「そんな!」
「みんな、座席にしっかりつかまって!」
 よろめきながら保育士の一人が叫び、泣き叫ぶ園児達の間に入って行った。もう一人の保育士も自分の使命を思い出したかのように後に続く。
 バスはどんどん高度を上げているようだ。
 下に落とされた影で、自分達は鳥に捕まったのだ、と運転手は悟った。
 そして急いで久遠ヶ原学園に通報する。

 一旦上がる所まで上がると、意外にも飛行は安定していた。
 運転手は誰かがうっかり窓から落っこちてしまわないようしっかり閉め、鍵を掛けて回る。
 改めて車内を見ると、屋根を太く鋭い鈎爪が6本貫き、がっちり掴まれているのが分かった。まるでクレーンゲームのクレーンのように掴まれているのだろう。
「外は見ないで! 大丈夫だから、なるべく先生の方に寄って、椅子につかまっててね!」
「おれたちどこに連れてかれるのぉ……」
「怖いよー、おかあさんにもう会えないのー? うええぇ〜ん」
「泣かないで、きっと助けてもらえるから。大丈夫、先生嘘言ったことないでしょう?」
 自分も怖いだろうに、気丈にも保育士達は園児を不安にさせないように声をかけ続けている。
 市民公園に差し掛かった時、鳥は高度を下げ始めた。
「降りるみたいだぞ!」
「みんな、椅子から手を離さないで、頭を低くして!」
 運転手が言うと、保育士は園児に衝撃に備える体勢を取らせた。

●休憩中に
 巨大な怪鳥――バースバードは、外見は鷲のようだが、その色は全く違っていた。腹の方は青と茶の混じった色合い、胸や背は眩しい青、羽も風切り羽に向かうほど青から緑、赤と鮮やかだった。頭から背にかけても、たてがみのように真っ赤な羽毛がふさふさと生えている。
 赤黒い目は獰猛さを剥き出しにし、嘴も人の頭など簡単に砕いてしまえるだろうことに疑いはない。
 だがこのバースバードには長距離を飛べないという欠点があった。一旦休まなければこのバスを運び続けることはできないのだ。
 ちょうど眼下に開けた場所が見えたので、そこに降りることにする。
 そこは散歩コースや運動場が併設されている広い市民公園なのだが、今はバースバードの休憩場になった。

 着陸しても、バースバードはバスを掴んだまま離すことはなかった。
 しかし、どうやらしばらくは止まっていそうだと感じた運転手が
「今のうちに逃げられないかな……」
 と出入り口の扉に手をかけた時、鳥がひとつ羽ばたいた。
 飛ぶためではない。
 その羽ばたきで抜け落ちた羽が、見る間に鳥の形へと変化したのだ!
 普通の鷲に似た姿と大きさで真っ青、赤いたてがみのある鳥が、何羽もバスの周りを飛び始めた。バスの中の獲物を逃がさないためでもあるだろうし、奪われないようにするためでもあるだろう。
「ねえ、出ちゃだめなの?」
 園児の一人が声を上げ、保育士が不安気な顔で運転手を見上げる。
 運転手は激しく首を振った。
「逃げられない……! ダメだ、ここで大人しくしてるんだ!」
 居場所を伝えるために、もう一度携帯を取り出した。

●陽動班
 十分程前から天魔の目撃通報が何件も届いている。どうやら全部同じ個体のようだ。そして連れ去られた幼稚園バスの運転手からも連絡を受けた学園側は、緊急に撃退士を召集した。
 集められた撃退士達を前に、担当の男性職員が作戦を告げる。
「現在巨大サーバント、個体名バースバードは、幼稚園バスがさらわれた場所から10キロ程西の市民公園に留まっている。しかし一定時間を過ぎればまたバスごと飛び立ってしまい、はるかに救出が困難になるだろう。いいか、これは時間との戦いでもある。なるべく迅速に、かつ安全に子供達及び職員を救出すること! これが最優先だ!」
「はい!」

 ――と送り出された彼らが現場に急行して見た物は、ちょっとしたヘリのような大きさの鳥に幼稚園バスが捉えられ、その周りに無数の鳥型サーバントがぎゃあぎゃあと奇怪な声を上げながら飛び回っている光景だった。
「これは……!」
 巨大なバースバードだけでもギリギリな依頼だというのに、こんなにも雑魚がいるとは。
 雑魚に手間取ってもバスを持って行かれるし、最悪子供達に危険が及ぶかもしれない。予想以上に迂闊に手が出せない状況だ。
 一旦指示を仰ごうと学園に状況説明すると、しばらくして折り返し連絡が来た。
『今お前達の向かい方面から救出班を向かわせた。お前達は周りを飛び回っているサーバントを引きつけ陽動し、救出班をサポートしてくれ』
「了解!」
 自分達のやることがハッキリしたため、皆の覚悟が決まった。
 その瞬間、バースバードの赤黒い目が彼らを認める。同時に、周囲の鳥達も一斉にこちらを向いた。



リプレイ本文

●陽動開始
 自分達の方を向いた鳥の群れの向こうに、この場に似つかわしくない可愛らしい車体のバスが見える。それはしっかりと巨鳥の足につかまれているのだった。
「バスまるごとさらうなんて欲張りね」
 今日はカウガールふうの格好をした鴉乃宮 歌音(ja0427)はちょっと冗談めかして言った。
(しかし、力弱い者を狙うのは効率のいい方法だ)
 と冷静な心中で敵の行動を評価する。だがそんなことはどうでもいい。撃ち落とされるのが奴の末路なのだから。
 マルドナ ナイド(jb7854)は聞いていた以上にナイトバードの数が多いことに、ふぅと溜息をついた。
(あんなにいっぱい……きっと痛いのでしょう、苦しいのでしょう。しかし倒さなければ私の罪は消えない、仕方がないのです)
 倒す際に伴う痛みを思い、金色の瞳を伏せる。無意識のうちわずかに口元を緩ませて。
「助け出せねえのは後味悪い。救出班が全員を救出するまで何が何でも陽動に徹する」
 鐘田将太郎(ja0114)が右腕に炎のオーラを纏わせた。眼鏡の奥の赤い瞳は、厳しく鳥達を睨みつけている。
「でっけー鳥だなっ! ここでハゲワシにしてやるぜっ! つか羽長ぇ!」
 花菱 彪臥(ja4610)もバースバードの大きさに驚くも、やる気は充分。ケモ耳のようにハネた髪と大きなつり目が猫っぽい印象の少年である。
「幼稚園児みてぇな子供は、毎日無邪気に笑って、遊んでりゃいいんだよ。それを……! てめぇら、ぜってぇ許さねぇ。身意転剣!!」
 怒りと共に虎落 九朗(jb0008)は光纏、背後に太極図を出現させた。
「ぬぬっ★ミ これはすなぱーふゆみの出番と見たんだよっ(`・ω・´)」
 イマドキの女の子らしい口調で、新崎 ふゆみ(ja8965)が怒った顔をする。金髪ツインテールの新崎は、バスのさらに向こうに救出班の面々が現れたのを目にした。
「みんな、準備オッケーなら始めるよっ」
「あ、始める前に、新井先輩、鐘田先輩」
 虎落は二人に『聖なる刻印』を使った。さらに『アウルディバイド』で『聖なる刻印』の使用回数を回復させ、常に彼らに使えるよう、これを繰り返すつもりだった。
「悪いな、助かる」
「ありがとう。それじゃ皆いいわね、最後まで気を抜かないこと」
 新井司(ja6034)が力強く皆を見ながら確認する。蒼い光はすでにその身を包んでいた。
 皆が新井の言葉に無言で了解すると、新崎は携帯で救出班にメールを送る。
 『もしもしハゲさん、いきますよー(・∀・)』
 すぐに返信が来た。
 『それじゃあこっちも行動開始するぞ(^v^)』
 文面を確認、上手くやってくれることを信じて、新崎は持参したメガホンを取り出す。
 大きく息を吸って、バスに向かって叫んだ。
「おーい! お待たせしました、ゲキタイシだよー★ じっとしててねー!」
 バスの周りで警戒していた鳥達が、その大音量に反応しこちらに向かってくる。
 続けて新井が『咆哮』で叫び声を上げ、花菱と鐘田がホイッスルを吹き鳴らし、他の者は大声を上げながら扇状に散開した。
 虎落はすぐに誰の回復にも行けるよう中央に、鐘田はバースバード寄りに、新崎は後方で皆を支援、マルドナや鴉乃宮達は間を埋めるように広がる。

 どうやら全てのバースバードの意識をこちらに向けることに成功したようだ。
 『ハゲさん、テキがだいぶこっちに注意向いたよっ(・∀・)』
 新崎がすぐさま救出班へ連絡、『闘気解放』で能力を高める。
 デコりまくりの乙女なスナイパーライフルMX27を活性化させ、スコープを覗いた。まずは電撃を放とうとしている一体を撃ち抜いた。

 鴉乃宮はアサルトライフルAL54を扇射撃し、早速ナイトバードの勢いを落とさせる。撃った後はすぐに移動するのを忘れない。敵から狙われにくくするためだ。
「その羽全部むしり取って布団と枕に詰めてやるわ」
 側面に回り込み鳥の翼を狙い、確実に仕留めた。

「来たなーっ!」
 正面から突撃して来た鳥達に向けて、花菱は妖精のリングで攻撃した。輝く光の玉が出現し放たれる。
 一匹に命中、だがその背後にいた鳥が電撃を落とした。
「うわっ!」
 ダメージを喰らいビリっとくる。が、『麻痺』にはならなかった。
「へっへー、効かないぜっ!」
 こんなものはカスリ傷だ、と元気に反撃する花菱。

 鐘田は豪快に『雷打蹴』を決めた。『注目』の効果で数体の敵が鐘田を狙ってくる。
「まとめて相手してやる!」
 フルカスサイスを振り回し、一体の片羽を根元から斬り付け、返す刃で首を刈った。
 衝撃波も切り裂きながら、鐘田は一匹ずつ倒していく。

 マルドナは自分の左腕の内側に爪を突き立てた。そのまま深く押し込み、ぎりり、と傷を広げていく。
「痛いイタイ痛いいたたたたたいいい」
 額に脂汗が浮き出、目はだんだん蕩けていく。頬は上気し唇がわななく。
 罪は痛み。痛みは贖罪。贖罪は悦び。
「――――!!」
 叫声がほとばしった。
 マルドナの目の前まで迫った鳥達が突然血を噴き出した。『淫蕩の引っ掻き傷』だ。
「さぁ。さぁさぁ始めましたわ。戦いましょう、罪を償うために。痛みを恐れてはいけません、痛みと共にあなた達の罪は浄化されるのです」

 『咆哮』で引き寄せられたナイトバードに、新井はモルゲンレーテで拳を叩き込んだ。
「来るなら来なさい!」
 さらに電撃を横っ飛びに、衝撃波をジャンプしてかわし、そいつらにも連打をお見舞いした。

「オラオラぁ!! お前達の相手はこっちだぜ!」
 虎落は大声でがなりながらナイトバードの注意を引き、オルトスG38をぶっぱなす。
 觜が頭を狙ってくるが、すれ違いざま腹に銃弾を撃ち込んでやった。

 バースバードは己の分身を屠っていく彼らに怒り、身を震わせた。
「鐘田気を付けて!」
 新井が叫ぶ。
 巨鳥はエネルギー弾を吐いた。
 新井の警告のおかげで鐘田は攻撃を回避し、『縮地』でバースバードとの距離を一気に詰める。
「その羽、使えなくしてやる」
 鎌を振り上げ思い切り『薙ぎ払い』の一撃を放った。羽に命中するが『スタン』には至らない。
 遠くから新崎ももう片方の羽を狙撃していた。
 新崎の風切り羽の狙いに気づいたのか、もしくは彼らの攻撃を鬱陶しいと思ったのか、それはバースバードの怒りと増援を煽ることになってしまった。
 バースバードは苛立たしげに二度羽ばたき、抜け落ちた羽がナイトバードへと変化する。
「ちっ」
 その数の多さに、鐘田は一旦引いてホイッスルを吹いた。
 万が一にでも救出班に向かわせてはならない。

「鳥にばっかりモテても嬉しくないわね」
 鴉乃宮は銃を掃射しながら、増援に押されているという『演技』をしていた。
 それによりバースバードが油断してくれれば、こちらにもチャンスはある。
 身軽に電撃をかわし、連射。すぐさま振り返り突っ込んできた鳥を撃ち落とした。

 花菱も増援の気を引くために何度もホイッスルを吹く。何匹もの鳥が見事に釣られた。
「よっしゃー、全部やっつけてやるぜっ!」
 奴らが集まってきたところに花菱は自ら突っ込んでいき、光を帯びた強力な攻撃『神輝掌』を喰らわせる。
 脇から襲ってきた衝撃波には咄嗟に『防壁陣』を使用し、グラニートシールドで受け止め耐えた。

 新井は再び『咆哮』した。
 四方から自分の方に向かってくる鳥達に、
「手折る――、瞬華集灯……!」
 一瞬、花のような光が舞った。そして二体のナイトバードがダメージを受ける。『瞬華』だ。
 戦っていれば『英雄』とは何か答が得られるのか、それは新井自身も判らない。でも立ち止まることはもうできない。ならば。
 大きくジャンプ、急降下キック『雷打蹴』でさらに自分への引きつけを強めた。

「あうっ!」
 マルドナは電撃の直後に飛び込んで来た觜攻撃を避けられなかった。腕から血が流れる。
「やりましたわね……」
 その顔は新たな痛みを期待して奇妙な笑みを浮かべる。
 舌を歯の間にねじ込み、力一杯噛みちぎった。
 目は悦に細められ、声にならない叫びの代わりに深紅の血が口元から溢れる。瞬間、射程に入った鳥に『嘘吐きの口紅』の傷が現れ、出血した。

 彼らは増援を引き付けるのに必死だった。
 虎落も新井と鐘田に『聖なる刻印』をかけ直しながら、ひたすら声を出して自分の方に誘う。
「一匹たりとも逃がさねぇ!」
 武器をネフィリムに持ち替え、力を溜めるように振りかぶった。頭上に無数の彗星を作り出す。
 斧を打ち下ろすと同時に彗星が敵に降り注いだ。『コメット』に押しつぶされるナイトバード達。虎落はまだ動いている鳥に容赦なく斧を突き立てた。

●異変
 何とか敵が半分以上減ったと思われた頃、鐘田はやはり増援させないためにバースバードの羽を何とかしなければ、と判断する。
 目の前のナイトバード二体が繰り出す衝撃波を多少の傷を受けながらもかいくぐり、『縮地』でもう一度バースバードに接近した。
 接敵する彼に気づいた新崎が、援護射撃でサポートする。
 鐘田は『薙ぎ払い』を放った。
「何度でもやってやる!」
 続けてもう一度。渾身の一撃はバースバードを大きくよろめかせ、『スタン』にした。
 そこに新崎が銃の引き金を引く。腹に命中、羽毛と血が飛び散る。
「ふふんっ、むだにオシャレカラフルなのがいのちとりなんだよっ☆(ゝω・)v」
 怪鳥は痛みに狂ったような奇声を発した。羽を大きく広げて鐘田を叩き飛ばす。
「!!」
 その行動でバースバードの幼稚園バスを掴む足に力が入り、めきめきとバスが変形する嫌な音がした。
 ナイトバードの数体がその際の物音に反応し、救出班の方に行ってしまう。
 救出班の長い黒髪の少女がそれに対応、鳥共を引き連れてこちらに走って来た。
「陽動班! 疲れているところ悪いですが、返品です!」
 走りながら撃ち落とす。
 そして、バスの背後から赤い色の発煙筒が上がった。
「ちょ、何かマズくね!?」
 花菱は小さく叫んだ。
 赤は緊急時用のはずだ。向こうで何かあったのかもしれない。バースバードに気付かれてはマズイ。
 花菱は急いで巨鳥の目の前まで移動し、『タウント』を発動する。
 バースバードは敵意に満ちた目で花菱を見下ろし、口を開けエネルギー弾を吐いた!
「くっ!」
 花菱は『防壁陣』で受けるが、『石化』までは防げなかった。
 すぐに鴉乃宮が駆け付ける。
「しっかりして! 一旦下がるわ」
 花菱を担いで後方へ下がり、虎落が『クリアランス』をかけた。

 またバースバードが羽ばたき、ナイトバードが増援される。
「くそっ……!」
 十数メートル飛ばされた先で鐘田は起き上がった。受身を取ったものの、体中が痛む。どこかが折れていたりするかもしれないが、まだ動けないほどのダメージではない。
 闘志を燃やしたまま元の位置に戻った鐘田に、
「赤い発煙筒だったし、今はバースバードへの攻撃は控えた方がいいと思う」
 彼の側まで来ていた新井が言った。
「そうか、解った」
 鐘田はホイッスルを鳴らして鳥を引き寄せる。

「むむっ、みんながピンチみたいだねっ。ここは援護にまわるよっ☆」
 新崎は『闘気解放』を再度使い、仲間に襲いかかろうとしているナイトバードを仕留めていった。

●巨鳥墜つ
 救出班から陽動側に回っていた黒髪の少女は、自分の周りに敵がいなくなったのを見計らって静かにその場を離れ、バスの方へと戻って行った。
 彼女の協力もあり、ナイトバードの数は着実に減っていた。というか、しばらく前から増援がない。
 撃退士達に疲労の色が見え始め増援が途絶えたことに気づき出した頃、青い発煙筒が打ち上げられた。
 救助完了の合図だ。
「もう少しよ皆!」
 新井が皆を励ますように叫んで、最後の『瞬華』を放った。二体のナイトバードが二つに裂かれて地面に落ちる。
 バースバードはとうとう休憩を終了し、バスを運ぶという役目を実行するために羽ばたいた。
 突風が巻き起こり、身構える撃退士達に吹き付ける。
 巨鳥がバスごと浮かび上がった。突然誰かがバスから投げ出されたが、受身を取り着地、無事なようだ。
 空の安全を確かめるようにバースバードは首を回した。その目に林が映り、子供達や保育士らを庇うようにして立つ撃退士達の姿が映る。
『――ギャエアアァ!』
 この怪鳥は、獲物が逃げたことを今ようやく悟ったのだ。
 猛り立ったバースバードは助走のごとく旋回、掴んでいたバスを勢い良く虎落達の方に投げつけた!
「なっ!」
「危ない!」
「げっ!」
 猛烈なスピードで回転するバスを、黒髪の少女が横から撃ち抜いた。おかげでバスの軌道が変わり、虎落と新井と花菱はそれぞれの方向に散らばって回避できた。
 鴉乃宮が即座に天翔弓を構え、前に出る。
「『そこから動くな』」
 『幻視撃墜〈弓兵〉』を射った。続けてさっきバスから飛び出した赤い髪の少年も、仰向けに倒れたまま対空射撃を片翼に向けて放つ。
 鋼色のアウルがバースバードにまとわりつき、二発の攻撃を受けた巨鳥は頭から墜落した。
 かなりの衝撃が地を揺らす。
 苦しげにのたうち回るバースバード。芝生は抉られ当たる木々はなぎ倒される。体がでかいだけに凄まじい。
 その暴れっぷりに被害が民間人の方に行かないよう、皆は間に入り警戒する。
 バースバードはどうにか起き上がると飛び立ち、捨て台詞のつもりか一声鳴いて、もう撃退士達に構うことなくどこかへ飛び去って行った……。

「ふーーーっ……」
 花菱が大きく息を吐いて、その場に座り込んだ。
 それをきっかけに、皆も緊張を解く。
「先輩、大丈夫っすか?」
 虎落と鴉乃宮が負傷した鐘田、花菱、マルドナに、『ライトヒール』と『幻視治療〈衛生兵〉』で治療を施した。

「何とか全員救出できたみたいで良かったわね」
 新井が救出班の手当を受けている子供達の方を見ながら微笑むと、ちょっと残念そうに花菱がでも、とつぶやいた。
「バスがめちゃくちゃだよ。せっかく皆を守ってくれてたのに……」
 無残な鉄の塊と化し転がったバスに歩み寄り、歪んだ動物の絵をなでる。
 花菱にはそういう子供時代の記憶がない。自分もこんなバスに乗って幼稚園に通ったりしたのだろうか……。
 思い出せないことが少しだけ歯がゆい。しかし、
「ありがとな!」
 感傷を振り切り、バスに感謝と尊敬を捧げるのだった。


 子供達の手当が終わると、彼らは救出班と合流した。懸命に救出に当たった仲間らと共に整列する。
 指揮を執っていた保育士が小さく頭を下げて戻った。林の手前、くすぐったそうに列を詰める子供らの後ろに回る。
 子供らは全員無事、というわけではなかった。頭に包帯を巻いた子供もいれば、袖に赤を滲ませている子供もいた。だが彼らの顔は、ただの一人の例外もなく、笑顔だった。
 だから。

 それじゃあ、みんな。せーのっ。


 ――ありがとおございましたっ!!


 屈託のない幾つもの言葉が、平穏を取り戻した青空に響き渡った。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: いつでも元気印!・花菱 彪臥(ja4610)
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
重体: −
面白かった!:7人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
いつでも元気印!・
花菱 彪臥(ja4610)

高等部3年12組 男 ディバインナイト
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
マルドナ ナイド(jb7854)

大学部6年288組 女 ナイトウォーカー