.


マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:4人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/04


みんなの思い出



オープニング

●コンビ間喧嘩
 山本仁はイラついていた。
 相方の滝田雅斗が待ち合わせ時間を30分過ぎても現れないので。

 二人は久遠ヶ原学園高等部2年の生徒で、お笑い好きが高じて自分達もコンビを組みネタを考えたりしている。いつもは放課後に空き教室でネタ合わせ等をしているが、今日はお笑いライブに行くため一旦寮に帰り改めて駅に集合、ということになっていた。
「ったく何なんだよアイツ……!!」
 夕暮れで寒くなってきた駅前、ずっと立っているのも何だか嫌気がさしてきた。
 メールも二度ほど送った。返信はない。
 だいたいアイツはいつもそうだ。
 イライラが募り、山本は滝田の悪いところばかり考えるようになってしまった。

 これが初めてだったりごくたまにのことだったら、こんなにイラついたりしない。だけど滝田はほぼ毎回、待ち合わせの時間通りに現れたことはなかった。アイツだけ早めの時間にしても、こっちが遅れて来たつもりでも、アイツが来るのは一番最後だ。
(それに空気も読まないで自分の言いたいことだけズケズケ言うし、大雑把だし、あのコテコテの関西人のノリ、ちょいちょいウザイんだよな!)
 それにしても今日は遅い。30分以上遅れるなんて人としてどうかしてるんじゃないか!?
「おー、ヤマいたか。ちょい遅れてワリ」
 ノコノコとヘラヘラした笑いを浮かべながら滝田ご本人の登場だ。
 その登場の仕方にも山本はイラっとせざるを得なかった。
「……『ちょい遅れて』だと? ちょいどころじゃねーよ! お前は時間も分からないの? 馬鹿なの? いや馬鹿なんだな!」
 皮肉たっぷりに刺々しく言ってやると、ご機嫌だった滝田の顔も曇る。
「何怒ってんのん。せやから謝ったやん」
「それが謝ったって態度かよ。全然悪かったと思ってないだろ? 思ってたらハナから遅刻なんてしねーよな」
「遅刻くらいでそんなやいやい言いなや」
「遅刻くらい!? そりゃ5分10分くらいなら許してやっけど、お前は毎回15分以上遅刻してくるじゃねーか! 待たされてる方の身にもなってみろよ!」
 怒りの冷めやらない山本があまりにも一方的に責めるので、滝田もだんだんムカついてきた。
「別にええやん、急げばまだ間に合うし。お前は女子か」
 カチッ。
 漫画なら山本の頭に怒りマークが浮かんでいるところだ。
「なんだと!? 俺だってなあ、三回に二回は黙ってやってんだぞ!? それに遅れるなら連絡くらい入れるのが常識だろ! 俺のメール無視しやがって!」
「あーもー過ぎたことグチグチうるさいわ〜。お前は細かすぎるんや。器ちっさいなあ」
「悪かったなあ小さくて! もーヤメだ、やめ! やってらんねーわ!」
 山本は乱暴に言い放って、駅に背を向け歩き出す。
「おーおー、帰ったらええ! こないなことでいちいち怒ってたらこの先世間で生き残れへんでェ!」
 滝田の投げかけたセリフに無反応のまま帰ってしまった。
「何やねんアイツ。急に怒りよってからに、気分悪いわ。別に俺一人で行くし」
 そこではたと気付く滝田。
「あ、ライブのチケットアイツが持っとるんやった……」

 それから三日、二人は顔を合わせても口をきかず、放課後もネタ合わせすることはなかった。

●コンビそれぞれの依頼
「……ちょっと依頼したいんやけど」
 依頼斡旋所で受付バイト中の九月沙那の目前に、普段よりも神妙な顔つきの滝田が立っていた。
「は、はい、どういった内容でしょう?」
 極度の恥ずかしがりな沙那は、学年が上のしかも男子が相手ならなおさらちゃんと向き合えるはずもなく、うつむき加減に尋ねた。慌てないようにするので精一杯だ。
「実はな、相方とケンカしてしもて。三日間口きいてないねん。俺が謝ったらええんやろうけど、何かタイミングつかめなくてなあ」
「あぁ、そういう時ってありますよね」
「お、ニイちゃん解るか?」
「わ、私はにいちゃんではありません……!」
 顔を真っ赤にして否定する沙那を、滝田は改めて見た。
「なんや、あんたネエちゃんかいな。背ェも高いし男前な顔しとるから気づかんかったわ。何で男モンの制服着とんの?」
「す、すみません。スカートはあの、恥ずかしいので……!」
 沙那の恥ずかしがりっぷりはまさに穴があったら入らんばかりだったが、滝田はそんなことを気にする感情の機微は持ち合わせていなかった。
「ふぅん? 別に謝らんでもええて。で、こっちの話やけど」
 ざっくばらんに手を振ると勝手に自分の話に戻す。
「俺は別にアイツのこと嫌いな訳やないし、やっぱりいつも通り話せないのはつまらんからな、仲直りしたいねん」
「はい、いいことだと思います」
「せやろ。もうすぐクリスマスやし、アイツにプレゼントでもやれば仲直りできるかと思て」
「なるほど」
 うんうんと沙那はうなずいたが、『女子か!』と思わず出そうになったツッコミは控えておいた。
「けど、俺今まで真剣にプレゼント選んだことなんてないし、渡すにしてもどうすればええのか分からんねん」
 滝田は珍しく本当に悩んでいる様子だ。
 ――恋する乙女のように。
「て訳でな、プレゼント選びから渡すお膳立てとか頼めへんかな〜と」
「とてもよく分かりました。依頼出しておきますね」
「おおきに!」
 ということで、滝田は帰って行った。

 その数分後、今度は反対方向から山本が依頼斡旋所を訪れる。
「あの、依頼したいんだけど」
「は、はい! どういった内容でしょうか?」
 また沙那がうつむき気味に尋ねると、山本は決まり悪そうに言った。
「ん〜、実はさ、俺相方とケンカしちまって。アイツの性格解ってたつもりだったんだけど、ついキツく言っちまってさ。もう三日、口もきいてないんだ」
「はあ……」
 どこかで聞いたことある話だ。というかついさっき。
「ずっとこのままって訳にはいかないし、アイツの性格はどうせもう直らないだろうからさ、俺が折れてやれば仲直りできるかなって」
「あ、あの、その相方さんのこと、どう思ってるんですか?」
 思い切って沙那は聞いてみた。
「そりゃまあ、一番気の合うヤツだと思ってるよ。やっぱアイツとネタやったりするのは楽しいし」
 照れくさそうな山本。
 なるほど、お互い仲直りしたいと思ってるわけだ。
「もうすぐクリスマスだろ? だからプレゼント渡して、それで仲直りしたいんだよ」
「ステキだと思います!」
 沙那は勢い良く同意した。
 これはもう運命的! コンビというのは発想が似てくるものなんだろうか?
「でも、俺アイツにプレゼントなんて何やったらいいか分かんないし、今ちょっと気まずいからさ、渡すのもどうすればいいか悩んでるんだ。そこらへんを誰かに手伝ってもらいたいんだけど……」
 ――乙女か!!
 沙那は心の中で力一杯ツッコんでから、
「分かりました、バッチリ依頼出しておきます!」
 と承った。
「サンキュー。それじゃ頼むわ」

 山本が去ってから、沙那は滝田の依頼と山本の依頼を一緒にして貼り出したのだった。



リプレイ本文

●ナイショの計画
 滝田と山本の依頼を受けて集まった4人は、まず自分達だけの計画を話し合うことにした。
 当の二人はお互い同じ依頼を出したと気づいていない。
「素直になれないことってあるあるだね〜! レナがひと肌脱いじゃうよぉ〜♪でさでさ、クリスマス会を開いて、二人は盛り上げ役で呼ぶことにするのはどう? プレゼント渡しやすい雰囲気にして、それまではお互いの依頼のことはナイショにしとくの!」
 全身から元気が溢れているような加具屋 玲奈(jb7295)が提案。
「うん……それなら自然に見えるし……、それで構わないよ……。あぁ、山本さんと苗字が似てるから……、俺のことは初尾と呼んでくれていいよ……」
 と賛成した山木 初尾(ja8337)は、加具屋とは正反対な陰鬱とした雰囲気の持ち主だ。
 内心では所詮他人事だし勝手にすればいいと思いつつ、でも天魔の動きも活発になってきているこのご時世、いつ死に別れるかも分からない。本当は嫌いな訳でもないのに喧嘩したまま別れることになるよりは仲直りした方がいい、と思っていた。
「仲良きことは美しき哉。お互い仲直りしたいと思ってるんですし、仲直りさせてあげましょう!」
 外見が実際の年齢より幼く見える竜胆 椛(jb2854)もやる気を見せる。
「それじゃあ、山本班と滝田班に別れましょうか。実は同じ会というのは伏せておいて、彼らとプレゼントやクリスマス会に必要な物を買い出しに行って、準備しましょう」
 長い黒髪をかき上げながら緋流 美咲(jb8394)が大まかな流れを決めると、皆もそれを了承、初尾と竜胆が山本班、加具屋と緋流が滝田班ということになった。
 皆は連絡を取り合うため携帯の番号を交換し、ふた組に分かれて依頼者の所へ向かった。

●滝田班
「それで考えたんだけど、二人はお笑いやってるんでしょ? だから私達のクリスマス会でちょっとネタでもやって盛り上げて欲しいってお願いするのはどうかな!?」
 加具屋と緋流が滝田に計画(表向きの)を説明すると、滝田は大きくうなずいた。
「おお、エエかもな! それならアイツもわざわざ断ろうとは思わんやろ!」
「せっかくですから、本当に楽しい会にしましょう。プレゼント選びにも迷っていると聞きました。一緒に買い出しに行きませんか?」
「それは心強いわ、頼むで! よっしゃ、何や楽しなってきた!」
 緋流の誘いに滝田は大乗り気で、さっそく買い出しに出発。

 何だかんだで可愛い女子も交えてのクリスマス会。
 これが楽しくない訳が無い!

 商店街までの道中、緋流は滝田に山本の好みなどを聞いていた。
 結果、山本はオシャレに気を使っているらしいということで、プレゼントは流行りの洋服がいいのではないかということになった。
 若者向けの洋服やアイテムが売っている店に入る。
 その間、二人に気付かれないようこっそり加具屋が後を尾けていた。もちろん山本も同じ流れのはずなので、二人が鉢合わせしないよう、山本班との連絡を取りつつの調整のためである。
「こちら滝田班、現在商店街東側の洋服屋にいるよ。そっちはどう?」

「お、コレなんかどうや?」
 と滝田が手に取ったのは黒地に赤く『revenge』と書いてあるTシャツ。血糊っぽい模様まで付いている。
 いやいやいや。
「いえ、それはどうかと……」
 さすがに緋流はそれを戻させる。これをプレゼントして余計に仲がこじれたら堪らない。
「滝田君、その英語の意味解ってます?」
「いや知らん。 ええやん、別に何でも。英語カッコええやん」
 きょとんとした滝田の様子からして、ふざけているのではないようだ。
 いけない、彼の感性は『英語が書いてあればカッコイイ』という典型的な『オシャレ? 何それおいしいんですか?』なレベルだ!
 自分がしっかりしなければ。
「あ、こっちの方がいいと思いますよ! ほら!」
 緋流はさり気なく、雑誌に紹介されたというコーディネイトの服を上下選んで滝田に見せる。
「あ〜、確かに、そんなんアイツ好きそうやわ〜」
「じゃあこれにしましょう!」
「せやなー、予算内やし、これでエエか!」
 てことで、プレゼントは無事に決まった。
 滝田が会計を済ませている間、緋流は先に店を出る。
 店の角からちらりと加具屋が顔を出し、ちょいちょい、と手招きした。
「次はどこ行く?」
 小走りで寄って来た緋流に加具屋は小声で尋ねた。
「ええと、ツリーとか教室の飾り物を買いに雑貨屋さんに行こうかと……」
「いや、それはマズイかも。今山本班がそっちにいるらしいから、こっちは食べ物を買いに行こう」
「分かりました」

 それからスーパーでノンアルコールのシャンパンやオードブル、ケーキ等を買い、教室の準備は自分達がするからと言って緋流は滝田を帰らせた。

●山本班
 山本の依頼を竜胆と初尾が受けることになったということにして、二人は山本の所へ来た。
「そっか、今回は頼むな」
「はい、よろしくお願いします。それでですね、どうやって滝田さんにプレゼントを渡すかですけど、お二人がお笑いをやってることを利用するのはどうでしょう?」
 竜胆の案に山本が首をかしげると、彼女は続けた。
「実際にクリスマス会を開きまして、お二人はお笑いを活かして場を盛り上げて欲しいと頼まれたってことにするんです。クリスマス会も楽しくなるし、プレゼントも渡しやすくなるんじゃありませんか?」
「なるほど、それいいかもな! そういうことなら自然にアイツを呼べるし!」
 山本は感心したように竜胆の案に乗っかった。
「それでは早速、プレゼントやクリスマス会に入り用な物を買いに行きましょう」
「OK」

 竜胆は移動中山本から滝田のことを色々と聞き出し、プレゼントは彼が好みそうなゲームソフトがいいのではないかと言ってみた。すると山本は意外とすんなりその意見を受け入れ、二人はゲームショップへ行くことに。
 二人の後ろには、『遁甲の術』で気配を消した初尾が付いて来ていた。
 時々地図を見ながら現在地をチェックし、滝田班の加具屋に連絡する。
「こちら山本班……現在ゲームショップ付近だ……」
『こっちは商店街の東に向かってるよ。引き続きよろしく』
「了解……」

 ゲームショップ内で携帯ゲーム用ソフトを探す山本と竜胆。
「私はこういう物はよく分からないのですが……、こちらはどうですか? 一番人気と書いてありますし、滝田さんの好みのアクションゲームです」
 竜胆が一番目立つ所にあったソフトを示してみる。
 山本はああ、と首を振った。
「それは機種が違うからダメだ。たぶんアイツはそっちのは持ってなかったと思う」
「そうですか……」
 一口にゲームソフトと言っても色々あるらしい。
「あ、ではこれは?」
 竜胆は今度はちゃんと条件に合う物で最新作を山本に見せると、山本も別の物を手にしていた。
「うーん、そっちのも捨てがたいなあ」
 二つを見比べて悩む。
 値段はどちらも大して違わない。ゲームシステムも似たような感じだし、違うのはキャラクターのデザインやパーティを組めるとかシナリオの濃さくらいのものだった。
「こちらにしたらどうですか?」
 竜胆は自分が持って来た方を勧めた。
「どうして?」
「こっちなら、多人数で遊べる機能が付いてるみたいですし、山本さんも一緒にパーティ組んで遊べるじゃないですか。そうすればもっとお互いの仲が深まります!」
「いや、俺は別にゲームなんて……」
 と山本は照れつつも戸惑い、少し迷っていたみたいだが結局竜胆の言った方に決めたようだ。
「分かった、じゃあこっちにするよ」
「はい!」
 プレゼントが決まり、次はクリスマス用の飾り物などを買うことになった。

「こちら山本班……現在商店街中程の雑貨屋に入った……」
 大きめの雑貨屋に入る山本と竜胆を見ながら、初尾が加具屋に連絡する。
 このまま帰り道に気を付ければ上手くいきそうだ。
 知らぬは本人ばかりなり。

 山本班はツリーや部屋の飾り物、クラッカー等を買い、あとは準備するだけとなった。
「滝田さんも呼んでおきますから、用意は私達に任せてください」
「分かった。それじゃ6時に教室だな」

 そしてクリスマス会が始まる。

●仲直りのクリスマス
「即席の割には結構いいじゃない♪」
 加具屋が部屋を眺め回して満足気に言った。
 いつも滝田と山本がネタ合わせをしている空き教室が、きらびやかなパーティ会場になった。
 部屋の飾り付けやツリーの飾りは、一人黙々と作業をしていた初尾の成果だ。
 中央には机を合わせて大きくしたテーブルがあり、シャンパンやケーキやオードブルが並べられている。
「あとはお二人を待つだけですね」
 と竜胆が言うと、まず山本が登場。手にはプレゼントであろう袋がある。
「おー、すごいな!」
 見事に変わった部屋に感嘆の声を上げた。
「呼んでくれてありがとう」
 加具屋と緋流のことは竜胆達が呼んだのだろうと察し、『盛り上げ役を頼まれた者』として挨拶する。
 6時になりまた遅刻か、と山本が思いかけた時、紙袋を持った滝田が教室に入って来た。
「おぉ、皆早いな! 教室こないになったんかー、クリスマスっぽいやん! ほなら始めよか!」
 相変わらずマイペースだが、皆はそれに従い始めることにした。
「はい、これ持って」
 加具屋がクラッカーと、サンタ帽やテカテカした三角帽子を皆に配る。
 全員が帽子をかぶりクラッカーを持つと、
「じゃあいくよ〜、メリークリスマース!」
「メリークリスマス!!」
 パーン! パパン!
 口々に言いながらクラッカーを盛大に鳴らした。
 ツリーの陰で初尾がクリスマス曲をかけ、皆だんだんテンションが上がってきたようだ。
「はい、シャンパンのグラスも持って♪かんぱ〜い!」
「カンパーイ♪」
 加具屋が音頭を取りグラスを合わせる。
「あ、皆さん飲み物は他にもありますから!」
 竜胆がジュースや烏龍茶を出し、それからは思い思い好きな物に手を伸ばすことになった。

「ねぇねぇ滝田君、お笑いっていつからやってるの?」
「ん? いや、ちゃんとしたネタやるようになったんは最近や」
 加具屋が滝田に話しかけ、
「山本君、滝田君て明るい人ですね」
「あぁ、いつも空気も読まずに変なボケばっかしてるよ」
 山本には緋流が話しかけて場を和ませていた。
 
 皆がおしゃべりして打ち解けてきた頃、教室の隅でぼうっとしている初尾の側に山本がやって来た。
「顔色悪いみたいだけど大丈夫か?」
 山本が初男の顔を覗き込む。
「……顔色……? 別に普通だ……、問題ない……」
 初尾は薬瓶から出した錠剤を口に入れ、ボリボリ食べて水で流し込んだ。
「もしかしてつまらないか?」
 心配そうな山本にいや、と手を振って、
「そういう訳じゃない……胃痛と頭痛はいつものことだ……。ただ、こういう雰囲気を忘れていただけだ……」
「どーした兄ちゃんー、そんな端っこにおってェ!」
 滝田が馴れ馴れしく初尾の肩に手を回した。
「お前は酔っぱらいのオヤジか! あのシャンパンノンアルコールなのに、何でそんなにゴキゲンになれるんだよ!」
 山本の強めのツッコミ。
「エエやないかこーゆー時くらい。なあ兄ちゃん」
 初尾は対応を拒否、完全な無表情だ。
「皆さん、まだケーキ残ってますけどどうですかー?」
「おー」
 滝田は竜胆の呼ぶテーブルの方へ戻って行く。
「アイツ調子に乗りすぎ。そーゆー所がムカつくんだっつーの」
 とつぶやいた山本は、視線を感じて振り向いた。すると、初尾がもの凄い陰気な目でじっとりと山本を見ている。『仲直りするんじゃなかったのか』という無言の抗議だ。
「いや、今日は怒ったりするのはナシだよな! うん」
 慌てて前言撤回、初尾は元の気だるげな表情に戻りうなずいた。
(こ、怖かった……)

「さっき滝田君から聞いたんだけど、何て言ってたと思う?」
 加具屋が山本に言った。
「神経質なとこもあってカッコつけだって」
 そこでふふっと笑うと、山本はピクリと眉をひそめる。
「でもね、自分のミスもフォローしてくれる優しい奴って言われてたよ♪」
 つんつん、と肘で山本をつつくと少し驚いたような表情で、しかも照れているらしいのが分かった。相方が自分を褒めるのがよほど意外だったのだろう。
「向こうも仲直りしたいって依頼を出してたみたいだよ?」
 えっと思わず滝田の方を見る山本。

「滝田君て面白いですね。山本君が言ってた通りです」
 緋流が同じタイミングで滝田に話す。
「空気読まずに変なボケばっかりしてるって」
「アイツ、俺の渾身のボケを変とは何やねん」
 ムッとする滝田。さらに緋流は付け加えた。
「でも仲間のために体張ったりできる奴だって……そう言ってました」
 滝田の顔が驚きに変わる。
「山本君も滝田君と仲直りしたいって依頼を出してましたよ」
「何やて!?」

 お互い顔を見合わせる。

「プレゼントあるんでしょ?」
 加具屋が山本を滝田の近くまで押し、
「あとは若い人達に任せて……」
 オホホ、と口に手を当てオバサマ笑いをしながら、仲間と共に一旦教室からはけた。
 ドアの隙間から二人の様子を見守る。

「……何か、照れるな」
 山本が言うと、滝田も意識してきてしまったようだ。
「やめろや〜、お前がそんなん言うとこっちまで恥ずかしくなってくるやんけ! ……もう、ほら」
 紙袋を差し出す。
「クリスマスプレゼントや。あと、遅刻して悪かった。これからはなるべく待たせんようにする」
 山本はまじまじと滝田の顔を見た。
 『遅刻しない』んじゃないのかよ! とツッコミたかったがどうやらその場しのぎじゃないみたいだし、彼なりの精一杯なのだろう。
 なので山本も持って来ていた包みを出した。
「じゃあ、お前にも。俺もちょっと言いすぎたよ。まあ、これからもよろしく頼むわ」
「おん。こっちこそ頼む」
 二人してニカッと笑い、プレゼントを交換する。
「やったー、仲直りおめでと〜!!」
 またクラッカーが派手に鳴らされ、加具屋達が教室に戻って来た。
「早速開けてみたらどうですか?」
 竜胆が促すと、いそいそと中身を見る二人。
「お、これ買おうか迷ってたヤツや! いやー、嬉しいわ!」
「お前にしちゃセンスいいじゃん、見直したよ!」
「それじゃさ、二人の最高のネタ見せてよ!」
 加具屋のリクエストに二人は意気揚々と答える。
「そうだな、これも皆のおかげだしな」
「よっしゃ、まかしとき!」

「「はいどうも〜、『ときめき40』でーす、よろしくお願いします〜!」」
 二人の漫才を見ながら、皆が笑っている。
 依頼も成功しクリスマス会も楽しい会になったようだ。
 初尾は一番後ろで彼らを見ながら、昔の、母親とのささやかな食卓を囲んだクリスマスを思い出していた。あの頃はプレゼントをもらえる他の家の子が羨ましかった。
 学園に来てからは誰かと過ごすような思い出はないが……、こういうのもたまには悪くない、と微かに微笑むのだった。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: CMプロデュサー・加具屋 玲奈(jb7295)
重体: −
面白かった!:5人

地道に生真面目・
山木 初尾(ja8337)

大学部5年139組 男 鬼道忍軍
仲良し撃退士・
竜胆 椛(jb2854)

大学部3年313組 女 バハムートテイマー
CMプロデュサー・
加具屋 玲奈(jb7295)

大学部2年118組 女 阿修羅
誠心誠意・
緋流 美咲(jb8394)

大学部2年68組 女 ルインズブレイド