.


マスター:久遠 由純
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/28


みんなの思い出



オープニング

 撃退士の光を放つ剣がイボガエルのような天魔の腹を切り裂いた。
 敵が倒れ込むのを最後まで見ずに、撃退士は塔利四四三(とうりよしみ)とその傍らに膝をついている仲間の所に駆け戻った。
「大丈夫か!?」
 膝をついている撃退士は激しい一撃を食らったのか、血を吐いている。折れたアバラが内臓に刺さってしまったのかもしれない。
 塔利は険しい顔つきで小さく首を振る。
「ダメだ、早く病院に連れて行かないとヤバイ」
 全員回復スキルは持っていないか、使い切ってしまっていた。
「分かった、ディアボロも倒したし、救急車を呼ぼう」
 とさっき倒したイボガエルに振り返ると、姿がない。
「バカな!? あの傷で動けるはずが……!!」
 咄嗟に辺りを見回してみるが、周りは川べりの土手しかなく、もうどこにも見当たらなかった。
「逃げちまったんなら仕方ねえ、今はこいつの方が先だ」
「あ、ああ、そうだな」
 塔利に促され、彼は救急車を呼んだ。

 取りあえず傷ついた仲間を病院に託した彼らは、いくらか安堵した。
「ん? お前も怪我してるな」
 彼に指を差され塔利は自分の膝を見る。ズボンが破け、引っかき傷に血が滲んでいた。でもほとんど痛みもないし、もうかさぶたのようになってきているので、大したことはないだろう。
「ああ、これくらい大したことない」
「ならいいけどな」
 その後、周囲を封鎖していた警察にもまだ天魔が潜伏している可能性を告げ、警戒を怠らないよう指示してから、彼らもひとまず解散した。

 塔利は地元の安ホテルで一泊し、朝はあまり浮かない気分で目覚めた。だが、着替えようとしたその時、一気にどん底に突き落とされた。
 膝の大したことないはずの傷が――、大したことになっていたのだ。
 かさぶたのように見えていたものは醜く盛り上がり膝を覆い、人の顔になっている。
「なんだこりゃあ!?」
『ナンダコリャア』
 しかも口を利いた。
「……人面瘡、か」
『ジンメンソウカ』
 冷や汗がどっと出てくる。
 いや、落ち着け。どうにかして切り離せないだろうか。
 自分の荷物をあさってカッターを見つけた。お約束的に、カッターで自身の皮膚と人面瘡の境目に刃を入れてみる。
「いってえ!」
『イッテエ』
 ちょっと刺しただけなのにとんでもなく痛い。この激痛を我慢すれば剥がせるのだとしても、耐えられる自信は湧いてこなかった。
 ならばスキルで何とかならないか?
「……使えねえ」
 スキルが封じられてしまったようだ。
『ツカエネエ』
「うっさい黙れ!」
『ウッサイダマレ』
 人面瘡はこっちの言うことをただ繰り返しているだけらしいが、無性に腹が立つ。
(いつこんなことになっちまったんだ……!?)
 塔利は昨日の戦闘を必死に思い出そうとした。

 塔利は仲間二人と――といっても全員フリーの撃退士で、この依頼のために集まっただけにすぎない――直立するイボガエルという全くもって気味の悪いディアボロとの戦闘をした。
 塔利自身は自称『強くない』ので他の二人に前衛を任せて、死角からの援護に回っていた。
 確か天魔の背中のキモイイボイボを斬った。それでヤツに反撃され膝を引っ掻かれて、イボイボの破片が飛び散って――。

「……あのイボか」
『アノイボカ』
 いちいち変な声で繰り返される言葉にイラッとする。極力無視するには相当な精神力を必要とした。
 昨日の仲間に連絡した方がいいだろうか?
 いや、と塔利は考え直す。
 だいたい彼に知らせても自分以上に何か出来るとは思えない。もっとこういう天魔に対して知識を持っている誰かの方が助けになる。
 塔利はどうするべきか考えた。
 まだ取り逃がしたイボガエルが現れたという通報はないようだ。ならばまずは早くここから離れなくてはならない。
 本体は人面瘡からそう遠く離れることはできないはずだ。弱った塔利を狙ってくるに違いない。ここにいると一般人を巻き込む恐れがある。
 塔利は元々少ない荷物を手早くまとめて、チェックアウトした。

 運良く、町外れに誰も使わなくなって久しい作業場のような掘っ立て小屋を見つけた。
 周りは雑草だらけの土地で何もないし、背後は小高くなった雑木林。
 ここなら戦闘になったとしても被害は少なくて済む。
(ま、俺は到底戦闘なんてできる状態じゃないが……。今襲われたら完全にアウトだな)
 塔利は心の中で皮肉っぽく笑い、小屋の中に入った。
 中は埃っぽくガラクタが目に付いたものの、座る場所と荷物を置く場所くらいはある。正直中が綺麗かどうかなんてこの際どうでもいい。
 どさりと荷物を下ろし、自分は何が入っていたのか知る気もない木箱の上に腰を下ろした。
 どうやら人面瘡に毒をくらっているらしい。徐々に生命力が減っており、具合も良くない。
 彼が撃退士でなかったら、きっとものの数時間で命を奪われていただろう。しかし今のままでも時間の問題で、死を待つのみなのは確かだ。
 汚れた窓から林が見える。イボガエルのディアボロと丸っこくて黒いディアボロが二体、さっと木々の中に隠れた気がした。仲間を呼んだのか。
「くそ、元気だったとしても俺が相手できるのはせいぜい雑魚一匹だけだってのに……!」
 塔利は苦々しくつぶやき、常に着ている黒いロングコートのポケットから携帯を取り出した。
 もちろん掛ける先は久遠ヶ原学園だ。


 撃退士がディアボロに憑かれるなど滅多にあることではない。今までの依頼のデータや教師の知識だけでは判断しきれず、特殊な事例として、日々アウル研究をしているレミエル・ネフィリム・ヴァイサリス(jz0006)に話が回ってきたのだった。
 集まった撃退士達を前に、レミエルがその整った顔立ちの口を開いた。
「塔利殿の状況は極めて悪い。『毒』と『封印』にかかっており、今日いっぱい持つかどうかといったところだ。現在対策を検討中だが、いかんせん事態は急を要する。できれば貴殿らに現地で対処してもらいたい」
「どうすれば……?」
 撃退士の一人が不安そうな顔つきで尋ねた。
「今のところは何とも言えない。弱点が分かれば人面瘡を退治することが可能かもしれない、ということだけだ」
 レミエルはそこで皆の意志を測るように撃退士達を見、改めて続けた。
「それから、塔利殿を狙って人面瘡本体のディアボロが仲間を連れ近くに潜伏している。そちらも気を抜かずに、今度は確実に仕留めるのだ」
 レミエルは今までの情報とディアボロの詳細をまとめた資料を彼らに配った。
「現場の判断に頼るところが大きいが、貴殿らなら上手くやれると信じている。幸運を祈る」


 塔利は学園に連絡してから、もう一度何とかしてみようとズボンをたくし上げて人面瘡を露出させた。
 何度見ても不気味さは変わらない。何とか気を落ち着かせようとタバコを取り出した。
 弱ってきているためか、あまり力が入らない。
 ライターの火を何度か失敗しながら付けた時、手からライターが滑り落ち、人面瘡に火が触れた。
 一瞬人面瘡の顔が火を嫌がるように歪んだが、今の塔利はそれが何を意味するのか、ちゃんと考えることができる状態ではなかった。
「誰か早く来てくれ……」
 結局タバコを吸うのをやめ、塔利は撃退士達の到着を最悪の気分で待つのだった。



リプレイ本文

●現場到着
 現場付近にやって来た撃退士達の目にも、古臭い掘っ立て小屋が見えてきた。ディアボロが潜んでいるらしいという連絡を受けていたので、辺りに目を配りながら小屋に近付く。
 全員でなるべく音を立てないように中に入ると、部屋の真ん中で塔利が剣を構えながら座っていた。
 満足に戦うことはできないとはいえ、一応敵の襲撃に備えていたのだろう。入って来たのが撃退士だと分かると、ホッとした様子で武器を時計型のヒヒイロカネにしまった。
「なんだ……、お前さん達か。ビビらせんなよ……。俺は強くねえんだ」
 疲れきったように頭を掻く塔利。
「お加減はいかがですか?」
 カーディス=キャットフィールド(ja7927)が塔利の側に寄って、様子を診る。
 毒のせいか体力が相当落ちているようで、汗もかき顔色も悪い。ボサボサの髪と伸びかけた無精ひげのせいで、余計やつれているように見えた。
「良くはねぇな……」
「熱もあるみたいですね。自然界でも毒を持った蛙さんがいらっしゃいますが、天魔にもいるなんて……厄介ですね〜」
 カーディスは自分の携帯品の中から救急箱を取り出した。
「とにかく、コイツを何とかしてくれ」
 塔利は自分の右足のズボンをまくり、膝を露出させる。膝小僧は醜く盛り上がり、奇怪な人の顔、人面瘡となっていた。
 皆その異様な物体に気味悪さを感じずにはいられない。
「うへぇ……人面瘡とかマジで気持ちわりーじゃん……」
 ハルティア・J・マルコシアス(jb2524)が顔をしかめた。彼女には犬耳と尻尾が生えており、一見するとコスプレのように見えてしまうがちゃんと体の一部だ。
「俺の場合食べる時とかにそうゆうのあったらやだなーって感じだけど、俺自身にあってもやだろうし。つっても何すればいいか分かんねーけどな」
「可愛い……なにこれ」
 ペンライトで人面瘡を照らしながら一風変わった感想を述べたのは、天海キッカ(jb5681)だ。
「可愛い? お前さん正気か?」
 塔利は自分の耳がとうとうおかしくなったのかと思い聞き返したが、
『カワイイ、オマエサンショウキカ』
 塔利が言ったことを繰り返す人面瘡を見て、天海のテンションはさらに上がった。
「えー、言ってること真似した! 可愛い〜」
 どうやら本当に人面瘡のことを可愛いと思っているらしく、興味津々だ。
「レミエルさんはこの人面瘡の弱点が分かれば何とかなるかもしれないって言っていたわ。何か思い当たることはないかしら?」
 艶めいた黒髪のト部 紫亞(ja0256)が、どことなく古風な雰囲気を漂わせながら言った。
「弱点?」
『ジャクテン』
 人面瘡の声を無視しつつ、思考の定まらない脳で塔利は考える。その額にカーディスがペタリと熱冷ましのひんやりするシートを貼り付けた。
「あー……、そう言われてもなあ〜……」
『ソウイワレテモナア』
「自分の命がかかってるのよ。ちゃんと思い出して」
「イボガエルのイボの破片が付いてこうなった、くらいしか今は思い出せねぇ」
『オモイダセネエ』

「その前にディアボロを倒した方がよくねぇか?」
 窓から外を警戒していたイクス・ガーデンクォーツ(ja5287)が、ディアボロの気配を感じたのか阻霊符を発動させた。目を覆うほど目深にニット帽を被っていても、ちゃんと見えているらしい。
「そうですね。塔利さんすみませんが、敵のいる前で治療行為は難しいので、もうしばらく待ってもらえますか?」
 雫(ja1894)がイクスの意見に同意し、戦闘へと心を向ける。まだ小さい少女なのにしっかりしている。
「俺は戦闘に行くぜ。どうせ人面瘡の対処はよく分からんから皆に任せるしー。俺は考える方じゃなくて体動かす方で。めんどいしー」
 ハルティアがそう言うと、皆の心も決まったようだ。
 確かに、ディアボロが塔利を狙っているのだったら、先にそちらを倒してしまった方が人面瘡にも落ち着いて対処できる。
「じゃあ予定通り3班に分かれて行きましょう」
 氷雨 玲亜(ja7293)は気を引き締め、出入口へと向かった。他の者もそれに続く。
「ご安心ください、私は塔利さんの護衛をいたしますから」
 にこりとカーディスは微笑み、体温低下を防ぐためレスキューシートで塔利をくるみ始めた。
「すまねぇな……」
 塔利も力なく笑う。
 本来なら自分の方が先輩なのに、人面瘡になす術もなく後輩に頼りっぱなしとは……。
 何とも歯がゆかったが、今の状態ではどうしようもない。大人しく彼らに従おう。
「しっかり掴まっててくださいね」
 カーディスは塔利を背負い、小屋を出た。
 出てすぐの所に、眉間にしわを寄せた顔でジェイニー・サックストン(ja3784)がショットガンを構えて待っていた。
「私も護衛につきます」
 顔だけ見ると不機嫌そうだが、その口調は本当に不機嫌ではないようだった。

●天魔捜索
 皆は掘っ立て小屋を背に、扇状に広がりながら雑木林に注意して歩を進めた。阻霊符が展開されている今、隠れられる場所などそこくらいしかない。
「人間大のカエルってだけでもうぇ……ってなるんだがねぇ……。なのにイボで人面瘡出来るとか冗談じゃねぇな」
 イクスはつぶやきながら苦笑した。
(人面瘡は獲物を弱らせるついでに逃がさないためのマーキングってとこかね……)
 と考えていると、視界の隅を影が横切った。素早く後を追うと、見えた!
 生意気にも二足歩行する、アンバランスな体型の巨大イボガエルだ!
 イクスはホイッスルを取り出し、吹き鳴らして皆に敵出現の合図をした。
「オタマジャクシはこっちにいねぇ! 右翼左翼気を付けろ!」
 ホイッスルで敵もこちらの存在を警戒しだした。
 氷雨が加勢しようと走ってくる。
 イボガエルがイクスの方を向いている隙に、ト部が木々の後ろから『ファイヤーブレイク』を放った! 先制攻撃だ。
 巨大な火の玉がディアボロの目の前で炸裂した。

 小屋から出、天海は少し先を行くハルティアが常に見えるようにしながら、胸の高鳴りを感じていた。
 彼女は友人。同じ女の子同士。それはとても良く解っているのだけど。
(……よく分からないけど、わんはこの人と一緒にいるとすごくドキドキするんだ。なんでだろうね)
 その感情に理由なんていらないのかもしれないけど。
 ハルティアに対して抑えられないドキドキに、自分でも戸惑ってしまう。
(でも、今は任務に集中しなきゃ)
 ドギマギしながらも敵の捜索へと頭を切り替える。
 『サイレントウォーク』を使い足音を消し、木から木へと身を隠しながら雑木林へ入った。

「倒しても食えねーし、食う気ねーけど」
 そもそもオタマジャクシって旨いの? 蛙は食用あるけどなーとか思いながらハルティアは敵の姿を探す。
 イボガエルと対峙した場合に備えて、自分も人面瘡に憑かれるなどという二次被害は喰らいたくないので、全身素肌を出さない服にし、さらにカッパを着て覆っていた。当然戦闘が終わればすぐ脱ぐつもりだ。
 尻尾も服の中にしまい、耳もカッパのフードを被って隠した。
「ここまでやったらきっと大丈夫だろ!」
 その時ホイッスルの音が響き、オタマジャクシの一匹が隠れていた茂みから飛び出した!
「!」
 しかしその背後にすでに天海が忍び寄っていた。首のない丸い体型では後ろを見ることは難しいだろう。気づかれる前に『氷の夜想曲』で奇襲をかける!
 彼女の周囲が冷気で満たされ、オタマジャクシを襲った。

 イクスのホイッスルが吹き鳴らされた時、雫の目の前にもオタマジャクシのディアボロがいた。
「ここまで大きいオタマジャクシって、気味が悪いですね……」
 自分よりも大きいオタマジャクシなどそうそうお目にかかれない。大きいだけでも気持ち悪いのに、それに足が生えて立っているとなれば気味の悪さもひとしおだ。
 まずは『闘気解放』し、自身の能力を高めた。
 なるべく塔利がいる方向に行かせないよう、位置を取る。
 相手に突撃される前に、雫はフランベルジェを構えてこちらから突進していった。
「やああっ!!」

●オタマジャクシとの戦闘
「始まったみたいですね」
 カーディスが長いおさげを振りながら物音が聞こえる雑木林へと首を傾けた。三つ編みの先に付いているリボンが彼のチャームポイントだ。
 音はわりとすぐそこで聞こえる。敵は思ったより早く接近していたらしい。
 スナイパーライフルMX27を油断なく手にしながら、カーディス達は戦闘場所から遠ざかるように移動を始めた。
「なるべく揺らさずに行きたいとは思っていますが、多少の振動は我慢してくださいね。どうしても辛かったら言ってください」
 背中の塔利に肩ごしに言った。
「ああ……、俺のことは気にしなくていい。お前さん達に任せる」
 塔利は口では強がっているが、目に見えてどんどん悪くなっているようだった。
「ま、クレーム付けられてもどうしようもないですけどね」
 辛辣にジェイニーが付け加える。言いながらも周囲の警戒を怠ってはいなかった。
 その目が雑木林から猛烈な勢いで現れた天魔の姿を捉える!
 オタマジャクシの突撃だ!
「危ねーです!」
「うわあっ!」
 ジェイニーはカーディスごと塔利を突き飛ばし、突撃してくるディアボロに銃口を向けた。
「フロッグの仲間ですか。毒がなければ驚異も感じませんが」
 ショットガンの引き金を引くと、小さな弾丸が放射状に放たれ、オタマジャクシの突撃を止めた。
 後から雫がディアボロを追って現れる。
「大丈夫でしたか!?」
「一応ね」
 ジェイニーはちらりと塔利を見下ろした。
「この程度で死なないでくださいよ? 一般人でもねーんですから」
「あ、あのなあ〜、一般人でなくても、俺は文字通り死にかけてんだよ!」
 塔利はカーディスの手を借りて起き上がりながら言い返す。それを聞いてジェイニーは
「それだけ喋れれば大丈夫ですね。あと一回くらいは」
「ざけんなー!」
「そんなに乱暴にしたらダメですよ〜」
 ジェイニーは塔利の抗議とカーディスの意見をまるっと無視した。

 オタマジャクシが再び塔利の方を向いている。人面瘡に引き付けられているのだろうか?
 塔利にではなく自分に注意を向けさせなければ、と雫は『荒死』で肉体的リミットを一段階外した。
「早めに倒さないといけませんね!」
 一気にディアボロとの距離を詰め、大剣を振りかざし連続攻撃をかける!
 一撃、二撃と顔や胴体に傷を負わせ、三撃目で突きを入れた。それは切っ先がかすっただけになってしまったが、最後の四撃目で尻尾を斬った。
 ディアボロが苦痛の叫び声を上げた。
 その間にカーディスは再び塔利を背負い直してその場を離れようとする。

 天海の『氷の夜想曲』が決まった後、ハルティアが高速の衝撃波を飛ばした。
 ディアボロは『飛燕』が命中した勢いで後方に吹っ飛んで倒れる。
「よっしゃ!」
「よーし、続けていくよ!」
 天海がデビルブリンガーを転がっている黒い体に思いっきり振り下ろした。が、オタマジャクシはそのまま転がり、鎌の刃は地面に刺さる。
「あれっ?」
 天魔がバッと起き上がったかと思うと、ハルティアに向かって突撃した!
「バーカ、そんなもん喰らうかよ!」
 オタマジャクシが突撃してくるだろうことは充分予測済みだったので、ハルティアは慌てることなく軽く跳んでそれを回避する。
 突撃直後を狙ってやろうと振り向くと、ディアボロはそのまま真っ直ぐ行ってしまった。その先は掘っ立て小屋と塔利がいるであろう方向だ。
「あ、マズイ! 追いかけるぞ!」
「は、はい!」
 ハルティアと天海は慌てて後を追った。

 オタマジャクシは茂みも突き出た枝もものともせず突き進み、ちょうど雫がもう一体のオタマジャクシの尻尾を切り落としている所に出た。
 雫の姿が目に入ると、天魔は『敵を倒す』という本能のままにそちらへとスピードを緩めず突っ込んでいく。
「もう一体!?」
 雫は避けようにもスキルの影響で行動不能だ。
 その時、ジェイニーとカーディスの銃が火を噴いた。
「全く、それしかできねーんですか?」
 ジェイニーの『回避射撃』でオタマジャクシの直線的な動きが若干曲がり、雫の脇をかすめて行く。
「こちらに来させるわけにはいきません」
 カーディスの撃った『闇遁・闇影陣』はディアボロの横腹を削る。あいにく二回目は発動しなかった。
「すみません」
 ほっとしながら後ろの二人に短く礼を述べる雫。
「おおっと、二匹そろったか!」
 ハルティアと天海も到着した。
「もう逃がさねー!」
 ハルティアは『飛燕』の衝撃波を飛ばすと同時に、自分も走った。狙いはたまたま自分に近かった方で、最初に出会ったディアボロではなかったがこの際別にどちらでもいい。要は敵を全部倒せばいいだけだ。
 『飛燕』を避けたとしても間髪入れずに蹴りをお見舞いしてやる。
 オタマジャクシは衝撃波を受けながら丸っこい体を回転させて攻撃してきた。蹴りで迎え撃つハルティア。
「こいつッ……!」
「わんだって!」
 天海もオタマジャクシの背後に回り込み、大鎌で尻尾のない背中に斬りつけた。
 ディアボロの悲鳴が耳をつんざく。

 雫ももう一度『闘気解放』し、大剣で自分に突撃してきた天魔に斬りかかった。
「やあッ!」
 蛙になる途中というよりは人間に近いようにも見える足にダメージを与えると、オタマジャクシはひるんだような鳴き声を出してくるりと反転する。
 そして天海の方へと走り出した。
「あッ!」
「危ねー!」
「え?」
 ハルティアが咄嗟に叫んだが、一瞬遅かった。
 天海は後ろからの突撃で弾き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「きゃあッ!」
「お前、もう許さねー!」
 ハルティアは『痛打』で痛烈な蹴りをお返しとばかりに叩き込んだ。
「ヌルヌルはいらん! こないだひどい目にあったしな! 俺がヌルヌルになる前に何とかしてやらー!」
 オタマジャクシが体勢を崩したところに、連続で『痛打』をお見舞いする。『スタン』状態になった。
 雫はディアボロ二体が自分の前直線上に並んだ一瞬を捉えた。
「行きます!」
 フランベルジェにアウルを集中させ、大きく振り抜く。
 三日月のようなアウルが地面を衝撃となって駆け抜け、二体のオタマジャクシを貫通した。『地すり残月』だ。
 ダメージに転げ回る天魔達。
(ハルティアさんがわんのために戦ってくれている……!?)
 天海はハルティアの戦う姿を見ながら、思わずキュン☆とときめいたりなんかしちゃったりしていた。
 仲間がやられればおおむね誰でも怒り反撃を試みるものだと思うが、天海にとっては『ハルティアが』というのがとても重要。そんなことがとても嬉しい。さっき喰らったダメージなんかなんてことない!
 と、うっかりときめいている場合ではない。
「な、なんでこんなにドキドキしちゃうの? 今はダメだよ」
 一つ深呼吸をして気を落ち着かせる。
 ディアボロがハルティアと雫で手一杯な今がチャンスだ。天海は敵がスキルの効果範囲に入る位置へ移動した。
「これで終わりです!」
 『氷の夜想曲』の冷気がディアボロ二体を一気に凍てつかせる。
 天魔はその活動を再開することはなかった。

「ふう。どうやらこちらは片がついたようですね」
 カーディスが一息ついて、塔利を下ろした。
「そいつは良かった。さすがだな、久遠ヶ原の学生は」
 塔利は具合の悪さを隠しきれていなかったが、口調だけでも明るく取り繕っていた。
 呼吸も苦しげで、もはや動くことも辛そうだ。この状態だとこれ以上移動するのはあまり良くないとカーディスは判断する。
「まだフロッグが残ってますけどね」
 ジェイニーは仲間とイボガエルが戦っているであろう雑木林に目を向けた。
「私達カエルの方、見てきますね」
 雫達は再び雑木林の中へ入って行った。
 きっと彼らがイボガエルを寄せ付けないようにしてくれるだろう。カーディスは塔利の汗を拭い、おでこのひんやりするシートを貼り替えた。

●イボガエルとの戦闘
 ト部の先制攻撃に続いて、氷雨がどこからか無数の腕を出現させた。その腕がイボガエルの体を捉える。
 『異界の呼び手』で『束縛』を与えることに成功した。
 イクスが『サイドステップ』を使用し蛙天魔に近接、メタルハルバードを水平にはらうと同時に左に移動する。一連の動きは流れるようだ。
 ディアボロは足にダメージを受け、気味悪い声で鳴いた。
「生憎とこっちの方が腕は長いのよ……」
 ト部は静かな怒りを秘めた声でつぶやくと、炎の塊を放った。氷雨もほぼ同時に『フレイムシュート』を撃つ。
 炎が天魔の体を焦がすと、イボガエルはさらに大きく声を張り上げ、イボイボの付いた棍棒を振り回した。
「おっと!」
 後方に跳んでそれをかわすイクス。
 距離を置いて戦っている仲間に向かわせないために、斧槍を矢継ぎ早に繰り出した。
 イボガエルは体型から連想される鈍重そうなイメージを覆す速さで、イクスの攻撃を棍棒で受けている。
 イクスは敵に強力な一撃を出させる余裕を与えないよう、手を休めることなく打ちかかっていた。しかしカエルが彼の斧槍をそらすために大きく身を捻ると、背中のイボが目に飛び込んできた。
「う?」
 イボを潰してしまうのを避けるため、イクスは瞬間、攻撃の手を止めてしまう。
 その間隙にイボガエルが棍棒を突き出した。
「おぅわッ!」
 イクスは反射的に反応し、かろうじて体を曲げて棍棒を避ける。
(ちッ……背後に回れねえっつーのは意外とやりづれぇな……)
 カエルの方はこっちがイボを警戒しているのを知っているのか、時折背中をちらつかせながらこちらのペースを乱そうとしているようだった。

 ト部の人差し指からディアボロの棍棒側の腕目掛けて、『L’Eclair noir』の無数の黒い稲妻が放たれた。だがイボガエルはぴょんと跳んで直撃を免れる。
「そんなトコばっかりカエルらしくしやがって!」
 イクスが再び天魔の懐に入り込もうと接近した時、イボカエルは棍棒の腕を大きく振りかぶっていた。
「しまッ……!」
 ドカンと大きな音が響き、さっきまでイクスがいた場所には直径2メートルほどの穴が空いていた。
 イクスはまともにはそれを喰らわなかったものの、至近距離にいたためダメージを受けてしまった。
「よくもやりましたね」
 氷雨の纏うアウルが、氷のように冷たい白銀に輝いた。伊達眼鏡の奥の瞳が冷徹さを帯びる。
 炎の塊が彼女の手から飛び出した。イボガエルの顔面に当たる。
 天魔の大きな口から苦悶の声が漏れる。
 さらに氷雨は召炎霊符から火の玉を出して攻撃した。
(抑えるのよ……感情に任せてはいけない……。それは自分の隙につながる)
 そして敵には情けをかけずに、非常に徹する。戦いにおいて、甘さや迷いなど邪魔にしかならないのだから。
 もう一度異界から腕を呼び出した。『束縛』で移動を封じたらヤツの手の届かない所から削り倒させてもらう。
 だが今度は失敗だった。
 全ての攻撃が上手くいかなくとも、氷雨はうろたえたりせずに冷静に状況を判断し、武器を灰燼の書に変更する。

 もう一度ディアボロは棍棒を高く振りかぶって、イクスの頭上から振り下ろした。
 ト部の『フレイムシュート』がカエルの頭部を焼き、棍棒の狙いが外れる。
「そんなもんもう喰らわねぇ!」
 ダメージから立ち直ったイクスも今度は分かりやすいモーションを見逃さず、すぐさま回避行動を取っていた。
 イボガエルが氷雨の方へジャンプ移動する。
「レディに手を出すなら容赦しないぜぇ!」
 着地のタイミングでイクスがメタルハルバードを横に薙ぐ。イボに当たらないように、足元を狙った。
 気色の悪い足に刃が食い込んだ。だが傷を受けていない方の足で、まるで本物のカエルのように後方にキックしてくる。
「く、しぶとい!」
 ディアボロはまた跳んだ。
 ト部も天魔との距離を保ちつつ、常に軸をずらしたところに位置を取りながら、執拗なまでに黒い稲妻を武器を持った手に撃ち込む。
 イボガエルは持ち手にダメージを受けすぎたのか、両手で棍棒を持ち、苛立たしげにぶうんと横に振った。
 イクスがそれを斧槍で受けると、そのまま体を持って行かれて飛ばされてしまった。
「何ぃ!?」
 咄嗟に受け身を取り体勢を起こす。顔を上げ天魔の方を見ると、イボガエルはまた跳んで移動した。
 その行動は、彼らと戦うために都合のいいよう移動しているというよりは、早く目的の場所へ行こうとしているかのようだった。
 氷雨がハッとその意図に気付く。
「いけない、あっちには塔利さんが!」
 弾かれるようにディアボロを追い走り出した。イクスとト部もそれに続く。
「行かせないわ」
 天魔がスキルの射程に入るやいなや、ト部は『L’Eclair noir』を撃つ。
 氷雨もやや近づくまで追ってから『ライトニング』を放ち、ディアボロが先へ行くのを邪魔した。
「待てやコラァ!」
 イクスは猛ダッシュでイボガエルに追いつき、側面から仕掛ける。『サイドステップ』の一撃がその足を深く切り裂いた。
 イボガエルは勢い良く地面に転がり込んだ。
「地面に這いつくばりゃただのカエルだな」
 イクスはディアボロの頭に斧槍を叩きつけた。
 天魔がまさにカエルが潰れたような声を出すのも構わず、むしろ声が出なくなるまでとばかりに何度も斧槍を叩き込み続ける。
 血まみれになりながらディアボロは立ち上がり、棍棒を高々と振りかぶった。
 だが――、ト部から放たれた炎と氷雨から放たれた雷で、それが振り下ろされることはなかった。
 ばたりと仰向けに倒れるイボガエル。
「……終わりましたね」
 ふう、と氷雨が息を吐くと、オタマジャクシを倒した仲間がこっちにやって来て合流した。

●人面瘡退治
 結局元の掘っ立て小屋に戻って、人面瘡の対処をすることになった。
「さて……やっぱり気持ち悪いわね」
 氷雨が改めて露わにされた人面瘡を見て言った。
「やっぱり可愛い〜」
 天海の人面瘡に対しての感想は変わらないらしい。さすがに触ることまではしないものの、あらゆる角度からじっくり観察している。
 塔利は若干呆れながらもそのセンスを尊敬し始めていた。
「それで、何か思い出したかしら? 人面瘡の弱点らしきものを?」
 ト部が戦闘に入る前の話の続きを持ち出した。
「ああ……、そうだな……」
『アアソウダナ』
 曖昧に答える塔利。
 今までの塔利にそれを考える余裕があった訳ではない。意識が朦朧としていた方が多かったのだ。けれども思い出さなければ自分の命が風前の灯なのも事実。
「普通は口に薬ぶち込むなり火で焼くとか聞くけどねぇ……」
 思い出すのを助けるように、イクスが皆の後ろから意見を述べた。
「煙草を水に溶かして口に流し込んでみましょうか?」
 雫が本から得た知識で提案すると、塔利はいや、と首を振る。
「コイツは飲み食いしねえんだ」
『コイツハノミクイシネエンダ』
 いちいち反芻される会話のやり取りがうっとおしいが、我慢するしかない。天海だけはそんな人面瘡の様子を見て楽しそうだった。
「じゃああとは火ですね」
「火か……」
『ヒカ』
 そこで塔利は思い出した。
「そういや、ライターの火がコイツに当たった時嫌そうな顔になった。俺はただ物が当たったから顔をしかめただけだと思ったんだが、もしかしたら火に弱いのかもしれん!」
『ヨワイノカモシレン』
 皆の顔が少し明るくなる。塔利も希望が見えたからか少し元気を取り戻したようだ。
「なるほど。火を嫌がるような素振りを見せた、と。蛙と似たような感じを覚えるわね……煙草の火でも押し付けてみたら、案外ぽろっといったりしないかしらね? 撃退士だし、根性焼きの一つや二つ、どうということはないわ」
 ト部が淑やかそうな外見にそぐわない物騒なことを言い出した。塔利は冗談かとも思ったが、彼女の目はそう言っていない。何だかイヤな予感がする。
「いや……、この歳で膝に根性焼きってのもどうかと思うが……つーか、その程度で取れるならとっくに取れてるような……」
『トレテルヨウナ』
「普通にイボを取るようなふうに扱って良いのでしょうか? 苦無とライターならありますけど」
 度の入ってない眼鏡を直しながら、カーディスは天海と一緒に人面瘡に顔を近付けて見る。何か感知できないかと、その表情などを注視していた。

「とにかく試してみましょう」

 という雫の一言で、火に炙りながら苦無で削ぐ、という塔利にとっては拷問のような治療法が試されることになった。
「塔利さん……、痛いと思いますが我慢してくださいね」
 塔利のすぐ横で苦無を炙り始めるカーディス。
 試しに天海がオイルライターの火を人面瘡に近づけてみると、人面瘡は確かに嫌がっているようだった。
 天海が足を押さえつつライターで人面瘡を炙る。カーディスが苦無で削ぎ取り作業だ。
 塔利には心の準備が必要だった。なんせカッターの刃をちょっと入れただけであんなに痛かったのだ。人面瘡を火に炙ってさらに苦無など刺し込まれたら、どんな苦痛が襲ってくるのか想像もできない。
「……よし、やってくれ」
 塔利は覚悟を決め、自らタオルを口の中に突っ込んだ。
 痛みに耐えかねて暴れないように、ジェイニーが背後に控えている。
「では」
 まずは天海がジリジリと人面瘡を焦がし始めた。顔が醜く歪んでゆく。
「わー、すごーい」
 天海は人面瘡の反応を面白がっているが、塔利はそれどころではない。
「うぅ……」
 千本の針で刺されているかのような痛みが塔利に伝わってきた。歯を食いしばり懸命に堪える。
「いきますよ」
 充分炙ったと思われるところで、カーディスが苦無を膝に食い込ませた。
「ぐ、アアア!」
『アアア!』
「動かないでください!」
 塔利の肩を掴んでいるジェイニーの手に力がこもる。天海も足をしっかり押さえつけている。
 しかし塔利の痛がりっぷりは半端じゃない。見ている方もこのまま塔利まで死んでしまうのでは、と不安になるほどだ。
 人面瘡も塔利と共に苦しげな声を上げている。
 苦無は徐々に人面瘡の端を切り離しているように見えたが、カーディスも苦戦しているみたいだった。
「これ以上刃が入りません」
「グアアア!」
 ジェイニー達を振りほどこうとする塔利の力が増していく。
「いい大人が面倒かけんじゃねーですよ!」
 ジェイニーは塔利にスリーパーホールドをかけた。
「ウグウゥッ……!」
 塔利は顔を真っ赤にして首に回されたジェイニーの腕をタップする。天魔とは別の原因で死に至りそうだった。
 カーディスは作業を中断した。天海もライターを消す。
 ふっと痛みがなくなり、塔利から力が抜けた。それを認めてから、ジェイニーもゆっくり腕を離した。
「はあ、はあッ……! だ、ダメだ、俺には耐えられねぇ」
 荒い息をつく塔利。
 人面瘡は端がわずかにめくれていた。血は出ていない。
「普通の手段が駄目なのなら、スキルを試すしかないわね。『ファイヤーブレイク』でどうかしら」
 ト部がす、と腕を前に出した。
「そのまま彼を押さえていて」
「え、おい……!」
 がしっとジェイニー、カーディス、天海が塔利を動かないよう再び押さえつける。
 塔利が何か言う前にト部は火球を手に出現させ、彼の膝に狙いを定めて放った!
 人面瘡に命中し、炸裂する。

 これでダメなら、もうなす術がない――。

 ト部が祈るような気持ちで人面瘡を見ていると、奇怪な顔はみるみる炎に焼かれ、消し炭となってぼとりと剥がれ落ちた。
「――やった!」
 ハルティアが最初に歓声を上げ、やがて皆もそれぞれ喜びの声を上げた。
 一番ホッとしていたのはもちろん塔利だ。
「ふーーーっ……」
 心底疲れたため息を漏らした。『毒』も『封印』もこれでなくなるだろう。
 疲れた……。今回は本当に疲れた……。
「衰弱が激しいですから、一度病院へ行かれた方が良いかもしれませんね」
 カーディスが優しく塔利に声をかけた。
「ああ……、ホントに感謝してる。お前さん達には心から礼を言うぜ。ありがとう」
 まだ弱々しくはあったが、塔利は皆に感謝の笑顔を向けた。
「貴方は自分のことを弱いと言っていましたが、本当は強い方だと私は思いますよ」
 雫が彼に言うと、塔利は違う違う、と手を振る。
「俺は『弱い』とは言ってねぇ、『強くねぇ』んだ。ま、強くねぇから痛みにもあのザマなんだけどな」
「そういうことではありません」
 彼は気づいていないのだろう。だから雫は続けた。
「自分が危機に陥っている時に、周囲の人を気遣うなんて中々できませんよ?」
 それを聞いた塔利は、はは、と笑った。
「まさかお嬢ちゃんほどの後輩に励まされるとはな。お前さん達だってきっとそうするさ。撃退士なんだからな」
 雫は何だか誇らしい気持ちになった。
「あ、あとなー、お前、ちょっとは身なりに気ィ使え。野生動物でもするぜ?」
 ハルティアが説教口調で一言物申す。
 塔利は今気づいたかのように自分の顎とボサついた髪をなでてから、
「お前さんこそ、悪魔とはいえ一応女なんだから、もうちょっと女らしくしちゃどうだ?」
 とからかう。だんだんいつもの調子が戻ってきたらしい。
「ちぇ、余計なお世話だー」
(ハルティアさんにそんなこと……!)
 なぜか天海が頬を赤く染めて反応していた。

●無尽光研究室
「……そうか。ご苦労だった。塔利殿からは詳しい話を聞きたい。大丈夫なようなら、一緒に連れて来てもらえるだろうか? よろしく頼む」
 レミエルは通話を終えた。
 ト部からの報告を聞いた彼は、安堵するとともにいくぶん満足そうだった。

 イボガエルの死骸はイクス達が倒したと思っている場所ではなく小屋の近くで発見されたが、それに疑問を抱く者は誰もいなかった。




依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 原罪の魔女・卜部 紫亞(ja0256)
重体: −
面白かった!:3人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
闇に潜むもの・
ジェイニー・サックストン(ja3784)

大学部2年290組 女 バハムートテイマー
撃退士・
イクス・ガーデンクォーツ(ja5287)

大学部4年16組 男 阿修羅
新世界への扉・
氷雨 玲亜(ja7293)

大学部4年5組 女 ダアト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
セーラー服探索隊・
ハルティア・J・マルコシアス(jb2524)

大学部2年16組 女 阿修羅
ゴーストハント・
天海キッカ(jb5681)

大学部4年239組 女 ナイトウォーカー