●そうめん試食会
「皆よう集まってくれたなあ〜!」
滝田が調理室に集まった面々を見て言った。
「ああ、それにちょっと見た限りでも皆色々材料持って来てくれたみたいだし、かなり期待できそうだな!」
山本も美味いものが食えるという期待感でいっぱいのようだ。
「頑張って作ります。美味しく食べてもらいたいです!」
影利(
jb4484)がにこにことやる気を示す。
料理することもそれを食べてもらうことも好きな彼女にとっては、これはうってつけの依頼と言えるだろう。
「初めての日本の夏ですっかりお素麺の虜になりました! 自分でも色んなアレンジを覚えて帰れたらいいなあーって思います!」
イザベラ(
jb6573)も普段は影が薄いが、今日は珍しく自己主張している。
「うむ、美味なるものを食べたいという気持ちは解らないでもない。魔界の大公女たるわらわ自ら料理してくれよう。むせび泣いて感謝するがいい!」
見た目はまるで小学校低学年の少女、でも本人曰く立派な悪魔だというジャル・ジャラール(
jb7278)は得意げに胸を張った。
「全部食べれますかね……」
と少々不安げなのは、吾妹 蛍千(
jb6597)だ。
大体の者はそれなりの量を食べると知り、皆朝食を抜いたり運動をしたりしてお腹を空かせてきていた。
「じゃあ早速始めようか。そうめんは俺が茹でるから、皆は自分のレシピの用意をしてくれ」
山本が鍋とそうめんの袋を取り出した。
●サラダそうめん
まずは榛原 巴(
jb7257)が準備に取り掛かった。
「そうめん上がったぞー」
山本がそうめんをざるに上げる。榛原がそのそうめんを氷を入れた冷水でよく冷やしてから、水を切った。
「私のレシピはさっぱりして美味しいですよ? オススメです」
冷やしたそうめんををボウルに移し、引きわり納豆、千切りしたきゅうり、ツナ、鰹節、だし入り醤油、たっぷりめの生姜を順番に加えて混ぜる。
これで出来上がりだ。
名前通り前菜のようなそうめんになった。
「さあどうぞ!」
全員分に小分けして皆の前に並べる。
「ほっほう! 美味そうだのう! はよう食べさせてたもれ!」
ジャルは待ちきれない様子で、そのそわそわした姿は本当に子供のようだ。
「「いただきまーす!」」
皆で挨拶をし、最初のレシピ『サラダそうめん』を試食。
「生姜の香りと辛味でいくらでも食べられちゃいそうです……! 絶対自分でも試したいです」
イザベラが感動の声を上げ、
「確かに、これは材料混ぜるだけで簡単だしいいな!」
山本もたちまち完食した。
他の者も美味しく食べているようだ。
「滝田さんどうしたんですか?」
影利がまだ箸をつけていない滝田を不思議そうに見た。
「いや、納豆がな……」
関西人の滝田は納豆が苦手なのか、難色を示していた。
「でも、そんなに多いわけではありませんし本当に美味しいですから、一口だけでも食べてみてください」
『天使の微笑み』でにこにこ。
「せ、せやな。せっかく作ってくれたんやしな」
滝田は一気に口の中に入れ、食べた。
「……思ったより美味い」
榛原がホッとしたように笑った。
そして彼女が一番その感想を聞きたい人物――斎宮 輪(
jb6097)に目を向けると、
「うん、美味しい。巴の料理はちゃんと味が確立しているから、な」
「良かった!」
榛原は心から嬉しそうに言うのだった。
●肉じゃがそうめん
次は斎宮のレシピだが、本人が作るとなぜか爆発するというので、材料を榛原と影利に渡し調理を任せることに。
「ふふ、輪さんと一緒の依頼なんて最高ですね♪」
榛原は幸せそうだ。
山本がそうめんを茹でているのとは別の調理台で、榛原と影利は肉じゃが作りを開始。
影利はフリフリのエプロンですっかり主婦になりきっている。
斎宮は換気扇を全開にしたり、窓を全部開けたりして熱気がこもらないよう努力していた。
榛原と影利は作業を分担しながらじゃがいも、にんじん、玉ねぎを切り、フライパンで牛肉を炒めていく。ある程度火が通ったら野菜としらたきを入れ軽く炒める。
汁多めとの斎宮からの指示なので、水を多めに入れて、酒、みりん、砂糖を適量加え、だし入り醤油で味を整え、煮込むこと数分。
で、出来上がったものを斎宮に託した。
斎宮は時間を見計らって湯がいてもらったそうめんを肉じゃがに投入、汁と絡めて完成だ。
肉じゃがにそうめんを入れるという大胆な発想のひと品である。
「「いただきます!」」
「うん、割と美味い。というかいつも通りだけどね」
斎宮自身も納得の味に仕上がった。
そんな斎宮を見ながら、榛原も相変わらずだな、と思いながら食べていた。
「これアイディアにも味にも脱帽です! どうやって作るんですか? 後でレシピ教えて欲しいですぅ!」
と、やたら気に入ったようなのは吾妹だ。
「あたいも教えてもらって、ご主人様に食べてもらうみゃ☆」
ダイフク・チャン(
jb5412)もその発想に感心している。
イザベラは自分の分の量を見て、軽く絶望。食べ切れるか自信がないので、半分ほどジャルの器に移させてもらった。
「本当に助かります!」
「構わぬぞ! わらわはいくらでも食べられるからな!」
ジャルは嬉々として全部平らげた。
「この組み合わせは思いつかなかった」
山本も意外な組み合わせに唸っていた。
●そうめんお好み焼き
影利はそうめんを小麦粉の代わりにしてお好み焼きを作るつもりなので、早速キャベツを刻んでいく。
てきぱきと動き、キャベツの千切りも素早く正確だ。料理が楽しくて仕方ないのか、常に笑顔を絶やさない。
キャベツと硬めに茹でたそうめん、卵を混ぜ、フライパンに広げて焼いていく。上に豚バラ肉を乗せた。
両面を程よく焼き上げると、削り節と青のり、ソースやお好みでマヨネーズをかけて完成!
外はパリパリ、中はもっちりのおやつ感覚のレシピだ。
「さぁどうぞ、召し上がれ!」
「ふぅん。表面がパリパリだね」
というのは斎宮の感想。
「このパリパリ感がいいですね!」
「パリパリ食感最高ですねぇ」
イザベラと吾妹は食感が気に入ったようだ。
「これは中々エエな! 俺の好みに合うわ!」
滝田ももりもりがっついていた。
「しかし……さすがにあっついな……」
ずっとそうめんを茹でている山本は当然汗だくで、部屋も夏の暑さ+調理時の熱気はいかんともしがたいことに。
山本と滝田はここまでの事態を想定してなかったが、皆はちゃんと予想していた。
「そうですね〜」
榛原は持参していたアイスノンで額や首を冷やす。
「皆さんどうぞ」
影利がタオルを皆に差し出し、斎宮がスポーツドリンクをコップに注いで配った。
「おう、スマンな〜。皆ちゃんと用意してたんやな〜」
皆の用意周到さに滝田は小さく驚いていた。
●そうめんチヂミ
ジャルはまず手洗いにうがいをしてからエプロンを着け、背が低いため椅子を踏み台替わりにして調理に取り掛かる。
なぜうがいもしたのかといえば、彼女の信頼している人にやった方がいいと言われたからだ。本人は疑問も持たず『そういうもの』だと思っているらしい。
ジャルは山本が茹でたそうめんを細かく切った。外見が子供だからか、何となく危なっかしい雰囲気が漂っている。
切ったそうめんに片栗粉を入れよく混ぜ、卵、粉末だし、塩、薬味を入れてさらに混ぜた。
フライパンにごま油を多めに引いて、フライ返しで押し付けながら薄く焼いていく。
途中ちょっとまごついたり、生地をひっくり返す時に形が崩れてしまったりしたが、両面をこんがり焼いた。
人数分に切り分け、ポン酢でいただくのがジャル流だ。
「これは『もっちりちぢみ』だ。さっぱりしていて食べやすいのだぞ!」
自信満々に披露したジャルだが、
「若干焦げてるな」
「俺のはヒビが入っとる」
山本&滝田に指摘されてしまった。
「し、仕方ないであろう! 最初から最後まで一人で作ったのは初めてなのだ! いつもは細かいところはあやつが……」
最後の方はもにょもにょとフェードアウトしてしまった。
『あやつ』というのは料理の前にはうがいもするように言った人物だろうか。
とにかく皆で食べてみる。
影利のお好み焼きと似ているようでまた違った味わいがある。
「うむう……不味くはないがこんな味だったかのう……?」
ジャルが思い描いていた結果とは何となく違っていたようだ。
でも
「チヂミも素敵です!」吾妹。
「ええ、また先ほどのとは全く味が違って……!」イザベラ。
「チヂミって初めて食べた」斎宮。
皆には中々好評だった。
「材料も手間も少なくていいな!」
山本も作り方を思い出しながら、美味しく食べた。
●あさりとそうめんの炒め物
「素麺料理みゃか〜。普段はめんつゆに鯖の水煮缶を入れて食べるくらいみゃからねえ……これだけでも、めんつゆにコクが出て美味しいみゃよ?」
ダイフクは独特な口調で言った。
「なるほど」
山本がうなずいたが、
「けど今日は違うものを作るみゃ。とりあえず……あさりが美味しそうだったから持って来たみゃが……」
ダイフクは材料をテーブルに出し、作業を開始した。
にんにくを薄切りにし、しめじを小房に分ける。
「あ、そうめんは硬めにして欲しいみゃ」
「了解〜」
山本が注文通りにそうめんを茹で、冷水でもみ洗い水を切り、ダイフクの側に置いた。
それを横目で確認しつつ、ダイフクはフライパンにオリーブ油とバターを入れて弱火にかける。バターが溶け始めたら切ったにんにくと赤唐辛子を加えて、じっくりとにんにくがきつね色になるまで炒めた。
にんにくの香りが辺りに漂う。
それからしめじを加えて強火で炒め、しめじがしんなりしてきたらすでに塩水に浸けて砂出ししておいたあさりも入れて、さっと炒める。
「良い匂いみゃ〜☆」
そして白ワインを回し入れ蓋をして蒸す。
あさりの口が開いたら蓋を開け、そうめんを入れて軽く炒め、塩、黒胡椒で味を整えた。
皆の器に盛ると、さらに万能ねぎを添え、
「あとはカイエンペッパーを振って完成みゃ☆量は好みで変えてみゃ〜☆」
レストランのパスタメニューにありそうな、本格派な料理となった。
「にんにくの風味とカイエンペッパーが利いてますね!」
早速食べてみた影利が言う。
「うん、あさりがいい感じだね」
斎宮も変わらないペースで食べている。
しかし普段から食の細い榛原やイザベラはだんだん辛くなってきたようだ。
「輪さん、三分の二ほどお願いしていいですか?」
「ああ、いいよ」
榛原は斎宮に、
「ジャルさん、度々すみません」
「気にするな! 遠慮なく寄越すがいい!」
イザベラはジャルに、残す前にいくらか任せていた。
「それにしても、皆料理上手いんやな〜。全部ハズレなしやもんな」
滝田が心底感心したように今まで食べてきた皿を見回した。
●トマたま素麺
これを作るのは吾妹だ。
「素麺舐めたら駄目ですよぉ!」
愛用の女子用エプロンを着けながら、かなりのハリキリ。それから調理中暑さにやられないよう、保冷剤を首に巻いた。
見た目は美少女なので、女子用のエプロンでも何の違和感もない。
まずはトマトを食べやすい大きさにカットし、フライパンへ。
鶏ガラスープの素とサッと混ぜ合わせ、溶き卵を流し入れた。卵が半熟のうちに茹でたそうめんを投入。
手早く混ぜて胡椒で味を整えて、名前も見た目も可愛らしい一品が出来上がった。
「あ〜、湿気と熱気溢れるこんな台所にはもう入りたくないねぇ」
皿に盛りながらボヤく。
「わー、彩りが綺麗ですね!」
イザベラがジャルに分ける前に、いそいそと携帯を取り出し写メに収めた。
「味も食べやすくて美味しいです!」
「材料これだけなのに、ちゃんと味ついてるんだな」
「炒めるとだいぶ食感が変わるんだね」
イザベラや山本、斎宮の褒め言葉に、
(トマたま素麺が美味しいのは当たり前だろ?)
「流石ボク」
ついついこっそりドヤ顔をしていたことに吾妹本人は気づいていなかった。
●イタリアン素麺
「私のレシピも簡単なんですよ」
イザベラも手際良く調理を開始した。
始めにトマトを湯むきし、めんつゆ、オリーブオイル、おろしにんにくと一緒にミキサーにかけた。
これが基本のつけ汁となる。
薬味としてスイートバジルを刻み、ベーコンをカリカリに炒めたものとツナを添える。
これだけだ。
「残ったつけ汁はトマトスープとして飲んでも美味しいんですよ!」
そうめんが上がり、試食へ。
一見シンプルだが、ちゃんとイタリアンな風味が出ている。
「うん、これは俺でもできるし美味い! ベーコン美味い!」
山本はベーコンばっかり入れて食べていた。
「せやなー、ただのめんつゆとは違う味やし、薬味でまた変わってエエかもな!」
滝田の口にも合ったようだ。
「イタリア風っていうのも面白い、な」
斎宮が言いながら自分の分と榛原から回された分を完食。
ジャルもイザベラにもらった量をものともせず、その小柄な体に収めていた。
「最後は煮麺にしましょう」
イザベラは残ったつけ汁を温め、そうめんを入れて少し煮込んだ。
温かいスープの香りが皆の鼻をくすぐる。
「「いただきます」」
一口スープを飲み、ほっとイザベラは息をついた。
「暑くて冷たい物ばかり飲食しがちなので、あったかいスープでほっとしますねえー……」
「煮麺にもなるのは良いですね」
榛原も煮麺の温かさで癒されたような気分になる。
「どれも美味しかったので、全部食べられちゃいました!」
影利がスープを飲み干して満足気に器を置いた。
吾妹も最初は『食べれますかね……』などと言っていたが残すことなく食べきり、全員の皿は気持ち良く綺麗に空になった。
「「ごちそうさまでした!」」
「はぁ〜ついでに酒でも飲みたい気分だのう……」
ジャルがまだ物足りないとでも言うようにお腹をなでつつ問題発言。
いや、年齢的には何も問題ないのだが、外見的にはかなり問題アリだ。
「その外見で言っても飲ませないからな?」
山本がツッコミを入れると、
「わらわは子供ではないというにー!!」
ジャルは子供のように地団駄を踏む。
その様子がおかしくて、皆で笑った。
「それよりも皆さんのレシピ、改めて教えてくださいよぉ!」
「あたいもお願いするみゃ☆」
「私も参考にしたいです!」
吾妹がメモを用意しながら言うと、ダイフクや影利も便乗し、それからはお互いの料理話に花が咲く。
「俺も混ぜるだけの簡単なやつ教えてもらっとこ」
「そうやな、皆の料理は全部美味かったし、俺も来年からはもう少しそうめん食べてみよかって思ったわ」
山本と滝田も話に混ざり、そうめん以外の料理でも安くて簡単なレシピを教えてもらったりした。
こうして、そうめんちょい足し試食会は盛り上がりのうちに幕を下ろしたのだった。
全部おいしくいただきました♪