●月曜日
「何だこりゃ?」
学園の下駄箱で、山本は手紙が入っているのを発見した。
宛名は確かに自分なので中を見てみると
『拝啓山本仁様〜厳正なる抽選の結果、学生番組制作で滝田雅斗様にドッキリを仕掛けることになりました。是非ご協力頂きたくお願い申し上げます。後ほどスタッフがお伺いしますので〜』
といった内容が書かれていた。
「ドッキリ? アイツに? ……へえ」
滝田の慌てる顔を見るのも悪くない。話だけは聞いてみようとニンマリする山本だった。
「食いついたみたいですよ」
陰からその様子を見ていた沙 月子(
ja1773)もニンマリ笑う。手紙を入れたのは彼女で、滝田をドッキリに掛けると偽り実は山本に仕掛けるという狙いだった。
「えへへ……ユウ、こんな体験初めて。楽しくなりそー! 頑張ってドッキリさせるぞッ☆」
ユウ・ターナー(
jb5471)も今からワクワクだ。
「ヴァロ、楽しいこと、好き」
小悪魔的ににぃ〜♪と笑ったのはヴァローナ(
jb6714)だ。
「ドッキリの仕掛け人は足りてる……必要なのは……お客さんね」
稲葉 奈津(
jb5860)はやるからにはちゃんと山本から良い反応を出せるようにするつもりだった。それにはギャラリーが必要だと考える。
「儂は名づけて『スリップレゼンツ』作戦じゃ! 月子の嬢ちゃんの番組スタッフちゅーことでいくわい」
昭和の不良のようなリーゼントに白特攻服の一文字 紅蓮(
jb6616)が豪快に言う。
「知夏は質より量で攻めるっすよ!」
うさぎの着ぐるみを着た大谷 知夏(
ja0041)も元気に宣言。
全員の言葉を聞き、滝田は満足気にうなずいた。
「皆頼もしい限りや! よろしく頼むで!」
一時間目終わりの休み時間、さっそく沙は番組スタッフとして山本に接触した。
「初めまして、同じ学年の沙です。私お笑いとか好きなんです。よろしくお願いしますね」
怪しまれないよう、にこっと微笑んだ。
「で、俺はどうすればいい?」
「なるべく滝田さんと一緒にいていただければ。詳細はまだお教えできないんです。でも学園内は隠しカメラで撮影しているので、もしも滝田さんがスルーした場合は山本さんが拾ってください! 番組にならないので!」
「ええ〜。んー、まあ解った」
しめしめ。
山本に見せている笑顔の裏で、月子はニヤリと笑った。
次の休み時間、大谷の携帯に滝田から連絡が入った。山本が滝田の教室に来るらしい。
大谷は滝田の教室のゴミ箱に潜み、山本を待つ。彼女はいつも着ぐるみを着ているので、この姿も驚かすのに役立つだろう。
扉が開いた。
「おーい滝田ー」
今だ!
「どーん!!」
ナイスなタイミングで山本の前に両手を広げて出現!
「……」
山本は確かにびっくり顔だが、無言。むしろ近くにいた女子が派手に驚いていた。
「じゃーん!」
大谷は『ドッキリでした!』と書かれたプラカードを出す。
「それじゃッ」
唖然としている山本を置いて、大谷はたたっと教室を出て行った。そんな山本をヴァローナが廊下から見ている。
「ん?」
山本と目が合った。ヴァローナはほんのり頬を染め、さっと目をそらして立ち去った。
次の休み時間も、山本は滝田を連れ出した。沙の指示でこちらに来ると連絡をもらい、一文字は廊下にいくつものバナナの皮をバラ撒き仕込み完了。
その周りでは、稲葉とユウが
「何かここでやるらしいよ」
「なんだろ、楽しそうだねっ☆見てみようよ!」
と生徒の足を止めさせ、見物人を集めていた。
山本達が通りかかるのを見計らい、反対方面から一文字が歩いて行く。彼の目の前でバナナの皮を踏み豪快にすっ転んだ。
「うおおスベったあぁっ!」
しかしそれだけでは終わらない。さらに釣られた魚のごとく跳ね回った。
通行人はもちろん、山本も驚く。滝田は大爆笑していた。
一文字は普通に立ち上がり、『ドッキリ!』と書かれたプラカードを皆に見せた。
「ドッキリ企画じゃ! 今みたいな良い反応を集めとるんじゃよ」
「こんなあからさまなドッキリで!?」
「これも番組企画です」
こっそり山本に言う沙。
「変な番組だなあ……」
●火曜日
昨日に続き山本と滝田、沙の三人は、何かと理由を付けて休み時間になると行動を共にしていた。
大谷は今日は廊下の曲がり角にスタンバイ。山本達が歩いて来る。
ターゲットが曲がろうとする寸前、勢い良く飛び出した。
「わッ!!」
「うおッ!?」
「はーい♪」
大谷はまたドッキリプラカードを見せて走り去った。
「今のって……、完全に俺にやってたよね?」
山本に視線を向けられ、沙は慌てて言い訳。
「わわっ、二人組って伝えたので間違えたのかもしれません! すみません! 気をつけますので!」
また廊下の先からじっと山本を見つめるヴァローナ。
「あ」
山本に気づかれると、昨日と同様はにかんで身を隠した。
再び一文字は山本が通るであろう廊下にバナナの皮を撒く。稲葉とユウのおかげでギャラリーもバッチリだ。
連絡通り、山本ら三人が一緒にやって来た。
彼らが見ているのを確認してから、一文字は皮を踏ん付け、転ぶと見せかけて一回転! 着地するかと思いきや、もう一度皮を踏んで滑り尻で着地!
ギャラリーからおお〜、という声が上がる。
「今の逆にすごくないか!?」
思わず言った山本に、一文字がドッキリプラカードを見せながら笑った。
「なんじゃ、また主か」
「ちょっとマジウケるんですけど〜♪」
稲葉が滝田と目配せし、ギャラリーを装い山本に聞こえるように言った。
「うんうん、今の面白かったよねっ☆」
ユウもはしゃいでみせる。
「さあ山本さん、頑張ってください!」
沙のまさかの無茶ぶり。
「はあ!? ちょ、おま、無茶ぶりもいいトコだろそれは!」
「面白い人っていーよね〜」
「面白い人大好き!」
「付き合ったら絶対楽しいよね〜」
さらに聞えよがしな稲葉とユウの会話。
(コレで行かんかったら芸人やないで!)
滝田や沙達が見守る中、山本はバナナの皮を踏み
「わー、色んな意味でスベったあ〜!」
と言いながらわざとらしくコケた。
「……そうですね」
「ヤマ、まだ明日があるで!」
厳しい沙の言葉と何だか切ない相方の励まし。
「ちくしょーーーッ!」
山本ダッシュ! そこでギャラリーがどっと笑った。
●水曜日
(俺は、何か試されてるのか?)
山本は薄々気づき始めていた。
滝田にドッキリを仕掛けると言いつつ沙は一向にその打ち合わせをしないし、ちょいちょい出てくるウサギ少女は明らかに自分狙いだ。
おおよその察しはつく。きっと滝田の差し金だろう。
「受けてたってやろうじゃねーか!」
立ち上がろうとしたら椅子が尻にくっついてくる。
「わわっ!?」
バランスを崩して転んだ。その拍子に椅子が離れ、椅子の裏には『ドッキリでした〜』の張り紙が。
大谷は悔しがっている山本の背後に忍び寄った。
す、とパンパンに膨らませた風船と針を取り出し――、
パアン!
「うわあッ!」
「じゃっ!」
またプラカードを見せて去って行った。
「……くっそお〜! ん?」
ヴァローナも彼を遠くから見つめるのを忘れない。
今日も休み時間になると廊下にバナナの皮を撒く一文字。すでに噂になっているのか、稲葉とユウが何もしなくても自然に生徒が集まるようになっていた。山本も滝田達と一緒にいる。
一文字は今日はすっ転んでからの顔面着地、そのまま三点倒立を決めた。
ギャラリーから拍手が沸き起こる。
それからドッキリプラカード。
「ドッキリしたかのォ」
「もうそれドッキリじゃねーから!」
山本のツッコミ。
滝田が軽めに山本の背中を押す。
「何だよ、押すなよ」
「あ、それはお笑いで言うところの『押せ』ってことですね!」
「いや、ちがッ……」
沙が山本を思いっきり押した!
「だああぁっ!」
山本は偶然にも両足にバナナの皮を踏んで前のめりに滑り込む。
どっと笑いが起こった。
「ええやん、持ってるやないかお前!」
「いってーっ! 違うから! 今のはフリじゃねーから!」
「アハハハ!」
「ヤダー、あの人超面白ーい!」
稲葉が山本の芸人魂をくすぐるように言うと、山本は赤くなりながらもまんざらでもない顔だった。
「山本さんって、彼女います?」
沙が放課後唐突に尋ねた。
「な、なんで?」
「いえ、一緒にいるところを見られたのか間違えられたみたいで。私は彼女じゃないって言ったら、好きな人がいるか聞いてきて欲しいって頼まれたんですよ」
「いや、別にいないけど」
動揺しているのがバレバレだ。きっと時々見ていたヴァローナを思い出し意識し始めたのだろう。
(悪戯って、ココロ惹かれますよねえ)
最終日の展開を想像して沙は心の中で腹黒に笑った。
●木曜日
休み時間、一文字はまたバナナの皮を廊下にセッティング。稲葉とユウもギャラリーに紛れ、山本達もやって来る。
一文字は普通にそこを通りかかり、普通に皮を踏んで、地味に転んだ。
皆がアレ? と言葉を失いしんとなる。
「それだけかよ!」
たまらず山本がツッコんだ。
ニヤリと笑って、プラカードを持った一文字が山本に近づく。
「今度は何をするんじゃろうか、と頭の中で面白い想像をせんかったか。格好良くて近付き難いおにーさんよりゃ、儂は面白いおっさんになりたいのぅ。お主はどんな人になりたいんじゃ?」
おもむろにバナナを山本に手渡した。
「アンタ……」
山本はじっとバナナを見……、皮を剥いて猛然と食べだした。
食べ終わるとその皮を頭の上に乗せて、
「ノッ○さんの帽子!」
ブハッと隣で滝田が吹いた。一瞬遅れてギャラリーも笑いに包まれる。
「楽し〜あの人マジでイケてなーい? やっぱ時代はお笑いよね〜」
「すっごい笑える〜ッ☆」
稲葉とユウも山本を乗せる。
「お主やるのォ」
「それや! それやでヤマ!」
「滝田!」
ガシィッ!
二人は熱く抱擁を交わしあうのだった。
昼休み、校庭のベンチにやって来た山本と滝田。
そのベンチの上に張り出している木の枝には、『ハイドアンドシーク』で気配を消したユウがいた。
山本が枝の下に座り、普段のように滝田と雑談しながら昼食を食べ始める。
ヴァローナは山本に気づかれないよう校舎窓から彼を目視、『意思疎通』を使い彼にお経を送信していた。
「なぁーむあーみだぁーぶぅー……」
ぞくりと身を震わせる山本。
「な、何か聞こえないか?」
「おん? 何かってなんや」
「お経、みたいな……」
山本がしきりに辺りを気にしだす。
ヴァローナはここぞとばかりに
「お前には俺の声が聞こえるんだなあ〜?」
「うわああっ!?」
山本がパンを放り出してベンチの端に寄るように逃げると、上から逆さまになったユウがぶらんと現れる。
「バァッ」
「どわあああッ!!」
『ドッキリ成功★』と書かれたお札がひらりと落ちてきた。
ユウは木から飛び降り、あはは、と笑いながら走って行った。
「ええー!? いや、心霊的なものはダメだって!」
「ぶははは、お前えらいビビリようやったなあ〜」
「ちくしょーーーっ!」
山本はまたダッシュで消えるのだった。
●金曜日
ヴァローナは山本の下駄箱に手紙を入れた。
『放課後、高等部二年の校舎裏でお話したいことがあります』
と書いてある。ひと目で女子からだと分かるように、ピンクのレターセットで文字も可愛らしく、かすかに花の香りまで付けた。
今までの彼の反応からすると、来る。きっと来る。
山本は周りの物音や人の動きに対して身構えるようになっていたが、今日はウサギ少女も出ないし廊下にバナナもない。もう終わったのかまだ何かあるのか、彼の中で疑念が渦巻いていた。
放課後直前、密かに大谷は自分の計画を進めていた。
「ふっふっふ……」
取りい出したるは赤い液体の入った細くて小さな瓶。
1.5リットル程のスイカジュースに瓶の中身を三分の一以上ぶっ込み、よくかき混ぜた。
それを人数分の紙コップと一緒に保冷バッグにしまい、バッグを持って最後のドッキリ場所へと向かった。
指定した校舎裏では、山本を待つヴァローナの他、滝田と仲間全員が隠れて成り行きを見守っていた。
「お、来たで」
さすがに疑っているのか、山本は警戒気味のようだ。それでも来てしまうのはやはり男の性か(笑)
「あ、あの……前から気になってて……もしよかったら……」
ヴァローナはもじもじと上目遣いで、そっと手紙を差し出す。
「ま、マジで……?」
コレは告白イベント!? 何のフラグが立ったのか知らないが!
『悪魔の囁き』の効果もあってか、山本の顔は期待感丸出しだ。
ワックワクで開いた手紙には、
『ドッキリ終了のお知らせ。お疲れさん』
と明らかに見たことのある――滝田の字だ――文字で、書かれていた。
「……なんじゃこりゃあああーッ!!」
山本の雄叫び。
「よっしゃああ、最高のリアクションやで!!」
滝田が隠れ場所から走り出て来た。
「滝田お前……!」
「ふふ……本気にした……? ごめん。全部滝田の計画」
ヴァローナがくす、と笑うと皆もぞろぞろと出て来る。
「あッ、ウサギ少女にバナナヤンキー!」
山本にもようやく合点がいったようだ。
「ごめんねー、番組っていうのも嘘」
沙も一応謝りながらクスクス笑っている。
「でも、ユウは楽しかったよっ☆」
「ごめんね……ちょっとひどかったかなぁ〜とも思ったけど……でも相方さんの気持ちも分かってあげてね? 行き過ぎた所もあったと思うから……これをお詫びと思って受け取って」
稲葉とユウが一緒に、箱を山本に渡す。
山本の目は確実に疑っている。というかコレはどう見てもカブせ……。
心を決めて山本が箱を開けた。
案の定びよーん! と飛び出るバネの人形。
「おわああ! 何だよもー、びっくりするじゃんかー!」
山本は派手に後ろに倒れて驚いた。
「出来るよーになったやないか! 俺は嬉しいで、ヤマ!」
大げさに感涙する滝田。
箱の中には『お疲れ様♪山本先輩、面白かったよ(はぁと) 稲葉&ユウ』と書いた手紙も入っており、それを読んだ山本は思わず笑顔になるのだった。
「さぁ皆さん! 喉が渇いた頃だと思い、知夏がジュースを用意しておいたっすよ♪」
大谷が保冷バッグの中から紙コップとスイカジュースを取り出し、てきぱきと皆に配り始めた。
「おお、気が利くやん!」
「ありがとう」
ジュースも注ぎ全員に行き渡ると、
「それでは乾杯っす!」
大谷の音頭で皆もコップを掲げた。
「「かんぱーい!」」
「どうぞ、一気にグビグビっといってくださいっす!」
大谷以外は皆気分よくジュースをあおる。
………。
「ぐぼらぁっ!!」
「がはッ!」
「な、なにこれ!?」
「水〜〜〜ッ!!」
そこは地獄絵図と化した。
ジュースに混ぜていたのはタバスコだったのだ。
「ふっふっふー♪ドッキリ大成功っすよ!」
大谷がニカッと笑ってVサイン☆
ちゃん ちゃん♪