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マスター:九三壱八
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/01


みんなの思い出



オープニング

 空を偽りの命が飛んでいる。
「きゃんどるぐりふぉーん」
 眺め、ヴィオレットは小さな両手をいっぱいいっぱい伸ばした。
 銀色のふわふわの髪、小さな背丈。四つかそこらにしか見えない幼女は、フリルのついた白いメイド服もどきの衣装でぴょこぴょこ跳ねている。
 空を飛ぶディアボロは、幼い悪魔のことなど知らなげに、悠々と遥か彼方の空を飛んでいた。
「ぐりふぉん、からだがロウソクなの」
「敵の機動力を奪う能力は、戦況に影響を及ぼしやすいからね。あれは別口で使う二体目だけど」
 戦いのことをあまり知らない幼女に、教師役を(無理やり)任された悪魔は告げる。幼女は真剣な表情で頷いた。
「じーじはロウソク遊びが好きなの」
「どうしてきみは多大な誤解を与えるような言い方をするのかな?」
 シマイ・マナフ (jz0306)の声に、ヴィオレットは神妙な表情でしみじみと言い直した。
「じーじは人形遊びが得意なの」
「……どうしてきみは多大な誤解を与えるような言い方をするのかな……?」
 かくり、と首を傾げた幼女に、シマイは口を閉ざす。
 ややあって嘆息をついた。
「きみは確か、ディアボロの作成も出来ない、のだったね」
「うん! でろんでろんの溶解液になっちゃうの」
「おまけに攻撃術の習得もできない、と」
 散々試した結果に、ヴィオレットはしょんぼりと項垂れる。
 結界術の傍ら、ヴィオレットはメイド仲間のリロ・ロロイからごく簡単な魔法の手ほどきをうけていた。
 全くと言っていいほど発動しなかったが。
「……こんなに才能のない悪魔もなかなかいないね」
 幼女が涙目で背中を叩きにやって来た。
「事実は受け止めるべきだと思うけどね。――ああ叩くなら肩の下ね。そう、そこそこ――きみの持ってるディアボロは、お姉さんの作だったかな?」
「んぎゅ。あたしなんにもできないから、おねえちゃんが護衛にくれたの!可愛いの!」
 これ、これ、とまるっこいフォルムのクマさん人形を示されて、シマイは苦笑する。
「あのお嬢様も異母妹には甘いようだね。……なら、そっちの瓶に入ってるディアボロは?」
 腰に括りつけた瓶に、ヴィオレットは唇を尖らせる。
「ディアボロ加工のれんしゅーしたら、出来たの。すっごくちっちゃくなっちゃうのよ。しかも可愛くないの!」
 どうやらディアボロ生成能力は無いに等しいが、加工能力は僅かながらあるらしい。
「無能でなくて何より。美醜はどうでもいいと思うけどね」
「じーじは乙女心がわかってないの」
「……俺がわかっててもどうかと思うけど」
 嘆息をついて、シマイはヴィオレットを見下ろした。
「で、どんなのが出来たのかな?」
「んとねー。十メートルの範囲に猛毒まき散らす直径三センチのらふれしあとか、神経毒の胞子をまき散らす一センチのまつぼっくりとか、触ると体も装備も徐々に腐敗するトゲトゲばっかりの透明なバラもどきとかなの」
「なにその暗殺用みたいなラインナップ」
 見せてごらん、と言うシマイに、ヴィオレットはむしろ瓶を隠す。
「じーじに見せたら変なことされるに決まってるの。ナイナイなの」
 普通に酷い。
「性能を確かめるには実験も必要だよ。きみもいつまでも戦闘で役に立たないという評価は嫌なんじゃないかな? それらが役に立てば、お姉さんの役にも立てるということだよ」
「じーじあたまいいの!」
 そんけーの眼差しを向けられた。

(ちょろい)

 誰かに通じるものがある気がする。からかい甲斐はあんまり無いが。
 ほら貸してごらん、と手を出したところで、ドーンと港の方から音がした。
「じーじ、大砲なの!」
「ああ……花火だね」
「はなび?」
「暗くなったらわかるよ。今日は祭りの初日だからね。光る花が咲くんだよ」
 余所見している幼女の腰から瓶をちゃかり外してシマイは告げる。
 ふーん、と頷く幼女は全く気づいていないようだ。
「じーじ、あれ行きたいの!」
「連れて行かないよ。人間界の祭りに興味はないからね」
「じーじケチなの!」
「結界術を教えることは了承したけどね、保育士になる予定は無いんだよ」
「いいもん。ひとりで行くもん!」
「きみ、自衛も出来ないでしょ」
「おねえちゃんのお人形もあるもん! じーじのけちんぼ! 陰険! 根暗!」
「そんな低俗な悪口で怒るほど低脳じゃないよ」
「ほも!」
「……ねぇ最後のどこから出てきた単語なのかちょっとおじさんとお話しようか」
「いやん!」
 一瞬で姿を消した幼女悪魔に、シマイは嘆息をつく。
 そろそろメイド達に引取りに来て欲しいところだが、ヴィオレットの能力は免許皆伝にはまだ遠い。
「まぁ、結界術に関してはそれなりに成長が見込めるし……面白いものも手に入ったからいいかな」
 小さな瓶を見つめ、シマイは薄い笑みを浮かべる。
「さて……次はどんな手を打とうかね」





「さて、準備はこんなもんでいいかな」
 パンパンと膝の泥を払って、涼風和幸は立ち上がった。
 空は茜色から濃紺の衣に着替え始めた頃。
 港には撃退士達が設置を手伝った屋台がびっしりと立ち並んでいる。
 突如始まった天と魔の戦いから、何ヶ月がたっただろうか。息を潜めるようにして暮らした日も少なくないだろう。撃退士達で溢れる中、街の人が少しでも楽しんでくれればいい。
 この島を守ろうとしている、土地縁の撃退士達も。
「もうすぐ一年……か」
 賑やかな周囲を見やり、和幸は背伸びした。
「はやく、爽兄ぃ達が安心して暮らせる島に戻るといいな……」
 久しぶりに会った兄の寝癖を思い出し、くすりと微笑ったところでふと目が地面に転がっている白いものに気づいた。
「……なんだ?」
 白い布に見えた。小さな足がちょろりと出ている。
「人っ!?」





「ひどい目にあったのです」
 真顔でしみじみ呟く幼女に、和幸は冷や汗をかきながら嘆息をついた。
「なんで花火を食おうとか思ったんだよ。いくらなんでも、無理だって気づけよ」
「食べてみないとわからないのですよ!」
 胸を張って言い切る幼女にため息をつき、和幸はさてどうしたものかと周囲を見渡す。
 一緒に種子島に来ていた撃退士達も今は思い思いに祭りを楽しんでいるところ。さすがに彼等彼女等に手伝ってもらうのも忍びない。
(まぁ、迷子の保護ぐらいできないと、な)
「迎えが来るまで、一緒に回るか」
 和幸の声にヴィオレットはじっと相手を見上げ、にこっと笑った。
「一緒にまわってあげるの!」
「……なんで上から目線なんだよ?」
 互いに相手を知らないままに二人で歩き出す。


 祭りが始まろうとしていた。




リプレイ本文




 種子島、港の一角。
「…おっし!屋台の仕込みはコレでOKっと」
 流れる汗を腕で拭い、小田切ルビィ(ja0841)は腰を伸ばした。
 祭りの準備もあらかた出来た。ふと周囲を見渡し、屋台設営を手伝っていた涼風和幸がいないことに気付いて首を傾げる。聞いておいた番号にかけると、妙に疲れた声の相手と繋がった。
「もう直ぐ祭り始まっちまうぜ?今ドコ居んだ〜?」
 そんなルビィの向かい側、香ばしい匂いの屋台を覗いているのはアリス セカンドカラー(jc0210)。
「よっしゃー、祭りだー、喰い倒れだー☆」
 わたがし、やきそば、りんご飴♪
 輪投げ、射的にヨーヨー釣り♪
 ウキウキと声を弾ませアリスは歩く。試食にと渡されるのは、同じ学園生からの焼きそば、かき氷、お好み焼き。灯る雪洞。流れるお囃子。
 祭りの夜は、すぐそこまで迫っていた。





 和幸は困っていた。
 幼女を保護して保護者捜しに出たものの、幼子は親探しそっちのけで祭りに夢中になっている。
(俺一人で…どうしろと…)
「和幸さん。いつのまにそんなご趣味に……?」
 ふとカメラ音と声が聞こえた。上げた視線の先、清楚な浴衣を着たディアドラ(jb7283)が、素敵な笑顔でこちらににっこり。
「お兄様にもご報告しなくてはいけませんね♪」
「ちょ・まっ」
「冗談ですわ♪妹さんです?」
 幼女にかき氷を与えて捕獲し、ディアドラは微笑む。違うと首を振る和幸の後ろ、ディアドラと色違いの浴衣を着た女性が声を上げた。
「お待たせ~。って、ん? おやまぁ、可愛い子がいると思ったらヴィオちゃんじゃないかい。マリアンヌさんは来てないのかい?」
「あっ、ジーナ!」
 幼女が顔を輝かせる。ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)は、腕に飛び込んできた幼女を抱きしめた。
「いいおにーさんに連れてもらってよかったねぇ♪あたし達も混ぜてもらってもいいかい?」
「助かる……」
 和幸。超本音。
 ルビィから電話がかかってきたのはこの時だ。
「実は…」
 和気藹々と話している女性陣を見ながら、和幸は正直に助けを求めるのだった。





 ルビィと合流する途中、再度顔見知りを見つけてジーナは手を挙げた。
「宇田川さんじゃないか。ふふ。お元気?」
「! お久しぶり」
 林檎飴の屋台を覗いていた宇田川 千鶴(ja1613)と石田 神楽(ja4485)が、一同に気付いて振り返る。「またいつかあの山に会いに行きたいねぇ」と零すジーナと「そやね、また行きたいなぁ」としんみり微笑みあい、頷きあう千鶴を見守って、神楽は和幸に視線を向けた。
「ああ、貴方は鯖の時の」
「! ああ、…鯖の時の…あ、ごめん」
 思わず互いに思い出す鯖の惨劇。真っ赤になる和幸の隣、ディアドラの肌はツヤツヤだ。
「どうしたん、その子…。え?花火齧った?」
 焼きそばを頬張っている幼女に気づき、千鶴と神楽は顔を見合わせる。視線を向けると、ジーナとディアドラが頷いた。
(…涼風さんはこの子の正体に気付いてへん?)
(まぁ、この子もただ楽しんでいるだけのようですしね)
 千鶴と神楽も頷きあう。
「ふむ、迷子でしょうか。しかし、何故花火に齧り付くなんて真似を…」
「おなかぺこぺこ!」
 焼きそばを食べきり、幼女が声を上げた。
「こんばんは」
 身を屈め、柔らかく微笑みかけて千鶴が林檎飴を差し出す。
「食べる?花火より小さいが遥かに甘くて美味しいで」
「ありがとなの!」
 苦笑しつつ、神楽はそんな千鶴達を見守る。良い気分転換になっている事に少しほっとしながら、ふと思い出して幼女に黄色いパックを見せた。
「あ、これ飲んでみますか?」
「マリーのお気に!ありがとう!」
 バナナオレ。飲み物名が個人名に。
「そのマリーさんがどこにいるかだよな」
「あ、和幸おにーさんだ」
 疲れた声をあげた事情知らずの和幸に、イカ焼き屋台からアリスがヒョコッと挨拶する。
「お。いっぱいいるー。おや?そのこはだー…はっ!」
 注目点、迷子防止のお手々繋ぎ。
「おまわりさんこの」
「ちがうわぁああああ!」
「ひいだいいだいいだいこめかみぐりぐりは地味に痛いからやーめーてー」
 色々あって余裕のない和幸がプチ暴走。お互い涙目なのがなんとも言えない。
(というかこの子の特徴って噂の悪魔メイドの一人に似てるわねー、ま、こんなとこにいるわけないか)
 チラッ?
 和幸以外の全員、コックリ。
(え。まじで?)
「ごにゃ〜ぽ☆わたしはアリス、あなたは?」
「ヴィオレット!」
「ほうほう、ヴィオレットちゃん…」
(て名前までいっちだー、完全アウトだー!)
 頭を抱えたアリスに、和幸以外の一同が神妙な顔でコックリ。しかし純粋に祭りを楽しみたいアリス。ま、いっかと他一同と同じ結論に達する。
「ねぇ、アリスと遊びましょ?」
「うん!」
 にこーと幼女。
(この子わたしの好みだわー、お持ち帰りしたいわー)
「駄目ですよ?」
 何かを感じた神楽がにこにこ。一緒にビクッとなったディアドラはたぶんきっと同類だ。
「なかなか来ないと思ったら、こんな所で止まってやがったぜ」
 その時、息急き切ってルビィが走ってきた。その目がアリスのイカ焼きにかぶりついてる幼女を捉える。
「――ちょ!そのチビッ娘は…ッ!?」
「(しーっ!)」
 ディアドラ、慌ててルビィにジェスチャー。
「ヴィオちゃんこっちおいで〜」
「ジーナさん、胸でヴィオレットちゃんが乳息、いえ、窒息しそうですわよ?」
 女性陣がヴィオを包囲。その間にルビィが和幸の首に腕ひっかけてひそひそ。
「…おい、和幸。ソイツはメー様のメイド軍団のメイド(一応)だぜ?」
「い゛っ!?」
「すみません。事を荒立てたくなかったので黙ってました」
 一同を代表して神楽もひそひそ。
「知らずに連れ歩いてたのかよ…」
「だって、あんな…」
 三人で幼女を見やり、嗚呼、とルビィもこめかみを揉む。
「ま、仕方無ェか。俺は小田切ルビィ、ヨロシクな?ヴィオレット」
「よろしくなのですよ!」
 アリスの肩車に万歳してる幼女に、ルビィは苦笑した。これでは分からないのも無理はない。
「よ〜し!ジャンボお好み焼きに突液だ〜☆」
「とつげきだー!」
 アリスと一緒に右手振り上げ。幼女保護隊は改めて夜の祭りに繰り出した。


●ひそひそ


「で、どうしますか?」
「会話で何か情報を引き出せればラッキー、ってとこか?」
「状況的に戦闘になるより機嫌よぉ穏便に帰って貰った方がえぇな」
「ここでの戦闘は無益ですしね。ただ周辺に他の悪魔が潜んでいる可能性もあるでしょう」
「うっかりぽろっと能力のことをしゃべってくれないかなーとか、うん、ちょっと聞いてみよっか。でもメイドかー…お持ち帰りは」
「「「「やめとこう」」」」
「も、もちろん冗談よ。冗談にキマッテルジャナイヤダナー」
「じゃ、そんなとこで」





「お待たせ〜。可愛くできたわよぅ♪」
 ジーナとディアドラが幼女を連れて帰ってきた。
 円陣会議していたルビィ、神楽、千鶴、アリス、和幸は帰ってきた幼女を見る。ちまっとした浴衣姿。「浴衣とか着てみないかい?夏の醍醐味だよ」とジーナに誘われ、浴衣組二名に着付けてもらったのだ。
 見て見て、と浴衣姿でくるくる回る。
「よい?よい?」
「いいよ〜いいよ〜」
「可愛いねぇ。うちらの子にしちゃいたいねぇ♪」
 アリスとジーナがめろめろだ。
「ますます可愛くなってお姉ちゃんもびっくりするかもねぇ」
「ほんと!?」
「将来すごい美人になるかもしれませんわね。和幸さん、若紫計画とかいかがです?」
「しねぇよ!?」
 ディアドラに超笑顔で言われて和幸が真っ赤。
「そういえば、ヴィオレットさんはお一人でここまで?」
 だいぶ友好度が上がっている気配に、神楽が問いかけてみた。
「最初ね、マリーとリロとで来たの。でもあたしだけヘタだから居残りなの」
「保護者――母ちゃんとか兄弟は一緒じゃ無ぇのか?居るんだろ?」
「おねえちゃん!双子なの。あたし、その下!」
 ジャガバターを差し出し、ルビィは頭をぐりぐり撫でる。
「へー。姉ちゃんが居んのか…。何て名前なんだ?」
「アコニットと、ロゼッタ!」

 …ちょろい…

 思わず全員がこめかみを揉む。もの凄い勢いで情報増えてるが、いいのかメイド。こんなちょろいのがいて。メイド情報かどうか微妙だが。
「種子島は旅行に来たのかな?美味しいもの食べた?」
 これも美味しいわよ、とディアドラからたこ焼きを貰い、幼女が喜ぶ。
「じーじに会いに来たの。種子島にいるの」
(種子島を根城にし、ヴィオレットを預けるに足る悪魔っつったら――シマイ・マナフ位しか思い付かねぇケド、な?)
 ルビィが視線を向けると、ディアドラも頷く。
「この島にはこわーいシマイ・マナフって悪魔がいるみたいだから、ヴィオちゃんも気を付けてね」
「それ、じーじなの」

 シマイ お ま え か!

 何人かが頭を抱える。幼女は唇を尖らせた。
「じーじ意地悪なの」
「悪ですわね」
「ワルワルなのです」
 幼女とディアドラが意気投合。

 どっか遠くでクシャミの音がした。

 ふと横を走っていった子供達の集団に、千鶴は目を細める。
「もう夏休みの時期か…」
「なつやすみ?」
「うん、長い休み。でも宿題や自由研究とかあるんやで。凝る子なら瓶の中に船作ったりとか」
「入れ物に作った物を転移させるの?」
「いや、作るんよ。中で」
 感心した幼女は口を半開き。
「人間は面白いことするのです」
「この時期、誰もが宿題に頭を抱えるものです」
「そうなの!?人間も大変なのです」
 神妙な顔で言われて神楽は苦笑する。
「ヴィオレットさんはシマイから何かを学んでいるんです?」
「んとね〜。パキパキーンてなってドーンてなるやつ!でも苦手なの」

 成程。わからん。

 輪投げ屋にいたアリスがハイハイと手をあげた。
「じゃあ、得意なのは?」
「アリスは?」
「ふっふーん、輪投げ(投擲)には自信があるのよ☆それでヴィオレットちゃんは何が得意なのかしら?」
「転移!」
 チャレンジ料払って持っていた輪投げの輪がいきなり消えた。えっ!? という声に振り向けば、輪が二つ、綺麗に棒に入っている。
「それよりじゃんぼおこのみ…」
「途中やったよな。行こっか」
「あい!」
 飛びついてくる幼女に、千鶴は笑って頭を撫でた。
「自由研究みたく何か作ったりするん?」
「作るの苦手なの。サイノーないの」
 しょんぼりと。
「苦手な物は誰でもあるからなぁ」
「苦手じゃないもの探すのも大事だぜ。ちょっと金魚救い一緒にやってみるか。さっきの技は駄目だぜ?」
「負けないのですよ!?」
 山盛りの塩焼きそばを頬張りつつ、幼女とルビィ、二人して金魚掬いに突撃した。


●ひそひそ


(つまり、マリーとリロちゃんは不在ってことだねぇ)
(転移術はあの子やったんやね)
(シマイがじーじ……)
(彼女、ディアボロ制作は出来なさそうですな感じですね)
(かっわいいよねー。やっぱお持ち帰り)
((((駄目です))))





 寄り道もまた祭りの醍醐味。輪投げ・射的・金魚掬いと遊んだ一同の腕には様々な品が抱えられていた。
「…よっと!結構がさばっちまったなー。なあ?物とかを小さくする術使え――る訳無ぇか」
「むむー!」
 幼女が涙目でぽかぽか殴りに来た。苦笑して千鶴が取って貰った狐と狸の縫いぐるみを幼女に渡す。
「はい、お土産。この狸は神楽さんから。よう似とるやろ?」
「…千鶴さん…」
「ちーねぇとかぐぽんなの」

 命名。

「かぐぽん。もんどーむよーで撃たれてたの」
「ええ。それはもう、どんな時も全力で♪ ところでその名」
「だいじにするの!」
 ぽん、と千鶴が神楽の肩を叩いた。諦めよう。幼女の九割は酷い成分で出来ている。
「着きましたわ。ジャンボお好み焼き。どれほどの大きさでしょう!? あら、雅先生?」「おや、隣にはチャレンジでアイスクリームタワーとな?」
 ジーナとディアドラがそちら見やる。雅達が手を振る中、腕まくりした。
「ふ……これは挑まなくてはならないわぁ」
 ごごごと気炎を背負ったジーナに幼女も負けじと参戦。
「めいっぱい積んで!最大まで!」
「負けないの!こっちもなの!」
 二人でわいわいやっている横では巨大なお好み焼きが焼かれている。
「宇田川さん、あの雲のようなものは何でしょう?」
 ふと興味を惹かれたディアドラが声をかけた。
「雲…?あぁ綿飴か。食べる?」
「「はい!」」
 大人と幼女が釣れた。
「しゃもしゃもしてますね」
「雲みたいじゃないの。でも甘いの」
「おーい。アイスどうすんのー?」
「挑むのー!」
 なんとも賑やかな状況だ。そんな中、ジーナは幼女の腰元で揺れるベルトを見つけて首を傾げた。
「これ、何かしらぁ?」
 ぷらぷら。
「ん?なんか引っ掛けてたん?」
 ぷらぷら。
「!!!」
 幼女がこの世の終わりみたいな顔で固まった。
「あ。タワーが」
 十三段目。崩れたそれをシュッと胃袋に収納して幼女が涙を零す。
「瓶が消えちゃったの。マリーに怒られるの」
「え。今」「え。食べたの?」
「大事なやつなんだ?」
「失敗作なの。中にでぃあぼろ入ってるの」
「あたしのも食べられたねぇ……って、え!?」
「もし出ちゃったら、マリー、きっと怒るの」
 泣く幼女を抱え、アリスが雅を見る。雅は頷いた。
「警戒にあたろう。形とかは?」
「ちっちゃい小瓶なの。中の子はね、その服のボタンぐらいの大きさのラフレシアと……」

 …成程、失敗作…

「あれ。でも作るの苦手だったよねっ?」
「うん。おねえちゃんのを強化しようとしたら…」
 弱体加工になった、と。
「…メイド。わりと平和だな…」
「そうですね……」
 男二人が遠い目。
「ですが、今は大事ですね。いつから無いとか、心当たりは?」
「重いものだったら、いつ軽くなったのかとか」
 神楽とアリスの声に、幼女は頭を抱え、ハッとなって叫んだ。
「きっとじーじなの!」
「…じーじかよ…」
 ルビィがこめかみを揉んだ。
「取り返すの!」
「待って待って。お土産!」
 アリスが焼き上がったジャンボお好み焼きを包む。幼女の体ぐらいありそうだ。
「縁があったらまたな?メー様に宜しく言っといてくれや」
 笑みかける撃退士達に、幼女は包みを抱えたままじっと立つ。

「撃退士は強い?」

「うん?」
「強いままでいてね。認められるぐらいに」
 一生懸命な眼差しだった。何が言いたいのかは分からない。敵に強さを望む、その意味も。
「…お聞きしてもいいかしら?リロさん達みたいに人間界に遊びに来てる、ヴィオちゃんと仲良しのお姉さんは何人ぐらいいるのかしら?」
 目線を合わせて問うディアドラに、幼女は一瞬、違う場所に目をやってから、小さく告げた。

「十」

 幼女が消える。転移だ。
「十と、一…か」
 ルビィが呟く。思った以上に大がかりなうえ、こちらの把握より多い。
 夏の祭りは続く。悪魔達の祭りも同様に。
「いずれ会うんだろうね。向こうから来そうだし?」
 アリスの声に一同は頷く。


 流れるお囃子の音が、誰かの忍び笑いのように聞こえた。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
おまえだけは絶対許さない・
ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)

大学部8年40組 女 アストラルヴァンガード
おまえだけは絶対許さない・
ディアドラ(jb7283)

大学部5年325組 女 陰陽師
腐敗の魔少女・
アリス セカンドカラー(jc0210)

高等部2年8組 女 陰陽師