.


マスター:九三壱八
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/07/22


みんなの思い出



オープニング

 気付いていらっしゃるかしら?

 思考を止めれば瞼が落ちる。

 見ること。
 聞くこと。
 考えること。

 数多の情報は何のため?

 知って、
 論じて、
 考えて。

 その先にあるのはどんなもの?


 ――気付いていらっしゃるかしら?
 それとも、それとも、もしかして、
 考えたこともないのかしら?


 あなたの全てを 一つ一つ
 私達は見つめている。

 気付いていらっしゃるかしら?



 ‘Is that true?’(本当に?)






 とある場所で花々が咲う。
「私と同じようなおもてなしをする人間が居るのですね」
「挑戦を受けたけれどきっと私の勝ちだと思う」
「掃除や手入れは慣れてるみたい。メイドの素質があるのかしら」
「戦ってて面白かった!」
「私の正体を見破るモノもいたわ」
「情報も早ければ対応も早いですわね」
 漂う香気はそれぞれのカップから。好みの茶を飲みながら笑いさざめく女性達。


 とある場所で花達が囁く。
「協力しあってことを運ぶようですー」
「人は手伝いあったり想いあったりする生き物」 
「ちゃんと、気を配る人が多いですねー」
「意見がぶつかってもそれを譲りあうことを知っている」
 ひそひそと語る声はどちらも楽しげ。


 とある場所で花は見据える。
「手合わせの前にメイドならではのおもてなし、ですか」
『ですが、彼らを招くべくフィールドをどうすればいいのかが…』
 言葉の向こう、微笑んで首を傾げる亜麻色の娘の姿が見えるようだ。
「…確か、近くミーシュラ卿のお茶会がありましたね」
 呟く声には感情らしきものがまるで無い。
「卿に連絡をとりなさい」


 とある場所で悪魔が笑む。
「ほ、こうきおったか……随分と楽しんでおるようじゃのぅ」
 報告を受け享楽の大悪魔はぺろりとその唇を湿らせる。
「ならば、盛大にやるがよい。宴は、華やかなほうが見ごたえがあるというものよ」


 とある場所で人々は息を呑む。
 届けられた封書。手に取ったアリス・ペンデルトン(jz0035)は眉を跳ね上げた。
「お茶会の招待状、じゃと!?」


 悪魔達からの招待状だった。





「招待状が届いた。……どうも悪魔というのは、人間を招待する宴がたいそう好きらしい」
 一枚の招待状をテーブルの上に置き、鎹雅は告げた。
「招待状はこれだけではない。が、そちらは別のメンバーが対応してくれる予定だ」
 柔らかな象牙色の紙に、綺麗な金の模様。
 古めかしい封蝋の色は血のような深い赤。
「マリアンヌ。それがこの招待主の名だ。とはいえ、ティー・パーティの会場は悪魔コー・ミーシュラのものらしい」
 かねてから四国にいた悪魔の手を借りて、ここ最近動き出した悪魔達から正式な招待状が届いたのだ。
 遠く、近く。奇妙な距離で撃退士達の前に姿を見せてきたメイド悪魔達からの。
「受けるかどうかは、皆次第だ。ただ、これは好機でもある」
 大悪魔直属の部下から情報を得られるのなら、虎穴に入るのもやむを得ない。
 彼らはこの四国で何をしようとしているのか。
 またゲートを開くつもりなのか。
 騎士団がまた動き出していることが、彼女達の動きに関係しているのか。その逆は?
 分からないことだらけな現状で、悪魔からの繋ぎがあるのならば、乗ってみるべきなのだろう。
 もっとも、相手がまともに取り合ってくれるかどうかは分からないが。
「『撃退士側からの攻撃が無い限り、会場内の悪魔は一切の攻撃を撃退士に与えない』旨の誓約が書かれている。さすがに、上位悪魔に直接仕える者がこれを破ることは無いだろう」
 誓約を破ることは、畢竟、主の顔に泥を塗ることになるのだから。
 だが、逆を言えば招かれた席で暴れるような者についても、相応の対価が支払われるということだろう。
「出発は明日。各自、準備を整えて転移装置前に集まってくれ」





 どこか英国風ガーデンを彷彿させる庭園の中、その席はあった。
「流石はミーシュラ卿ですわね」
 先ほど挨拶をすませた主を思い出しながら、マリアンヌはテーブルの傍らで客を待つ。
 撃退士達にとっては、敵地にも等しい場所。
 そこに招かれたからといって足を踏み入れる者が、さて、どれだけいるだろうか。
 その振る舞いは?
「クラウン、レックス……あなたのお友達は、楽しい方達ですわね」
 旅立った悪魔達を思い、目を伏せる。
 元気でいてくれるといい。また会えるかどうかは分からないけれど。

「閣下」

 夢見るように敬愛する主の呼称を口にして、マリアンヌは微笑んだ。
 彼ら、彼女らはとても可愛くて、
 私は愛してしまいそうだけれど、

「でも、きっと、今のままでは、閣下は楽しまれないでしょう」

 それだけは分かる。『まだ』『足りない』。
「彼らはこのお茶会で何を語ってくれるでしょうか?」
 何を言ってくれるだろうか?
「私達が何をしているのか」
 何の為にしているのか。
 推測している人は、いるだろうか?
 自分達ではまだ至れない、閣下の眼差しの先まで把握できているような人は?
「いらっしゃらないのかしら……?」
 いなくても、それは別に自分にとってはかまわないけれど。
 本当に? と思ってしまうのは、きっと彼らに期待してるから。
「ねぇ、ユグドラ」
 ここにいない知り合いのヴァニタスの名を楽しげに口にして、マリアンヌは笑った。どこか子供のように純粋に。
「貴方がそうであったように、私もわくわくしていますわ。いつか、いつか、あの方達が」
 こちらの答えを待つのではなく、
 自ら考えて答えを突きつけてくれる日を。
 そうしたらきっと、

「私をも愉しませてくださると」

 開いた龍眼が高揚に潤む。微笑み、目を瞑り、次の瞬間にはいつもの顔に戻ってお茶の用意をしはじめた。




 遠い入口に、撃退士達が到着した。






リプレイ本文



 優雅な庭園を進むと、亜麻色の髪のメイドが待っていた
「やっほーメイドさん。遊びに来ちゃった」
「まぁ!バナナオレ子さん、いらっしゃいませ」
 恭しく一礼したマリアンヌが、手を挙げた水枷ユウ(ja0591)と楽しげに手を取り合う。そんな二人を一瞬呆気に見てから、六道 鈴音(ja4192)は挨拶をした。
「お招きにあずかりまして、ありがとうございます」
「ふふ。ようこそいらっしゃいました」
 マリアンヌは害意の無いおっとりとした笑みで迎える。だが、今までが今までだ。
(お茶会ねぇ…以前にも足止め目的で会話する事例があったらしいけど…さて、今回のお茶会にはどんな目的があるのやら…奴等にとってはエサみたいなモノだった『人間』に、悪魔達が興味を持ち始めたってトコロか…な?)
 高みの見物している連中がいないなどと、誰が思えるだろうか。景色を見やるフリで映像中継役の天魔がいないかを探った。
 そんな鈴音の後ろ、礼儀正しく挨拶するのは龍崎海(ja0565)だ。
「お招きありがとう。ところで、阻霊符は使ってもいいのかな?」
「ふふふ。撃退士の方のお約束のようなものですわね。構いませんわ」
 あっさりとマリアンヌは頷いた。いつもの笑みで石田 神楽(ja4485)が声をかける。
「まさかお茶会に招待して頂けるとは思いませんでしたね」
 「つまらないものですが」と出されたバナナオレが0.03秒で消えた。
「まぁ、これはご丁寧に。ありがとうございます」
「……先に手が出ましたね、今」
「あらあら。うふふ」
 消えたバナナオレはどこに持っていったのか。マリアンヌは口に手をあてて微笑っている。その手をそっととる紳士がいた。
「お誘い頂きありがとう、マドモアゼル」
 スーツ一式に花束。
 跪き、手の甲に口付けるのは赤坂白秋(ja7030)だ。
「『猛銃』赤坂白秋。あなたの心を射抜きに参りました☆」
 キラリと白い歯☆イケメンスマイル。しかし視線がデンと聳える胸元に釘付け。どれぐらい釘付けかというと、軽く七度見した程度には。
 そんな白秋にマリアンヌは微笑む。
「ふふふ。ようこそいらっしゃいました。さぁ、席へどうぞ。楽しいお茶会になりそうですわ」





 言葉を刃に変えて切り結ぶ。
 もう既に戦いは始まっている。

 気が付いているか?

 個であり群である私達の性質を。

 それとも気が付いてなお嗤うのか。





(これで三度目……か)
 席に着き、大炊御門 菫(ja0436)はマリアンヌを見据えた。眉が寄るのを感じる。
 遭遇したのは二回。なのにそれ以上に心に刺さる言葉を残していった悪魔は、こちらの眼差しににこりと微笑む。
 マリアンヌの隣に腰掛けているのは白秋だ。
「あなたの美しいお姿を、もっと近くで見つめたくて、な☆」
 キラリと光る白いトゥースフラッシュ☆
 しかし視線はHな胸元を十四度見ぐらい。
「上等の紅茶、素晴らしい茶菓子、品の良い食器、馨しい花々……そして何よりも美しい女性との出会い。まさしく最高の持て成し。恐れ入ったぜ」
「気に入っていただけて光栄ですわ」
「この学園に来ると、こうした機会には恵まれますね」
 そんな二人を見やりつつ、淹れられたお茶を飲みながら神楽はしみじみと。
「以前は問答という形でしたから、今回はのんびり『語りましょうか』」
「ふふ。ええ、存分に。貴方は何もありませんの?」
 声に神楽は笑む。
 マリアンヌや他の悪魔は、人間の言葉を聞いている。
 相手から得た情報からではなく、自身の考えに従った答えを聞きたいのではないか。
「私は何も知りません。だからこそ自分で仮説を作り、それを照らし合わせる。当たれば万歳、外れれば残念」
 けれど、これだけは言える。この考えで導き出した答えは、自分にとって「本当」の事。
「お互い、自由に参りましょう」
 互いの考えをぶつけ、楽しむために。
 見やる先、マリアンヌの瞳が一瞬、自身の光纏時のそれとよく似た形になった気がした。
(…それにしても、随分とバナナオレが気に入ったようですね)
 つい視線を向けるのは、妙にきりっとした顔で座っているユウ。
『ふ。わたし大人だから、ちゃんと場の空気だって読める』
 そう告げそうな表情できりっ。バナナオレじゃなくて紅茶が出たってわがまま言わずいただくよ(きりり)。
 そんなユウ(今年:二十歳)の前に置かれたのはフレッシュバナナオレ。ビッとユウとマリアンヌがサムズアップ。
「あ、そうだ。あのねメイドさん…」
「ふむふむ?」
 ふとこそこそ話をした二人が、こくりと頷いて声を揃える。
 せーのっ、
「「教えて!マリアンヌ先生ー!」」
 わーわーどんどんぱふぱふー
「そこの約二十歳。あと、悪魔」
 冷静に突っ込みを入れる菫。神楽が「ふむ、美味しいお茶ですね〜」とにこにこ。
「それじゃあ、前回の問答から各地にメイドを派遣していたみたいだけど、人間についてどう変わった?」
 海の声に、マリアンヌはふわりと笑った。
「思ったよりも強いですわね、という感じでしょうか」
「貴方からみてメフィストフェレスにもそれは影響を与えている? 与えているならどんな風にかな?」
「ふふ。『もうよい』と興味が失せない程度には」
「メイドというけど専門はなに? 炊事、洗濯、掃除? それとも針、庭、酒?」
「閣下がお望みになれば、何でも」
「閣下にはメイドとしてどんなことを褒められた?」
「私が一番お褒めいただいたのは『清掃』でしたわ」
 微笑んだマリアンヌに、海は成程と頷く。おそらくただの掃除では無いだろう。
(このコ、メフィストフェレス直属?なんだっけ?)
 会話の間、鈴音は注意深くマリアンヌを見ていた。
「悪魔にも貴女のような方がいるんですね」
(聞いた話、クラウンやレックスは、上の命令と関係なく自分達の好きなように気ままに行動する印象だったけれど…。マリアンヌはその逆…みたいよね)
「悪魔にも色々ありますもの」
 微笑むマリアンヌは下級には見えない。
「食糧だと思ってた連中が思いの外、暇潰し程度には面白いから『ちょっと弄んでみるか…』ぐらいの気まぐれなんじゃないの?メフィストフェレスさん」
「あらあら」
「寿命の長い悪魔さん達は、きっと毎日『なにか面白い事はないか』と探しているんでしょ。そこに撃退士がちょっと目にとまったに過ぎないんじゃないの?」
「そう。『目に留まった』。そこがまさに問題でしょうね」
 マリアンヌの微笑みは深い。
「閣下にとって、人間はあまりにも取るに足らない存在だった。天使と私達。この世界にあっても、目に映る存在はこの二つだけ。けれど『目に留まった』。それが一瞬なのかそうでないのかは、貴方方次第」
「そう…そんな程度の存在だったわけ」
 鈴音はマリアンヌを見やる。
(…いまはね。いつか平行世界とやらに丁重に送り帰してあげるけどね、私の炎で)
 マリアンヌは微笑む。まるで(楽しみにしていますわ)と心の声に答えるかのように。
「騎士団を評価していたけど、戦ったことがあるの?」
 海の声にマリアンヌは頷いた。
「うふふ。お互いによく知っている程度には」
「その騎士団だが」
 菫が静かに口を開く。
「天界の騎士団は私達が持っているヒヒイロカネを狙っている。それはあの剣の為だろう。悪魔としては、天界が強くなるのは面白くないのではないか?撃退士の心情を調査し上手く騎士団と相打ち、もしくは騎士団を撃破できるように仕込もうとしているのではないか」
 思い出す。以前に言われた言葉。
(冥魔勢がわざわざ手合わせすると『言った意図』とは何だったのか)
 ゲートや戦いを仕込むのならば言わずともいい筈。
(冥魔共が問いを重ね、私達を探る理由は何か)
「つまり撃退士の戦力を底上げさせる為冥魔が撃退士を育てようとしているのではないか。――マリアンヌ、合ってるか?」
 その為の<仕合>ではないのか。
 マリアンヌをひたと見据える。だが、この深い霧の中を歩いているような感覚が消えない。
(しかし私だけが、此処に居るの者だけではない。ここに居ない者をも合わせ【撃退士】だ)
 ならこの茶会で何かを拾ってみせる。それが誰かの助けになる筈。
「…?」
 ふと菫は訝しげに眉を顰めた。マリアンヌはきょとんとしている。だが徐々にその顔に笑顔が滲んだ。頬が淡く色付き、瞳が輝く。
「『それ』は『素敵』ですわ」
「なに?」
「そうですわ。育てるのも、きっと一興ですわ」
 菫は目を瞠った。違っていたのか。だが、むしろ彼女の予想外をついたのか。まるで恋を語るかのような女悪魔を見て気づく。髪の銀色が増えている。
 その様子を眺めやってから、海は問うた。
「閣下は人間は娯楽だったみたいだけど、どんなことをしていたの?」
「閣下が、というよりは、下の者が色々していたようですわね。閣下はそれを見ていらっしゃったぐらいかしら」
 彼女が直々に楽しむことはほぼ無かったのだ。極僅かな例外を除いて。
「わたしは大公メフィストフェレスのことは伝聞でしか知らないけれど、指導者っていうよりは治水が上手な人のイメージ」
 ユウの声に、マリアンヌは微笑む。
「もちろん先を見通す目はとってもすごくって。ずっと先のことも見えてるのかもしれないけれど、未来はいつだって流動するから、その流れを思うままに動かして、何が起きても、起きてからでも、望む未来へと繋げてく。そういうことに長けてるように見える。だから、治水者」
「……」
「けれどそんなことができてしまうから、思うままはいつだって退屈で、思い通りにならないイレギュラーを待って、自分からは動かない。このお茶会も、そうなんじゃないかなっておもう」
 なんでも出来てしまうということが、何かをしようとする意欲を奪ってしまうように。
「だから大公に伝えて。あなたの瞳に映ってるものは、わたしには見えないけれど」

「『いつか、きっと、驚かせてあげる』って」

「ええ。伝えますわ」
 嬉しげに微笑むマリアンヌに、ユウは「あと、これ。今日のおみやげのバナナオレ」と荷物から出す。
 0.02秒で消えた。
「他のメイドさんにもぜひ」
「……分け…ますわね」
「全部一人で飲む気だったのか」
 菫が反射的に突っ込んだ。





 言葉を包んで吟味する。
 もう既に答えは出始めている。

 気づいていらっしゃるかしら?

 言動の全てが私達の目的だということに。

 それともまだ気づかない?

 判別の時まで、あと少し。





 他人が何を考えているのか、それを考える必要はある。だが、それは「自分がしたい事」とは限らない。神楽は会話の隅々に思考を走らせ、彼女達本人の考えを中心に記憶する。
(もしかして)
 気づく。今自分がしている事と、彼女達がしていたこと。
「今となってはもう暫く昔の話だが、四国は愛媛県、とある街が一瞬にして焼失する事件があったよな」
 紅茶を味わい、白秋が告げる。
「俺達の間では天界が有する新兵器の『試射』であるとの見方が強いが、もう一つの勢力にとっては、別の意味合いがあったと思う。ヒトを相手にするには過剰とも言えるあの破壊力が――自分達を焼く為に生まれたのだと、恐らくすぐに気付いた筈だ」
「ふふふ」
「この時点でコーとかいう冥魔が動いていたが、その次に冥魔が動いたのはもっとずっと後。……俺達と騎士団の激突があった後」
 その時点で動いたのは、メイド。より『高位』を感じさせる者達。
「この激突を機に、あんた達は本腰を入れた。なあ、メイドさん。天界の兵器は実に厄介だよな」
「ふふ。そう、灼熱色の剣、レーヴァテイン」
 マリアンヌは歌うように告げる。
「強大なる神器が製作に途方もない年月がかかる為、『そこそこの強さで手軽に量産できる』のを目標として作られたであろう兵器。それが、彼らが持ち出してきた物」
「!?」
 無造作に出された情報に、思わず何人もが席を立った。
「量産……だって?」
「威力面はほぼ完成でしょう。問題は耐久面とエネルギー……生産が整うのは五年か、十年か」
「君達にとっても驚異かな?」
「騎士団全員がそれで武装すれば、下層の者であればそれなりに。敢えて言うのであれば、『面倒』でしょうか」
「しかも、標的はどう考えても俺達側じゃないな」
「ふふ。というよりも、自分達の領域近くにできた、彼らにとって目障りなゲートでしょうね」
「高松か!」
 菫が息を飲んだ。
 一つの街を滅ぼした劫火。それが向けられているのは、いずれ取り返すと心に誓った街。
「実例から察するに、焦土と化そうがお構いなし、といった所でしょうか」
 微笑みはどこか含み有りげだ。
「なあ、メイドさん。俺達、両想いだな?」
「ふふ」
「デートしようぜ。撃退士(おれ)と冥魔(あんた)の二人きりで」
「あらあら」
「惚れさせてやるぜ」
 ――ヒトの力に。
 ニッと笑った白秋に、マリアンヌは微笑んだ。
「では契約ね?」
 いつの間にか白い手が白秋の顔を捉えていた。間近にある相手の眼は笑みを含んだ竜の魔眼。ひと房だけだった銀色が、髪全体に広がっている。
「人の子に誘惑されるのは初めてですわ。私を惚れさせるのならば、ねぇ、あなた、私以外の者に殺されては駄目よ?」
「な…っ?」
 首筋に湿り気を帯びた暖かい感触がした。途端、一瞬で目の前が暗くなる。
「赤坂さん!?」
 鈴音が叫ぶ。ぐったり倒れた白秋を胸に抱き止め、マリアンヌは自らの唇をぺろりと舐めた。
「攻撃はしないんじゃなかったかな?」
「私にとっては、攻撃ではありませんもの」
 愛撫するように甘噛みした程度。だがその首筋には奇妙な紋様が浮き出ている。まるで何かの印のように。
「ふふふ。次に会うときは、耐えられるようになっていてくださいましね?」
 抱きとめた額に手をあて、奪った体力をそのまま戻す。白秋の首にあった紋様が時間経過とともに消えていくのが見えた。
「さて。そろそろ刻限のようですわね」
 お茶会の終わりを告げる声に、一瞬身構えていた一同は不承不承頷いた。白秋も不思議そうに頭を振りながら起きる。
 ふと、菫とすれ違う瞬間、呟くように告げた。
「宝物。取り返す前に、焦土になるかもしれませんわね?」
「…ッ」
 拳を握る菫に、マリアンヌは微笑む。
「今は騎士団が持っていますけれど、あれは武闘派の開発品」
 つまり、本来持っているのは、騎士団ではない。

 ――ツインバベル。

「急ぐべきなのは『何に』『何を』『いつ』かしら?」
 柔らかな笑み。悪意はまるで無い。
「……次は、手合わせか」
「ええ。『育って』くださるのでしょう?」
 二人の言葉を神楽は記憶する。
 菫の答えは、おそらく、マリアンヌの意識を変えたのだ。記録する者から、育てる者へと。彼女達はメフィストフェレスの目と耳だった。けれど次に会うときの彼女は、今までとは異なるだろう。
 いや、むしろ今までも変わり続けていたのかもしれない。
(不変な者はいない……ということですか)
 自ら考え続ける者は、尚更に。


 すでに戦局は動いているのだから。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 創世の炎・大炊御門 菫(ja0436)
 闇の戦慄(自称)・六道 鈴音(ja4192)
重体: −
面白かった!:7人

創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター