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マスター:九三壱八
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/22


みんなの思い出



オープニング


 闇に雫を一つ垂らす。
 生まれた波紋の大きさは、落ちた雫の大きさによって変わるもの。
 されどその間隔は一定。

 否。

 もし、左右で闇の深さが違っていれば――





 月の光を紬ぎ集め、夜の闇で梳いたような。
 洗いたてのメフィストフェレス (jz0269)の髪は、そう評してなお過小評価と言わざるを得ないものだろう。
 たっぷりとした長い髪を丁寧に梳きながら、ヘレン・ガイウスはそっと声を落とした。
「レディ・ジャムより閣下にご報告が」
「ほぅ……さて、如何なる仕儀であったか」
 くつ、と笑う声が聞こえた。
 不思議な声だった。無垢なるうら若き娘のようであり、臈長けた熟女のようでもあり、慈悲深き聖母のようであり、冷酷なる女王のようでもある。耳に深く残る声は魂までも掌握し、微笑み一つ、呟き一つで何もかもを奪い去ってしまうような。
 圧倒的な力と美を兼ね備える大悪魔。それが、メフィストフェレス。
「このまま申し上げても?」
「よい。許す」
 口元に薄い笑みを浮かべるメフィストレフェレスの左、その美しき紫黒の角に口付けるように顔を寄せ、ヘレンは早駆けの配下によって伝えられたレディ・ジャムの報告を告げる。
「……ほぅ」
 メフィストフェレスは小さく呟く。
 紅き血にも似た瞳に妖しい光が浮かぶ。声色で興が乗ったのだと察し、ヘレンは思考を邪魔しないよう口を閉ざした。
「人と人で血が流れたか……くく……身の内に毒を孕みたるか」
 髪を梳き、丁寧に整え終えたところで主の唇が言葉を紡ぐ。
「おぬし、今、声をかけられる者を集めてくれんかのう」
「畏まりました」
 ヘレンは静かな表情のまま、丁寧にメフィストフェレスに向かい一礼した。
 くすくすと笑う声が聞こえる。
 美しく。畏しく。
 心を惹きつけてやまない蠱惑的な笑みが。
「レディに打ち負けし者、天の騎士に認められし者……さて、彼の者等の『今』は、真実、『どちら』であろうかのぅ」





 戦場を出て尚、向けられる熱を感じた。
「四国の借り、か」
 盛大な宴の如き騒動の末に生み出した高松ゲート。自身の牙城であり、四国冥魔の拠点となるあの地を取り返さんとする意気は未だ高い。この自分に刃を届かせる程に。
(……となれば)
 レディ・ジャムは思考する。
 脳裏にメフィストフェレスの姿が浮かんだ。
 愛用のチェス盤の前に悠然と座り、口元に笑みを浮かべていた主。


「要請に応えてやろうではないか」

 あの時、そう歌うように告げられた言葉を意外に思わなかったわけではない。
 人間界に在する悪魔達の共闘。
 利益、功名、縁、義理、そういったものにより動く者も少なくない。だが、大悪魔たる「メフィストフェレスが要請に応える」、その意味を彼女が分からないはずもなく。
「面白いことを考えるものよのう……人と人が争うか、否か。血を流し合うか、否か。……くく、いっそ異形と、侵略者と、そう罵れる妾達が相手であれば、自らの正当性を声高に叫び相手を罵りたるも楽であったろうに、のう」
 喉の奥で笑うメフィストフェレスに、成程とジャムは納得する。
 人間にとって、今度の戦いは「人間同士」のものなのだ。今まで自分達天魔を相手に「侵略者を追い払え」と意気軒昂だった人間達が、今度は自らの隣人と戦わなくてはならない。
 しかも、同じ撃退士同士。
 ただ、信じて貫こうとする道が違うだけの。

 身食い。

 そうなるか、否かは、ただひたすら、その地にあって動く者達次第だが。
「レディ。おぬし、行ってくれるか?」
 悪戯な笑みを浮かべ、言われた言葉に頷いた。もとより、否やはない。
「畏まりました」
 メフィストフェレスの笑みが深まる。その優雅な手が真新しいポーンを弄んでいた。


(……報告すべき事が増えたな)
 ジャムは僅かに目を伏せる。
 かの大悪魔の見据える先を自分達はまだ追いきれてはいない。
 享楽の悪魔にして冷厳なる謀略の悪魔。自分達を派遣させた時には、すでに二手三手先を読み動いている。
(『どちら』にしても……私がすることは一つ)
 去りし戦場を振り返り、ジャムは腰の剣に手をかけ――

「くらうー! じゃむー!」

 今まで向かおうとしていた先から聞こえてきた声に身をひねった。
「あっ、レックス様ですよジャム様!」
 ジャムは目を細める。
 物凄い勢いで走り込んできた巨大な子猫の背には、メイド服を着た女悪魔の姿。
「ヘレン様のお言いつけでお迎えに参りました。ジャム様、クラウディア様」
 クラウディアの前で急停止し、頬ずりするレックスから優雅に飛び降りたのは、前髪のひと房だけ銀色を宿す、亜麻色の髪のメイド。長いスカートをさっと払うようにして整え、二人に丁寧にお辞儀する。
「……ヘレンが動いたか」
 ジャムが僅かに息をのんだ。
「閣下からのお言葉がございましたので。お二方には先に閣下へのご報告をお願いしたい、とのことでございます」
 ふわりと微笑むメイドに、レックスの頬ずりを受けていたクラウディアが顔を上げた。
「えと、セーレ様は」
「存じております」
 ふわりとした微笑みのまま、メイドは頷く。
「流石はセーレ様でございます。セーレ様のご覧になる光景を閣下も心待ちにしておいででございましょう」
 そこにあるのは純粋な興味。メフィストフェレスへの報告事項は多ければ多いほど喜ばしい。
「連中の追撃も後ろにあるのだが、どうするつもりだ?」
「後方は私が、退路を塞ごうとするだろう新手は別の子が抑えます。ただ、学園の方々は、きっと私共の相手どころでは無いと存じますわ。……毒は、すでに撒かれてしまったのですから」
 穏やかに微笑む相手の優しい眼差しに、ジャムは鼻を鳴らした。
「ならば一つだけ。……連中を侮るなよ」
「畏まりました」
 丁寧に一礼し、メイドは二人に両手を向ける。体力が一気に戻るのに、ジャムは苦笑を深めた。
「では、な」
「ご武運を! マリアンヌ様!」
「お二方も、道中お気をつけて。レックス様、どうぞ宜しくお願いいたします」
「うむー! まりーも気をつけるであるぞ! せーれも心配であるー」
 セーレがいるだろう方角を気にしつつ、レックスは二人を背に乗せて一気に走り去る。
 あっという間に見えなくなった一同を見送って、メイド――マリアンヌはゆっくりと振り返る。
 気配がした。熱量しら感じる強い意思。冷ややかな思考。入り乱れる様々な思惑をそのまま反映したような。
「な……メイド、だと!?」
 現れた人々にマリアンヌはただ柔らかく微笑む。まるで賓客を迎える女中のように。
 否。
「久遠ヶ原の皆様でございますね。生憎、ジャム様達は急ぎのご用向きの為、出られた後でございます。お引取りをお願いしたいところではございますが……」
 柔らかな微笑みはそのままに、周囲の気温が数段下がるのを感じた。
 目の前のメイドはただ優しく微笑んでいる。
「皆様方にはお尋ねしたいこともございますので、もしお答えいただけるのでございましたら、皆様のご用向き、私がお伺いいたします」
 剣には剣を。
 殺意には殺意を。
 問いには問いを。
 客人の要望に合わせて用意を整え、迎えうつ。
「勿論、私でお応えできる範囲であれば、でございますが」
 柔らかな物腰と笑みに反した威圧感。追って来るのならば覚悟しろと言われたのは、この意味か。
 分からぬままに一同は対峙する。


「申し遅れました。私、メフィストフェレス様にお仕えするメイドの一人、マリアンヌと申します」





リプレイ本文



 人も悪魔も嘘をつく。
 真実を語れども疑われることは数多い。
 信じるか、信じないかはその人次第。

 ‘Is that true?’(それは本当?)

 貴方の答えは――?






 目に見えない圧力を感じた。
 滋賀から四国への最短ルート。撤退する敵の追撃を妨げるのは、初めて目にする悪魔。
(メフィストフェレスのメイドって事は、一騎当千なのは間違い無い)
 掌に滲む汗を気づかれぬよう服で拭い、小田切ルビィ(ja0841)は油断なく相手を見据えた。
(残念だが、戦うのは得策じゃあ無いだろう。……だが、彼女に時間稼ぎ以外の思惑があるんなら、敢えて乗ってみるのも悪くは無いぜ)
 小さく舌で唇を湿らせる。いざという時喋れないようでは話にならない。
 その後ろ、突然の足止めに追跡を阻まれ、月詠 神削(ja5265)は胸中の落胆を押し殺していた。
(俺はクラウディアに話があったんだが)
 ある悪魔の知り合いであるクラウディア。追いかけようにも、穏やかな笑みで佇むメイドには隙がない。
(ただ……ある意味チャンスか? )
 意識を切り替える。
 受けた依頼は、突如集結したかに見える悪魔の『参集理由』を探ること。
 もし彼女達が動いた理由に、外奪の画策に心揺れるものがあったとすれば……
 密かに策を練る神削の斜め前、リョウ(ja0563)は静かに相手の微笑みを見つめる。
 相手に気取られぬよう体の緊張を解きほぐし、リョウは手に馴染んだ武器の感覚を確かめた。
(問答による足止め、か)
 目が合い、にこ、と優しく微笑まれる。思わず口に苦笑めいたものが浮かんだ。
(成程、『強敵』だ)
 その後方、いざという時の為に狙撃ポイントに移動した石田 神楽(ja4485)もまた、リョウと同じ印象を抱いていた。
(なるほど、問答で時間稼ぎ…という事でしょうか)
 最初から力づくで来ない理由は分からない。だが、あのレディ・ジャム達がたった一体の悪魔に後を託した。その事実もまた、荒々しい手段を封じさせていた。それに、
(ですが、こちらも情報が不足しています)
 第三勢力の台頭と、衝突。危急であったことを理解しつつも、未だ多くある未知の部分を求める気持ちは強い。
(四国の悪魔は、こう来ますか……)
 落ち着いた風情で見やりながら、狩野 峰雪(ja0345)は相手の姿を吟味した。
(一見して丸腰のよう……けれど、こちらもヒヒイロカネから武器を具現化しているからね)
 今回の悪魔側の狙いは『ゲートを開くことより、人と人を争わせることにある』と峰雪は考察している。これまでの天魔との戦いで生じていた戦いと違い、物理的な被害より、精神的な方面を攻めている、と見やったからだ。
 だが、それにより悪魔が得るものは?
(撃退士の社会的地位を脅かすことか)
 それとも、
(撃退士同士で分裂させることか)
 あるいは両方を狙ってのことか。
(人を苦しませ享楽に耽り、最終的に撃退士を弱体化させ、容易くゲートを開くつもりか)
 享楽の悪魔たるメフィストフェレスならば、そういった考えがあるのでは。だがいずれも確証は無い。
「問答ねぇ…ま、いいわ。つきあってあげる」
 トントン、と慣れた手つきで煙草を取り出し、鷹代 由稀(jb1456)は咥えたそれでクイッと相手を指した。
「もっとも、こっちも答えれる範囲でだけしか答えられないけど?」
「ええ。勿論」
 メイド――マリアンヌはふわりと微笑む。
「ならば」
 短く言葉を区切り、大炊御門 菫(ja0436)は静かな闘志を内包する瞳でマリアンヌを見据えた。
「こちらが真実を語る以上は、そちらも真実を語る、ということだな?」
「勿論ですわ」
 悪魔の言葉は短く、微笑みは穏やかなまま。

 その答えは、『本当に』『本当なのか』。

 僅かに緊張を孕んだ空気が流れた。その瞬間、

 ずこー。

 響いた音に、全員の視線が思わずそちらを向く。
 ぺこっ、と音をたてたバナナオレのパックを手に、水枷ユウ(ja0591)は抑揚の少ない声で告げる。
「ん。せっかくメイドさんがいるんだから、お茶とか飲みながらお話しない?」
「そうですわね。生憎セットがありませんから、淹れたてを差し上げれませんが」
「戦場だから仕方ないよね」
 ぺったり座ってリラックスしてるユウと、どこからともなく取り出した魔法瓶から紅茶を淹れるメイドに、一同は微妙な沈黙で目配せした。
「まぁ、立ち話もなんですね」
「腹を括るか」
 神楽とリョウがそれぞれの笑みを口元に浮かべて座り、神削が頭を掻く。
「緊張感が……」
「緊張感? 急用できたとかでさっき帰ったよ」

 どうやら足早にログアウトしたようだ。

 座らず佇みながら、菫はそれぞれが動きやすい位置に陣取っているのを確認する。
「私から皆様への質問は八つですわ」
 どうぞ、と勧められた紅茶から香気が漂う。
 全員に紅茶を渡し終えてから、マリアンヌは正座する。動きやすいとはとても言えない姿勢だが、人間側に合わせての対応をだろう。
 その唇が微笑みを宿したままで問う。

「貴方様の『楽園』への認識はどのようなものなのでございましょうか?」 





 さぁ、始めましょう。





 この質問、複数の解釈が出来る。
 受けた神削は相手の目を見返した。
「『恒久の聖女』の目指す『楽園』をどう思うか?」
 それとも、
「一般論としての『楽園』をどう考えるか?」
 マリアンヌは微笑むだけで答えない。どう受け取って答えるのか。その全てを見届けられている。
(『恒久の聖女』の名称を『楽園』と誤認、彼の組織への認識を問うている、という可能性もあるな)
 どちらなのか。考え、あえてその方向で答える形に決めた。
「外奪と似たことを先にやった天使を知っている。だから、天使の二番煎じをドヤ顔でやっている外奪には正直失笑を覚えるな。故に俺のあの『組織』への認識は、『外奪の失笑を誘う策謀の産物』だ」
 マリアンヌの微笑みは変わらない。だがその反応を神削は気にしなかった。
 神削の目的は『外奪の策謀が天使の二番煎じ』と、マリアンヌ、さらにはメフィストフェレスに伝えること。 
「どんな理由かは不明だが、メフィストフェレスは外奪に『その価値がある』と思ったからジャムたちを援軍に送ったんだろ?」
 ならば、『外奪にそんな価値は無い』と大公爵に思わせ、奴らの関係に亀裂を入れられれば、少なくとも、今後ジャムたちが関わってくる可能性は薄くなる。そうすれば、外奪に対処し易くなるはずだ。
 そのためにも、外奪の評価を下げる『事実』を提示できれば、と思った。さすがに天使に後塵を拝す現状を悪魔は喜ばないだろうから。
 見つめる先、二十歳前にしか見えないメイドは微笑んだままで答える。
「私は『閣下ご本人のお考え』には思い至れませんが、外奪様は確かに才覚も力もある悪魔のお一人でいらっしゃいますね」
「二番煎じな時点で、独創性は無いと思うけどな」
 神削の声に、マリアンヌはやはり微笑んだままだ。
「閣下のご判断を答えれない分、『おまけ』を用意いたしますね」
 そう言って、訝しげな神削から全員へと向き直り、次の問いを告げる。

「志が違い、信じる道が違うお人を皆様は『悪』と断じて進撃されたのだと伝え聞いております。進撃して、今のお気持ちは?」





 受けた峰雪は、静かに口の端に笑みを刻んだ。
「『悪と断じた』ことを前提にして話を進める…見事なミスリードだね。別に悪と断じたわけではないよ。進撃とは仰々しい」
 マリアンヌはやはり微笑んでいる。
「3月下旬…聖女一行は無差別大量殺人を犯した。ここは日本だから、犯罪を犯すと日本の法律で罰せられる。本来は警察が取り締まるところだけど、天魔絡みだから撃退士が代行をしたまで」
 天魔や犯罪を犯した撃退士に対し、動けるのもまた、撃退士だ。
「なぜ、人が人を裁く法律があるのかというと、ルールを作っておけば、皆が安心して暮らせるから。志云々や、正義や悪は関係ない。日本の地で暮らすには、定められたルールを守らないといけない。彼らがルール違反をしたので、ルールに則り本拠地を摘発する…単純な理由だよ」
 微笑みが全く変わらない。
 その様をそれとなく注意深く見守って、峰雪は問い返した。
「さて、こちらからの問いだね。どうにも、人と人の争いという点を殊更に煽りたいようだけど、悲しいことに、戦争や内乱は世界的・歴史的に見て珍しいことじゃない。迫害、虐殺…人間はそもそも残忍な面を持ち、争うことは人の性だ。そういった過去を踏まえてルールは作られてる」
 自律・自制を尊びたくとも、縛りがなければ害悪をその身に纏うことは数多く。
 感性も思想も思考も願望も、全てがそれぞれ違う者同士が多数より集まれば、一定の決まりを作らざるを得ないのもまた、過去の事例を振り返ってのことだ。
「あなた方の上司は、撃退士同士を反目させる目的なのかな。それとも感情的にさせて、何かから注意を逸らさせてるのかな? 此方は正直な答えをしたから、其方も正直な返答を期待しているよ」
 声に、マリアンヌは微笑みを深めた。
「『閣下の目的』や『長の目的』は私ごときでは測りかねますが、『今回の争い』に関しましては、そもそも『閣下のご計画ではございません』し、撃退士同士の反目は『すでに発生しているもの』でございますわね」
 言ってから、その笑みを少し変える。
「私は、私でお応えできる範囲であれば、と申し上げました。こう答えましょう。『下知を与える時、上役が全ての状況や方針を事細かく説明することはあまりない』と」
 上役たる相手の考えを読み取ろうとしていた者は、自身の選んだ言葉を思い返し、気づいた。

 上司は部下に命令し、部下は命令を受け、実行する。

 単純な図式だ。「しろ」と言われて「はい」と受けるだけの者が、命令した者の思惑を知っているわけがない。結果、『メフィストフェレス達の考えや思惑』を問われても、本人ではないマリアンヌは『知らない』から『答えられない』。
 畢竟、答えは事実を復唱するだけになり、問う側からすれば全く手応えのないになる。
「何も考えずに言われたことを実行するだけなのか?」
「疑問を挟んだりはしないのかね。相手の望むものを探って実行するべきではないのかね?」
 神削と峰雪の声に、マリアンヌはやはり優しく微笑む。
 こう問えば全ては簡単だったのだ。

 ――上司の命令を受け、『あなたは』今回のことを――

 だが、後の祭りだ。
「『問い』は、次の質問の答えに対する『新たな問い』とカウントいたしますが」
 言われ、峰雪は口の端にやや皮肉混じりの苦笑を浮かべた。
「なるほど。あなたは随分と人が悪い」
 マリアンヌはただふんわりと微笑んだ。
「『悪魔』ですから」
 二問のやり取りを見聞きした今は、ひどく含みのある言葉に聞こえた。





「信じる道が違う人間を殺害したお気持ちはいかがなものでございましょうか?」
 三問目を受け持ち、神楽は答えを口にした。
「正直に言わせて頂ければ、気分の良い物ではありませんね」
 短く、簡素。初めて微笑んでいるマリアンヌの瞳に深い色が宿った。
「少なくと私は人を殺して愉悦に浸れる性格ではありません。そして、私の仲間が人を殺しているのを見て楽しむ性格でもありません」
 けれど、
「では殺さない…というわけにはいきません」
 マリアンヌは疑問を挟まない。ただ『答え』を微笑んで待っている。
「私は極力四肢を狙い撃つようにしていますが、人の命を奪う事もあるでしょう。謝罪はしません。悔いもしません」
 奪った命で守れた尊厳。
 状況。
 そうした無形のもの。
 友人の命や一般人の命。
 そうした有形のもの。
「私は夢や幻想と言った類の物が大嫌いですが、せめて目の前で消えていった命で作られた今を、何があっても護るつもりです」
 どのような結果を元に生み出されたものであっても。
 否。
 だからこそ。
「そこに害意向ける何者かが居るのであれば、私はその悉くを狙い撃ちましょう」
 答えに、マリアンヌはにこりと笑む。
 気づいていた。

 ――人間の血臭がしない。

 それなのに答える。それは即ち「自分が実際の実行者たらずとも、自分が与する組織が生み出した結果を真摯に受け止める」ということだ。

「貴女達から見て、私たちはどう見えますか?」

 問いに、マリアンヌの笑みが深まった。
「人間界に在する少なくない数の悪魔・冥魔が興味を持ち始めているようですが、私共の近辺にまで名を轟かせるような事例はとてもとても少ないですわね。少なくとも『閣下のおられる付近での人間達』は、相変わらず『命を永らえさせる為の糧』であり『娯楽になればよし』程度でした。私自身、『撃退士』と言われても、ああそういう存在もいましたわね、ぐらいの認識でしたわね」
 はっきりと言われた。しかも評価は低い。
(大公爵の近辺にまで至るには、まだまだ、ということですか)
 神楽の視線に、マリアンヌは微笑む。
「天界の騎士団、とりわけ、かの騎士団長オグンをして『退く』という結果を生み出した事は、その中の『とてもとても少ない事例』の一つですわ」
 ザインエルの事例が『人界の奇跡』としか映らなかった面々も、さすがに事例が重なれば『奇跡』以外のものを感じる。まして騎士団との戦いは大公爵にとっても近隣で起きた事件であり、かつ対応した撃退士の人数も少なかった。

 つまり、『興味を惹いた』のだ。

(これは……『これから』が肝、ですね)
 問いを重ね掛け、思いとどまった。
 見やる先、マリアンヌは今も微笑んでいた。





「貴方様は自分達の行いこそ正しいとお思いでしょうか?」
 次の問いに、ユウはちぅーと二個目のバナナオレを飲み干してから首を傾げた。
「メイドさん、不思議なことを聞くんだね。正しいと思うか、だなんて、そんなの当然じゃない」
 ユウの答えは淀みない。
「そう。人も天魔も、意志を持ち己で選択する限り正しいと思うことしか選ばないし、選べない。だって選ぶということは肯定するということだもの」
 選択の時点で、是と判断したからこそ、そちらを取る。
「結果を見てやっぱり間違えた、なんて思うかもしれないけれど、『後からなら何だって言える』よね? そんなのはどうでもいいの。結果に対する原因、因果の因。選択したその瞬間は、間違いなく正しいと思うものを選んでる。だから、ほら。わたしは正しいことをしたんだよ。楽園の人も、メイドさんだってそうでしょう?」
 マリアンヌは微笑んでいる。やはり、声を挟まない。
「どう? ご主人様が喜びそうな答えにはなったかな」
 軽く問いかけるが、問いとしてカウントされる前にユウはごそごそと自分の荷物を取り出した。
「それじゃ、わたしからも質問」

「バナナオレとイチゴオレ、メイドさんはどっちが好き?」

 視線がユウの手にある二つの紙パックに注がれた。きょとんと首を傾げている相手に、ユウは持っていた紙パックを渡す。
「こっちがバナナオレ。こっちがイチゴオレ。飲んで判定してね」
 有無を言わせぬプレッシャー。目をぱちぱちさせながら、マリアンヌがまずイチゴオレを指でカリカリする。

 ――手伝った。

「まぁ! 便利ですわね」
「人間の文化もなかなかのものだよ」
「ええ。なかなかのものですわ」
 シリアスもログアウトしたようだ。
 じっと待機するユウと、思わず見守る一同の前でマリアンヌはストローに口をつける。

 ちぅー。

 返却。
「不思議な味ですわね」
 続いてバナナオレ。

 ちぅー……ちぅぅうぅうううううううぺぽぽっ

「こちらですわね」

(同志)

 ユウの中で、マリアンヌがバナナオレ党に加わった。





 バナナオレの香りが満ちる中、マリアンヌは問う。
「自分達の意思を貫くためには、相手の意思ごと命を奪ってもよいとお考えでしょうか?」
「…回答の前に、質問を訂正してもらえる?」
 咥えたままの煙草を唇の仕草だけでピコッと持ち上げ、由稀は告げた。
「”自分達”じゃなくて”自分”。集団の意思と個人の意思は別物よ。私の意志を全体の意思のように喧伝されても困るからね」
 マリアンヌは微笑んでいる。
「で、回答だけど…当然よ。どんな形であれ、自分の意思を貫くために戦おうとしない奴は淘汰されるだけ」
 淡々とした声は感情の熱を伴わない。
 だが、そこには確かに揺るぎない意思がある。
「武器を以って意思のぶつけ合いをするなら、どちらかが死ぬのは当然ありえる結末よ。自分が相手を殺しうるものを用いて意思を貫くなら、逆もまた然りと覚悟するのは当然すべきことだもの」
 自分達が手にしているものは『命を奪う為に作られその能力を有する武器』なのだ。それを行使するのであれば、この結末は必定。
「それを理解せずに『こんな筈じゃなかった』とか言い出す奴は、私からしたらどうしようもないマヌケとしか言いようが無い」
 命を奪う武器を持って動いた者が、その現実を未来視できなかった、というのは、あまりにも自分の手に持つ武器に対する理解度が低すぎる。
 武器を手にとって立った限りは、
 命を奪う者
 であり、
 命を奪われる者
 なのだから。
「…こんなところね。納得してくれた?」
 ぴっ、と向けられた咥え煙草の先、マリアンヌの微笑みは変わらない。
「こんどはこっちの問に答えてもらおうかしら」
 軽く頭を掻き、由稀はチラリと相手を見る。
「あんたのご主人様の指令はどんなこと?あなた、あの場には居なかったようだし」
 あの場、とは先の戦いのこと。
「メフィストフェレスに仕えてる以上、タダの足止めに派遣されたと思うにはヤバ過ぎる相手だもの」
 問いにマリアンヌはにこりと微笑った。
「私が受けた命令は、ジャム様が速やかに閣下に今回の報告が出来るよう、撤退支援をすることですわ」
 つまり、今の状況だ。
「それだけ早く知りたかった、ってこと? …っと、これは問いにカウントしないで欲しいね。次が待ってる」
 マリアンヌは微笑むだけで答えない。由稀は無意識に煙草を小さく噛んだ。
(この手合いへの質問は、連携が必要ね)
 全員が先に相手が話せる範囲を予想・吟味し、問いを話し合って調整していれば、おそらくもっと多くの情報を引き出せただろう。
「では、次に参ります」
 優しい笑顔のまま、マリアンヌは問いかけた。
「全ては彼等や彼等と共にあった悪魔、または状況が悪かった、とお考えでしょうか?」





「確かに全体として大きなうねりである以上、個で抗う事は確かに不可能であっただろう」
 答えるリョウの声は静か。
「だが、それを構成する一つの要素である以上、『仕方がなかった』等と誤魔化すことは許されない」
 その言葉は、先の人々に通じるものがある。
「それが『楽園』だろうと『久遠ヶ原』であろうと同じ事。外奪の介入とて、討つべき冥魔の活動の一つなのだからな」
 悪魔と手を組んで人を害した。
 その事実もまた、揺るがない。
「激化する天魔災害や、それにより撃退士が台頭してから社会を構成する全ての存在が決断し、あるいは目を逸らしてきた『選択』の結果が『今』だ。有史以来、人類が痛みと共に繰り返してきた歴史と同じく、数多の意志が積み上げてできあがった答えの一つだ。今後、俺達は今まで見過ごしてきた歪みに相対し、答えを見つけながら進んでいかなければならない」
 歪みは最初から世界に在った。自身でその歪みを経験していた者も少なくない。
 だが、気付かなかった。
 否。
 ここに至るまでに、問題を大きなものとして対応しきれていなかったのだ。
「…久遠ヶ原や世間の誰かが、『楽園』を望んでしまう程の彼等の『声』にもう少し早く気づけていたら。彼等を受け止め、導き、行動に移せるだけの強さと優しさを持っていた『ツェツィーリア・アスカ』にもう少し忍耐強さがあったなら。それだけでもその時はきっと、違う『今』があった筈だ」
 選んでしまったのだ。誰も彼もが。

 決して覆すことの出来ない『今』という現実を。

「さて、俺の問いだが……」
 呼気一つ分の間を置き、リョウは告げた。
「『人の自発的行動』による社会的・戦術的効果の確認と現状の久遠ヶ原への威力偵察がジャムやメフィストの目的と、俺は推測する。さて、この推測は正しいか?」
 マリアンヌは微笑んでいる。
 気づいた。
 ジャムやメフィストの目的は、マリアンヌには『知らないから答えられない』。
「三度目、でございますので、そうですね……この三度に対する『おまけ』として、『私が見たところどう見えたか』を問われていると補足して答えさせていただきますわね」
 笑顔で神削、峰雪、リョウの三人を見つめ、マリアンヌは告げた。
 学園が最も知りたい部分を。

「『そうである、ともとれました』」





 お傍に居て感じ、察せれることはある。
 けれどそれは閣下の『考え』や『目的』を知ることには繋がらない。
 遥か高みにある閣下の見ている先をわずかでも追えるのは、ごく一部の高位悪魔。
 そして私達の長、閣下の腹心たるメイド長、ヘレン・ガレウス。

 気づいていらっしゃるかしら?

 最初に提示した条件の時点で、すでに私の『言弄』が成ってしまっていたことに。





 何人かが目配せをし合った。
 限りなくYESに近い答え。
(けれどそれだけではない、ということか)
 問いをすれば次にカウントされるだろう。ついでを装う問いも、先のやり取りで封じられていた。
(確かに、『随分と人が悪い』)
「今、楽園の方々に貴方様が言いたい言葉は何でございましょう?」
 その悪魔の言葉を受けてたつのはルビィだ。
「まぁ、単なる選民思想ってだけの奴も居るんだろうが。アウル能力者である事が原因で辛い想いをした連中が、現実に失望して集ったのが『小楽園』だったとしたら――」
 小さく息を吐くようにして区切り、ルビィは告げた。
「現実から逃げた先に本当の楽園なんざありゃしない。楽園ってのは、現実と戦った先にしか存在しない物だ。少しでも現実と向き合う勇気があるなら、久遠ヶ原に来い。――これが俺の答えだぜ」
 マリアンヌは変わらず微笑んでいる。
「んじゃ、俺からも質問一つ」
 相手の表情に注意しながら、ルビィは問う。
「ちょっと出張っただけで引っ込んだジャム達の行動やアンタの質問内容から推測して、メフィストフェレスは今回の人間同士の戦いの行方――殺し合うのか否か…を確認する為に、ジャム達を派遣したとしか思え無ぇが…俺の推測は的外れか?」
 あんたから見た結果でいいぜ、と言われ、マリアンヌは微笑んだ。
(ああ)
 ふと気づいた。
 表情もその目に宿る気配もただ優しい。だが、それだけだ。
 見つめるルビィの視線の席で、マリアンヌは微笑む。変わらない優しさで。
 一言。

「『はい』」





 思わずほぼ全員が顔を見合わせた。
 リョウの質問の答えも、おそらくYES。
 ルビィの質問の答えも、YES。
 ルビィのが正解なのか、どちらも正解なのか。
 前提が問われる。この悪魔は、本当に本当のことを答えているのか、否か。
 そんな中、残る菫の額にはうっすらと汗が浮いていた。無意識に握った拳は、力を入れすぎて白くなっている。
「…」

 ――信じる道が違う人間を殺害したお気持ちは

 問が重なる毎に苦しくなる。

 ――自分達の行いこそ正しいと

 総て自分が正しいとは思えないし言えない。

 ――自分達の意思を貫くためには

 死んだ聖徒にも大切な誰かがいた筈だ。

 ――相手の意思ごと命を奪ってもよいと

 聖徒が殺した誰かにも大切な誰かが居た筈なんだ。
 同じ人間の筈なのに何故こうなる。
 【仲間】の声が、遠い。
 見やる先で悪魔が微笑む。全てを見通すような瞳を向けて。
 唇が動いて、問いを告げた。

「貴方様は今後彼等楽園の人々をどのようにしたいのでしょうか?」

 声が一瞬、出なかった。


 その気持ちを何というのか、菫には分からない。
 まるで突然世界が消えて、未来へと続いていたはずの道すら闇に消えたかのような。今まで正しく堅実に在っていたものが、実は幻の砂で出来た塔であったかのような。
 呼吸の仕方すら奪われたように、息が重く苦しい。
『今まで戦う事しか考えてこなかった私だが…』
 それでも、搾り出すようにして言葉を紡いだ。
『どのようにしたいのでは無く、共に歩める道を探したい』
 失われてしまったもの。
『お互い死者を出してしまった』
 誤ってしまったもの。
『お互いに誰かを殺して無罪とは言えない』
 すでにそれは、この世界の現実として刻まれた。
『難しいかもしれない。だがしかし、このままでは聖徒は総て犯罪者のままになってしまう』
 一度拳の力を緩め、もう一度握り締めた。
『それは社会が罪を贖えと言うからだ』
 マリアンヌを見やる。変わらない微笑み。
 小さく息を吸う。
 胸中の熾火をもう一度燃やすように。
『人は弱い、だから社会を作る』
 ゆっくりと。
『結社が作る社会は、強い者が弱い者を虐げる社会は、多数を犠牲にし少数の為に存在する社会は、良いとは思えない世界だ』
 確実に。
『無論、多数が少数を犠牲にする事もだ』
 消せぬ焔を抱く為に。
『それを私達【撃退士】は許容出来ない』
 力に力をぶつけた。
 互いに過ちを犯しあった。
 誰が先に、等は関係ない。それを言い訳にしてはいけない。
 何故そうなったのか、を放置することも。
『だから最後には共に歩める道を一緒に探したい。視点が違うならば私達が気がつかない事も見える筈だ』
 【仲間】の顔を見回す。
 今なら良く見える、聞こえる。

 学園は、多様性の塊だ。

 同じ物を見る、言うにしても沢山の意見が有る。
 どれかが正解じゃない。
 自分の意思でどんな見方を選ぶのか、其れが価値の有る物。
 ――共に行く為、進む為。
 全てのものから目を逸らさずに。
 真っ直ぐに見やる瞳を受け止め、マリアンヌが微笑む。
 見通されているのだと分かった。
 だが、それが何ほどのものか。怯むことなく受け止める瞳に焔が躍る。まるでそれに呼応するように、具現化したままの焔槍も色濃く燃え盛る。
 これが、私の答え。
 そして、

 真の覚悟。





 にこりと微笑む相手に、菫は小さく息を吐いて後、瞳を見据えて告げた。
『楽しんでいるか?』
 ルビィは気づいた。マリアンヌの瞳が『楽しげに笑った』ことに。
「ええ。楽しみましたわ」
 ふわりと浮き上がるようにその体が立ち上がる。
「『お答え』は『全て記憶致しました』。そして、どうやら刻限のようです」
「ん。じゃあこれ、お土産。メフィストフェレス公はどっちが好きか確かめてもらいたいかな。今度会ったらどうだったか聞かせてね」
 はい、と渡された二つのパックに、マリアンヌはくすくす笑う。
「承りました」
「帰るのなら、伝言を頼みたい。確実な回答ではなかった代わりに、な」
 微笑むマリアンヌに、リョウは続けた。
「側近やメイドからの伝聞ではなく、自ら視に来い。その時は俺が幾らでも『話し相手』になってやる」
「じゃあ、俺も。“魔界の薔薇は意外と初心なんだな”――って大侯爵に伝言頼めるか?」
 ルビィの声にはなぜか小さく噴出された。
「笑い方が違うな!? 人間同士が戦い合う様が新鮮に映った、てことは意外と人類の事を知らない――ってことだろ? まぁ、大して人に興味が無いんだろうけどな」
 笑い震える声で「畏まりましたわ」と言われた。
「皆様方の答えは、一語一句、違えずに閣下にご報告致しましょう。ふふ……血気に逸って攻撃をしてくるお方で無かったこと、とても嬉しく存じます」
 ふわりと微笑った顔は優しいまま。

 次の瞬間、

 世界の一部が砕けた。



「な…」
 ガラスの世界が砕けたようだと思った。目に映ったものも、音も。
 吐く息が白い。
 無動作だった。わずか瞬き一回分にも満たない時間。広大な周囲一帯を凍てつかせ砕き尽くした暴虐の冷気。
 ――偵察用のサーバントごと。
「これは…」
 凍らされ粉砕された真円の周囲を見渡した神削の体が、その時もふっと何かに沈んだ。
「おっかないである。我輩まで砕かれるところだったである」
 何故かモコモコ仕様なレックスがいつのまにか後ろにいた。峰雪が唖然としているのは、突如現れたふわふわの腹に知らないうちに左半身が埋もれてしまっていたからだろう。
 もふもふと歩いて来たレックスの背に、マリアンヌはふわりと横座りする。
「どうやら、皆様のことを注目している輩が少なからずいらっしゃるご様子。お帰りの際は、どうぞお気をつけくださいませ」
 言って、全員へ視線を向ける。
「思いがけず、楽しい時間でしたわ。『次に会う時まで』ごきげんよう」
「さらばであるー!」
 ぺちん、と地面を尻尾で叩き、マリアンヌを背に乗せて駆け去るレックスの足は異常に早い。
 見やり、リョウは呟いた。
「冷気を伴う……【自然現象再現】か」
「手を出してたらどうなっていたか……だね」
 ぎり、と小さく煙草を噛み、由稀は口の端に笑みを刻む。
「どうやらまた会う可能性が高いようですね」
「次は問答では済まないだろうな」
 神楽の声に菫は握った拳に力を込めた。
 次。
 そう――最後に示唆された。

 次が、ある。

「答えも聞かせてもらわないとだね」
 ちぅー、とバナナオレを飲むユウの声に、ふわもこに埋まった肩を撫でながら、峰雪は苦笑した。
「なんにせよ、あちこち忙しないことだ」

 悪魔は人を誑かし、
 人は惑いて戦いあい、
 天使はその刃を研ぎ澄まし、
 水面下では新たな動きが出始めている。

「ま、次に会うことがあるのなら、その時はその時だ」
 手にした情報を確認し、ルビィはニヤリと笑う。
「何を企んでいるのか。今度こそ、きっちり吐いてもらうぜ」

何かの決着が着いたと思えば、次の何かが蠢き出す。
 永遠に続くかのような長い道のり。
 けれど絶えず進み続け歩き続けるその先にこそ、本当の『楽園』に至る道があるのだろう。



 それは誰かから与えられるものではなく、
 自らが作り出していくものなのだから。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 約束を刻む者・リョウ(ja0563)
重体: −
面白かった!:8人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
Rapid Annihilation・
鷹代 由稀(jb1456)

大学部8年105組 女 インフィルトレイター