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マスター:九三壱八
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/01/24


みんなの思い出



オープニング

 ツインバベルの一角に、その機関はあった。
「ほぅ……面白い器具が転がっておるわい。このパイプはなんぞ?」
「ゴライアス様!? あまりあちこち弄られませんよう……!」
 興味深げに周囲を見渡し、おもむろにパイプを掴む巨漢を案内の天使は必死の形相で止めた。
「重要なものも数多くありますので! ありますので!!」
「おお、分かった分かった。まぁ、触らなければよい、ということだな?」
「乗ったりしてもダメですよ!」
 丸太のような腕にぶらさがる天使に、ゴライアスは呵呵と笑う。
「わーかっておるわい。安心せい。このゴライアス、こう見えても繊細な作業も得意でな。……ん? なんぞ踏んだな?」
「三秒前の台詞ーッ」
 すでに号泣状態な案内天使に、騒ぎを聞きつけ駆けつけた現場待機の研究員達は脱力したように背を丸くした。
「お願いですから大人しく待っててください。やっと盾の実用化に目処がついてきたんですから…!」
「ほう! フロスヒルデがか!」
 告げられた言葉にゴライアスの顔が輝いた。
 かねてから開発されていた盾。レーヴァテインと対をなすと言っても過言ではないその盾をどれほど皆が心待ちにしていただろうか。
「こちらです。この盾を使ったデータの収集を我々は切望しておりまして」
 そう言って見せられたのは吸い込まれそうなほど美しい青の盾だった。金とも銀ともつかない縁に覆われた盾の表面は、透明すぎるが故に底の見えぬ凪の水面のよう。
「ふぅむ…美しいな……」
 感に耐えぬとばかりに呟くゴライアスに、研究員達も誇らしげに頷く。だがその後ろ、後ろ手に両手を組んだ主任研究者は亀裂のような笑みを浮かべて言った。
「キヒッ…こ〜〜の程度ではまだまだァ」
「ほぅ!? 勿体ぶるではないか……おっと、そういえば、まだ『足りん』のであったな」
「ヒヒ♪…そォれもあとちょ〜〜っとの辛抱ォ」
 盾の出来栄えを確認していたゴライアスは、主任の言葉にひょいと片眉を上げた。
「ふむ。儂が外に出ておった間に動いたアレか」
「キヒ♪ 獅子公にはこの盾の……」
「いょぅし! 雫取り返すついでにあの者共とまた一戦交えるとするか!」
 パァン、とぶっとい二の腕を叩いた音が響く。
「えっ、いや、ちょ…盾持って……っ」
 別の研究員が慌てるがすでに時遅し。あの巨体が嘘のような速度で忽然と消え失せている。
「朗報を待つが良い!!」
「盾使って―――!!」
 遥か遠くから轟のように響いてきた声に、研究員一同が絶叫したのは言うまでもなかった。


「――で、何故、私に、この盾を?」
 研究所一同(主任除く)に泣きつかれ、嫌な予感を覚えながらやって来たレギュリアは、渡された盾に対し非常に冷淡に声を発した。
「盾のデータが欲しいのです」
「騎士団はどうした」
「雫の奪還に出ています」
 つまり、盾のデータをとるための力量ある天使が、不在。
 さらなる嫌な予感を覚えながら、それでもレギュリアは問うた。
「獅子公達にお願いする為、あえて別口で召喚していた、とも聞いていたが」
「雫奪還に走って行きました」
 お願いする前に。
 即行で。
「…………」
 レギュリアは盾を手にもったまま立つ。
 心の底からの声をあげた。
「……あのおっっっっさん!!!」





「なに? ツインバベルからゴライアスが出ただと……!?」
 突然の報告に、受けた鎹雅は慌てて太珀(jz0028)の指示を仰ぐ。
「くそっ! 同時……いや、距離から考えて、波状攻撃か!」
「現在、恐ろしい速さで研究所方面へ向かっているようです。単騎とはいえ、相手は大天使。これは……」
 言いかけた雅の後ろで、新たな報告を受けた一人が声を張り上げる。
「新たに敵影! ツインバベルよりドラゴン三体と……天使レギュリア!」
 ざわめきは悲鳴に近かった。いくらなんでも、この布陣は――
「方角は!? 行き先は……っ」
「研究所方面です!」
 もはやうめき声しか出ない。だがその重い空気を別の報告が吹き飛ばした。
「ゴライアス、ルートを変更しました……!」
「変更…だと?」
「東北東……あの位置からこの角度だと、あきらかに方角が違います! こちらを混乱させる為でしょうか……!?」
 それはない、とは言えなかった。
 逆に、そうだろう、とも。
「そちらだと高松に向かうルート……だな」
 高松。
 まさか。
 この局面で、表向き大人しくしている蜂の巣をつつきにいくような者はいないはずだ。まして、直接戦闘を避けるだろう大天使級と悪魔では、尚の事。
(何かを見つけたのか? 研究所を後回しにするほどの何かを?)
 太珀は目を細める。
 天使にとって、あの雫はよほど重要なものらしい。ならば、戦力を過剰なほど投入するのも不思議ではない。また、万全を期して奪還戦に臨みたいはずだ。
「……向かう先は高松方面で確定か?」
「はい。一直線です」
 天使の動き。それに注目しているのは人間だけでは無いだろう。
 面と向かってという動きはなくとも、ちょっかいをかけようとする者がいないとも限らない。
(――ならば)
「とにかく今は、レギュリアだ。今これ以上研究所に合流されたら凌ぎきれん」
 頷く一同に太珀は告げる。
「生徒達に連絡を。研究所を守る皆の為に――何としても食い止めろ!」





「あいつらはもう……!!」
 黒いドラゴンの頭上、飛行能力を解きレギュリアは降り立った。その左右には一回り小さい赤と青のドラゴンが追従するように並走している。
 ドラゴンの外見はほとんど変わらず、違いがあるとすればその色と大きさ、あと一点――黒ドラゴンの首の背、その付け根に頑丈な箱が埋め込まれていることだけだろう。
 そのドラゴンの頭に乗って、レギュリアはこめかみに青筋を走らせて叫ぶ。
「なに!? 脳みそまで筋肉に侵食されたの!? なんで全員で人間の施設に突撃!? 雫吹っ飛ばす気?!」
 無論、やりようは色々あるだそうし、隠れて別の場所に動かされないように、という布陣だろうことはわかっているが、それはともかく!
「盾のデータ採集するってのに、なんで全員で出撃するのよっ!」
 そのせいで駆り出された。また!
 いろんな意味で――『また』!!
「好き勝手に動いて……!! 全部私に回ってくるんだから……!」
 ドラゴン三体が行進する中、レギュリアの渾身の叫びは長く長く空に響いた。




リプレイ本文


 竜の咆吼が轟いた。
「うわぁ、竜三体…天使のお守りまでついて…何の嫌がらせよ…」
 紅蓮の髪を軽く掻き上げ、Erie Schwagerin(ja9642)が小さくぼやく。一際大きな竜は黒。天使レギュリアの下、悠々と進むその後ろに従うのが赤と青の竜だ。
「とりあえず、小さいのからヤっちゃいましょう。色的に目立つし、私は赤の方の相手をするわぁ」
 一度に多数を相手どるのは不利。分断させる為、若杉 英斗(ja4230)もまた、駆ける。
(竜同士で連携をとられると面倒だ)
 狙うのは同じく赤竜。距離が縮まると分かる――その炎熱の気配。
「炎の竜か」
 ちろちろと赤竜の口から零れる炎に、月詠 神削(ja5265)は小さく独り言ちた。
「わかりやすくていいな…」
 その隣、手の動きをチェックし、龍崎海(ja0565)は黄金の金属糸を具現化させる。
「西での消耗は回復したな。引き続き遊撃として、今度は東の防衛に回るか」
 冬枯れの木々も幹の部分が潜伏に利用できる。それを利用し、今まさに轟音響く戦場をジョシュア・レオハルト(jb5747)は走っていた。
(天使も知性体、なら自分たちで何かを創り出す事も出来る)
 街を焦土と化した武器。騎士団の持っていた雫。
(でも、僕らは負けられない)
 例え敵が強大であろうとも。
(こんな僕でも、護れる物があるから)
 四対二十五。その数の差をもってしても、埋めがたい力の差。
(初期、黒竜に対応できるのは、その中でもひと握り)
 日下部 司(jb5638)は冷静に戦場を見据える。
(あれほどの敵を、天使とともに少人数で葬るのは不可能)
 だからこそ、目指すべきは他竜対応者が合流するまでの時間稼ぎ。そして、その間黒竜と天使の攻撃を他に向けさせないこと。
(彼女とは京都の作戦以来ですか…)
 黒龍の頭上、桃色の髪の天使を見据え、ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は雷霆の書を具現化させる。
 過去の戦場では後方支援をしていたレギュリア。今回も同様の動きを見せる可能性はある。気になることがあるとすれば――
「あの天使が前面…」
 その位置を訝しみ、アスハ・ロットハール(ja8432)は呟いた。
「指揮なら後方でも出来る筈。報告にある特性から攻勢も前の必要はない…あの位置の理由がある、か?」
「確かに、彼女があの位置なのは不思議ですね…」
 ファティナも眉を潜める。長距離ならぬ超距離砲撃の出来る彼女が黒竜の頭上にいる意味は、何か。
 つい先程研究所で負った引っ掻き傷に顔をしかめつつ、イシュタル(jb2619)もまた天使レギュリアの存在に首を傾げていた。
(竜ばかりとはまた…面倒ね。それにしても何故あの天使がこんな場所へ…?)
「ドラゴンということは、ブレスがくる可能性がありますの」
 携帯をインカムにし、橋場 アトリアーナ(ja1403)は力を溜める。
「動きで予測できる可能性、ですの」
 後方、敵の威容を見つめ、鑑夜 翠月(jb0681)は凪いだ水面のように落ち着いた瞳で呟いた。
「上級サーバントが3体に天使のレギュリアさんが相手ですから、とても厳しい戦いになりそうですね」
「ええ……数の上ではこちらが優勢。けれど相手が相手です」
 黒井 明斗(jb0525)は静かに告げる。
 一度に集められ、転移できる人間の数には限度がある。戦いの場はここだけではない。故に劣勢であろうと人々は刃を手に立つ。
 限られた人員。限られた戦力。ならばこそ。
「倒れる者が居なければ僕等の勝ちです」
 その声に翠月も頷く。
「ええ」
(ここを通すわけにもいきませんし、頑張るしかないですよね)
 その呟きは、心の中だけで。
 通り抜けられれば、研究所は壊滅的な被害にあう。緊急招集された者の中には、研究所にいた者もいる。侵入を防いだ箇所もあれば、打破された場所も。そんな中に新手が行けば、持ち堪えた場所すら蹂躙されかねない。
 未だ遠くありながら、今日という日においてここが最後の防衛戦なのだ。
 竜を見据え、翠月は瞳に力を込める。
「行きます…!」
 その覚悟ある声を聞きながら、インレ(jb3056)は前を見据えた。
(研究所では大切な子達が戦って居てな)
 その存在を思い出し、口元に穏やかな笑みが浮かぶ。けれどそれは一瞬。
 戦いを経た孫子のような子達の中には、重い怪我を負った者も少なくない。連戦に参じれなかったほどに。
 故に、通す訳にはいかない。何人たりとも。
(此処で倒すぞ)


「今!」
 海の声と同時、一瞬で展開した阻霊符により竜の進行上にあった木々が吹き飛ばされた。竜の巨躯と力に対し、木々の存在は余りにも弱かった。
「来たか…!」
 ほとんど微動だにしない黒竜の上、レギュリアは鋭く周囲を睨み据える。二つとない秘宝を運ぶ途中。正直、この襲撃は歓迎しない。だが、予測していなかったわけではない。
(ええ!どうせこんなことだと思ってたわよ…!)
 各地で戦闘が勃発していようとも、一つとして漏らしてたまるかと言わんばかりに現れる久遠ヶ原の撃退士達。ああ、歓迎などしないとも。だが、瞳に苛烈な色を閃かせ、レギュリアは超超距離砲を構えた。
「むしゃくしゃしてたところよ…!憂さを晴らさせてもらうわ…!!」





 竜の咆哮が轟いた。その凄まじさに神削は僅かに顔を顰め、体を一気に竜の元へと走らせる。
「くらえ…!」
 側面から放たれた弐式《烈波・破軍》が竜の脚を穿った。強烈な一撃に赤竜が神削の方へと体を向ける。
 その顎に向け、勢いよく炎の剣が放たれた。

 ドシュッ!

 凄まじい血飛沫が飛び散った。神削に意識を奪われたが故に絶妙な角度で貫通したのだ。
「余所見は厳禁、ってねぇ」
 エリーは笑う。悪戯な眼差しながら、その瞳の奥にある光は冷徹だ。
 木々の幹に身を隠し、距離をとりながらインレは走った。竜の視線は前を向いたまま。仲間が惹きつけているおかげでこちらに対しては無防備。
 メキ、と銃身が異音を発した。かつて有りし黒鋼の爪牙が銃を媒体に具現する。
 それよりも早く、竜の間際へと踏み入れた者がいた。
「龍でも天使でも…倒さなければ、守れないなら倒すだけさ」
 リチャード エドワーズ(ja0951)の大剣が唸る。手が痺れるほどの衝撃は敵の強固さの現れ。黒竜より一回りは小さいとはいえ、ドラゴン。その頑強さは他のサーバントとは明らかに異なる。
 バックステップで離れ、次に構えるリチャードの切り裂いた傷口へ、インレの黒い爪牙が穿たれた。
「表面が硬いのなら、柔らかい部分を露出させるまで」
 その両サイドを二条の銃弾が過ぎる。アウルの弾丸は過たず同じ傷口へ。
「攻撃を重ねるのは基本かな」
 自動式拳銃を構えた英斗が鋭く竜を睨んで告げる。一つは彼の弾丸。ならば、もう一つは…?
(どこから…?)
 見える位置には誰もいない。かわりに黒い風がインレの頬を撫でた。
「冥府の風よ…僕に力を」
 足元から吹いた闇緑の風を纏い、翠月は敵を見据える。魔書より生み出したるは禍々しい形状の刃。
「全力でいきます!」
 リチャードが裂いた傷口に、無慈悲な禍刃が炸裂した。
「このまま押していければいいんだが」
 油断なく見つめる翠月と共に神削も竜を見やり、走った。
(最速で決着を)
 距離置き、再度《破軍》を放つ。
 寸前、目の前が赤光に包まれた。まるで紅蓮の炎のようなそれが、一瞬だけ竜を包む。一撃を放った神削が目を剥いた。
(なんだ、今の…?)
 すでに視認できる異変は消えている。
「迷っている暇は無い」
 深く、深く。敵の懐深くへと身を走らせたリチャードの大剣が唸った。

 ゾブンッ

 頑強な鱗を引き裂き内部を裂く手応え。降りかかる熱い血潮。
「くっ…!」
 ジュッ、と肉が焼ける熱と痛みが襲いかかった。
「炎系障壁…か」
 その声に次を構えながら英斗は息を飲んだ。
「あれは…バリアなのか!?やっかいだな」
 リチャードは口元に笑みをはく。痛みが自身の身を縛る。まるで呪いだ。
「ふ…竜殺しへの呪いとは、また定番だな」
「温度障害…ですね」
 リチャードの身を蝕む力をクリアランスで癒し、明斗は冷静に竜を見つめる。見下ろしてくる竜の瞳。連撃で傷を負わされ、明らかに怒りを孕んだ竜の瞳にリチャードは告げた。
「討たせてもらうぞ。人の脅威となるその身を!」





 時は少し遡る。
(後ろに引っ込んだままでは実行困難な何か、を為そうとしているのか…?)
 木々の間に隠れ、遁行にて身を秘したルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)は青竜へと走りながら訝しげに眉を潜めていた。
「上位サーバントを3体も出しておきながら、下位サーバントは追従させてないのは妙だな…?」
 どこかに潜めているのか、それとも三体だけで出撃しなくてはならない何かがあるのか。
「数が多いと移動に時間がかかるから、とか?」
 可愛らしく小首を傾げ、各務 浮舟(jb2343)は狙うべき青竜を見る。
「三体だけでも、十分驚異ですからね」
 里見 さやか(jb3097)の声に浮舟は頷いた。
「強い相手なら、不意打ち上等だよね」
 浮舟の黄昏珠が無数の黄色の光矢を生み出した。地上に綺羅の輝きが満ちる
「いけっ!」
 大地を踏みしめ、幹に隠れ放った。だが輝きに気づき、竜の首はこちらへと向いている!
 青竜の咆哮が響き渡った。大気の震えで皮膚すら引き裂かれるかのようだ。身を縛る不可視の力に浮舟は目を瞠る。
「これ、麻痺…!」
 ズン、と地面が沈むような音がした。頭上に影がさす。
(今!)
 その竜の背部に向かい、ルドルフは弓を引き絞った。

 ガァアアアッ

 悲鳴が響いた。同時にルドルフはその場から移動する。その視界の横で銀の閃光が走った。
「地上にばかり目を向けてていいのかしらね!?」
 低空飛行により木の影から飛び出したイシュタルだ。放たれた槍の一撃が浮舟の黄金の矢とともに竜の肩を穿つ。
 誓いの闇により黒羽と黒霧がアスハの体を包んだ。駆け出す手のバンカーが陽光を反射する。
「くらえ!」
 衝撃が駆け抜けた。強く、強く、強く、強く。六連からなるアウルの爆発により杭がその身を深く穿つ!
 その傍らから一陣の風が吹き抜けた。銀の風はアトリアーナ。イシュタルとアスハ、二人のフォローを受け構えるのはアスハと同じくバンカー。
「ッ!」
 接近する刹那、一瞬、竜の体を青い光が包んだ。
「なに!?」
 異変にアスハは声をあげた。だが、止まれない!
 アトリアーナのバンカーが絶大なる力をもって青竜の体に放たれる。
 その瞬間、
「きゃ…!?」
「な…」
 凄まじい勢いでアトリアーナの体が吹き飛ばされた。竜が動いたのでは無い。攻撃が当たった瞬間、まるでそれが引き金であるかのように吹き飛ばされたのだ。
「前!」
 海が警告を発した。光球が竜の翼に弾ける。だが視線は向かない。穿たれた足を引き摺り、青竜はアトリアーナを見据えその口を開く。

 青光のブレスが少女の体を一瞬で灼いた。





 戦端が開かれたまさにその時、黒竜と天使の元でも戦いが始まっていた。
「側面に向かいます!」
 竜から距離をとり、月臣 朔羅(ja0820)は駆ける。狙うべきは柔らかな関節の裏側。巨躯そのものが凶器たる大型サーバントならば、距離の感覚には慎重を期せねばならない。
「まさに威風堂々。やはりドラゴンは良い」
 黒炎のような息を吐き周囲を睥睨する竜の姿に、下妻笹緒(ja0544)は感嘆をつく。その存在の前では天使レギュリアすら蛇足、と心の中で呟く。
(と言うより、狙撃手足る彼女が、あえて前線に姿を見せている理由は何か)
 上位サーバントたる竜ならば知性もあるだろう。超射程を駆使し後方から支援してきたレギュリアの戦法からすれば、現在の位置は不可解だ。
「傷の具合は?」
「まぁ、打ち身みたいなものが少し、な」
 ジョシュアの声に、向坂 玲治(ja6214)は研究所で負った痛みに薄く苦笑を浮かべる。息つく暇もない連戦。それほどに、学園が確保した物が天使にとって重要なものだったと告げるような。
「じっとしてるわけにも、いかないんでね」
 そうして、あえて黒竜の眼前へと飛び出した。
「来いよトカゲ野郎。尾っぽ残して逃げるなら見逃してやるぜ?」
 にやにや笑いながら指を立て挑発を行う玲治のタウントに、黒竜の視線が動いた。正面に立つ玲治。標的の固定と同時、竜の背後で中津 謳華(ja4212)が躍りかかった。
「竜…相手にとって不足はない」
 鍛え抜かれた体に宿したるは荒野の鬼神。呪いの如きそれにより瞳は緋に染まる。
「その器…試させてもらう」
 相反する属性により鋭さの増した重い一撃がその巨躯に叩き込まれた。
「私がいるのに、竜狙いとはね……!」
 自身でなく竜を狙われ、レギュリアは目尻を釣り上げた。
「ずいぶんと鬱屈が溜まっているご様子。一つ楽しい演目でもいかがです?」
 敢えておちょくるようにエイルズレトラ マステリオ(ja2224)が声をかける。レギュリアの眦が僅かに震えた。
「ええ、ええ。楽しい演目にしてくれるんでしょうね!」
 同時、大気が爆ぜた。凄まじい爆撃に周囲もろともエイルズレトラの体が一瞬で砲撃に引き裂かれる。
 ――否。
「余裕のない女性は嫌われますよ〜」
 ひらひらとスクールジャケットの破片が舞う中、無傷で笑う相手に天使のこめかみに青筋が走った。だが黒竜の頭上付近からは動かない。
(挑発に乗っているようで、わりと冷静ですね)
 桃色の髪を靡かせ立つ天使を見上げながら、エイルズレトラは薄く笑む。視線の先、レギュリアの下、その後方から光の波が襲いかかった。
「ちっ」
 間一髪で回避したレギュリアに向かい、さやかのアウルの鎧を付与されたキイ・ローランド(jb5908)は不敵に笑む。
「ゴライアスは明後日の方向に行ったけどそれも作戦のうちか?」
 レギュリアのこめかみが僅かに波打った。
「二人で私の相手? 舐められたものね」
「いいえ」
 声は鋭い矢と同時に。側面からの矢を避け、見やる先でさやかは破魔弓を構え、挨拶をする。
「レギュリアさんですね。天使サトミエルと申します。お噂はかねがね」
「……どんな噂なんだか」
 ぼやいた瞬間、赤雷がレギュリアの全身を叩いた。
「ぃ……た!」
「機嫌が悪そうですが今日は何の尻拭いをさせられたので?」
「お前…!」
 ライトニングを放ったファティナにレギュリアは視線を向ける。
 その足元、竜は定めた標的へと向かい歩を進める。地響きが天に轟いた。コフッコフッ、とその口から黒炎が漏れる。
「! 気をつけて!」
 ふいに背筋を走った悪寒にファティナは叫んだ。竜の前、玲治もまた察する。
(来る…!)
 竜が息を吸い込む。玲治は身構えた。動けば仲間に被害がいく。姿勢を低く、盾を生み出す。

「――ッ!」

 衝撃が一瞬で世界を闇に塗りつぶした。





「あの障壁、触れたら魔具を伝ってくるようだ」
 剣を持つリチャードが告げる。確かに、と明斗は頷いた。遠隔と近接。竜の体に触れた魔具と直接接触しているリチャード以外に障壁によるダメージは無い。
「それに、魔法効果が薄くなりました」
 竜の体に起きたもう一つの違いに、翠月はすぐさま新たな術を構築する。
「おそらくは魔方防御系。なら…砕くだけです!」
 生み出されるのは全てのギフトを剥ぎ取る魔法―DDD―
 大気が鳴った。まるで見えない何かを砕いたかのような音が響く。
「やった……!」
 喝采をあげる明斗の横、神削が声をあげた。
「! 翼!」
 折りたたまれたままの翼が動く。まさか、飛ぶのか。それとも、その大きさでもって攻撃してくるのか。
 だがその瞬間、赤い左翼の上部を黒焔の弾丸が吹き飛ばした。


「砕けたな……」
 スコープ越しに成果を見届け、影野 恭弥(ja0018)は照準先を翼から胴体へと変更させる。
 物陰にて狙撃する恭弥からは戦場は遠く、血の匂いも熱も僅かにしか届かない。だが、それでいい。狙撃手には狙撃手の戦い方があり、戦場がある。
(例え何が起ころうとも)
 鉄の意思をもって、任務を果たす。己の本領を発揮するために。





「引き離して!」
 吹き飛び、大地に叩きつけられたアトリアーナに海が走った。明らかに重症。意識は無い。竜が更に身を乗り出す。
「させない!」
 イシュタルの八卦石縛風が展開した。澱んだ氣が砂塵を舞い上がらせる。竜が苛立たしげに咆哮を放った。傷は負えど、石化はしない。体を弾き飛ばされるのを覚悟でアスハのバンカーが穿つ。確かな手応えと同時、アスハの体が宙を舞った。
「先の光のせい、か…!」
 竜がアスハを睥睨する。その鼻面をルドルフの矢が貫いた。
「射撃系遠隔は敵障壁の効果を受けない。触れたものと繋がっている者は効果を受けるようだよ」
 ともかくも負傷者から距離を。動く戦場の片端、浮舟が治癒膏をかける中、海の神の兵士により身を起こし、アトリアーナはふらつく足に力を込めた。
「倒れている…暇は、ありませんの…っ」
 その声に海は頷く。咆哮が響いた。まともにくらいつつもアスハは鼻で笑った。
「効かない、な」
 驚異なのは咆哮では無い。広範囲かつ高威力のブレスだ。
「その口、閉ざさせてもらうよ」
 青竜の口に海のセエレが巻き付いた。口を縛る金属糸に青竜が不快げに鼻から息を吐く。
「っ!?」
「いかん…!戒めを解け!」
 次の瞬間、青竜が大きく首を振った。魔具に引っ張られる形で海の体が宙を舞う。解くよりも早く大地に叩きつけられ、全身の骨が砕けるような痛みに息が詰まった。
 青竜は僅かに傷ついた表皮をベロリと舌で舐める。
「流石に、一筋縄ではいきませんか…」
 高い防御力に守られ、海は痛む体を起こす。口を封じ続けるのは難しい。だが少なくとも一回分のブレスは阻めたと言えるだろう。
 追撃を阻むように浮舟が黄金の矢を放ち、イシュタルが八卦石縛風を再度放つ。
 アトリアーナはダメージの残る足で駆けた。バンカーによる直接攻撃。例え弾き飛ばされても攻撃は入る。竜の鱗を砕き肉を露出させる程に。
 ならば、
「・・・弾かれても、なんどでも、倒れるまで、ですの!」





 五体がバラバラになる錯覚を覚えた。大地の感覚が消える。自分が吹き飛ばされたのだと気づいたのは、勢いよく地面に叩きつけられてからだ。
「…っは」
 玲治は息を吐いた。臓腑が全て裏返り体中が張り裂けるような激痛。どれだけ時間が経過したのだろうか。意識が戻ったのは、駆けつけた海の神の兵士が発動したからだ。
「近づけさせないで!」
 遠い場所でさやかの声が聞こえる。闇色の靄の中、覗き込んでいる人の顔すら朧気で分からない。
「傷が深い。まだ動かないで」
「手伝います!」
 この声は、ジョシュアとさやかか。何故? 他の竜はどうなったのか。
 倒れた玲治に向かおうとする黒竜の体を笹緒の炎弾が襲った。
「ドラゴンよ、あまり一箇所に意識を向けすぎるな」
 嘯く声は悠々と。けれど各個撃破を妨げる為、攻撃の手は苛烈。
 司の槍が竜の喉元へと繰り出された。胸に抱き力に変えるのは戦いに挑む戦士の心。
 竜が唸り声をあげる。一瞬にして巨大な爪が玲治に迫った。
「させないの!」
 瞬間、小さな白い影が玲治達の前に飛び出した。
「んきゅ〜〜っ!」
 若菜 白兎(ja2109)の鎧が凄まじい音をたてた。黒竜の体からすればあまりにも小柄な体。それが爪の一撃を受けきる。
「いた…い、けど、我慢……!」
 敵をしっかと見据え、白兎はその動き全てを脳裏に叩き込む。僅かな仕草、それから技を放つ前の前動作を読み取る為に。
「喰らいなさい!」
 風を切って現れた朔羅の手が黒紫の光を纏った。月臣流、破月・参之型―蝕露―。その侵食せし霊毒が黒竜の肉を侵す。
 レギュリアが動いた。だがそれと同時にキイが動く。
「君に働かれると厄介だからな」
「ちぃ…ッ」
 避けきれず、フォースがその体を弾き飛ばす。眼下に司。竜の喉に向かい槍を深く突き入れる。
 竜の広範囲攻撃を避けるよう移動しながら、謳華は冷静に戦場を見据えた。
(天界相手では、装甲に過信はできんが、こちらの攻撃も通じやすいのは事実)
 正確に、確実に。己の力を一点に込めて。
 身に宿したる荒野鬼神四肢招来之法―眼前の敵を討つための力。
(全力で斃すのみだ)
 解き放たれた力が、竜の脚を抉った。


「おっと」
 ジャケットと共に真横の木が吹き飛んだ。外周を回るようにして天使の攻撃を惹きつけながらエイルズレトラは内心の冷や汗を殺し優雅に笑む。
「足場を確定させてるから当たらないのでは?」
「うるさい!」
 未だ天使は黒竜の上。ちょっかいをかける度にこちらを向くものの、黒竜に近づく者を狙う手は止まらない。
(何故、今も前線に…?)
 決して黒竜の傍を離れない天使にファティナは眉を潜める。
 その時、猛威を振るう爪を避け、跳躍した朔羅がそれを見つけた。
「あれは…何?」
 黒竜の首。その根元に埋められたもの。
「後天的に埋め込んだ物なら、その境目が脆弱なはず!」
 朔羅の体が舞った。壁走りにより竜の体を一気に走る。一直線に向かうのは箱と鱗の境目。
「!? させるか!」
 レギュリアが血相を変えた。
「貴方がそこから動かない理由、それですか!」
 一瞬たりと注意を逸らさず見据えていたファティナが叫ぶ。
 レギュリアのライフルが必殺の一撃を放った。急襲され朔羅の体が吹き飛ばされる。
「なるほど。その箱は奪わせて貰う」
 キイが駆けた。
「ふむ…竜の身に埋めた宝、か。興味深い」
 きらりと目を光らせ、笹緒は身に力を溜める。狙うべきはあの箱。
「なるほど。そこを守っていましたか」
 声にレギュリアのがライフルを放つ。最後の空蝉が消えた。
(流石は一級の狙撃手、といったところですか)
 舞うように移動し、エイルズレトラは内心嘆息する。この凄まじいばかりの命中力から避けれる者がいるのか、否か。
(命中を阻害出来れば…)
 或いは結果は違っていたかもしれない。黒竜の翼が二人の間で壁のようになる。次の瞬間、視界が開けた。
「しま…ッ」
 黒竜の爪が前方の司に放たれる。動いた体。竜の頭上で構える天使と視線が合う。 
「落ちなさい!」
 閃光が一瞬で意識を刈り取った。





 レギュリアの砲撃が天に轟く度、地上の落ち葉が地面ごと吹き飛んだ。
「癒す……の」
 自身も傷だらけの体で、白兎は癒しの風を解き放つ。癒され、司は傷だらけの手で槍を構える。
「ありがとう…!」
 未だ闘志衰えず、竜と天使に向かう人々の体は満身創痍という言葉こそ相応しい。赤と青の竜を葬り、駆けつけた者もまた深手を負ったままだ。
 黒竜の鱗が輝くのが見えた。謳華は駆ける。
「守りを固めた、か…それがどうした!!」
 御霊穿が堅固な鱗を破壊した。見極め、白兎は声をあげる。
「竜、障壁する前、体小さくするの!」
 言ったかみたかで竜が再度障壁を纏う。
「きゅ…!」
 白兎が非常に遺憾そうな顔で竜を睨んだ。
「流石に、硬い…!」
 黒竜の頑強な鱗に刃を弾かれ、キイが声をあげた。ただでさえ硬い鱗が強化されているのだ。
「なら、一撃に込める…!」
 生半可な力では小さな傷にしかならない。数で押すことも可能だろう。だが、天使レギュリアがそこにいる。
(時間はかけられない…!)
 神削の《ソウルイーター》が竜の前足を切り飛ばした。
「回復します。こちらへ」
 さやかがインレの変色した腕へと治癒を放つ。敵は強大。故にここが正念場。回復の手が尽き人数が減れば一気に瓦解する。
 竜の攻撃を受け止めた玲治も砕けそうな足で立つ。血が滴り落ちるのを感じた。痛いといえばどこもかしこも痛くて、もはや自分がどんな姿なのかも分からない。
「痛ってぇな……だが、これで終わりだと思っちゃいないよな?」
 二つの闇が竜へと走る。走る片側の闇はインレ。目の前に黒竜。大地を踏む足。螺旋を描き体を巡る勁が刃に宿る。
 ―吼えるな蜥蜴モドキ
 幾ら硬い鱗を持とうと
 幾ら堅固な障壁を持とうと
 我が黒鉄の刃は
「──蹂躙するぞ」
 その背後からキイが走り込んだ。狙いは――箱!
「このっ」
「休む暇は、与えませんの!」
 アトリアーナのワイバーンがアウルの弾丸を放つ。
「ちィッ!」
 追撃を放とうとしたレギュリアが舌打ちをする。
「小賢しい真似を……!」
 レギュリアがライフルを構え、急降下して照準を絞る。

 ズドンッ!

 大気が震えた。高命中と絶大な飛距離を持つ魔法弾がキイを襲う。
 その刹那、

「ドーン」

 攻撃を放ち、無防備なレギュリアの背を黒き弾丸が穿った。


「か…っは」
 背から胸へ向け胴体に穴を空けた一撃は、かろうじて臓器から外れていた。まともに入った一撃にレギュリアは振り返る。
「そこ、か!」
 怒りが我を忘れさせた。箱を――その中にある、大天使に渡さなければならない盾を守らなくてはならないが、それ以前に……!
「遠方射撃だと……舐めるなッ!」
 地上の恭弥との距離は四十メートル近い。だが甘い。
「射程内なのよ……!」
 レギュリアの超長距離ライフルが怒りの一撃を放った。


「お待たせしました」
 明斗の声と同時、エイルズレトラは跳ね起きた――のは気持ちだけ。
「深手を負っています。今、治しますので」
 深い傷へと治癒の力を集め、ジョシュアはひたすらにアウルを練る。歴戦たる人々のように強大な力を持って敵を切り裂くには向かない自身。けれど、戦いとはそれだけではない。
「僕自身の個体性能は低くても、護る為の何かには慣れる筈…っ」
 払い落としても吹き飛ばしても、撃退士達は何度も首へと群がる。咆哮を放った竜の動きが、ふと止まった。ルドルフの影縛りだ。
 瞬間、笹緒の周囲に簡素枯淡の美が映される。
「さて、長らく竜の姿を観察していたが――引き時だろう」
 狙いは箱のある首元。レギュリアが振り返るよりも早く、笹緒は術を行使する。
「慈照寺銀閣――とくと御覧じろ」
 白銀色の波動が黒竜の体を穿った。あわせ、ライフルを構えるレギュリアにファティナはライトニングを放つ。竜が怒りの声をあげた。
「大きな声は好きじゃないのよね」
 エリーは空に向かい手を差し伸べる。炎の逸話を収めし魔書から生み出すのは炎熱の剣。竜の顎を貫いた一撃。
「少し、黙って」
 指し示すと同時、一直線に飛来した剣が竜の下顎を斜めに貫いた。
「あと少しで砕けそうですね」
 力を溜め、翠月が同じ場所を穿つ。英斗は二人の前に立った。獲物を求め彷徨う竜と英斗の目があう。英斗を突き動かしたのは歴戦の勘か。一瞬で炎の固まりのような頭が迫る。目の前に上の牙。激突する。呼び出した光盾。
「たとえ竜の攻撃でも、この盾で受け切ってやる!]
 軋む音が響いた。盾か。体か。
「うおおおおおお!」
 英斗の前、迫る牙の向こうに赤い炎が見える。
 襲う為に伸びた胴。その脇へインレは一撃を撃ち出した。
「っと」
 圧力が消え蹈鞴を踏む英斗を明斗の治癒が癒す。時間にして僅か数秒。ただの一発。けれど防御に優れる英斗でなければ危険だったかもしれない一撃。
「無事か」
「お陰様で」
 インレの声に頷き、不死鳥を使いながら英斗は唸る。
(流石は、竜か!)
 仲間を守る為あえて爪の一撃を受けたリチャードもまた、口元の血を拭い、不敵に笑う。
「竜を倒すなど、まるで英雄の様じゃないか」
 戦場の傍ら、さやかと白兎の治癒を受け、ジョシュアの神の兵士で意識を取り戻した恭弥は即座に銃を構えた。
(…あの、箱)
 レギュリアがあれだけの隙を見せたもの。同時、ルドルフの影縛りが再度竜を縛り、朔羅とキイが背へと駆け上がった。
(タイミングは、一瞬)
 阻止しようとするレギュリアを笹緒とファティナが魔法で阻害する。朔羅が箱に到達した。恭弥が引き金を引く。
 同時三方から放たれた攻撃が竜の首から箱を吹き飛ばした。


「しま…ッ」
 レギュリアは息を飲んだ。竜の首の根元。そこに箱は無い。傾ぎ崩れる竜の体。驚き見やれば、竜にトドメをさした傷だらけのアトリアーナが挑むように立っていた。
(これは…)
 黒竜の巨躯に阻まれ、箱は落ちた先すらわからない。敵は重症こそ多いものの一人も欠けることなく健在。
(ここまでか)
 レギュリアは即断した。一瞬で滾る血を鎮める。
 戦場を焦土と化し、全員殺し尽くせば任務は果たせるかもしれない。だが、賭けだった。すでに彼らは京都を封じた頃とは比べ物にならないほど強くなっている。そして、この土地――天魔入り乱れる、四国という地。
(今は、こいつらに預けておくほうが、得策)
「今は退く」
 汚点は残るだろう。だが、それに固執して引き際を見誤れば全てを失うだけ。
 翼を広げ、レギュリアは発つ。
「いずれ取り戻させてもらう。戦禍に巻き込みたくないのならば、決して人の多い場所には移動させないことね」
 例えば、学園内とかには。
「待ちなさい…!」
 ファティナが声をあげた。だが届かない。何の未練もなく飛び去るレギュリアの影を見送り、傍らのアトリアーナが自身の血の海に沈むようにして膝をついた。
「勝った、の」
 実感が分かない。けれど、敵の姿はもう無い。
「治癒も使いきっちゃったの…」
「ぎりぎりでしたね」
 白兎の声に頷き、ジョシュアは空を見上げる。
 轟天は打ち破られ、冬の静寂が空に広がる。もしかすると、それは僅かな間だけなのかもしれないが、それでも――

「…守れました」





 満身創痍の二十五名をアストラルヴァンガード部隊が収容し、全員の治癒が開始される頃、キイはそれを見つけた。
「箱が…」
 砕けたその破片の下に、青い輝きが見える。
 引き出し、一同は見た。
 空のように青く、海のように蒼く、金で装飾された縁に小さな何かを埋め込む穴を空けたもの。


 ――盾、だった。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: God of Snipe・影野 恭弥(ja0018)
 封影百手・月臣 朔羅(ja0820)
 無傷のドラゴンスレイヤー・橋場・R・アトリアーナ(ja1403)
 奇術士・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
 夜を紡ぎし翠闇の魔人・鑑夜 翠月(jb0681)
 災禍塞ぐ白銀の騎士・キイ・ローランド(jb5908)
重体: −
面白かった!:24人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
銀閃・
ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)

大学部6年145組 男 鬼道忍軍
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
魅了されても兄が好き!・
各務 浮舟(jb2343)

大学部4年272組 女 陰陽師
誓いの槍・
イシュタル(jb2619)

大学部4年275組 女 陰陽師
断魂に潰えぬ心・
インレ(jb3056)

大学部1年6組 男 阿修羅
緋焔を征く者・
里見 さやか(jb3097)

大学部4年133組 女 アストラルヴァンガード
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
白炎の拒絶者・
ジョシュア・レオハルト(jb5747)

大学部3年303組 男 アストラルヴァンガード
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト