「未知なる物に出会えそうだね」
穏やかな風貌に知的な青い瞳。不思議の国の騒動に居合わせた流れの魔術士ヴィルヘルム・E・ラヴェリ(
ja8559)は目を輝かせた。
「何が待ち受けているかな…!」
そんな彼の立ち去った後、お触書の前に佇むのは果てなき冒険心を胸に世界を往く一匹狼(ぼっち)宇宙魔女・フレイヤ(
ja0715)。
(一匹狼の宇宙魔女として宝箱は開けなければならないのだわ。例えそこに呪いがあろうとも!)
キリッ。
雰囲気を出すフレイヤの傍らを弾むような足取りでナデシコ・サンフラワー(
jb6033)が駆ける。
「わ〜い、宝探しだ!」
手に持った南瓜ランタンが大きく揺れる。足取りは軽く、動作は元気いっぱい。
「いっちばんに見つけてくるよー!」
ぽいんっと段差を飛び降り、森へと勢いよく走って行った。
「路銀稼ぎにはなるかな?」
御触書の前、宇田川 千鶴(
ja1613)ことチヅルは隣りの石田 神楽(
ja4485)ことカグラを見る。
「早く片付けて、報酬を貰って帰るとしますか」
無事に帰れればですが、と小さな呟きが後の彼らの運命を物語っていた。
二人が去った後、王国を拠点とする冒険者・礼野 智美(
ja3600)(クラス:侍)は御触書を見て表情を引き締める。
「ここは良い国なんだ。一人の民として治める女王様の希望は叶えたい」
先の収集隊に参加した近衛隊副隊長に情報を求めると、副隊長は快く引き受けてくれた。
「こちらがそのちずになります」
なんだろうこのちみっちょい生き物は。
「きいていらっしゃいますか?」
「え、あ、はい」
丁寧に説明するレヴィ(五歳児)に智美は頷く。
「宝箱は二十五個ですよね?」
「あのようせいのすることですから、たしかではありませんが…」
答えるレヴィの思案顔に、智美は苦笑する。
「最善を尽くしますよ」
「よろしくおねがいします」
ちまっと体を折り曲げるレヴィに見送られ、城を出ながら智美は思った。
(呪い。どうせ受けるなら、五歳児だな)
「とても不思議な物ならば、きっと素晴らしいものなんだろう」
歌うように口ずさみ、インヴィディア=カリタス(
jb4342)は微笑んだ。
「それは愛を振りまくものか、それとも…。どちらにせよ、今日は楽しい一日になりそうだ」
流れの詩人である彼は世界中の愛を詩に詠む。この国ではどんな愛の形があるだろうか。それを考えると心が弾んだ。
そんなカリタスと同じく、不思議の国の騒動に居合わせた詩人がもう一人。
「さて、立ち寄った王国で、まさかまさかの宝探し♪」
竪琴を手に五十鈴 響(
ja6602)は相好を崩した。歌の種にも、女王の宝物が何か知りたい。
「この顛末を詩にして、私の持ち歌に♪」
呟きすら旋律に乗せて、吟遊詩人・響は軽やかに森へと旅立った。
(中央の伝説的美貌と名高い女王様…ボクの望みは、そう、女王様と懇意になるのみっ!)
旅のナンパ師・藤井 雪彦(
jb4731)は輝く瞳で握り拳。女王と懇意になるためならば、スカートだってはいてみせる。
(くっく女性として近づけば警備も薄かろう…)
「ふふっボクに任せてっ呪いなんて怖くないもーん」
『ふふ…武運を祈る』
噂を遙かに上回る美貌でルスは微笑む。雪彦は意気揚々と森に出かけた。
丁度その頃、風の噂で女に生まれ変われるという宝箱の話を聞き、怒濤の勢いでやって来たオト(訂正)もといオカ(修正)もといヲトメの姿があった。
御堂 龍太(
jb0849)。城下街の一角、とあるバーの店員である。
「これは、あたしの念願を叶える時!」
肉肉しい体に封じられた乙女の魂。真実の姿に戻るときは――今!
爆走する龍太とすれ違うようにして広場を歩き、御触書の前に立ったジェラール・アロース=コルトン(
jb3534)は全文を読んでため息。
「困っているなら、助けるのが道理というものだろう。それにしても、イタズラを嗜める者はいなかったのか?」
世の中には懲りない輩というのも存在するという。ならば悪戯妖精もその類か。
「ずいぶんと悪戯なレディのようですな…」
穏やかな微笑みと共に呟いたのは、隻眼の老執事ヘルマン・S・ウォルター(
jb5517)だ。
「女王陛下の御為とあらばこの老兵も参加いたしましょう」
何があっても揺るがぬ大らかさで、いっそ優雅に出陣した。
その頃、帰宅したゴライアスに従者達が慌てて駆けつけていた。
「御無事ですか、ゴライア、ス、様?」
神月 熾弦(
ja0358)は振り返ったゴライアスを見て駆けつける足を止める。
巌のような巨体、どうあがいても男くさい顔、突然の悲劇にボタン吹っ飛んだらしく礼服の前がダイナミック☆ババーン。
なんだこの癒されない巨乳。
「えと、ご立派になられました、ね」
精一杯言葉選んだ熾弦の目がそっと逃げる。仕方ない。従者の心に多大な心痛が発生した――
「あの、着てみます?」
――と思ったのは誤解だったらしい。熾弦がそっと差し出すのはメイド服だ。
「ふむ。体格にあった衣装というやつだな?」
ゴライアス、なんの躊躇もなくれっつ☆お着替え。あっ着替え光景が色々厳しい!
「ゴライアス様…包容力ありそうなお体に…」
そんなゴライアスにファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)は落ち着いた表情。
「それでも変わらぬ、いえより増したご威光は流石ですが…物足りませんね。服に合わせ、こちらも着られると最早敵無しと思いますが着ますよね? 着なさい」
何故断定系。そして差し出されるのはらんじぇりーとにーそ。
「ほう。それが父バンドというやつか!」
たぶん字が違う。
「しかし装着方法がわからんな。すまんがつけてくれ」
えらいこと言われた。熾弦とファティナ頑張った。たぶんつきたての餅を布に押し込むのってこんな感じ。
「おお重さが安定したな。これはよい!」
バリバリィッ
ゴライアス、完全着用のブラとメイド服で動いた途端、世紀末覇者的勢いで服が大破した。
「…ふぅむ。儂の体にはちィと小さかったようだな」
周囲一帯に魔法効果<テラー>が発生した。
視覚の暴力が極まった王宮の外、城門をウキウキと越えたのは城勤めの(お胸が貧しいことで有名な)女戦士・エルレーン・バルハザード(
ja0889)だ。
「わぁーい!おたから♪おたから♪」
南瓜ランタンの明かりを揺らしつつ、軽やかに走り抜ける。
「きっとみつけたら、いっぱいいっぱいご褒美もらえるんだ…そうしたら、うふふっ…いーっぱい┌(┌ ^o^)┐な本、買っちゃうぞー!」
いいのかエルえもん先生報酬がそれで。
そんなエルレーンの後ろ、意気揚々と門をくぐるのは楊 礼信(
jb3855)。お城の騎士見習いである。
「‥‥女王さまが大切にしている宝を盗むとは、困った妖精さんですね。僕が取り返して、女王さまを安心させてあげましょう」
騎士団員からマスコット扱いされる日々。自分も一人前の騎士である。今回のことはそれを証明するチャンス!
「見ててください、女王様。僕、頑張ります!」
城中を駆けめぐった情報に、城の料理人である星杜 焔(
ja5378)はせっせと料理を作る。
(森で探し物となるとおなかもすきそう。ハロウィンのごちそう作るよ )
出来上がったのは南瓜パイを含むハロウィンディナー。お弁当にしてバスケットに詰め込みつつ、ふと思いついて女王を訪ねる。
「女王様の宝物ですが、匂いで辿ることは出来ませんか?」
ルスは穏やかに微笑んで首を傾げ、近くをちまちま走っていたレヴィの首根っこをひっ掴んだ。
『レヴィ。ハンカチか何か持っていないか…?』
「? ありますが」
ぷらんぷらん揺れながらレヴィがハンカチを取り出す。それを受け取り、ルスは笑って焔に渡した。
『辿れるとすればこちらだろう』
首を傾げつつ焔はハンカチを受け取る。ルスはただ微笑みを深くした。
『朗報を待つ。頼んだぞ』
張り切って出る者の傍ら、だらりとした姿で不満を零す者もいる。
「えー、最初から呪われるとか分かってるのに、やってられないってば、たいちょー」
「お・ま・え・はっ。それでも近衛隊員かっ。たまには働け!」
ジェンティアン・砂原(
jb7192)の頭にマッチョ化したエッカルトの拳が炸裂する。なんという説得(物理)。筋肉増し増しなせいで画面の酷い感が半端ない。
「だってたいちょー、ヘンテコな姿じゃないですかー」
「う、うるさいなっ」
マッチョな体に美少年の可愛い顔である。これまた違う意味で視覚の暴力が甚だしい。
「いいからお前も行けっ。行かなかったら減棒だからな!」
「横暴だなー。もー」
熱意ある説得(物理)を受け、ジェンティアンは渋々と旅立った。
●
皆が向かう不思議の森で、精霊ディアドラ(
jb7283)は優雅な仕草でほぅと嘆息をつく。
「麗しい陛下の憂い顔…なんて罪深いのでしょう…でも悪戯な妖精さん…あとでシメるわ」
(森は庭のようなもの。私は慣れているから、近場の宝箱は他の方にお譲りいたしましょう)
そう思って歩き出した途端、宝探しに来る三人の姿を発見した。
「広い森やなぁ。宝箱どこやろ」
「奥の方かもしれないのですよ」
女王の助けになるのなら、と、劇場から出て来た亀山 淳紅(
ja2261)と、その恋人のRehni Nam(
ja5283)である。後ろからついてきているのは、保護者であるヘルマンだ。
「あ、精霊さんや! 宝箱のこと、知らんやろか?」
「この近くでしたら、丁度三つほど」
ディアドラが微笑んで示す。その内の一つ、木の上に設置された宝箱に淳紅は呆れ顔になった。
「しかしまぁ、色んなとこに隠すもんやねぇ…まぁ消去法ってことで、一つ開けさせてもらおかー」
「ジュンちゃん、気をつけて、なのですよ」
するすると木の上に上っていく恋人をレフニーは応援する。宝探しそのものはついでというかデートの口実だったりするが、頑張っている恋人の姿を見るのは嬉しいものだ。
「終わったらお弁当食べましょうね。ヘルマンさんの分もちゃんとあるのですよっ」
「これは嬉しいことですね。ふふ…ですが、私はそっと席を外しましょう」
パチッと粋に合図するヘルマンに、意図を察してレフニーは顔を赤らめ、嬉しげに頷く。せっかくのデート。邪魔はするまいという爺様の気遣いだ。
「あった! これやなっ」
頭上から淳紅の弾んだ声が聞こえてくる。
「それじゃあ、私はこの箱を開けてみるのです」
「それでは、私はこちらの箱を」
では、と宝箱に向き直ったヘルマンの頭上で不吉な音がした。
でろでろでん♪
淳紅は呪われた! 精神だけ五歳児になった!
「はい!かめやまじゅんこー、5さいでーすやでーv!」
無垢な笑顔で外見十八歳の男性が大きな幹の上でぐるりと逆さ吊り。
「ジュンちゃん!?」
異変を察したレフニーだったがその手はすでに宝箱を開いている!
でろでろでん♪
レフニーは呪われた! 精神だけ猫化した!
「うなー…うにゃぅ?」
可愛らしい声をあげ、レフにゃんがこてんと首を傾げる。なんという夫唱婦随。外見そのままで二人そろって精神が別のものに変化しやがった!
「ふむ。アリですな」
酷い呪いなら庇おうと爺ゴコロ発動中のヘルマンだったが、これはヨシとあっさりこっくり。その手が躊躇なく宝箱をパカーした。
でろでろでん♪
ヘルマンは呪われた!
\柔らかおっぱいになりました/
ディアドラ、輝く笑顔でサムズアップ!
「おや…これはまた立派なものがつきましたね」
ヘルマン、全く動じない。
その時、バランスを崩した淳紅が木の上から降ってきた。すかさず走り込むヘルマンの胸がエクセントリックバインバイン!
あ。ベストのボタンも吹っ飛んだ!
もっふ。
淳紅、頭から巨乳ダイブ。
「じーちゃんやーらかっなにこれすごいぃぃましゅまろまんみたいやーん!!」
※外見は18歳男性です。
繰り返す。
※外見は18歳男性です。
「ご無事のようですな」
ふー、セーフと言わんばかりのヘルマンの顔。絵面的には色んな意味でアウトだが彼らの中ではセーフらしい。エルえもん先生出番ですよ!
「はうはう…! 羨ましい胸なの! でも細マッチョの体に柔らか巨乳とかニッチにも程があるの!」
本当にな。
呼ばれて現れたエルレーン、心のキャンパスに色んなものを描きつつ、ヘルマンの開けた宝箱の効果に目をギラつかせた。
「こうしてはいられないの! 精霊さん! 妖精さんが隠しそうな『ちょっとわかりにくい』場所で胸がおっきくなる宝箱の場所が知りたいの!」
えらい指定細かいな。
「それでしたらここから百八歩歩いた先にある木の上です♪」
ディアドラ、あっさり答えた。
「了解なのっ!」
恐ろしい勢いで走り去るエルレーン。
同時、地上に降ろされた淳紅の膝に精神が猫化したレフニーが這い上がる。
「にゃぁー♪」
頬を摺り寄せる様はまさに猫。外見的には色々危険な気もするが幼児(精神)と猫(精神)だから精神的には問題無い。多分。
「おねーちゃん、かわいー!」
淳紅、幼い笑顔でレフニーに抱きついた。
「…んん……おねーちゃんは、やーらかな「おっと胸が滑りました」いね・っ」
ビターンッ!
すわ修羅場発生か的発言前、ヘルマンが巨乳をフルスイング!
吹っ飛んだ二人が固まってごろんごろん。そのままキャッキャゴロゴロしているのを微笑ましげに見守り、ヘルマンは何かを成し遂げた漢の顔。
「仲良きことは美しきかな、でございますぞ。…悪戯妖精にもお仕置きが必要でございましょうな」
「私もそう思っております。では、後でまた」
「ええ、また後で」
精霊とマッチョ巨乳、しっかと握手して別れた。
(ろくな呪いじゃないな…さっさと済まそう)
一連の状況を眺めて後、久遠 仁刀(
ja2464)は無造作に置かれた宝箱は無いかと歩きだした。
(これは、本物が堂々ある筈ないと思わせる作戦だろう。そう…例えば、あれみたいに)
仁刀の見やる先、孔雀の羽で飾り立てられ亀甲縛りで槍に串刺しにされた宝箱があった。
怪しさが爆発だ。
(これに違いない…!)
仁刀、渾身の確信。
鮮やかな手つきで戒めを解き、高々と掲げられた獲物のような宝箱をオープン!
うゎ〜ぉ!(特殊音)
マサトは呪われた!
完全女体化した!
(……)
無言のままorzった仁刀もといマサコの絶望が酷い。
(……これは俺じゃない。きっと記憶の混乱か何かで自分と思いこんでいるだけのどこかの女性だ、うん)
低木に埋もれ、エア人格を設定しているマサコ。その様子を偶然見てココロトキメかせたのが龍太だ。
(噂は本当だったのね!)
ヲトメ龍太、魂からの歓喜。
「あらん。丁度いいところに宝箱が♪」
しかもお誂え向きに可愛い宝箱が足元に!
「これであたしも真実の姿を・」
でろでろでん♪
リュウタは呪われた! 声だけ七色レディーボイスになった!
「それじゃないわァ!」
龍太、七色のボイス(女声)で宝箱バァン!
「あたしの…あたしの夢を返してぇえええ」
してぇええ
てぇええ
ぇええ
素晴らしい美声が森に木霊する。その様に龍太、ハッとなった。
(これは…茂みに隠れて「助けてください…」とか弱い少女の物真似すれば…釣れる!?)
龍太。謎の天啓。
天の声『囁くのです……囁きでOTOKOをGETするのです……』
「わかったわ女神さま! あたし、がんばる!」
運命に立ち向かう女主人公の声で、龍太、空に輝くどどめ色の星に誓った。
そんな龍太の後ろ、謎の声をBGMにジェラールは歩く。
「美しい声が聞こえるね。けれど俺の愛しい人の声はさらに美しい…」
どんな時でも妻賛美が止まることはない。そんな街で一番の万年新婚夫婦、ジェラールの脳みそは9割9部妻で占められている。
「さぁ、今日の出来事を愛しい人に語るためにも、この宝箱、開けさせてもらおう」
パカー
でろでろでん♪
ジェラールは呪われた! 脚が素晴らしく美しくなった!
「ふ…」
ジェラール。髪ふぁさぁ…っ
「…馬鹿馬鹿しい。俺の愛しい人の足の方が、ずっと綺麗だ」
髪をかきあげ、シニカルな笑を浮かべて惚気るが、うつくすぃおみ足がプルプルしているのは動揺のせいである。
「彼女がここにいなくて良かった…彼女が呪いに倒れるようなことがあったら、俺は…!」
そう、巨乳にも興味はない。何故なら妻のおっぱいのほうが綺麗だから。
マッチョ・ゴツ顔ならちょっと困る。何故なら彼女を怖がらせるようなことになりたくないから。
「世界は彼女の為にある…そう、この足もきっと、彼女の為に!」
ジェラールは平常心を保つ為、城に至る道を延々妻の惚気を口ずさみながら歩く。
そんなジェラールの去った後、地図を確認しながら動いていた智美は立ち止まった。
「千年樹の木の上とか…湖の中央の島とか…結構色んな所にあるんだな…」
ディアドラから貰った情報を地図に起こしつつ、開け放たれたまま放置されている小さな宝箱を見る。
(ここは音声…誰が開けたのかしらないが運がいいな)
※開けた本人は相当不本意です。
(あの宝箱は美脚か…これも運がいいな)
※開けた本人は以下略。
その目が孔雀の羽根のついた槍に貫かれ状態の宝箱を見た。
(これは無いな)
呪いでなく外観でばっさり。そしてこっそりと木の影に置かれた宝箱を見る。
(これか)
不思議な輝きの鍵を使って慎重に開けてみる。
でろでろでん♪
智美は呪われた! 体が五歳児になった!
「しまった。森を巡りにくくなった」
ちまっとなった体を見下ろす。その目の前をリスが走った。
「りすさん、教えてください、宝の場所を♪」
歌うような声と共に現れたのは響だ。竪琴の音色に会わせ、リス達がダンスを踊るようにして木々の間を走る。
「その下に宝箱があるの?」
地面を掘る仕草をするリスに響はそっとしゃがみこむ。木陰で智美は地図を見た。花丸付きで地中、と書かれていた。
「本物の宝箱はやっぱり飾り気のない箱なのかしら?」
地面を掘りながら響は小首を傾げる。出てきたのは木箱のような宝箱。
「あら錠前が音符の模様。それは素敵な偶然ね♪」
ふふ、と笑って鍵を使う。途端、音楽が溢れた。
「あら?」
楽しい気分になって足が勝手に踊りだす。腰掛けても足が止まらない。
「妖精の輪にはまったみたい。でもこれでは眠れないわ」
軽快なステップを踏みながら響は困り顔のまま踊り去った。
(色んな呪いがあるんだな… なんだ? あれは)
智美は響の開けた宝箱に眉をひそめる。近づくと、暗灰色の木箱の中、真空パックに入った暗灰色の薄汚い麻布が見えた。
「まるで保護色だな」
智美はパックを箱から取り出す。中の薄汚れた布は、ボロボロの子供服のように見えた。
森の片隅。ひっそりと呪いにかかった者がいた。
「妖精か…最初に悪戯を考え出したつまらん女さ」
神秘的な瞳はタレ目に変わり、整った鼻梁は団子鼻に。どこかとぼけた印象の男体になったフレイヤは、音もなくすらりと立ち上がる。
「欝に背を向けるなんざ、野暮のすることさ…鬱フラグクラッシャーとして、欝フラグを悉く破壊しなきゃならねぇ」
\ヒューッ/
左腕のフェアリー・ガンを確かめながら、フレイヤはどこからともなく取り出したココア葉巻を咥える。
「いくぜ!」
ザッと跳躍したフレイヤの後を追うように、彼女(訂正)彼の居た場所を小柄な影が勢いよく突っ走る。
「走りすぎちゃったかな。もう皆開けてそう!」
元気がありすぎて道中の宝箱を素通りしてしまったナデシコは、たどり着いた滝の近くできょろきょろ周囲を見渡した。
「宝箱どこ〜? …ん?」
ひょいと覗き込んだ滝壺の奥、チラッと見えたのはもしかして――
「見つけた〜!」
水の近くに見えた宝箱に、ナデシコは小柄な体を中空へと躍らせる。滝壺までに張り出された木の枝や根に飛び移り、足蹴にし、野生動物もかくやといった動きで見事滝壺まで辿り着く。
「女王様、喜んでくれるかな!」
ナデシコは笑顔で宝箱を開けた。
でろでろでん♪
ナデシコは呪われた! OTONAになった!
「わぁっ!?」
いきなりキツくなった服にナデシコは驚いて足を滑らせた。そのまま体が滝壺に落っこちる。
「がぼごぼ」
慌て必死に水辺に泳ぎきり、岸辺に這い上がった体が一変していた。
今にも布を引き裂きそうな豊かな胸。すらりと伸びた手足。服が子供サイズのためにワンピースが寸の足りないチェニック状態。結果、むき出しになっているくびれた腰の下、パツパツになってる面積少ないおぱんつが、今にもはち切れそうなむっちりヒップを必死に守っていた。
「な、何が起きたの?」
ナデシコにとっては何が何だかわからない。とりあえず服がキツい。蔵倫もキツい。
「これ、どうしよ〜」
ナデシコは迷うように立ち上がる。その目が近くで宝箱を開けようとしている人物を捉えた――
――場所は変わってこちらは王宮。
人手不足で招集され、城の料理長である強羅 龍仁(
ja8161)は嘆息をついた。
「女王の宝か…あの悪戯妖精が関わっているとか、悪寒しかしないので出来れば開けたくないな…」
本音が盛大にオープンワールド。仕方なく森へ行こうと城内を歩いていたら、怪しい宝箱がてんと廊下に置かれていた。
「…何故、ここにある」
実はいちいち森に行くのが面倒だからとゴライアスが抱えてきた宝箱なのだが、騎士団に向かう途中面倒だからとぽいちょされてしまったのだ。
「まぁいい。数を減らすのが重要だ」
龍仁は宝箱を開けた。
でろでろでん♪
リュージンは呪われた! 生命保険1京久遠掛けられる程に光輝く美脚になった!
「こ…これは…」
なんということだろうか。艶かしいスリットカットが入ったチャイナドレスは腰のあたりから大体に切り込まれ、そこから伸びた素晴らしい足が足先のガラスの靴までオープンになっている。体の線を強調させる素材なためか、せくすぃなラインのお尻までバッチリだ!
ちなみに顔はそのままである。
繰り返す。
顔はおっさんのままである。
あ。ちなみに胸は雄っぱいな!
「あ…悪夢だ…」
龍仁もといリュー子は思わずよろめく。丁度宝箱を思い出してやって来たゴライアス(アノ姿)がその体を抱きとめた。
「大丈夫か?」
「ああ、すまな…」
間。
「むしろお前が大丈夫か!?」
リュー子。渾身の絶叫。
なにしろ覇者の大破状態メイド服ゴライアス(巨乳)である。姫抱っこされたリュー子の叫びが色々正しい。
嗚呼(悲哀)ご覧下さい――
(ゴツいおっさん)巨乳と(渋いおっさん)美脚の豪華絢爛たる(悪)夢のハーモニーを!
一部だけを見れば拝み倒したい程に素晴らしいのに、全体を見た時の視覚の暴力具合が半端ない。
あまりの酷さ(訂正)凄さ(訂正できない)に空間は輝きの入った白百合に占拠され、きらきらと煌く白い靄(モザイク)を発生させた!
「待て!下ろせ!スリットが捲れてる!それに胸が当たってるぞ!その顔でそれは犯罪だ!あと尻揉むなぁぁぁぁ!」
どうやら担ぎ方を変える途中で鷲掴みしまったようだ。
「む。どう持つのが良いのだ?」
「降ろせーっ!」
最終形態:俵持ちな状態のリュー子が叫ぶ。お尻のラインがとてもセクスィ。
「違う意味で世紀末な絵面だな」
お城の兵士達に泣きつかれたミヤビ(♂)が、ファティナから預かったきゃめら片手に溜息をついていた。
お城が大変酷い事になった頃――
雪代 誠二郎(
jb5808)は全身から「めんどくせェ」を発散させながら不思議の森を歩いていた。
「足の不自由な俺に山歩きをさせようなんざ、全く世知辛い世の中だよ…」
自他とも認める自堕落な職業不詳の昼行灯。そんな誠二郎が宝探しに出たのは、賭博で負けた形に半強制労働を告げられたからだ。
(あぁ、宝箱ってのはこれか、さっさと開けて仕事を終わらせるか)
滝に至る道の途中、見つけた宝箱をパカーする。
でろでろでん♪
誠二郎は呪われた! 体が五歳児になった!
「……」
思わず死んだ魚の目になる。
何だコレ。
「何とも、酷い冗談だな…服がブカブカで動きにくいし…ああ、これは帰ったら洗濯だ」
胡乱な目で顔をあげたその前を巨乳をくっつけた細マッチョの老執事が颯爽と走り去った。
何だアレ。
「…ま、俺はまだマシな方のようだがね」
そっと心に蓋をして、ふ、と誠二郎はニヒルな微笑。気を取り直したように再度顔を上げた瞬間、
「ちっちゃい子だ〜。ねぇ、遊ぼうよ♪」
エデンが見えた。
魅惑溢れる大人レディの体を明らかにサイズが合ってない子供服に詰め込んだナデシコ。歩いたせいで弾けた服がつまり色々※お察しください※
「…レディは人前でそんな姿をしてはいけないな」
誠二郎、ジェントルにぶかぶかになった上着を差し出した。決して自分が着てたら地面で擦れて汚れるからとかいう理由では無い。
「ありがとう♪」
「お礼は体で払ってもらえればいいさ。こんな子供に山道を歩かせるのは、いかにも可哀想だろう? 負ぶるなりなんなりして、城まで運んでくれればお相子というものだ」
「いいよ!」
大きな上着を羽織ったナデシコ、笑顔で誠二郎を抱っこした。顔が胸に豪快に埋もれる。
「……」
これぞ無欲の勝利か。できるだけ自分の足で歩きたくなかっただけの誠二郎は予想外のラキスケフィーバーに遠い眼差しになる。
(どこかで、何か、間違ったか…?)
いいえ。ただの仕様です。
「隠すなら森の奥の方、かなぁ?」
不承不承探索に出たジェンティアンは、足取りも重く森の奥へと向かう。その先にあるのは花畑だ。
「えーと。花畑の中に二つ、こっち側に二つ…かぁ」
境界線に立ち、面倒そうな顔で宝箱を指差した。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
ぴ、と指が指し止まったのは花畑の中、泉に近い方の宝箱。
「じゃー、これで、っと」
がちゃがちゃかぱー、と面倒そうに開けて覗き込む。
でろでろでん♪
ジェンティアンは呪われた! 体が完全女体化した!
「げ、外れ!?」
なんか下がなくて上があるようなそんな気がする!
慌てて覗き込んだ泉に映るのは、金髪に緑の瞳の可憐な美女だ。
「うん、ナイスバデー美女なんて、流石僕――って、これじゃ女の子ナンパ出来ないじゃん! 男ナンパとか中身的に無理っ!」
男ジェンティアン、突然のジェン子化に花畑の中でorzった。
(宝見つけたら週休6日にして下さいって言おうと思ってたけど、もういい。とりあえず悪戯妖精はボコる!)
緑の瞳をギラつかせ、ジェン子は城へと駆け走った。
「成程、不思議なことが起きているようだね」
爆走するジュン子を見送って、カリタスは穏やかに微笑む。
「花畑の中の宝箱、というのも素敵だ」
そして何の躊躇もなく開け放った。
でろでろでん♪
カリタスは呪われた! 体が完全女体化した!
「おや」
全く同じ効果の呪いにカリタスはただふわりと微笑む。
「どちらを選んでも、同じ…悪戯妖精も、手抜きをしたのかな? ああ、でもこれでは、楽器が弾きにくいね」
全く動じることなくカリタスは歩みだす。
竪琴を奏でるのに少し胸が邪魔だけれど、それ以外は大した問題ではない。
――なぜなら、自分が何であっても、世界は変わらず愛に満ちているのだから。
二人の女体化ハンサムが立ち去って後、かちゃかちゃと鎧を鳴らしながら礼信は森の奥へとやって来た。
「‥‥僕の勘がこれだと言っています」
見つけたのは花畑の手前、道から外れた場所に一つだけ離れて置かれた宝箱。
「いざっ!」
でろでろでん♪
礼信は呪われた! 体がムキムキマッチョ化した!
「‥‥これはこれで、先輩達に馬鹿にされなくなるからラッキーかも」
なんという悲劇的ビフォー・アフター。本人はともかくショタ好きなおねぇちゃんとおねにぃちゃんにとっては阿鼻叫喚の光景だ。
「そうだ! この姿、団長に見てもらおう!」
礼信は顔を輝かせる。たぶんその手前(ゴライアス)で悪夢を見ることになりそうだ。
だが数歩行く前にその足が止まった。
「この宝箱でいいかな。さぁ、どんな不思議が詰まっているか…」
道の端で宝箱をパカーしているのはヴィルヘルムだ。
でろでろでん♪
ヴィルヘルムは呪われた! 怪力になった!
ばきゃあっ!
ものすごい音がして南瓜ランタンが木っ端になった。
「あっ。明かりが…森から出ないと…地図は」
バリィッ!
慌てて開いた地図が見事に斜め横に破れた。
「困ったなあ…これじゃ何処にいるかわからないや」
ただでさえ地理が無いところにむいてコレである。思わずよろけて木に手をついたら、その木が轟音を立てて倒れていった。
「うわ…」
「すごい力ですね」
ふと羨ましげな声が聞こえて、ヴィルヘルムは礼信を振り返った。
「すごい…筋肉、だね?」
言葉選んだ感。
しかし眼差しは羨ましげだ。
「ええ。これで先輩達にももう子供扱いされません!」
ムキムキッとマッスルなポーズに最後の砦が今にも破けそうで蔵倫荒ぶる。
「そうだ君、お城に帰るなら連れて行ってもらってもいいかな?」
ヴィルヘルムの声に礼信は頷いた。
「勿論!」
「良かったぁ…君って優しいね、お礼がしたいな」
「困った人の為に働くのも騎士の努めです!」
マッチョと怪力、ガシィッ熱い握手を交わしあった。
直後、礼信が手を押さえて涙目になったのは、彼の名誉のために秘密である。
「これを開けましょう」
最も取りにくい毒沼の奥にいるサイクロプスの臍の上の宝箱をパクッてきたディアドラは、安全な場所に持ってきた宝箱を置いた。
「綺麗な精霊さん♪ 宝箱ある?」
そこへ現れた雪彦に、ディアドラは相手の容貌をじっくり見つめてから微笑む。
「これよりはあちらのほうが良いと思います♪」
自身が持ってきた宝箱でなく、数歩先の花畑にある宝箱を指し示す。
「ありがと。ねぇ、これが終わったらデートなんてどうかな?」
「ふふ。妖精さんを懲らしめに行くのでよろしければ?」
「んー。妖精も女の子だよね? 痛いことはしたくないかな」
辞退する幸彦にディアドラは微笑む。
「では、私は教育係としてお仕置きしに行ってきますね♪」
言うや否や、優美な姿に似合わぬ豪快さで宝箱をパカーンッした。
でろでろでん♪
ディアドラは呪われた! 濃厚ゴツ顔になった!
ふしゅー。
「神は私に運を与えた…」
周囲に満ちる圧倒的濃ゆい気配。思わず雪彦が数歩下がる。
「愚かな奴だ…悪戯は己の精神を曇らすのみ…」
ふしゅー。
世紀末覇者的ゴツ顔に変貌した貴婦人が、呼気を吐きつつゆらりと立ち上がる。
「砕いてみせよう!このハリセンに我が生涯のすべてをこめて!」
「…成程…」
そのまま爆走した後ろ姿美人を見送って、雪彦は無表情でコックリ。あんな美人がどうしてああなった。
「とりあえずこっちを取ろうかな」
パカーッ
でろでろでん♪
雪彦は呪われた! 体が完全女体化した!
――確かに自分的にはこっちのほうが有難かった。
「ボクわりと美人になるよね?」
泉に移った姿を見れば、輪郭が女性らしい丸みを帯びたせいで穏やかさが増した可愛い顔がそこにある。
「うん♪ やっぱり美人だね♪」
れっつぽじてぃぶしんきんぐー!
不思議の国で生き延びるのは、多分こんな感じの前向きな人である。しかしそこまで突き抜けてポジティブになれないのが人の常。
(…これは…酷い)
数々の大惨事を見てしまった焔、青い顔をしつつ探索を続ける。
(まともな呪いは無さそうだよね〜…ん?)
虚ろな微笑みのまま歩く途中、もふっとその顔が柔らかな何かに埋もれた。ビックマルチーズ(馬車大)だ。
「わ〜いもふもふ〜♪かわいいね〜」
馬より巨大な犬に焔は抱きつく。もっふもふな体が素晴らしく気持ちいい。
「これ食べるかな? 俺が作ったハロウィンセットだよ〜」
バスケットの中身を出すとペロリと平らげられた。どうやら満足したらしい。
お礼に乗せてくれるというマルチーズ(馬車大)に乗りつつ、焔は女王から預かったハンカチを見せる。
「この匂いで、場所わかるかな?」
フンフンと匂いを嗅いだマルチーズ、のっそのっそと歩き出し、開け放たれた孔雀の羽根付きの串刺し宝箱の前まで移動した。
ふんふんふん。
「…あからさまに怪しいけど…ここにあるの?」
ふんふんふん。
マルチーズは臭いを嗅ぐばかり。
巨大な背中から身を乗り出して宝箱を覗き込んで見ると、箱の片隅に小さな宝箱があった。
「中にもう一つ入ってたんだね〜。ありがとう! 開けてみるね〜」
でろでろでん♪
ホムラは呪われた!
にんしんはちかげつになりました!
罠だった。
「そんな馬鹿な!!」
思わず声が出たがマルチーズは未だにふんふんふん。だって臭い嗅いでただけですしおすし!
「大丈夫かい? 妊婦さん」
「違うッ!」
颯爽と現れたフレイヤに、焔はわっと顔を伏せる。
「うう…宝も見つけられず、こんなことになるだなんて…!」
その肩を叩き、フレイヤは茶目っ気ある笑みを浮かべる。
「宝はどこにでもあるのさ」
ぽむり。
「そう、君の心の中にもね」
\ヒューッ/
その頃、エルレーンは木の上にするすると登っていた。
「あったの! ここに来るまで大変だったの!」
何故か山盛りの薄い本を風呂敷にどっさり包んで登りきる。距離が煩悩の歩数だったのが悪かったのか、木枝の下に隠されていた薄い本に盛大に時間泥棒されていたのは秘密である。
(うふふふこれで私も憧れのぼいんに!)
エルレーン、夢見る乙女の表情で酷い願望爆裂。全力で宝箱に向き直った!
「たからばこ・おーぷん★ミ」
ぽいーんっ
宝箱が、吹っ飛びました。
「私のぼいんーっ!」
次の瞬間、エルレーンが宝箱を追って枝から大跳躍! 放物線を描いて落ちる宝箱を抱えそのまま地面にレッツ☆ダイビング!
「ん?」
地上にいた雪彦の真横に隕石みたく落っこちた。
どうん!
でろでろでん♪
エルレーンは呪われた!
雪彦は呪われた!
胸だけ柔らか巨乳になった!
「はうはう…! 夢にまで見たきょにゅーなの!」
「ナイスバディー♪」
念願叶ったエルレーンと共に、柔らか巨乳も手に入れた雪彦がセクシーポーズを決める。
「真下の地面が見えないの!」
「ふふふ女の子になった挙句巨乳も手に入れたらもう向かうところ敵なしだね!」
今だけおにゃのこの雪彦と巨乳エルレーンがきゃっきゃうふふとおっぱい×おっぱい。手に手をとりあっているのだが自然に押し付け合われたおっぱい同士が色々凄い。
「女王様にも見てもらうのっ」
「行こう! 是非ともお近づきもといサロンに入れていただかなくてはっ」
目的が違ってる気もするがそうでもなかった。変身を遂げた二人、ばいんばいんと一部を揺らしながらお城へと駆け戻った。
「これが不思議の森か…迷いの森じゃないのか…?」
祭りに参加しに来た結果、女王の困惑を知り密かに激怒して突っ走ったアンネ・ベルセリウス(
ja8216)は地図を片手に迷子っていた。
「全く。真っ直ぐ来ただけだってのに、なんで崖に着くんだ?」
君の手に握られているのは一体何だね。
そんなアンネはふと人の声を聞きつけて顔を輝かせた。
よしと顔を覗かせた広場の一角、
「確率に思考は無用っ」
威勢のいい声と同時、広場にあった三つの宝箱のうちの一つをチヅルがパカッと開けた!
でろでろでん♪
チヅルは呪われた! 体が完全男体化した!
(知ってた、このパターン知ってた)
見事男体化したチヅルことチカゲ、思わず地面にorzった。
「…このパターンには軽くトラウマが…」
ひきつりそうになる頬を精神力で笑顔固定し、カグラももう一つの宝箱を開く。
でろでろでん♪
カグラは呪われた! 体が五歳児になった!
「…」
「カグラさん、穴掘らんと」
無言で穴掘って埋ろうとする五歳児を引っこ抜き、チカゲは嘆息をついた。
(ふぅん。ああなるのかー)
一部始終を眺めたアンリは成程と経過を見つめる。そのチカゲがふと別方向を見た。
「あれ? クドウさんやないです?」
「お、チヅルにカグラもいたか。災難だっt、いや、知らない相手だぞ、うん」
光の速さで訂正。しかし圧倒的手遅れ感。
「(にこにこ)」
「人違いだ。無言の笑顔で来るな」
「いや、その武器とか?お気に入りですやん」
「他剣の空似だ」
「あれ、ハクロウはどうしたんです?」
「別にどうもしt・知らん」
内心必死に言い逃れようとするが、チカゲとカグラの生暖かい瞳と笑みが堪らない。
「いいか! 違うぞ! クドウ・マサトなんて傭兵は知らん! 俺・いや、私はマサコ・ク・ドーという名の戦士なんだから誤解しないでよね!」
エア人格、爆誕。
(反応面白いですね〜)
カグラがいつもの笑みでにこにこ。もはやキャラ崩壊なマサコは内心血の涙で呟いた。
「妖精、許さん…!」
「しかしクドウさん(♀)スタイルえぇな」
「違うんだからッ」
思わず顔を覆ったマサコをチカゲはしみじみと見やる。
(いや、男姿に不満はないが、たまには巨乳…)
「ってカグラさん何狙撃してん!?」
どうんっ!
狙っているのに気づいたが止める間もなくカグラの弾丸が残っていた宝箱を吹き飛ばした。
でろでろでん♪
カグラは呪われた!
チカゲは呪われた!
マサコは呪われた!
アイリは呪われた!
体が五歳児になった!
「いや、これで五歳児って何需…巻き込んでる!」
アイリ。全く無関係に巻き込まれである。
「うわごめん!」
「あー、いや、こっちもぼさっと見てたから仕方ないよ。ここに別の宝箱もあるし、ぱぱっと終わらせるさ」
男前な笑みを浮かべたアイリ(五歳児)、足元にあった宝箱に鍵を差し込んだ。
「あれ開かない??」
※呪いにかかると鍵は使えません。
「こうなっては仕方ない…爆散あるのみ!」
「退避ー!」
ふんっ! と拳を振り上げたアイリにチカゲとカグラとマサコが走った。
「ほぉ。良い闘志をしている」
近くを通りかかった覇王的ディアドラがゴツ顔を覗かせる。
どうんっ!
でろでろでん♪
アイリは呪われた!
ディアドラは呪われた!
体だけムキムキマッチョになった!
\覚醒/
「「うわ」」」
思わず退避成功組が呟く。元は美貌のレディだった二人の体は今、見るも凄まじい変貌を遂げていた。
「神はこの私にMUTEKIの肉体までも与えたのだ」
ふしゅー。
「我が剣にあるのはただ制圧前進のみ!!」
ビリビリィッ
服的な意味で大破を遂げつつ聖帝アイリが爆走する。
ふしゅー。
「私もまた城へ!! 陛下の下へ帰ろう…!!」
ビリビリィッ
可憐なドレスを大破させ、ディアドラもまた完璧な世紀末覇王と化して爆走する。
後に残された木っ端布切れの舞う様を見守って、カグラは( ゜Д゜)なチカゲとマサコに視線を転じる。
「…飴舐めますか?」
「…いや。もうえぇわ、元凶の妖精どつきにいくぞ」
「では、さくっと妖精を粉微塵にしましょうか」
白い鎌持ち邪悪笑いなチカゲ(五歳児)に、にこにこ笑顔で大鎌を構えるカグラ(五歳児)。マサコが無言でハクロウを構え、その後に続いた。
阿鼻叫喚の森をファティナと熾弦は注意深く進む。
「あ、見てください。あの崖にちょうど二個ありますよ」
「背を伸ばせば届く位置…ですね」
熾弦の声にファティナは頷く。切立った崖の一角、むき出しの木の根に引っかかるようにして宝箱が二つ並んでいた。
「この中に女王様の宝物があればいいのですが…」
二人は同時に手を伸ばし、箱を開けた。
でろでろでん♪
シヅルは呪われた! 体が完全男体ショタ化した!
でろでろでん♪
ファティナは呪われた! お色気増し増しになった!
「「えっ!?」」
突如訪れた肉体変化に二人して声をあげる。少年化した熾弦ことシヅルの体が足を踏み外した。
「あっ!?」
「あ、危な…!?ひゃっ…!」
咄嗟に抱きとめたものの足場の悪さも手伝って二人そろって地面に落下する――まではよかったが、ここでまさかのトLOVEる発動! シヅルの顔面がファティナの下乳に埋もれその手はファティナの二割増量中の胸を鷲掴み! おさわりまん、こっちです!
「す、すみま、せ…や、やわらか」
ぐっと大人びたファティナの体からはえも言われぬ甘やかな匂い。
「大丈夫です。それより、シヅルさんの方こそ大丈夫でしたか?」
少年化した影響か仕草一つにどぎまぎするシヅルにファティナは悪戯な笑み。わざと耳に囁かれシヅルは狼狽えた。
「その…体が、むずむずして…」
「それはいけません。何かの悪い作用ですよね?」
ファティナ、疑問形で断定。もじもじするシヅルを素早く姫抱きして立ち上がった!
「緊急事態です。家に帰ってじっくり悪・いえ、対策をたてなくは」
「え、あ、はい」
王子を守る姫騎士の如き宣言で、ファティナはシヅルを連れ去った。
●
王城。王の間。
「なによ。住民が呪われようと知ったことじゃないわよ! あたしが大事にされればそれでいいのよ!」
明らかに色々間違ってる妖精リゼラの声に、相対した龍仁は苦い顔になっていた。
「女王。処罰したほうがいいんじゃないか?」
女王は微笑んで小首を傾げる。その手がさっと動いて衛兵に扉を開けさせた。
『それはかの者達に譲ろう』
縛り上げられたリゼラがハッと顔を上げる。だが遅い!
「お仕置きでございますぞ」
ビターンッ
スタイリッシュに走り込んできた細マッチョ老執事が回転を加えたおっぱいビンタ!
「痛ーッ!?」
「人に迷惑をかけるヒトは、こうです!」
さらに礼信のマッチョパンチが追撃をかける!
「隠し場所くらい覚えといてね」
吹っ飛び沈んだその体を靴でぐりぐりしつつ、ジェンティアンが顳かみに青筋入った笑顔。そこへ走り込む死神チルドレン・三人組(チカゲ・カグラ・マサコ)!
「貴様だけは許さん!」
三連撃最後を彩るマサコの渾身撃がリゼラを吹き飛ばした。
「いい気になるなァ!」
キレたリゼラが悪戯魔法で反撃を始める。だが、相手が悪い!
「塵と砕けよ!」
覇王ディアドラのハリセンが稲妻の如く閃く!
さらに吹っ飛んだその体を聖帝が迎え撃った!
「ならばこちらもナント悪戯術の伝承者として奥義を尽さねばなるまい!!」
ナント奥義で不吉な箱を具現化したアイリである。
\とりあえず貴様もマッチョな!/
「やべェ! 避難しやがれ!」
ユグ子の声と同時、集まっていた全員が蜘蛛の子を散らすようにダッシュする。
どうんっ!
お城の大広間に、リゼラの悲鳴が響き渡った。
●
「お仕置きは終わったようだね。愛しい人がいなくてよかった…優しい彼女はきっと悲しむだろうから」
輝く美脚を披露しつつ、ジェラールは「ふ…」と憂愁の微笑。その様子を見守って後、響は女王に尋ねた。
「そういえば、その布はなぜ女王様の宝物なのでしょう?」
ルスは微笑みを浮かべたまま、視線を膝の上に置いていた古布から五歳児になったレヴィへと向ける。
『拾った時、あの子が身につけていたものは…これだけであった…』
幾つもの視線がボロ布とレヴィを行き来する。
ルスの笑みは変わらない。
『奪い、搾取するよりも、与え、育てることのほうが難しく…されど得るものは多い』
戦、貧困、差別、略奪。
それはきっと、今もどこかで行われていること。
だからこそ――
『…これは、忘れてはならぬ『もの』なのだよ』
あの時のあの子のような子供を生み出さない為にも。
「…そうでしたか」
吐息のような声と共に、ぽろん、と竪琴が鳴る。
響は笑顔で告げた。
「女王陛下。今宵この時に私が知り得た全てで、歌を作らせていただきました♪ お聞きいただけますか?」
ルスは微笑む。いつもと変わらない、永遠の微笑を浮かべて。
『聞こう』
――不思議の国の、千一夜目の物語を。
●
『そういえば、そなた等の願いをまだ聞いておらなんだな…?』
女王の声に智美は響に視線を向け、響は智美を見、二人は互いの目を見交わして頷いた。
「皆を元に戻すことはできますか…?」
女王は微笑む。
お仕置きされた妖精が籠の中で悔しそうにしているのをチラと見てから、その手を上げた。
『叶えよう。…皆の行く末に、常に光があらんことを』
柔らかな光が視界を埋め尽くす。
それを最後に――彼らの世界は元に戻った。
●
一夜明けた次の日――
学園の片隅で恋人達が語らっていた。
「なにか夢を見た気がするのですよ…」
廊下を歩むレフニーの声に淳紅は笑う。
「夢ってきっと、そんなもんやで」
「恐ろしい夢を見た気がするな…」
額の汗を拭い、仁刀は悪夢の残滓を振り払う。
「だが夢だ…」
そう、きっとそれは魔法の夢…
○
魔夜が過ぎて後―
不思議の森を歩いていると、ふと麗しい女性の声が聞こえるという噂が出始めた。
その森では男性が一人で森に入ると、数日間行方不明になるという。
帰った者は皆一様に口を閉ざし、何があったかを語ることは無かった。
女王はそっと遠くを見つめて微笑む。
ほんの少し小首をかしげて。
『…一人、帰し損ねた…か』
それはまた、もう一つの物語である。