駅ビル前広場は混乱を極めていた。
空気を切り裂くような悲鳴。警告を叫ぶアナウンス。
やたらとエエ声な笑い声が響き、逃げ惑う群衆の中で壷がイキイキと踊っている。その壷から生えているのは、どう見てもエロくてデロいSYOKUSYUだ。
――ああ、うん。嫌な予感しかしないんだよ。
現場に着いたら二秒で絶望。男達の脳裏に言葉が閃く。
――おれたち ぶじに かえれるのかな
同時に乙女はこう思った。
――なんで カメラ わすれたの
運命が決まる二分前。
彼等彼女等は人々を救出すべく、熱く魂を燃やしていたのだった――
●集められたIKENIE
「無差別に人間をさらっている!?」
緊急の招集にエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は即座に駆けだした。その先に何が待ち受けているとも知らずに。
「万能蒸気の力で、町の人々を救出するよ」
長い黒髪を後ろに払い、蒸姫ギア(
jb4049)もまた決意を瞳に秘めが颯爽と駆ける。
「先だって高知で開かれたゲートの関係冥魔でしょうか……」
「いずれにしても、放っておくわけにはいきませんね」
思案気な神月熾弦(
ja0358)の肩をそっと押して、ファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)は促すように頷いてみせた。
「現場に、いるのは、壷と……悪魔?」
「冥魔が集まる四国なら、その可能性は十分にあるな」
情報を整理しつつ走る羽空ユウ(
jb0015)の声に、強羅龍仁(
ja8161)が重々しく頷く。
悪魔か。あるいはヴァニタスか。
いずれにせよ、相当な強敵であることは確かだ。
「良く分からぬが、壷に捕獲された人々を解放すればよいのであるな? ならば真正面から堂々と壷を破壊に行くのである」
姿からして堂々すぎるほどに堂々としているマクセル・オールウェル(
jb2672)の筋肉が主の意気に呼応してピクピク動いた。
「人を拐かすとは……これ以上、冥魔の好きにはさせません!」
澄み切った青空のような髪を翻し、ティア・ウィンスター(
jb4158)は静かな敵意を燃やす。冥魔と戦う戦士として育てられた彼女にとって、冥魔との戦いは望むところだ。
「人々を捕獲して行く自動移動型壷……ソレを生成する技術が理解できれば、危険な現場で人を救出するような擬似生命に応用できそうね」
月丘結希(
jb1914)の艶やかなツインテールが舞う。
ディアボロとは遺伝子レベルで別のモノに変換されてしまった生命であるが、その精製技術や術式がどういったものであるかは人間世界的には解明されていない。
(……悪いけど、今回、観察に徹させてもらうわ)
マッドなサイエンティスト、結希の瞳がキラリと光った。
「人々を連れて行かれては困りますね。全力で臨むのが男のツトメですし、頑張っていきましょ」
どこか影のある野性的な風貌に笑みを浮かべ、服部雅隆(
jb3585)は「それに」と小さく続ける。
「先ほど聞いた『会話にならない』というおじさんにもそこはかとなく興味が……ゲフンゲフン」
転移門に向かう途中、追いかけてきた連絡員から急ぎ通達された奇妙な警告。それに雅隆の何かが反応したらしい。隣を駆けていたファラ・エルフィリア(
jb3154)がじっくりと雅隆を見つめ、可憐な美貌ににこぉっと花のような笑顔を浮かべた。
「楽しみー」
何故だろう。ものすんごいハートマークがくっついてそうな声だった。
「なんか寒気がするような気が……風邪か?」
直接的な何かを向けられたわけでもないのに、そのやり取りにヴィルヘルム・アードラー(
jb4195)はぞわっと肌が粟立つのを感じた。
外見年齢こそ十八だが、実年齢は三十八と人間的には立派な大人☆かつ悪魔的には面白い事があれば見に行きたくなるお年頃。だが今回、その好奇心がとんでもない結果をもたらすことになるのだがそれはまた後の話である。
「……なんで依頼行く前から寒気がするんだろうなー……」
悪魔的危機本能の訴えだった。
「壷に囚われた人を救う、か……。嫌な予感がするのは何故かな……」
同じ依頼に向かうレイ・フェリウス(
jb3036)もまた、怜悧な顔に不可解げな色を浮かべていた。一緒に向かっていた東城夜刀彦(
ja6047)は軽く小首を傾げている。
「また新しい悪魔…? いったい、四国にどれだけの悪魔が来tっていうか何この寒気」
「なんだ…? 今回もアッーなオチが待っているとでもいうのかッ…この悪寒は…!? 」
夜刀彦の隣で紺屋雪花(
ja9315)も体を震わせる。
非常に様々な経験をもっているらしい彼等の超感覚がTE☆I☆SOU☆NO☆KI☆KIを警告しているらしい。
「四国か。多重ゲート展開といい、悪魔勢の本気ぶりが伺えるな……」
共に走る早見慎吾(
jb1186)が表情を引き締めて言う。
「現場は混乱していると聞く。落ち着いて皆と一緒に壷の撃破をってなんで俺まで寒気がするんだ?」
うつるんです。
そんなオトコノコ(漢字は任意)達の後ろでは、ぴんくぃ気配が咲き誇る。
「こうして一緒に歩くと昔を思い出すね、いっくん」
その衣装で大丈夫か。
はにかんで隣に声をかける菊開すみれ(
ja6392)の服はぱっつんぱっつん。動きやすいようにと着てきた服がどうやらワンサイズどころでなく小さかったらしい。今にも弾けそうなおっpもとい胸と、屈むと危険領域に達する太mもとい絶対領域が目に眩しい。
もう一度言う。その衣装で大丈夫か。
「久しぶりだなすみれ。てかもういっくんって呼び方やめろよ恥ずかしいだろ」
魅力的な肌色から男の度量で目を逸らし損ないました雨鵜伊月(
jb4335)。照れの意味が若干違ってたりするのだがしょうがない。久しぶりに再会した幼馴染が可愛すぎるのがいけないのだ。
(すーちゃ……いや、すみれの服、さ、サイズあってない、よな)
軽く談笑し(てるつもり)ながら、内ではドキがムネムネしちゃう。だっておとこのこなんだもん。
「壷破壊を行い、囚われた人を解放を!」
僅かに震える内なる心を押し隠し、佐藤七佳(
ja0030)は己を鼓舞するように声を上げた。二十五人の精鋭が今、転移門をくぐりぬける!
●嗚呼
――そして今の状況である。
●お察しください
「よく来たな嫁達よ!」
なんか待たれてた。
駆けつけ絶望約二秒。
気力取戻し約三秒。
五秒後に見た快活な笑顔の美壮年に、全員の頭にはてなマークが乱れ飛ぶ。
誰?
てゆか、嫁って何?
(何だろう、見た目悪くないのに悪寒しかしないあのおっさん……)
ごしごしと目元を擦って、碓氷千隼(
jb2108)は身を震わせる。おそらく少女の第六感が危機を訴えたのだろう。
「あの悪魔っぽいの……関わり合いになっちゃいけない気がすごくする……」
背筋に走る悪寒に、六道鈴音(
ja4192)もごくりと喉を鳴らした。じりじりと足が後ろに下がる。
(君子、危うきに近寄らずってね)
とはいえ、悪魔っぽいの以外の敵もアレでソレな気配しかしないのだが。
(あれが悪魔か……普通に貫禄あるおっさんに見えるが)
鶺鴒を具現化しつつ慎吾もじりじりと後退った。
この時、現地に到着した撃退士のおよそ五分の四が絶対的危機感を覚えていたという。
「嫁……嫁っすか? あたいはまだ独り身でいたいっすよー!?」
三百近い年齢ながら結婚についてはまだ考えたくない系悪魔、強欲萌音(
jb3493)が思わずといった感じに声をあげた。
フラグですねわかります。
「ほぅ! こちらの世界にも余の同朋が多く帰属したと聞いていたが、まさに」
ターゲット☆ロックオン!
悪魔らしい美壮年がズカズカと萌音に向かって歩いてくる。物凄い勢いで割れる人垣。てゆか貴様ら逃げおったな!?
「どっ、どーゆーことっすかーっ!?」
「いやほら? 私まだそこまで強くないし? 任せた!」
じゃ! っと手を挙げ速攻で壷に向かう千隼。続く一同。なにかもう初見で危険さを察知してしまったあたり撃退士マジぱねぇ。
「あたいはとっても浪費家っすから……嫁には大変向かないと思うっすよー?」
「嫁の浪費程度! 許せずして何が漢か!」
をを。
「まままま待つっすよあたいにも心の準備ってもももも……ッ」
「はーっはっはっはっは!」
どもりながら未曽有の危機に萌音がダッシュ。美壮年が快活な笑い声を響かせて追いかける。
悪魔の鬼ごっこが始まった。
●デロいポット対撃退士
「えっと……こういう悪魔もいるんだねぇ」
猛然と駆け抜けた悪魔&悪魔を見送って、みくず(
jb2654)がウイングクロスボウを具現化した。向かう先はでろいぽっと。文字の通りデロいポット。
(ツボに攻撃行くけど……こういうの気持ち悪くないのかな)
うねんうねんしてる触手の動きに戸惑いつつ、構える!
パスッと撃った。
――ひょいっと避けた。
パスッと撃った。
――くねっと避けた。
「なんだろ……すごい腹立つ」
嗚呼! みくずの前でくねんくねん踊る壷のイキイキさよ。その間にも微妙にテカるぬめった触手をあっちこっちに伸ばしている。
「けっこう避けるみたいですね……挟み撃ちしてみましょう」
七佳のガントレットが淡く光る。内臓された遠距離戦用魔術構成[CelestialArtillery ver1.01]―フェアリーテイル―が意思に応じて多重魔法陣を構築しはじめた。
(中の人に当たったら……)
壷の強度はV兵器の一撃で破壊される程度だという。心にさざ波のように不安が過るのは、自分達の持つ力が絶対かつ万能ではないと知っているからだ。その力は時に数多の惨劇を防ぎ、また、時に悲劇を生み出す。
(けれど、今は、信じて、戦う……!)
僅かでも誰かの為にあれるように。
命を救う手となれるように――!
「いくね……!」
みくずが鋭い射撃を放つ。かろうじて避けた壷の動きにあわせ、移動場所に七佳の光弾が放たれた!
パンッ!
と小気味のいい音を立てて爆ぜた壷に二人は拳を握る。七佳はハッとなって顔を上げた。
「……ツボ壊したら、全裸の人が出てきたらどうすればいいんでしょうか?」
あっ
全員が慌てた。なぜかその手が一斉にタオルを取り出す。
君ら用意周到だな……!!
「た、タ、タオルをーっ!」
壊れた壷の中、白い液とともに洗われた男女に二人は思わず叫んだ。顔が真っ赤なのは出てきた全員が裸なせいである。
デロいポットまじデロス。
「なにか壷の内側にも突起っぽいのがびっしり見えるわね……腸絨毛っぽい感じ?」
そんな中、結希はせっせと壷の形状をチェックする。
(中の人間が移動時に傷つかないようにっていう配慮かしら? 絨毯みたいな感じ? でもこれ動いてたらヤだな)
無論デロイ名前を関する壷内突起が動かないわけがない。
(内部観察するには、やっぱり中に入らないと駄目かしら……
人類化学の為とはいえ、それは明らかに究極の選択だった。
「わるい人達がいるって聞いて来てみたら……なんですかコレ!?」
嗚呼、いたいけな犠牲sもとい少女がまた一人。
ギアと共に転移してきた蒼井明良(
jb0930)は赤くなったり青くなったりしながらおろおろと周囲を見渡した。
「でも、私にだってアウルがあるんですから! 普通の人をちゃんと守らないと、ですよね! 」
ぷるぷる震える足で立ち、明良はキリッとギアを見上げる。
ギア、コクリ。
「い、い、行ってきます!」
「あ」
ギアが止める間も無く、明良は「いざ!」とばかりに勢いよく駆けだした。
飛んで火に入るとはこのことだ!
「やーっ!」
可愛らしい声を上げてマクアフティルを振り上げ、振り下ろす!
壷、避けた!
触手が走る!
「ひゃんっ!」
獲ったぞーっ! と言わんばかりに壷がレッツフィーバータイム。
上から走った触手が胸を上下で挟むようにして食い込み、下から走った触手が太ももから腰にからみつく!
「いやぁ……やめてください……っ!」
明良、必死に武器で触手に切りつけるが、なにしろ触手の数が多かった!
「くぅ……っ」
「明良っ」
ルーンブレイドを手にギアが走った。あっという間にけしからん状態になりつつある明良へと向かい、からみつく触手を一閃する!
「もう少し気を付けた方がいい……後ろが、がら……あっ」
解放され、地面に落ちた明良に視線を向けてギアは真っ赤になった。
理由に気づかず、明良は頬を染めて礼を言いかけ、
「あ、ありが……って、きゃあ!? 見ないでください!」
悲鳴をあげた。
どうやら触手自体にも何らかの溶解成分があるらしい。十数秒間からみつかれていた明良の魔装が、狙ったかのような際どい位置で溶けていた。
「こ、こ、こんなの……っ。こんなの……っ!」
必死に残った布地と腕で隠す明良に、さしものギアも酷く狼狽する。
戦場で、この隙は致命的だった。
「あっ!」
後ろから壷が襲い掛かかる!
抵抗する間もあらばこそ、一気に触手をからませ問答無用で壷の中に引きずり込んだ。
「だ、駄目ぇーッ!」
瞬間、反射的に明良が剣を壷の胴体に叩きつける!
盛大な音をたてて壷が弾けた!
「ぷぁっ」
真正面から白い液を被り、明良が頭をぷるぷると振る。再攻撃がいるか、と構えたところで見知った少年が出てきた。
「ふ……ふぇぇ」
慌てて自分の体を隠しつつ明良が顔を赤くする。
ほとんど腰布一丁みたいになったギアが、布が落ちないよう押さえながら顔を真っ赤にして叫んだ。
「ぎっ、ギア別に恥ずかしくなんか無いんだからなっ!」
「こ……これは……無いだろう……」
目の前に広がるイヤンでアフンな光景に、龍仁は思わず後ろによろめいた。すでに顔色が相当悪い。
「最近こんな依頼ばっかの気がするが……いや、今は救出に専念だ……」
もはや自己暗示に近い気持ちで、頭を振って意識を切り替える。しかしその後ろでは、夜刀彦と雪花がシンクロナイズドシンパシー。
「「嫌な予感はしてたんだ……嫌な予感はしてたんだ……!」」
その時点で回れ右できなかったのが運のつき。
約束された未来が分かりすぎるほどに分かる光景に、もはや三人の顔色が死者よりも白かった。
「大根作る天使がいるかと思えば今度は変態悪魔か……最近の天魔はバリエーション豊富だな」
そんな三人を尻目に、すっくと仁王立ちする影一つ。
「……罪のない人々を己の眷属にする気でしょうが、僕達が来たからには、悪の栄える道理はない!」
ババンッと言い切ったエイルズレトラに三体の壷が\ヘイ、らっしゃい!/
待ってましたとばかりに素早く捕獲☆綺麗に捕縛!
ぬるんぬるんのくねんくねんにアレな感じにからめ捕られてスタコラサッサとお持ち帰られた。
「早ーッ!?」
「と、とにかく救出をっ」
あまりのスタイリッシュ拉致に慎吾が顎を落っことし、戦闘モードで表情の消えた夜刀彦が物凄いギリギリの距離から遠隔攻撃する。
腰。めっちゃ引けてます。
当たってくれとの祈り虚しく、壷、ひらりっと避けた。
「……くっ」
正直壮絶に近寄りたくないのだが仕方がない! 愛刀【蛍】を抜き放つ!
「壺に規則性があればと思っていたが……!」
同じく龍仁もグンフィエズルを具現化した。壷の特性を見るために少し様子見を行っていたが、
「規則性、ありましたか!?」
「無い! 頑張れ!」
一縷の望みも砕かれていた。同時に駆けながら雪花は(まだ悪魔よりはマシか!?)と意識を切り替える。
――あきらかに壷の方が危険でした。
「気をつけて! その壷の液、装備や服を溶かすみたいだ!」
三人の補助に回ったレイが警告を発する。だが撃退士は急に止まれない!
「「「早く言えーッ!」」」
三者同時に叫びつつエイズレトラを抱え上げていた三体の壷をそれぞれ撃破する!
「くっ」
「うわっ!」
「げっ! かかった!」
弾けるようにして内側から大破した壷が大量のデロい液を撒き散らす。かろうじて飛び退り液を回避した龍仁の前で、二人の魔装が五秒でデロった。
「……これはひどい」
もはや服というより端切れが体に引っかかってる状態な雪花が顔を覆う。
正確に言えば水着姿よりは布地範囲多いというか、どこかの原始人みたいな恰好なのだが、普通の服からの変☆身なため下手な半裸よりエロかった。
茫然と立つ夜刀彦など表情が完璧に削げ落ちている。
「……誰得なのコレ」
ごめんよ。わりと需要があったんだ(まがお)。
「ああ……うん……とりあえず、もろ肌脱ぎとズボンロスト程度で収まって何より、って、レイーッ!?」
惨状を冷静に指摘していた慎吾、隣で血の海に沈んでいるレイに慌ててライトヒールを飛ばした。
「しっかりしろ……! 傷()は浅いぞ!」
「先輩っ!? くっ……冥魔め!」
壷ディアボロ。まさかの濡れ衣であった。
若人が非常にけしからん戦闘を繰り広げる中、決然と動く人物がいた。
「しょうがないねぇ。おいたする子はおしおきだよ」
輝く銀髪!(白髪)
鋭い眼光!(年齢)
幾年にものぼる経験が肌の上に確かな証を刻んでいる!(皺)
捕まった一般人を助けるべく、今、阿東照子(
jb1121)が戦場を駆けた!
「お、おばあちゃん……!」
思わずといった感じで慎吾が叫ぶ。
なにせ照子は実年齢八十歳。外見年齢も八十歳。
しかも構えた武器が【握りが長く刀身が短めの直刀】だ!
「待って! 触手に捕まったらアブない気がします。色んな意味で!」
七佳が警告を発するもすでに遅し。和服の裾をからげて走る照子は壷の射程内に入った!
「娘さんをお放し……おんやなつっこい紐だね?」
嗚呼! おばあちゃんが捕まった!!
「おばあちゃ――んッ!」
悲鳴があがる。色んな意味で。
エロい触手も酸っぱい事情でわりと大人しく照子を持ちあげたがそこはそれ。デフォルトの持ち方がアブノーマルなせいで照子の仕草が無駄に色っぽい。
「いやーん☆」
誰も得しないサービスタイムである。
「阿東さんを離しなさい!」
外見年齢だけは孫世代のみくず(悪魔)が渾身の一撃を放った!
抱き枕の絵柄的しんなり姿で封入された照子IN壷に見事に突き刺さる!
バカンッ
豪快な音がして壷が破裂した。
マッパの若人数人と照子が排出される。
「おやまあ服がやぶけちまったい」
をを、白い脚に刻まれた年輪よ。
この僅かな間に照子の衣服が破けて色々と「イヤーン」な状態になっていた。
「やらしい目で見られたらどうするんだね」
誰も得しないサービスタイムである。
●一方その頃
悪魔は大変ご機嫌だった。
嫁は大量であれば大量であるほど良いが、あまりにも簡単に得てしまうとそれはそれでつまらない。
そこに現れた今回の可愛い抵抗の嫁達は、今まで(実力的に)無抵抗だった嫁達とは違っていて大変、大変、新鮮だった。
そして待った二分間。
現れた新たな嫁達ときたら、今までの嫁よりも遥かに活きの良い者達ばかり!
「はっは! なんとも愛い嫁共よ!」
捕獲した萌音を丁寧にお姫様抱っこして、男は壷の中に少女悪魔をぽいちょした。
「に゛ゃああ!! やっぱこんな扱いっすかー!?」
「今夜は祝杯よ!」
「そうは、させない」
ザッ! と音を立てて男の後ろにユウが立った。振り返る男に静かな眼差しを向ける。
「私、羽空 ユウ……恋愛、性愛の定義。所謂『嫁』に、疑問、がある」
「ほぅ。余と嫁に関しての議論を望むか」
「望む」
爛と目を輝かせた男に、ユウはコクリと頷く。
「愛を与える、のは、愛されたいから。自己肯定と言う自己愛。ナルシシズム、ではない?」
「可愛い考え方だな、嫁よ」
ユウの言葉に男は薄く笑う。
「他者を介さずしてしか行えぬ自己愛など自己愛に非ず! されど、そのようなものは己ひとり在ればよいという狭く閉ざされた世界の感情よ! 嫁とは己とは全く別の存在! その存在なくてはならぬ理由がなければ、欲する必要などありはしない!」
言い切り、男はどっしりと腕組みをした。
「そも、何故、愛の交換において自己愛と思うたか?」
「他者を愛している自分を、愛する」
「なるほど。自己の陶酔というやつか」
むしろ感心した様に男は頷く。ユウは首を傾げた。
「嫁、と貴方は言う。嫁、に何を、求める?」
「温もりよ!!」
張りのある大音声の言葉に、戦いながらも動向をうかがっていた面々が思わず足を止めた。
(え。なんかちょっと想像と違う?)
勿論、そんなことあるはずがない。
「温もり、とは?」
「むろん挿―<―ただ今、音声が乱れております―>―よ!」
ダメだこの悪魔早くなんとかしないと!!
意味が分からずにキョトンとしているユウに、イキイキとした顔の悪魔。
意味が分かってしまった一同が真っ青になったのは言うまでもない。
「くっ…これ以上手出しさせるわけにはいきません…!」
光の翼を使い、触手の届かない上空から壷破壊に臨んでいたティアがユウの危機を察して矢を番えた。
「返していただきます!」
動作だけは丁寧にユウをお姫様抱っこし壷にぽいちょした悪魔、入れた壷に向かって飛来する矢をはっしと掴んだ!
「ほぅ。余の嫁を狙うか、嫁!」
「誰が嫁ですか」
「しれたこと! この世の男と女、全てよの嫁よ!」
「は、破廉恥な!」
ティアの敵愾心が一気に振り切れた。
「度重なる人々への蛮行、許しがたい! あなたに渡す人などただの一人もきゃあああああッ!?」
「強気で結構! 嫁はやはりこうでなくてはならんな!」
「は、離しなさい!」
闇の翼で文字通り飛んできた男にしっかと抱きかかえられ、ティアは全身を粟立たせて叫んだ。
「め、冥魔に触れられるなど……け、汚らわしいっ!」
「はっはー! この活きの良さよ! 天界よりよくぞまいった!」
男が暴れるティアを壷に渡す。
壷、大喜びでティアの体を飲み込んだ。
「これほど魅力的な嫁を得られるとは、この世界は近年稀に見る良狩猟場よ……ん?」
大変充実した笑みを浮かべた男が、ふと自身に向けられた熱い()視線に振り返った。
「何が皆余の嫁よーですか、独り占めはダメでしょ」
雅隆だ。危険悪魔を前にして、ふてぶてしいまでに落ち着き払った笑みを浮かべている。
「ふ。余に説教か。寝物語であれば聞いてやらんこともないぞ、嫁よ」
「寝言は寝る前に言いやがってください。だいたいなんですか、嫁って。……あ、じゃあおじさんは俺の嫁ってことにします」
「何故そうなる!?」
「嫁の嫁は則ち俺の嫁、つまり皆俺の嫁ってことですし?」
「なかなかにしたたかだな嫁よ!」
「いーえ、おじさんが俺の嫁です」
「いーや、おまえが余の嫁よ!」
「……なにこの状況」
俺がおまえが嫁騒動に、鈴音の口が半開き。思わず茫然と見入りかけ、そろりと近寄ってきた壷に慌てて一撃お見舞いした。
「なあ、嫁って本来女のことじゃねぇのか? ……なんだって男まで連れくんだろうな」
その横合いから伸びてきた触手を切り飛ばしつつ、ヴィルヘルムは不可解そうな顔になった。
やり取りを聞きつけ、なにか色々面白そうなものが見えそうだと近くに来てみたのだが、ちょっと早まった気がしないでもない。
「って、悪魔をひきつけてもらってる間に、一人でも多く解放しなくちゃね!」
もうどっちがどっちの嫁でもいいからしばらくそのまま言い合っててくれ。そんな気持ちで鈴音は生み出した炎を仲間が捕えられた壷へと放つ!
「あ、名前ぐらい教えてくれますかね? 嫁の名前も呼べないんじゃ不便ですしー。じゃないと食べちゃいますよ、物理的に」
ふたりのやり取りはまだ続いている。
「ほぅ。それは新しいな。よかろう! 嫁よ。どちらがより多く互いを食べれるか競争といこうではないか」
この悪魔、ノリノリである。
「名前も名乗れないような嫁は困りますねー」
危機が増し増し状態になっているのに気づき、雅隆がそろりと足を動かす。すでにスキルは準備万端。救出を支援するためにもこのまま引き付けて逃げ回る算段だ。
「嫁であるおまえも名乗るべきではないのか? まぁ、よかろう……」
ふ、とニヒルな笑みを浮かべ男が名乗る。
「ゲイル・エンホモリスだ」
名は体を表す。
繰り返す。
名は体を表す。
「……」
壷と戦うためわりと悪魔の近くにまで来ていた男性陣が、物凄い勢いで逃げて行った。
「俺を捕まえる、ですか。出来るといいですねってはやいですねー」
軽やかに笑って壁走った瞬間、真横をビターッと飛翔されて雅隆が真顔。
「甘いな嫁よ! この程度の鬼ごっこ、妻の死にもの狂いの逃走に比べれば可愛いものよ」
ゲイル。妻に死にもの狂いで逃げられている疑惑。
「えー……嫁じゃなくて奥さんなんですか、っていうか奥さんに死にもの狂いで逃げられるって男としてどうかと思うんですが」
「あの頃の妻はまだ感情が豊かでな……」
あ。なんか長い話の予感。
「今ではおとなし過ぎて手も握れぬ有様よ」
そうでもなかった。
「それはおじさんに甲斐性が無いだけでしょー。嫁とか言って他の人のおしり追いかけてる場合じゃないと思いますけどねー」
「何を言う。妻の尻を追いかけられない以上嫁の尻を追いかけるしかあるまい! 故に汝の尻は余がもらった!」
本末転倒もいいところだ。
「ダメな旦那の典型ですねー」
ぐわぁっ! とあっさり壁からひっぺがされて、雅隆が壷にぽいちょされた。
「ふ。これで余の嫁がまた一人」
そんな満ち足りた顔のオッサンを別の意味で熱いまなざしで見つめる悪魔がいた。
(嗚呼! 冥魔界出てきてこんな禁断の(自主規制)な(検閲削除)に出会えるだなんて!)
内なる魂が鼻からドバァッしそうな勢いはファラ。愛くるしい顔立ちに大きな翡翠の瞳、輝く金髪と見事なまでの美少女なのに魂が若干腐ってる(腐女子な意味で)。
(ふふ腐腐ふふ腐ふ魂の導きに従って動いて正解だったわ! 何で濡れてるのか不明な液でぬるんぬるんの触手とかなんて素tもとい卑猥なのかしら)
その眼差しの向こうでは壷のせいで服がデロってる少年とか少年とか少年とかが走っていた。
「まぁっ」
ファラ。光景を魂に刻みつけて拝み奉った。
とはいえ観察してるだけでなく、ちゃんと壷とも戦っている。
なにせほら、出てきた人達、マッパだし? アレとかソレとかバキューンっでずきゅーんっまでしっかり見えるのだからビバ天国!
(あたし、人界来て、よかったかも……!)
「僕を捕まえる気ですか?」
今も壷撃破中にゲイルにロックオンされた美少年の姿にうっはうは。
一度デロった体をロングコートで隠したエイルズレトラ、近づくゲイルに不敵な笑みを浮かべて挑発した!
「良いでしょう、出来るものならやってみ……嫁、僕は男ですよ!?」
ロングコートの裾が翻る!
嗚呼! 恐ろしきは壷のデロ液よ。全力で走るエイルズレトラのコートからしなやかな足が太腿間際までチラッチラッ!
無論、ゲイルもファラもガン見である。
「や、やっぱり寄らないでください、ヒイイイィィィッ!!」
「はっはーっ! 捕まえたーっ!」
「い゛や゛ーッ!」
ゲイル。素晴らしい笑顔で壷にぽいちょ。
「ゲイルたんってばヤダ精力的」
ファラ、歓喜の笑顔である。
無論、そんな風にうっとり見てて無事で済むはずもない。
「きゃん!? 」
横二方向から近づいてきた壷にほーら捕まった!
「やだ触手ちゃんってばどれだけ絡み付いてくれば気が済むのかしら? 槍で突いて壊れてくれるといいんだけd……って、やんっ槍持って行かないでっ」
触手に長い竿状態の武器はむしろ難でした!
「ひゃんっ! 待ってっ、そんなとこ……!」
素早く捕縛した触手、腐魂に呼応してか荒ぶる荒ぶる。溶かした服の合間に滑り込まれてファラの体が大きく跳ねた。
「あッ……! んんッ! だ、だめぇ……二体同時とか、壊れちゃぅ……ッ」
「「蔵倫の一撃ーッ!」」
色々ギリギリな状態に慎吾とレイが必殺の一撃。捕縛していた壷を叩き壊すと、持ち上げられていたファラがぼてっと落ちてきた。
「ぉー。惜しかった……壷ちゃんけっこう巧かった」
「その感想オカシイだろ!?」
「女の子だろ……ちゃんと身は守らないと」
慎吾が顔を覆い、レイが持って来ていたタオルでファラの体を隠す。ちなみに先に持って来ていたロングセーターはのっぴきならない事情でとある人物に使ってもらっていたりする。
「これでも齢百越えてますしおすし! ……あの壷、ペットに持って帰れないかなー」
「諦めろ」
慎吾の放った矢が近づきに来ていた壷を撃破した。
●あなたとわたしのらんでぶー
壷が逆襲っぽい猛攻を開始したのがこの頃だった。
夜刀彦はアサルトライフル片手に場所移動を繰り返す。借りたロングセーターで肌色成分はかなり削減されたものの、正直彼氏のシャツ借りました的恰好だ。
「壷が集まりつつあるぞ!」
捉えられていた人々を誘導しながら龍仁が周囲に警告を発する。仲間を撃破されているのを感知したのか、それとも逃げた獲物を捕え直しに来ているのか。理由は分からないが危険な生き物が集結するのはありがたくないことだった。
「くっ……借り物を溶かされるわけにはいかない!」
「良い恰好だ!」
「ぎゃーッ!?」
迫りくる触手を避けて壁走った夜刀彦、突然現れたゲイルに思わず悲鳴。
ゲイル、壁ドンならぬ蝉ドンである。
「なんという扇情的な恰好か! 意気込みが伝わってくるぞ!」
「何のせいだーッ!」
「余のためか!」
「言葉が違う!」
なんかもう太腿とか抱えられて既に色々アウトである。
「初回でここまでサービスしてくれている嫁はそうそうないと言っておいてやろう!」
「嫁じゃないッ! てゆか好みじゃないからッ!!」
「心配はいらん! 余は好みドンぷぎゅる」
どげしッ!!
物凄い音をたててゲイルの頭が沈んだ。
上からレイの足が光速で超落下して来たせいだ。
「こっちへ!」
「先輩!」
有無を言わさず夜刀彦を抱えて闇の翼で離脱する。だが敵はそこまで甘くなかった!
「ふっ。割ってはいるほどに構ってほしかったか嫁よ!」
「「ギャーッ!?」」
離脱る前に足首を掴まれ、三人でレッツ空中戦の構え。レイと夜刀彦のSAN値がみるみる下がる。
「これまた甲乙つけがたい! 余の第三十六万とんで七夫人にしてやろう!」
「お断りだ!」
「男割りか!」
「「言葉が違う!!」」
しかし現実は残酷だ。ゲイルと二人ではどうあがいても物理(攻)とか物理(防)とか物理(肉)とかが違いすぎる!
「ははははは! 来るがよい余の僕よ! この嫁共を入れて余の城におぅ!?」
あわや二人纏めてでろいぽっとにぽいちょされかけたところで、ぷすっとゲイルの尻に慎吾の放った矢が刺さった。
――(貞操の)死亡フラグ入りました――
「今のうちに逃げろ!」
拘束が緩み、二人がよろよろと離脱する。それを見送って慎吾はハッと息をのんだ。
「ふ。今日の余はモテモテよ!」
背後、いただかれました。
「ぎゃああ!」
いつの間にか背後に回ったゲイル、慎吾を軽々とお姫様抱っこ。撃退士能力フル稼働で抗う慎吾だったが、無駄に引き締まった悪魔の体には通用しない。
「は、離せ!」
「はっはっは! 余の嫁は皆ぴっちぴちよ!」
頑張る慎吾。ゲイルの腕の中で釣り上げられた鯛の如くぴっちぴち。
「嫁じゃない! 嫁じゃない!!」
(くっ! 壷に入れられる前に逃げる!)
逃げるったら逃げる!
逃げるんだって!!
「そなたは余の第三十六万とんで八夫人だ!」
「性別ーッ!!」
叫びも虚しく、デロいポットにぽいちょされました。
すでに数名の犠牲者を出しつつも、壷は着実にその数を減らしていた。だが、それは数十あるうちにわずか十数という数である。
「壷の数が多すぎるな……!」
幼馴染のすみれを背に庇い、男・伊月がランタンシールドで壷に体当たりを喰らわす。
当たるを幸いに破壊を続けていたが、装備を溶かすデロい液のせいで魔具たるランタンシールドがどんどん小さくなってきた。
「いっくん! 無理しないで!」
「大丈夫だ……! いざとなったら、雨月もある!」
「でも……!」
援護射撃に気を回しすぎていたすみれ、ふと背筋を走った悪寒にハッとなった。
「えっ! ちょ……やだ!」
「すみれ……!?」
突如あがった悲鳴に伊月は愕然と振り返った。
なんということだろう。伊月の援護に一生懸命になるあまり、背後から忍び寄る壷の魔手に気づかなかったのだ!
「やめて……いやーっ!」
服の上を這うように蠢く触手に絡みつかれ、ただでさえ強調されていたすみれのボディラインが露わになる。縛られた胸のたわわさたるや、まさに熟れた果実の成熟さ。下肢にからむ触手のせいで、スカートから覗く太腿があっという間に肌色領域を増やしていく。
「この野郎! すーちゃんを離せよ!」
伊月、咄嗟に封印していた呼び名を叫んだ。もはや鍋蓋より小さなランタンシールドを構え、全力で壷に立ち向かう!
「その子は絶対に、渡さねぇ……!」
魂の叫びが迸った。
熱い展開が始まる傍ら、別地でも新たな戦いが始まろうとしていた。
「男相手に嫁? 良く分からぬのである」
静かな声にゲイルは振り返る。思わず目を見張った。
褐色の肌。むっきむきの筋肉。
誰もがきっちりと魔装を身に着ける中、アクセサリーとアニマルなカチューシャ以外の魔装がゼロの天使がそこにいた。
……天使?
え? 天使?
「が、貴様は間違っているのである」
こちらを見つめるゲイルに、マクセルがむっきむきなサイドチェスト!
「相手を嫁と言うならば乱暴に扱うなど以ての外。慈しみ、愛し、愛でてこその嫁である!」
「無論。愛でてこその嫁!」
ゲイルのフロント・バブル・バイセップス!
「ならば何故かような暴挙に出たであるか!」
マクセルのバック・ダブル・バイセップス!
「嫁を得るため、余自らが出向いただけのことよ!」
ゲイル、アブドミナル・アンド・サイ!
「愚かである! 力で奪い去る嫁など嫁に非ず! 其は虜囚以外の何物でもない!」
マクセル、バック・ラット・スプレッド!
「笑止! 奪わねばならぬ愛もある!」
ゲイル、モスト・マスキュラー!
新たな肉体言語による会話に、間に挟まれた壷が身の置き所なさそうにこそこそ逃げて行った。
「最早言葉は不要であるな……」
スッ……とポーズを解き、マクセルは聖火の技を解き放つ!
「行くのである、覚悟せよ!」
「よかろう! 来るがいい!」
あ。さっき逃げた壷がマクセルの後ろに。
「ま、まて、離すのである! 我輩は奴と戦w」
がぽっ!
マクセルの体が壷に封入された。
「……ふ。……熱い嫁だった……」
「……な……なんて会話にならない……」
その一部始終を見ていたみくず、壷を割りながら青い顔で身を震わせた。
(あのよくわからんおっさんには近づかない。会話にならない人はダメな人だって昔誰かが言ってた!)
マニアな気質が微レ存なみくず、サブカルチャーへの強さは並大抵では無かったり。
NIPP●N人の触手えろ好きもヤバいディアボロ各種も知っているが、なんというかもう(こんなの絶対おかしいよ)的な気分である。
その横で千隼は至近距離に居た壷に蹴りを叩き込んでいた。
(わー、いかにも一定年齢以下禁止のゲームに出てきそうな触手……)
使っている武器が近距離限定なこともあるが、実は遠距離攻撃で外すのが怖いための近距離戦だったりする。
結果、常に壷の近くで戦い続けることもあり、被った液で服があちこちオープンになっていた。
(だいぶ壊して助けたはずなんだけどね。このままだと捕まらなくてもヤバいんだけど服的に!)
かといって悪魔を任せた以上、こっちはきっちり壷ディアボロを片付けないと!
「女が廃るってもんよねふぁああっ!?」
ぬるり、と腰に伝わった奇妙な感触に思わず変な声が出た。
「ちょっ!? っ! は、背後からとは卑怯……ッッ!」
レガースで一体を蹴り砕くものの、別の一体に足をからめ捕られてさぁピンチ!
「だっ、駄目っ腰は弱ッ……!」
「……わりとピンポイントで弱いところ狙ってる感じね……どこかに察知する器官でもあるのかしら」
「そこーっ! 呑気に観察してないで助けて!」
いよいよ危険な状態に、千隼はさすがに悲鳴をあげる。
「うん。これはちょっと観察だけっていうのは難しいかな……ん?」
ちょうど他に助け手がいない。しょうがないと結希は観察を切り上げ、ヨルムンガルドを――奪われた☆
「あっ! あたしの……きゃっ!?」
武器に気をとられた瞬間、待ってましたとばかりに触手が襲ってきた!
「あ、あたし、まだ中学生だから色々と危ないわよ! わ、分かるわよね、ね?」
残念! 壷はニンゲンゴワカリマセン!
「こ、こ、こうなったら中身を観察してあげるわよっ!」
捕まってもただではやられない。マッドなサイエンティストがポットワールドにログインした。
ログインする者がいればログアウトする者もいる。
無事救出されながらも、ぼろぼろの服で必死に体を隠しながらすみれは咽び泣いていた。
「ひっ……ひっく……もう、こんなんじゃお嫁に行けないよ……」
その体に上着を駆けながら伊月はすみれの頭を撫でる。
こんな時、気の利いた台詞をさらりと言えるほど世慣れてはいない。誰にも見られないように抱き寄せ、ぽふぽふと頭を叩いてやりながら、周囲には聞こえないような小声でそっと呟いた。
「泣くなよ……俺が貰ってやるからさ…」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、すみれは心の中でこっそりとこう思った。
――計 算 通 り。
●嫁戦争
(いくら俺が美し過ぎるからって、色々と障害が大きすぎるぜ!)
借り物のロングコートで走っていた雪花、目と目が通じ合ってしまったゲイルに仕方なく覚悟を決めた。
(俺が注意を引いているうちに……皆を!)
無論、ココロイキを察知してくれている他面々が大変神妙な真顔でコックリ頷き、物凄いダッシュで逃げて行ったのは言うまでもない。
一人ぐらい残ってやれよ。
「ほう! これまた魅力的な姿だな!」
コートの下は半裸だがな!
速攻で釣られたゲイルに雪花はびしりと指をつきつける。
「嫁と言うからには結婚が前提だろうな悪魔!」
「前向きに善処しよう!」
「デフォは違うのか……!?」
なにか想像以上にアレな気配を垣間見た。
「しからば嫁よ! 華燭の典に希望があるのか!」
「それ以前の問題だ。家の掟で鬼ごっこをして捕まえた相手としか結婚できなくてな……」
「よかろう! ならば鬼ごっこだ!」
決断、早ッ!
(なんだ……? 紳士に見えて脳筋か……?)
別の釣り文句で釣ったほうがよかったのかもしれない。どのみち危険度は変わらない気がするが。
「出来るものなら、捕まえてみるがいぃ、早ぁーッ!?」
忍軍の全力をもってダッシュした雪花、先の雅隆の時と同じく真横をビターッと低空飛行されて思わず叫んだ。
「ちょっ……こんなのおかしいだろ……!?」
「さぁ! 余の嫁になるがいい!」
がしっと手を掴まれて雪花の中身がザ☆転換!
「お、お嫁……さんっ!?」
―解説しよう!―
凄腕マジシャン一家の長男、紺屋雪花は男に手を握られると女性人格が発現し、女性人格時に男に抱きしめられると本来の人格に戻るという、悲劇的体質の持ち主なのである!
―解説終わり―
そんな乙女な女雪花、お嫁さんという響きに胸の動悸が止まらない。おまけに相手は(外見だけは)非常にナイスなミドルダンディだ。
(だめっ……幾ら素敵でもこれは敵)
目を潤ませ、切なく首を振る女雪花だったがゲイルが捕獲のために抱きしめた瞬間再度切り替わった。
「っわーッ! ちょっと待った! よ、嫁になるには他にも条件があっ」
手、握られました。
「言ってみるがいい! 余に出来ぬことなどそこそこぐらいしかありはしない!」
「そんな……正直な方」
ぽ、と頬を染めて俯く女雪花。これはヤバイ流れだ間違いない!
あわやそのままなし崩しに嫁決着がつきそうなところで愛の勇者が立ちはだかった!
「そこまでです! ゲイル・エンホモリス!」
残念ながら向ける愛は別の相手用だったりするのだが!
「ファティナさん!」
勇ましい声に熾弦は咄嗟にその名を呼ぶ。通りの壷を撃破して進み、ようやく相見えた悪魔にまさか真っ向から声をかけるとは思わなかったのだ。
「答えていただきましょう!」
びしぃっ! と指をつきつけられ、ゲイルがよしこいとばかりに仁王立ち。
わりとつきあいのいい悪魔である。
「それには愛があるのですか? ただ唯一無二とそれぞれを愛せる愛が!」
「よかろう! 答え・」
「どちらであってもこれだけは言えます」
聞いてやれよ。
「あなたのそれは愛じゃない、ただ目に留まった宝石を欲しがるのと同じ、ただの所有欲に過ぎません!」
ゲイルが非常に酸っぱい顔。
「そしてこれだけ訂正して貰います、他の方を嫁にするのは構いません!」
酷ェ!
何個かの壺がじったんばったん暴れ出した。どうやら中にYOMEが入っているらしい。
ものっそい勢いで抗議の如く暴れるが愛の勇者に聞こえるはずもなく。
「ですが熾弦さんだけは私の嫁です!! あなたに渡すつもり等ありません!!!」
ズギャーンッ! と言い切られて「ぉ。……ぉお……」と周囲。
背後に庇われていた熾弦が間髪入れずに声を出す!
「えぇ、貴方には愛が足りません。ファティナさんのように皆それぞれを姉妹として大事に愛s……え、嫁、ですか?」
ラストでキョトった。どうやらピンときてなかったらしい。
「……ふ。よかろう」
あ。ゲイルが復活した。
びみょーにさびしそーな顔してたあたりわりとお話好きかもしれなかったりなかったり。
乙女化したままの女雪花を危険地から逃がして後、びしぃっ! と突きつけられている指に向かってびしぃっ! と指を突きつけ返した!
「よろしい。ならば嫁戦争だ!」
「返り討ちにしてさしあげます!」
声と同時に繰り出される 禁 呪 炸 裂 掌!
「ファティナさん……!!」
熾弦が悲鳴をあげた。
だがファティナ、止まらない!
止まれるはずがないのだ。先の言葉も今の魔法も、全てはこの命を賭すほどの思いがあればこそのものなのだから!!
「くらいなさい……!」
「受けてたとう!」
凄まじい爆発音とともに爆煙が周囲を覆い尽くした。
爆風にあおられ暴れていた壺がころんころん。
「あの悪魔、避けもしなかったぞ……!」
なんとゲイル、避けずに真っ向から受け止めたらしい。
そして、
「はーはっはっは! ぬるいわぁ!」
呵々大笑するゲイルの声が聞こえた。
熾弦が我を忘れて未だ煙の晴れぬ地へと走る!
「援護を!」
「回復お願いします!」
次々にファティナを救うべく集まる一同。
そして見た。
煙の晴れた地にすっくと立つ――
立派なアフロのダンディを。
「「「アフローッ!?」」」
「ふ。活きのよい嫁だ」
「頭に気づけーッ!」
禁呪の影響で重症を負っているファティナに遠隔治癒術が殺到する。それを別段邪魔することもなく、ゲイルは傷の癒えたファティナを近くの壷に渡して仁王立ちした。
アフロなままで。
「さぁ! 次なる嫁よ来るがいい!」
目と目がまたもや通じ合う。今度の相手は龍・仁!
「この悪魔万年発情期か! 節操がなさすぎるぞ!」
「犬猫のように期間を限定されていないのでな!」
「慎めーッ!」
ものすごい速度で走ってこられた。
オッサン×オッサンである。
オッサン×オッサンである!
大事なことなので二度言いました!!
「おい! やめろ! 俺を姫様抱っこするな!」
「はーはっはっは!」
ゲイル、大変エエ顔で龍仁をお姫様抱っこ。暴れる偉丈夫をなんのその、あっさり運んで壷にぽいちょした。
「次はそこの嫁か!」
「なにこの変態、冗談じゃないわよ!」
たまたま目があった鈴音、走ってきたゲイルを避けようとして横から現れた壷の触手にゲットされた。
「ちょっと!? お嫁に行けなくなるような事だけはゆるしてぇっ!!」
「防ぐっすよーっ!」
あわやポットインになる寸前で萌音の魔法が壷に着弾した。
「ほぅ。壷から出たか!」
「人々は解放しました。あとは……あなただけです」
魔方陣を構築しながら七佳が声をあげる。
二十五人。衣服が無事な者など一人もいなかった。
たぶん悪魔が去ったら警察に捕まるんじゃないかな的な恰好の者がほとんどだ。
「捕獲壷が全滅したか……なら致し方ない!」
あっさりと頷き、ゲイルはふわりと闇の翼を広げた。ふいに重力が増したような不思議な圧力を感じる。
「壷が無くては怪我無く運ぶのは難しかろう。……嫁達よ。余の城に誘えぬのは不満なれど、今日の遊戯、余は満足である!」
わりと本気で戦っていた一同。ちょっと酸っぱい表情だ。
「いずれまた会おう! それまでに体を洗って待っておれ!」
捨て台詞と言うにはアレな言葉を吐いてゲイルが悠然と飛び立っていく。
それを見送って、二枚目の魔装もデロったエイルズレトラがぽつりと呟いた。
「お、恐ろしい敵でした」
他一同が力いっぱい頷いたのは言うまでもない。