めるふぇんな光景が広がっていた。
「うー、むにゃむにゃ、よく寝たにゃー」
欠伸をした虎落九朗(
jb0008)は、そこでもっふもふの自分の手に気付いて目を見開く。
「おっ、俺の体が、猫になっているにゃと……?」
そう、此処はゼツボウ渦巻くあにまるそぅるパーク。無理矢理拉致rもとい集められた二十六匹のあにまるズが揃う場所。
「何だか、良く分からないっすけど、何でも願い事が叶うなら、願望成就の為に知夏は全力で行くっすよ!」
目を煌めかせ前脚を天高く突き上げるのは白兎の大谷知夏(
ja0041)。輝く赤目に、ぴこんっと立った白い尻尾まで実に愛くるしい。
(とりあえず、学園の制服の代わりに、全校生徒に何かの着ぐるみの着用を義務付けたいっすよ♪)
たとえマッチョだろうがムッチョだろうが皆着ぐるみになればいいんだよ!
そんな知夏の横ではグレイな愛らしい動物がちょこんと鎮座ましましている。
(アニマルソウルって、やっぱりコアラだったんだよっ)
名前からしてコアラ感満載☆下妻ユーカリ(
ja0593)は何処からともなくユーカリの葉を取り出しながら超笑顔。
一富士二コアラ三なすび。
(新年から縁起がいいね♪)
マテ中間何かおかしくなかったか!?
「うおおお─っ、ががが、がんばるの─ッ!!」
その知夏の前方では白靴下系前脚な黒猫がしっぽをぶんぶん回して気合いを高めている。燃える炎の瞳はエルレーン・バルハザード(
ja0889)。その願いは勿論
(私を!めがみさまみたいな、おっぱいたゆんたゆんのぐらまー美人にしてえええええッ!!)
渾身の願いである。
逆に項垂れているのが白黒コンビ。
(何やこれ…)
(…また…ですか…)
おお石田神楽(
ja4485)の運命や如何に。そんな黒狸な神楽の隣で白狐の宇田川千鶴(
ja1613)は遠い眼差しを遙か彼方へ。
「夢だとは思うんだけど、まあ、どっちにしろゴールを目指して、楽しんじゃったもの勝ちよね♪」
対照的に輝く笑顔が薄れないのは雀原麦子(
ja1553)。愛らしい雀姿は体長十センチとかなり小柄。綺麗な羽根を嘴で繕いチュンと鳴く。
動物の種類は様々で、中にはこんなあにまるも。
(この姿で競争は厳しい……地道に走ろ)
クリス・クリス(
ja2083)のソウルはアルマジロ。頭についた花飾りが女の子らしいがたぶん歩くより丸まって転がった方が速そうだ。
「何よりも丸っきり目的が見えないのが不満だが……ゴールしか出口がないなら行くしかあるまい」
もはや達観した心境になりつつある久遠仁刀(
ja2464)のそうるは黒い豆柴。つぶらな瞳で周囲を見渡し、鼻にちょっぴり皺を寄せる。
(狼だなんだになってるのよりは流石に遅れる、か。……まぁ、先にいって御神籤だの宝箱だのの場所を明らかにしてくれるなら自分は踏まなくて済みそうだが……ん?)
なぜか遙か向こうで女神()がチシャ猫笑いを向けていた。
嫌な予感を覚える仁刀の傍らでは皇帝ペンギンが棒立ちに。
(――俺、ペンギンになってる!?)
月詠神削(
ja5265)の黒い体が只今自動バイブレーション(震え)。
(く、くそ、何でこんな事態に!? とにかくゴールを目指さないと……!)
しかしぺたぺた走って即座に絶望!
(――足遅いわー!)
氷の上なら腹で滑ることも可能だったろう!
もしくは水中なら華麗な泳ぎを見せれたろう!
しかしここは地上、壮絶なペタ足で走るしか術はない!
(役立たねー!!)
飛べない翼で顔を覆ってしまった神削の後ろでは、毛並みの美しい白銀の狼が遠い眼差しでおすわりしている。自身の姿も周囲の様子も知覚しているが、
(………いや…何も言うまい)
男、強羅龍仁(
ja8161)。色んな苦難を超え、すでに無我の境地の一歩手前。
「……というか、もしかしてそこにいるのは東城か?」
立派な体躯の自分はまだいい。問題は自分より小さいものだろう。そう思って見つけた最小動物の姿に、龍仁は声をかけてみた。ちみっちょい生き物がちこちこと走ってくる。
「強羅先輩ーっ」
東城夜刀彦(
ja6047)はジャンガリアンハムスター。その大きさ、わずか
六センチである。
「ちっこいにも程があるだろう!?」
「手足短いけど走りますよ!」
健気だな!?
「何か願い事でもあるのか?」
問われて夜刀彦、つぶらな瞳を童のように輝かせて叫んだ。
「筋肉!!」
神頼みかよ!?
そんなヤトハムの姿に、干支の話を思い出しつつ鼠系動物の警戒にあたっていたクロウニャンは猫肩を撫で下ろす。
(……杞憂っぽいにゃ)
ぺたん、と尻尾を地面に落とした九朗の前には大きな耳が特徴的なフェネックの姿。
「お…ボク…『フェネック』に…なった…?」
賤間月祥雲(
ja9403)は大きな耳をくりくり動かしつつ首を傾げる。周囲を見渡し、そのカオスぶりににこーっと微笑んだ。
(なんか…面白いね…)
祥雲の隣にいるのは雪のような白い猫。
(ふふ…あたしの願い、叶えて貰うわよ)
勿論(きっと)血統書付き! そんなもふもふキュンなペルシャ猫は椿青葉(
jb0530)。
(よくわかんないけどぉ、取敢えず一番にゴールすればいいんでしょ?)
やってやんょ! のココロな青葉の前にはこれまたもっふもふのマルチーズの姿。
「あにまるレース! って自分が走るの?!」
観客席はありませんでした!
相馬カズヤ(
jb0924)も問答無用で当事者枠。あわあわ周囲を見渡すが、いつも傍にいるヒリュウの姿は無い。
(う〜、ロゼに会いたい…)
ヒリュウの名を心の中で呟くが、カズヤよ、君のヒリュウは君の中に確かに存在するのだよ(能力補正的な意味で)。
しょんぼりしているカズヤの右隣では自身を見下ろしてほわほわ微笑んでいるアライグマの姿がある。
「…うわぁ…。…もふもふですぅ…」
黒いちっちゃな両手を組み合わせて月乃宮恋音(
jb1221)はほんわか笑顔。ふと手がわきわきするのは、アライグマの習性的に洗い物をしたいが為か。
「……このままでいたいような気もしますねぇ……」
そんな恋音の隣にいるのがブランフォードギツネのフローラ・シュトリエ(
jb1440)。特徴的な長い尾をふっさふっささせつつ嘆息をつく。
「どういう意図でこんなことしたかは分からないけど、やるしかないみたいね……」
あまり長居するのは嫌な予感がする。ペース良くなるべく急ぐ感じで行こうと踏み出したフローラの頭上に影が差す。
(ん?)
ズンッと振動。横を見、振り仰ぎ、フローエは目をぱちくりさせた。
「ぞ、象……?」
これでもギネス級ミニサイズの白象。そんなナナシ(
jb3008)は高い視界に嬉しげに耳をパタパタさせた。悪魔の体の時は小柄だった為、大きな動物になったのが嬉しいのだ。勿論、他の子等を踏みつぶさないように配慮も忘れない。
(しかしアレよね。十ニ干を決めた時のレースみたい。あれのせいで猫と鼠は仲が悪くなっちゃうんだけど)
なんたって新春でアニマルなレースなのだから。しかし、見やる地上ではハムスターと猫がきゃっきゃうふふして遊んでいた。
「人間界は色んな事が起こるんだね…… 」
同じ悪魔でもこちらはどんよりしょぼんな気配満載。立派な黒狼姿のレイ・フェリウス(
jb3036)は「ふ」と遠い眼差しでほえみ。
(いいんだ……こんなこと、些細なことだよ……あの悩みに比べれば)
おお、レイよ君の未来に幸あれ!
ちょっと涙目でとある一角を見つめ、それからレイは遙か彼方の女神()を見上げる。
(私このレースが終わったらお友達からお願いするんだ!)
今友達になれば良くないか!?
「なんだか周りが動物園ですよー?」
今にも光合成しそうな櫟諏訪(
ja1215)の姿も猫。ただし緑と密林保護色。自身の影を見下ろし、そこにピコンと立った影を見つけて笑顔になった。
「あほ毛があって良かったのですよー?」
一際葉緑素高そうなアホ毛がくるんと回る。
その隣では雅が地面にぺしょんと伸びていた。
「こうなったら仕方無いですし、頑張ってゴールを目指しましょー?」
雅の猫肩を諏訪はポムと叩く。雅は髭をそよがせた。
「君も頑張るのかね……?」
「とりあえずみんなの様子を見つつまったり行きますかねー?」
「一位は……?」
「一位になったらラッキーですよー?」
かくり、と首を傾げる諏訪。なるほど、と雅は文字通り腰を上げた。
昔は黒猫を飼っていた。そんな猫好きな千鶴は付近の様子にほくほくとご満悦。
「猫いいよな猫。わりと多、!?」
(鎹先生が黒猫……?!)
「はいそこ、ガタッしない」
思わず反応した千鶴に、にこにこと神楽がまるっこい体を利用して阻む。
「ま、待ち。せめて、もふ……いや、肉球だけでm」
「ゴールしないと戻れないでしょう」
もっふりした尻尾で千鶴の口を塞ぎつつ、神楽は諸悪の根元たる女神()を遠目に見て苦笑する。
そんな神楽達の後ろでは、ひしめくあにまるに雫(
ja1894)がほんのり喜色を浮かべていた。
「私の周りに色々な動物達が……これだけでも幸せです」
動物好きだが何故か常に怯えられる日々。十中八九、動物=食料な意識のせいだと思うが、そんな彼女にとって夢でもこうして動物にわいわい囲まれるのは嬉しいことだった。
(あとは、遠慮なくモフれれば……!)
さすがに元人間な彼ら彼女らをもふもふするのは憚れるが、そんな雫もシベリアンハスキーの子犬姿。自身の姿だけでも癒される。と、
「ふと思ったのですが、今の私達ってもしかして全裸?」
らめぇ! そこ考えちゃ!
「…わふ……(凄い光景だな)」
子犬がいれば成犬もいる。黒白シベリアンハスキーな亀山絳輝(
ja2258)はすでに人間の言葉を忘れ気味。
「くうん……(家に帰って布団で寝たい、それ以外は望まない…)」
一応目の前の光景は見えているのだが、今一理解しきれていない状況だ。
というかこれ現実?(
同じく現実離れな光景に唖然とする兎が一匹。つやんつやんの毛がぴこぴこ跳ねてる久遠栄(
ja2400)は灰色兎。安定の癖毛が目印だ!
(なんで兎…きっと夢だな。うん、夢なら遊んでやれっ)
レッツ☆ぽじてぃぶしんきんぐー!
(設定…そう、俺は怪盗ウサギ…華麗にお宝を奪うのさ(ニヒルに)。たとえそれが罠だと知っていてもそこにお宝がある限り……(エエ声))
栄の前歯がキラリと輝く。
そんなさかぴょんの横では、悠然と頭を上げた白獅子が爛々と輝く緑の瞳で遙か遠くを見据えていた。
「このような機会が訪れようとは」
姫宮うらら(
ja4932)、その頑丈な前脚には大きなリボン。獅子の如き在り方を信条としている身の彼女。獅子となれたことが嬉しくて堪らず、大きな口を開くと勇猛な咆吼を放った。
獅子の如く、獅子となりて、獅子として……!
「参ります……!」
かくして、夢だよ集合☆新春あにまるそぅるレースが始まった!
●
ぴゅんっ
第一グループ先頭、おっそろしい勢いで飛び出したのはハムスター体長六センチ。正直吹っ飛んだスーパーボールにしか見えないが足の速さは折り紙付きだ!
「えいっ!」
小さくて短い前足が誰よりも速く籤引き地面を叩く!
大☆凶
「初っ端ーっ!?」
ヤトハム、見事に吹っ飛んだ。
「いきなりですよーっ?」
「東城ーっ!?」
諏訪と龍仁が星になった夜刀彦にあんぐり。無論打ち上げられれば落下するのが自然なわけだが、そこはハムっても鬼道忍チュー、くるくる体を回しながら綺麗に足下から地面に──
「……あ。落下地点に試飲コップ」
降りた。
かぽっ!
はむすたーが こっぷに はまりこみました
「ぴぇえーんっ!」
「なんの罠ーつ!?」
綺麗にコップin下半身なヤトハムがごろんごろん。あまりのアレな姿に後続のレイ、直前でうちひしがれてマス停止。
中吉☆
レイの回避力がUPした!
ぱかーんっ!
ヤトハムが盥に閉じこめられた!
「(だしてぇー)」
テテテテテテ(殴打音)
「ごめんーっ!」
パカーンッ!
そこへまた降ってくる神楽の中吉追撃TA☆RA☆I☆
「……すみません」
神楽、前脚で合掌。
パカーンッ!
その頭上にTA☆RA☆I☆
「……ご、ごめんにゃー」
くるぅり、と振り返ったぽんぽこに九朗が震えながら前脚で合掌。そこに降ってくるのがフローラが放った三撃目☆
パカーンッ!
「「「……」」」
正直ダイスの神様がすまんかった!
「って、他人がとった御神籤で自分が被害を受ける事もあるのか、おい!?」
後ろから走ってきていた仁刀がその有様に愕然と叫ぶ。女神()のニヤァ笑いの意味はコレか!
その足が綺麗にマスに乗る!
吉!
仁刀の命中率がUPした!
「きゃー!」
エルレーンの尻尾が突風で無理矢理上に跳ね上げられた!
「なんだその嬉しくないK▲MI風の術()ーっ!」
「にゃぎゃーっ、お返しだにゃッ!!」
「痛ーッ!」
怒りのエルレーン、仁刀の顔面を爪でタテタテヨコヨコ碁盤の刑!
しかしマスに乗って止まったらアレが発動するフラグでした!
小吉!
エルレーンの攻撃力UP!
「きゃッ!?」
麦子の頭部が逆モヒカン!
可愛い羽毛がふわふわっと空を漂う!
「えっ!? えっ!」
流石にちょっと恥ずかしい! 麦子は慌てて隣を走るもっふもふなカズヤの毛玉に飛び込んだ!
「ひゃっ!?」
その様にエルレーンが前脚で拝む。
「はぅはぅ、ごめんにゃのーっ!」
「って、この『何が何でも無事に済ませてなるものか』って執念は何なんだ!?」
仁刀は叫び、ふと気付いた。その目が後続組に向けられる。
後続組。走った後だから嫌でも止まらざるを得ない。彼・彼女等の目がちょっと恐怖に揺れていた。
「も、ももももしかして、ピンチにゃ!?」
「をい。待て。待て! 誰がどこに入っても何かが……!」
時は止められないのだよ(エエ声)
カズヤの足がマスに止まる!
大地震が発生した。
●
「「「きゃーッ!」」」
全体を揺るがす凄まじい揺れに、全頭たまらず地面に伏せた。
「……今の、何ですか……?」
「末吉と文字が……出ていたな」
「どこが吉っぽい感じなの……?」
震える恋音の声に、アスハ・ロットハール(
ja8432)が答え、フローラが唖然と呟く。
「吉の字がついてても、油断ならない、な」
アスハの声に、龍仁が頷きつつ嘆息一つ。
「ろくな目が無いな……」
分かってる。なんかもう、入った時から分かってた!
「全てはダイス任せ、か……面白い……!」
灼熱の色を宿した赤狼、アスハのギャンブラー魂が燃えさかった!
「レースの勝ち負けなど、どうでも、良い。折角の勝負、楽しませて、頂く!」
されど運命は皮肉なもの。よろけながらも止まったアスハ、知夏、麦子、千鶴、絳輝、雫、クリス、神削、ナナシ、龍仁、栄の足元で輝く不吉な三文字!
末☆小☆吉☆
「「「え」」」
フッと日差しが翳った。
上向く一同は見た。全員の頭上めがけて振ってくる、
二十六個の隕石群×『十一回分』を。
「「「ぎゃああああああッ!」」」
┣¨┣¨┣¨┣¨
「明らかに殺す気でしょこれ!」
麦子がカズヤの腹の下でチュンと鳴きながら二頭揃って巨石に埋まる。
┣¨┣¨┣¨┣¨
「クッ……ツキが無かった、か……」
あまりの光景に唖然としたアスハの頭上にもゴスッと。
┣¨┣¨┣¨
「くっ……この栄、宝を取るまでは」
ぷちっ
「………なんか…凄い…。けど…楽しいかも…」
頭に隕石突き刺さりつつうっすらと笑う祥雲。逃げ惑うあにまるの中である意味超大物である。
「それにしても…嫌な女神()…だね」
見上げる視線の先、文字通り高みの見物をしている諸悪の根元。
\見ろ、動物がG●M|のようだ!/
今にもそう言わんばかりの女神()の顔。おまえは何か動物に恨みでもあるのか。
(女神()……ちょっと一撃喰らいやがれ……!)
神削の瞳がギラリと光る。
「このあたしがこんなことでまいると思う!? 青葉ちゃんの強運を見せてあげるっ」
同じく女神()を睨みつけ、青葉はペーンッと前脚で地面を叩いた!
煌々と輝く御神籤!
凶☆
パカーンッ!
TA☆RA☆I☆
「……ふ」
青葉の口から笑いが零れる。
「ふ、フフフ、フフフフフフ! 女神()! あんたちょっとソコ直れーッ!」
女神()はエエ顔でぷぎゃーしてやがる!
「は、腹立っ……。……いやんっ」
青葉、周囲の目に素早く猫を被っててへぺろ!
猫ですから!!
「落下物が多いのですよー?」
後からとことこ走ってきた諏訪、ちょこんと地面にお座りした。
おや? 不発かな?
思った瞬間、とぷんっ、と体が半分沈む。
「沼ですよーっ?」
「あぁなるんだ…ボクは…なりたくないかな…」
おお諏訪よ、不発だったのに不憫である。
大吉をとった祥雲、移動力上昇しつつ苦笑を浮かべて成り行きを見守り中。
「沈むのですよー?」
「本当にろくな効果が無いわね、この籤」
ナナシが長い鼻をつかってその体を沼から掬い上げる。そこへ盥落とし現場から盥を持ってきた恋音が走り込んだ!
てーん☆
じゃばー
じゃばじゃばじゃばっ
「はわわわーっ?」
「……泥を、落とします……」
諏訪にゃん。ただいま恋音アライグマに洗われ中である。
「ん? 何か新しい籤が」
その恋音の下から飛び出してきた文字にフローラが首を伸ばし、
「あ」
小☆凶
シャキンッ☆と逆モヒカンになったアライグマに気の毒そうに視線を逸らした。
「……えぅぅぅ……」
恋音は涙を浮かべながら毛刈りにあった頭部を抱える。
「ど、どんまいですよー?」
「……これ、毛刈り状態で元に戻ったら毛の代わりに服が無いとか髪が無いなんてことにならないだろうな」
「怖いこと言わないで!」
仁刀の声に麦子が叫ぶ。逆モヒカンは彼女も同じなのだ。
「なんと哀れな……されど私は獅子、何があろうと恐れず臆さず屈せぬと、ひたすらに突き進むのみですわ!」
そんな哀れな様に義憤を燃やし、うららは力強い足で地面を踏む!
煌めく文字!
小☆凶!
「「「あ」」」
はらり、と白い毛が舞った。
フローラ、諏訪、恋音が揃って声を上げる。大地を踏みしめた格好のまま、うららは感情の消えた顔で立つ。
風に毛が流れていく。
頭のてっぺんがスースーする。
耳が自動的にぺたんと伏せられ、かわりにフルフルとその体が震え始めた。
ええ。どんな罰受けようとも折れず揺るがずただゴールのみ目指そうと思っていた。
皆と共に元に戻ること願っていた。
今!
この!
瞬間までは!!
「よ・く・も〜ッ!!」
震える白獅子が怒りの咆吼を上げた。そのままもの凄い勢いで駆けだして行く!
「いけません……女神()の思うツボです」
荒獅子の如く怒り狂ううららに神楽がハッとなって呟く。遠目に見える女神()はご満悦な顔だ!
「気をつけてください。このコース、まだまだ酷い罠が、」
冷静に告げた神楽の足の下で、どこかで見たような文字と色が踊った!
大☆凶
「ちょ……!」
気を付けろといった本人が何を引いている!?
ぎょっとなって駆け寄ろうとした千鶴の前で黒狸が打ち上げられる!
「回避! 回避を!」
千鶴、必死に叫ぶが空中でそれはわりとけっこう難しい!
(せめて、落下地点の罠回避を……!)
先の状況を思い出し地面に目を向けるが、打ち上げられた神楽の落下予定地点は打ち上げ地点からズレている!
結果、錐揉み状で打ち上げられたぽんぽこ、なんとか頭から突っ込まないよう体勢を調えて──
がぽっ!
かぐぽんのかはんしんが とうめいぶいぴーかんに はまりこみました
「……これは、デフォルト、なんですか」
下半身in筒な神楽、ぐったりと項垂れた。
「回避は……無理やったんやな」
しかも筒にみっちりと填り込んでいて取れそうにない。仕方なく千鶴は壊れた笑いを浮かべる黒狸の首根っこを銜えて走った。
「ひ、ひどいの…ゴールの可能性が大幅下がるの」
その様にエルレーンが震えながら呟く。
「大凶は移動困難な感じっす!」
ぴょんぴょん走って来た知夏もその様子にコクリ。
「けれど、ネタ的な行動や、大変な事態など知夏にとっては、割りと日常茶飯事っすよ!」
えらく大変な日常だな!?
「先日も、着ぐるみを纏っていたら、初等部の生徒さん数人に絡まれ、結構全力で狩られそうになったりと……」
遠い目をする知夏に、耳にしてしまったクリスが傍らでそっと目頭を押さえる。いや待て、それ以前に日常着ぐるみかとかツッコミ誰か! 誰か!
その頃、夜刀彦とレイはまさにその難題に直面していた。
「頑丈なコップだね」
ころんころん転がりながら下半身が填り込んだ試飲コップをてしてし叩くヤトハムを見下ろして、レイはほとほと困りきった顔。出来る限り庇ったものの、あの隕石群の直撃にも壊れない試飲コップが、今まさにヤトハムの移動力を奪っていた。
「先輩は先に行ってー」
カップin下半身なまま見上げて言うハムスターにレイは苦笑。
「放っておけないよ、これは」
とはいえ前脚で抱えて走るのは無理そうだ。
「上空からは…無理か、翼も出ない」
(そうか、人間は皆こんな感じなのか……いや四つ足じゃないけど)
翼出ないとかある意味新鮮かもしれない。
「うぉん!うぉぅ…(これでは走れないだろう。銜えて走ろうか)」
短い前脚をつかってズルズルとカップin下半身を引きずって歩こうとしてるヤトハムに絳輝が鼻を近づける。その瞬間、レイがひょいと銜えた。
「わはひははこふよ」
「な、なまあたたかい……!」
マウスinマウスである。
自力歩行していない事例は他にもある。
「わぅ(では行こうか)」
頷き、レイ&ヤトと共に走り出そうとした絳輝はふと自分の腹にかかる重みに下を向く。
グレイなあにまると目があった。
「わふ(いつのまに)」
「がんばれー!」
ユーカリがいたーっ!?
黒い瞳を煌めかせるコアラに絳輝は仕方ないとそのまま駆け出す。
「くぅん…(いや、まぁ、別に構わないが)」
絳輝の足元から何かが出現する。
宝箱☆A!
「よくやったー褒美にユーカリの葉をあげよう」
嗚呼! 口の中に食物繊維(粗め)が!
「あっくそっ、先に取られたか」
その様子を遠くから見ていた栄、ぴょんぴょん走りながらキッと眼差しを強くする。だが無論このコースにある宝箱がまともな内容であるはずがない!
「わぅ!(いや待て、様子がおかしい)」
絳輝が叫んだ瞬間、ボワンッと白い煙が二匹を包み込んだ!
ねんれいが ぷらすろくじゅっさいに なりました
「はひゅ…(年経た……だと)」
「ひょ、ひょらー! しっかりひゃるんだ!!」
「ひゃん!(文句を言われても困る!)」
「てへぺろ!」
栄、白毛になった二匹に耳をぺたんと伏せた。
「あ、あれならいいか……」
そんな栄の足元からも宝箱が!
「ふっ、怪盗ウサギに盗れない宝などないのさ」
栄、エエ顔でパーンッと勢いよく宝箱Cを開けはなった!
ぶたいげしょうが ほどこされました
「ええっ!?」
瞼にアイシャドウ、縁取りとともに増える重量有る長いつけまつげ、背中にはゴージャスな羽根が扇子の如く広がりナイアガラ瀑布の如き羽根飾りが地面へと広がる!
今にも大階段から降り立ちそうな出で立ちに、太陽のスポットライトもヘイカモン!
「く、久遠先輩ーっ!?」
地上で見上げるあにまる多数。
その視線を受けながら鮮やかな笑顔と共にさかぴょんの姿が上空に!(たぶんテグス)
例えスポットソーラーライトが眩しくても!
トップは笑顔でいなければならない!
なぜなら組もといあにまるそぅる全員をその背に背負っているから!!
満場の視線を一身に受け、今、さかぴょんの舞台が始まる!
\アニマルソォル!ハァッイ!/
向こうで女神()がめっちゃエエ顔していた。
その間にも被害は着実に広がっていく。
「んー追い抜かれるけど焦らない焦らない」
地道によぢよぢと健気に歩いていたクリス、止まった途端頭上に降りた影にぱっと頭を上げた。
「なんか降ってきたー‥って、お御籤? 読むの怖いなー。でも読むー」
ちまっとしたクリスの前に現れる文字は『凶』!
「マジロがーどっ!」
クリス、くるりんと丸まって災厄を防御した!
先の隕石もコレで防ぎきったのだがこの時、彼女にも思いもよらかなった事態が発生した!
「ま…丸いものにゃ!」
九朗の猫魂にまさかの点火! 思わず飛びつき繰り出される技は猫パンチ!
「きゃー。なんか、転がされてるー」
てしっ!
「あああ……蹴らないでー」
違う! それは猫ぱんちだ!
「……私は特に優勝は狙って無いし」
体躯と長い鼻を生かしてラーラララーな栄を空中からもぎとり、ナナシがズンズンと進む。その足の下で輝くのが『末凶』の文字!
もさっ
ナナシが まんもす(全身毛)に ぶぶんくらすちぇんじ しました
「毛が生えた!?」
ちょうど真横でそれを見たエルレーン、ぶわっと勢いよく来た長毛に巻き込まれかけながら愕然と叫ぶ。
「それとると毛が生えるの?」
逆モヒカンされた麦子がカズヤの腹から飛び出してくる。同じ被害の恋音も目を輝かせたが、
残念だが、それは逆だ!(by女神())
しかしすでに罠(?)は発動している!
龍仁、麦子が共に足った場所からまさかの発光!
浮き出された文字は
末☆凶
「キタ!」
ぶわっと羽毛と白銀の毛が舞った!
「あれ?」
「んん?」
麦子、龍仁、その場に硬直。
全員が見た。哀れにも全刈りされてしまった、淡いぴんくの裸身をさらす哀れな二頭のあにまるを。
「いやーっ!」
「これは……酷い……」
ズギャンッと戻ってきた麦子を腹毛に収納したカズヤが戦慄き呟く。
「もしかして、毛を刈られたら全裸になってしまうのでしょうか……」
雫もあまりの惨状に思わず震えながら声を零した。
龍仁は一人、もとい一頭、静かに隣にやって来た雅に声をかけた。
「雅、ここは協力しないか?」
「きょ、協力、かね」
雅は震えている。
「お前への罰は全部俺が引き受ける。だからお前は1番にゴールして」
龍仁の声も僅かに震える。壮絶な目が雅を見つめていた。
「あの女神()に一撃お見舞いしてきてくれ」
その瞬間、ギランッと周囲のあにまるの目が輝いた!
そう、こんなナリでも雅は実技教師。つまりそこから繰り出される破壊力もそれ相応。
(あの女神、いつか狙い撃ちます)
神楽の目が蛇の如き瞳に変じ、
(このような仕打ちした女神への仕返し、この場で晴らす!)
うららの瞳が爛々と輝き、
(一位になったらこの場の全員で女神()タコ殴りを願う)
神削が空になった宝箱を抱え、
(女神()様を…ハリセンで…叩かせて…ください)
祥雲が根性でハリセンっぽい何かを生み出し、
(希望者全員で女神()を凹る権利を!)
フローラの瞳が赤光を帯び、
「あの女神…許さん」
龍仁のとぅるっとぅるになった肌に龍の紋様が浮かび上がる!
六頭の願いは一つ、
あの女神()凹らせろ!!
受けて雅も頷いた。
「分かった。だが、殴るのは私ではない」
雅だって怒っている。彼女にとって、生徒は我が子だ。成長を願って遠くから眺めることを自らに課しているとはいえ、無惨に毛刈りだの何だのされて平常でいられるはずもない!
「殴るのは、全員でだ!」
次の瞬間、うららとフローラ、アスハが鋭い咆吼を上げた。
「突撃ーッ!」
知夏の号令と同時に猛き獣達が一斉に駆ける!
胸の大きさに悩む二種類の(正反対の願いの)乙女達も、
もふふわの獣に囲まれるのを夢見た少女も、
あにまるな現実もいいかなと願おうとした者も、
心の希望を叶えてほしいかなと思っていた少年や青年達も、
彼等彼女等の切望に願望を譲り共に夢路を駆ける!
その先に、不敵な笑みを浮かべた女神()を見据えながら!
「刈った毛を返せぇぇぇぇ!!!」
龍仁、ぽろっと本音。
「じゃない、こんな悪夢さっさと終わらせろ! 全員の記憶を消してだ!! 」
次々に浮かぶ数々の御神籤の文字!
流星の如き隕石と盥が降り注ぎ、沼が地表を覆い、駆ける最中にも何頭もが己の毛を羞恥心とともに散らしながら駆ける!
知夏、クリス、祥雲、青葉の前脚が同時に女神()の間近へと差し掛かる!
「ふっ。良いでしょうあにまる共! 私が人間の恐ろしさを見せてあげましょう!」
人間っつったかをい!?
ぶわっさーっと纏っていたキルトを脱ぎ捨てる女神()!
もはや自身がWAISETU物陳列罪な生き物に、神削は全ての力を羽に込め、その羽に持っていた宝箱を乗せて、叫んだ!
「ペンギンフリッパー!!」
人骨粉砕を込めた箱が凄まじい勢いで女神()の元へ投擲される。
女神()は悪女な顔で笑い──
●
「ハッ!?」
ぽかっと浮上した意識に雫は思わず跳ね起きた。
「ゆ……夢、ですか」
とことこと走っている鼓動の音を聞きながら、思わず額に手をあてる。結末がどうなったのか、中途半端なところで放り出されて妙に消化不良な気持ちになった。
(結局、女神()には一撃入れれたのでしょうか?)
何かあの夢の中にもう一度入るための資料は無いかと学園に向かった雫は見た。
「う、うさみみカチューシャが……取れない!」
謎の灰兎耳カチューシャ姿の栄を筆頭に、どこかで会ったような気がする面々が動物耳カチューシャを装着した状態で大小さまざまな動物を追いかけている姿を。
走るエルレーンの胸がちょっと膨らんでいるような気がするが気のせいか?
「雫君。そこの子、捕まえてくれないか」
天魔の襲撃を受けた動物園やペットショップの動物達を保護したのはいいものの、檻から出てしまった為に皆で捕獲している最中らしい。迷子猫も捕獲していた雅が、千鶴と一緒に黒猫を撫で撫でしながら雫を見て言った。
雫の足元にはシベリアンハスキーの子犬。人懐こい顔の子犬は雫に怯える様子など全くなく。
「……」
抱き上げ、抱きしめた少女の頬をぺろっと舐める。
誰の願いが叶ったのかは分からない。それはきっと夢のお話。
けれど少なくとも、少女の希望は少しだけ叶ったのだった。