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マスター:九三壱八
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/30


みんなの思い出



オープニング

 ボクは一体、『何』を作ったのだろうか。


 青空を切り取ったかのような空間の中、天使エッカルトは胡乱な目で目の前の物体を眺めた。
 白。白。一部緑。
 ある種これでもかという特徴的なソレの姿をエッカルトはただただ眺める。
 その傍らにいる彼の使徒も、無言のまま主と同じモノを見続けていた。もっとも、こちらは思考や感情といったものをもとから持ち合わせていないための無言だが。
 彼等が茫然と、または淡々と、見つめているソレは

 ダイコンだった。

 しかもデカイ。
 何故か非常に美しいしなやかな手で顔を覆うかのようにダイコンの一部を覆い、魅力的なおみ足を曲げて座り込んでしまっている。
 おそらくしなやかな足で立てば二メートルを超えているだろうそのダイコンは、手足がついていることを除けば、あとデカさを無視すれば普通に普通の青首大根だ。
 エッカルトが青首大根という名称を知っているかどうかは疑問だが。
 そのエッカルトはといえば、茫然とそのダイコンを見つめ続けている。
 部屋に木霊する咆吼を聞きながら。

 ゥオゥォオオオ───ッ

 その叫び声は怒りと恨みと嘆きに満ちて強く、人界に恐怖をばらまき混乱させるに相応しい『力』に満ちているのに──そこだけをとれば、それなりに強そうなサーバントが出来たと喜んでいいはずなのに──とある事情で喜ぶことなど出来そうになかった。
 エッカルトには、何故かこう聞こえてならなかったのだ。

 ゥオゥォオオオ───ッ
(超訳:「誰の足がダイコンだって言うのよダイエットの苦労なんて知りもしないくせにーッ!」)

 オォォオオオオオオーッ
(超訳:「カロリー計算しながら生きる苦労をテメェ等全員してみやがれコンチクショーッ!」)

 断っておくが、ダイコンがそう喋っているわけではない。
 というか「ウォゥォ」以外に叫んではいない。
 いないのに、理由も原理も不明だが、何故かそう叫んでいるように聞こえる、否、そう叫んでいるようにしか聞こえないのだ。
 気配とか、迸るオーラ的なもので。
 なんとなく。
 結果、エッカルトは愕然と茫然を足して二で割らなかったような顔で立ちつくしている。
「……ふ。僕は一体、何を作ったんだろうな」
 思考能力を持たない使徒は、主の声にただ無言でサーバントを指し示す。
「あれか。僕の優れた才能はこんなときにも無駄に発揮されてしまうんだな」
 使徒フィネストラの動作を無視して、視線を明後日の方向に逃がしながらエッカルトはふぁさ〜っと髪をかきあげてみせた。
 胡乱な目のままで。
「ふ、この無意味でわけのわからん咆吼……人間共を混沌の渦に叩き込むのに相応しいじゃないか」
 使徒、無言で天使を見つめた。
 せめて頷いてやれよ。可哀想だから。
「ただの叫びにこれだけの波動()を込められるなんて、さすがは僕のサーバント。優秀なんじゃないか?」
 使徒が見つめている。
「発音一つで意志を伝達できる(出来ているわけではありません。念のため)だなんて、画期的じゃないか(繰り返しますが出来ているわけではry)」
 使徒が見つめ(略)。
「もしかすると広範囲無差別精神遠隔感応とか電波とかの能力だったりするのかもな。ハハッ(」
 使徒が見(略)。
「ふ。この普通にあり得ない感じのサーバントを見れば、ぼんやりしたレヴィも僕の才能に嫉妬するかもしれないな! アハハハハッ」
 使徒(略)

「くそ、お前もちょっと何か言えよ! 僕がひとりで馬鹿みたいじゃないか!」

 エッカルト、思考も思想も感情も与えずに作った自分の使徒に文句をたれた。自業自得でしかないのだが。
 その使徒がややあって「くいくい」と天使の服の裾を引く。
「くそ。そんな馬鹿なことをやってる場合じゃない!」
 くいっ、くいっ。
「こんな妙なサーバントを見つかったりしたら……! 特にあのレヴィに見つかりなんぞしたら、あいつのことだ、絶対に口に出しては何も言わずひたすら目だけでコレナンデスカ?と訴えてくるんだぞくそむしろ口に出して言えッ」
 くいっ、くいっ。
「あぁあああ、こんなサーバントだと人界に解き放つのも恥ずかしい……! かといって天界に置いておくと僕が作ったのがすぐバレてもっと恥ずかしい……ッ!」
 くいっ、くいっ。
「ここはやはり人界に放って……いや、駄目だ! そっちでも僕が作ったとバレたら僕の沽券に関わる……! こうなったら作り直すしか……」
 くいっ、くいっ。
「うるさい(?)ぞフィネストラ! 僕は今考え事で忙しいんだ! 報告があるなら裾引っ張ってないで口で報告しろ!」
 頭を抱えてぶつぶつ思案していたエッカルトは、ひたすら裾を引っ張って注意を促していたフィネストラにそう告げる。
 『命令』された使徒は、ただ事実だけを口にした。
「サーバントが、居なくなりました」
「え゛っ」
 エッカルトは愕然とダイコンが居た場所を振り返り、
「居ないーッ!?」
 叫んだ。
「先程、何か反応。走り去りました」
「早く言えーッ! というか何処に行った!?」
「方向から推測、人界です」
「うわぁあああーッ!」
 頭を抱えたエッカルトの悲鳴が、青空のような部屋に響き渡った。





「すまない。サーバントが出たらしいんで倒して来て欲しいんだ」
 何か複雑そうな表情で告げながら、鎹雅(jz0140)は現場の写真と内容の書いたプリントを生徒達に渡す。
「サーバントが居るのは市街地。それほど人混みは多く無かったのだが、今ちょっとした騒ぎになって周囲に人が増えている。地元の警察や役所の人達が野次馬を離すべく頑張ってくれているから、皆が到着する頃には戦闘に支障のない戦場が出来上がっているだろう」
 微妙に歯切れの悪い雅に首を傾げつつ、プリントを見た生徒達は目を丸くした。
「……コレが敵ですか?」
「ソレが敵なんだ」
 雅は頷く。
「言っておくが、天魔の作った従者達は元が人間である可能性が高い。外見はソレだが決して食べられない、食べるのは人としての倫理に反する、ということだけは心にとめておいてくれ」
 非常に複雑な表情で言う雅に、戸惑い顔ながらも生徒達が小さく頷く。その手に握られたプリントには、やたらとデカイ、綺麗な手足の生えたダイコンが一本映っていた。





 街中にダイコンの悲憤に満ちた咆吼が響いている。

 ゥオゥォオオオ──オオオオオオオ─オオゥォオオオオーッ
(超訳:「どうせ私はいつもそうよ結婚する前はちやほやしてたくせにいざ結婚したら釣った魚には餌やらなくていい的に飯だの風呂だの子供の世話はお前の仕事だの言って仕事に逃げて休日は遊びに出たりダラダラしやがってーッ!」)

 長い長い咆吼に、遠く離された一部の野次馬が、そっとハンカチ片手に深く深く頷く。



 それをさらに遙か遠く離れた一角で見つめながら、大小二つの影は茫然と立ちつくしていた。
「命令。撤去。密かに。速やかに」
 黒髪の年若い少年が呟く。
 隣の青年はしばし無言で騒動を眺めてから、頭を振って告げた。
「……あれだけ人が集まっては、最早『密かに』というのは無理です」
 使徒フィネストラは青年を振り仰ぐ。
 銀髪の見目麗しい青年は遠い眼差しで呟いた。
「これだけ騒ぎになれば、必ず『彼等』が来ます。……ほら、撃退士達が来ました。……こうなったら、成り行きを見守りませんか。『エッカルト様』」


 結局、レヴィにサーバントがバレたエッカルトだった。



リプレイ本文




 今日は お鍋が 食べたいな。



 戦場に立つ敵を見た時、六名の頭に浮かんだのはそんな一言であったという。
 六人は遠い眼差しで現場を眺める。交差点のど真ん中に立っている、

 綺麗な綺麗な青首大根(手足付き)を。

「たまに、こう……天使達が何を考えているのか分からなくなる時って、ありませんか?」
 或瀬院由真(ja1687)がぽそっと小さく呟いた。
 一斉に頷く仲間達。今、彼等の心は一つだ。
「前の依頼で会った自称天使も相当な変わり者だったが、今度はダイコンサーバントかよ。天使ってのは変人ばかりなのか?」
 ミハイル・エッカート(jb0544)は心底呆れたような顔で同意した。
「えと、その、な、何で、ダイコン、なんでしょう……天使の考えることって、その、本当、分かんないです」
 食材に一瞬心トキメキつつ、久遠寺渚(jb0685)も大根についた『手足』に困惑顔。
(…大根……今夜はおでんにするか…いや、今はそんな事を言っている場合では無かったな)
 同じく敵(食材)に出汁の染み込んだ大根の姿を幻視しながら、強羅龍仁(ja8161)はぼやいた。
「これを作った天使はどんな顔しているんだろうな……」

 ※ちなみにソレを作った天使、遠く離れた隅っこで拳握ってぷるぷる震えてます。

「そんなことは気にしても仕方がありません。もし、気になることがあるとすれば、」
 怜悧な眼差しで大根を見つめ、加茂忠国(jb0835)は顔を引き締めて言った。
「何故あんなに魅力的な手足があるのに、おっぱいがついていないのか、です」
「一番どうでもいいことだよな!?」ね!?」
 超絶まがおな忠国に男女四人がツッコミ。その傍らで、御堂・玲獅(ja0388)は思案深げな表情のまま呟いた。
「それにしても、口もないのにどうやって叫んでるんでしょう?」
 スルーですか!?
「ん……そういえば、何か言って……いる?」
 六人はじりじりと移動を始める。
 と──

 ウォオオゥオーッ
(超訳:せっかく作ったご飯食べないんだったら最初から電話入れとけーッ)

 オオォオオオーッ
(超訳:これ好きじゃないからイラナイとか言うなら自分で飯作れーッ)

「「「「「「………」」」」」」
 どうしよう。
 いたたまれない。
 いたたまれない。
 何がどうとかいうアレじゃなくひたすらいたたまれない。
(こ、これは主婦の夫への愚痴か?)
 龍仁、思わず顔を覆った。
「どうやら本当に野次馬が多い様ですねぇ」
「どうしてこうも主婦が多いんだ?」
 忠国のぼやきに、龍仁も呟く。問いの形にしつつも龍仁は疑問の答えを求めなかった。求めないったら求めない。
「敵が何であれ、被害が出る前に食い止めるのみです」
 動揺が激しい一同の中、玲獅は静かな面差しのまま光纏とともに武器を具現化させる。
「加茂さん、周囲の野次馬の避難誘導をお願い出来ますか?」
「任せなさい♪」
 忠国、歯をキラリと光らせて野次馬の対応に乗り出した。それにお辞儀してから、玲獅はPDWFS80を構えつつ告げる。
「最初に物・魔、両方でダメージを計ります」

  「奥様方〜、こちらは大変危険になっておりますのでもう少し離れて下さ〜い」

「より深くダメージを与える方で攻撃を集中させましょう」

  「ついでにこの後、私と浮気しませんかぁ〜?」

「では、参りましょう」
「ぁあツッコミを……ッ!」
 総スルーで戦闘に入る玲獅。頭抱えて悶える龍仁。
 開始ホイッスルの代わりに、銃撃音が鳴り響いた。





「ダメージほぼ同等! 偏りのないタイプです!」
「回避は高くありません……!」
 玲獅の声に渚も報告する。五人の手によって与えられたダメージは──
 足の付け根下あたりに銃弾。
 足の付け根下あたりに焦げ。
 足の付け根下あたりに切れ目。
「何故そこ狙い!?」
「ね、狙ったわけじゃありません! 相手が飛んだり跳ねたりするからたまたまそこにばかり当たるんです!」
 野次馬撤去の為に一人非戦闘だった忠国の声に、顔を赤くした由真が叫び返した。
 そんな中、渚はスキルを解き放つ。技の名は明鏡止水。
「えーと、こういう時、『見えた、水の一滴』って言うんですよね?」
 らめぇっ思っちゃった時点で澄み切ってない!
「ま、巻き込まれないで、くださいねっ!」
 わりと怖いこと言いました! 潜行の後に解き放つ技の名は呪縛陣!

 ひらりっ

 大根、舞うように横っ飛びで避けた!
 七メートルほど。
「跳躍力高すぎません!?」
「しかも今ポワントでちょこちょこ移動してます!」
「バレリーナ!?」
 つつつーっと移動していく大根(爪先立ち)に、由真は槍を構える。
「と、兎に角。まずは抑え込みに行きます!」
「同じく。敵の注意がそれている間に攻撃願います」
「は、はいっ」
 ランタンシールドを構えた玲獅がそれに続き、戦闘は不得意ながらも渚は気合いを入れて攻撃を再開する。だが、

 ォオオオオオオーッ
(超訳:帰って来て即服を脱ぎ散らかすなーッ)

「「きゃっ!」」
 その瞬間に放たれた叫び声に、二人して体を強ばらせた。
「や、これ……麻痺!?」
「気を付けてください! かなり広範囲です!」
 叫びながら二人、射程内の大根を容赦なくザックザク☆
 その都度大根が身をよじるのが妙にシュールだ。
「……回避力、それほどでも無いんだな」
「おまけに近接攻撃が主体みたいです」
 ミハイルの声に渚も一生懸命分析する。ミハイルは軽く嘆息をついた。
「俺はまだほんの駆け出しだ、力不足なのは分かっているが歯がゆいぜ」
 せめて弱点を見極めようと思ったが、なかなか難しい。ならば、せめて背面、もしくは側面からダメージを入れようと走り──
「どっち前なのか分からん……」
 項垂れた。
 白。白。一部緑。
 白。白。一部緑。
 むしろ前も横も後ろも全部同じだ!
「手足の方向で判断です!」
 玲獅のアドバイスにミハイル、頷いた!
「分かっ……」

 大根が、後ろ向きで走って来ました。

「この場合はどっちだ!?」
 軽やかに走ってきた大根の後ろ回し蹴りをミハイル、奇跡的に避けた!
「くっ……!」
 そこへ薙刀を構えた渚が走り込む!
「えぇいっ!」
 ガシュッ!
 イイ音がして、薙刀が大根を貫いた!
「あっ! 股の下を貫通しました!」
「合ってるが……ッ!」
 龍仁、再度突撃しようとする大根をランタンシールドで攻撃しつつ呻く。
 大根がもじもじしていた。
「攻撃を集中させます!」
 治癒スキルで麻痺を癒した玲獅が駆ける。
「やぁあッ!」
 片刃の曲刀が風切り音を置き去りに煌めく!
 大根、避けた!
 だが、先端部分が避けきれない!

 ザシュンッ!

 決定的な音をたてて、白い大根の先端が切り落とされた!
「やりました! 足の付け根下の突起を切り落とすのに成功しました!」
「「「痛々しい……っ!」」」
 男性一同、内股に。
 同じく内股になっていた大根、怒ったのかビシィッと女性陣に指を突きつけてきた。
 対して由真、逆に指を突きつけ返す!
「貴方、まさか……寝転がりながら昼ドラを見るタイプですね!」

「「ううっ!」」

 観客もとい野次馬が一斉に呻いた。あんたらか!?
「私だって愚痴くらい言いたいですよ。背が低い事とか、背が小さい事とか、背がSmallな事とか!!」
「全部一緒だーッ!」
 龍仁のツッコミが炸裂する。その声に反応したのか、大根が走った。
 白い大根の白い足が間近に迫る!

 わぁ〜お!(衝撃音)

「なんだ今の音ーッ!」
 吹っ飛ばされた龍仁、即座に起きて顔を覆った。
「強羅さん……」
「待て! ちょっと待て! 俺は普通に攻撃されたぞ!? 今のちゃんと見てたよな!?」
「はい! 大根の白いふくらはぎが強羅さんの頬をしたたかに打ちすえました!」
「何故誤解を招きそうな言い方で!?」
 真顔で解説する由真の台詞に龍仁が再度顔を覆う。
「心配するな。不可抗力だったことは分かっている」
「不可抗力という以前の問題だよな!?」
 渋く頷いてみせたミハイルの声に、龍仁、ちょっと涙目だ。
「近くに寄ると危険な時は遠くから狙い撃てばいい」
 自身はまだ歴戦とは言えない。自らそう判断し、故に他に迷惑をかけることなく、己に出来る最善の形を取ろうとミハイルは再度銃を構える。

 大根が走って来てました。

「……ん?」
 次の瞬間、見事な曲線美を描く白い足が踊った!

 わぁ〜お!

「エッカートーッ!」
 鮮やかな空中飛び回し蹴り(ちょっと位置ズレた)を喰らったミハイルが綺麗に吹っ飛ぶ。
 したっ! と着陸した大根、何か思うことでもあったのか魅力的な足をもじもじもじ。
「綺麗な内股をミハイルさんの顔に押しつけた大根がもじもじしています!」
「誤解を招きそうな解説だよな!?」
「俺の気持ちが分かっただろう」
 龍仁。渾身のドヤ顔。
 渚は「なにかおかしなことでも……?」と真顔だ。
「く……まぁ、いい。それよりも、もしかしたら元はかなり美人のねーちゃんだったんじゃね?」
 意識を切り替え、ミハイルが言葉を放つ。その視線は魅力的な大根の手足に向いていた。
「人間だったときに会っておけば良かったかもな。ここの誰かがデートに誘ってくれたかもしれねーぞ」
 大根がくるぅりと向き直った。
「え……俺!?」
 大根がスタンバイしている。
「いや、それはちょっとなぁ……」
 大根、走った!
「ま……待て……!」
 無論、待つはずがなかった。

 ぅわぁ〜お!(最大効果音)

「ああっ! エッカートさんが大根の股に挟まれて……!」
「絵柄がおかしい!」
 切り落とされた先端のおかげで、足の付け根から下真っ平ら。そんな大根の断面を顔面に押しつけられたまま太股でホールドされているミハイルの姿は非常にシュールだ。
 だがその光景を見た途端、忠国が目をひん剥いた!
「なんという羨ましいことに!」
「どこが!?」
「ふともも!!」
 ああ! と言えばいいのか、ええ!? と叫べばいいのか。どっちだ!?
 愕然と崩れ落ちたツッコミ偉丈夫に、忠国はこの上ないカッコイイポーズ。
「フフ、私を甘く見てもらっては困りますねぇ。たとえ相手がサーヴァントであろうと!大根であろうと! 女性ならば愛してみせますよ!」
「落ち着け!」
「むしろ、助けろ!」
 龍仁とミハイル、渾身の叫び。
 その間も玲獅、由真、渚による集中攻撃は続けられている。
「推測ですがあの大根、どうも熱に反応する様です」
「えっそうなんですかっ?」
「寒くて持ち歩いてたカイロに……時々意識を向けている気がします」
 玲獅がそっとカイロを取り出すと、高温のそれに大根の体の向きが微調整された。
「本当です……!」
「より体温が高い方が狙われやすいようです。完全に、ではありませんが」
「それは使えそうですね。余裕のある前衛がカイロを持つ様にしてみませんか?」
 由真の提案にカイロが移動する。その瞬間、大根が走った!
「きゃっ!」
 ラリアット!
 かーらーの、胴回し回転蹴り!
「なんだその無駄に華麗な連続技ーッ!」
 流れるような動きで畳み掛けてくる重力無視なコンボに、ちくちく遠隔攻撃していたミハイル、たまらず顔を覆った。
 正直そこらのディアボロやサーバントよりえらく強い。大根なのに。大根なのに!
 そのままさらに連撃を繰りだそうとする大根に、その時、忠国が走った!
「女性同士()の戦いなど、悲しいことはさせませんよっ!」
 いや、すでにかなり闘ってましたとか真面目なツッコミは全スルーだ!
 掌底打ちの形で繰り出された手を避け、忠国は素早くその手をからめ取り──

 アン ドゥ トロワ♪

「踊るなぁあああッ!!」
 龍仁の絶叫が響き渡った。
「い、いかん。このままでは俺は戦い以前に(ツッコミで)倒れてしまう……!」
「あぁ。そっち方面は任せた」
「任された!?」
「すみません。男性の方々。出来れば真面目に戦闘を……」
「真面目だったんですが!?」  
 大変申し訳なさそうに玲獅にお願いされ、龍仁、またしても顔を覆った。どうしてこうなった。
「少なくとも回避力は低いです! 一息に貫きましょう!」
「うぅっ」
 真面目な渚の宣言に龍仁はツッコミを堪え、
「あぁ、大根ちゃん……貴女は私を狂わせるイケない野菜……その美しい脚はまるでビタミンAたっぷりの瑞々しさを湛えている……」
「加茂ーッ!」
 しかし、情感たっぷりに大根を口説いている忠国にはツッコミをせざるを得なかった。
「サーバント! 敵! 大根!」
「ハッ、知った事ではありませんね。こんなに美しい手足を持つ女性を放っておくだなんて男として出来るわけがないでしょうが!!」
「胴体ーッ!」
「……頭はいいのか?」
 ツッコミが追いつかない。
 ミハイル、流石に龍仁の肩をポンと叩いた。
「もう、さくっと倒して、家に帰ろう。俺は鍋が食べたい」
「あっ。私も食べたいです!」
「終わったら鍋ですね!」
 君ら食欲沸きすぎだろ!?
 だが食材へと意識を切り替えたのが功を奏したのか、全員、殺る気が漲った。
 シャキーンッ、と渚の武器が中華包丁に即席☆交換!
「たっ、戦いはまだ得意なんて言えません。でもお料理なら得意です!」
「覚悟です!」
 玲獅の号令の元、六人の武器が大根へと向かった。







「倒された」
「倒されましたね」
「僕のサーバントが! って……レヴィ、お前、楽しそうだな!?」
 自身の使徒の体を借りる形で、天使エッカルトは知己の使徒を睨み上げる。レヴィはきょとんとしてから自分の口元に触れた。
「楽しそう……でしたか」
「……無自覚か」
 エッカルトはふいと視線を逸らせた。生真面目に謝罪してくる使徒に軽く手を振る。
(こいつ、確か娯楽とかそういうの、全然知らずに過ごしてたんだよな……)
 長い時を共に過ごしてきたから知っている。この使徒が、人間であった頃どれほど悲惨な状況下にいたかも。
(……くそ)
 自分のサーバントを殺されたのは悔しい。だが、代わりに珍しいものは見れた。 
「……あいつら、面白かったか?」
 ぶすくれた声で問うと、真面目な使徒は遠くに居る撃退士達を見て微笑んだ。
 おそらく、自分が微笑っていることすら気付かないままで。
「そうですね……面白い、というのが、今の気持ちなのでしょうね」
「ふん」
 エッカルトは鼻を鳴らす。
 そうして、唇を尖らせてぼやいた。
「……じゃあ、しょうがないな」
 そうして、ふたり同時に弾かれたように顔を上げた。

「!」

 闇が嗤った。
 一瞬の幻のような刹那の時の中で。
「今のは」
 レヴィが眼差しを鋭くする。エッカルトが小さく呟いた。
「……また、新手の悪魔か」
 






 崩れ落る大根の手を龍仁はそっと握った。
 意味は無いかもしれない。だが、何かを言いたいと思った。

「俺が言うのはおかしいかもしれないが……その……いつもありがとうだ」
 言ってはくれない、誰かの代わりに。

 大根は何も言わない。
 ただ一瞬、手がきゅっと握られた気がした。


 ありがとう、と。そう言うように。









 後日。
 一同は語る。
 この日食べた鍋は、このうえなく美味しかった、と。






依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・強羅 龍仁(ja8161)
 愛の狩人(ゝω・)*゚・加茂 忠国(jb0835)
重体: −
面白かった!:5人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
愛の狩人(ゝω・)*゚・
加茂 忠国(jb0835)

大学部6年5組 男 陰陽師