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マスター:九三壱八
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/23


みんなの思い出



オープニング


 その獣が最期の時を迎えるのをソレはただ黙って見つめていた。
 大きな耳の先から長い尻尾の先まで漆黒の毛皮。胸の位置にあるハート型の部分だけが白い毛のソレは、一見すると巨大な猫のように見えた。
 どこか子猫を巨大化させたような印象が強いのは、体躯に対して頭部が大きく、その頭部もまた緑の瞳が顔のわりに大きいからだろう。
 無論、牡牛ほどの大きさもある猫が普通の子猫であるわけが無いのだが。
「……」
 『猫』は大きな耳を力無く垂れさせ、どこかしょんぼりと木の上に立っていた。
 器用にてっぺんの一点の上に立つ姿からして、通常の重力とは違う理の中にいる生き物であることが分かるだろう。そしてその背中には、道化の姿をした幼い子供の姿があった。
「…………」
 『猫』はただ無言で一連の流れを見守る。
 遠く眼下にあるのは広大な空き地に立つ数名の人間。倒され消滅してゆく巨大な狼のような生き物。そして、そのさらに向こうにある素っ気ない作りの建物だった。
 『猫』は知らなかったが、その建物は郊外にある動物保護センターだった。その別名がつけられる前は、殺処分場と呼ばれていた場所だ。
 建物の中には数名の職員と、その十数倍にはなるだろう沢山の犬猫達。
 響く鳴き声はどこか切なく、狂おしく。人の声であれば悲鳴や慟哭と呼ぶべきものも多く含まれている。

 殺処分場とは、そういう所だった。

 今でこそ、新たな家族として引き取られる可能性を含め、保護という柔らかな名称をつけられてはいるものの、どう言い繕おうともその内容が変わるわけではない。
 愛らしい仔が欲しいからと浅慮に産ませて捨てる『飼い主』という名の保護者(にんげん)。
 集められ、押し込められる籠の中の仔達。
 時至りて、無造作に行われる無慈悲な『作業』。
 待機の期間。わずか一週間。

 何故。
 何故。

 あがる鳴き声は切なげに響く。

 何故いなくなったの。
 何故みんないないの。
 いつもと同じように起きて
 いつもと同じようにご飯を食べて
 いつもと違って車に乗せられて
 知らない場所に置いていかれて。
 どこに行ったの。どうしてここはこんなに怖いの。どうして死の匂いがするの。どうして死の気配がするの。何故何故何故何故何故何故何故何故。

 捨てられたことも分からず、ただいつも優しかった『家族』の──家族と思っていた愛する人間達の姿を求めて鳴いて鳴いて。鳴き疲れて。声も嗄れて。

 カワイソウニナァ

 上っ面だけの同情のコエを檻の向こうから投げられながら。

 ドウシヨウモナイカラナァ

 本当は防げたはずのことですら責任の向こう側に放り投げて知覚しようとせず。

 ゴミアサラレルトコマルカラナァ

 それを防ぐ手立てだってあるのに知らないフリで結局行うことは──


 命を奪う、という『作業』。


「さて、私達も退場しましょうか、レックス。ふふふ。天界の者が見ていますよ」
「…………」
 背中に乗った友達の声に、フェーレース・レックス(jz0146)はその巨躯からは想像もつかない速度で駆け出す。そよそよと髭をそよがせながら。
 背中の重みが、その様子に気づいて頭の上に手を置いた。
「どうかしたのですか? レックス」
「……うむー……」
 こりこりと頭部を掻いてくれる友達の小さな掌に頭を擦りつけて、レックスはしょんぼりと呟く。
「我輩、悪魔であるが故にアレ等とは違う生き物であるが……あの小さき命達が無惨に命を奪われ、その悲憤をもって作られたモノも殺されるのを見ると、胸のあたりがクシャクシャするのであるー……」
「あぁ……あの犬猫達ですか」
 しょんぼりと項垂れながら走る四つ足の友人に、マッド・ザ・クラウン(jz0145)は軽く首を傾げてから頷いた。
「ふふふ。貴方は小さな生き物が好きでしたからね」
「好きであるー」
「形も貴方に似ていますから、複雑な気持ちなのですね」
「なのであるー」
 こりこりと頭を掻いてくれる手に少しだけ気持ちを上向けさせて、レックスは緑の瞳で自分の背に騎乗しているクラウンを見ようとした。
 位置的に空しか見えなかったが。
「クラウン。我輩、不思議なのである。何故人間は、ああして食べもしない生き物を無造作に殺すのであろうか? 我輩達が『食べ物』で遊んでいたら、毎回のように命はうんたらかんたらとか喚くのに、である」
「ふふふ。あの者達の考え方が気になるのですね?」
「気になるのであるー。我輩、自分が殺したモノは全部美味しくいただくのである。それが我輩のポリシーである。なのに、なぜに食べぬ命をああして奪う輩にコロスノハヨクナイとか言われたりしていたのであろうか……解せぬのであるよ」
「ふふ……貴方は玩具もご飯も全部食べてしまいますからね」
「美味しく食べるのである。好き嫌いはせぬのであるよー」
 髭をぴーんと張って言うレックスに、クラウンは笑う。
「もしかすると、人間というのは、同じ種族(にんげん)でなければ命を『命』として捉えないのかもしれませんよ。時には変わり種がいるようですが、大抵の人間はそのようです」
「ふむー」
「だから私達が『玩具(にんげん)』で遊んでいると、怒ってくるのですよ」
「『食べ物(にんげん)』でなければ命など無いであるかー」
「ふふふ。そこまで極端かどうかは分かりませんが、そういう風にもとれるのは確かでしょう」
「ふむー……」
 クラウンの声にレックスは髭をそよがせる。
 そうして、ピンッと耳を立てて上を向いた。
「クラウン。我輩、次の賭けを思いついたのであるー」
「おや。もしかして、新しい遊戯ですか?」
「なのであるー」
 嬉しげに言って、レックスは緑の瞳の奥に深い深い色を宿す。
「人間がどこまで『人間』の命を大事に出来るか、試すのであるよー」





「緊急の依頼が出た。時間がない。転移門への道すがら解説する」
 箇条書きにされた依頼用紙を手に、一同は鎹雅 (jz0140)の後に続く形で走る。
「場所は四国にある現在閉鎖中の市民プール。そのうち、飛び込み台のあるプールに大量のディアボロが発生した。……毒蛇だ」
「毒蛇?」
 資料に目を通し、生徒の一人が眉を顰める。
「全長一メートルから二メートル。毒の息を吐く蛇型。おそらくその牙にも毒があるだろう。それが飛び込み用プール周辺に大量発生している。おまけに、飛び込み台の上には近くの小学校から攫われた児童が三人、放置されている」
「ええ!?」
「飛び込み台は五十メートルもの高さがある。高度のせいか蛇の吐く毒息の影響は今のところないようだ。また、蛇も台の方へは行っていないが、どちらも時間の問題だろう。救出する為にはディアボロを蹴散らす必要がある。本来なら人海戦術が一番いいのだが、急すぎて人数集めに時間を割けない」
 そのため、最大でも六人で事をなさなくてはならない。
「巨大な黒猫の着ぐるみを着た何かに子供を攫われた、というのが小学校の言だ。その際、伝言を受けたらしい」
「伝言?」
 生徒の声に、雅は頷く。
「曰く『この命が大事なら、自身の命を賭けて助けに来るがよい』とな」





「ふふふ。それで貴方はどちらに賭けるのですか? レックス」
「我輩は助からぬ方に賭けるのであるよー」
 市民プールを見下ろす一角で、ふたりの悪魔は言葉を交わす。
 眼下には泣き叫ぶ子供達と、毒の蛇。
「子供は可愛いのである。けれど、助からぬであれば仕方がないのである。その時は我輩が責任もって全部食べてしまうのであるー」



リプレイ本文



 遊びでも無く、
 食べるでも無く、
 殺す意味はどこにあるのだろうか。

 あんな事を平気でしているのに、何故悪魔に対し訳知り顔で生を語るのだろうか?
 ココロがどうとか言うのだろうか?
 弱い生き物でしかないのに、さらに弱い生き物を沢山殺しているのに。

 人間は、分からない。

 同じ人間でも、弱ければ、かの者達は放置するのだろうか?
(それとも……)
 巨大な黒猫の悪魔は遠くを見つめる。
 何かを待つように。
 けれど、それを否定するように。
 ただ座して答えを待つ。


 ──それとも……?


 その答えは、六人の撃退士に委ねられていた。





 風がいやに冷たかった。
 走る音は風に飛ばされ、景色すら荒い線画となって流れ去る。空は晴れているのに日差しは弱く、全力で駆ける人々の肌は熱を奪う風に冷たくなっていた。
「子供達を助けたいなら、命を懸けて助けに来るがよい、ですか」
 嫌な風が吹きすさぶ中、神月熾弦(ja0358)は走りながら瞳に強い色を湛えて呟く。
(……いきますよ、当然です。例え悪魔がどんなつもりだろうと、これが大局的に意味のない行為だろうと……)
 誰の何の思惑があろうと、逆に何もなかろうと、そんなことは自身の行動の基軸に関係ない。
 大切なのは、自らの身の内にある心。従うのは、ただ、全身を巡る血と同じリズムで刻まれる魂の声。
 しなやかな足が大地を蹴り、白銀の髪を背に靡かせてひたすらに熾弦は走る。
「自身の命を賭けて、という所がまるで人を試しているようですね……」
 犯人の『伝言』を思い出し、ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は思案する。
(猫の「着ぐるみ」とやらはともかく、相手を天魔と仮定して……。となると、余興好きの彼等は何処かで見ている可能性があるでしょうか?)
 試すという行為は、試している最中の内容、あるいは結果を見ることのできる位置を確保していることが前提では無かろうか。ならば、近く、あるいは遠くともこちらが見えるどこかに『犯人』はいるはず。
(……けれど、全ては子供を救出してから)
 ただ願わずにいられない。興じる者がこちらの救出を邪魔しないことを。せめて、せめて子供達を助けるまでは。
(それまで……全力で支えてみせる)
 大切な仲間を。なにより、大切な義従姉を。


 共に走る熾弦とファティナの後方、向坂玲治(ja6214)は走りながら携帯していた所持品を取り出していた。
(敵さんが何考えてるのか分からねぇが、切羽詰ってきてるのだけは確かだな)
 すでに道すがら可能な限りの打ち合わせはし終えた。後は急いで現場に到着し、子供達を救い出すだけ。
(蛇ってんなら……熱に反応する可能性だって、あるよな)
 勿論、ディアボロという生き物には遺伝子レベルで改変されている化け物も少なくない。だが中には外見と一致する生態の者もいるのだ。もし、今回のディアボロもこちらが知る蛇と同様の生態を僅かでも有していれば……
 玲治は取り出した漫画雑誌にオイルライタ−のオイルを染み込ませる。走りながらだ。目視での確認は難しいが、とくとくとく、と、音ではなく指に伝わるわずかな感覚と嗅覚を刺激する匂いで雑誌への浸透を確認した。


 玲治の隣を駆ける羽空ユウ(jb0015)はその様子に密かに頷いていた。彼女もまた同じ手法をとるべく寝袋を咄嗟にひっつかんで来ている。中にはバラ撒かれたマッチが入っていた。
(熱源感知、蛇はする、らしい…なら、引き寄せられる、かもしれない)
 同じ事を考えている人がいるのは、少しだけ心強い。別々の所に放れば、上手くいけばそれだけで分断を促せるかもしれないのだ。
(今度の敵は……『何』……?)
 まるで『助けに来ること』を楽しみにするかのような伝言。
 それとも、助けに行かないことを楽しみにしている……?
 いや、あれはまるで問いかけに人間(こちら)がどう答えるかを待つかのようなものだった。
 助ける、助けない。
 助けられる、助けられない。
 いずれの結果にしろ、相手は愉しむのでは無かろうか。それこそ、猫の集会に小さな鼠の仔を放り込んでその様を眺めるかのように。
(……変わらない)
 その手に握った忍術書が一度だけ小さく軋む。
(悪魔、人間、変わらない……強者は蹂躙し、敗者、は、蹂躙される)
 まだ弱く幼い個体を攫う非道。命を賭せと告げる傲慢。
 ──その、強者が弱者に行う理不尽な暴力。
(生存競争。それは種の、運命)
 冥魔であろうとも。人間であろうとも。

 ──本能を超越する、理性、を、まだ、私達は、獲得していない。



 一群の中、最も前方にいる獅童絃也(ja0694)は彼方に見え始めた飛び込み台に目を細めた。
「毒の息を吐く蛇、か……下手をすれば、周囲に毒素がすでにばらまかれているかもしれないな」
 まるで塔のようだ。
 攫われたという子供の姿はこの角度でははきとは見えないけれど……
(あそこに)
 今も、無理矢理置き去りにされているのだろうか。あんな、大の大人ですら尻込みする者もいるだろう高さの上に。
「この風、おそらく上空はもっと吹き荒んでいることだろう。そして下には一面に蠢く毒蛇……」
「趣味の悪い光景だな」
 冷静に状況を分析する下妻笹緒(ja0544)の声に、想像して絃也は顔をしかめた。
 笹緒は別の観点からも今回の内容を分析する。
(蛇を戦場で最大限に活用するのであれば、障害物に潜ませての奇襲。コレしかない)
 そう、本来『蛇』という個体が最大限脅威を持つのは死角からの急襲だ。下草の中、物陰、岩の隙間、木の上。暗殺においては寝台の中。
 意識の外から突如現れる刺客は、古来多くの技法をもって取り入れられている。
(どれほど数を集めたとしても、最初から目に付く位置に配置したのでは意味がない。今回の場を作り上げた悪魔は余程の愚鈍か……さもなければアソビゴコロを解する個体)
 自らが出した推測に、笹緒はその瞳に強い好奇心を宿す。
(なるほど一面に蠢く毒蛇の群れは、視覚効果だけを考えれば中々の演出)
 そのおぞましさも、圧倒的な数も、人の悲観と絶望を誘うには相応しい。
(なればこそ、か)
 無意識なまま、その口元が笑みを刻んだ。
 風がわずかに衰える。
 プールの建物が見え、やや遠くの位置ではあるものの、救出者を待つべくすでに待機していた救急隊員がじっとこちらを見つめていた。
 声はかけない。けれど眼差しで伝え合う。

 頼む。

 頼まれた。

 其れは戦場における挨拶であり懇願であり承諾であり──彼等が絶えず築き上げてきた確かな『信任』。
(ならば自分は魅せる他ない)
 笹緒は駆ける。その舞台に上がるために。
 この場を作り上げた魔性の生き物に。
 残酷な遊戯の傍観者に。

 ──期待に満ちた観客を前に、人の世も中々に面白いものだと示すために。





 その光景は、おぞましい、の一言に尽きた。
 二メートル近い体は毒々しい模様が入り、光沢のあるそれがぬめるようにして淡い日の光に照らされている。大きな飛び込み台周囲を取り囲む毒蛇の群れは、まるで自ら蠢く水面のように六人の目に映った。
 けれど、それで怯む者はこの場にはいない。
「見渡す限り蛇、蛇、蛇……嫌になってくるな」
 目に入ったプールの様子に玲治がうんざりとした顔で呟く。
「毒への抵抗を上げた。多少の無茶はこちらでカバーする」
「礼を言う」
「これで、少し、マシになる」
「おう! サンキュ!」
「背中は守ります」
「はい」
 戦闘開始直前、笹緒が絃也に、ユウが玲治に、ファティナが熾弦に、それぞれ毒への抵抗値を上げるべく魔法をかけた。危険地を行く絃也、それを近場で支援する玲治と熾弦は毒に冒される可能性が非常に高い。
(本当は全部守りたいのだけど……)
 無事を祈りながら、けれど果たすべき任務を胸にファティナは意識を切り替える。駆けだした熾弦を支援すべく次の魔法を練り上げた。
「まずは飛び込み台までの道を」
 蛇が反応する距離はまだ分からない。そのため、熾弦も一気に踏み込むことはしなかった。ただ、その手にアウルを凝縮させる。
 一瞬で具現されたのは光纏と同じ色を纏う一本の槍。
(もっと……もっと力を……)
 子供達の元に行くために。
 その道を切り開くための、力を……!
 近づく途中で、最も近い場所にいる蛇が鎌首をもたげた。感知範囲内に入った!
「ここが、感知範囲ですっ」
 宣言と同時、全力を込められた神槍が目映い光を放つ。投擲された瞬間、間近にいた玲治は光の槍が一陣の風と化す姿を幻視した。

 轟!

 込められた自身にとって猛毒に近い光の力に蛇達が六体纏めてなぎ倒される。中にはかろうじて部位を残す者もいたが、明らかに致命傷だ。
(このまま、この道を保持できれば……!)
 遙か頭上に居る子供達への影響を考慮し、攻撃は全て飛び込み台を外す形で、と皆で決めあっていた。そのため、道は飛び込み台の真横に。それは見事に踏み込み台付近までの道を作ったかに見えた。
 だが──
「反応が早い!」
 即座に左右の蛇が空きを埋めるのに、玲治が呻いた。だがそれでもまだ埋められていない部分もある。
 それをカバーするべくファティナと笹緒の魔術が解き放たれた。
 笹緒の生み出した金銀切箔や銀の砂子で彩られた彩色紙本が飛び込み台の左側を包み込む。乱舞する詞書4段、絵4段で構成されたそれら絵巻は宙に溶けると同時、眠気を誘う霧となった。
 幻想的な霧が晴れた後には、鎌首をもたげて威嚇音を響かせる蛇と、その周囲で眠る蛇の海が形成されている。
 その逆側で鮮やかな光球が炸裂する。広範囲を灼いた強烈の炎はファティナによるものだ。
「ハッ……そうそう簡単に塞がれると困るんだ、よッと!」
 開いた場所を塞ぐように動き出す蛇の一群を見据え、玲治はオイルを染み込ませておいた雑誌に火をつけて放った。炎の熱に反応し、動きかけた蛇の何匹かがそちらへと意識を切り替える。
「まだ読み途中だったが、背に腹は代えられねぇよな……」
 もちろん、これは一時的な処置だ。本能のように開いた場所を塞ごうとする蛇の数は多く、小さな囮一つでは全ての蛇に対処できない。
 だが、かろうじて開いていた道の一部へ、玲治は躊躇一つなく身を滑り込ませた。
 自身が、彼等の標的となることを理解して、尚。
「飛び込み台までのお膳立てはしておくが、あまり持たないから急いでくれよな」
 体を張っての経路確保は、下手をすれば一気に押し寄せてくる敵に重傷を負いかねない。
(けどよ……俺は頑丈だからまだいいが、子供は、違うだろ……!)
 今の遙か上で恐怖に震えているだろう子供達。
 風に乗って聞こえてくる嗄れた泣き声を聞かずに済むのなら……!
(けど……やっぱ数、多いな!?)
 現実は残酷だ。
 笹緒の眠りの霧<寝覚物語絵巻>でそれなりの数を眠らせることに成功していようと、ファティナの炸裂する炎によって敵を弱らせていようと、元の数が数。一斉にこちらを見据えた蛇の眼光に、嫌な汗が背を伝った。
 近くにいた蛇達が首を掲げる。
 ──動くか。
 そう思われた刹那、

「こっち」

 ぱちり、と小さく炎の音がした。自分が投じた雑誌とは別方向から。
「羽空君……!」
 気付いた笹緒が息を呑んだ。
 道を切り開くために敵陣に乗り込んだ玲治。それを助けるならば、効果的なのは──
「……寝袋……か!」


 思わず皆が視線を向けた先に、その少女の姿が在った。
 中にマッチが大量に仕込まれた寝袋が、熱に溶けるようにして燃えている。オイルが染みた雑誌のように一気に炎があがっているわけではない。だが、そこにある熱は確かに蛇を惹き付けた!
「危ないぞ……!」
 自身が今まさに危険地に居るというのに、思わず玲治は叫んでいた。一気に玲治に向かおうとしていた蛇が、何匹もユウの方へと向き直るのに気付いたからだ。
 その様子に、ユウは静かな眼差しで応える。
(誰かが、助けになればいい……そして、誰かが、囮に)
 ──今という『時』ならば、助けとして行くのは、獅童さん。
 ──その道を確保するために向坂さんがそこに立っているのなら、自分がやるべき事は一つ。
 ある意味では彼と同じく、囮となること。
 強さと静けさをたたえたその瞳が、玲治から熾弦と絃也の二人へと流れる。
 絃也が頷き、熾弦もまた応えた。
(この槍は、道を切り開くために──)

 救うべき命。

 託される願い。

 作られた『今』という機会。

 その全てが彼女の手に集結する。破邪の神槍の形をとって──!
「往って……!」


 ──道が開かれた。


 時間にしてわずか数秒。だが、それで充分。
(必ず……到達してみせる!)
 脚部に集められたアウルが爆発的な移動力を絃也に与えた。一直線に飛び込み台へと続く道を一気に駆け抜ける!
「援護を!」
 笹緒が声とともに魔法を放った。
 幻想動物図鑑から出現した一角獣を模した光が絃也の背に追いすがろうとした蛇をその角で貫き飛ばす。だが、絃也を追う蛇は一匹や二匹では無い!
「追わせませんっ」
 ファティナが声をあげた。襲いかかってきた蛇の猛攻に耐えていた熾弦は、足を踏みしめてその場に留まる。
 その背に、ギリギリの距離まで走り込んできたファティナの姿。
「白き夢に墜ちなさい」
 誘いの声と同時に広範囲を白霧が覆った。絃也を追おうとしていた蛇の大部分がそれで動きを止める。かろうじて追いすがりかけた蛇の一撃を絃也は躱した。
「これで、半分以上は眠ったな……っと!」
 状況を把握しつつ、襲いかかってきた蛇を玲治が戦槌で殴り飛ばした。
 初手に笹緒が放った魔法とあわせて、今、かなりの数の蛇が眠りに落ちている。だが、現状はそう長く保持できない。そのことは、眠っていた蛇がゆらりと鎌首をもたげて身を起こそうとしていることからも推測できた。
「蛇の、動き……違いが、ある」
 離れた場所で囮となっているユウが、絃也の死角から襲おうとしていた蛇をアサルトライフルで撃ち抜く。新たな魔法を解き放ちつつ、笹緒もユウの声に頷いた。
「どうやら、蛇共は二種類の行動基準を持っているようだ」
 穴を埋めるようにして飛び込み台周辺を埋め尽くす蛇。
 こちらに気付いて襲いかかるべく動き出す蛇。
 ならば、台への踏破を果たした絃也を追うのは──
「二種類とも……か? 前者が『飛び込み台』という場所の守護者であれば……なるほど、いかにも命を賭して救いに来いと言う輩が設置しそうな『敵』」
 二人の眠りの霧が広範囲で成功していなければ、また、それを補助するために身を挺して囮となり、我が身を省みず道を開くことに力を尽くす者がいなければ、こうして短期間に到達することなど不可能だったろう。
 それほどまでに、此方へも、そして彼方へも行かせない、という意志に満ちた陣。
(──で、あれば)
 飛び込み台に一人到達した、今からがむしろ本番だった。





「気を付けろ! 連中、そちらを第一に狙う可能性が高い!」
「どうやら、そのようだ!」
 起きて即こちらへと向かってくる蛇を絃也は三本爪のつけられた手甲で鋭く弾き飛ばす。自身の闘争心を解き放った一撃は、蛇の胴体を四つの肉片に変えた。
(ある意味、これも罠の一つか……!)
 だが、踏み込まなければならない理由があった。自分達の危険よりも、優先すべき事がここにあったのだ。
「今から其処に行く、じっとしていろ。後、下を絶対に見るなよ」
 下で始まった戦闘に怯え、弱々しくしゃくりあげながら再度泣きだした子供達の声に、絃也は戦闘中であることが信じられないほど落ち着いた声でそう告げた。
 もし幼い子供達が五十メートルもの上から落ちるようなことがあったら……それは例え水の上であっても命にかかわるだろう。蛇が居る居ないに関わらず、だ。
 笹緒は絃也の声に、相手に見えないと分かっていつつも頷く。
(本依頼で懸念すべき問題があるとすれば、救出対象の子どもがパニックを起こしてしまうことだ)
 だからこそ、子供達が万が一にも落ちたりしないように、これ以上怖がらずにすむように、誰かがその近くに行って支えにならなければならないと考えた。
 恐慌をきたした者は自身の安全すら簡単に見失ってしまう。まして幼い子供であれば、危険な状況を忘れて高所の端から顔を出したり、場合によっては自分から動いて危険地に足を踏み入れたりしかねない。
 それを防ぐための決断であり、行動だった。
「私達は撃退士だ。そこでじっとしていれば大丈夫。必ず救いに行く!」
 笹緒も子供達を力づけるべく声を放った。届いたかどうかは分からない。むしろ、近くにいない笹緒が分かるほどの反応こそ恐ろしいと彼は思った。それは即ち、地表を覗き込むという行為に他ならないのだから。
「いいか! 絶対ェに下見るなよ! 真ん中でジッとしてろよ!」
「今、そちらに人が行きますから!」
「待って、いて」
「その人が行くまで、動いてはいけませんよ」
 玲治が、ファティナが、ユウが、熾弦が、それぞれの力で蛇を駆逐しつつ声を重ねる。
 無論、すぐに子供達の元へ駆けつけれるわけではない。巣に入り込んだ絃也に敵愾心を刺激されているのか、起きた蛇のうち台の近くにいる者はほとんどが彼へと向かっている。例外は、玲治とユウが作り出した燃える囮に意識をとられた蛇と、熾弦に狙いを定めていた蛇達だけだ。
 だが、そんな『事実』など、子供達に伝える必要のない事。だから誰もがただ励ましの言葉だけを口にする。
 震える幼い心を抱きしめるように、強く、真剣に。
 ──心から。
「さて……そろそろ起きる個体が増える頃、か……っ」
 再度動き始めた蛇の群れに、笹緒は着ぐるみの中で細い息を吐きつつ目を細める。その制服には何かを引っかけたような跡がついていた。
(……対多数戦闘において真っ先に警戒すべきは、こちらの戦力の減衰)
 起きた敵のうち飛び込み台への『道』に近い蛇へと攻撃を放ちながら、笹緒は攻撃のために動く度、身を削る痛みと戦っていた。
 蛇を眠らせたのは、道を切り開く補助と同時、数の暴力を押さえ込むためのもの。
 そして、
(有毒生物は言い換えれば戦力の不足を補うため毒を備える……さすがに、それだけのことはある、と言うべき毒のようだ)
 今の自分のような状況を可能な限り避けるためでもあった。
 パンダの着ぐるみ故に気付かれてはいないようだが、すでに笹緒は毒に冒されている。魔法で毒への抵抗を上げた彼ですら蝕む毒は、じりじりとだが、確実にその生命力を奪っていっていた。
 だが、それでも無様にふらついたりはしない。
 悪魔が用意せし戦場(舞台)に立ったならば、最後まで己の役割を。
 ──皆で助けると誓った、幼い命を護るためにも。


「あまり、無理はしないで」
「すまねぇ。が、気張らねぇと、向こうに敵が行っちまうからな」
 タウントすら使用し、可能な限り敵を惹き付ける玲治の体には無数の傷跡がある。
 同じく前線に立つ熾弦もまた傷の数は少なくない。
「道を維持するだけ、とは、いかなくなった、の」
 囮としての寝袋を離れた場所に置き、道を塞ごうとする敵を狙い撃ちながらユウも合流した。やはりその体には大小の傷が刻まれている。
「数の暴力とは、よく言ったものですわね」
「おまけに毒がな……地味に痛ぇというか、鬱陶しい……ぉらよッ!」
 文字通り滑るようにして向かってきた蛇の一匹を玲治が打ち上げ、ユウがそれの体を撃ち抜いて止めを刺す。
 もう何十匹倒したのだろうか。
 半分には減っただろうか。
 台の向こうに消えた仲間を案じて目を向ければ、絃也の姿。蛇と戦いつつ、その認識範囲から逃れて子供達の元に行こうと力を尽くしているのが見えた。
「……だからって、ここで手ェ抜くなんざ、死んでも御免だな」
 一人で全力を尽くしている相手が向こうにもいるのだ。弱音など死んでも御免だった。
 その声にユウは頷き、可能な限り確実に敵を減らしながら心の中で呟く。
(いざと、なれば――全力移動で、走る。その為に、ギリギリまで、近づかねば)
 補助をするためにも、確実に子供を助けるためにも。
 だからこそ、後ろに下がることは出来ない。
 誰かの命を助けるために自身の命を賭ける、とは、そういうことだ。
 命を賭けるということは、危険を望むことではない。
 皆と共に有り、話し合い、決めた作戦と行動を信じて全力を出す時、命を賭ける、という行為には見えざる網のような何かが互いを繋ぎあい、知らず知らずのうちに支え合う。

 他者を救うために自身を賭けるということは、自分も相手も両方守る意志があってのこと。

 だからこそ「命を賭す」。
 そう──自分の命を守ろうとする、自身の本能すらねじ伏せて。
 そして待つ。その時を。
「数は多いですが、こちらも、負けていられません」
「だからといって、無茶はしないで……」
 傷を負おうとも道維持のためにさらに踏み入れ、熾弦は呟く。ファティナは心配に瞳を曇らせつつ、懸命に魔法を放った。
 誰かを護ろうとする意志を尊く思うから、その人の『無理』は仕方ないと諦める。けれど、無茶だけはしないで欲しい。
 自分の出来る限りで、彼女達を──
「私が、シヅルさん達を……支えますから」
 その言葉を背に感じて、熾弦は淡く微笑んだ。
「無茶はきっと、お互い様です。それに……信じてますから」
「信じる?」
「ええ。……ファティナさん達が数を減らし状況を打開してくれると」
 そう、信じてる。
 それが行われる、その時を。


 そして、その時は訪れた。


「子供は確保した、遠慮はいらん、盛大にやれ」

 その瞬間を待っていた!
 遙か頭上から聞こえた絃也の声に、全員が反応した。
「一息にいきます!」
 ファティナが即座に紅蓮の炎を生み出す。全力をもって形成された巨大な火球が台の右方中心──台を直撃から外す形──に展開した!
「さて、余計な攻撃をする者は眠ってもらおう。残念ながら、目覚めを告げる春は二度と訪れたりしないだろうが」
 その爆撃に、未だに眠っていた蛇も身を起こす。だがそこへ笹緒の魔法が炸裂した。永遠の眠りにつかせるために。
 同時にユウもまた、毒息を吐き出そうとする蛇の頭を撃ち抜く。
(私は、本能を、超越できただろうか……?)
 何者かが自分達を試しているように、自分もまた己に対して問いを放った。
 超越できるのか、と。
 その答えは、自分ではまだ分からないけれど。
「さぁ、そろそろお開きにしようぜ!」
「子供達は返してもらいます」
 玲治の戦槌が蛇を叩き潰し、熾弦の斧槍が炎に炙られてなお牙を剥く敵を薙ぎ払った。
 その様子を絃也は声と気配だけで感じ取っていた。
 腕の中には泣きながら縋りついてくる子供達。彼等を抱えて地表など見下ろせるはずもない。無論、この状態で戦場に戻ることは出来なかった。だが、
 プンッ、と、子供達の耳に何かの音が聞こえた。強く張った糸を弾いたような音だ。
 子供達を広い胸板に縋り付かせたまま、絃也は上半身を捻って背後にチタンワイヤーを放っていた。
 その一撃で、密やかに忍び寄っていた最後の敵が絶命する。
 冷ややかに見やり、絃也は呟いた。
「宴は終わりだ」





「ふんむむむむ〜」
「……レックス。レックス」
「むぅむむ〜。全部倒されてしまったのであるー」
「レックス。私が今そこはかとなく落ちそうなのですが」
 興奮のあまり前のめりでガン見しているレックスの背中、むしろでかい頭のでっぱりに張り付いていたクラウンは、熱中しすぎる友人にそっと声をかけた。
 レックスは上向きながら「むっ?」と声をあげる。
「クラウンー。我輩、またクラウンに負けてしまったのであるー」
「ええ。彼等が勝ちましたね。……レックス。だから前のめりになりすぎると私が……」
 器用に四本足で鉄柵の上に立った状態で、レックスは曲芸のような前のめり。背のクラウンが素早くその頭部に張り付いて落下を防いだ。
 ……いや、別に防がなくても自力でどうとでも出来るのだが。なんとなく。
 この騎乗ポジション、実はふたりのお気に入りだったりする。
「とりあえずそこに降りませんか。地上から丸見えなわけですし」
「分かったであるー」
 そこ、と屋上を指し示されて、レックスは素直に屋上へと降り立った。それでも撃退士達のいる方向が気になるらしく、柵が曲がるほどに顔面を押しつけて彼方に視線を向ける。
「むー。奴等が勝ちおったのである……」
 未だに何かしらの未練があるのか、鼻に皺を寄せてぐぎぎぎぎ。
 がぽっ。
「ふふふ。二回とも私の勝ちでしたね」
「うぅむむむむ〜っ。クラウンも勝ちおったのである!」
 背後でバシーンバシーンと立派な尻尾が屋上を叩いている。無意識なのだろうが、一撃毎に殴打部分が陥没していた。
「クラウンの大穴は油断ならぬのである!」
 顔を引っ込め──柵が異音をたてて屋上から分離した──レックスはその場でぐるぐると回った。
「これこそが、賭けの醍醐味ですよ」
「悔しいのである!」
「ふふふ。次に勝てばいいではありませんか」
「次は絶対勝つのであるっ」
 てしてし屋上を前脚で叩くレックスの鼻の部分、はまりこんでいる柵の一部をひょいと引きはがして、クラウンは笑んだ。
「ところで、レックス。……もう、気分は良くなりましたか?」
 そっと頭の上に置かれた掌に自身の頭を擦りつけ、レックスは目を細めた。
「……思うことは色々とあるのである。……だが、あの者達は同種を見捨てはしなかった。我輩、それを忘れないのである」
 そう。彼等は幼子を助けた。
 小さな命を自分の命すら危ういかもしれない場所に晒しても。

 ……では、あのもっと小さな生き物達は……?

(ふむー。人が同種(人)を助けて、あの犬猫(別種)を食べもしないのに平気で殺すのならば……我輩、悪魔として別種(人の子)をどれだけ食べても全然構わないと、人の世界が認めているとも言えるのであるー)
 他種に対しての無関心を人間が行っているのなら、当然、自分達がそうされても文句は言えないはず。
 そう結論つけつつ、レックスは「むむ?」と途中で首を傾げた。
「いや……他種となればどうであるか、は」
 まだそれは試していない。
「むむむ。ならば……いや、しかし……または、同種であっても別の内容であれば、果たして……」
「ふふふ。疑問は尽きないのですね」
「である。……ふむー。人間とはまこと興味深き生き物なのであるな?」
 むふー、と息を吐くレックスの頭をこりこりと掻いてやって、クラウンは薄く笑った。
 嬉しげに、楽しげに、冷徹な瞳に深い笑みをたたえて。
「では、しばらく愉しみましょう。時が至る、その瞬間までは」
「うむー!」
「ここも楽しくなりますよ。そう……今よりももっと、ね」
 クラウンの笑みは深く、その口は白い面に浮かんだ亀裂のよう。
「やがて来たる時、来たる場所で、私達は最高の舞台を見るのです。ふふふ。今からその時が楽しみではありませんか……!」





「ひどい状態です……」
「そちらも相当、無理をされたみたいですね」
 子供を抱えて降りてきた絃也に、熾弦とファティナが微苦笑を浮かべる。
 巣を守ろうとする蛇の猛攻にさらされた絃也の腕は、ところどころ斑模様になっていた。
「毒が消えれば消えるみたいですが……刺青のようですね」
 その様子に笹緒も客観的に呟いた。
「蛇に噛まれて蛇紋が浮かぶ、というのは、どうにもゾッとしないな」
「そう思う、なら、毒、直したほうが、いい。治療、大切」
 実は毒にかかっているのがバレていたらしい。ちゃんと観察して気付いていたユウの声に、笹緒は着ぐるみの頭を掻く。
「ふむ。では、頼もう。……順番待ちではあるが」
 そんな二人の傍らで、ハンマーを肩に担ぎ直しながら玲治は一息つく。
「当分、爬虫類系の敵は腹一杯だな……」
 プール上に散らばる蛇の死体は、あまり直視したくない光景でもあった。
(……命を秤にかけるような、試し……。この命題を私達に投げた相手は、この結末をどう受け止めたのでしょう)
 助かった子供達を眺め、熾弦は思いを馳せる。
(……人は命に差をつけ、無益な殺生を冒す事もある)
 悪魔が何を考えてこれを仕組んだのかは分からない。
 この結果に何を思ったのか、も。
 満足したのか、しなかったのか。
 それすらも、今は謎に包まれてはいるが──
(……それは事実。……それを止められない力不足も認めましょう。しかし、だからと見限る事もしません)
 熾弦は彼方へと視線を馳せる。
 心の中で、何かの答えを口ずさみながら。

(それは……結局命の価値に差をつける事です)





 声が聞こえる。
 今もずっと響いている鳴き声。
 助けて、と。
 生きたい、と。
 死にたくない、と。そう叫ぶ命の声。
 食べる相手であれば躊躇しない。遊ぶ相手であっても。
 けれど、アレはソレとは違う。
 あまりにも小さくて、人間にすらも取るに足らないと知らん顔されている命。

 ただ、生きたいと願い、

 ただ、殺されるだけの──

「レックス?」
 ふと彼方を見たレックスに、クラウンはその頭にそっと手を乗せる。大好きな友達の掌の感触に、レックスは「うむー」と大きな頭を横に振った。
「なんでもないのであるー」
 そうして走り出す。
 己の本能のままに。次の遊戯の場所を求めて。
 その背の遙か彼方、悲しい悲鳴は、今も続いている。
 いつものように。絶え間なく。


 ──永遠に?





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・神月 熾弦(ja0358)
 厳山のごとく・獅童 絃也 (ja0694)
重体: −
面白かった!:8人

撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
運命の詠み手・
羽空 ユウ(jb0015)

大学部4年167組 女 ダアト