……どうしてこうなった……
大地に両手両膝をつき、数名の参加者が撃沈した。
「それにしても、何とも助け甲斐の無い囚われのお姫様ですね……」
そんな彼(?)等の姿に気づかずファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)は頬に手をあてて嘆息をつく。
(どうせならシヅルさんかアトリさんがいいのに)
シチュ萌えの何たるかについて小一時間話したいココロである。
「しかし、性別が逆の服なのですね……」
首を傾げる神月熾弦(
ja0358)は、藤色に近い薄紫の胸甲騎兵姿となっている。
「……男の人の服も、いいかもしれない」
色違いの同じ衣装である橋場 アトリアーナ(
ja1403)も、青の騎兵服に満足そうな吐息を零す。普段のふわふわとした服との違いがなかなかに楽しい。同じく光沢のある白を基色としたファティナと三人揃えば、それだけで一枚の絵のようだ。
「救出依頼と聞いてきたんだがな……ゲームとは聞いていない」
苦笑しつつ自身の服を見下ろした大炊御門菫(
ja0436)は、一風変わった和の装い。男物になっていることには驚いたが、自身の知らない衣装ではなかったことに少しだけ胸をなで下ろした。
「嫌な予感がする。……菫、気を付けて」
瞳と同じ青色のジェストコールを纏い、新井司(
ja6034)は菫に声をかけた。フィールドはメルヘンな光景だが先程から妙な予感を覚えてならない。
(……いざとなったら、私が庇う)
英雄とは何か。ふと心をよぎるのは、幼い頃からかけられ、自身も目指していた目標たるもの。けれどそれがどのようなものなのか、はっきりと像を結ぶことは難しく、その定義は多岐にわたりすぎていて確定もまた難しい。
それでも、常に問い、答えを求め、そして追い求める中で自ら体現させていく。
例えば、誰かを救うために自身の全てを賭すように。
「‥‥時代考証よりも、イメージ重視な衣装設定と見た」
ベストにトランク・ホーズ、キャスケットと、どこか探偵助手に近い姿のユウ(
ja0591)が二人の後ろでそう読み解く。
「電脳世界、楽しそうだねっ!」
負傷により体が上手く動かず退屈していた氷月はくあ(
ja0811)は、現実世界とは異なる電脳世界にうきうきと叫んだ。しかし、
「うっく、動きが悪い気が……って、体調も反映されてる……」
ちょっとリアルを求めすぎました☆
はくあのHPゲージはすでに半分きっている。わりと敵の攻撃を一発喰らったらアウトな状態だ。
(でも、昔のゲームはそういうのが多いし、大丈夫やれるっ)
某蝙蝠のうんち爆弾で即死するゲームですね分かります☆
(それにしても、個体データ反映時の異音と現状をみるに、バグが発生してるのは確かだよね)
地面にめり込みそうな勢いで沈んでいる一軍を目の端に捉え、はくあは軽くバグ探しやシステム構成を予想する。
なにやら妙な違和感を随所に感じるのだが、さて、これはいったい何なのか。
「ゲームとか面白そうなんだぜ…!」
「フフ。楽しそうだな……!」
そんなはくあの傍ら、握り拳で瞳を輝かせる七種戒(
ja1267)とギィネシアヌ(
ja5565)の服の基色は黒。
漆黒のジェストコールに黒い提督帽を着用した戒は、プレイベーティアにおける女海賊頭領のよう。凛とした美貌と相まって、男装の麗人という表現が実に相応しい佇まいとなっていた。
二十分後、七色の奇跡が起こるまでは、だが。
一方のギィネシアヌは黒の紳士スタイル。シルクハットにステッキと、非の打ち所のない『紳士』なのだが、背中に負った冷刀マグロがぬーんと異様な存在感を発している。
「ゲームとは楽しそうなのじゃ!この澪がクリアしてやるのじゃ!」
腕を組んで仁王立ちする奈浪澪(
ja5524)は、可愛らしい神官服を纏っている。強がって言う言葉とは裏腹に、初めての依頼による緊張で体が少し震えていた。
だがそれを振り払うように、裾を払ってビシィッ! と城の方へ指を突きつける。
「先生に恩を売って、澪の名声を高めるのじゃ!」
あっ。すみませんっ。カメラこっちです!
「これは夢なのだ、これは夢なのだ、これは夢なのだ……」
澪の隣で、アリシア・リースロット(
jb0878)は、随所に意匠を凝らした鎖帷子に華麗な紋章入りのサーコート姿のまま胡乱な目で呟いていた。服装はともかく、彼女が動揺しているその要因は、
手に持ったネギとナベの蓋にあった。
……あれ? 他の人、武器は普通にいつも通りだよね?
(どうして……鍋蓋と葱に……)
無論、そう見えるだけで実際は別物なのだが、どうもバグは変な所で影響しているらしい。若干、現実逃避気味になりつつ、アリシアは据わった目を城へと向けた。
(……とりあえず、『まおう』シバく)
「袖口のレースがすっごく綺麗なのです☆」
そんなアリシアの近くで羊山ユキ(
ja0322)は嬉しそうに微笑んでいた。彼女の纏う衣装は、白を基調とした王子様ルック。金糸の縫い取りも美しいトランク・ホーズからは、白タイツに包まれた美脚がのぞいている。
「まぁ、武器さえいつも通りならなんとでもなるよ」
アリシアの葱に一瞬驚いたものの、自身の武器が無事に具現化することを確認して、神喰茜(
ja0200)はあえて明るい声をあげた。
「色々あれだけど内容自体は結構マトモそうだよね」
深紅のジェストコール姿が実に凛々しく美しい。
「せっかくだから楽しもうよ」
にこっと笑顔を向けつつ、つぃーっと打ち拉がれている男性陣から目を逸らした。
(男性陣はご愁傷様だけど……私には影響ないから良しとしよう、うん)
彼女が視線をそらした場所。その方向は、なにやらそこだけ明度を失ったかのように暗い。
衣装は華やかなのに。
(面白いゲームを体験できると聞いて参加したら……服が変化!? 聞いてないのです! 誰得なのですかー!)
全力で突っ伏してるカーディス=キャットフィールド(
ja7927)の衣装はピンクぃくの一装束。嗚呼むきだしの上腕二頭筋。ざっくり大きく開かれた脇と胸元からお約束のようにさらしがチラッ。おまけに引き締まった太股が丸出しな所をみると下肢はズボンというより、おっとここから先はトップシークレットだ!
(……あぁ……知ってるぞ……こういうのは慌てた方が駄目なんだ……)
カーディスの隣で強羅龍仁(
ja8161)は無我の境地に達した目になっている。嗚呼! なんということでしょう。引き締まった鋼のような体躯を包むのはドピンクなフリルドレス。純白のサイハイソックスとヘッドドレスも可憐の一言。おまけに何をどうしたことかミニスカ仕様だ! ヤッタネ! 絶対領域きたよ!
もちろん、死ぬほど恥ずかしい。ちょっと開発、そこへ直れ。
(……なんで女装なんですか? え、だって人助けって聞いてますよ?)
常の冷静さが絶望的な現状に揺らいでいる。全身を包む黒い外套で衣服を隠した石田神楽(
ja4485)の表情は、俯いているせいで他者からは見えなかった。
ややも混乱から立ち直った時には常の笑顔を取り戻しているが、若干顔色は今も悪い。
「似合うからえぇやん」
唯一その衣装を(偶然にも)見ていた恋人である宇田川千鶴(
ja1613)は鎖帷子を内に入れた忍者服。口を覆う黒布に黒頭巾付きの本格版だ。
「……そもそも、詳細を確認せず来てしまったのが運の尽きですか……」
お世話になってる鎹先生が困ってる!
半泣きの雅の元に駆けつけた千鶴の勢いに引っ張られた神楽は、空虚な笑みで明後日の方向を向いた。
鎹先生。あとでちょっとお話が(
そんな思念を受け取ったのか、大画面モニターの向こうで雅が体を震わせていた。
ちなみに現在、彼等の様子はプレイ上映会として大好評公開中である。
「……何で……女装なんだ……」
魂と一緒に力も抜けたかもしれない。
大画面の中、がっくりと地面になついてしまっている柊夜鈴(
ja1014)が纏うのは何故か大山脈の某少女を思い出させるめるふぇんな民族衣装。orzポーズのせいでチラリと覗くふくらはぎが色んな意味で目に眩しい。
地面にめりこみかけている夜鈴の傍ら、服装を全く気にしていない猛者がいた。
「ふふっ、女装でも変わりはないさ、僕の眼鏡の知的さはね」
キラリと光る眼鏡。その名はクインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)。
肉の体に纏うのはフリル増量のゴシックドレス。ややロリータ風味なそれが秀麗な顔立ちによく似合ってしまっているのだが問題はソコじゃない。
ドレス、眼鏡もぐれとなっている。
むしろドレスが眼鏡か眼鏡のドレスか、もう全身眼鏡でいいじゃないか、それほどに眼鏡を装備した彼が歩くたびに眼鏡達が歌うように音を響かせる。えらく斬新なドレスに公開画面を見た一部の観客が開発員を見やるが開発も首を傾げていた。
をい、待て。バグか。そこもバグなのか。
そして服装を気にしない猛者は他にもいた。
「おー!俺ゲームの中に入ったんだぞー!!」
ドレスのラフが水兵カラーになっている、そんな部分バグ衣装を纏う彪姫千代(
jb0742)だが、ファージンゲールで腰元を膨らませているドレスのせいで肉肉しい肉体が綺麗に封入。体格が地味に分からない。
「おー!俺女の子になったぞー!!」
大丈夫だ! 服装だけで君は今もヲトコノコだ!
「スースーしてるぞー!!ウシシシ!楽しいな!!」
ちなみにドレスだからスースーです。ドレスだからスースーです。大事な事なので二度言いました!
下着については考えない。先生と皆のお約束だ!
「やぁ〜ん、この機械あたしの趣味よ〜く分かってるじゃな〜い♪」
明るい声は隣からも。肘を境に二つのふくらみを持った袖ヴィラーゴ・スリーブが特徴的なドレスの御堂龍太(
jb0849)。何故か着こなし度MAXだ。
(あたしの場合、ちゃんと女の服装になるかビミョ〜だったんだけど、やるじゃないの〜♪)
レースをふんだんに使用したドレスの基色は深い紫。ボリュームのあるドレスのせいでこちらの体格もやはり隠れてしまっている。
(それにしても、カワイイ男の子が女装してるなんて…ここは天国!? カワイコちゃんには、絶対に指一本触れさせないわよ!)
レディ・ジェントル龍太の魂が熱く燃えていた。
そんな龍太の隣には彼曰くカワイコちゃん(男)が居る。
普段は冷静である神棟星嵐(
jb1397)の衣装は絹サテンと薄絹で作られたシュミーズ・ドレス。古代の帝国を模して作られた衣装の特徴はその薄さにある。
体のライン。バッチリだ。
(この危機を乗り越え、道を切り開く手は……何か、何か!)
星嵐、どうやら機械のバグか何かしらの原因で心に複雑な影響が出てしまっているらしい。表面上は冷静なのだが目がかなり切羽詰まっている。
星嵐が精神的危機状況に陥っている中、綿貫由太郎(
ja3564)は遠くに見える城に思いを馳せていた。
(囚われのぱつぱつおっさん笑えない立場なんだよなあ、俺もおっさんだから)
そんな由太郎の衣装は女王様の如きクリノリン・スタイル。広がったドレスがわっさわっさと動作にあわせて踊っている。
(まああんま気にしない事にしとこう、サングラス無事なら顔は隠れるだろ)
そして目元を隠すサングラス──は具現されなかったようだが何のバグか夜会マスクが付与されていた。
あれ? 普通に夜会レディになってしまったよ?
(それにしても男女逆服とか……開発陣に腐ったのが居るんかね?)
よくお分かりで。
その腐魂大全開を余すところ無く押しつけられた人物が一人。
星杜焔(
ja5378)。只今ホワイトドレスに胸装甲という、戦乙女にも似た姫将軍スタイルだ。
(見苦しくない(?)衣装で助かった……)
露出の乏しい衣装に胸をなで下ろすが、甘い! 古今東西戦乙女系主人公の一般的でない方のゲームといえばアレでソレなえろいものと相場が……おっと誰か来たようだ。
「ゲームクリアの条件はシンプルだから、皆で進めばなんとかなるよね」
落ち込んでいる人達の気持ちを奮い立たせるため、そっと焔は声をかけた。
その瞬間、
「ぬ…貴様もいたのか、星杜!」
「ラグナさん……!?」
只今絶賛喧嘩中、実は一方的憎悪宣言中のラグナ・グラウシード(
ja3538)は、その相手、焔の姿に表情を険しくする。相手が可憐な女装姿だろうが自分が無敵な女戦士の鉄板【ビキニアーマー】になっていていろいろ厳しい見た目だろうがそんなの関係ない!
嗚呼! ご覧下さい!
大画面のメインにクローズアップされた全身図と、左右三画面に各アングルからの部分アップを特別公開されたその勇姿を!
※なお、公開画面は電脳画像のため一部危険な部位のみリアルと異なる表現がされております。お察し下さい。
「ふん、目障りだ…先に貴様を始末してやる!」
そんなA☆BU☆NA☆I戦士ラグナは、気づいた由太郎が制止をかけるよりも早く行動に出る。瞬時に具現化されたヒモテハンダー(違う!)もといツヴァイハンダーが彼の本来持っていた(はずの)モテ力と引き替えに色んな力を引き上げる!
「喰らえッ!」
飛び掛かるラグナ。息を呑む焔。
そして伝説が始まった。
●
「茸が出た!」
味方に対して襲いかかったラグナの一刀は、あろうことかブロックを破壊した。どのみち破壊対象だから無問題。しかし問題は中からぽょんっと飛び出した茸にあった。
「ちっ……外したか……!」
鬼がいる!
怒りのままに舌打ちするラグナの頭上から降る茸。茶色。
「ラグナさん、茸が……!」
妙に嫌な予感がするデフォルメ茸に焔が警告を発し──
むんむんむん♪(効果音)
むっしゅひげがはえました
「ラグナさんーっ!?」
一部大人に変身したビキニ鎧騎士に焔、愕然。その様子に、ふんっとラグナは鼻で笑う。ムッシュな髭が鼻息にそよいだ。
「今更言い逃れは聞かないぞ!」
いや、言い逃れとかでなく、ムッシュ! ムッシュ!
「茸って、ボーナスアイテムじゃないんだ……?」
その様子に茜が唖然と声をあげる。
どうしよう。城に進むためにはブロック壊さないといけないのに。いや待て、もしかすると何らかのバグで茶茸だけがおかしくなっている可能性もなきにしもあらず!
「迷ってちゃ進めない……行くよっ」
茜、走った。蛍丸を握り、進路を塞ぐブロックへを打ち壊す!
むんむんむん♪
しかくこうか が かわりました
「は……? えぇ!?」
凄まじい勢いで茜のジェストコールが霧散した。後に残ったのはラグナと似たり寄ったりの部分布のみ。
「桃茸ェ!」
ぴんくなきのこ。流石のぴんく。
「! 見て、何かこっちに向かって来る!」
「敵だな」
「まぁ、ブロックを壊すだけのゲームでは無いわよね」
ユキの声に菫と司が即座に身構えた。ブロックで城へのルートは塞がれているがどうやって現れた? あっ! 天魔は透過能力があったよね!
はくあは一瞬そう結論つけたが、違った。
(ん?)
違和感にふと顔を上げると、斜め前方、空に近いブロックの上にぽとん、と、まるまっちぃ甲虫が落ちてきた。
「空から、敵が」
「敵出現ポイント、というわけだな」
葱を構え、アリシアがキリッとした顔で呟く。シリアスな表情なのに葱と鍋蓋(元に戻らない)が色々と台無しだ。
「ここで立っていても仕方ない。腹をくくって出るか」
「しかし、ブロックを壊さないことにはそこにもたどり着けないね。……菫、茸には気をつけて」
「多少の変化ぐらい、構わない。出来ればブロックを踏み台にして上から移動してみたいな」
槍を構えた菫は、そう呟くと同時に走った。上からブロックを伝って移動してくる敵はまだ遠い。だが地表にはころころと転がってくる丸い団子のような虫の姿がある!
「散らす」
低く呟き、繰り出す菫の一撃と司の鉄拳が同時に唸りをあげた!
「続きます!」
出始めた敵の姿にファティナも召炎霊符を具現化させる。熾弦とアトリアーナが駆けた。
(私が前に出ればお2人は守れるという事ですね)
もそもそ近づく甲虫に狙いを定め、熾弦は心の中で独り言つ。
(大切な友人に手を出させるわけにはいきません)
放った斧槍の一撃が甲虫を吹き飛ばし、奥から連続でやって来ていた丸い団子虫を屠るべくアトリアーナは武器を
持って来忘れた☆
「緊急召喚!」
困った時の携帯品☆ アームドリルが何故かそこで槌に変じる。バグったな!?
「上空注意を!」
団子虫をホームランしたアトリアーナの頭上、針を飛ばすべく尻を向けたはちにファティナは火の玉を飛ばした。直撃したはちが炎にまかれながら消滅する。
「紳士様方(※女性陣)に任せっぱなしというわけにもいきませんわ……ってなんで言葉が強制変換されている!?」
バグ。ところどころで発生するもよう。淑女な龍仁、顔を覆いかけて止まった。
「カーディス……何をしてるのかな?」
えがお。
「…!? ゴウラサンワタシハナニモシテオリマセンヨ」
電脳世界にデジカメ持参できないか。ぱたぱたとお色気服を叩いて探していたカーディスは、邪念受信した龍仁のニコリに震える。
「そうか。何もしようとしてないか。じゃあ、俺はこれからブロックを壊して最短距離で城に行ってまおう倒して一刻も早く現実世界に帰りたいんだが……勿論、手伝ってくれるよな?」
「モ、モチロンオテヅタイサセテイタダキマス」
えがおの迫力に圧され、カクカクとカーディスは頷く。その様に頷いて、龍仁は魔法を練り上げた。
「一気に穴を空ける……!」
戦場からやや離れた進行方向に向かい、龍仁はそれを解き放った!
広範囲殲滅型魔法──コメットを!
「あらん。茸大放出」
先陣で太刀を振るう龍太が思わず呟いた。
茸が雨のように降り注ぐ。
むんむんむん♪
むっしゅひげがはえました
あふろになりました
からだがちいさくなりました
HPが5かいふくしました
ふくだけちぢみました
しかくこうか が かわりました
「「ぁあああああッ」」
ちんまりしたむっしゅであふろなパツパツ服の布そのものが少なくなった龍仁とカーディス、二人して地面に沈んだ。OH!
「一気に茸の効果が分かりましたね」
「にしても、面白いというか変わったキノコが出てくるんですね。良い効果もあれば悪い効果もあるようですけど」
ファティナと熾弦が呟いた。とりあえず緑茸は良い効果らしい。後のはどうあがいてもアレだが。
「身を賭して効果を知らしめた意気を忘れない。……ボクたちで魔王を倒す」
アトリアーナが凛々しく宣言する。そうして歩き出した途端、青茸が上から降ってきた。
「か、可愛い……!」
ファティナ、思わず本音の感想が漏れた。
(元々可愛いのにさらに小さくなるとか……! これスクリーンショットとか出来ません?!)
神業のような速度でちみっちょい体をGET。胸に抱えたアトリアーナのミニマム姿にファティナのトキメキが留まることを知らない!
「……ふかくです」
呟くアトリアーナの言葉もまるまっちぃ。
「これは……可愛らしいです」
熾弦も思わず呟いてしまった。
「……あの茸、近くにいる者に必ず当たるようになってるんでしょうか……?」
遠方からブロックを破壊しようとした神楽は、大暴れする他一同の手で放出された茸の軌道に唖然と呟いた。放物線を描く茸、何故か皆の頭上に過たず落ちている。
「偶然やろ。それより、私達も続かな。後方にいるのも危険かもしれん」
そう呟いた千鶴は視線を自分達の後方へと向ける。同じ方向を見つめ、神楽は目を細めた。
「……あれは」
黒い物体が見えた。じりじりとこちらへ近づいてきている。
「いつの間にかあんなに近くまでて来てる。……どうも嫌な気配がするんよ。アレには関わらんほうがええかもしれん」
無理矢理画面を移動させる装置のような、得体の知れない圧迫感を感じ、後方支援組が移動を開始した。前衛達はすでにそれなりの歩を進めている。
「上から行く。……降りるブロック壊さないでいてくれ」
「善処はするわ」
最短ルートを駆けるべく大真面目に告げる菫に、これまた大真面目で茜が答える。
善処はする。だが現状、敵もブロックも吹っ飛ばしていく皆の勢いが止まらない。
「まぁ、壊れた時は壊れた時だ」
菫、司とともにブロックを駆け上がった。
「! 菫、危ないっ」
上に行くのを阻むためか、微妙に嫌な位置にあるブロックを破壊した途端茸が出た。
ぴんく。
「前へ急いで」
あ、と思う前に司が菫を危険地区から押し出す。
「司っ」
即座に効果が発動する。だが司、怯まない!
(服が縮む?布地が減る?胸無いからお茶の間沸かないよ……!)
すみません。今、公開画面前が大フィーバーです。
「む、む…とにかく敵を見つけたら攻撃なのじゃ!」
大暴れする前衛陣に続く形で澪も走った。実践は初めてな澪、近づく敵にとにかく魔法を解き放つ。
(ブロック撃ってキノコも避けて……たまーに誰かの援護とかしときゃいいよな?)
続く由太郎が同時に銃弾を放った。合わさって光り輝く弾丸と化した一撃に防御力に秀でる団子虫が吹っ飛ぶ。
その時、ふいにフィールドの一カ所に光が灯った。
「……何か来る」
ユウが呟き、構える。
だいてんし るす があらわれた
「可愛いぃいいッ!」
「むきゅ!」
ユキが神速でそのちみっちょい体を抱きしめた。るす、第一声が悲鳴である。
「るす、だと?」
龍仁が目を丸くした。かつてレヴィという使徒の存在が確認された時、同時に密かに名前が挙がっていた大天使。だが直接目にした者はほとんどいない相手だ。
この時、三つのことが同時に起こった。
「ああ、まちがったー」
一旦敵との戦闘に頭を切り換えたかに見えたラグナが棒読み台詞で焔に斬りかかり
「シューティングはお手の物なのですよっ」
遠くの敵を打ち抜いてはくあが胸を張り
「あかん! その天使が居るってことは、つまり」
ある事に気づいた千鶴がそちらに行こうとした神楽の首根っこを捕まえた。
その上から降ってきた赤茸に気付けなかったのは誰の責任でも無いだろう。なにせ周りに黄色や茶色の茸が飛び交っているのだから。
結果、かろうじて回避した千鶴以外の四名に茸がHITした。
むんむんむん♪
にんしんはちかげつになりました
「「「ぇええええええ!?」」」
くらった本人でなく周りが叫ぶ。
「ふぇっ、何か増えたっ!?」
確かに増えたが外見上他、変わらない。強いて言えば移動力が激減したくらいか。
「……後方、下がっとき、な?」
焔と共に地面に沈没した神楽に千鶴がそっと声をかける。ラグナも流石に攻撃を止めた。
しかし困った。にんぷ()を前線には置けない。るすを抱えたユキと四人が後方に移動。
その刹那、新手が現れた。
バグ れびぃ があらわれた
「バグかい!」
「美形ぃいッ!」
戒と龍太が同時に叫んだ。現れたのは銀髪の超絶美形。しかも後方に避難した五人の真横に出現しやがった!
「なんでそこに!?」
千鶴が叫んで神楽を助けるべく走る。神楽、現れたれびぃに鋭い眼差しで言った。
「……何故貴方だけ女装では無いのですか……!」
えっ!? そこ大事!?
「その前にどうしてそいつだけ八頭身!?」
夜鈴も慌てて声をあげる。だいてんしのるすも現在二頭身状態。大きな瞳をぱちくりさせる美幼女天使に一度視線を向け、れびぃは間近の五名のうち四名を特に見つめてから首を傾げた。
「……何故、こんな所に」
こっちの台詞や!
駆け寄る途中だった千鶴が思わず顔を覆った。
「そのお体で無理をされることは薦めませんが」
しかもにんぷ()が気遣われている!
「えぇと、ユキは傷つくのも傷つけるのも嫌なので…話し合いましょう☆」
にんぷ効果で初期戦闘が一切発生しない現状に希望を見いだし、ユキが果敢に交渉を開始する。腕の中の美幼女天使が短い手でぴったんぴったんユキの腕を叩いた。
「人間、話せばわかるものなのですよ? お友達の印に、お菓子をおすそ分けなのです♪痛いのは…誰だって一緒なのです。ユキはみんな仲良くできると思うのです☆」
はい、と何処からともなく取り出した飴とチョコに、無言で受け取りつつれびぃが無表情のままコクリ。曲がりなりにも元データが使徒のれびぃが圧されているのは、おそらく間近にいる四人のにんぷ()の効果だろう。
結果、れびぃ、るす共にユキの傍らに留まることとなった。
「‥‥早くクリアしないと、精神的な意味で強制終了しそう」
周囲の状況を冷静に判断し、ユウは呟いた。すでに半数以上がアレな茸の被害者だ。
「ならば、ここが輝く時!」
ばさぁっ! と銀髪を靡かせてギィネシアヌが飛び出した。
「退けぇっ!」
「‥‥仲間シールド」
茶の茸がギィネシアヌに吸い込まれた。
「どかーんどかーん!楽しいぞー!!」
「‥‥その辺の人バリアー」
茶の茸が千代の体に吸い込まれた。
「眼鏡の輝きにひれ伏すといい!」
「‥‥えーと‥とりあえず身代わり」
茶の茸が眼鏡に吸い込まれた。
「ユウーッ!」
「‥‥分かった。戦う」
「そっちじゃねぇえええッ!」
ふわんふわんのムッシュ髭付きギィネシアヌが顔を覆う。魔性の言葉「みかたをたてに」を発動させたユウ、現在無茸取得状態で驀進中だ。
「くっ、鼻髭付き眼鏡とは屈辱的な(だがそれが良い!)」
クインの本tもとい眼鏡、ムッシュ状態でキラリと光った。ポジティブだな!
「キ、キノコなど怖くないのじゃ!」
「カワイコちゃんに手出しさせないわっ」
その向こうで澪と龍太が必死にブロックや敵を壊しながら進んでいく。
「前に出たらあかん。こんな時ぐらい私が守ったる!」
落ち込んでいても仕方がない。不屈の精神で戦場に立つ神楽を案じて千鶴がワイヤーを振るう。神楽に向かって飛んできた茸がポイポイと空中で振り分けられた。
「ちょ、待て、何でコレばっかだね!?」
自身の攻撃はおろか他の攻撃やら何やらでも飛んできた虹と茶茸に戒が叫ぶ。必死に回避するもさすがに数が多かった!
「なんかキターーー!?」
七色の光が炸裂した。
「ミュージックぅスタァァト!! 」
輝きと同時に戒の衣装が八十年代男性アイドルのそれと化す!
アフロとヒゲがどんな相乗効果をかもし出したのか、湧き上がる衝動が全身を駆け抜け、同時にBGMが変化した。
「HIGE……ダンス!」
女装なぅだけどゲームの中だし頑張る!頑張るんだ!で必死に戦っていた夜鈴、その光景に目を瞠る。
動き止まったらいい的でした☆
「アーッ!」
虹と茶茸が炸裂した。
「あのひげ楽しそうだぞ!!俺もやるぞー!」
すでにヒゲは発生済。気付かず走った千代の上に降る虹茸。
「アフロとヒゲって、これ…あたしが付けたらただのオッサ(ry 」
アフロヘアーに愕然と言いかけた途端、無事だった龍太の顔がウィムッシュ!
「アフロ…眼鏡光線と良く似合うなっ!」
「ズンチャ…ズンチャ…フフフフ」
既に魂が解放されているクインとギィネシアヌがリズミカルに踊り、戒に続く。
「ま、待って、そこの茸待っ」
アリシア、避ける間もなく虹と茶茸に襲撃された。
「……壮絶だな」
「ブロック……壊し過ぎたかな」
「すごい光景になりましたね……」
由太郎、焔、神楽がその様子に茫然と呟く。
一斉に踊りながら爆走し始めた七色に光るHIGEダンサーズ。凄まじい速度で残りの道を踏破し城の扉を蹴破った。
城、即、玉座の間。
「城一室!?」
速攻まおうに特攻する人達の背を追いかけ、焔が外と中の違いに顔を覆った。
「虫籠…また、可愛らしい姿になってるな…」
「なんてまるまっちぃ……」
龍仁とカーディスがユキに抱っこされた状態でorz。
そんな中、八人のHIGEダンサーズがまおうへと走った!
そして特撮さながらにポーズをとる!
星嵐の声が開始を告げた!
「選ばれし光の勇者!」
ばーん!
「魅力溢れる眼鏡を一つあげると仲間になると信じ!」
どーん!
「此処に、推参!」
ズギャーン!
「撃退士は、歯がイノチッ!」
キラッ!
・・・・
<黒針>
「「「「「「「「ぎゃああああッ!」」」」」」」」
無表情で放たれた広範囲攻撃に八人、まとめて吹っ飛んだ。
「ポーズしてないで叩こうよ!?」
茜が至極まともな意見を叫ぶ。
「ふっ! これぐらいじゃ僕の眼鏡は」
あ。立ち上がった。
しかしよろけた瞬間、クインの髭眼鏡がぽろり。そこによろけた戒の足が乗った!
パリーンッ……
めがねが かなしいおとをたてて くだけちった
「ァー…‥ッ」
「いや待ってソコ眼鏡が本体ぃいい!?」
ゲームオーバーとなったクインに戒が叫ぶ。
「俺のせくしぃポーズが効かないなんてやるなぁ!」
「あんたなかなかいいセンいってたわよ!?」
そこの千代と龍太! 帰ってこい!
「フフフ…アフロになるかマグロのサビになるか選ばせてやるぜ…!」
アフロに針が刺さった針ギィネシアヌとアリシアがモウナニモコワクナイ状態でまおうに再度突撃。
「全力でかかるよ!」
個別で特攻すれば危険。判断した茜の声に、合流した菫が司と共に走った。結局桃茸に襲われた菫、布を調整して下着こそ隠したもの走る動きにあわせて引き締まった白く目映い内腿がちらっちらっ!
(よくも菫をヨゴレに……っ)
司、怒りのゲージがMAXだ。
「さて、この一撃に全力を込めようか」
由太郎が銃を構え、最後だからいいでしょう? と神楽も銃を構えてメッされる。
全員がそれぞれの武器を手に最後の一撃を放つがめに走った!
銃弾が、斬撃が、炎が、白光が、拳が、葱が、込められたアウルと共に炸裂する。合わさった巨大な力が金の龍に似た姿を模した!
「さっさとお前倒して俺は帰る!こんなところにいられるかーっ!」
夜鈴の渾身の叫びが全フィールドに響き渡った。
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後日、クリア直後に謎の爆発にみまわれた筐体は、復旧の術もなく廃棄処分となった。
映像は誰一人として保存出来ておらず、また阿波座の希望もあって筐体内データも消去された。
噂を伝え聞くも、すでに再録する術も無い。
映像は、今も伝説として学園に語り継がれている。