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マスター:九三壱八
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/09/27


みんなの思い出



オープニング



「人の子の勧誘に失敗したそうだな?」
 笑みを含んだ声をかけられて、銀髪の使徒はそちらへと向き直った。
 何故か屋根の上からこちらを見下ろしている金髪の天使に、使徒──レヴィは内心深い深いため息をつく。
 面倒な相手が来たと思ったが、顔には出さなかった。
「エッカルト様にはご機嫌麗しく」
「うん。麗しいかな? 麗しいかもね」
 くすくす笑いながら、天使がふわりと降り立つ。
 小柄な少年だった。人間で言えば十四〜五、といったところだろう。大きな目はややつり目がちなせいもあって悪戯っ子のような印象が強い。
 実際、中身は印象よりも百倍黒いのだが。
「ルスはいるんだろ?」
「水浴び中です」
 う、と一瞬エッカルトが怯んだ。
 人であれば少年らしい羞恥ととれるが、エッカルトはすでに齢数百を数える天使だ。そんな初な心など持ち合わせているはずがない。ただの女天使が相手であれば笑いながら水場に向かったことだろう。
「ご一緒されますか?」
「し、……したらおまえの剣や鎌が飛んでくるんだろうが」
「飛ばさずにいれば、ご一緒されますか?」
「……。…………。! そ、そんなことをしにきたのでは無い!」
 数秒考えた後で勢いよく言われて、レヴィは表面上は恭しく腰を折った。
「私でよろしければご用件を伺いしますが」
 いかがでしょうか? と問うと、先程までの狼狽はどこへやら、エッカルトは尊大に胸を張って唇をゆがめた。
「かの『終焉の』使徒がわざわざ人界に向かって人の子に声をかけたという噂を聞いた。が、ルスに使徒が増えたという話は聞かない。失敗したんだろう!?」
「その通りでございます」
 しっかりと頷いて返答したのに、何故かエッカルトは珍妙な顔になった。当てが外れた子供のような顔だ。
「いかがなさいましたか」
「い、いかがじゃない! そ、それに、撃退士とやらに邪魔されたそうだな!? まさか貴様、たかが人の子ごときを前に、目的も果たさずおめおめと帰って来たのか!?」
「その通りでございます」
「…………」
「エッカルト様。お顔が変になっておりますが」
「やかましい!」
 顔を真っ赤にして怒られ、レヴィは首を傾げた。自分は何か粗相をしただろうか?
「お、お、おまえ、は、だな」
「はい」
「はいじゃない! 大天使ルス・ヴェレッツァの使徒ともあろう者が、人の子如きにすごすごと尻尾撒いて帰って来るなんぞ、許されると思ってるのか!?」
「私の、尻尾、ですか?」
「後ろを探すな! ……前も探すな!」
 真面目に尻尾を探す使徒にエッカルトは頭を抱える。
 ──その瞬間、
 妙なる美声が響いた。


 随分と、賑やかだな?


「!?」
 ぎょっとなってエッカルトはその場から飛び退いた。顧みた視線の先に、途方もなく美しい女が立っている。
(ルス……!)
 その姿に思わずエッカルトは息を呑んだ。
 圧倒的な美貌。布越しでもハッキリと分かる類い希な肢体。
 己の力のほとんどを使徒に与え、力だけなら数在る天使の中でも弱い部類に落ちたというのに、思わず一歩退きそうになるほどの圧力。
 その美しさ故か。
 それとも魂の格故か。
 ……それとも、最盛期の彼女を知っているからこそなのか。
「……ルス」

 久しいな

 長い時を経ても尚いや増す美しさで、ルスは微笑んだ。

 我に用があるのだろう?

 言われてエッカルトは言い淀んだ。小憎らしい使徒には強く出られるが、さすがにこの相手だと少々分が悪い。自分の方が強くなっても尚。
「……噂になっている。おまえの使徒が新たな使徒獲得に動いたが、失敗したと。また、人の子の邪魔が入ったらしいことも」

 ふむ

「力で押し通すのであれば、おまえの使徒が人の子に負けるはずがない。おまえ達が人の子に慈悲を与えたのではないかという見方が強い」

 我は元々変わり者であるが故な

「笑い事か!」
 楽しげに微笑うルスに怒って、エッカルトは拳を握りしめた。
「言っておく。おまえの所行に不信を持つ者が大勢になれば、降格もありえると。この世界は狩猟場だ。人間は糧であり贄だ。それ以上でも以下でもない!」

 それを告げに参ったのか?

「いや……。人間にほだされてなどいないと、そう、行動で示してもらいたい。その要請だ」
 ルスの声にやや強い声で言い返し、エッカルトはレヴィに指を突きつけた。
「主に恥をかかせただけでなく、周囲に疑念までわかせたのだ。他に対してはっきりと態度で示すべきだろう。おまえの邪魔をしたというのは、撃退士とかいう連中であっているな? 普通の人間には無い能力を持った奴等だ。顔は覚えているか?」
「…………。人の子の顔を、ですか?」
「ああ、覚えなくても当然か。連中の顔などどうでもいいからな」
 レヴィの反応にそうと当たりをつけて、エッカルトはフンを鼻を鳴らした。
「どいつでもいい。あの奇怪な能力を持つ連中を十人ほど狩れ。人間のくせに、いちいち邪魔だ! 数が減るならどれでもいいだろう」
 レヴィはエッカルトから視線を外し、己の主を見る。
 ルスはしばしエッカルトを見つめていたが、小さな嘆息をついて言った。

 引き受けよう。……ただし、我の使徒が獲る首は我が決める

 エッカルトは満足そうに笑う。
 その背後で、レヴィはわずかに表情を曇らせた。





「……少し、期待したのだがな」
 小さな呟きを零して、少女は一枚の依頼書を見つめた。
 かつて遭遇したことがあるからと真っ先に見せられたその用紙には、記憶にある使徒の容貌が書かれている。
「……人を殺めるか。……やはり、不殺の使徒など、おらんのだろうな」
 人を殺した報告が無い使徒だと、少しだけ期待していた。堕天を願うのとは少し違うが、天使の中にもそういった個体が多くいてくれればと思ったのだ。
「……甘いわけだな。私も」
 少女はため息をつく。

 銀髪の使徒が、アウル保持者を殺して回っている。

 その話が出たのは三日前だった。
 そして、今日、手にした依頼書。
 犠牲者数、八名。
「……いずれも一撃、か」
 アウルの適正がありつつも、学園には入っていなかった犠牲者達。どのような基準で選ばれているのかは知らないが、唯人と違いアウル適正者を狩るのだから、何かしらの意図があるように思える。
 何かの計画の陽動なのか。それとも最近のこちら側の進撃に対する報復のようなものだろうか。
「……分からんな」





 闇が降りた。
 深夜の路地を老婆とその孫が必死に駆けている。
「ァハハハハハ! 逃げろ逃げろ逃げろほらもっとしっかり逃げろよこのク●バ●ァ!」
 その後ろから下卑た笑いをあげながら踊るような足取りで若者達が歩いてくる。手には裏で仕入れた鋼糸。軽く振るわれたソレに腕を深く切られて老婆が倒れた。
「おばぁちゃん!」
 先を駆けていた幼子が咄嗟に駆け戻る。若者の顔に愉悦の笑みが広がり──
 パンッと二つに裂けた。
「……へ?」
 ニヤニヤ笑いながら後ろから追っていたもう一人の若者がきょとんとする。頭の先から股まで、まっぷたつに分断された体がそのまま前に倒れた。
「きゃあああああああッ!」
 吹き出した血に老婆と幼児が悲鳴を上げた。若者は慌てて周りを見渡し、気づいた。
 自分の後方に立つ男に。
「ひ!?」


 その様をレヴィは冷酷に見つめていた。
 主は言った。屠る相手は己が決めると。
 エッカルトは言った。あの能力を持つ者なら誰でもいいと。



 獲るべき首は、あと一つ。






 路地に、新たな足音が響いていた。




リプレイ本文


(人を狩るもの、か )
 夜。
 路地を駆けながら、リョウ(ja0563)は眼差しを厳しくした。
 学園から依頼されたのは『使徒の殺戮を止める』こと。わずか三日で異なる場所にいる八人のアウル保持者を的確に殺害してのけた技量は、おそらく相当なもの。誰よりも報告書を熟読したリョウはその内容に戦慄する。
 犠牲者の中には、魔装を纏う者も少なくなかったのだ。
(だが何故、アウルを持つ者を……?)
 撃退士達を脅威に思ったのか。それとも別の理由なのか。こればかりはいくら考え資料を読み込んでも憶測の域を出なかった。
 六人は幾度も話し合い、次に使徒が現れそうなポイントを割り出す。
(襲撃ポイントが、分かれば、救急車を、呼べるように、手配、できるかもしれない)
 そう考えた羽空 ユウ(jb0015)は、学園に話を通し大通りに救急車を一台待機してもらっていた。全ての殺害現場で、一般人の救出が行われていたことも含め、万が一の事態にも対応できるようにと考えたからだ。
(嫌な事件……目的があるなら後どれくらい続く?)
 幾つもの疑問を胸に秘めながら、紫ノ宮莉音(ja6473)は向かう先を真っ直ぐに見つめていた。
 戦場を渡り歩いた莉音はその経験に則って思案する。
 天魔によって作られた存在の中でも、ヴァニタスやシュトラッサーといった者の多くはその上に立つ天魔の命令によって動いていた。
 ならば、使徒の背後にはその主である天使の意向がある。その目的が何かによっては、今以上の犠牲を求められるのかも知れない。それとも……
(……虫籠の男みたいに何もない?)
 ありえないことだろうか? ──分からない。
(止められるかな…でも止めなきゃ)
 使徒と呼ばれる者の強さがどれほどのものであろうとも──
 莉音は唇を引き締め、そっと隣を駆ける宇田川 千鶴(ja1613)を横目で伺った。
 千鶴は路地を見つめたまま無言で駆ける。その表情は静かだったが、ほんの僅か、瞳に思案の色が浮かんでいた。
(何でや…)
 今回の依頼で敵として挙がっていたのは、かつて別の依頼で相対した使徒だった。参加メンバーの中で唯一、彼女だけが直接件の使徒と面識がある。
(あの時と、今と……何が違う?)
 かつて相対したとき、そこに集っていたのもまた全員アウル保持者だった。
 その時は誰一人傷つけられることのないまま使徒が退いた。ある少女を使徒化させないため、使徒そのひとを阻みに行ったというのに敵対行動一つとらなかった。
 あの時の様子と、今回の事件とにはあまりにも隔たりがある。……けれどその理由が何なのか、今の彼女達には分からない。
 千鶴は足に力を入れる。


 通りの向こうから、甲高い悲鳴が聞こえた。






 走り込み、目に飛び込んできた光景に六人は表情を引き締めた。
 路地の中央に初老の女性と幼子が抱き合うようにして座っている。その少し向こうに、こちらに背を向け、怯えながら下がっている若者。
 そして──
(……あれが)
 三人の直線上の先にいる銀髪の使徒。
 その足元にあるのは、真っ二つになった男の死体。
(──九人目か!)
 リョウは眼差しを厳しくする。
「…やらせんっ」
 若者から感じる乱れたアウルの波動に、次の標的と当たりをつけ千鶴が駆けた。同時に橋場 アトリアーナ(ja1403)も走る。
「…これ以上は、好きにさせない」
 警戒を込めて具現化させたゴグマゴグを手に、若者と使徒との間に立ちはだかりながら、少女は初めて見る使徒に不思議なものを感じた。
 使徒の表情は静かだった。整いすぎた容貌と相まって、どこか人形めいた印象すらある。
 けれどその瞳が、一瞬、こちらを認めて揺れた気がしたのだ。
 困ったような、痛みをこらえるような──嘆息をつくような。そんな気配と共に。
 それはあまりにも一瞬すぎて、真正面から使徒を見据えて走り込んだアトリアーナ以外には見えなかったけれども。
(…これが使徒か)
 その傍ら、同じく若者を背に庇う形で立った九十九(ja1149)は、相対した使徒に息を呑んだ。この路地に入るまで何の気配も感じなかったのに、間近にした今、皮膚が痺れるような圧力を感じる。
(初めて使徒と合見えるんだけどねぇ…危険は承知で受けたけれど…これは威圧感が半端じゃないねぃ)
 使徒はただ立っているだけのように見えた。下げた両手は何かを握っているかのような形になっているが、そこには何も見えない。
 全身で使徒を警戒している二人に守られる形で、莉音とユウは初老の女性と幼子に駆け寄った。
「撃退士です、助けに来ました」
「……見ちゃ、駄目。こっちに」
 声と共にそっと体を支えられて、初老の女性は大きく目を瞠った。二人から凄惨な死体を隠すようにして、ユウは莉音が女性を支えるのを手伝う。
「く……くおんがはら、か!」
 移動距離内に若者が入っていたことが功を奏した。迅雷を応用した千鶴の働きにより最も使徒から遠くに離れられた若者が、ひきつった笑みを浮かべて声を出した。
「おまえら、は、はやく! あいつ殺せ! 天魔だ! はやく! はやーっく!」
 使徒の前で九十九とアトリアーナが、その背後で莉音、ユウ、千鶴の三人が一瞬だけ視線を交わし合った。天魔であり、人を殺めた使徒と向き合うことに躊躇する気はない。
 だが──
「なにやってんだ! おまえら、く、くぉんがはらの、げきたいしだろが!?」
「落ち着き!」
 すでに呂律すらあやしい男に掴みかかられかけて、千鶴は華麗に避けると同時、やんわりと押さえた。それとほぼ同時、莉音に傷を癒してもらった初老の女性が、握って貰った手にすがるように体を縮める。
「た、たすけ、て」
「大丈夫ですからね」
「ぁ、あ……あぃつ、が」
 喘ぐように口にしながら、初老の女性は泣きながら──

 若者から距離をとった。

「……え?」
 体ごと押される形になった莉音が目を丸くする。
 当然だ。現在最も使徒から離れている若者から距離をとるということは、畢竟、使徒側に身を寄せるといことでもある。
「ちょ、と、え?」
 ユウの方に縋りついた幼子の方はもっと行動が顕著だった。新たに現れた六人が助け手だと分かったのだろう。泣きながらぐいぐいと、抱きついたユウごと使徒がいる方向へ逃げようとする。
「待、って。そっちは──」
 危ないはずだ。相手は人の敵である天魔なのだから。
 なのに、何故──?
 わずか一秒にも満たない時間、困惑と動揺が場に流れた。そんな中、いざという時、一息に使徒に飛び込める位置に移動していたリョウはある違和感に気づく。
 使徒の前にある死体が、使徒に対しあまりにも無防備に背を向けているのだ。
 恐らく一撃で両断されただろう傷は、そのまま合わせればくっつくのではないかと思うほどに綺麗な切断面をしていた。ならば、もし、逃げたところを殺害されたのであれば、二つに分かれた体はもっとそれらしい形に『ズレて』倒れているはずだ。
 ──無防備な死体。
 ──アウル所持者から逃げようとする怪我をしている一般人。
 ──狙われる『アウル所持者』。
 思い出す。 殺害現場には、必ず『負傷した一般人』が多数『救出』されていたことを。
(──まさか)
 ありえるのだろうか。そんなことが。
(選んでいるのか……一定の条件で?)
 選ぶ理由は分からない。だが、想像が正しければ使徒が殺めている相手は『一般人を襲っているアウル保持者』ということになる。
(……選んで殺しているのなら、その傲慢に奴は気付いているのか?)
 人の命とは選別して良いものではなく、まして搾取して良いものではない。それは、どの場合においても同じだ。悪いことをしていれば殺していいなど、認められるわけがない。
 生と死は、万人に与えられるものの中で最も『等しい』ものなのだから。
 リョウは揺るがない意志をもって使徒を見つめる。だが逆に、真正面から相対していたアトリアーナは自身の心に細波がたつのを感じた。
(…なんで、悪い人だけを…?)
 幾多の戦場をくぐり抜けて来たからこそ、全員が違和感とそこから導き出せる現実に気づいた。故に戸惑わずにいられない。
 何故
 どんな理由があって
 何のために
 何が目的で
 疑問だけが膨れる。敵なのに。敵だから。こちらが到着して以降、隙を見つけても攻撃せずにそこに立っているから、動けない。
 ──攻撃していいものか、どうか。
 使徒という、強大な力を持つ相手だからこそ、なお。次の一手が打てない。
「レヴィさん…やよね」
 未だに暴れる若者を押さえたまま、千鶴はその使徒へと声をかける。
 覚えられているかどうかは分からない。だが、対話によって真意を探れるならば、意識を戦いではなここちらへと向けさせることができれば、と。
 レヴィは真っ直ぐに千鶴を見る。表情は変わらない。
 だがその瞳が、千鶴を捉えて僅かに苦笑めいたものを浮かべた。どこか幼い妹をそっと窘めるような。

 なぜ、来てしまったのですか? と。

 そう、告げるような。
「同じアウル保持者で、前は邪魔する私らに手ぇ出さんかったんに、今回は積極的に攻撃に転じとる…何でや…?」
「……さて」
 変わらぬ表情の下、僅かに目を伏せてレヴィは嘯く。
「あなた方がそうであるように、私もまた、自身に科せられた責務を果たしているだけですので」
 その内容については、答えられるものではない。
「お若いとはいえ仕事を負われたのならば、守秘義務、というものはご存じかと」
 存じていても、それを人ならざる者に示唆されるとなんだか微妙な気持ちだ。
「あなたが、アウル保持者、を、殺す。……それだけ、私達、が、脅威、と言う事?」
 子供をそっと自分の背に回し、じりじりと距離を取ろうとしながらユウが別口から口頭で切り込んだ。
 戦いに動かないのであればそれにこしたことはない。だが、使徒はユウに向き直ると腰のあたりにすがりついている幼子に少し瞳を微笑ませてから告げる。
「脅威か否かを判断するのは私ではありませんので、私からは何とも」
 そうして、表情を消した。
「……ッ」
 一瞬にして増した不可視の圧力に、全員が反射的に身構えた。使徒は千鶴に視線を戻して告げる。
「お退きください。その者こそ私の獲物」
「っ! ……退けるわけが、ないやろ!?」
「庇うのですか。己が欲望で他者を傷つける者を。……ならば、私からも問いましょう」
 瞳に僅かながらにあった感情を消し、使徒は彼ら全員に問う。

【あなた方は、何のために、誰を守るのですか?】

 そうして、見えない何かを持ったまま歩を進めた。
「答えがありましたら、お答えいただきたく」
 其れは魂に問う問い。
 冷気にも似た気配に戦いが避けられないことを察し、リョウが使徒の前に飛び込む。
「その人達を逃がせ!」
「わか、った!」
 子供抱えてユウが、握られたままの手に莉音が初老の女性を促し、戦場からの離脱を図る。
「ひ、ひぃっ!」
「あっ」
 若者が悲鳴をあげながら千鶴に抱きつ──
 く前に避けられてその場に崩れた。
 リョウの渾身の一撃を見えざる何かで受け止め、使徒は薄く微笑う。その瞳が、わずかに金の色を帯びた。
 ふいに変わる気配。整いすぎた感のある使徒の貌に、人外の美が混じる。
「……聞かせていただきましょう」
 次の声は、どこか別の場所から聞こえた気がした。
 途方もなく美しく、遙か高みにある存在の声が。


 ──汝等の魂の歌を





「くっ……!」
 凄まじい勢いで吹き飛ばされて、リョウは着地しながら痺れた手に力を込めた。
 強い。
 他に何も浮かばない。ただ、強い。
「……見えない、剣……?」
 必死に使徒の手元を観察していたアトリアーナが呟く。次の瞬間には、全力で使徒と切り結んでいた。
「く……ぅ!」
「受け流さなければ、武器が損じますよ」
 その示唆にアトリアーナは息を呑んだ。ゴライアスが悲鳴を上げている!
「そうはさせないのさぁね……!」
 刹那、光の矢が弾けた。
「な!?」
 文字通り使徒に当たる直前に弾けた矢に九十九は目を瞠る。サルンガから放たれた矢を打ち砕いたのは、左手に握られた──
「双剣か!」
 リョウが叫び、アトリアーナと入れ替わった。使徒は微動だにせずその撃を受け止める。
「奇怪な剣だな!」
 よく見れば全く見えないわけではない。何らかの特殊加工か、素材そのものが特殊なのか。よく分からないが、ガラスで作られた剣のようなものが月光の反射でかろうじて見えた。
「インビンシブルエッジ、と申します」
「わりと、よく喋る……!」
「答えられる問いならば」
 感情を窺わせない声で答え、使徒は眼差しを細めた。
 ならば、問われて答えてないのは人間側か。
「……天使だから悪魔だからアウルの力を持っているから。そんなもので今は人々の日常が脅かされている」
 押し殺した声で、リョウは問いの答えを口にする。
 その魂の内側にある、願いを。
「それを許す理由がどこにある? 天使も悪魔も撃退士も、在り様が違うだけで侵略者であることに変わりは無いだろう」
 決して侵してはならない絶対の境界線。
 優しい日常という名の陽だまり。
 誰が許せるだろうか。その侵略を。踏みにじられるかそけきまほろばにも似た大切な空間を。
「そして、俺には今の世界の在り方が許せない。天魔は敵だ、だから殺す。人間は餌だ、だから奪う。それぞれの命をなんだと思っている!?」
 使徒は何も言わない。ただ、その目が少しだけ和らいだ。
「このままでは全面戦争か打算による休戦だ。それで犠牲になるのは力が弱いというだけで身を守れない人々になる。その前に和解の道を探る動きも出るだろうがそれでは遅いし意味が無い!」
 幾多の攻撃も軽く受け流す強大な力。切り結んでいた相手から一時距離をとって、リョウは相手をにらみ据えた。
 使徒は動かない。
 最初に切り結んだ位置から、微動だにしていなかった。
 その圧倒的な力の差。
 ──それだけの力をもっていながら、何故。
「動くならば今からだ。本格的に事態が動く前に、命を護る地盤を創りたい。学園とは別にな。その為には天界にも魔界にも協力者が必要だ」
 分かっている。人間の力の限界など。
 だが、だからといって傍観などできようはずがない。
 動かなければならないのだ。例え持ちたる力が小さくても、今はまだ遠く届かないとしても。
 そうでなくて、何ができるだろう。
 誰を助けれるだろう。
 何を守れるというのだろう。
 こうしている間にも、失われる命があり、踏みにじられる思いがあるのに。
 じっとしていられるわけがない……!
「――主に伝えろ。旅団【カラード】に手を貸せ。代償が必要なら全てが終わった後に俺の命ぐらいならくれてやる!」
 ふ、と。何かが微笑む気配がした。
 目の前の使徒ではない。なのにその気配はその使徒から感じた。
 いや、その後ろから……?
「……命を賭けの代償にするのは、あまり褒められたことではありませんよ」
 使徒はどこか穏やかな眼差しでそう告げる。
 けれど、その思いは伝わった。
 この耳で聞いた。──繋がった、唯一人の主にも。

 良き歌を聴いたと、そう──微笑むほどに。

 されど、
「今回、他の『命』はさして重要では無いのです。本来、魂を望むのは悪魔。天使にとって、命は奉仕種族を作るためのエネルギー。……天の方々が欲しているものが何であるか、あなた方は少しお忘れのようですね」
 リョウは目を瞠る。次の瞬間、その体が吹き飛んだ。
「……っぁ……ッ!」
 一瞬で空を舞い、地面に叩きつけられリョウは固まりのような呼気を吐いた。反射的に受け身をとったはずなのに衝撃に息がつまる。
 攻撃が見えなかった。痺れたように動かない体は、おそらく何らかの技を喰らったためだろう。だが、何の技なのか分からない。
 明らかに、切り結んでいた時の動きでは無かった。
「……なら、なぜ、あの人の命を狙うの?」
 追撃を警戒して今度はアトリアーナと九十九が連携して動く。
 光の矢を打ち砕き、重い一撃を軽く受け止めて使徒は答える。
「他者を虐げる者。その命を望まれておりますので」
 誰でもいい、というわけではない。
 どれでもいい、というわけでもない。
 狙われたのは、今なお地面を這うようにして見苦しく逃げようとしている若者。
 ──他を喜びを持って虐げ奪う者の命。
 アトリアーナは静かな表情の下で、心の揺れが大きくなるのを感じた。 
 今までの天使と違う行為。
 悪人を裁き弱きを助けている事。
 撃退士として自分の助けたい人を傷付ける人。
 それを助ける事。
 依頼の一言で割りきれないこの現実をいったいどう処理すればいいというのだろう。
 唐突に突きつけられた『今』という現実に、アトリアーナは僅かに喘ぐ。前例は無いに等しく、答えは出ない。
「…あなたの主の名前を教えてほしい」
 使徒の名は挙がっていた。レヴィという。なら、その主の名は?
 彼の使徒に此度の動きを指示した天使は……?
「……我が主の御名は、おいそれと口にしてよいものではありませんので」
 会うことがありましたら、どうぞそのときに。
 そう告げる使徒の瞳は、けれどどこか優しかった。何か嬉しそうであったかもしれない。
 それと同時、揺れるアトリアーナに向ける瞳にあったのは、幼子をそっと窘めるような色。
「心の揺れは刃に影響しますよ」
 聞くや否や天地が逆転した。
「!?」
 悲鳴をあげるまもなくリョウの傍らに叩きつけられたアトリアーナの体も強ばったように動かない。太刀筋を見るどころではなかった。
(前動作が……無い!?)
【二十四の花を咲き告げる風に乗りて、天下りて癒しに来たれ百花仙子】
 いつの間にか負った二人の傷を九十九の放った小さな旋風が優しい匂いとともに癒す。状態異常を治すことはできないが、それでも。
「…必要な問いなのかねぇ…ま、問われれば答えるけどねぃ」
 追撃はさせない。幾多の射撃を打ち砕かれても、共にある人々を守るためならば決して挫けない。
 なぜなら、それこそが九十九の在り方だったから。
「その問い、に、答えれば、この人達、見逃せる、の?」
 子供を救助の手に渡し、全力で戻ってきたユウもギリギリの射程から声をあげる。息はあがり、全力疾走の影響で足も震えたが、恐怖は無かった。
「逆に、問う。あなたの『存在』に『意味』は、ある?……他者依存の『価値』じゃない、自分が、見いだす『意味』が」
 手札を明かすのは、何時だってリスクを負う。逆に問いを投げたユウに、使徒は静かな眼差しを向けた。
 問いとほぼ同時に放たれた雪玉が九十九の光の矢とともに使徒を襲う。一瞬の煌めきにも似た速度だったが、攻撃は当たる前に砕かれた。だが、構わず打ち続ける。
 ──ただひたすらに、後ろを守るために。
 その様子に金の混じった瞳を細め、使徒は呟くように答えた。
「道具たる者の『己』など本来必要とされてはおりませんが……」
 ただの道具というのか。何も無いというのか。一瞬胸を影のようなものがよぎったが、陰りを帯びた少女の瞳を真っ直ぐに見て、使徒はひどく自然な表情で言葉を続けた。
「私の全ては主の為に」
 力むわけでも強調するわけでもない、使徒という生き物であれば至極当然なその答えが、何故かユウには違う意味のものに聞こえた。
「千鶴さん……こっち!」
 ユウと九十九が連撃をしている間に、いま一人を逃がし終えた莉音が駆け戻ってくる。それを後ろに感じながら、酷く動きが不自由な体でリョウが叫んだ。
「主の命に拘っているようなら、真に主が望んでいるものが何かを慮ることも大事ではないのか?」
「……分かっていればこその『今』です」
 その『今』とはどれなのか。
 アウル保持者の殺害か。
 一般人を見逃すことか。
 ──それとも、全力を出さず答えを待っていることなのか。
(測りがたい)
 リョウは眉を寄せる。
 透明度の高い海の遙か底を覗き込むような、そこにあるのに見通せない深み。情報を引き出して尚、見え難い相手の実像。
 千鶴と莉音に護られて這いながら逃げる──なんと腰が抜けている──若者を護る為、ユウと九十九が歩みを再開した使徒の前に立つ。出来るだけ、その距離を保とうとしながら。
「あなた方が守るのは、ああいった存在ですか?」
 ──何も守らない。
 ユウは心の中で答える。
 ──敢えて言うなら、自分の為。
 紛れもない、搾取され、搾取する自分の為。
 ――存在に、須らく価値はない、ただ、意味だけがある。
 意味のない忘れられたものに、意味と概念を与える為に、此処にいる。
 だから、
 だから──
「止ま、って……!」
「……申し訳ありませんが」
「きゃ……!」
 飛ばされたユウの体がアトリアーナの傍らに落ちる。使徒の足が九十九へと向いた。
「させない!」
 声と同時、真っ向から刃が来た。莉音だ。
 半ば若者を引きずって駆ける千鶴と話し合い、それぞれの行き先を決めた。今はただ、守るために。例え罪人の命であろうとも。
「あなたも、先の男を守るのですか」
「人を傷付けた罪は人の法で裁かれなきゃ」
 強い眼差しで告げる莉音には、確固たる信念がある。
 青年は卑怯で許せない。だが、使徒には殺させない。
「失いたくないから等しく守るんだ。優劣はつけない。それは僕の役目じゃない」
 封都の一報を受けた時、一瞬ぞわりとした後、急に体が冷たくなった。
 冷たいのに心臓はばくんばくんと動いていて、目と耳は静かに情報を取り込んでいて──
 何をするべきか考える頭の隅で、いつもの目覚まし時計に引き戻されるのを待っていた。
 コレハ夢ナンダヨと
 目ガ覚メタライツモ通リナンダヨと、そう言われるのを待っていた。
 そうして、ようやく鳴ったのは家族の無事を知らせる電話の音。
 その瞬間の衝動をなんと言い表せばいいのだろう。安堵歓喜郷愁。誰かではなく何かでもないものに感謝すら捧げそうな衝動。それを経たからこそ思うのだ。
 失うって何てこわいんだろう、と。
 希望や絶望のもっと根底がボロリと崩れるような、喪失への恐怖。その根底は薄い氷にも似て脆い。
 だから、
「……戦う理由は一つ」
 繰り出される一撃を流すように弾いて、使徒は答えを待つ。
 真っ正面から意志をもって眼差しをあわせる少年を見据えて。
「立ち上がる力を失わない為、失わせない為にだ!」
 それこそ、まさに守るべきものであり、守るべき為の力。
 ふとどこかで微笑む気配がする。耳の後ろから誰かの声が聞こえるような、そんな奇妙な気配。


 虚無の絶望を垣間見たか。なれば其は汝の地力となろうや


 その瞬間、全身が総毛立った。あ、と思う間もなく吹き飛ばされる。
(見え……ない!)
 早すぎて攻撃が見えなかった。だが吹き飛ばされる寸前、一瞬合わさった眼差しの先にあった使徒の瞳が鮮やかな金色をしていたのは知覚した。──血のような赤の瞳だったはずなのに。
「っ」
 寸前に打ち込んだ回避射撃すらかき消す一撃に、九十九は唇を噛む。地に倒れた四人。対し、使徒は息一つ乱れていない。
(……これほどの、差)
 九十九は光の矢を番える。焦燥など彼方に放った。そんな感情に振り回される必要はない。
 ただ、やるべきことをやるだけだ。未だ彼の背には、守らなくてはならないものがあるのだから。
(問い、か)
 問いは胸の中に渦巻いている。けれど、ユウと同様に声に出しては答えなかった。
 ──自由に自分らしく生きる事。と願う師父の為。
 放った矢を使徒が瞬時に撃破する。その金の混じった紅の瞳が九十九の瞳に視線を合わせた。
 ──自らの全てを掛けて恩を返したい人がいる。
 徐々に金の色を深くする使徒の瞳。それを頭の片隅で訝しく思いながら、九十九が更なる精度の矢を射る。
 傍に在り続けたい愛しい人がいる。共に歩むべき友人達がいる。信じるに値する仲間がいる。
(自分が自分らしく生きる未来を見る為に)
 共に在りたいと望む故に、護り戦う。
 その全てを出しきって──!
 神速の矢は、けれど使徒に届かなかった。弾かれたのではない、
「なっ!?」
 気づいた時には、間近に使徒がいた。完全に金色に変じた目が微笑った気がした。


 良き歌だ


 声が聞こえた。例えようもなく美しい声が。だが、決して目の前の使徒の声ではない。
(誰──まさか!?)
 声を発する間もなく、九十九の体は莉音の向こう側に落ちた。





 事態を察して千鶴が振り返った。
「真っ直ぐ、這ってでもこの先へ行き! 後ろは守ったる!」
 悲鳴をあげながら若者が大通りの方向に這うのを横目に確認し、千鶴もまた戦場へと戻る。使徒の歩みが止まらなければ若者の命は無い。足止めに出なければ、追いつかれ脇から奪われるだけだ。
 地に叩きつけられた五人の前まで差しかかった使徒に、千鶴は飛び込む。
「あなたもですか」
「…私は、私に出来る事をすると決めたんや」
 刃が交わった。
「無辜を虐げる者を許す人ではないと……そう思いましたが」
「許す許さんやない」
 言いながら、千鶴はふと気づいた。使徒の物言いは初見を前提にしたものではない。
 ……覚えているのか。自分を。直接対話はしなかったのに。
 千鶴は一瞬の困惑を持ち前の冷静さで押さえつけた。前は前。今は今。動揺など、している暇はない。
「……別の依頼の時、人を人の世界で裁かせる為に殺さない戦いをすると自身に誓ったんや」
 時間を稼ぐため、千鶴は敢えて会話を交える。
 彼女自身、実体験として知っていた。アウル保持犯罪者というものが存在することを。そしてその魔手から人を救うべく関わったことがあるからこそ、決めたことがある。
 人を殺すのではなく、法の下に裁かせることを。
 人でなくなったものには、これ以上殺傷させない為に倒すことを。
 殺し殺される事でかつて会った人達の様な哀しみが起こらぬ様に。
 例えそれでどんなに心と体が傷つき血を流しても、
 人として、
 人を
 仲間を
 大切な人を
 守る為に戦うと。
 そう決めたのだ!
 例え其の道が茨であっても。
「奪えばそれまでや。命はそんな安ぃもんやない!」
 決然としたその声に

 使徒が初めて僅かに退いた。

(?)
 空白の半瞬。
 どこか遠くから、妙なる美声が響いた。


 ──されど裁きの末に、人は人を殺すのだ……


「!?」
 次の瞬間、体が吹き飛んだ。
「……ッ」
 千鶴は歯を食いしばる。地面に叩きつけられ、身じろぎすら難しい体で必死に使徒を見上げた。
(あかん……!)
 このままではいけない。障害の全てを地に伏させた使徒が悠然と歩き始める。その足首を九十九とアトリアーナが掴んだ!
「っぁっ!」
「きゃあ!」
 瞬間、疾風にも似た風の刃で二人の腕に深い裂傷が走る。だが離さない!
「行かせ……ない!」
「そう簡単に、行かせはしない、のさぁ、ねぃ!」
 その体が見えない何かに束縛されようとも、その場から動けなくても、諦めはしない。
 リョウが武器を持ち替えて炎を放つ。大きく命中を削がれたそれは当たることはないけれど、莉音が、ユウが、千鶴が、同じくそれに続こうと不自由な体を動かす。
「……」
 歩もうとした使徒の足が止まった。
 決して諦めず尚立とうともがく六人に、ふと誰かが淡く微笑んだ気配がした。


 ……されど、人を救おうとするのもまた、人なのであろう


 同じく微笑んだ使徒が瞳を閉じる。


 次の瞬間、ゴッという音と同時、六人の意識が闇に押しつぶされた。







 遠く誰かの声が聞こえた。


 ──死…でない…いか


 別の誰かが静かに告げた。


 ──我が主の興が削がれますので


 聞いたことのある声の後で、うっすらとまた誰か別の声がする。


 ──たかが…子の…に拘り…は、そ…天界の…に関わ…思うが?


 天界。
 天使か。リョウはそう思った。
 チャンスだと思うが、闇が晴れない。
 遠くなる意識の片隅で、柔らかく微笑う女の声を聞いた。


 ──仕方…まい。使徒……では、天…は……れん


 声が遠い。まるでチューナーのあっていないラジオのようだとアトリアーナは思った。
 意識が完全に消失する間際、誰かの声がそっと響く。



 ──いずれまた、お会いいたしましょう








 六人は病院のベッドで目を覚ました。深い傷を負った者は未だ包帯姿だが、致命的な損傷は無いという。
 見舞いに訪れた少女は学園が一人の男の身柄を拘束したことを告げた。幾度も市民を死傷せしめたアウル保持犯罪者。──彼等が命を賭けて守った男だ。
「裁判……」
「近日中にな」
 莉音はじっと報告書を読む。
(……尋ねられんかったな)
 その隣のベッドで、千鶴はシーツに視線を落とした。
 あの使徒に問いたいことがあった。だが、問う暇が無かった。
(答えは……分からんままや)
「強さが尋常じゃなかったねぃ……」
 ぽつりと呟いた九十九に、少女は頷いた。
「生きて帰った……それ自体が奇跡らしい」
 思わず視線を向けた六人に、少女は頭を下げた。
「すまない……今回得れた情報でようやく使徒の正体が分かったのだ。見えざる刃を持つレヴィという名の使徒ならば、対悪魔戦において『終焉の』の二つ名すら与えられた使徒であるらしい」
 其の後ろに在るはかつて強大な力を有していた大天使。
 その正体が分かってさえいれば、対応する人数は何倍もに増えただろう。
 生きて帰れたのは、彼等が成した一つの奇跡。
「俺達の帰還で……正体が判明したわけか」
 リョウが冷静に現状を把握する。
「……新しい、天界勢力の、来訪……」
 ユウが憂いを秘めた瞳で呟き、少女は苦しげな表情で頷いた。
「何かが……動こうとしているのかもしれない」
 聞けば、遠く愛媛方面でも今までにない気配を感じたという報告があったとか。
 最近学園に報告された神器によるものか、それとも……
 得体の知れない寒気をアトリアーナは押し殺す。

 過ぎし夏の面影を追うように風が街路樹を渡る。



 灼熱の残影を刻むように、地上の影はどこか濃く、深かった。






依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 約束を刻む者・リョウ(ja0563)
 黄金の愛娘・宇田川 千鶴(ja1613)
重体: −
面白かった!:11人

約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
運命の詠み手・
羽空 ユウ(jb0015)

大学部4年167組 女 ダアト