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マスター:九九人
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/20


みんなの思い出



オープニング

 久遠々原学園――とある教室前。
 留学生の紹介を受けたそのモブ教師は、その場で固まっていた。
「……じゃ、じゃあそういうことでっ。この子のこと、あとよろしくねっ」
 留学生を紹介した彼の上司は、汗をハンカチで拭いながらそそくさと去って行った。面倒事を押し付けられたことは明白だった。

 その留学生――名前をナディナという。
 彼女の着るアフリカ原住民の民族衣装は白を基調とし、赤や青、緑など様々な色が各場所に施され、遠目からでも良く目立つ。
 猫のようにしなやかな肢体が歩く度に首元のビーズのような首飾りが揺れ、蜜を塗ったかのように艶やかな黒い肌は、見る者を惹きつける。

 彼女――ナディアは南アフリカ国の、名も無き部族の出身だった。
 本来、この留学生を案内する役目は別の教授がするはずだったのだ。文化人類学の講師であるその人物は、マイナー言語を大量に習得していた。当然彼女の操る言語も彼は知っていたが、今日に限ってその講師は突然の夏風邪でダウン。ただその講師と仲が良かったというだけでこの教師にお鉢が回ってきたというわけだった。

「…………」
「…………」
 対面し、無言で見つめあうナディナと教師。こうしていてもしかたない、と教師はナディナに話し掛けた。
「あー……日本語はオゥケイ? ドゥーユースピークジャパニーズ? オアイングリッシュ?」
 拙い英語で伝えてみたが、ナディナは視線を宙に彷徨わせていた。
『ウーン、ナニイッテルカチンプンカンプンダヨ……』
 どうやら、通じていないようだった。日本語はおろか、英語も喋れないらしい。
 ……こうなったら仕方ない、と教師は腹を括る。異文化コミュニケーションの最終奥義『ジェスチャー』だ。学生時代、フランス語を喋れない癖にフランスに一ヵ月間滞在し、ボンジュール以外全てノリとジェスチャーで乗り切った俺の実力、見せてやるぜ!
「えー……俺、お前、案内、する。オーケー、わかる?」
 教師は自分とナディナを交互に指差し、廊下へ一緒に歩いていくような腕を振るジェスチャーをする。すると彼女はパッと顔を輝かせた。
『アナタト、ワタシ、ムコウデ……バトル! オゥ、ニホンジンってセッキョクテキデスネ!』
 大人しく着いてくるナディナを見て、教師は満足そうに頷く。――うんうん、俺のソウルが通じたのだな。真に生徒のことさえ思いやれば、教師としての熱い心は伝わるのだ。
「ここは第三科学準備室。怪しげな薬がたくさん置いてように見えるが――まあ、久遠々原基準なら普通の教室だ……っと、あれ? ナディナ?」
 いつの間にか、先ほどまで着いてきていたはずのナディナが遠くで止まっている。何やら準備体操のように腕をぐるぐる回しているが、突然彼女の身体が発光し始め――。

「ケンカとハナビハエドノハナー!」

 ――光纏し、火炎放射器をぶっ放してきた。
「あんぎゃああああ!? な、ナンデ!?」
 咄嗟に飛び退いた教師のいた空間に炎の残滓が舞い残り、その熱さとは裏腹に教師の心にはぞくぞくっと冷えていた。
 ……ああ、そういえば例の人類学講師から聞いたことがある、と教師は回想する。
 彼女の部族は「戦い」「喧嘩」に類する語彙が多く、政治や求愛の場にも「戦闘」で決着をつけるという文化がある。そしてそれはジェスチャーも共通だと。
 日本では通用する当たり前のジェスチャーが、彼女達も部族には全く違う意味になってしまう――だから彼らとコミュニケーションをする時は注意したまえよ、と。そんなことを言っていたような気がする。
 きっとあれだ。さっきの歩くために「腕を振る」ジェスチャーを、ナディナは「殴り合う」動作と勘違いしたのだ、と教師は思い当たった。

「オブツハショウドクダー!」
「待て待て待て待てー! 降参、降参だ!」
 教師は叫んで両手を上げ、降参の意を示す。「両手を上げる」ジェスチャーが伝わらなかったらどうしようもなかったが、教師の必死の顔を見てどうにかナディナには伝わったようだ。
「?」
 と小首を傾げてナディナは攻撃の手を止める。彼女にしてみれば、始めた遊びを突然中断されたようなものだろう。その瞳はおもちゃを取り上げられた子犬のようだった。教師の心にはほんの少しだけ、罪悪感が沸いた。

 その後……何度も何度も酷い目にあった。
 空を指差す動作をしてはスカイアッパーを食らわされ、鼻をかく動作をしては脳天に踵落としを決められ、ふぅと溜息をつく動作をしては10メートルほど吹き飛ばされた。教師の身体はもうぼろぼろだった。
 しかし……ナディナには罪悪感はないらしい。むしろ楽しんでいる。
 彼女の部族にとってみればこれは日常。彼女の文化をおかしいと思う日本人の感覚は、ナディナにとってみればそっちの方が異文化なのだ。それがわかっているだけに、教師は文句すら言えない。

 その時……ぶっ倒れている教師の横を、久遠々原の生徒が通り過ぎた。そうだ! と教師は閃いた。
 自分ではナディナとコミュニケーションを取ることができない。しかし、彼女と同年代の生徒達ならばどうだろうか。
 彼女と年代も近く――また、常に闘争の場に身を置いている生徒諸君ならば、彼女と意思疎通をすることが可能かもしれない。

「おぉいっ。そこの君達! 待ってくれっ」
 教師が生徒を呼び止めると、生徒達はぼろぼろになった教師の姿を目にして目を丸くしていた。


リプレイ本文


「……この子が例の留学生だ。みんな……仲良くしてやってくれ……」
 依頼者の教師がナディナを紹介する。教師はもう息も絶え絶え、満身創痍といった具合にボロボロである。
 一方、紹介を受けたナディナは突然人がたくさんやってきて警戒していた。じろじろと生徒達の顔を眺め、怪訝そうな表情を浮かべている。
「……とりあえず、事情はわかりました」
 城里 千里(jb6410)の目が、教師の疲れ切った表情に向けられる。
(先生をしてこの惨状じゃ、相当に心しないとな……)
 千里はごくりと喉を鳴らしながら、ひとまず案内する場所について思案した。
「それじゃ、よろしく頼んだ……」
 教師が離れていき、撃退士とナディアが対面した。
「あはは、厄介な依頼を受けちゃったね、源ちゃん」
「……」
 藤沢薊(ja8947)が苦笑いをしつつ静馬 源一(jb2368)に話しかける。二人は元々友達だった。
「やるからには頑張るけどね……って、源ちゃん?」
「……」
「げ、源ちゃん!? 魂! 魂が口から出てるよ!?」
 源一は残念ながら白紙でプレイングを提出してしまっていた……! 源一の後悔の念は魂となり、ぽわわんと口から抜け出て廊下を彷徨う。
「う」
 源一の魂を食べ物か何かと勘違いしたナディナは、魂の先の『〜』←こうなってる部分をつまみあげ、ぱくりと食べてしまった。ばったりと廊下に倒れる源一の身体。
「源ちゃーん!?」
 もぐもぐと口を動かすナディナに一人の生徒が近づいていく。それは姫咲 翼(jb2064)だった。
「俺は姫咲翼、よろしくなナディア♪」
 ぐっと親指を自分に向け、自分の名前を名乗る翼。
「……ツ・バ・サ?」
「おうそうだ、俺の名前は翼だ!」
 にかっと笑う翼に、ナディナも安心したのかにこにこと笑みを浮かべ、

 ぱちこーん!

「ぐはーッ!?」
 ……ナディナの拳が翼の頬にめり込む。翼は空中で体をくるくると回転させながら廊下を飛び、ずさーと床を滑っていく。
『私ノ国デ名前ヲ教エナガラ自分ヲユビサスノハ戦ウ前ノアイサツ!
 私の名前ハナディナ。サアツバサ、ゾンブンニ喧嘩シヨウ!』
 ナディナが自分の顔を指差しながらにこにこと笑う。もちろん生徒達はナディナが何を言っているのかわからず、そして翼は突然の強襲にきゅう、と廊下に伸びていた。
 廊下には既に二人の死体(?)が転がっている。そんな中、凶暴な彼女に近づくのは躊躇われた。
「おおー? 言葉がつうじないのだ」
 しかし、無邪気な表情を浮かべつつユラン(jb5346)は堂々と留学生に近寄っていった。
「でも、おともだちになりたい、好きってなりたいのは通じると思うのだ、うむ――」
 ぱーん! と不用意に近づいてきたユランをパンチが襲う。
「あうー」両目を×印にして地面にぱったりと倒れるユラン。「でも負けないのだー!」
 起き上がりこぼしのようにがばっと起き上がってきたユランに、ビクッとナディナが後ずさる。
 にこにこと不敵な笑みで仁王立ちするユランをナディナは「うー」と牙を見せながら警戒し、再びナディナに飛びかかろうとする。
「うがー!」

 ――と、ずずい、と何かを鼻先に突き出され、彼女の動きが止まった。

 それは、串に刺さった野菜の盛り合わせだった。
「……くんくん。うー」
 ナディナはそれの匂いを嗅ぎ、涎をたらりと流す。
「食べてもいいのだ。毒なんてはいってないのだ」
 一番先に付いている野菜をユランはぱくりと食べ、美味しそうに咀嚼する。
 ユランに促され、むしゃりと串にしゃぶりつく。口の中に塩の味が広がり、ナディナの表情がにへらーと緩みきった顔になる。
 おお、と他の生徒達が感心する。それほどに劇的な表情の変化だった。
「やっぱり、ナニ人だってかんけーないんだよっ、一緒においしーもの食べたら、仲良くなれるんだよっ(・∀・)☆ミ」
 得心したように新崎 ふゆみ(ja8965)が頷き、走り出す。
「ふゆみはお料理しに行っちゃうよっ☆ ちょっと待っててねー(・∀・)」
 生徒達は突破口が見えた、と頷きつつナディナの案内を始めるのだった――。


「ぎゃああ、攻撃してきた! タンマ、タンマ!」
 教室に案内していたところを、ナディナの回し蹴りが薊を襲う。薊はその腰の入った蹴りを身を捩りつつ、腕でガードした。
「ふう……危ない危ない」
「おおっ、すげー動き……って、こっちにも来た!?」
 死体から復活し、カメラで写真を撮っていた翼に向かってナディナが突進する。どうやらフラッシュの光を何かの攻撃と勘違いしたらしい。
「わっ危ない!」
「うおおっカメラだけは――ぐはっ!」
 薊が華弾『Brodia』を使用し、ナディナの攻撃を逸らす。逸らした攻撃は見事翼のカメラを守り――翼の顔面へとナディナの飛び蹴りがクリーンヒット! 翼はもんどり打って再びばったりと倒れてしまった……。
「Noだ、ナディナ。そうじゃない!」
 千里の強い口調にナディナの動きが止まる。
「うー?」
 彼女としてはスキンシップのつもりなのだ。何故止められるのかわからないナディナは、不満そうな唸り声を喉から鳴らす。
「なでぃな、きげん治すのだ。これやるのだ」
 ユランがナディナに差し出したのはブルーハワイのかき氷だった。
 ナディナは見たことのない青色の氷に興味津々で、つんつんと指で突いて冷たさにぴゃっと飛び退く。
「これはたべる氷なのだ」
 ユランは片手に持っていた苺味のかき氷を食べて見せると、ナディナも真似をしてかき氷をぺろり――途端、彼女の瞳が輝いた。
「おーいいね、かき氷。俺も買ってくるね」
 ガードした腕が痺れているのか、手をぷらぷらさせながら薊が言う。
「うむ。はやく買ってくるのだあざみ。後で食べくらべしようなのだ!」
 その間にもナディナはユランからかき氷を受け取り、がつがつとかき氷を口に運んでいる。
「あーえっと、ナディナ? そんな勢いで食べると後で頭が……」
「いい食べっぷりなのだ! 私も負けていられないのだ!」
 止めようとした千里の言葉を遮って、ユランもがつがつかき氷を食べる食べる。
「……俺、もう知らねえぞ」
 千里がそっぽを向くと同時――ユランとナディナの目がかっと見開いた。
「頭がいたいのだー!」
「う〜〜!」
 二人は揃って頭を抱えている。ふぅ、と千里が呆れたように溜息をついた。


「ご飯作ってきたよー(・∀・)」
 食堂へ場所を移し、皆で小休止していたところでふゆみが現れた。
 サンドイッチ、パウンドケーキ、クッキー、そして、アフリカ料理風のカレー……ピーナッツやレーズン、フルーツを加えたもの……を机に並べていく。美味しそうな匂いに、おーっという皆の歓声が沸く。

 ――と、ナディナがふゆみのことを不思議そうにじっと見ていた。まだ自己紹介をしていなかったのだ。
「やーやー、ふゆみだよっ★ミ よろしくねっ☆」
 両手でピースをしてみせるふゆみに、ナディナは首を傾げる。
「……う?」
 彼女は右手で左手の指二本を持ち上げて、その指の形に首を傾げている。どうやらナディナはピースサインの意味がわからないらしい。それを察したふゆみがピースの意味を伝えようとする。
「ピースはねっ、Vサインなのっ! あれ、でもVって何なんだろう……(*´Д`)」
 うんうんと考え出すふゆみ――だがすぐにパッと表情を変えた。
「まあいいやっ☆ ピースはね、『元気っ!』てことだよ☆」
 にぃ〜っと笑ったままピースをするふゆみ。理解したのか理解していないのか、ナディナはじっとその不思議な指の形を見つめるだけだった。

 ふゆみとの挨拶を終えたナディナは、すぐさま目の前の食事にありつこうと両手を皿に突き出す。
「こらっ。ちょっと待った」
 すっかり教育係みたいになっている千里が手でナディナの動きを遮る。
「うー!」
 両手をぶんぶん振り回して千里の腕を振り払おうとするが、千里はその手を逆に押さえつけて膝の上に置かせた。
「ほら、よく見てるんだ。……新崎、これ貰っていいか?」
「うん、どうぞ召し上がれっ☆」
「ありがとう……いただきます」
 千里はきちんと手を合わせてから少し顔を下げ、貰ったクッキーを頬張る。
「ほらこうやるんだ」
「ナディナちゃん、あたしとやろうか」
 クッキーをふゆみから二枚貰い、鬼灯丸(jb6304)が一枚を手渡す。
「はい、どうぞ」
「……い、いたあ、りす?」
 ぐちゃぐちゃの発音で、腕全体で三角形をつくるような不自然な手の合わせ方をするナディナ。
「ちがうちがう、手はこうで……『いただきます』だよ」
 鬼灯丸がナディナの腕を取って姿勢を正しくさせて、ナディナの近くでゆっくりと発音をレクチャーした。
「……い・タ・だ・きます?」
「合ってるよナディナちゃん! はい、召し上がれ!」
 鬼灯丸がクッキーを差し出すと、ナディナはばくばくと凄い勢いで食べ始める。
「ナディナさんも出来るようになったしっ、みんなでやろーよ☆ミ せーのっ★」
 皆は手を合わせ、口を揃えて言った。

「「「いただきまーす」」」

 わいわいとふゆみの料理を食べだす一同。食事をする皆を満足そうに見ながらふゆみは言う。
「たしかにさー、日本とナディナさんとこって、全然違うと思うんだよっ。でも、ごはん食べると、うれしい! のは、いっしょだよっ★ミ」


 ――その場所は今まで案内されたところとは少し、雰囲気が違った。

 そこは演習場。日夜撃退士が訓練のため戦闘を行う場所。
 根っからの戦闘部族であるナディナは目聡くその匂いを感じ取り、警戒心をむき出しにする。そんなナディナに、鬼灯丸がニヤリと笑いかける。
「ナディナちゃん、お待ちかねの場所だよ」
 鬼灯丸が腕を振る動作をしながらそこを指差す。
 教師から聞いていた限りでは、その動作をした後すぐに彼女は教師に戦闘を仕掛けてきたという。
 ナディナは今までで最も生き生きとした表情をして、そこの扉を開けた。そこには――
「お前が……異国より来る戦乙女か。愛らしい姿だ。だが、それゆえに楽しみだ」

 ――戦闘態勢を整えていたランディ ハワード(jb2615)が、待ち構えていた。

 何かを察したナディナがその場から離脱する。――瞬間、彼女がいた空間をランディの剣が切り裂く。
 獣のように四足で着地し、すぐさま光纏するナディナ。ほぼノータイムで武器を生成し、ランディに飛びかかる。ランディは剣で受け止め、鍔迫り合いとなる。
「ほう、凌いだか。一撃目を凌ぐとは。なかなか。だが」
 ランディは強引に剣を振るい、ナディナは宙で回転しながら着地。ランディは翼をはためかせ、空へと離脱する。
「飛行戦力相手にどう戦うかな?」
 飛行能力のないナディナは悔しそうに唸りながら地上をぐるぐると走り回る。
「はぁッ!」
 地上にいるナディナ目掛け、ランディは空中から彼女へ肉迫し、重力すら利用して剣を振り下ろして兜割りを仕掛けた。それは彼女の脳天にヒットした――。

 手応えあり――。

 これ以上の戦闘は無用とランディが剣を収めようとする――その一瞬の油断が、彼の判断を鈍らせた。
「なっ!?」
 ナディナは一撃を受けたものの、倒れてはいなかった。見ると、彼女の肌には刻印が刻まれていた。彼女は自分に『聖なる刻印』をかけていたのだ。
 ナディナは剣を右手で握りしめランディが再び空に逃げられないようにし、頭を弓のように振り被って頭突きをかました。
「――くっ」
「うー!」
 ランディの身体が吹き飛ぶ――とはいえ、ナディナも無傷というわけではない。兜割りのダメージは蓄積している。互いに痛み分けだった。
「これからが本番――といったところか」
「う!」
 ランディとナディナは不敵に笑い合う。

「よーし、あたしもそろそろ混ざるよ!」

 それまで観戦に徹していた鬼灯丸が、演習場へ躍り出る。それに反応し、ナディナが武器を火炎放射器に持ち替えた。
 互いに接近する鬼灯丸とナディナ――と、鬼灯丸が頭上を指差した。そのサインはナディナの国では『顎を殴って来い』という挑発のジェスチャーだった。鬼灯丸は先の教師の話から、それらのジェスチャーから相手がどう行動してくるのかを察していた。
 挑発通り顎を狙うナディナの動きを鬼灯丸は完全に読んでいる。半歩後ろに下がって躱し、腹に向けて蹴りを放つ。ナディナは肘でガードしつつ地面を吹き飛ぶ。
 鬼灯丸の徹底的な頭脳プレーに翻弄されるナディナ。しかし彼女が浮かべるのは愉悦の表情だった。「まだ俺も残っているぞ」
 体力を回復したランディが空中から剣を振るい、ナディナはそれを回避し地面を転がる。
「よーしっ、ふゆみも混ざっちゃうよ☆ミ」
「私もたたかうのだ!」
 楽しそうに戦う三人に触発されたように、次々と他の撃退士も演習場に混ざっていった――。

 ――演習場の隅で、彼らの混戦を見つめる者がいた。
「っはは……やっぱりすげぇな……」
 翼は彼らの勇姿をファインダー越しに眺めつつ、感嘆の声を漏らした。彼自身は戦闘に関して全くの素人を自認している。撃退士達が本気でぶつかり合う姿は、彼の心を刺激するには充分だった。
 翼は模擬戦の様子を、写真の中に納め続けた。


 演習場での激闘を終えた彼らは、ナディナの学校案内の最後に屋上へとやってきていた。
 戦闘で火照った体に屋上の風が通り抜ける。さすがの留学生も暴れ回って疲れたのか、若干ふらふらとした足取りだった。その肩を、後ろからランディが支える。
「?」
「楽しい戦いだったな。疲れた時には甘いものがいいらしい。ほら、食うか?」
 そう言って、ランディはチョコを取り出す。それはスティックタイプのものだった。
 それを見ただけで涎を流し、ものすごく物欲しそうに見つめる留学生を見て、ランディはふとイタズラを思いついた。
 チョコの先を自分で咥えるランディ。そのままナディナの口元に持っていく。
「ほら、どうだ」
「――#$%&!?」
 さすがの彼女も男女の顔が近づくというのがどういう意味合いを持っているのかわかっていたらしい。スパーン! と正拳突きがランディの腹に直撃する。
「ぐはっ……」
 腹を押さえて蹲るランディ。そんなことをやってる内に声がかかった。
「おーい、準備できたぞー。そこに並んで―」
 翼が脚立にカメラを構えて全員に号令をかける。生徒達は戸惑うナディナを連れ立って、夕日をバックに並んだ。
「3……2……1……」
 自動シャッターにした翼が、急いで列に加わる。全員、各々の格好で写真に納まろうとポーズを取る。
「いえーいっ(・∀・) ピースピース☆」
「あたしもピースするよ!」
「う?」
 ピースをしているふゆみと鬼灯丸を、ナディナは不思議そうに見つめる。
「ほらっ、ナディナさん! こういう時こそピースッ!☆ だよっ★ミ」
「……う!」
「はい、チーズ!」

 パシャリ!

「これからは皆、一緒に闘う仲間だぜ♪」
「ようこそ、学園へ。新しい戦友」
 留学生のナディナはこの日、ピースサインの意味を知った。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ひょっとこ仮面参上☆ミ・新崎 ふゆみ(ja8965)
 『九魔侵攻』MVP・ランディ ハワード(jb2615)
 白色天然・ユラン(jb5346)
重体: −
面白かった!:5人

八部衆・マッドドクター・
藤沢薊(ja8947)

中等部1年6組 男 ダアト
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
大洋の救命者・
姫咲 翼(jb2064)

大学部8年166組 男 バハムートテイマー
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
『九魔侵攻』MVP・
ランディ ハワード(jb2615)

大学部6年247組 男 鬼道忍軍
白色天然・
ユラン(jb5346)

大学部3年180組 女 インフィルトレイター
欺瞞の瞳に映るもの・
鬼灯丸(jb6304)

大学部5年139組 女 鬼道忍軍
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター