●番組開始!
昼下がりの宝石店は来客こそ少ないものの、有閑マダムや恋人達でそこそこの賑わいがあった。
――その賑わいが、突如破られる。
「ダイナミックおじゃましまっす! ジュエルギブミー!」
パリィン! という音とともにガラスが大破。元気娘、城咲千歳(
ja9494)が店に突入する。
「「キャアアアッ!」」
悲鳴を上げたのはエキストラのマダム(演技)と店長の岩井さん(ガチ悲鳴)。
いきなり店に損害が! こんなことになるなんて聞いてない!
悲鳴を合図にしたかのように続々と強盗団が入店していく。
「怪盗アーニャ参上! 華麗に盗んで逃げまくるからね〜」
アーニャ・ベルマン(
jb2896)が忍刀・蛇紋を上段に構えて店に突入。近くにいたエキストラが火の粉を散らすように逃げ回った。
「くくく、これで海外へ高飛びして一生遊んで暮らすぜ」
彼女の横から登場したのは白野 小梅(
jb4012)。くるりと前転しながら膝立ち、びしっと銃を構えた。
「ほーるどあーぷっ!」
きまった、とドヤ顔な彼女の恰好は大きなサングラスと軍人キャップ、手には全長186mmの自動拳銃……あまりにも背丈と服装にギャップがありすぎる。
だが大丈夫! 視聴者は幼女に弱い! これは高視聴率が期待できそうです、とプロデューサーが拳をぐっと握った。そんなプロデューサー、局内でロリコンと有名である。
小梅の後ろからドアを蹴破ってやってくるのはマスクで顔を隠し、レオタードを着た海城 恵神(
jb2536)。ある意味怪盗の正装みたいな恰好だ!
「ラビットアイ、華麗に参上!」
めちゃくちゃな恰好の二人は店員と客を一ヶ所に集めてふん縛る。
一方、二人と同じく店員の見張り役になった藤白 あやめ(
jb5948)だったが、彼女はなるべくカメラに映るまいと、二人の影に隠れている。
「えっと、……動くなー」
演技も完全に棒読みである。
それでも手に持った弓は絵面的に怖い。大根演技で弓の照準を一人の男性店員に合わせているが、その弓の威圧感だけで店員はちょっとチビりそうになっている。
「あ、手が滑りました」
「ひぃいい!?」
店員目掛け矢が放たれる。矢は店員の耳元をしゅぱんっ! とかすめ、飛んでいった。
店員はへなへなと座り込んだ。何故か彼は内股になり、気のせいか彼の座り込んだ床が濡れている気がするが……うん、この部分は編集でまるっとカットだ!
「……ちょっと、失礼しますよぅ……」
映像的にはモザイクがかかっている店員の横を月乃宮 恋音(
jb1221)が通り過ぎ、店長に近づく。恋音の頭には取ってつけたようなネコ耳ニット帽が!
「カメラ回してください、少女のネコ耳は数字持ってますよー!」
そんな命令をカメラマンに出すロリコンプロデューサー。……女性スタッフが若干引いてる。
恋音は店長の額に触れ、シンパシーを行う。シンパシーからシステムを理解した恋音はレジ付近の機械をピッピッといじり、システムを掌握した。
その時、おおっ、と店の人間からどよめきの声が漏れた。撃退士は記憶を読み取ることもできるのか、という驚きの声である。
ほとんどの方は忘れているが、この企画の目的はアウルに目覚めた相手を想定した防犯訓練。こういったことが出来るとはやはり撃退士恐るべしと従業員は感嘆の声を上げた。
その頃、店の外では……。
「にんにん! 現在拙者達の姫が買い物の為貸切中でござる! だから何もしないでしばし待つでござる!」
「お姉ちゃん達の、買い物、邪魔すると、た、大変なことになるから、ちょっと待った方が良いですよ……?」
ござる口調の学生と見た目年齢11歳のショタっ子が入店の邪魔をしていた。日向 迅誠(
ja5095)と啾啾(
jb6406)である。
……なんだか、余計に目立っている気がしなくもない。
そうこうしている内に店の中から発煙筒の煙が上がり、他の六人が外へ出てきた。
出がけに千歳は紙を取り出し、筆で一筆書いて扉にペタペタと張りつける。
その紙にはこう書かれていた。
『旅に出ます、探さないでください by強盗』
……なんともシュール。
しかし彼女、なんと本当にプレイングにどこに逃げるのか書いていない! 彼女は一体どこへ行ったのか、その行方は誰にもわからない……。
「飛んでっちゃうよー!」
「そ、それでは、の、後程……」
撃退士もとい強盗犯達が一つずつニセモノの宝石を持ち、各々の逃げ場へと立ち去っていく。
アーニャもまた西側へ逃走しようとするが……そこで、気付いた。
……宝石が、ない。
「え、あれっ? 確かに私、宝石持ってたはずなのに……」
ごぞごぞと服を探るが、どこにもない。無くした? いや、そんな馬鹿な。
――その時、ワハハと呵々大笑する少女が一人。
「私はラビットアイ、この宝石は頂いていくぜ!」
レオタードでマスクな怪盗、恵神だった。
彼女の手にはアーニャが持っていたはずの宝石が燦然と輝いている。彼女は隙を見て「奪う役」の一人、アーニャからこっそりと宝石を盗んでいたのだ。
これはプロデューサーも驚きの珍プレー!
ぽかーん、とするアーニャとスタッフを尻目に、恵神はしゅぱッと空へと飛び去っていく。
「あーばよ〜とっつぁん!」
ハッと我に返ったアーニャが慌てて恵神を追いかける。
「待てール○ン! タイホだ〜!」
即座にネタを切り返していく辺りさすがの漫画好き。何だかんだ楽しそうな二人だった。
プロローグから波乱の展開! これから撃退士達を待ち受ける運命とは!? 怒涛の後半へと続く! チャンネルはそのままで!
●早くも後半残り10分!
なんと途中部分は尺(と字数)の都合でばっさりカットされた!
一時間番組でやるには撃退士達のポテンシャルが高すぎたか!? 以下、ここまでに捕まった四人の健闘をダイジェストでお送りします。
ケース1:あやめ
南の地域に逃げたあやめの後方から警備側の陰陽師が追いかけてくる。速さは互角だった。
「く、くるなー」
相変わらずの棒演技であやめはくるりと反転、陰陽師に異界の呼び手を使う。大根演技なのにスキルはガチだった!
無数の腕が陰陽師の眼前に出現し、行く手を阻もうと四肢をがっしと掴む。
陰陽師が動けない隙にあやめは遠くへ逃げようとする。
「……と。あらら?」
あやめの視界が揺れた。方向感覚が定まらない。視界の揺れがひどくなり、ついにはあやめは膝をついてしまった。
「……ふっふっふ。もう逃がさないわよ泥棒ちゃん」
恐怖で涙目になっている陰陽師があやめの目の前に立つ。陰陽師のスキルの一つだった。
――んー、もう捕まっちゃってもいいかなあ。
心の中であやめは思う。
テレビが来るなんて最初から聞いていないし、あまり目立ちたくはない。
頑張ればもう少し逃げれそうだったが、ここであやめは断念。大人しく捕まった。
ケース2:アーニャ&恵神
恵神はあっさりアーニャに捕まった。空を飛べるとはいえ、ルインズブレイド対鬼頭忍軍。スピードの差は歴然である。
だがしかし! 彼女達は自分達の追いかけっこに夢中で、気が付くと周囲を囲まれていた!
「へっ、年貢の納め時か」アーニャが鼻を親指でこすり、自嘲するように言う。だが途端にほにゃりとにやけ顔になった。「一度言ってみたかったんだよねーこの台詞!」
「イエーイ、みんな見ってるー?」
陽気に叫ぶ恵神はアーニャに縄でぐるぐる巻かれ、す巻きになっている。
――二人を取り囲む撃退士が一斉に二人を取り押さえようとする。そこでアーニャが動いた。
びしっと右腕を斜め上方に伸ばし、左腕は腰に当てる。
スキルを使うのかと警備達は身構えたがそんな様子はない。……ただの戦隊ポーズだった。
「これ邪魔する人がいたら、ワビサビを理解しないうえに粋じゃないよ。うん、略してワサビ!」
伸ばした右腕を半月状に回していく様は正にヒーロー! しかしわびさびは間違ってる!
「ひょえー! かっこいー! 私も何かやっちゃうぜ!」
す巻きな恵神も目を輝かせ、なんとその状態でブレイクダンスを始める。頭を軸にぐるぐる回るヘッドスピンだ! す巻きのままヘッドスピンが出来るとはさすが撃退士と言わざるをえないが、激しく才能の使い道を間違えている気がする!
色々間違えまくっている彼女達は満足いくまで技をカメラの前で披露した後、晴れやかな顔をしたまま御用と相成った。
ケース3:恋音
強盗発見の連絡を聞いた警備側の鬼頭忍軍が砂浜に向かうと、そこには段ボールをひいてジュース飲んでくつろいでいる猫耳娘、恋音の姿があった。
段ボール! そう、恋音は店を出る際、何故か段ボールと紙袋を盗んでいった。
段ボールと鬼ごっこの組み合わせといえば――某ゲームの傭兵しか思い浮かばない!
伝説の潜伏法が見られるかも、とちょっとわくわくしていた忍軍は少しがっかりしていた。しかし、彼はこの後地獄を見る!
恋音は、何故かろくな抵抗もせずに捕まった。若干怪しいと感じつつも、恋音をそのまま宝石店近くの拠点まで連れてきてしまった。
だがしかし、なんと恋音は宝石を持っていなかったのだ!
「ええぇ! そんなのアリかよ!?」
驚愕する忍軍。
「……えと、そのぅ、宝石は砂浜に埋めてきました……」
ルールの穴をついたプレイング! 恋音さんさすがです。
彼はその後、炎天下の中で砂浜にUターン。段ボールの下に隠された宝石を見つける頃には日焼けして肌がぴりぴりする弊害を負ったそうな。
●インタビュー
さて、ではまだ捕まっていない方々にインタビューをしてみましょう。
「おっと、スキルが切れちまったぜ」
カメラは森にいた迅誠さんの姿を捉えました。さっそくインタビューしてみましょう。
「んっ、何か用か? 追っ手に見つかっちまうから手短にな」
はい。今までカメラの前に現れませんでしたが、迅誠さんはどこにいたんですか?
「壁走りのスキルを使って木のところに隠れていたぜ!」
なるほど。撃退士はそんなこともできるのですね。せこいですね。
「にんにん! 忍者は基本汚いのでござるよん!」
ところで迅誠さんは今のところ目立った活躍がありませんが、それについてどう思いますか?
「んな!? 何でだよっ? 俺ずっとござる口調だったし、木から木へと飛ぶ忍者っぽいアクションしてきたぜ!?」
だって、基本隠れてるんですもん。ほら、前半しかカメラに映ってないですよ。
「ぬっ。……ぐぬぬぬ」
制限時間は後10分です。10分隠れ続けていれば見事勝利です。おめでとうございます。たいして目立ってないけど勝ちは勝ちですよ。
「く、くそう! やってやるっ! 俺は一花咲かせてやるぞー!」
番組ADの煽りに乗ってしまった迅誠。彼の運命やいかに!
……あっ。バハムートテイマーに直接向かって行った。タオルで相手の目隠ししようとするが……普通に反撃された。無茶しやがって……。
漢、迅誠。最後に一花咲かせ、脱落。
次のインタビューは啾啾ちゃん。二人目の女子小学生です。プロデューサーがハアハアしてるのがキモチ悪いです。
「ち、違いますっ。ボ、ボクは男で、高等部です……」
え、そうなの!? あ、プロデューサーがっかりしてます。
住宅街に逃げ込んだ啾啾君、実はなかなかの策士。
SNSでそうそうに居場所を特定されてしまうも、自分でもSNSに『その子なら○○で見たよ?』と書き込み。情報攪乱された警備達はいまだ彼を捕まえられていません。
では、啾啾君。あと10分逃げ切れば勝利ですが、今のお気持ちを。
「お、お餅のおかげです」
お餅? あ、手に持っているその餅、美味しそうですね。良かったら貰えます?
「は、はい。どうぞ」
ありがとうございます。……おっ、これはなかなかもちっとしていて良い食感……あれっ? なんかジャリッという感触が。このお餅、中身は何なんですか?
「唐辛子です。ボ、ボク辛いのが大好きなんですよ」
うっ……。
うわあああ! 辛い! 唐辛子入れすぎ!
バラエティの罰ゲーム並みですよこれ!
「あ、じ、じゃあボクはこれで……」
だ、誰か水を!
――さて、気を取り直してインタビューを続けていきたいと思うのですが……残りのお二方、千歳ちゃんと小梅ちゃんの姿が見当たりません。
あ、ちょっと待ってください。……はい、スタッフの情報によりますと、千歳さんは今現在猛スピードで町中をぐるぐる回っているそうです。
警備の皆さんも追いかけているそうですが千歳さんが早すぎて誰も追いつけないらしく……当然一般人である番組スタッフも追いつけません!
とまあ、こんなところでインタビュー終了です。ありがとうございました。
●十秒前
それぞれの撃退士の思惑が重なる中、時間は刻一刻と迫っている。撃退士同士のガチ鬼ごっこ『防犯訓練@ガチ』。その勝敗は――!?
残り……9……8……7
「ウチに追いつける奴なんて誰もいないっすよ!」
6……5……4
「お、追いつめられた……。な、なんて、思うか、こ、こんにゃろ!」
3……2……1
「……くうくう、すやすや……」
ん? くうくうすやすや?
ピィィィ!
終了ォ!
強盗側、捕まらなかった撃退士は……三名!
よって勝者、強盗チームです!
歓声と拍手が湧き上がり、勝者には惜しみない拍手と、敗者にはその健闘を称えられた。
こうして、盛況の内に『防犯訓練@ガチ』は幕を閉じた。
●あれっ一人足りない?
「小梅ちゃーんっ! どこっすかー?」
「……白野さーん、番組はもう終わりましたよー……」
番組終了後、撃退士と番組スタッフはいつまで経っても帰ってこない小梅を捜索していた。
番組終了に気付いていない? それとも事故? 何かの事件に巻き込まれた? 誘拐!?
番組スタッフと撃退士の面々は懸命に小梅の行方を探した。
なお、誘拐というキーワードで真っ先に疑われたのは番組プロデューサーだったことはここで特筆すべきことではない。
その時、あやめが何かを見つけた。
「みんなー! こっちこっちー!」
彼女の指差す先にはロケ車。カメラが駆け寄り車の下に潜り込むと、そこには猫みたいに体を丸めて眠りこむ小梅がいた。
「……にゅふふ、灯台下暮らしなのさー……」
小梅はなんとも言えない幸せそうな表情でむにゃむにゃと口を動かす。どうやら彼女はずっとここで隠れ、いつの間にやら眠ってしまったらしい。
「うおお、幼女の寝顔! やっぱり幼女は最高ですよー!」
す巻きになっていたプロデューサーが歓喜の叫び声を上げる。
「プロデューサー、画面の前に出ないでくださいよ!」
何人かのスタッフに取り押さえられ、プロデューサーは画面からフェードアウトしていく……。
そんな騒ぎも余所に、小梅は幸せそうに眠り続けている。
そんな天使の笑顔をお茶の間にお届けしつつ、番組放映は終了した。