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マスター:クダモノネコ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/09/03


みんなの思い出



オープニング

●群レナス魔ノ陰謀
 関東地方北西部、魔の蔦が絡みついた33F建てのビル。かつては県庁舎として機能していた建物も、今は悪魔の支配の象徴である。
 魔族好みの内装にカスタマイズされた上層の一室で、とある悪魔は部下の報告に、眉を顰めていた。
「周辺地域で撃退士がでしゃばっている?」
「はい、埼玉北部、栃木東部‥‥所謂『県境』と呼ばれる地域でも、奴らの干渉が確認されております」
 壁掛け鏡の表面が歪み、ぼおっと明るさを増した。
 映しだされたのはどこか遠くの山中。久遠が原学園の制服を来た少年少女たちと地元の住民が、嬉しそうに握手を交している様が見える。
「ふん、このような子どもにやられるとは‥‥この地域の担当者は余程の無能か」
「恐れながら、ここだけではございません」
 その言葉を裏付けるように、鏡の映像が変わった。
 埼玉県北部、通称「骨の街」。ドラゴンゾンビを中心に据え、既に自治を奪って久しいはずの地域だ。
「‥‥これはいつの記録だ」
「斥候のコウモリが持ち帰ったのは、1ヶ月ほど前かと」
 広がる廃墟の中、凛と駆ける撃退士の姿。
「さらに他にも‥‥」
「もう良い、貴様の懸念はわかった」
 さらに実例を示そうとする部下を制し、悪魔はううむと唸る。不愉快極まりないが、部下の手前、ここで露わにするわけにもいかない。
「だが、このエリアはアバドン様の膝下。強大なお力で結界を施している。撃退士とはいえ所詮人間、這い入ることはおろか『気づく』こともできぬわ。それとも何か、貴様はアバドン様の偉大なるお力を、信じられぬと申すか?」
「滅相もございません。ですが‥‥」
 強大な支配者の名に、部下が一瞬身震いする。だが、憂いの表情は晴れないままだ。
「人間の慣用句に、念には念を入れる、というものがございます。ここは我々の力を示し、撃退士、ひいては人間どもに無力な身の程をわからせることも、無駄ではないかと」
「ふむ……」
 悪魔は天井からぶら下がったシャンデリアを視線を移し、考えをめぐらせた。
「それも一理あるな」
「左様で」
 強大な支配者の側近として「この地」に遣わされてもう随分になる。支配は安定しているが、拡大の目途は中々立たないままだ。
──ならば積極的に、撃退士を「駆除」するのも悪くないのではないか?
「よかろう。周辺地域の撃退士を、根絶やしにしてやろうではないか。二度と「この地」……アバドン様のお膝元に近づこうなどと、思わないようにな」
 立ち上がり、笑みとともに判断を下す悪魔。
「かしこまりました」
 部下は一礼し、大きなコウモリに姿を変える。そしてそのまま、割れた硝子の隙間から外へと飛び立った。
 受け取った命令を、同胞に伝えるために。


●モイモイとデルたんとスーたん
 栃木県東部のとある山中にうち捨てられた、古い見晴らし塔。
 不景気の世、併設の商業施設と共に閉鎖されて以来、そこにもはや「人」影はない。
 ──「魔」の影は、あったりして。

 見晴らし塔の一番上……営業当時は立ち入り禁止だった機械室。
「モイモイ。言いつけておいたディアボロの出来具合はどうだい?」
「あ、ゼノさまー!」
 窓から入ってきた長躯の悪魔に気がついた塔の住人(魔?)が、無邪気な歓声をあげた。
「バッチリもい!」
「そうか、いい子だ」
 ゼノと呼ばれた悪魔は、人間のこども型ヴァニタスの頭を撫でて僅かな「満足」を示す。
 褒められたのがよほど嬉しかったのだろう。わかりやすく、実にわかりやすくヴァニタスの表情がぱあっと輝いた。
「もい! テマヒマとアイジョウをたっぷりかけて、モイモイがタイセツに育てたもい! 見てみてもい!!」
 茶色のくま耳つきケープを翻し、モイモイは小さなゲートを開いた。
 紫色の光がヴァニタスの足下からたち上り、今まで何も無かった空間に黒い影が実体化する。
 果たして出でたのは──!

「ほら、キレイなお花もたくさん咲いて、とってもかわいいにゅっと♪」
「か、かわいい……?」
 体長数メートルはありそうな巨大なディアボロであった。
 人間界の生物になぞらえるなら、タコに近い姿形をしている。
 だが属性は動物ではなく植物なのだろう、身体は気味の悪い緑色だ。
 タコの足に相当する極太のつるには、吸盤のかわりに赤い花が無数に咲いており、珍妙な臭いを放つおまけつきときた。
「デルたん、ゼノさまにごあいさつするもい♪」
「デル……たん?」
 ゼノは怯んだ。幸か不幸か、彼の美意識は人間のそれに近かったのだ。
「アスフォデルたんって名前をつけたもい」
「そ……そう」
 タコの胴体に当たる部分にぱっくりあいた大きな口も、そこから溢れ出る涎のような液体も、どちらかというと(いいやかなり!)気持ち悪かった。
 だが。
「ゼノさま、モイの育てたデルたんきらい? かわいくない?」
 彼が作ったヴァニタスは、主とは異なるセンスの持ち主のようだ。あからさまに顔に不安の色を浮かべている。
 悪魔は暫し逡巡し
(こ っ ち み ん な)
 上目遣いに己を見上げるモイモイと、足(つる?)を差し出し握手を求めるディアボロを交互に見やり
「……今後とも、よろしく」
 ややあって観念したのか、「デルたん」と挨拶を交わした。
 自身が拵えたヴァニタスといえど、その感情を疎かにすることは得策ではないとの判断故だ。
「……では早速実戦投入といこうか」
「おっけーもい! じゃあ、おともだちのスーたんも呼び出すにゅっと♪」
(二体も作ったのかよ! このキモイのを!!)
 眉間を押さえて瞑目するゼノ。
 中間管理職的下級悪魔の悩みは、なかなかに尽きない。


●というわけで撃退士さん事件です
 真夏の昼下がり。久遠が原学園依頼斡旋所の電話がけたたましく鳴り響く。
「はい、久遠が原学園、木村です」
コールを取ったのはこの夏、依頼斡旋所のバイトに挑戦中の木村 良大(jz0019)。
「はい、はい、……わかりました、お手数ですが地元警察などに協力を要請して、敷地付近から住民のみなさんの避難をお願いします。撃退士は準備でき次第派遣いたしますので」
 本日で勤務3日目、ようやく応対にも慣れてきた少年は丁寧に受話器を置いた。
 そして依頼作成用のPCに向き直り
「……えっと……『栃木県K市郊外の果樹園に、天魔が2体出現しました……』と」
 かたかたとキーをタイプし、ぱしんとエンターを押した。


リプレイ本文


 暦の上では秋とは言え、まだまだ暑い栃木県。今回の事件の現場となったK市郊外も例外ではない。
 丘陵地帯を切り開いた果樹園は、南北を山に挟まれ東西に細長い。樹が植わった緩い丘陵の真ん中を、細い農道がくねくねと伸びている。
 立ち上る陽炎。まとわりつくような湿気。収穫が近い果実の甘い香り。そして……。

 果樹園のはずれの農機具小屋。作業台には旧型のノートPC。
「何という趣味の悪い怪物…! どうせ精神のねじくれた、醜い悪魔が造ったに違いない!」
 農薬散布用のラジコン飛行機が持ち帰った僅か数秒の動画に、ラグナ・グラウシード(ja3538)は憤慨していた。
 緑の髪にルビーの瞳が印象的な青年だが、非モテ非モテしい(※1)オーラが残念だ。(※1禍々しい的な)
「まためんどくさいのが相手みたいだな……」
 非モテ騎士の横から画像を覗き込んだ御伽 炯々(ja1693)もうんざりした色を隠さない。斡旋所でも「標的」の静止画は見たが、動いているそれは全く印象が違う。
「現物見たくねえ……」
 炯々の嘆きも無理なしからぬことで。そこに映っていたの植物型のディアボロは、あまりにも奇怪だった。
 人間界の生物に例えるならば、水栽培で発根させた球根が近いだろうか。
 ただし色は毒々しい緑色で、球根部分には涎を垂らす大きな口があり、根にあたる部分は蔓とも触手ともつかない蠢く何かである。
 動画には蔓だか職種だかを伸ばして果実を貪る様が記録されており、非常に憎たらしい。
「あー……農家の皆さんが汗水流して育んだ一年の成果を……」
 ぐっちょぐっちょ。音まで聞こえてきそうな食いっぷりに小さな悲鳴をあげるのは逸宮 焔寿(ja2900)。
 依頼主の悲しそうな顔が思い出されたのか、拳に力が入る。戦闘に赴くのは久々だが、恐怖も竦みも最早ない。
(……焔寿、頑張る。)
 あるのは決意。──敵は殲滅あるのみ、なのです!
「天魔の場所は……このあたりのようですね」
 3人と反対側の作業台。ディアボロ動画の撮影座標と地図を照らし合わせていた神月 熾弦(ja0358)が、ついと顔をあげた。
 可愛らしい声での報告に、撃退士たちは銀髪の少女に向き直る。
「ここと……ここ。少し離れていますが、交戦中に気づかれると厄介です」
 繊細な指先がとん、とんと地図の2箇所を叩いた。
 なるほど彼女の言うとおり、2点は農道を挟んだ直線上にある。距離はせいぜい100m、乱戦となる危険性は高い。
 と、自信満々の笑みをうかべたのはラグナ。
「心配には及ばん。この私が『小天使の羽根』でこいつを引きつけてその場を離れる。醜い天魔ゆえ知能もしれている筈、山影か木の陰まで連れていけば、すぐに見失うだろう」
 ぶゎさぁっ!
 白い羽が騎士の背中に出現した。一見神々しく麗しいのだが非モテオーラが……いや、なんでもない。
「よし、グラウシードさんに1体を引き付けてもらってるうちにもう1体を斃そう。加減はしない、全力だよ」
 得物は刀、本質は剣鬼。腰の忍び苦無を確かめつつ、神喰 茜(ja0200)は迫る「戦い」に昂ぶりを感じていた。
 敵はお世辞にも美しいとは言えないが、斬るのに不足はない。
「ん、ラグナおにーさんの負担を短くする為にも、一気に倒してしまうのだ♪」
 今回最年少、元気いっぱいの焔・楓(ja7214)も一同の顔を見上げ、えいえいおーと拳をあげる。
「では、行きましょうか。……あ、皆さん『装備』を忘れずに」
 熾弦が指す先に鎮座するのは、依頼主が用意した小さな段ボール箱。中身は鼻から下をすっぽり覆う……ふた昔前の不良が嵌めていたようなマスクである。
「なかなかにシュールな光景になりそうだ……」
 逡巡の後、観念しそれを手に取る炯々。撃退士は大変なオシゴトです。



 晴れ渡る空の下、モイモイは「デルたん」が果実を貪る様を満足げに見つめていた。
「デルたん、美味しいもいね♪」
 道を挟んだ向こうの丘では、貯水槽の水で喉(?)を潤す「スーたん」の姿も見え隠れしている。
「いっぱいあるから、どんどん食べるもい」
 2体の怪奇植物は、幼いヴァニタスが初めて作ったディアボロだった。ゼノの「このみのたいぷ」ではなかったのは残念だが、モイモイにとっては可愛い「しもべ」である。
 そんな冥魔たちの上空を。
「もい?」
 白い翼を持つ何かが、横切った。
「こっちだ、醜い天魔よ! 私の輝きに言葉を失えッ!」
 それは冥魔たちの頭上3m程で、凛とした声を響かせる。同時に眩い金のオーラを発し、周囲を照らすオマケつき。
「あいつ、何者もい?」
 挑戦的な物言いと輝きに、モイモイはぷーっと頬を膨らませた。
「はははそうだ!!  こっちだ! 私を見ろッ!」
 ヴァニタスの不愉快の数%は、翼もつもの……ラグナの纏う「シャイニング非モテオーラ」で出来ていたかもしれない。
「デルたん! あいつをやっつけるもい!!」
 上空で高笑いするラグナを指差し、モイモイはディアボロに命令した。
 グギョォォ!
 怪奇植物は涎を撒き散らしながら咆哮し(嗅覚でなのか聴覚によるものか、視認したのかは謎であるが)
「さあ来い! 私をつかまえてみろ!!」
 光を撒き散らすラグナを標的として捉え、後を追い始めたのだった。



 地を揺らしながら、一体の怪奇植物と金の光が遠ざかってゆく。
 その様を確かめた熾弦は携帯電話で、炯々に告げた。
「御伽さん、グラウシード先輩が無事に一体を引きつけてそっちに向かいました。こちらも急ぎますので、対応をお願いします」
「了解。万が一『息』にあたって混乱しちまった時は、小石をぶつけてやれば回復すると思う。お互い全力を尽くそう!」」
 マイクの向こうの炯々は、あらかじめ打ち合わせた農道上のポイントで、ラグナ(と怪奇植物)の到着を待ち構えている筈だ。
 はい、と頷き通話を終える熾弦。残る一体……「スーたん」に挑む撃退士は、彼女を含め4人。
 立ち位置は敵の背後から約5m。気取られた様子は未だない。
「うわぁ……なにアレ……ちょっと近づくの躊躇うレベルなんだけど……」
 端正な顔の大半をマスクで覆った茜が、心底嫌そうに顔をひきつらせた。
 敵を切り伏せることに悦びを感じる剣鬼とはいえ、生理的にダメなものはダメなようだ。
「甘美なスイーツに生まれ変わってもらうのですよー」
 一方、焔寿は手元に清らかな紋章が浮かび上がらせていた。白く輝くそれは茜と楓の背中にひたりと貼り付き、ぽうっと光って、失せる。
「ありがと! 多少ならこのマスクでなんとかなるはず。スマッシュで行くのだ〜♪」
 聖なる刻印の加護に、楓が破顔した。小さな手に握られるのはトンファー。気合、十分。
「作戦通り、近接で一気に、ですね。……合図、します」
 熾弦の言葉に、茜と楓が頷いた。
 敵は依然、果実を貪っている。その背中、スキだらけ。
「3」張り詰める、緊張。
「2」高鳴る、鼓動
「1」痛いほどの、沈黙。
「いっくよー!!」
 地を蹴る音が3つと楓の宣言が重なる。茜の苦無が、斬意で白く濡れそぼった。
「えーい!」

 初撃は、アウルの力を特盛にした楓のトンファーだった。
 まずは左、ついで右の棍。
「ワン、ツーなのだ♪」
 鈍い音と共に、強烈かつリズミカルなコンボが怪奇植物の後頭部に叩き込まれる。
 グギャアアッ!
 前側2本の蔓で果実を掴み貪っていたディアボロは、突然の連打にうめき声を撒き散らし、食べかけを放り出してつんのめった。
 後方からの奇襲に振り返ったところに繰り出されたのは、剣鬼と化した茜の斬撃。
「──斬る!!」
 一気に距離を詰めた阿修羅の苦無が、毒々しい蔓に食い込んだ。
 腐臭とどす黒い体液が噴出し、返り血の如く少女を汚す。
「……ぶった斬る!」
 だが剣鬼は怯まない。金色の髪を乱し、顔を歪めながらも苦無に渾身の力を込め、狙うはうねる蔓の切断。
 勿論怪奇植物とて、やられるままではない。
 グオォォッ……!
 あいた蔓で茜の身体を掴み、引き剥がさんと暴れ狂う。そして大きな口で、音を立てて空気を吸い込み始めた──!
「させませんよっ」
 厄介な息を吐く気配に、いち早く気づいたのは祖霊符を展開させていた焔寿。
 茜と楓には聖なる刻印を施したとはいえ、くさい臭いはもとから断つに越したことはない。
「『だがしかし臭い、おまえはダメだ』なのです〜」
 テンプレ的言い回しも、美少女がつぶやくとまた違った味わいがある……じゃなくて!
 焔寿はアウルで作り出したナイフを音もなく射出する。やや側面よりの体幹部を、戦乙女が鋭く抉った。
 グギョッ!?
 痛覚と衝撃に耐え切れなかったのか、ディアボロは蔓をでたらめに振り回しのたうった。茜を振り落としたのは魔物にとって不幸中の幸いだったが、刺客は彼女だけではない。
「えーい!」
 初撃を成功させた楓が、今度は正面から攻撃を仕掛けたのだ。
 蔓に捕まらないギリギリで跳躍し、アウルと全体重を乗せたトンファーを撃ち下ろす──!
 はずが。
「ふにゃあ!?」
 涎で体操着が溶けるのも気にせず頑張った10歳を、最悪のタイミングで禍々しい息が襲った。
「かっ、体に力が入らないよぉ……」
 楓、あえなく墜落。どうやら食らったのは体力を削る呪いのようだ。
「危ないっ」
 動けなくなった楓とディアボロの間に、すかさず割って入ったのは熾弦。
「楓ちゃんっ」
 焔寿が楓をフォローして後退したのを確かめてから、得物であるハルバードを奮う。
「行きます」
 長いリーチを生かし、距離をとって横に薙いだ。
 ギョワアア!!
 穂先が前側の蔓を、数本まとめて抉り、切り裂く。
 切断には至らなかったものの、バランスを崩し横転する怪奇植物。今までの攻撃でディアボロの体組織はあちこち裂け、動きも鈍い。
 終焉は、近い。一同は確信し──。
「これで、とどめ!!」
 剣鬼、茜が再び駆けた。狙いはただ一つ、頭。
 彼女が手にした苦無は、紫の焔に包まれていた。アウルの加護を破壊力と速度に換えた阿修羅の得物が、一閃する!
 グォアアア!!!
 斬撃の音は、断末魔にかき消され。
「まずは一体、ですね」
 周囲に唐突に、平穏と静寂が戻った。
「グラウシード先輩と御伽さんのもとに急ぎましょう」
 茜と楓の傷を塞ぎながらも、熾弦の心は逸る。無論皆も、同じ思いだった。
 


 女子4人組が「スーたん」を撃破する少し前、離れること数百mの農道で。
「触手に絡まれるだけならまだしも……! アッーだけはッ! アッーだけはッ!」
 ラグナは「デルたん」が繰り出す蔦から逃れようと、地べたを駆けていた。
 出だしこそ空を駆け、華麗に敵を挑発したものの「小天使の羽根」は思いのほかアウルを消耗する。
 何度か地に降り、騙し騙し飛び続けたものの、今となってはその背に翼が発現することも叶わなくなっていた。
 ……そのくせ所謂「ヘイト」だけは、がっちり稼いでしまったものだからタチが悪い。
「ラグナさんっ!?」
 必死の形相のラグナと、蔓を繰りながら器用に追ってくる怪奇植物。
 待ち構えていた炯々は一瞬絶句した。彼にとっては幸いなことに、敵は「目の前の獲物(ルビ:ラグナ)」しか見えていない様子、絶好のチャンスだ。
「さて、と」
 マスクを鼻までずり上げ、炯々はハルパーの柄を握る。農道の脇に回り込み、具現化させるはオートマチックP37。
 射程を慎重に測り、狙うは足(っぽい部分)。動きを封じればラグナも、防戦一方ではなくなる筈だ。
「当たれ!!」
 引き金にかかったインフィルトレイターの指に、ぐっと力がこもった。
 響く。乾いた発砲音。
「よし!」
 鈍い音と苦悶であろうディアボロの咆哮に炯々は手応えを確信し、小さくガッツポーズをする。
「御伽殿、感謝する!」
 忌まわしき追っ手の足を封じてくれた仲間に心底感謝するラグナであった。
 何しろ非モテ騎士の姿といったら、飛び散った涎で戦闘用男子制服は穴だらけ。
 特に腰から下の被害がひどく、最後の砦であるふんどしが露出している有様だ。あと数分炯々の援護射撃が遅ければ、花弁が散っていたかも知れない。何のとは言わないが。
「ラグナさん、俺が援護します! 近接は危険だから、これを使って下さい!」
 立ち上がろうと蠢くディアボロの蔓を銃撃で牽制しながら、炯々がポケットから何かを取り出し放る。
「こ、これは……心得た!!」
 ぱしんと受け取るラグナ。小さなカプセルにはいったそれは……一対の鼻栓(未使用)。
「返してくれなくていいっすから!」
 ぐ、と親指を立てる炯々に力強く頷き、非モテ騎士は仲間の心遣いを装備した。かっこよさが4ぐらい下がったが気にしない。
 キラキラ輝くツヴァイハンダーで、怪奇植物に向き直る。鼻栓にマスク、熾弦に施された聖なる刻印のトリプルガードで防御は万全。
 大上段に構え、発動、リア充獄殺剣!
「逃さんぞッ、リア充!」
 横っつらを張り倒され地に転がったディアボロ。
「リア充って……誰」
 思わず呟く炯々だが、すかさず牽制弾を撃ち込むことは忘れない。
 と、その黒い瞳に4つの影が映った。
「お待たせしたのです!」
「来たよーー!」
 駆けてきたのは茜、楓、熾弦、焔寿。
「バラバラにしてやるっ……!」
 もはや6対1。手負いの怪奇植物に、勝機など残されていなかったことは言うまでもない。



 果樹園の平和を乱したディアボロ二体は、撃退士によって討伐された。
「ふ……それにしても、厄介な敵だったな」
「討伐完了なのだ♪ なんとかなったー♪」
 ため息をつくラグナに、ジャンプして喜びを表現する楓。いや楓ちゃん、体操服が破れててポロリしそうですよ!
「嫌な臭いって、結構鼻に残りますし、よかったら皆様もどうぞ」
 爽やかな柑橘系の香水で口直しならぬ鼻直しを勧めるのは焔寿。
 一方で、少しばかり考え込む表情を見せる者もいた。熾弦だ。
「子供の姿があったという話が気になります。もし迷い込んでいるのであれば、早く探し出して保護しないと」
「子供? どの道もう安全でしょーほっとこうよー…。今までで一番最悪なディアボロだったよー、お風呂入りたいよー…」
 近接攻撃で「デルたん」を屠った茜は、剣鬼から14歳の女の子に戻っていた。怪奇植物の粘液と返り血(?)、埃まみれとあっては、半泣きになるのも無理はない。
「それもそうですね、子供の捜索は農園の方々に任せましょう」
 熾弦も茜の主張に頷く。一同はその場を後にするのであった──。

『モイのでぃあぼろ、よくも壊したもい! 今日はゼノさまに止められてるから帰るけど、首をごしごしして待ってるもい!』

「!」
 声が聞こえた気がして、炯々は足を止めた。背中をぞくりと、冷たいものが落ちる。
 ──まさか。
 おそるおそる振り返ったそこに、彼の畏れるものはなかった。
 あるのは鳥にしては大きな、空を行く何かの影だけ──。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
孤独のバンダナ隊長・
御伽 炯々(ja1693)

大学部4年239組 男 インフィルトレイター
W☆らびっと・
逸宮 焔寿(ja2900)

高等部2年24組 女 アストラルヴァンガード
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
パンツ売りの少女・
焔・楓(ja7214)

中等部1年2組 女 ルインズブレイド