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マスター:クダモノネコ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:7人
リプレイ完成日時:2012/06/19


みんなの思い出



オープニング


 栃木県東部のとある山中に、古ぼけた見晴らし塔があった。80年代後半、所謂バブル景気の頃に賑わっていた観光施設だ。
 泡がはじけて消えて間もなく閉鎖されたそこに、もはや足を向ける者はない。
 かといって取り壊しやリニューアルが行われるめども立たず。
 見限られ、うち捨てられた塔は風雨に晒されながらもそこに在り続けた。
 人間に、見捨てられた塔。
 そこをねぐらに選んだ、魔界の眷属がいた‥‥。

 見晴らし塔の一番上、営業当時は立ち入り禁止だった機械室。
「いいかいモイモイ。しばらくは人間に姿を見られてはいけないよ」
「ごめんなもい‥‥」
 とある下級悪魔が、「やらかした」ヴァニタスを見下ろしていた。
「ゼノさま、怒ってるもい?」
 適当な魂吸収を命じて放したら、撃退士に姿を見咎められ装備を壊され、ひとつの魂をも確保できずに帰ってきたヴァニタスを。
「今回は仕方がない。私もお前に、隠密の指示を出さなかったのが良くなかった」
「オンミツ?」
「‥‥秘密裏に作戦を遂行‥‥いや『かくれてしごとをがんばる』ことだよ」
 とはいえその出来不出来には、「作り手」である己の采配が関わっていることも承知している故、あまり厳しさはない。
「だから今回は『かくれてしごとをがんばって』きなさい」
「よー!」
 もちろん悪魔とて、眷属を人間のこども型に形作り相応の知能と情緒を与えた以上、いずれはその「らしさ」を用いた運用を考えている。
が、まずは「人間とはいかなるものか」という情報と体験の蓄積が先──。
「いいかいモイモイ。今回、実際に『たたかう』のはディアボロだ。おまえの仕事はディアボロと人間‥‥おそらくは撃退士が出てくるだろうから、その様子をきちんと見てくること。絶対に、絶対に撃退士に姿を見せてはいけないよ」
「よー! モイモイ、ちゃんと隠れてるもい!」
 しゅたっと手を上げてから何度も頷くヴァニタスに、悪魔は魔装を手渡した。
「よい返事だ」
 小さな袋とくま耳のついたカチューシャ、左耳にひっかける片眼鏡、それにふわふわしたリストバンドを受け取ったモイモイは首を傾げる。
「今から教える場所に、大きな池がある。着いたらまず池の中に袋の中身を全部入れること」
「にゅ?」
「袋の中身は水に入れると活動を開始する『ディアボロの素』だ。撃退士がやってきたら、耳と眼鏡をつけてしっかり戦いの様子を見聞きしてきなさい。耳を通した音と、眼鏡を通した風景は、腕の記録媒体に保存されるようになっているから」
「わかったゼノさま! これ、すぱいもい?」
「よく知ってるな」
 ゼノは少しだけ驚いて、モイモイに目をやった。
「夜オサンポしてた時に、ニンゲンのテレビでやってるの見た! すぱいはキレイなメスとあはんうふんするもい!」
 何の番組を覗き見したんだ、何の!
「いや、それはしなくていい‥‥というか、用もないのに人間の生息域に近づくんじゃない」
 悪魔は目眩を感じ、しばし瞑目する。その様子にヴァニタスは不思議そうに首を傾げつつも、とってつけた。
「ちゃんと壁の中に隠れてたにゅっと」
「そういう問題じゃない‥‥まぁいい、とにかく成功を祈る」
「よー!!!」
 元気なお返事。みなぎるやる気。
(大丈夫だ、今度はちゃんと説明したし‥‥)
 多分。



「たいへんだーー!! 池がー! ため池がー!」
 栃木県東部郊外。田んぼと畑が広がるのどかな町の平和は、男の野太い悲鳴で終わりを告げた。
「ため池がどうかしましたか!?」
 第一報を受けたのは、駐在所の婦人警官。
 男が指す「ため池」とは、町外れにあるプールほどの大きさの人工池のことだ。雨が少ない時期の農業用水として、また防火用水として、人々の暮らしにひっそりと役だっている存在であった。
「あの、転落事故ではないですよね? だったらまず消防を──」
 婦警はまず、最悪の事態を想定して男に確認した。
 もちろん子どものいたずらや転落防止の為に、池の周囲は金網でぐるりと囲まれているが、何をやらかすかわからないのが子どもという生き物である。
「違う、違う。大変なのは池だ。こう、うねうねっと、ぬるぬるっと」
「そうですか、じゃあ現場を見に行きましょう」
 転落でないのなら、一安心。
 婦警はほっと一息つき、男をミニパトに乗せ、現場へと向かうことにした。

「えーと、もう少し落ち着いて状況をお話しし下さいますか?」
「こここ、これが落ち着いていられるか!! 池からぬるぬるがぞわぞわっと!!!」
「うーん、お父さんひょっとして昼間っから酔ってます? ゴールデンウィークだからってお酒はほどほどにね〜」

 そしてそれから数分後。現場に到着した婦警は。
「ちょ!! まってええええ!! なにこれええええええ!!!!」
 第一発見者を遙かにしのぐうろたえぶりを見せることとなる。


 長辺が30mほど、短い辺が15mほどの楕円のため池。
 普段は緑色に濁った水が湛えられているだけの、静かなため池。
 その池が、今日は荒れ狂っていた。否、水ではない。ひも状の禍々しい、何かが!
 池の水面が巨大なイソギンチャクに変貌した、と表現すれば一番わかり易いだろうか。ひも‥‥触手状の物質が意思を持ったかの如くうねうねとのたうちまわっているのだ。長さも相当なもので、既に金網にも無数に絡み付いている。
「きっ‥‥気持ち悪いっ‥‥」
 触手は力も相当あるようで、金網はあちこちで歪んでしまっていた。
 そして、触手が触れた箇所には白っぽい粘液がべったりと付着している。どうやら無機物ではなさそうだ。
「うわああああ!?」
 不意にぬるり、とした感触を覚え、第一発見者の男が悲鳴を上げた。
 見ると忌まわしい触手が彼の持っていた買い物袋に先端を突っ込み、ごそごそと何かをまさぐっているではないか!
「それを捨てて!!」
 警官が指示するまでもなく、男は袋を放り出し後ずさる。
 触手は中から菓子パンとおにぎりを器用に取り出し、絡めとってするすると戻っていった。
「‥‥食ってん‥‥のか‥‥?」
「なんてこと‥‥金網が壊れてしまったら、池から出てきて町を襲うかもしれないわ!」
 もはや転落事故など比較にもならない、町の命運がかかった大事件発生である。
「姉ちゃんが、退治してくれんのか!?」
「無茶いわないでくださいよ!? 餅は餅屋、天魔は撃退士ですっ!」



 かくして久遠が原学園から、撃退士がやってきた。
 今まさに落とされん、ディアボロとの死闘の火蓋──!
 その様子を町民に混ざってこっそり。
「よーし、キロクカイシもい!!」
 何処かに潜んだモイモイが、固唾を呑んで見守っていることは、誰も知らない。



リプレイ本文


 ざぱん。
 音を立てて水面から飛び出した触手が、器用にしゅるしゅると空中の焼きそばパンを絡めとる。
 それをそのまま水中に引き込むのを、撃退士達は金網の外から見守っていた。
「‥‥なるほど」
 頷いて眼鏡のブリッジを上げ、位置を直す麻生 遊夜(ja1838)。彼はまず、戦う前に敵の様子を確認して敵の情報の把握を行う事を提案していた。
 敵を知り己を知れば百戦危うからず。それに頷いたラグナ・グラウシード(ja3538)が金網越しに投げ入れたのが、先程の焼きそばパンだった。
「この雑な味が好きだ‥‥。触手のバケモノも、気に入るかも知れん」
 ラグナはそう力説する。とは言え、果たして触手にB級グルメの趣味があるのかどうかは、今回の観察の中では明らかにはならなかったが。
「ディアボロでなかったら、イソギンチャクでみたいで美味しそうって思うんだけどなぁ。残念」
 実際一部のイソギンチャクは食用として使われることもあるのだが、緋伝 瀬兎(ja0009)の目にはディアボロは食べられそうに映ったのだろうか。一応ディアボロやサーバントはそもそも『食べられない物』と認識しているようで、取り敢えず食べる気はないようだ。

 敵の様子を観察しつつ、撃退士達は戦いの準備を進めていく。
 というか、数人がいきなり服を脱ぎだした。
「‥‥何とも奇妙なディアボロですね。が、いつ人に被害をもたらすとも分かりません。早急に排除しなくては」
 大真面目である。リネット・マリオン(ja0184)が服を脱ぎ捨てると、小柄ながらよく鍛えられた、(特に胸が)優れたプロポーションがあらわになった。
 裸なわけではなく、下着でもない。紺色のワンピース型で、胸には『2−2 まりおん』のワッペンが縫い付けられている。学校指定の水着であった。これでも魔装である。
「‥‥気合い入れて頑張ろう、なんだね!」
 四十宮 縁(ja3294)も水着に着替え、よし、と拳を握る。
 同様にラグナもスーツが濡れるのを嫌がり、水着姿になった。こちらは男性なので、特に語る必要はないだろう。
 服を脱ぎはしないが、雪風華(ja7869)も水着を用意した。服の下に着こむ事で万一に備えようという心づもりだ。
 逆に勢い良くズボンを脱ぎ捨てた焔・楓(ja7214)。白い下着が目に眩しい。
「水着よりこの方が動きやすいし♪ さて、元気にごーごー、なのだ!」
 小学生だから羞恥心はないのだろうし、小学生だから色気は感じないのだろうが、それでも男性陣にとっては、目のやり場に困る格好だった。

 この戦いはアニエス・ブランネージュ(ja8264)を含め、数人にとっては初陣となる。しかし彼ら・彼女らに特に緊張感は見られない。緊急性や危険性が薄いと判断出来たからだ。
 勿論、だからと言って失敗していい訳はないし、する気もないのだが。
「また厄介な敵が出たもんだ、犠牲者が出ないうちに片付けるとしようか」
 情報収集は終わったとばかりに、遊夜はショットガンを手に取る。うむ、と両手剣を握り、ラグナも頷いた。
「何と言うか気味の悪い! 誇り高きディバインナイトの名に賭けて! 私が貴様を滅ぼそうッ!」
 切っ先を触手につきつける。その名乗りは勿論フェンス越しで、触手に聞こえたかどうかは定かではない。


「はじまったもい! ‥‥いけないいけない」
 思わず立ち上がりかけて、慌てて身を潜め直す。幸い、誰かに気づかれた様子はないようだ。
 誰にともなく口の前に人差し指を立てて『しーっ』とカメラ目線を送り、モイモイは改めて、そっとため池を伺った。
 彼の視線の先で、撃退士達は一斉にフェンスを飛び越え、ため池目指し駈け出していた。
 それに呼応したのか、それとも単に近づく気配を察したか、触手も一斉にうねうねと水面から伸び出す。

 作戦としてはシンプルに、近接戦闘の得意な者が触手を切り落とし、遠距離攻撃を担当する者がとどめを刺す、あるいはあるであろう本体への攻撃を叩きこむというものだ。
 飛び出る触手に対応するため、戦端は必然的にため池のほとりで開かれた。
 リネットと楓はコンビを組み、触手と相対する。リネットの爪が触手を切り裂けば、彼女を狙う触手を楓のトンファーが叩き逸らした。逆に楓を狙って襲い来る触手を、リネットが切り払う。殆どアイコンタクトなしの、見事な連携だ。
「どんどん叩いていくよー!」
「ええ」
「いっぱいこっちに惹きつけてサポートなのっ。でも出来れば、対応出来る範囲の数を希望したいかも」
「‥‥ええ」
 楓の言葉に頷くリネット。敵の数を見る限り、その希望は叶わないようだ。
 ラグナは小天使の翼を駆使し、空中から機動戦を仕掛ける。先に焼きそばパンを投げた時、触手が運んだ周辺に本体があるとアタリをつけていた。
 アニエスも敢えて踏み込んだ。自分の射撃の技量では水中の相手には心もとないと判断し、囮役を務める。
 更に瀬兎も、苦無で手近な触手に斬りかかっていく。
「うーねうーねこーちら、手ーの鳴ーる方ーへー♪」
 相手の動きがそれ程素早くないと見ると、挑発するように呼びかけた。それに応えてかは分からないが、数本の触手が彼女に迫る。
「させないよっ」
 やや下がって中衛から前線をサポートするのは雪風華だ。ショートスピアを振り回し、穂先で払うように、あるいは柄で殴り、触手を退ける。

 遊夜のショットガンが火を噴けば、放たれるのは銃弾ではなくアウルの赤黒い針。後方から触手に肉薄する前衛たちを援護する射撃だ。散弾のように広がりながら、アウルの針は次々触手に突き刺さる。
 同じく縁も後方に控える。アストラルヴァンガードの持つ癒しの力を使うために備えると同時に、遊夜と共に後方から目を光らせて触手の動向に注目する。敵の動きがあればすぐに知らせ、支援に入るための備えだ。
「うに‥‥触手‥…近づきたくないんだよー」
 正直触手の気持ち悪さに腰が引けるのだが、それでも仲間を援護するため。嫌悪感を押し殺し、敵を見据えた。
 やっぱり気持ち悪かった。

 撃退士達は襲い来る触手を次々と迎え撃つ。しかし、無数と言える程に大量の触手を相手にするには、それだけでは状況が膠着するばかりだ。結局、本体を討たねばならない。
 意を決し、前衛に立つ撃退士達はため池に飛び込んだ。ディアボロが吸い上げたのか、水位は膝程まで下がっている。多少機動力に難はあるだろうが、戦いに致命的な影響はないと判断出来た。
 しかし、これはもう一つのリスクを背負う事となる。ため池に入る前は触手は前方から迫るのみだったが、ここからは前後左右、四方八方からの触手を相手取ることになる。
 自然と、前衛の撃退士達は距離を詰め、お互いのカバーに入れる位置を取ることになる。触手の群れを切り開き、目指すは本体だ。
 ‥‥だったのだが。

「!? う、うわああぁっ!?」
 悲鳴が上昇していく。空中から威勢よく触手を薙ぎ払っていたが、やはり手が足りない。小天使の翼が一時効果を失うため、一旦着水して再び上昇しかけたところで触手に捕まった。
 絡みつく触手を振り払おうとしたラグナだが、触手の数に間に合わない。小天使の翼ではなく、触手によって宙に持ち上げられた。
 生暖かくヌメッた微妙にやわらかたい感触。身体をまさぐる感触に、非モテ騎士の吐息が無駄に熱い。
 締め付けられて声にならないうめき声が上がっているだけなのだが、誰が得をする光景なのだろうか。
「最後の一線だけは‥‥最後の一線だけはっ!!」
 何の一線だ。水着姿で半裸状態なので感触を直に感じ、違う恐怖感にラグナは叫ぶ。
 持ち上げられたため、彼の姿は後衛にも嫌でも目立つ羽目になる。結局遊夜が銃撃で拘束する触手を撃ち抜き、ラグナは自由の身となり――ため池に落下した。
「許さんぞ貴様ぁー!!」
 ずぶ濡れになりながら、怒りをあらわに立ち上がるラグナ。ため池の水が身体に残ったヌメッた感触を洗い流してくれたのに、実は内心安堵していたりもするのだが。

「もう、あたしに絡みつくなー!」
 悲鳴は更に上がる。
「っ!!」
 背を預け合うように戦っていたためか、楓とリネットの二人にまとめて触手が絡み付いてくる。
 ここまで見事なコンビネーションを見せて戦っていた二人だが、触手に絡め取られるところも抜群のコンビネーションだった。
 脱出しようと試みるリネット。触手を掴み、あるいは押しのけようと身をよじる。楓も振りほどこうともがくのだが、粘液で滑る触手は二人をあざ笑うように巻き付いていく。いや、二人がもがけばもがくほど、触手は余計に彼女らに絡み付いていく。
 気づけば、背中合わせだった筈の二人は正面からその身体を押し付けあうような格好にされていた。二人の胴を纏めて触手が一回りして、抜け出せない。
 年齢に比して小柄なリネットだが、楓はもっと小柄だ。頭一つ以上の身長差があるが、触手に持ち上げられて普段より高い位置で楓はリネットと密着する。
「ひゃっ、何処触ってるのさ!?」
「‥‥っ」
 それは触手の感触か、それとも正面から押し付けられるリネットの感触か。
「ちょ、そこ変だからっ、だーめっ!」
 わめく楓とは対照的に、リネットは声を上げない。元々表情も言葉も平常平坦な彼女だが、よく見ると頬が赤みを増している。やはり羞恥は感じるのか、それともそれ以外の何かだろうか。
 平坦な胸に押し付けられ、Gカップの胸が水着越しにゆがむ。更に二人の全身を白い粘液にまみれた触手が這いまわっている。
 二人の身体は自分の汗と触手の粘液で濡れていた。粘液の作用で、二人の服の繊維がところどころ崩壊し、肌が徐々にあらわになっていた。
 楓の悲鳴も、段々言葉として発音するのが難しくなってきた。「きゃんっ」とか「うーっ」とか、切羽詰まる。
 リネットも悲鳴は上げないが、脱出しようと試みる。胸や尻を突き出したり、くねらせたり‥‥脱出しようとしているのだろう、多分。

「なんかすごいことになってるもい!?」
 撃退士が二人纏めて苦戦する光景に、モイモイが握る拳も力が入る。
 がんばれうねうね! 性的な意味でなく、モイモイは触手を応援した。

「二人共、大丈夫!?」
 リネットたちに絡みついた触手を切り落としたのは瀬兎だった。持ち前の身軽さで触手の群れをかいくぐり、避け切れない粘液は振り払いながら、二人の元に駆けつけていた。
「どうせ出すなら練乳とかヨーグルトとか、食べて美味しい物にしてよ!」
 ケフィアもそろそろ流行からは廃れてきただろうか。粘液の味に注文を付ける辺り、瀬兎は非常に肝が座っていた。というか味見したのだろうか。
 勿論彼女も粘液の被害で服がところどころ崩壊しているのだが、元々肌の露出が多い格好をしている彼女だ。大事な所さえ守りきれれば、それ程気にはしていないようだ。
 触手から解放されてその場にへたり込んだリネットと楓。感触を振り払うように頭を振って、再び立ち上がって戦線に復帰する。まだまだ戦える。
「や、ちょっとくすぐったいってば!?」
 今度は瀬兎が触手のエジキになる。ミイラを取ったミイラ取りがミイラになった。身体を這う感触がくすぐったい。特に首筋や脇腹、腹が弱いらしく、そこを這いまわるたびにびくっと身体が痙攣し、力が抜けてジタバタと払おうとする動きが止まった。
「も、もーっ!!」
 がぶり。触手に噛み付いた。横から歯型のついた触手が思わず瀬兎を開放する。自力脱出成功だ。
 ‥‥その後瀬兎は口の中に残った後味に、しばらくぺっぺっと必死で何かを吐き捨てようとする羽目になったのだが。

「ああっ、なにやってるにゅー」
 落胆するモイモイ。折角撃退士を捕獲したと思ったのに、と肩を落とした。

 敢えて全力で突撃し、触手を惹きつけようとしたのはアニエスだ。
 攻撃役より先に、こちらに興味を持たせる。その目論見通りに、触手はアニエスを襲う。囮役を買って出たアニエスにとっては、望むところだ。
 身体に巻き付く触手は、わざと緩めた服を掴ませる。服で手間取らせ、少しでも時間を稼ぐ狙いだ。
 更に気を引こうと、アニエスは敢えて触手を掴み引き寄せる。が、それは勿論、自分にも巻きつくリスクを背負う行動である。
「やっ‥‥そこは弱いから、駄目ぇ‥‥」
 身体を撫でた触手に、思わず声が上がる。普段意識するクールな態度は、今回ばかりは装えない。
 戦闘への集中が切れそうになるが、必死でこらえる。ふと、視界の端に何かが映った。触手の隙間にチラリと見えたそれは、恐らく――!
「‥‥見えたぞ、本体だ!」
 仲間に位置を知らせ、アニエスは触手に引き込まれる前に服の袖を抜いた。緩んでいた服は簡単に脱げる。触手の粘液でボロボロになっていたその服を触手にわざと持って行かせ、自分は脱出した。

 前衛の撃退士達は本体目掛け駆けていく。中衛の雪風華もそれに続き、周囲と連携しヒットアンドアウェイを狙う。
「ちょっとおとなしくしてて!」
 体内のアウルを燃焼させ、槍撃が加速する。槍の一閃が本体に突き立てられた。
 勿論、触手も撃退士達を迎え討つべく襲い掛かる。本体が判れば近づく必要はないと踏み込んだ後衛達が、それをカバーした。
「‥‥させないんだよ!」
 盾の面を使い、触手の攻撃を逸らす縁。更にロッドで触手を打ち払う。
 撃退士達の集中攻撃が次々決まっていけば、触手本体も耐えられない。
「おやすみなさい、安らかに」
 遊夜の赤黒いアウルの銃撃が、全弾叩き込まれた。
「くたばれ! リア充ッ!!」
 それは触手に向ける敵意なのか。血反吐を吐くかのような咆哮と共に、ラグナが八つ当たり気味に大剣を振り下ろす。それがとどめになった。
 触手の一本一歩が天を向き、うねうねと揺らめいた。それらは一斉に力を失い、潰れるようにディアボロは絶命した。

「くそー、負けちゃったもい! きょうはこの辺で勘弁してやるにょー!」
 地団駄を踏んで誰にともなく指を突きつけ、モイモイはその場を離れた。


「‥‥もう出会いたくないんだよ‥」
 ため池から上がって、げんなりして肩を落とす縁。一同の心情を代表したかのような一言だ。
「‥‥こ、今後、このような天魔と戦うのは御免被りたいな」
 思わず趣向する、疲れた顔のラグナ。彼の水着も裾がボロボロだ。
「農作物に変な影響が出ないといいんだケド‥‥」
 ため池の水質を心配する雪風華。一度水を抜いて、池を洗浄した方が気分的にもいい気がした。
 水面に浮いた服を回収して、なんとも言えない表情を浮かべるアニエス。触手はもう見当たらないが、とはいえ何か気持ち悪い。
 楓も脱いだ服を絞る。シャツがべったりと身体にひっついて気持ち悪いが、裸で居るわけにもいかないので我慢することにした。
 遊夜は仲間たちにタオルや水を配って周る。
 リネットは一同に入浴を提案した。とにかく洗い流したいと、全員が賛成した。


(代筆 : 越山樹)


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

鏡影・
緋伝 瀬兎(ja0009)

卒業 女 鬼道忍軍
ヌメヌメ女の子・
レナトゥス(ja0184)

大学部5年190組 女 ナイトウォーカー
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
パンツ売りの少女・
焔・楓(ja7214)

中等部1年2組 女 ルインズブレイド
撃退士・
雪風華(ja7869)

大学部5年115組 女 阿修羅
冷静なる識・
アニエス・ブランネージュ(ja8264)

大学部9年317組 女 インフィルトレイター