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「や、やめろォ!」
三人の応援団に囲まれる男。
はらりと散るは白い布。落ちる椿の花弁のように、ぽとりと地面に落ちたブリーフが物の哀れを感じさせる。
そんな許せぬ悪を、天に代わりて討つ者もまた存在していた。
「天知る、地知る、汝知る!」
「な、何奴!?」
「悪党に名乗る名前はありませんわ!とうっ!」
華麗に屋上から降り立つ女、悪党に名乗る名はなくとも、PLに名乗る名あり。
東風谷映姫(
jb4067)である。
「ふふっ、やはり褌は身が引き締まっていいですね」
「へ、変態か!」
「失礼な!女性でもふんどしの似合う人はいるというだけです!」
「そういう問題じゃないぜえ!」
「そうだぜえ、もっと自分を大切にするんだぜえ!」
サラシと褌しか身に付けていない映姫より、上半身学ランの応援団の方がぎりぎりマシだ。
彼女の身体を心配し始める応援団に、映姫は悲しげな表情で応える。
「今の私には何もないわ……そう、ベストフンドシストの道しか……」
「今年のベストフンドシストは長い事やってるトリオの芸人になったんだぜ!」
「な、なんですって……!」
ああ、と嘆きに満ちた声を上げ、よよよと座り込む映姫が愁いに満ちた流し目を応援団に送った。
「もう決まっていただなんて、これから私はどうしたらいいのかしら……およよ」
「とりあえず服を着ようぜ、普通の」
「それこそ他に道はないと思うぜえ」
見た目は厳ついが、褌以外は普通な応援団は悲しげに伏せる映姫に無警戒に近付く。
「油断しましたね!」
「ギャァァァァ!?」
映姫の瞳がきらりと輝いたかと思えば、すっと立ち上がると頭の簪を引き抜き、応援団の首筋に突き刺す!
「なんてひでえ!?」
「勝った者こそが正義ですわ!」
褌からはまばゆいアウルの輝き。
ヒヒロイカネから開放されたのは扇だ。
しかし、まだ扇は振らぬ。
身を屈め、神速の踏み込みから繰り出されるは獲物に飛びかかる蛇の如し繊手。
狙いは、応援団の褌。
――コキィ。
胡桃を砕くような、音が響く。
「ぐ、がぁ……!?」
「また……つまらぬ物を潰しましたわ……」
「ヒ、ヒイイイイ!?」
白目を剥き、泡を吹き始めた応援団の身体を捨てると、映姫は酷薄な笑みを浮かべ最後の一人に向き直った。
「貴方はどこを潰されたいですか?」
紛れもない悪が、そこには存在している。
他人を新宿二丁目に送り込む事を何とも思わぬ悪だ。
愉悦すら感じる視線を悪以外の何と呼べばいいのだ!
世の中の不条理に、最後に残った応援団はただひたすらに嘆く。
だが、力が足りぬ。悪に立ち向かう勇気が足りぬ。
助けはどこにもないのか!
「変態撲滅!」
「えっ?……ギャァァァァ!?」
「ひえええ!?」
突然、映姫に降り注いだのは灼熱の炎。
「変態はオシオキですわ」
悪を討ち倒し、背の翼が朝日で輝く……その日、最後の一人は救いの天使に出会った。
その名は斉凛(
ja6571)、変態を許さぬメイドである。
「ごめんあそばせ、映姫さん。いつもの癖でオシオキしてしまいましたわ。でも女の子が褌姿って言うのはだめですよ……あと握り潰すのも」
「グオオオ……我はいつか甦る……ココナッツがある限り」
焼け焦げた映姫を無視し、凛は最後の一人に優しげな視線を向けた。
「そこの貴方」
「は、はい!なんでしょうか、天使様!」
「……いやまぁ、天使のハーフですけれど。それはともかくもう二歩下がっていただけます?」
「はい!」
救いの天使に助けられなければ、新宿二丁目送りになる所だったのだ。
当然のように従う、この先の展開がわかっていても。
「そうそう、そのあたりですの」
突き出されたのは、アウル式の拳銃。
「では、おやすみなさいませ」
「「ギャァァァァ!」」
放たれるのは無論、ナパームショットである。
「あらあら、また映姫さんを巻き込んでしまいましたわ。てへっ☆」
可愛く誤魔化した所で、凛を見る者は誰も残っていなかった。
●
「ショタも褌にしてやるぜえ!」
「わ、わふぅ!?」
影山・狐雀(
jb2742)、ノータイムでひんむかれて褌である。
応援団四人の元に鴨が葱を背負って来たら、そらこうなるのは決まっていた。
男達の輪から宙に飛び出した狐雀の尻に巻かれるのは赤フンだ。
銀狐の毛皮のように美しい羽と尻尾と、赤フンのコントラストが鮮やかであり、応援団だけではなく、応援団にくっついていたオネエサマ方まで拍手喝采する尻であった。
しかも、芸の細かい事に尻尾に干渉しない巻き方をされており、褌に精通していなければこうはなるまい。
「うう、こんなことする人はしっかりお仕置きしないとですよー!えっと、C地点で発見しました!」
撃退士の義務を優先し、褌のままで連絡を果たした狐雀に突き刺さる視線が物理的な重みすら感じられそうなほどだ。
「ちくしょう、降りて来てペロペロさせやがれ!」
「い、嫌ですよー!?」
「そこまでにしてもらえるかな」
連絡を受け、現れた本城猛(
jb8327)は改造人間ではない。
だが、絹糸のような金髪をたなびかせる姿は、少年のようでもあり、少女のようでもある魔笑は幼いながらも傾国の相を感じさせる艶があった。
「ふふっ……僕がどっちだか、確かめてみる?」
「どっちでもいい!褌を履かせられるのならば!」
「なんて欲望に忠実!?」
即、間合いを詰めた応援団は、猛の服を一瞬にして脱がし切り……動きを止めた。
「なん……だと……!」
はらはらと舞い散る服、改造セーラー服にベビードール。
だが、確かに【ぱおーん】はある。
「と、とんでもない変態じゃあ!?」
「う、うるさーい!あの人でもないのに見るなあ!?」
落ちて来たベビードールで必死に自分の身体を隠そうとする猛だったが、肉付きの薄い尻や、細い足はまったく隠せておらず、
「もう男の娘でもいいんじゃないかな」
一人が怪しい道に落ちつつあった。
「そこまでだよ!」
「またかよ!?」
ピンチに陥った猛を救うために現れる勇士!
彼こそは!
「う、うう……恥ずかしいよう……」
Tシャツの裾を必死に伸ばし、まったく隠れる気配のしない無駄な努力をするロシールロンドニス(
jb3172)だ。
「また変態じゃあ!?」
「ち、違うんです!僕は露出狂じゃないです! いつも穿いてないわけじゃありません!そ、そのおしおきで穿いてないだけなんです!」
「調教済みじゃあ!?」
「すごいよ久遠ヶ原学園!」
触れれば、えらいあれな事が飛び出しそうなロシールから、怯んだように応援団は距離を取り始める。
さすがに撃退士とはいえ、普通の学生にはレベルが高過ぎであった。
「ち、違うんです!?僕はまだ、あっ……!」
そんな彼らを追おうと前に出たロシールだったが、すてんと転んでしまう。
「転んじゃったよう……」
土煙が上がり、晴れるとロシールは四つん這いになり応援団に尻を向けている。
どう考えてもこうはなるはずがない、という体勢はエロコメ時空とでも呼ぶべき存在の仕業だ。
「いやぁん……痛いよう……」
「男の娘、いいよね」
「戻って来い!?」
尻を向けたロシールの甘い声、その正体は強力な天魔すら引き寄せたタウントだ。
ロシールは過去に天魔撃破に多大な功績を残した、純潔を犠牲にしつつも。
「かかったね!」
ふらふら近付いてきた応援団に、ロシールは四つん這いのまま跳躍。
空中で足をV字型に開くと、近付いてきた応援団の首に足を絡めた!
ロシールの【ぱおーん】が口を塞ぎ、絡めた足が頸動脈を捉える動きは、熟練の柔道家のように男の意識を奪う。
「本望からンとウを抜けば……」
「帰ってこい!?」
「隙ありぃ!」
――コキィ。
鈍い音。
その正体は、仲間を心配する応援団の下半身から。
猛の脛が、男の股間の獣に深々と埋まっていた。
「なんてひでえ真似しやがる!?」
「お前も男だろ!?」
「うるさい、ばーか!」
ベビードールを胸元に引き寄せ、涙目で叫ぶ猛に、痛みを知らぬオネエサマ方は大興奮である。
「どんなに褌が好きでも本人の承諾なく履かせるのは ダメなのですー!」
「ギャァァァァ!?」
あまりのひどい光景に我を失っていた応援団二人を背後から殴り付けた狐雀は、いつの間にやら服を着込んでいた。
「本人の承諾をとって履いて もらわないとですよー!そういうわけでこれはお返ししますねー」
倒れた応援団に、狐雀はさっきまで履かされていた赤フンを投げ返す。
「あの赤フン、いくら出せばいいですか!?」
集まったオネエサマ方のオークションが始める。
●
「人間には変な趣向を持つ者がいるものだなー」
「おい」
「我輩、人間が未だによくわからん」
「おい、お前が一体なんだ」
「悪魔だ」
「見りゃわかるわ!」
平然と応援団員の肩に止まっているのはUnknown(
jb7615)だ。
小鳥ならともかく、何か黒い悪魔に肩に乗られた所で何一つ嬉しくない。
しかも、高さ的に褌で隠された股間が近い。
あまりの光景に団員は必死になって肩から叩き落とそうとするが、悪魔は器用にその全てを避ける。
「そやつも褌を纏う同志に代わりはない。捨ておけい!」
「これ我輩の普段着だし」
団長は構う暇はない、とばかりに彼の存在をスルー。
何故ならば、この先に待ち構える最強の敵の存在を感じ取っているからだ。
「この美しい私の肉体に見惚れるがいいッ!」
褌の前に現れる男も、また褌。その名をラグナ・グラウシード(
ja3538)という。
絞り込まれた身体は塗り込まれたオイルでてかり、ぬるぬると輝いている。
その光は、
「……あいつ、どっちかってーとこっち側じゃねーの?」
「ああ、非モテオーラが出てるぜ」
「この私の美しさを見ろおッ!」
「待たせたようだな」
くねくねと腰を振るラグナを無視し、団長は口を開く。
その視線の先にいるのは、
「第三応援団が団長とお見受けする」
「如何にも」
風にたなびく褌、たったそれだけが男の勲章とばかりに仁王立ちにて待ち構えるのは、千 庵(
jb3993)。
彼もまた、褌を愛する者である。
「何故……何故こんな事をした!」
「それしか道はなかった」
「褌とは即ち愛……愛とは即ち褌である!褌を着用する者であるなら、無理強いなどせず愛=褌である事を徹底せよ!」
「消えゆく褌を、お前はこのままに出来るのか!褌の生産量など、微々たるものだ」
「信じるのじゃ、褌の可能性を!」
「信じたい!だが、信じられるか!」
「それでも信じるのだ、褌を!」
「誰かが褌を守らねばならぬ!」
「こんなやり方しか……こんなやり方しかなかったのか!?」
「お前には信じられるか、褌が世界標準になる未来が!」
「だが、それでも!」
「だからこそ!」
結局の所、褌への愛は互いに変わらぬ。
しかし、ただ一点のみが交わらぬ。
だから、
「貴様らァ!この美しい私を無視するなァ!」
何か邪魔が入った。
ポージングをしていたラグナが、堪えきれなくなったのか、団長に飛びかかったのだ。
「ふん、笑止」
「ギャァァァァ!」
「あれは……!」
「おお、知っているのか、貴様」
「てめえ、なんだその煮干し……って、何かぬるぬるする!?」
「ニボシチョコだしな」
「ま、まぁいい……あれは団長必殺のフン・カタ!脱ぐ、相手の顔に褌を巻き付ける、履き直す。その三動作が、目にも止まらぬ速度で行われた時、放送コードに引っ掛からぬ全裸が完成する。即脱がせられるという事は、即着れるという事なんだ」
「貴様は何を言ってるんだ」
その威力は絶大。
マッチョの股間を包んでいた褌に巻かれたラグナは、一瞬にして戦闘不能である。
「面白くなってきたのう……!」
だが、庵とてフンドシスト。
腰を落とし、距離を詰める庵の顔には、憤りよりも耐えきれぬ笑みが浮かんでいる。
空気が、弾けた。
庵の逆手褌と団長の片手上段褌が、目にも止まらぬ速さでぶつかり合ったのだ。
だが、マンモスを衆目に晒す事なく、すでに褌を履き直しており、当リプレイの健全性は守られている。
「団長の褌に勝てる奴なんざいるはずがないぜ」
「団長のフン・カタは最強さ」
「貴様らの青春は褌しかないのか」
全身で引いたわー……という態度を露にするUnknown。
「普段着が褌の奴に言われたくねえー!お前だって女の子からチョコ貰えたりしねーだろ!」
「いや、我輩貰ってるし」
ぽりぽりとチョコを食べ出す悪魔に団員達はキレた。
「なんで俺達はチョコ貰えないんだ!」
「やっちまえ!」
「おお、怖い怖い」
ぱたぱたと飛び去ろうとするUnknownを、遠距離攻撃を持つ団員達が狙い始める。
「むう、さすがにこれはきつい」
「よし、地面に降りたぞ!チャンスだ!」
あらゆるスキルが乱れ飛び、もうもうと土煙が上がる。
「やったか!」
そして、煙が晴れ、見えてきたのは、
「ナ……イス……褌……」
それだけを言って崩れ落ちるラグナだった。
「貴様ら、よくもラグナをやってくれたなあ!」
「盾にしたのは、お前じゃないか!?」
ラグナが崩れ落ちた後ろから、怒りの形相のUnknownが現れる、無傷で。
一方、
「信じるからこそ、俺は褌を履かせる!」
「信じるからこそ、わしは褌を見守る!」
弾ける褌は所詮はただの布、二人の速度に耐えられるようなものではない。
「保ってくれよ、わしの褌……!」
ひらひらと舞い散る白い褌の欠片と、流れる汗。
それはまるで散りゆく花びらの中、二人で舞っているかのようですらあった。
庵の褌はすでに満身創痍。いつポロリしてもおかしくない破れ具合だ。
当然のように健全な当リプレイでは、先にポロリした方が負けなのは言うまでもない。
「くっ……!」
「どうしたんじゃ、何故打ってこない!」
だが、団長の動きが止まった。
股間に手を突っ込んだ姿勢のまま、だ。
「巻き直す時に破いてしまったわ」
高速で褌を巻き直す。それは褌に多大な負荷を与える事になる。
度重なる庵の褌のは、ポジションを立て直そうとした団長の股間部分を脆くし、指を貫通させた。
もし手を引き抜けば、健全性が失われてしまう。
つまり、
「俺の負けだ」
「勝った気はせんな……」
次の一撃、耐えられたかどうか。その自信が庵にはなかった。
これまでの速度を維持し、指ガードをすれば、団長はまだまだ戦える。
「だが、褌を破いてしまった。やはり、お前の勝ちだ」
「……出会い方が違えば」
「言うな……いつかまた貴様らに褌を履かせに来るさ」
「ふっ、抜かせ。その時はまたわしがお灸を据えてやるわい」
「……その時を楽しみにしている。引き上げるぞ!」
「応っ!」
Unknownを追いかけていた団員達も、団長の一声で一斉に引き上げていく。
誇り高き敗者として、背を伸ばし威風堂々と、股間に手を突っ込んだ団長を先頭にして。
「今回はわしが勝った。だが、次は……」
「もう貴様がベストフンドシストでいいんじゃない?」
Unknownの言葉と共に風が吹くと、倒れるラグナの褌がひらひらと揺れた。