.


マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/11/01


みんなの思い出



オープニング


 魔法少女。
 ああ、なんと甘く芳しい響き。
 魔法少女に憧れるあまり、誰もが魔法少女になれるV兵器を作った少女。方向こそ一般的に見ればツッコミ所は多いものの、心臓の鼓動の回数ぶんその思いを脳の楔に打ち付けること早十余年。わかった事がある。

 悪の魔法少女も、いいよね。

 魔法少女とは本来正義の存在である。ふりふりのフリルとふわふわのシフォンに囲まれたパステルカラーなファンシーキュートで超絶ストロングな存在なのだ。
 しかしここに『悪の』という文言が入るだけでその様相は一変する。ばしばしのレースときらきらなビジューに囲まれたダークカラーなゴシックセクシーで超絶ストロングな存在である。悪で闇の存在だが輝いている。ファンタジー。
 それでもって大抵正義の魔法少女と敵対する。魔法少女対魔法少女。慨するところスーパー魔法少女大戦。FとかαとかVとか付いてもいいかもしれない。
 という訳で作ってみたのがマジカルミルキードレス&ミラクルドリームエディター・悪の魔法少女ver.である。これを使い、戦えない自分の変わりに性能テストを行って欲しい。そういう事である。
 ――とは言え開発の関係上、ミラクルドリームエディターは想定参加者の半数しか作れなかった。何せ考え付いたのが三日前で、そこから不眠不休でやってきたのだが闇のパワーと言う名の睡魔には敵わなかった。
 そんなこんなで皆で仲良く使って欲しい。闇堕ちしたって改心したってダブルピースで解決すればいいじゃない。
 はい、それでは魔法少女大戦スタート。誰がやるって? お前が魔法少女になるんだよ。


リプレイ本文


 そもそも魔法少女とは何ぞや。
 リアリストな葛城 巴(jc1251)には興味外で良く分からない。
 一応のこと、マジカルミルキードレス(以下MMD)については事前によく調査をしてみた。デザインは乙女心を擽るモノか・洗濯100回に耐えるか・製作費用などなど多数に及ぶ項目に対し所見と考察を重ねた。機械音痴なのだ。専用端末の不具合・操作ミスなど故障は日常茶飯事。慎重に、そして自分のやりやすいようにやらねばならない。
 そのための自己流である。古めかしいデザインの牡丹飾りのバレッタのミラクルドリームエディター(以下MDE)を外す。
「目醒めよ!」
 無数の小さな鬼火が彼女を包み込む。そして彼女の服を燃やし、新たな服を拵える。スパッツが覗く橙の活動的なMMDは健康的な色気がある。
 しかしそこもリアリスト。「これが、私……?!」などといったドラマチックな心境になる筈もなく、自分の姿を見て思わず棒読みになってしまった。
「私を動かすモノは快楽……トモエ御前、見参」
 とは言え葛城の悪の象徴は無数の小さな鬼火が舞う様は、頭にカボチャを乗せたくなる勘違い的な要素もある。
「子猫ちゃん達には負けないよ?」
 どんどんと妙な楽しさが心の中に生まれてきた。
 そして楽しいと言えば、もう一人。
「テストって、言っても……殲滅すれば……?」
 割とノリノリなこの人、Spica=Virgia=Azlight。黒い剣のペンダント型のMDEを頭上に投げる。
「……着装、”ダークネスヴァルキリー”……」
 ペンダントは黒い雷光の剣となり、その刀身でSpicaの矮躯を覆い尽くす。轟く雷鳴、蠢く暗雲。一際雷が強く唸った後、澱む場の空気の波紋を従えて変身を完了させたSpicaが佇んでいた。
「混沌よ満ちよ、破滅よ来たれ」
 出で立ちは黒き戦女神。MMDに入れられている、磨き上げられた銀が闇に恭順した鈍い輝きを放っている。
「……破壊を齎す醒めない悪夢、クオンディザスター!」
 剣ビットを展開し剣を振り払う決めポーズ。武器は禍々しい黒のオーラを放つも、それには目もくれずに最大高度まで飛行した。
「私は思っている、この闘いできっと分かり合えるって」
 悲痛な面持ちの桜庭愛(jc1977)は飛び立つSpicaを見上げて決意を改め、折り畳み式携帯電話のMDEを掲げる。
「いくよ、闘姫(マジカル・エクスチェンジ)解放!」
 桜庭の周りを翡翠色の球体が包み込む。それは、爆発的に膨れ上がり、変身!
 胸元に白いラインとフリルがついた、リストバンドが特徴的な水色のハイレグとロングブーツ。後ろ髪を結んだ白い大きなリボンが黒髪によく映える。
 フリフリ、だが甘くなりすぎず、どこかフェティッシュな風体も伺わせるハイレグ。セクシーアンドキッチュなアイドルレスラーの格好である。
 『プロレス魔法少女.まな.』の変身降臨。
「『正義の女子レスラー』ここに推参♪」
 そして阿修羅なので、早速突撃開始。
「私の拳、神気拳はあなたにきっと、届く。悪の心、この正義の拳で晴らしてみせます♪」
 中国拳法の構え。気力が漲り、初手、コンビネーションアタック。相手の懐に飛び込むような蹴りを放ちながら距離を取る。このようにしてフットワークとフェイントとキックの織り交ぜ、ヒットアンドアウェイで攻めてゆく。
 距離を取ったらソニックバーン。振りぬく高速の一撃は強烈な衝撃波。プロレスだからと言って白兵戦だけしかできない訳ではないのだ。
 続き戦場に現れる人影。
「いつぞやの魔法少女になれるアイテムですか。これは前回のモニターとして、どの程度改良されたのか調べないといけませんね」
 ……というのは建前で、前回楽しかったのでまた来た黒羽 風香(jc1325)である。
 専用のMDEは前回同様にアンティーク調の鍵。掌程の大きさのそれを掲げ、唱える。
「天に煌めく星々よ……汝らが力を我が下に!」
 白薔薇の花弁が嵐となって黒羽の体を覆い尽くす。
 白いワンピースドレスはフリルとリボンがふんだんに使われた可憐なデザイン。足元は飾りすぎない茶色のショートブーツが包み、高潔の白薔薇の髪飾りがつく。
 鞘込めの刀をバトンみたく回しつつ一回転してキメ。完了したら背景にドドンと薔薇。
 と、全体を通して見れば前回とさして変わりはない。だが、前回と薔薇の量が増量している。1.25倍増しである。衣装は多数の箇所にマイナーチェンジを施している。
 前作キャラがパワーアップして再登場するのはお約束。そうこれは前回のデータがあってこその強化なのだ。特権なのだ。
「アラサーで貧乳な拙者でもなれるのでござるか? ならば女装と突っ込んでくれるなよ! 拙者はこう見えても女でござる! お兄さんではござらん! ええい、腹が立つ! 悪の魔法少女でいくでござる!」
「誰もそこまで言ってませんから安心してください」
 携帯電話型のMDEを掲げ、鳴海 鏡花(jb2683)は高らかに宣言する。
「魔法顕現!」
 MMDは気品ある紫を基調としたテールドレス。トレーンに重ねられた薄いチュールが気品の中にも可憐さを兼ね備え、手袋と編み上げブーツの黒が高貴なる爪先を包み込む。
「片翼の暗黒魔法少女、鏡花推参。正義の魔法少女よ、地獄に落ちろ」
 腕を組む魔の女王。威厳は地獄の業火となって燃え盛って配下の赤が吼え、ドレスのトレーンが靡く。背後で聞こえる楽曲はリヒャルト・ワーグナーの「ワルキューレの騎行」。更に増す威圧が、悪たるに相応しい雰囲気を出す。
「歳的に少女じゃないでしょう?! ちょっと無理ありますよ」
「うるさい! 誰が何と言おうと少女でござる!」
 翼で飛行するたびに、鳴海の軌道は黒で縁取られた橙の光が迸る。
「くらえ、ヘルフレイムボール!」
 闇属性っぽくなった火の玉が黒羽を襲う。
(……ちゃんと破れる場所とか改良されてますよね?)
 一応テストという体なので、ダメージに応じて衣装が破れる機能はオンにしていた。
 火球を受け破れてゆく黒羽のMMD。
「地獄の烈風!」
 続けて鳴海の鎌鼬も食らう。
「改良はされているようです、が――まだ破れ方にアラがありますね!」
 弓による回避射撃でもう一撃を回避。
「ははは、正義の魔法少女よ! 貴様らの正義とはそのようなものなのか!」
 ワイヤーをクモの糸のごとく操り正義の魔法少女を切り刻みながら高らかに笑う鳴海。
「さあ包んで。私の炎達……」
 葛城が両掌を胸の前で組み、息を吐き出すと同時に両手を広げる。生まれるのは鬼火を従えるアンタレス。辺り構わず無差別に放つ。
「月の光よ、加護を!」
 突如として、葛城のアンタレスを防ぐアウルの鎧が現れる。
 夕闇の菫色が縁取る闇夜のドレス。ヘアバンドで輝くMDEに淡い水色の靄状の光を纏ったRehni Nam(ja5283)。
「闇夜に輝く蒼銀の月……ティアーズ・ムーン、参上です!」
 演じるは正義側のライバル魔法少女。悪役ではなく、あくまで『競争相手』。悪役出現で共闘を始めたとか、そんなノリ。おいしい役どころである。
 煌くエフェクトと共に決めポーズ。普段ならばポーズを決めている最中にブン殴られて強制終了であるが、間に合うのだ。これが。何故か間に合うのだ。アウルがビックリパワーたる所以である。魔法少女としての『魅せる』戦闘。どんな角度に於いても少女の夢を壊す事はあってはならない。
「月が隠れるように、貴方も技を失う!」
 自身を中心に、スキルを封じる魔法陣を展開。悪の魔法少女達の技を封じ込める。
「刃向かうなんて、愚かな……」
 戦場を俯瞰するSpicaが黒狼型の弾丸を放ち、暴食の雨を降らせる。飛行し続け、トドメも刺し確実に数を減らす為に、遮蔽ごと範囲で薙払う。
「隠れても、無駄……撃の芽は、摘むに限る……」
 脅威たりえる星の鎖は要警戒、回復手を真っ先に狙うに限る。
「皆を癒して、優しき月!」
 癒しの光を振りまきながら、Namは悪の魔法少女達に語りかける。
「魔法少女になったのはなんでなの?! 家族を、友達を、皆を守る為じゃなかったの!?闇の力に飲まれないで! 貴女の闇を、私が、月の光が照らすから。貴女は、一人じゃ、ないから……!」
 中距離からアウルで作り出したナイフを放ち続けるNam。接近したSpicaの剣戟を何とか防いだ後、バトンで反撃。
「そんな事を言っても無駄なのよ。いらっしゃい……」
 正義の魔法少女からの攻撃を受けて傷付く悪の魔法少女達の傷を、妖しい笑みを浮かべて癒す葛城。黒煙が味方を包み込み、消え去るときには傷が癒えている。
「破壊こそ、至上の美……」
「小悪魔ちゃん、ステキ!」
 葛城のアンタレスが加わり、Spicaの放つ黒狼の弾丸が炎を纏う。その威力たるや凄まじいもので、正義の魔法少女を容易く追い詰める。
 だが、そう簡単に負ける訳にはいかない。
「月の雫よ、今ひとたび、立ち上がる力を!」
 戦い、傷付き、少女らが倒れようとする時、周囲は闇に包まれ、空に蒼き月が昇る。それはNamの口上通りの月。漆黒の闇夜に於いて清らかに光る浄化の蒼。
 蒼き月より降り注ぐ雫は、戦士に不倒の力を与えるだろう。それは夢か現か幻か。きっとどれでもないだろう。魔法少女達にとってはそれが夢であり、現実として有する背景であり、共に描く幻でもある。
「はあっ!」
 葛城を神気拳で迎撃する。アウルを拳に一点集中し爆発的に凝縮、衝撃を貫通させ直線上の対象すべてにダメージを与える気撃は、ある人物から教わった技。そして体制が崩れた所を、山をも打ち砕くと称される重い背面体当たりで追撃。相手を吹き飛ばす。
「うっ……」
 悲鳴は上げず、
 どうしてでしょう……どうしてこんなにも心が清らかになるのでしょう……
 心身ともに窮地となった自身の悪。
 宙を舞う。その間に目覚めた正義。浄化、それに伴う改心。MDEの輝きに従い、杖掲げると煌めくシャボン玉が舞う。おろしていた髪は一つに結われ、禍々しい光は取り除かれて清らかな光となる。
「愛・の付く称号を3つ持つ女、トモエ!」
「良かった、届いた……!」
 桜庭の瞳に喜びの涙が一滴、零れ落ちる。
 しかしそれを面白く思わないのが悪の魔法少女達である。特にSpicaなど問答無用で狙撃銃を構えて葛城の眉間を一直線に狙った。
「裏切りは、容赦しない……。その命でもって、罪を贖って……」
「そうはさせませぇーん!」
 協力してのなんか凄い超防御スキルでSpicaの狙撃を防ぐNam。
「皆さん、もうこんな戦い終わりにしましょう。他の誰でもない、私達で終わらせるのです」
 悪の魔法少女達も限界に近い。服の弾け飛び具合からそれがよく察することができる。大人気ない大人の事情があるにせよないにせよ、わかりやすさというのは大切である。
「星々の煌きよ、この手に……」
 どこからともなく後光が差し込んでくる上に、聖歌隊っぽいソプラノ合唱で「アー」とか何とか神聖そうなBGMが流れてくる。それだけではない。太陽とも見まごうほどの眩しい矢がキラキラとそれらしいSEを静かに発しながら放たれる時を待っている。
 そもそも近接戦闘なのに何で弓に持ち替えているの? という野暮な疑問も浮かぼうが、これは必殺技枠なのだ。決めるのであれば、いついかなる時も格好良く気高く行きたい。
「深き闇を貫く、月光の槍よ、ここに顕現せよ!」
 アウルで形作った七尺もの長さの千枚通し。青い薔薇の花弁に大粒のビジューが舞い、闇を貫く光の強さは更に増すばかりである。神の祝福と、慈悲と、冷酷さと。同居する温和と冷酷。正義は今日も輝いている。
「あそこを狙ってください。太陽の……陽の当たる方へ! お願い皆さん、戻ってきて!」
 速読で敵の居場所・様子を把握・確認した葛城による的確なアドバイス。彼女は最後に七色の光で味方の正義の魔法少女達を癒して背中を押す。
 準備は整った。
「「「「マジカルブリリアント・レインボーメイデンローズ!!!!」」」」
 全てを賭けた必殺技を、放つ。
 絶大な光。圧倒的なまでの清らかな心と、闇すら許容する正義の光。
「この、私が……馬鹿な……っ!」
「こんなの、耐えられる筈なかろう……ッ!」
 悪は正義によって浄化され――
 最後には、光だけが残った。


 と、綺麗に終わって後片付けである。実験はこれにて終了。無事に成功に終わってシステム開発者としては得るものの非常に多いものとなった。やはり実戦に限る。
 突っ伏した鳴海は手当てを受けている。幸いにも模擬戦という形式上全員の傷は浅く、その場での治癒術で完治するようなものであった。
「ところでこの正義と悪というのは、切り替え式に出来ないんでしょうか? 端末そのままで見た目が変わる方が『らしい』と思うんですけど」
「そうですねえ、次はそういう機能も追加してみましょうか」
 うぇっへっへと笑うシステム開発者。隣では葛城が真面目に報告書を書いている。
 報告書や進言。実戦による試行錯誤を繰り返し、これからも様々な機能が追加され、やがては洗練されたものが量産化され世に出回るだろう。
 すれば全人類魔法少女化は近い。
 さあ、次はお前が魔法少女になるんだよ。

【了】


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 少女を助けし白き意思・黒羽 風香(jc1325)
重体: −
面白かった!:3人

前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
モフモフ王国建国予定・
鳴海 鏡花(jb2683)

大学部8年310組 女 陰陽師
永遠の一瞬・
向坂 巴(jc1251)

卒業 女 アストラルヴァンガード
少女を助けし白き意思・
黒羽 風香(jc1325)

大学部2年166組 女 インフィルトレイター
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅