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巨大ロボがローラーダッシュ機能で走行している。
「にゅ!? ロ、ロボだーッ!」
シュガーパンプキン一号を見て目を輝かせるのは伊座並 明日奈(
jb2281)。久遠ヶ原に奇人多しと言えど、巨大メカは滅多に見られるものではない。ので戦闘前に記念撮影。ぱしゃり。撮影に満足してから戦闘開始。
「本気(マジ)狩るしちゃうぞッ☆」
武器を手に、魔法少女の変身ポーズを取りながら光纏。
「初等部なのに、よくできてる……。壊すの、ちょっと惜しい……」
飛行したSpica=Virgia=Azlight(
ja8786)は深く関心していた。初等部の高学年になるかならないか程度の子供三人組が、人の背を優に超えるV兵器搭載巨大メカを作り上げた。
経緯が経緯とは言え、そう作れるものではないのは明らかだ。出来れば破壊せず行動不能に追い込みたい。
「僕は種子島の英雄カマキリ、きさカマ!」
カマキリの着ぐるみを着て一つ躍り出たのは私市 琥珀(
jb5268)。
「かっこいいロボットがいると聞いてきたけど、来てみれば暴走してるんだよ! これはもう、レッツ停止させるしかない!」
「ずべこべ言わずに止めろ!」
「この『ろぼ』を止めれば良いのでござるな、承知したのでござる!」
足元に磁場を形成し滑走するエイネ アクライア(
jb6014)は須藤達と併走しながら頷く。
「ところで、止めるって、破壊で良いのでござる?」
「なんでもいい、とにかく止めろ!」
「あいわかった」
蒼雷をシュガーパンプキン一号に投げつけるアクライアが注意を引きつけ、隙を作る。
「こうして拙者が隙を作るのでな、そこにれっど殿の必殺技を叩き込んで欲しいのでござるよ。いえろー殿は、拙者達が回避に失敗したら、防御の技や、回復を頼むのでござる。拙者は回避には自身があるでござるが、当たる時はあっさり当たるのでござるよ。……いっそ、蜃気楼状態で戦おうかとも思ったのござるが」
カマキリ状態で移動する私市はブルーに問う。
「ブルー君、あれはショートさせる事はできないのかな?」
「た、大量の水があれば。でも何で?」
「僕自身が盾になってブルー君の水がロボットに届く範囲まで護衛して近づくんだよ」
「ええっ」
「大丈夫カマ! きさカマは盾になる……盾になる……つまり盾カマ」
飛来する攻撃を受け止めつつ、ブルーの突っ込みも受け止める。
「カマキリなのに?!」
「カマキリ救助隊出動なんだよ!」
ぺかーと効果音を発しながらブルーの傷を癒す。
「須藤殿、哀れな……」
「うるせえ! 同情すんならとっとと手伝え!」
哀れみの溜息を深く吐いた白蛇(
jb0889)。
「しかし、このろぼっと、意外と高性能じゃな。動作は単純という事で、先読みはしやすそうじゃが――まあ、戦闘しつつ癖を見極めるとするか」
須藤の後ろで三人揃って走るクオンジャーに白蛇は近寄る。
「さてくおんじゃー、殺ばずーかを使用する際に兆候はあるかの? 他の行動も、情報を得られぬか先に聞いてからじゃ」
「あっ、あるけど! なんで?!」
「その方が見極めるにしても見極めやすかろう」
「そっか!」
クオンジャー全員からシュガーパンプキン一号の弱点を聞いた白蛇は、そのまま要約を行う。
腕にはそれぞれロケットパンチとパイルドライバー。目からビームを発射しながら、ローラーダッシュによる高速移動を行い、必殺技として術を封じるバズーカーを発射する。
子供の発想とは時として残酷である。
「ふむ、『ろーらーだっしゅ』からの『ぱいるどらいばー』に気をつければ、そう怖くはあるまい。他は距離さえ取れれば問題ないじゃろうが」
神としての力を持っていた時の権能:絶対防御を司る分体『堅鱗壁』と、飛翔と縮地を司る分体『千里翔翼』を召還した白蛇。そのまま千里翔翼に乗り、空を駆ける。
「聞いたところ、自己中心の範囲武器は持っていないようじゃ。となれば前後左右、そして空中からの包囲攻撃主体となろう」
空中から銃撃を行いながら、地上からシュガーパンプキン一号を追う堅鱗壁にサンダーボルトを撃たせる。
(放水を当てる前に装甲を削っておかねば防水に弾かれ効果が無いやも知れぬ)
何度か銃撃を与えるなりして内部機構を露出させなければ、有効打は有効打たりえなくなる。このあたりは気張るしかないが、なにぶん一人でしている訳ではない。
「時に須藤殿。わしの常緑を貸せば、戦闘参加は可能じゃろうか。可能であれば貸し出すゆえ、遠慮なく言うが良い。というか、戦力不足じゃ。手を貸して欲しい」
「あのワイヤーか。渡せ」
「うむ」
深緑のワイヤー・エバーグリーンを須藤に投げ渡す。すると須藤はマデレーネを脇道へと放り投げつつ、落下する寸前にエバーグリーンで形成した網で受け止める。
「少しそこでじっとしてろ」
「あっ、あの」
「お前はすっこんでろ。俺達でやる」
マデレーネが地面に降りた事を確認してワイヤーを解いた須藤が次に展開した場所は、シュガーパンプキン一号の爪先。
白蛇達が須藤に稽古をつけた夜、命懸けでトラウマを克服した須藤は急速にかつての勘を取り戻しつつあった。とは言え最盛期には遠く及ばず、まだワイヤーの扱いにも粗がある。使うごとに反省会を繰り返しての日進月歩だ。
「はーい、ロボさんこちらー!猫鳴く方にゃー!」
伊座並がロボの頭部を小突きながら周辺を飛び回り的となる。動くもの全てに反応するシュガーパンプキン一号は目からビームを連発しながら伊座並を追いかける。
無論、伊座並が砂場へと誘導した事など、知る由もない。
「これだと動けない、でしょ」
砂場に突っ込んでローラーダッシュを封じ込められたシュガーパンプキンを、遠距離からAzlightが狙撃でブチ抜く。
シュガーパンプキン一号が何とか起き上がったところで更に追撃。武器に光纏時の武器オブジェを憑依、『破壊者』ミョルニルを疑似再現。そのまま殴り砕く。
「クオンジャー……お願い」
「ブルー君、今だ! 水は機械にとって強敵なんだよ!?」
Azlightと私市の合図により、クオンジャーが一斉に技を放つ。
狙うは駆動部。火炎放射によるオーバーヒート、浸水とスタンガンによるショート。
「熱暴走と、ショートなら……動けないはず……」
絶縁体であるゴム手袋をはめたAzlightが、未だ動こうとするシュガーパンプキン一号に
「あんまり、やりたくないけど……実力行使……」
中々お目にかかれないV兵器搭載ロボである。しかし状況が状況である。仕方が無い。容赦なく追い討ちをかけ続ける。
「こうなったらカマキリには後は星を降らす事しか出来ないんだよ! カマキリ流星群いけぇー!」
どどどどどどど、と腹の底から響く音を出しながら流星が降る。
「自身の漏電からの短絡だけでなく、外部からの高電圧の直撃……機械ならば、良く利くじゃろう?」
ショートしたシュガーパンプキン一号に、白蛇が更にサンダーボルトで追い討ちをかける。
伊座並は頭部周りを飛び回りながらビームを回避しつつ、その場からあまり移動させない様に的となり続け、放つ。
「くらえっ! キャット・サンダーストライクだにゃー!」
雷を纏った爪を立てた猫の手を武器の頭に形成。そのまま勢いよく武器を振り回し、猫の手で殴る様に攻撃する。
これぞ猫パンチ。肉球の甘美なる感触惑わされて痺れてしまうのはご用心。
見た目が物理攻撃の様に見えるが気にしてはいけない。
斬ろうが殴ろうが魔法少女が繰り出せば全部魔法なのだ。
「今まで死蔵してきた技でござるが、今回は使えるでござろうか? 外装が金属製でござるから、重量さえ問題なければ何とかなると思うのでござるが……」
「ええい使え使え。あいつを止めるのが先決だ」
「あいわかった。軌道を狂わせ、直撃を防げればありがたかったのでござるが……はてさて、どうなるかな」
飛んできたロケットパンチを右手で受け止めるアクライア。
「磁力掌! で、ござる!! 5kgより軽ければ、右手は此方の物、戻させないのでござる」
Azlightがそのまま追い討ちをかけ、パイルドライバーを破壊する。
「ふむ、上手く行ったようでござるな」
アクライアが頷いた瞬間、バズーカーが発射される。
「危ない!」
ブルーを庇い、掴んだアクライアはそのまま爆発の圏外へと離脱する。
「堅鱗壁!」
白蛇が堅鱗壁のシールドを展開し、バズーカーを防ぐ。
「イエロー、ぴかーってやって」
「わかった!」
イエローの閃光でシュガーパンプキン一号のセンサー類を狂わせ、狙撃でバズーカ発射口・レーザーを封じるAzlight。
「この期に及んで……頑丈……」
まだ動こうとするシュガーパンプキン一号。活動限界は近いのだろうが、それでも攻撃せんと動き続けるのは厄介だ。
「最後はみんなで行くカマァー!」
「にゃーっ!」
最後の悪あがきを行うシュガーパンプキン一号に、皆で一斉に攻撃を加える。快心の一撃を食らったロボは、電流を走らせながら爆発。
「俺の!」
「僕の!」
「私の!」
「「「しょーりっ!」」」
爆発をバックにポーズを決めるクオンジャー。便乗した私市や伊座並も隣でポーズを決めているが、須藤にとってはそういう問題ではない。
「うるせえ、お前らが原因なんだろうが」
ともあれこれにて一件は解決したのであって、マデレーネが茂みから伺う様に顔を出した。
「地上は面白い事がたくさん起こるのね!」
「そういう訳でもないからな」
◆
「怪我をしてる子は居ないカマァー?」
カマキリ姿のままで怪我人がいないか徘徊する私市。その付近には焼け焦げたシュガーパンプキン一号の残骸が横たわっている。
「……時にまでれーね殿。わしの堅鱗壁がどうかしたかの?」
堅鱗壁を興味深く見つめるマデレーネの視線に白蛇は気付く。物珍しさに因む好奇の眼差しと言うよりは、赤子を見る時特有の、生命の神秘に触れている奥深い興味の眼差しである。
「い、いえ。あのね。私にもストレイっていうストレイシオンがいるんだけど、そういえばストレイにもそんな時期があったなー、なんて。えへへ、ごめんね」
「さようか。堅鱗壁もいずれは元の姿に戻るのやも知れん」
マデレーネにはこの島にある全てのものが珍しいのであろう。
そして忘れてはいけないことがもう一つ。クオンジャーである。
「以降気をつけたほうがいい……下手をすればもっと大変な事になってたから……」
クオンジャー達を整列させて深く注意の言葉を告げるAzlight。とは言え注意を延々と繰り返すほど野暮な性格でもない。
そして、結果はともあれ巨大ロボを作り上げたクオンジャーに敬意も忘れない。
「でも……暴走を防ぐリミッターと、熱暴走・ショート対策……大きさを活かして重量級のV兵器を搭載させてみても面白い、かも」
「そいつらに助言なんてやるな。付け上がるぞ」
須藤にはこういった巨大ロボなどといったものにはロマンの欠片も感じなかった。むしろ、今となっては厄介の気配さえ感じてきさえする。須藤自身、テレビとは縁遠い幼少期であったし、遊ぶと言っても野山を駆け回る以外は綾取りや双六などに興じていたからであろう。
「お前も。あんまりこういう奴らとつるむなよ。今回みたいな事になるからな」
「うん。ありがとう。よくわからなかったけど、助かったわ。あなたいい人ね! あなたみたいな人を……あーっ!」
「何だ」
「そうだわ、思い出した。私、人を探してたんだった!」
「人ォ?」
「そうなの。男の人なんだけど、黒い服を着てて、メガネをしてて、金色の長い髪を一つに結んでて……」
「……」
微妙に引っかかりのある特徴である。
「もしかして、女みたいな奴か」
「そう! すごい、なんでわかったの?」
「ついでに言うと、名前は十か」
「えーっ! なんで、なんで?!」
「そうか、思い出した……」
マデレーネ。その名を何度か同居人である十の口から聞いたことがある。とは言え須藤自身も話半分に聞いていただけなので詳しい人となりなどは覚えてはいないが。
「そうか、お前が……」
「十のお知り合い?」
「知り合いってか、腐れ縁みたいなもんだな」
「そうなの?! ねえ、十は元気にしてる?」
屈託なくこちらに笑顔を向けてくるマデレーネは、世間知らず特有の純粋さに満ち溢れていた。人を疑う事を知らず、人を騙す事も知らない。
純真無垢。そんな感情を久方ぶりに向けられた須藤は、どこか居心地の収まらないくすぐったさを感じながら、その笑顔を横目でまじまじと見た。
この二人の出会いが後に、大きな転機となる。
されど運命の交差点は、砂糖地獄の余韻に呑まれて見えてはいない。
彼らの辿った道は、地獄でありながら甘くて苦い砂糖菓子で色とりどりにコーティングされていた。
【了】