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マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:シリーズ
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/03


みんなの思い出



オープニング


「あのねテオドール。私はただあなたに会いに来ただけじゃないの」
 突如来日した婚約者のグウェンドレン。
「これがある日届いて……でも、私じゃなくてあなた宛だった。どんな事が書いてあるかはわからないけれど、あなたの顔も見たかったし、はるばるここまでやって来たの」
 我が婚約者ながら、嵐のような女である。そんな彼女は去り際、ある一通の封筒を十に手渡した。
「……やるべき事、なんてぼかしてたけど、あなたのお母様……アリアンマリア様を探しているのでしょう」
 貴族の名を捨て、軍に入った理由。自身の半分を構成する天使の血。ある日突然姿を消した母。
「あなたが髪を伸ばしている訳もわかったわ。だってあなたの髪……私が見ても羨ましいくらい。あの方がいつも褒めていたのもわかるわ」
 女と呼ばれるのを忌み嫌っても尚、髪を伸ばす理由。どれだけ金を積んでも構わない。十は自分の根源にまつわる事全てを知りたいのだ。
「もしかしたら私と一緒に帰ってくれるかも、ってちょっと思ってた。でもあなたは、私が梃子を使っても一緒に帰ってはくれないでしょう。だから、今は無粋なことは言わないわ。だから……だからせめて、必ず帰ってきて。死体は嫌よ。あなたがいなかったら、私は一生独身のままだから……」
 去り行く婚約者の背中が消え、彼女を乗せた飛行機が空の彼方へと飛んでゆくのを見終えた十は、封筒を開ける。あるのは一通の書状。
 視界に飛び込んだ僅かな一文が、十の全てを止めた。

『テオドール・オルタンシア・フォン・ローゼンヴァルト殿 母親の居場所が知りたいか。
 知りたければ、知り合いを連れて来い』


 水が満ち満ちている。
 ここは水上庭園。澄んだ水の上に浮かぶ浮島の群れを橋や石の小路で繋いだ、幻想の楽園。
 主は双子の悪魔、トゥーイードルディーとトゥーイードルダム。全く同じ容姿を持つ少年だが、実年齢は七世紀を少し超えたあたり。言動は、その辺りの子供よりもよっぽど残酷であった。
「なぁリンズレー、あいつ来ると思うか?」
「リンズレーに聞くまでもないって、どうせ来るんでしょ」
 毎日開かれるティーパーティー。ただし参加者は二人だけ。
 友達のいないドルダムとドルディーは、自分達が作った女中をこき使って偏食と暴虐の日々を送っている。
「俺ケーキ。ベリーとチョコとシフォンとタルト、ハーフで持って来い」
「僕はマカロンね。タワーにしないと承知しないから」
 双子はどこまでもわがままである。悪趣味で傍若無人、それでいて唯我独尊で意地汚い。
「承知致しました」
 だがしかし、そんな双子に作られた以上、欠陥品の烙印を押されてもなお手元に置かれている以上、リンズレーと名づけられた女中は従うしかなかった。
「十分でやれよ」
「いや五分で」
 無茶振りや横暴にも怯えることはなくなった。リンズレーの感覚は死体のように凍えきり、最早万物が干渉しようが反応する事はないのだ。麻痺の行き着く先、凍死が齎す知性と冷静。それが彼女の芯だった。
「承知致しました」
 幾度と無く繰り返された殺人。拒絶と隔離の灰色は、最早何の希望も抱いてはない。

 怯え、恐怖し、震えるのはもう止めにした。
 生きている限り、誰もが化け物。あいつもそいつもみんな化け物。
 同じ化け物ならばせめて、美しい舞台の上で人間を演じ続けよう。
 観客どころか役者も喉を掻き毟る、間違い達の舞踏会。耳鳴りが脳髄をかき回し、嫌ったらしい砂糖の味が体中を這いずり回る。
 ここは人生劇場。青の狂乱、水音の回帰。脚本のない演目。
 転換だらけの三文芝居。どう転んでも闇は闇。
 深い水底で、聖母は幕引きを待ち続けている。


リプレイ本文


「まぁ何もなければ素敵な場所でのお茶会なんでしょうけどねぇ……王子様♪ 状況整理したいからいろいろ教えてくれる?」
 ドレスで着飾った麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)は深い溜息を吐いてから、十に問う。
「僕の母は僕がまだ幼い頃、忽然と姿を消した。行方不明から既に十五年経っているが、依然消息はわかっていない。僕は母を探しに日本へ来た。そうしたらこの手紙が……という訳だ。これ以上詳しい事はわからない」
「十さんのお母様の事も気になりますし、何かしら情報を手に入れる事ができれば良いのですが……」
 贈り物として花束を持った真里谷 沙羅(jc1995)も、十の顔色を何となしに伺った。
「そのお母さんの写真を見せてもらっても?」
「ああ、この写真の人だ」
 十の母の写真を受け取る黄昏ひりょ(jb3452)。艶やかな金髪を持つ、柔和な雰囲気の美しい女性。かなり十に似ている事から、本当に母親という事が汲み取れた。
 そこであらかじめ鼠達を放ち、探してみる。いい結果が出ればいいのだが。
「不思議の国のアリスのようだな。まずは相手の意図を確認したいところだ。子供の扱いは得意なんだが、悪魔となるとさて……」
 不知火藤忠(jc2194)が辺りを見回す。不穏な気は感じないが、さて。
「ふふふ……」
 なりたて撃退士の自称「ゴミックマスター」桃々(jb8781)は、心の底から湧き上がる感情から欣喜雀躍していた。元より戦闘は苦手な性質な手前、ひとまずお茶会に行くだけの依頼は割と歓迎すべき案件なのである。
 そして何より、参加者が素敵なお兄様お姉様ともなればもう調子は有頂天。
「……大丈夫か?」
 浮ついた気を感じ取ったのだろう。十が心配そうに聞いてきた。
 桃々は十や他の参加者の事情はよく存じ上げてはいないが、ゲストとしての立場を重視した行動を取るつもりである。
「問題はありませんわ。他の参加者とは当然連携しますよ」
 悪魔のお茶会など初めてなのだから、あらゆることへの興味は尽きない。
 そして現れる一人の女中。
「ようこそおいでくださいました。女中のリンズレーと申します。旦那様がお待ちです。どうぞ、水上庭園へお入りください」
 恭しく頭を下げた先、美しい青の庭園が広がっていた。


 そして庭園に足を踏み入れる。聞いていた通りの双子がテーブルに待ち構えていた。
「よく来たな」
「とりあえず座れば?」
「お招きいただきましてどうもありがとう。庭園が珍しく興味深いな。収集品でこれこそは、というものがあれば是非見せてもらいたい」
「ん」
「あっちも」
 ジョン・ドゥ(jb9083)は指差した方向を覚え、探索に向かうドゥと入れ替えで、斉凛(ja6571)が双子に持参した手製のチーズケーキとマカロンを差し出す。
「お茶会にお招きいただきましたので手土産をお持ち致しましたわ」
 好物を差し出された双子は上機嫌で、早速菓子に手を伸ばしている。双子の命令は仲間や十に不利益にならぬ範囲で従い、従順さで油断を誘う。斉の計算どおりだ。
 斉は茶会でメイドとして振る舞い、双子やリンズレーの様子を観察する。他者との話で不自然な反応はないか、特に同じメイドとしてリンズレーに注目もする。
「今回はお招きいただきありがとうございます。今回はホストのおふた方に、『ゴミック』を布教しに参りましたの。
 山なし落ちなし意味なしで、箸にも棒にもかからない――そんなゴミ漫画がゴミック。ですが、出版されているからには楽しみ方というものがあり、布教して回っていますの。それが桃々のライフワーク。お勧め作品は『痴情最強の男』『コスメストライカー』ですわ」
 珍しいもの見たさ、とティーパーティ=無料食べ放題という事で参加した数多 広星(jb2054)は、ケーキばかりを食べていた。
 ファナリスの雄牛の人入り断面図、水牢再現像等々、おおよそ幻想的な水上庭園にあるべきではないコレクションの数々。それを数多はデジタルカメラで撮っていたため腹が減ったのだ。
 ショートケーキが最後の一切れ。ドルディーと目が合った。
 無言で睨み合う二人。お菓子バトルに慈悲はない。フォークをにじり寄らせ、そして突撃。
 数多が一番上手であった。予測回避で軌道を読み、フォークが触れ合った瞬間に影縛りの術、スタンエッジ――としたかったが、リンズレーが割り込んで数多の腕を掴んでそれを止めた。
「お控えいただけますよう」
「戦いって、むなしいね……」
 俄かに落ち込む数多に興味は失せたようで、双子は黄昏に視線を向けた。
「おい地味メガネ」
「えっ、僕?」
「地味なメガネは君だけだよ」
 顎で指された黄昏は覚悟した。今回の庭園への招待に関しても双子の意図は汲みかねる部分があったからである。本当に話がしたいだけなのか、それとも別の思惑があるのか……
 あくまでも自然体で。からかいも素直に反応し、双子に気を許させ茶会の場を可能な限り平穏な形へ持っていきたい。
「あんまいじり甲斐ねえなお前」
「地味だね。頭痛お大事に」
 思わぬスルーである。しかしめげてはいけない。気を取り直して立ち上がる。
「少しお手洗いに……」
「行くのかよ。つまんねえな」
 あっさり黄昏を手放したドルディーは、オルフェウスに視線を向ける。
「おい、おばさん」
「あらあら……今回のホストさんはあまり品を感じないわねぇ」
 オルフェウスの言葉に眉を顰める双子。
「ほらね……私の言葉にすぐ踊る。つまらないわ。今のところ会話するメリットが情報だけ……いい歳なんだからもうちょっと頑張ってね♪ 会話にセンスがないわね。煽るならもっと上手にやらないと。表面的な言動だと一過性のものよ」
「俺達が世界で一番偉くて何でも思い通りになると考えてそう、とか思っただろ。三年後には小皺が増えるぞ」
「だからその鼻っ柱をへし折って精神的に有利になろうとかも考えたでしょ。実は化粧厚かったりしない?」
 そこにドゥが帰ってくる。物質透過と翼で湖の中に入ってみたが、期待するようなものは特に何もなかった。
「いやあ珍しいものを見せて貰った。そうだ、トランプを持ってきたんだが、やるかい?」
「大富豪」
「トレードと革命、革命返しに8流しとイレブンバックもつけてよね」
「違いねぇ。そうか――お前、まともじゃないね」
「そうだね。悪魔にしては妙な臭いだ」
 指摘されたドゥであるが、彼は何も動じはしなかった。気――ただ一人を除いた、全生命体への嫉妬と憎悪――それらが具現となり、彼らの視界に現れる。
「いやぁその通りなんだよ。ずっとこんな感じのモノが胸の中にあってさぁ」
 ドゥ自身の生の成り立ち、どこまでも正常ではない肉体。
 正常なるものへの憎悪と嫉妬はある。しかしその隣には他と比べ自分だけの特異性も感じていて、その奥底は斯様にも複雑に絡み合っている。
「甘い物は好きだっけ? ああ、カップに注ぎ込んであげられないのが残念だ。もし飲みたくなったら呼んでくれよ。飲ませてあげるからさ」
「遠慮しとく。身内に似たようなのがいるんだよ」
「悪いけどそれ、そろそろしまってくれる?」
 双子はこういったものに見慣れていた。むしろこうして洞察力が高い分、巧妙に隠されたものすら容易く見抜いてしまうからだ。
「そうか。変わった奴もいるもんだ」
 ただしドゥ自身、コンプレックスも黒さも既に受け入れているので、取り乱すなどといった事はない。むしろ、他のメンバーの事を見抜いた時点で興味深く面白い対象と捉えている。
 不知火が立ち上がり、時間を見ようと時計を出す。
「今は何時か……おっと」
 手を滑らせ、湖に時計を落としてしまう。咄嗟に手を伸ばすが、リンズレーに止められてしまう。咄嗟に不幸をせせら笑う双子。不知火は困ったように笑い、リンズレーに問う。
「妹分に貰った時計なんだが……」
「この湖はとても深うございます。不用意に入られますと生きて帰っては来られません」
 話すリンズレーは、ディアボロとは思えないほど人間に近い。不知火は問う。
「女中は他にいないのか? 随分な自信作なのか、それとも他には要らないのか、それとも他に理由があるのか……」
「いねーよ。改造めんどくせぇから」
「あれ作るの結構手間なんだよね。もう二度と作らないや」
「しかし何故、悪魔なのに天使の居場所を知っている。生きているのか」
「そりゃ俺達が行方を掴んでいるからさ」
「死んでたらわざわざ連絡しないって」
 不知火の質問にそう答えた双子に、さらに食いつく数多。
「居場所を知っているのか? 何故わざわざ教えようと思ったんだよ」
「いや知ってるから呼んだんだろ」
「そうじゃなかったら詐欺だし」
「――友達いないだろ」
「いない。お前もアレだろ、ヤバい事に手を出してるだろ」
「友達なんているだけ無駄だし……君もしかしてあれ、(自主規制)したの?」
「うんうん、そうだね。それで?」
「うっそマジで?」
「適当に言ってみただけなんだけど……」
 コンプレックスを積極的に出してくれたのを良い事におちょくり過ぎたかと耳打ちする双子。この隙に数多は反撃に出る。
「お前らが言っているのはいつの何処の誰の話だ? そんなありきたりな話を今更聞いても、子守歌にもならないんだが」
「じゃ寝ろよ」
「っていうか寝ようとしてたんだ」
 紅茶を入れながら斉は問う。
「なぜわたくし達もご招待いただけたのでしょうか? 賑やかしだとしても、もう少し利用価値があるのではないでしょうか?」
 聞きたいのか、と双子が意味ありげに笑った所で、無線機のノイズが聞こえる。真里谷がそれに対応した。
「あら、ひりょさんが迷われてしまったみたいです。まさかお手洗いに行って迷うとは思わなかったのですが……よろしければリンズレーさん、案内していただけませんか?」
 急に話を振られたリンズレーは惑ったが、ドルダムが許可を出した。そしてリンズレーを連れて歩みだす真里谷と斉。
「うふふ、まずはあちらから探してみましょうか」
 真里谷がリンズレーの手を引き、置石に足を踏み出す。手を持たれたリンズレーはと言うと、いきなり触れられた事による驚きで硬直していた。
「……手を、放していただけると幸いでございます」
「あ、ごめんなさいね。つい癖で……」
 初等部で教師をしていた手前、つい引率気分であった。
 触れたリンズレーの手は、死体のそれと同じ冷たさ。それに真里谷は、筆舌に尽くし難い気分になってしまう。
「……リンズレーさんはいつもあのような感じであの方々に仕えているのですか?」
「はい。いつもあのような感じで……そちらには、行かれないほうがよろしいかと」
 気を取り直して話を取り換え、指先に霜の残滓を感じ取りながらも、リンズレーを伺いながら、行きたがらない場所を探る。
 途中黄昏の場所を確認するために斉が無線機で連絡を取るが、その時に自分達の場所も説明しつつ、他の探索者に行かない場所も含めさりげなく場所を教える。そして通信を終了しても、通信中の振りで道案内の演技で捜索状況を仲間に伝達。
「そういえば、十さんのお母様はご存知ありませんか?」
 真里谷の質問に首を横に振るリンズレー。
 庭園と所蔵品、何もない島も観察し合流した不知火はリンズレーに問う。
「コレクションとは趣が異なるが、ここは双子が作ったのか」
「はい。全て旦那様方のご趣味です。昔から、こういった事をするのがお好きな方々でしたようで。所蔵品も、全て自力でお集めになった自慢のコレクションでございます」
 不知火は理解できない趣向だが、それも双子の美学なのだろう。斉と共に問いを続ける。
「そうか……あんな双子だと大変だろ」
「慣れましたので」
「主に従うのがメイド……でもそれは従うのにふさわしい主であればですわ。敬うに値しない主なら……足下を掬うのも一興」
 斉の言葉にリンズレーは眉を顰めた。
「あなた様方は贅沢な勘違いをされておられるご様子だ」
 望まずディアボロになった彼女にとって、同情は受け容れ難いものがあった。
「そう言えば先ほどからずっと右腕をこちらに見せていないけれど……もしかして怪我を?」
 傷は数多のスタンエッジを止めようとした時に掠ったもので、怪我を放置できない真里谷はいつもの癖でリンズレーの腕を取った。リンズレーは驚いて僅かに振り払おうとしたが、咄嗟の事で判断にまごつきされるがままだ。
「女の子ですもの、怪我が残ってはいけないわ……」
 術を施そうとした瞬間、真里谷は見てはいけないものを見てしまった。
 青。
 灰色の肌の下に流れる真っ青な血。
 リンズレーは一瞬だけ顔をしかめた後、振り払って背を向けた。
「――私は旦那様方に作られたディアボロでしかありません。私が異形の化け物であったら、同じ事を言えますか。憐憫の情を以って、優しい言葉をおかけになられますか。……後は全て私一人でできますから、大丈夫です」
 その態度に、斉は心配してしまう。本質化け物でも、同じ女中という立場として気になってしまうのだ。
 黄昏と合流するまでの間、青い血が脳裏からこびりつき、中々明るい話題は出なかった。


「いやー迷っちゃったや。申し訳ない」
 テーブルに戻ってきた黄昏は、今までの調査の結果を頭の中でまとめていた。とは言っても、鼠達からも何もなかったし、怪しいものも見当たらなかったのだが。
「見晴らしいいのによく迷えたな」
「こういうのは才能だよ。君、クッキーをまずく作れるんじゃない?」
「まぁ、何度か遭難しかけた事はあるよ。でも、不幸中の幸いで、知人に出くわしてね。救助されたりしてたんだ」
「うわっ本物だ」
「本当にまずく作らない? ねぇ」
「そこまで言わなくても……」
 心の中でさめざめと泣く黄昏。ポジティブシンキングでも、傷つくものは傷つく。
「でもお前らほんといじり甲斐ねえな」
「ホント、つまんないや」
「皆、大抵は過去については仲間も出来たしふっきれているからね」
 不知火の言葉に文句を言いながら舟をこぐ双子に、斉は意見する。
「昔から苦労したけど、無駄な事なんて何もないですの。過去が今のわたくしを育て、欠点も含め今のわたくしを好きだと言ってくれる友人がいますから」
 ふと視線をポッドに落とす斉。
「あら、紅茶が――淹れてまいりますわ。大丈夫、自分で行けますわ」
 制止への牽制をした斉は、厨房を探す振りで仲間が捜索していない場所を捜索。そして索敵で生物がいないか確認。
「斉様、厨房は地上にございません」
「そうですの?」
 リンズレーが止めに来ても、サーチトラップや鋭敏聴覚で周囲を秘かに調査しつつ会話を続ける。しかし特に妙な所はない。
「旦那様方は全て知っておられます。もっと堂々となされてもよろしいのに」
 深き青の舞台。幻想と残酷の奥底に隠れるものは何なのか。
「だって、あなた達もいずれは知るのだから」
 踏み入れた真実の場。求めるものは、ずっと足元にある。

【続く】


依頼結果