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マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/06/17


みんなの思い出



オープニング


 十が久遠ヶ原に来て、早いことで一年と半年が経過していた。
 そう言えば、まだ一度も故国に帰っていない事に気付く。元より父親の反対を押し切って城を飛び出して軍に入った上に、日本行きも簡単な報告を済ませてしまった。
 要するに、子供心ながら国に帰るのが怖いのだ。
 幼少の頃より貴族の嫡男として生まれ、蝶よ花よと大切に育てられてきた。城の皆に思い入れがないと言ったら嘘になる。
 気にかかる事がいくつかある。父のこと、良くしてくれた召使達のこと。そして何よりも、婚約者のグウェンドレンの事。
 十には婚約者がいる。とは言っても親の決めた許婚であり、好き嫌いを左右する程の効力はない。ないのだが、グウェンドレンは運良く十の想い人となった。しかし、結果から言うと十はそのグウェンドレンに何も言わずに日本に来てしまった。
 彼女は元気にしているだろうか。大きな病気や事故の報せは今の所ない。自分勝手に消えてしまった手前こんな事を言えた義理でもないが、なるべく朗らかに過ごして欲しいものだ。
 ――などと思いながら寮を一歩出た所である。

「テオド――――――――――――ル――――――――――――!」

 上から声が。通常ありえない筈の現象に、身構えて仰いで見れば。
「グ、グウェン?!」
 空から婚約者が降ってきた。
 どうする事もできなかった十は、そのまま落ちてきた婚約者の緩衝材になった。


 気を取り直して。
「その……」
「何?」
 婚約者のグウェンドレンは、現国王ヨハン十五世レオンハルト王の孫娘にあたる。王族の列席の中でも中心部におわす姫君であり、男子継承が撤廃された現在では王位継承権も持っているお方である。
「何故あなたのようなお方が、護衛もつけずにお一人でこのような場所に?」
「護衛なら撒いて来たわ」
 姫君とは言っても大層なお転婆さであり、そのあたりの男よりも度胸と行動力がある。
 お陰で彼女のシークレットサービスは何度も苦労をしてきたが、今回も例に漏れないらしい。溜息を吐いていると、グウェンドレンが十の両手を取って屈託のない笑顔を浮かべた。
「何故って、あなたに会いに来たんじゃないの、テオドール! ほら、お兄様が空軍におられるからそれを頼ってあなたの居場所を突き止めたのよ!」
 とんでもない権力の濫用である。それでいいのか。確かに十の所属は特殊部隊ではあるものの、秘匿されたものではない。知ろうと思えば知れる、が。
「……殿下」
 およそ二年ぶりの再会に喜んでいたグウェンドレンであったが、十の殿下という呼び方に明らかに不機嫌な表情を見せた。
「あなた、軍隊に入ってから私の事を殿下、殿下ってそればっかり。どうして昔みたいにグウェンって呼んでくれないの?」
「自分は家を捨てる覚悟で軍に入りました。今の自分にあなたを愛称でお呼びする資格はない」
「家柄とか、資格とかじゃないの!」
「しかしあなたは王族で、今の自分はしがない一軍人です。テオドール・オルタンシア・フォン・ローゼンヴァルトではないのです」
 あくまでも十は私情を捨て、軍人としての立場に付き従った。
「お早く護衛と合流なさってください。彼らも殿下を探しているでしょう。何かがあっては遅すぎるのです」
「……」
 グウェンドレンが求めていたのは、そのような回答ではなかった。
『一生幸せにするから結婚して』
『いいよ。あなたの事も幸せにするね』
 現在によって、いとも容易く打ち捨てられた過去。ずっと夢見た筈の未来の行方も知れなくなったグウェンドレンは堪えきれなくなり、ぼろぼろと泣き出してしまった。
「テオドールのばかぁー!」
「申し訳ございません殿下。お気に障られて……」
「さわんないでよ!」
 恐る恐る差し出された手を力いっぱい払いのけ、グウェンドレンは泣きながらその場を走り去った。公を重く見た余り最悪の結果を出してしまった十は、暫し呆然とその場に立ち竦む事しかできなかった。


 それはまだ昔。まだ十はテオドールと呼ばれ、故郷の城で暮らしていた時の話。
『一生幸せにするから結婚して』
『いいよ。あなたの事も幸せにするね』
 国に伝わる、素朴な農民の青年が恋した天使のおとぎ話。その一節。テオドール達が子供の頃、この一節になぞらえたプロポーズが流行していた。
 親同士の決めた、一見すれば望まぬ婚約。物心つく前から決定していた結婚であったが、少なくとも悲劇ではなかった。流行になぞらえた遊びだったとしても、テオドールが膝をついてこれをしてくれた事を、今でもよく覚えている。穏やかな幼少の、幸せな一幕だ。
 どこで道は違うようになったのか。気付けば起きていたすれ違いに、グウェンドレンはただただ打ちひしがれるしかない。泣きながら路地裏を走る。知らぬ異国の地でひとり、そのような事をするという事実が更に心細さを加速させた。
「あら、ごめんな――」
 前後の不注意で誰かにぶつかってしまった。数歩後ろにたたらを踏んで、詫びようとした相手は、グウェンドレンに銃を突きつけた。


リプレイ本文


「強盗? 久遠ヶ原で大胆なことする人もいるのねぇ……あら」
 麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)は興味深そうに呟いた所で、あるものを見つける。
 十である。
 真っ青な顔でなりふり構わず辺りを見回す様はまさしく挙動不審。明らかに平常心と冷静さを欠いた立ち居振る舞いであり、オルフェウス達を見つけるや否や駆け寄った。
「どうしよう、僕は軍人としての責務を重んじるが余り、彼女を……グウェンを傷つけてしまった……僕のせいだ、僕が何とかしなければ……」
 十は冷静ではなかった。血の気の引いた顔で焦点の合わない目を回し、うわごとで自分を責めている。それどころか、震える手でサーベルの柄を握り締めている。考え無しに突っ込むつもりだろう。
 オルフェウスは柄を握る手を解き、十を宥める。
「それはだーめ。守りたいなら焦らないで。いざって時に動けないわよ?」
「今すぐあそこに行きたい気持ちは分かりますが、抑えておいて下さいよ〜……」
 オルフェウスと藍那湊(jc0170)に宥められながら、ひとまず裏道に逸れる十。
(なるほど、十さんにとっても唯一無二の王女さまって事ですね……)
 促されて何とか深呼吸をしている十を見て、藍那は納得した。状況が状況だろうが、それでもここまで取り乱すとなると、心の中で相当の比重を占めているに違いない。
「面倒な……殲滅すれば、楽なのに……」
 口ではそう言いつつも、殲滅すれば解決するような単純なものではない事を、Spica=Virgia=Azlight(ja8786)は理解していた。
(コンビニ強盗、ですか。良い度胸です。世の中そんなに甘くないと思い知らせてあげましょう……まあ、私は救出側に回るのですが)
 Rehni Nam(ja5283)は入り口の真横、店内の強盗達からは死角にあたる位置に待機する。彼女の頭上には、歴戦の豪傑の風格を漂わせる幼体ヒリュウこと大佐も待機している。
 そして裏口。
「王族にしてはフットワークの軽い方ですね。それで外交問題になりかねない立場なのは自覚して頂きたいところですけど」
 おてんば姫、というカテゴリーが実在している事に驚きつつ、黒羽 風香(jc1325)は深く溜息を吐いた。
 だが、遠路はるばる婚約者に逢いに来てみれば、相手はそっけない態度――ともなれば怒るのも当然だ。黒羽も似たような覚えがある。
「しっかし、お姫様を捕まえる強盗ってのは運がイイのか悪いのか……迷うねェ」
 と、冗談はさておき。
 狗月 暁良(ja8545)自身、正面から説得を行う面構えという性格ではない。黒羽と共に裏口の方に回って合図を待ち、時が来たれば突入。制圧する方で動く。
 奇襲前に闇に溶ける影となって気配を消し、夜を渡る黒猫のしなやかさで足音を消す狗月。そうして裏口側の強盗から見えないように裏口に接近。
 音という音、気配という気配を消した黒羽 風香(jc1325)が鍵を開けて突入に向けての準備を整える。ついでに鋭敏聴覚で中の様子も探る。
(……静かですね。でも呼吸は近くに一つ、店内に四つ――恐らく、裏口に一人置いてるのでしょうね)
 流石に細かな配置まではわからない。だが、こちらの手筈は整った。待機の状態を保つ。この事を、藍那の携帯にワンコールだけ電話をかけて切る事で伝える。
 短い着信のバイブレーションをポケットの中で感じた藍那は、同時に手応えも感じる。ここまでは上々。
(どうやら上手く行ったようですね)
 駐車場に立ち、コンビニ正面から姿を見せる藍那。
 強盗犯と交渉……と見せかけ、別行動の仲間を補助する為の陽動。店内を気にかける十の視線を感じながら、拡声器のスイッチを入れる。
「コンビニの中にいる強盗の皆さんにお聞きします。どうしたら人質を安全に解放してくれますか」
 相手の要求を聞き、相談に応じる素振りを見せて下手に出ながら、藍那は言葉を選ぶ。自然に時間稼ぎのできる文脈に仕立て上げ、なおかつ人質にも危険が及ばないような言葉。
(お金が目的で強盗したんだろうし、金銭的なものなら気を引けるかな……)
 交渉時、金品か逃走手段を要求してくると予測はしていた。セエレを髪に紛れさせ、店内にいる強盗犯の総数も確認したAzlightが問う。
「随分、きな臭い……。二人組で、人質持ち……? 要求、あるはずだけど……何が望み……?」
 手に武器を持たず油断を狙い、ずるずると話題を延ばして裏口・天井組の準備を待つ。
「金額は低くできないの……? 逃走手段は、何……? 車? ヘリ? 車の場合……どれくらいのサイズの物を用意すればいいの……?」
 できる限りだが、それとなく時間を延ばす。その間に、翼にて飛翔し、屋上に降り立ったオルフェウスはそのまま透過で天井裏へと侵入する。
 立てこもりの強盗だからこそ、屋外こと空への監視はできなくなる。地上では交渉役が三人も立っているのであれば尚更だろう。
(それじゃあ拝見しましょうか)
 透過で天井より顔だけ静かに出し、人質の位置確認をし、ハンズフリー状態の携帯電話を使って味方に伝える。それから意思疎通を使い、グウェンドレンとアルバイトの学生に語りかける。
『はぁ〜い、聞こえる? 驚いたり、騒いだりしちゃダメよ。これからお姉さん達が助けてあげるから、そのまま待ってて欲しいな』
 オルフェウスの言葉通り、交渉は佳境に入りつつあった。
「あと十分もすれば本隊が到着する、人質を引き渡したほうが身のためですよ」
 現在は藍那と十だけであり、まだ仲間が到着していないと誤認させる。
「で、人質は無事なんですか。無事なら一旦見せて貰えませんか。でないと、あげれるものもあげれませんから」
 ガラスの向こう、犯人達が明らかに舌打ちをした。だが人質の無事は確認せねばならない。それは任務の進行上の意味もあるが、グウェンドレンと十を互いに確認させ、安心させる目的もあった。
 少し話し合うと、やがてカウンターを出て人質をガラスの前に引っ張り出した。
(……グウェンドレン!)
 銃を突きつけられたグウェンドレンとアルバイトらしき学生の店員。いずれも目立った外傷はなく、衣服や頭髪に乱れは見られない。ある程度の修羅場に慣れた店員とは違ってグウェンドレンは恐怖に怯え、今にも泣きそうな顔をしているが、それでも精一杯にぐっと堪えている。
 だが、その恐怖の時間もじき終る。全員が配置に着き、準備が完了した。Rehniがもう一度藍那の携帯電話を鳴らす。今度は違うリズムのバイブレーション。

 突入開始。

 瞬間移動で転移した藍那が有無も言わさず店の扉をこじ開け、出入り口を解放。開くと同時にRehniを先導するように大佐が店内に滑り込み、大きな鳴き声で威嚇。周囲に遍く響くその声が、他の班への合図ともなる。
 続け、藍那が北風の吐息を強盗犯を狙い放つ。強力な冷気と突風が、人質の二人から強盗犯を引き剥がして突き飛ばす。更に氷結も使い、人質解放・武装を奪って縛り上げるまでは手を止めない。
「いつでも、撃てる……。動かないで……」
 味方が人質を確保するまでAzlightは狙撃銃の引き金に指をかけ、いつでも撃てる事を示威。人質解放を待ち、彼らが無事に脱出するまで続ける。
 彼女の周囲には、光纏時の余剰アウルを結晶化して生成された多彩な武具のビットが姿を見せつつある。
 一方、裏口。
 合図と同時に裏口の扉を勢いよく開けた狗月と黒羽が制圧を開始する。
 強盗には狭い店内で暴れられても困るので、狗月はなるべく機材や商品が無い位置を目掛けて痛打でぶっ飛ばす要領で奇襲をかけた。
 強盗が激しい痛みで動けなくなっている所を、黒羽が小太刀で畳み掛ける。口を塞いで、柄で鳩尾を強打。ついでに顎を砕いてこめかみを打つ。強盗グループは全員覚醒者と聞くので特に加減はしていない。
「このくらいならすぐ治りますよ」
「ヨッ……とォ」
 裏口担当強盗を行動不能状態にした二人。黒羽が剥ぎ取った上着と、狗月が縄で縛って簀巻きにし、逃走不能状態にして転がしておく。
 次はそのまま正面の方の援護に向かう。犯人の背後を突くのだ。
 狗月はここでも奇襲のスタンスを貫き、待機時のように隠密モードで再度潜り込む。
(正面の方は人質も居るコトだシ、遮二無二突っかからずに場の様子をよく見て動かねェと)
 店内に出た黒羽は、手前にいた強盗を納刀状態の刀で叩く。人質に刺さる事だけは避けたかったからだ。
 天井を透過して現れたオルフェウスはRehniのサポートを得てグウェンドレンの前に出て、二人で彼女の身を守る。
 Rehniは庇護の翼とパルテノンの盾で人質への攻撃を防ぎ、また強盗と人質との間に割り入り射線を潰す。
 脱出は状況次第で入り口か裏口かが変わる。全体の様子を見回しつつ、オルフェウスは保護したグウェンドレンに言った。
「すぐにナイト様が来るから暫くはあたしで我慢してね」
「へ、ナイト様?」
「そうよ。あなたがこうなってしまった事を知って、真っ青な顔で一目散にここに来たナイト様。ほらいたわ。こっちよこっち!」
 ひらひらとオルフェウスが手を振った先にいたのは十。即座に気付いた十は全力疾走でグウェンドレンへと駆け寄った。
「グウェン大丈夫か。僕が悪かった。本当にすまない。怪我はないか。痛い所はないか。暴力やそれに類する行為を受けたか。拘束されたりしたか」
「あの、私は無……」
 キリがなかった。切羽詰った顔でグウェンにぶつくさ問い続ける姿はまさしく詰問と言って相応しい。
「あらあら、よっぽど大事なお姫様みたいね。公私混同かしら♪」
 オルフェウスに茶化された所で十はようやく我に返った。
「なっ、ちが……」
「はいはい。前見て走りなさいな。でないと転けちゃうわよ。私達は外に行くから」
 アルバイト店員の背中を押して外に誘導するオルフェウス。
「こちらです」
 裏口の方に促しつつ、盾を展開して流れ弾や射線を防ぐRehni。彼女が十達の側に付いたのは、店員はアウル能力者なので最悪なんとかなる。だがグウェンドレンは一般人で、なおかつ王族なのだ。
「待て!」
 逃げるグウェンドレンを追おうとする強盗を、Azlightが氷の夜想曲で眠らせる。
「動かないでって、言ってる……」
 人質はまだ逃げ切っていない。威嚇は続行していたし、油断していたと思われていたのならば心外の極みだ。
 強盗程度に不意を突かれるほどの三流ではない。彼らは斯様な状況でも冷静かつ的確に対処する、久遠ヶ原の撃退士なのだ。

 戦闘の音が徐々に収まりつつある中、Rehniは盾を展開したままグウェンドレンに傷の有無を改めて聞く。
「お怪我はありませんか? もしありましたら回復技を活性、使用します」
 とは言っても、陽動から突入、救出からの脱出という一連の流れは非常に滑らかなものであった。それにRehniも脱出までの間も大佐を召還し続けていたし、威嚇の鳴き声も維持されていた筈である。人質に被害が出る確率は高くはないと思いたい。
「え、ええ……特に、大丈夫よ」
「本当か? 本当に大丈夫か?」
 怪我はないと本人が言っているにも関わらず、十はグウェンドレンに無事かを聞き続けている。グウェンドレンは、そんな十に対してふと笑みを見せた。
「テオドール、あなたはいつもそう。私に何かあるとすぐ心配ばかりして……」
「そうか、無事か……良かった……」
 珍しく十が、グウェンドレンを抱きしめた。いつの間に戦闘の音が止んだ空間では、その音がよく聞こえた。


 さて、強盗を然るべき機関に引き渡した所で、彼らにはまだやるべき事があった。
「いや、雨降って地固まる感ジなら必要ないと思うけど」
 狗月がその先陣を切る。
「雨降って地固まる?」
「ま〜……アレだ、四面四角な軍人サンはプライベートの時間を作って改めて可愛い女を誘う甲斐性もないのかヨ、ってトコか?」
「そ、それは……」
 狗月による女心講習タイムに口ごもる十。確かに彼女の言う通りである。自分は軍人としての使命、そして軍人になった目的に殉じるあまり、グウェンドレンの気持ちを蔑ろにしてしまった。
「しっかりしなよ、軍人である前に男の子でしょ! ねっ。好きならちゃんと捕まえておかなくちゃ」
 藍那は景気づけるように十の背中を軽く叩く。ぽふぽふと音がする中、音に紛れさせる小声で言った。
「僕なんて何度好きな子の地雷を踏んでそっぽ向かれたか……なんだかこういうの他人事じゃないんだよなぁ……」
「そうか、君も……苦労しているんだな」
 女心というものは複雑なものである。恋人を持つ男の永遠の課題とも言っていいだろう。
「身分だとか立場だとか、そういう気持ちで誓ったんですか?」
「断じて違う」
「なら、ちゃんと彼女と向き合わないと。男は誰だって好きなコの王子さまになれる筈ですから。がんばって、王子さま!」
 藍那によってずいと押し出された先では、グウェンドレンがいた。
「いい? 男は女心なんて殆ど分かってないの。だからこっちが誘導しないとね♪」
 酸いも甘いも味わい尽くしても尚足りないオルフェウスが、グウェンドレンに対し手解きを授けている。
「あとはじっくり観察することよ。例えば視線、或いは動き。じっくり見てごらんなさい。あなたは気付いていないかもしれないけど、彼が持つあなたへの感情は全身が表してる筈よ。言葉なんてなくてもね。そのうち、自然にいろーんな男の子の考えが分かるようになるわ♪ それ使って転がしちゃいなさい♪」
 そこでグウェンドレンの目の前に躍り出た十に、黒羽は告げる。
「立場は大切ですけども、時にはそういったもの抜きの『素』で接する事も同じくらい大切ですよ。というか、好きな人にいつも余所余所しく接されたらショックです。普段から逢えない立場なら尚更……王女殿下、申し訳ありません。出過ぎた事を申しました」
「いいえ、そんな事は――」
 グウェンドレンに対して謝罪をしつつの立ち去り際、黒羽はこっそりと彼女に耳打つ。
「好きだと言わせたらきっと勝ちです。頑張って下さい」
 こうして二人は改めて向き合う。先に口を開いたのは十であった。
「……グウェン、本当にすまない。今回は僕が軍人としての立場を重んじるあまり、君を傷つけ、あまつさえ危険な目に遭わせてしまった。僕は目的だけを見る余り、君を無碍にしてしまったんだ」
 極めて自然な動作で、十は膝をついた。
「まだ僕にはここでやるべき事がある。だから、今すぐ……とは言えない。だが、いつか必ず……一生幸せにするから、結婚してくれ!」
 蘇る過去の記憶は、失われた筈の現在に接続し、来るべき未来を仄めかす。
「……いいよ」
 グウェンドレンは差し出された手を取った。
「あなたの事も、幸せにするから……」

 ――かくして、一件落着となる。
 とはいえ、場所が場所。二人は一同に揉みくちゃにされるが、それはまた別の話。

【了】


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 蒼色の情熱・大空 湊(jc0170)
 甘く、甘く、愛と共に・麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)
重体: −
面白かった!:6人

前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
少女を助けし白き意思・
黒羽 風香(jc1325)

大学部2年166組 女 インフィルトレイター
甘く、甘く、愛と共に・
麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)

卒業 女 ダアト